●双児宮「ギンヌンガガプ」
「皆様、お疲れ様でした。アスガルド・ウォーの勝利おめでとうございます」
集まったケルベロス達へとレイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って、顔を上げた。
「既に話をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、エインヘリアルの残存兵力が、魔導神殿群ヴァルハラの宮殿と共に地上に浮上して出現しました」
第三王子モーゼスが護っていた、双児宮「ギンヌンガガプ」もその一つだ。
「双児宮「ギンヌンガガプ」は、ユミルの子のような巨大エインヘリアルを造り出す装置が存在するらしく、ユミルの子を初めとした巨大エインヘリアルの軍勢が周囲を固めています」
出現した双児宮は、載霊機ドレッドノート付近で停止しているが、宇宙空間に向けて謎の電波を送っているのだ。
「なんらかの策略を行っている危険性があります」
レイリはそう言ってケルベロス達を見た。
「双児宮の周囲は、巨大エインヘリアルの防衛網が構築されている為、双児宮に突入するにはこの巨大エインヘリアルを撃破する必要があります」
幸い、双児宮は、すぐに動き出す気配が無い。
最悪、情報を持ち返る事が出来れば、その情報を元に再突入が可能になるかもしれない。
「地上に脱出した双児宮「ギンヌンガガプ」についてですが、載霊機ドレッドノート近辺に浮上しています」
宮城県仙台市付近だ。
「双児宮「ギンヌンガガプ」は、周囲に巨大エインヘリアルを放って警戒していることが分かっています」
双児宮の周囲を、巨大エインヘリアルに防備を固めさせているのだ。
「確認されている巨大エインヘリアルは、ユミルの子、獣型巨人、光の巨人の3種です」
幸いなことに、巨大エインヘリアルの数は少なく、単独で哨戒活動をしている為、外縁部で一体を狙って撃破すれば、その間隙を縫って双児宮に近づく事が出来るだろう。
「ですが、流石に外縁部以外にも巨大エインヘリアルが歩き回っています。その敵の警戒をかわす行動も重要になってきます」
周辺を警戒している3体の巨大エインヘリアルについては、ある程度攻撃方法などの情報も入ってきている。
「まずはユミルの子ですね。病魔を纏ったかのように不浄な肉体や千切れた肉片同士が融合して蘇る異常な再生能力を持ちます」
ドレインを伴う攻撃方法の他、防御力を上げる術も持つ。
「次に獣型巨人ですね。地球のあらゆるものを暴食す、と言われている巨人です」
人の苦しみを見透かし、哀れみを持って人を暴食するという話もある巨大エインヘリアルだ。
「苦痛の呻きから己の攻撃力を上げる術も持ち、その爪は毒を齎す攻撃を行います」
他に角を用いた攻撃を持つ。獣型と呼ばれるのに相応しいのだろう。
「最期に光の巨人です。光り輝く星霊甲冑を纏った巨大エインヘリアルです。その巨躯から毒の光を放ち、ただ歩むだけで全ての物を蝕むと言われる存在です」
毒を齎す攻撃は光線と腕による攻撃。他に光肌の再生能力を持つ。
「最初の一体に何処を選ぶかも勿論重要になってくるかと思います。
どのように進み、どう戦い、どう躱すのか……ひとつひとつの選択が大切になる作戦かと」
双児宮の所在地は、載霊機ドレッドノート近辺だ。作戦を考えるのに参考になるだろう。
そこまで話を終えると、レイリは集まったケルベロス達を見た。
「皆様、最期まで聞いて頂きありがとうございます。
双児宮は移動していない為、時間的に猶予があるようにも思えますが……実際、宇宙に向けて電波を発しているという不安要素もあります」
もしも、竜業合体のドラゴンやダモクレスなどと交信を目論んでいるのならば急ぎ対処をしなければ間に合わないだろう。
「勿論、巨大エインヘリアルを生み出す装置も危険です。破壊しておきたいところではあります」
そして宇宙に交信をしているなんらかの装置も、だ。
「ですがこの交信措置に関しては詳細は分かっていません。手探りな事も多いですが——、ですが、今情報を掴むことができる機会があります」
今回の作戦で、可能な限り多くの情報を持ち帰り、後の作戦に生かすのだ。
「容易いことでは無いのは分かっています。ですが、皆様にならば託せます」
成せると信じていますから。そう言って、レイリは微笑んだ。
「それでは行きましょう。皆様に幸運を」
無事のお帰りをお待ちしております。
参加者 | |
---|---|
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248) |
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331) |
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186) |
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448) |
款冬・冰(冬の兵士・e42446) |
九竜・紅風(血桜散華・e45405) |
●黄昏に至る
咆吼が、空に抜けた。それは獣の咆吼のようで、人の悲鳴にも似る。
「ァアアア!」
「回復……違う。咆吼を加護と推定。キメラディオスの能力上昇を確認」
款冬・冰(冬の兵士・e42446)の声が戦場に響き渡った。剣戟と轟音、走る熱と共に大地が血に染まり、宮殿の床を赤い線を引く。
「ドレッドノートに比べりゃまだ小さい……って言おうと思ったけど、そんなもん慰めにもならねぇなァ!?」
唇に乗せた悪態に血が混じる。拭うより先、吐き捨てて軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)はバスターライフルを魔獣巨人キメラディオスへと向けた。
「やっぱデケェわ!」
轟音が、抜ける。僅か巨体が身を崩し、身を支えるようについた手が、爪が床に傷を作る。
「ァアアア!」
双児宮「ギンヌンガガプ」その門前にて、魔獣巨人キメラディオスとケルベロス達の戦いが激化していた。
獣型巨人を無事に倒し、残る巨人と遭遇することも無くこの地に辿りついた一行は、合流した3班と共に門番との戦いに入っていた。
「やはり、いまだ吼えるようじゃの。門番殿」
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)の構えたハンマーが砲撃形態へと変じる。ギリ、と歯を軋ませるようにして睨めつけた門番へとゼーは竜砲を放った。
「ァア、ァアア!」
衝撃に肩が砕ける。飛沫く血に、だが構わずキメラディオスは来る。
(「戦争に勝利しても、戦いは続く……ですが人々を守る為、放置は出来ません」)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は唇を引き結ぶ。情報も力の一つだ。少しでも多くを得る為に。
「通させは、しません」
キュィン、と時空を凍結させる弾丸が走った。指先、向けた先へと力が向かう。
(「……もし、対話で戦いを終わらせる事が出来たのなら……、けれどお互いに譲れないものがある限り、難しいのでしょうね」)
キメラディオスの足が、僅かに止まる。
「みんなを守るためにも、相手の思惑を止めないと、ですね」
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)の掲げたパズルが、女神カーリーの幻影を生み出す。
「ァア、ァ!」
狂乱に陥った姿に、竜矢は掲げたパズルを仕舞う。今は一体だが、増援が来た場合を思えば、どういうタイプか分からない以上、使わない方が良いかもしれない。
「援護するぞ、皆、強力な攻撃を頼む」
九竜・紅風(血桜散華・e45405)がカラフルな爆発が仲間に癒やしと加護を紡ぐ。軽くなった体で、その身に得た加護と共にケルベロス達は駆けた。
「ァア、ァアアア!」
遠距離から攻撃が届く。剣戟と炎の果て魔獣巨人キメラディオスは砂のように崩れ去った。
●双児宮「ギンヌンガガプ」
「流石に……大きな」
ぱち、とアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は瞬いた。広く高い天井、連なるように見える帯は装飾だろう。
キメラディオスの撃破後、巨人が移動してきた方向から双児宮へと入れば、巨大な空間が底には広がっていた。共に戦った3班とは別れ、探索に入っていた。
「この大きさ、広さは巨大エンヘリアル用に用意された宮殿と想定」
そう言って、冰は周囲を見渡した。双児宮は東に比べて西側の方が大きく設計されているようだった。
「――交信装置か、巨人生育装置の情報でも掴みたいところですが……」
そこまで告げて、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は視線を上げた。曲がった先区画の雰囲気が変わったのだ。
「地図情報確認、新区域に突入」
手書きの地図に触れた冰の言葉に、竜矢は警戒するように通りの奥を見た。
「――」
そこに、あったのは巨人の死骸であった。
肩口からは骨が除き、背は骨と肉を晒す。
その姿に覚えのある者も居ただろう。
巨人ユミルの死骸だ。
その体によじ登るようにして、ダモクレス系の二足歩行型の機械が何かを運び出していた。
「さて、ダモクレスの方はさくっと倒せたのですが……やはり、これは再生を続けているようですね」
奏過はそう言って眉を寄せた。これが骸であるのは分かる。だからこそ不可解なのだ。
「ダモクレス達が運び出していたのは細胞片でしょうか。あれを分離して……何かの材料にする為に……?」
「これが、巨大エインヘリアル製造装置ってことか」
双吉はそう言って息を落とす。区域としては巨人ユミルの死骸があるだけの場所だ。
「分からないことも多いですし、一先ず情報収集ですね」
一先ず、と竜矢が情報の妖精さんを展開する。
「このあたりの情報を――……」
そう、情報を引き出そうとした瞬間ユミルの死骸が鳴動した。
●死せる囁き
揺れる。震える。
死骸となっても再生を続けるユミルの死骸が――奪い『それ』は姿を見せた。
「――」
両の脚で立つ巨体。
が翼を広げればその影が竜矢を隠す。明るいブルーの翼、その身に纏う対竜機神の守護聖鎧。
「そんな……まさか、逆に情報を奪われて」
「巨大化したのか?」
息を飲む竜矢の横、紅風が小さく瞬く。
そこにはユミルの死骸から生まれた、巨大化した『中条竜矢』の姿があった。
「おっきい竜矢なのか? 竜矢は?」
「無事です。私自身は……ですが」
恐らく、と告げる声と同時に眼前で稲妻が弾けた。
「――!」
来ると思った瞬間には、衝撃が全身に叩き付けられていた。ぐらり、と身を揺らし竜矢は血を吐く。
「やはり、術式も全て……」
「動かないでください。今、回復を」
奏過の声が鋭く響く。空を滑らせるように滑らせた指先に赤光のメスが顕現する。
「今瞳に映るは鏡像……信じて身を委ねて欲しい……」
このメスによって「傷つける行為」は「癒す行為」に反転される。盾役を担う竜矢が一撃で倒れかけた攻撃。
「でも、おっきなコピーには負けないぞ」
巨大中条へとアラタは妖精の加護を宿す一矢を放つ。ヒュン、と駆け抜ける力に巨体がこちらを向く。視線に、分かりやすい敵意が乗った。
「先生!」
ウイングキャットの先生が盾役を担う仲間へと回復と加護を重ねる。己は、ただ向けられた視線に踏み込むだけだ。
「うん、ここで負けられないからな!」
床を蹴り、身を前に飛ばす。駈ける娘と共に行く力があった。
「斉射」
冰の砲撃だ。アームドフォートの装甲をノックして、打ち出された力が巨体に届く。
「……アラタ、無理しないでね」
「あぁ、冰もだぞ」
――ゴォオオ、とその真横を振動が抜けた。衝撃に二人は身を飛ばす。飛び散る瓦礫に構わず来るのは、巨大中条の砲撃。アームドフォートだ。
「武器もそのまま持ってったってか?」
そいつはまた、と双吉は息を吐きバスターライフルを巨大中条へと向けた。
「狙い撃つぜ」
魔力光が巨体を捕らえた。踏み込みが、僅か揺れる。
「……必ず、止めましょう」
リコリスの掲げた指先が、符を解き放つ。半透明の御業が炎を巨体へと向けた。ゴォオオ、と力が抜ける。衝撃に、僅か蹈鞴を踏みながらも巨体は来る。手にした武器も、防具も全て竜矢と同じものを纏い、グラビティも同じモノを使う。
「 」
言葉無く、ただ空間だけを震わせる咆吼と共に巨大中条は来る。パズルを掲げ、流星の煌めきを纏い、雷光さえ操る術は全てこの作戦の為に用意されたものだ。
「随分と好き勝手をしてくれたものじゃのう」
竜の翼を広げ、ゼーが静かに告げる。
「降り止まぬ雨よ」
降り止まぬ雨が、悲しみが、足を止めるように巨体を一点に縫い止める。踏み込む脚が一瞬、鈍る。それだけで――充分だ。
「中条殿」
「――はい」
応じる声と跳躍は同時だった。今、有している最大の命中率を以て竜矢は行く。誰もが血に濡れていた。それほど、巨大化され作られた己の似姿は強力であった。
「忌まわしき血の力だが、今はその力を貸してくれ」
奏過と重ねて紅風が回復を紡ぐ。彼もまた――血に濡れていた。盾役の身でこのダメージだ。だが、それでも彼らがいなければとうにこの戦場は崩れていただろう。
(「これ以上――」)
流星の煌めきを竜矢は纏う。空にある竜の姿に巨体は容易に気がつく。笑うように薄く口元が開き――言葉が、落ちた。
「我が身に宿る炎よ」
「――れは……! させません!」
牙の隙間から溢れ出す程の炎。その意味を竜矢は知っている。一撃狙い来る先はやはり己か。それでも、と竜矢は身を――落とす。
「止めます」
ガウン、と一撃が叩き込まれた。
●秘匿されし者
「ァア、ァアア――」
歪んだ咆吼の果てに巨体が崩れていく。膝をつくことさえないまま、淡い光の中に消えれば漸くの静寂が一向に戻ってきた。
「なんとか、生きてる……か?」
皆、と紅風が声を掛ける。静かにリコリスは頷いた。
「はい。皆様、回復を……」
「待って。再考。あれが、動いた」
冰の声が静かに響く。冬の兵士たる娘の双眸が一点を見据えていた。
「ユミルの死骸」
「――まだ、動くのか!」
ひゅ、とアラタが息を飲む。まさか、と落ちる声が奏過と重なる。
巨体の影がケルベロス達に落ちた。足先触れる分ではない。その身一つを覆うものでは無い。――一体が、暗く染まる。
「7人……残り全員分の情報を得たと。先の戦いでですか」
奏過は唇を引き結ぶ。医師たる男には分かっている。この戦場――限界だ。最初の巨体を倒すだけでも、随分と疲労した。巨大化した上、力も増大している。
「これ以上――……」
「そう、無茶は出来ぬのぅ。だから、行くのであれば儂じゃ」
言葉をゼーが作る。静かに笑った竜は、だが、ふ、と吐息を零すようにして視線を伏せた。
「あぁ、まだであったようじゃのぅ」
「――増援みたいだな」
そう、双吉が口にした瞬間――轟音が響いた。巨大な竜砲だ。黙れとケルベロス達に告げているのか。衝撃は後衛を打ち潰すように重なり響き――だが、止まる。
「お前――」
「あぁ、流石にこれ以上は立てません、が」
一撃、庇うように竜矢が立っていた。血が鎧を濡らす。回復を、と告げた奏過に首を振った。
「私は、此処までに。ですが、あれは通常のグラビティ以外も奪ってきます」
ただ一つの術式――オリジナルグラビティさえ奪ってくるのだ。
「すみません、後は――……」
情報を最後に告げて竜矢は気を失う。ばたばたと辿りついた足音と共に、仲間のケルベロスの声が届いた。
「みんな、大丈夫!? これは一体、何が起きてるの?」
「あぁ、とりあえず生きてる。あれだ、能力コピーされて巨大化された」
双吉はそう言って、前を見る。7体、数は多いが合流した2班が、3体を請け負うと声が掛かった。
「――では、もう一度あと一人」
真っ直ぐにリコリスは巨体を見上げた。そこにあるのは黒と灰の色彩を持つ竜――巨大化したゼーの姿だ。
「リィーンリィーン、行くぞ」
解き放つ冷却の砲撃が、翼に届く。
剣戟と炎を以て、戦闘は激化していた。一撃を受け止め、紅風は荒く息を吐く。
「血の中に眠る浄化の力よ、その魔力を解放し仲間を癒す奇跡を起こせ!」
回復は前衛へと。己はもう、これだけでは足りない。分かっているからこそ、巨体を見上げる。恐らく後一度だけだ。
足を止める暇も無いまま、戦闘は加速する。大地を震わせる程の轟音を区域に響かせながら入り交じる。振り下ろされる刃より早く下を滑り抜け、時にその上を足場にしていく。
「強敵相手でも全員守りますよ……全ての力でっ」
駆け抜ける為の癒やしは、奏過が紡ぐ。淡々と己のやるべきことを。その為に肩口に走る己の傷など置いた。回復特化の装備。それを更に強化してきた――その力で、支えきる。これ以上、誰も倒させない為に。
「俺は! パワー型じゃないから、こういうデカブツの相手は苦手なんだよ!」
ゴォオオ、と竜の力を放出し、加速したハンマーと共に、双吉は巨体の影に入る。その間合いにて一気に飛んだ。
――ガウン、と重く一撃が落ちる。ぐらり、と揺らいだ巨体に、ゼーが行く。その踏み込みに巨体が振り向く。銃口がこちらを向く。――だが。
「構わず行け」
「――忝いのぅ」
ガウン、と衝撃は踏み込んだ紅風に受け止められる。僅か身を倒すようにして、だが庇いに出た男には一つ確信があった。
(「これが、最後だ」)
最後の一撃になる、と。
雨が、降る。巨体の足さえ止めるように、全てに終焉を齎すように。広げた翼と共にゼーの招いた力が巨体を――巨大化したゼーを撃ち倒した。
ゴォオ、と戦闘の激震が響いた。見れば、合流した2班も巨体との戦いを終えた所であった。
「これで漸くか?」
荒く息を吐きながらアラタは顔を上げる。先生は既に倒れた。きつく拳を握った彼女の前、いえ、と奏過が声を上げる。
「あれは、まだ蠢いています」
「今度は全員分ってか、笑えねぇ冗談だな!」
行こう、と声を掛ける必要など無かった。迷い無く誰もがユミルの死骸を止める為に行く。駆け抜ける姿を追いながら双吉は気がつく。
ここでダモクレスが作業をしていた意味を。
「ダモクレス……機械系の奴じゃねぇと作業ができなかったのか!」
ユミルの死骸に触れる事が出来るのが奴らだけだったから、他の兵の姿も無かったのだ。あの死骸――肉片にはそれだけの力があるのか。
「ここで、……ここで止めるんだぞ。絶対に……!」
アラタは身を、前に飛ばす。流した血で視界が歪む。それでも、この足を緩める気は無かった。止まる気も。
「無い!」
暴風を伴う回し蹴りがユミルの骸へと落ちる。それでもまだ震える死骸に、着地の足から勢いよく顔を上げる。
「アタシは、生きる。たとえアンタの魂を命の糧にしてでも―――なんてね?」
瞬間、鳥たちの囀りに似た駆動音が耳に届いた。共に戦うケルベロスの一撃が届き、巨大な剣の一振りが切り刻む。
「――貴方に、葬送曲を」
その機を逃すこと無く。その瞬間だからこそ――リコリスは、歌う。氷のように冷たく静謐な旋律は、葬送の名を持つ。
「……おやすみなさい」
悩むようにして僅か、言葉を紡ぐ。尽きぬ骸に。
「ウィークポイント確認。破砕開始」
低く、跳ぶように向かう、銀の娘の頬に傷が走り――だが構わず、ユミルの死骸、その構造的弱点へと叩き込んだ。
――衝撃が戦場に響く。共に戦う仲間達の齎す冷気が、力が駆け抜ける。意識を失った仲間を、庇うように立っていた奏過は告げた。
「終わりです、これで」
光が、風が、炎が、氷が――全てが、集結していた。
ケルベロス達の一撃がユミルの死骸を跡形も無く蒸発させる。今度こそ、その活動が停止し――消えていった。この地に何一つ残すことなく。
「急いで脱出だな」
巨大エインヘリアル製造装置は破壊した。終末の巨人(ユミル)の死骸を用いて行われていたことを、皆に知らせる必要がある。双吉の言葉に誰もが頷き、気を失っている仲間を連れて急いで双児宮を脱出した。
――ふいに、衝撃と共に轟音が宮に響き渡る。それは、次なる戦いの始まりを告げるようでもあった。
作者:秋月諒 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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