魔導神殿追撃戦~豪雷の拳

作者:沙羅衝

「みんな、戦争お疲れさんやったな」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、先日のアスガルド・ウォーの戦果の労をねぎらった。最終決戦勝率は5割に満たなかったが、見事勝利してみせたのである。
「十分な戦果ではあったわけやけど、エインヘリアルの残存兵力が、魔導神殿群ヴァルハラの宮殿と地上に出現してきたわ。今回はそのうちの一つ、金牛宮『ビルスキルニル』に向かってもらおうって作戦になる。『ビルスキルニル』は 第四王子ジーヴァが護ってたところになるな。
 で、どうやらその『ビルスキルニル』が敗残のエインヘリアルの軍勢を吸収して、鎌倉市周辺に出現したらしい。そんで蒼のビフレストがあるところ、つまり鎌倉駅に向かって進軍を開始したっちゅう情報や」
 蒼のビフレストは、エインヘリアルが第一王子ザイフリートが、最初の地球侵攻時にに使用した『虹の城ビフレスト』の中枢である。どうやらその力を求めての進軍なのではないかと考えられていた。
「みんな知っての通り、鎌倉市はいったん壊滅したんやけど、その事から避難訓練をしっかりやっててんな。そのおかげで今回の市民の避難は間に合っとる。
 みんなは鎌倉駅で金牛宮を待ち受けて強襲して乗り込んでもらう。そんで、内部にいる敵を撃破して制圧してもらうで」
 ケルベロスたちは市民が無事であることに安堵し、事の詳細を確認する。
「金牛宮は最初『巨大な牛』の姿で移動してきてる。で、この鎌倉駅に到達するころには停止せなあかん。そん時の停止形態は『宮殿型』になるそうや。そうするとや、その形状変化の際に隙間ができる」
「そこに入り込む?」
「ビンゴや! いろんな箇所に隙間ができるから目的の敵にピンポイント襲撃できるっちゅうことになるな」
「なるほど……」
 ケルベロスたちは、その様子を想像しながら作戦を反芻して頭に入れた。
「みんなは頭から顔にかけての駆動部分から入ってもらう。そんで敵は、『第四王子ジーヴァ』や」
 この金牛宮の主となる。それを聞き、ケルベロスたちは少しざわついた。
「もちろん敵は強いから、今回は2チームであたる。うちらとイチくんの所で一緒にたたくで。
 あとは、少し綿密な作戦もいるかもしれへん。
 ちゅうのも、強襲することはできるけど、敵は一人やなくてはじめ何人か部下を連れとる。部下はそんなに強くはないんやけど、何分かに一度は、数体の増援がまた出てくる。一人に集中できへんから、作戦をしっかり練ったほうがええかもしれんな。
 当然、『第四王子ジーヴァ』が一番強いから、バランスが難しいと思う。しっかりな」
 一度戦争で相まみえたケルベロスもいるかもしれない。敵の情報を収集するというのも、一つの目安となるだろう。
「まあ、エインヘリアルが蒼のビフレストで何をしようとしてるんかは判らんけど、他のチームも動いとる。みんなで一網打尽やで。頑張ってな!」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
劉・沙門(激情の拳・e29501)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●潜入! 金牛宮
「ふわあ、牛さんの中はこんな感じなんだねー」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は感嘆の声を上げた。
 ケルベロスたちは予知通り、牛の形に変形した金牛宮『ビルスキルニル』が、宮殿型になろうとした瞬間に、牛の頭の部分の隙間から内部に侵入していた。
 ぎちぎちと動く宮殿の内部であり、まだその素性はよくわからなかった。もちろん、どこに敵が潜んでいるかも。
「朔耶、俺と先行できるか?」
「了解、義兄。あっちも動き始めたしな」
 ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)の声に、いち早く気配を消して頷く月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)。朔耶の言う『あっち』とは、もう一つのチームであった。我々に課された任務は、二チームで潜入し、この宮の主『第四王子ジーヴァ』を討つこと。
 おおよその敵の場所は掴んでいる。であるならば、迅速に目標の場所までたどり着くことが重要でもあった。二チームはそれを心得ているようで、すぐに作戦行動を開始したのだ。
「また大阪城のようにー、長く支配されると厄介ですのでー。迅速に取り除きたいですわねぇー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)はおっとりとした調子で、少し周囲の気配に気を配る。
「ですがー。敵の数はー、そこそこいらっしゃるー。みたいですわねー」
 すっと体を動かすと、縛霊手『廻之翅』を抜き手の形に揃え、出てきた嘆きの無賊の腹部を貫いた。
「最短距離を行きたいのは山々なのですが……数汰さん、沙門さん。状況は判りますか?」
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が、フラッタリーがダメージを負わせた敵に対し、日本刀『風冴一閃』で素早くとどめを刺して尋ねた。
「多いな。それに、これだけの立体構造だから、同じ階層に居るかどうかも正確には把握できない」
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)が『ゴッドサイト・デバイス』を調整しながら、そう伝える。
「できるだけ、接敵は控えたいところではあるが。……少し骨が折れるかもであるな」
 劉・沙門(激情の拳・e29501)もまた、数汰の意見に同意のようだった。見ればもう一つのチームのほうも、すでに何人かの嘆きの無賊を葬っているようだった。
「皆様、ある程度の敵の数は仕方が無いようですので、できるだけ姿を隠しつつも、先を急ぐことにいたしませんか?」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)は目的の場所に向かうための時間を気にしているようで、そう提案する。
「そうだね、こっちの数はいくら隠れていても多いからねー。ある程度は仕方が無いよね」
 シルディがそう返した時、少し前からヴォルフのハンドサイン『接敵』が伝えられた。

●第四王子
「はっ!」
 向けってくる嘆きの無賊を切り捨てるイリス。その横から数汰が放つ炎が通り過ぎ、さらに奥に居る敵の胸を撃った。あと少しでジーヴァのいる少し広い空間へと到達することができる。
「ちっ……」
 しかし、沙門の舌打ちが示した事は、ゴッドサイト・デバイスからの情報に他ならない。真っ先にその場所に飛び込んだヴォルフの見た光景は、少し予想ができた事でもあった。沙門はミミックの『オウギ』の存在を確認し、指示を与える。本格的な戦闘の準備である。
「予想よりも、多い様ですわね」
 続いてルーシィドもヴォルフに並び、全員の意見を代弁する。
 目の前には十数体の嘆きの無賊。そしてその先頭に存在しているのは第四王子ジーヴァに他ならなかった。
「ケルベロスか。早えなあ、おい」
 見た目からも豪傑という名にふさわしい雰囲気を纏ったエインヘリアル。バチバチと音を立てて、雷を纏っている。
「あれが、王子様なあ」
 朔耶はオルトロスの『リキ』の頭をポンと叩き、前衛に走らせて自らは後方へと下がった。
「ねえ。王子さんの狙いはなに? ビフレスト中枢のコギトエルゴスム……? それか第一王子かそれ以外?」
 軽くシルディが探りを入れる。
「そんなこたァ知ったこっちゃねえ」
 だが、ジーヴァの反応は全く興味がないといった反応だった。
「ただ戦いたいから戦う、そういう眼をしてるぜ」
 数汰はトンとエアシューズで床を叩き、そう言い放った。
「それも一方的な殺戮じゃない、自分の命も天秤にかけた『殺し合い』が好きなんだよな?」
 すると王子はにぃと嗤う。そうすると、もう片方のチームの一人、狼炎・ジグが言葉を発する。
「よぉジーヴァ、十数年振りだな」
 ジーヴァは片眉を上げてジグを見るが、あまり反応は無い様だった。
「まあ俺を覚えているかいないかには興味もないが……十数年前の怨みは返させてもらう」
 そしてジグの踏み込みが、戦闘開始の合図となる。
「ではー、みなさまー。作戦通リニィ」
 フラッタリーは全員にそう呼びかけながら懐のスイッチを押す。そして額から地獄が漏れ出でた。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」

 雄たけびを上げ、双方がグラビティを燃え上がらせる。
 その様相はまさに、ケルベロス総勢16名とジーヴァ率いる一団との正面衝突だった。

●作戦
「っらあああ!!」
 ジーヴァの放つ拳が、赤い雷を纏ってシルディの胴を討つ。
「……んぐう!」
 シルディは耐えるが、追い打ちをかけるように加速する拳が、彼を弾き飛ばす。
 もんどりうって床にたたきつけられ、肺からの痛みに激しい咳が出る。最初に施したスチームの力が無ければ、一撃で戦えない体になっていたかもしれなかった。
 朔耶がすぐにシルディに駆け寄り、木の葉を纏わせていく。だが、それだけでは足りなかった。
「……ありがとう、朔耶さん」
 よろよろと立ち上がり、グラビティを練り上げる。
「んん! はあっ!!」
 己の意識を傷口に集中させ、自らを回復させる。
「あとの回復は、自分で何とかするよ。だから、他のみんなをよろしくね!」
 シルディはそう言って、再び武器を構えたのだった。

 ケルベロスたちとエインヘリアルとの戦闘は、嘆きの無賊の戦力をそぎ落としながら、ジーヴァにダメージを与えていくという図式になっていた。
 嘆きの無賊はそれほど強くはなかったが、いかんせん数が多かった。
「ケルベロスだ!」
「加勢いたします!」
 そして、ある程度減らしたというタイミングで、さらなる増援として3体が加わってくる。
「事前に分かってても、増殖するのを実際に見るとやっぱりドン引くな……」
 朔耶はその増援部隊を見て、少しため息をつきながらファミリアロッドのコキンメフクロウを肩に乗せた。
 その時、ごーんと重厚な鐘の音が鳴り響く。
『降魔!』
 金の音とともに、フラッタリーが叫ぶ。
「皆様、いきますわ!」
 ジェットパック・デバイスで飛行するルーシィドが、戦場全体に声を響かせた。
『王子も王女も夢の中、茨の森のその奥で、ずっと幸せに暮らしました。めでたし、めでたし』
 ルーシィドが飛行しながら自らの影をジーヴァに合わせると、瞬時にしてその影から眠りの蔦が伸びてジーヴァに絡みついた。
「焔ノ吾ヶ腕、黒キ腕。遍苦逃sA不、汝rA尽ク毟リ裂ク」
 続けてフラッタリーが霊体を憑依させて斬撃を放つと、ヴォルフがすかさず弾丸を撃ち込んだ。
 フラッタリーの仕込んだ鐘のアラームは、この時のための連携の合図だった。
『光よ、かの敵を縫い止める針と成せ! 銀天剣・弐の斬!』
 イリスが飛び込み、その足に光を集めた一本の大きな針を投げつける。
「ほう! ここにきて俺に刃を一斉に集めるか!」
 フラッタリーの斬撃を腕で受け止め、ヴォルフの弾丸がその箇所に追撃したことも構わず、ジーヴァはルーシィドの蔦をブチブチと力任せに引きちぎり、イリスの針を叩き落とす。
「ここで終わりじゃないぜ!」
 その隙に数汰と沙門が同時にジーヴァを挟み込むと、超低空で飛び込んだ。
「おおあああっ!」
 左右からの飛び蹴りを、両腕で受け止めるジーヴァ。ダメージは与えることはできたが、反転して距離をとる二人は、強敵であることを再認識する。
 だが、もう一方のチームもまた攻撃を繰り出し、増援した嘆きの無賊を葬り去り、少しずつだがジーヴァにも傷を与えていったのだった。

●轟音と共に
 十分ほどの時間が経っただろうか。ケルベロスたちとジーヴァ一団との戦闘は、徐々にケルベロス側に傾いて行っていた。それは、16人のケルベロスが連携のミスがなく、効果的にダメージを与えていったという事はもちろんだが、増援に対する意識も常にあったからだ。
「ふふ……ハハハハハァ!!」
 目の前で倒れる部下を一瞥すると、ジーヴァは笑い出した。すると腹のあたりから雷のオーラがあふれ出し、全身へ展開されていった。
「力が漲っていっているみたいだね」
 シルディが発する言葉の通りだった。その雷はジーヴァ自身の破壊力を上げている。
「敗残兵とはいえ、流石エインヘリアルの第四王子……簡単には諦めてくれなさそうですね。
 ならば、此処でその心算ごと断ち斬りましょう!」
 既に敵は一人。また増援がくるとそれだけ時間がかかるだろう。イリスの言葉に聞こえた全員が頷く。
「参ります!!」
 刀を鞘に戻し、オウガメタルを拳に集めて鋼の鬼と変化させたイリスが突進し、ジーヴァの顔面を殴りつける。
 完全に顎に入った。手ごたえがあった。だがその時、巨体に対してイリスが飛び上がった隙をジーヴァは見逃さなかった。イリスが気が付くと目の前に雷の拳が迫っていた。
 ゴッ!!
 鈍い音を立てて、その拳が直撃した。しかしそれを受けたのはフラッタリーだった。
 ニイと口角を上げて自らの細腕で受け止めると、轟音と共に体がその勢いで舞う。
 ドゴッ!!!
 超スピードで壁に激突するフラッタリーだが、自らがダメージを負うだけでは終わらなかった。掌を広げ、その中心から光線を発射する。
「ぬうっ……!」
 光線を受け、苦悶の表情を浮かべるジーヴァ。
「そこか」
 ヴォルフが『Lament』を煌めかせるとジーヴァの胴を切り裂く。その攻撃は寸分の狂いもなく急所を切りつける。そして他のケルベロスたちも続く。ここが千載一遇のチャンスだ。
『解放…ポテさん、お願いしますッ!』
 朔耶がポルテに魔力を与えて撃ち放ち、そしてシルディも竜砲弾を合わせて放った。
「ゆくぞ! 俺の誇り、俺の魂を込めた拳! 蹴り! 技! 貴様にすべてをぶつけよう。だから、貴様も全力で来い! 俺に豪雷の拳を見せてみろ!」
 飛び込む沙門の蹴りが鳩尾に打ち込まれると、その引いた脚の箇所にポルテが突っ込んだ。
 さらに少し遅れて、ルーシィドが『眠れる森の茨』で背中を噛みつかせた。
 最後にシルディの竜砲弾が弾けると、ジーヴァは爆炎に包まれた。
「……なかなかにタフですわね」
 より近い距離にいるルーシィドはそう言って、そのままジェットパック・デバイスで距離をとる。
「……さあ、もっと来い。俺の本能がそうさせる。戦い……いや真の殺し合い」
 ボロボロだが、まだ瞳は死んでいない。彼の表情は悦びにゆがみ、またその存在に凄味が増した気がした。
「……良いね、あんたみたいな奴とは戦争じゃなくこういう舞台で真っ向勝負でやり合いたかったんだ」
 数汰が集中する。自らのグラビティを練りこんでいるのだ。
「だが、こちらは一人じゃない」
 瞬時に懐に飛び込むと、自らの腕をポルテが開けた傷口にグラビティを注ぎ込む。
『刹那は久遠となり、零は那由他となる。悠久の因果は狂い汝の刻は奪われる……狂え、時の歯車』
 ジーヴァの腹の中でこれまでの傷が爆発するように膨れ上がる。
 まだ動こうとするジーヴァだが、シル・ウィンディアがヌンチャクで、攻撃の方向を変えてそのまま懐に飛び込むと、もう一つのチームから容赦ない攻撃が連続で浴びせかけられていった。
「別れを告げろジーヴァ。存命二度と拝む事のない……現世によぉ!」
 最期にジグがジーヴァの目の前に立つと、その拳にすべてを込めて殴りつけた。
 すると、とうとうジーヴァの膝は落ち、消えていったのだった。

「残念な王子様って本当におるんやな……」
 消えていくジーヴァを見て、朔耶はそうつぶやいた。
 エインヘリアルとしては、戦闘種族としては当然なのかもしれなかったが、ここまで戦闘に特化すると、確かに残念でもある。
「他の箇所はどうだ?」
 ヴォルフが沙門にそう尋ねる。ここ以外にも金牛宮に潜入したケルベロスのチームがいるはずだ。
「数はかなり減っているのである。というより、もうほぼ他のチームによって殲滅している状態、であろう。先ほど一気に数が減っていったのを確認できたのである」
 沙門はゴッドサイト・デバイスを確認して、そう伝える。
「じゃあ、またあのおっきな牛さんの頭に帰ればいいんだね!」
 シルディは、あの来た時の光景を思い出した。
「おっきな牛さんー。ですかー。そういえばー、今年は丑年ー、ですわねぇー」
 フラッタリーは普段の口調に戻って言った。
「ではもうここに、用はないという事ですね」
 イリスがそういうと、そうなるな、と数汰が返した。
「それでは、我々のジェットパック・デバイスで皆さんを牽引しますわ」
「そう致しましょう」
 ルーシィドとイリスが頷きあうと、ビームが展開していく。そしてのそのビームはもう一つのチームへとつながる。
「そうだ、皆様もご一緒にいかですか?」
 イリスはそう言うが、既に繋がりはできてしまっていた。ではお言葉に甘えてという言葉が聞こえてくると、ケルベロスたちは宙を舞った。

 程なく他チームの様子が伝えられてきた。エインヘリアルの残党の一角は、完全にケルベロスたちの手に落ちたということだった。
 他の場所の戦果も後程聞くことができるだろう。
 ケルベロスたちは、晴れて年明けを楽しむことができるなと安堵し、勢いよく牛の頭部から飛び出した。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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