「アスガルド・ウォーの勝利、やったっすね!! エインヘリアルの英雄王シグムンドは討たれ、アスガルドゲートの破壊にも成功したっす。あとは逃げ出したエインヘリアルの残存兵力の行方っすが……奴ら、敗残した軍勢と合流しながら鎌倉市周辺に出現したっすよ。その魔導神殿群ヴァルハラの宮殿名は――金牛宮『ビルスキルニル』!」
皆を出迎えた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、地図を広げて鎌倉駅を指差した。
「敵の目的地はここっす。そう、第一王子ザイフリートが最初の地球侵攻時に使った『虹の城ビフレスト』の中枢部である『蒼のビフレスト』があるところっすよ! あいつら、どうもその力を狙ってるみたいなんっす。幸いなことに鎌倉市は5年前の鎌倉争奪戦の経験があるんで、市民の避難はなんとか間に合った次第っす」
今回の作戦は敵の目的地がわかっているため、先回りしての迎撃戦となる。戦場は鎌倉駅。敵は金牛宮ごと突っ込んでくるだろうが、目的地に到着する直前に移動形態から停止形態へと形状を変化させると思われる。
「その瞬間を狙って、金牛宮内部に乗り込むっすよ。形態変化するときには駆動部分や変形部分なんかに隙間ができるんで、侵入経路はいろいろ考えられるっすね。なんで、ピンポイントで狙った敵と戦うのも難しくはない状態っす」
今回は、複数班が同時に侵入してそれぞれがターゲットにした有力敵を倒すという作戦である。この班が担当するのは第四皇子ジーヴァ配下のエインヘリアル傭兵部隊『嘆きの無賊』幹部のひとりだ。
「その名も神滅者――大層な名前っすけど、それに見合った力を持った剣士っすよ。なんでも、組織内1の破壊力と火力を誇り、怒れる神の如く生命を容赦なく葬り去っていくんだとか。間違いなく、強敵っすよ」
神滅者はその性質上、敵の侵入を知れば真っ先に迎え撃ってくるだろうと思われる。
「つまり、奴さんのところまで最善のルートをとって奇襲に近い先制攻撃をかけられればよし。逆に時間がかかると、相手に有利な形での先制攻撃を許すことになる可能性が高いってことっす」
道中には金牛兵が巡回しており、侵入者を見つけると殲滅行動に移る。今回のターゲットである神滅者自身は配下を引き連れておらず、単体で戦いを挑んでくるようだ。
「ま、ひとりの方が戦いやすいんでしょうね。なにしろ、回りにいる奴らみんな葬り去っちまうってんですから。道中ではできるだけ敵に見つからないように隠密行動をとるか、あるいはできるだけ早く倒して突っ切るかのどっちかになると思うっすけど、いずれにしても場所が場所っす。気を付けてくださいね」
ダンテは神妙な顔つきで呟き、考え込むように指先を顎に当てて首を傾げた。
「それにしても、奴ら蒼のビフレストを手に入れていったい何をしでかそうとしているのやら……ああ、そうっす。金牛宮には周りにグラビティの落雷を落とす機能がついてるんすけど、形態変化中は使えないんで安心してくださいっす。そういう意味でも、形態変化中に侵入を成功させることが大事っすね。よろしくお願いするっすよ!」
参加者 | |
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ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793) |
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458) |
ディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530) |
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820) |
月岡・ユア(皓月・e33389) |
レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365) |
●金牛宮への潜入
「キマシタネ……!」
鎌倉駅を目指す金牛宮が見る間に形を変えてゆく。パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)はその光景をまるで巨大なパズルのようだと思った。ここまで移動するために駆動していた脚部がしまい込まれ、首が折り畳まれてゆく。
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は味方の隠密気流の範囲からはぐれないように気を付け、変形時に空いた金牛宮の隙間へと体を滑り込ませた。
(「ここが、金牛宮『ビルスキルニル』の内部――そして俺たちの相手は圧倒的な火力を持つ強者……すまないが今回は戦略を採らせて貰うぞ」)
まだどこの班も潜入中らしく、内部はしんと静まり返っている。たまに遠くで守備兵のものらしき集団の足音が聞こえて来るくらいだ。
「――」
レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)がハンドサインで宮殿の奥を指差した。突入前にヘリオンデバイスを通して把握した情報を元にルートを決定する。
(「悪いが、守備兵は無視させてもらうぞ」)
群れで巡回している集団が通り過ぎた後を狙い、レフィナードたちは一気に通路を駆け抜けた。
目指すは神滅者ただひとり、だ。
彼はまだこちらに気付いていないと見えて、持ち場を動かない。このまま奇襲をかけることができれば戦いを有利に運ぶことができるはず。
「よー、りかー。頼むぜェ?」
ボクスドラゴンの頭をやや乱暴に撫でたディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530)は、デバイスで仲間を繋いで万が一の時のための保険をかけた。それから動物変身でアルマジロになった癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)を片手で抱え上げる。
「大丈夫だ、ボールみてぇでも投げねェよ」
物音を立てないよう、小声で囁くと和の小さな耳がぴくぴくと動いた。「頼んだよ」とでも言っているのだろうか。安心したように力を抜いて彼の腕に収まっている。
――さて。
気分を切り替えるように、ディオニクスは仲間について宮殿内を進んだ。結構奥の方まで来たように思えるが――。
レフィナードがハンドサインで目標が近いことを伝える。回り込もう、と指先を巡らせた。
「――」
了解、と月岡・ユア(皓月・e33389)が親指を立てる。心躍る瞬間まであと少し……さぁ、君は僕を楽しませてくれるのかい? 羽搏きが生み出す気流が気配を隠し、ぎりぎりまでこちらの存在を気取らせない。
「……貴様等ッ!?」
そしてついに目標の姿が目視できる距離にまで到達する。完全に不意をつかれた形の神滅者が驚愕している間にユアは神速の剣閃を見舞い、ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)のオウガ粒子が前衛の武装を銀色の輝きで覆い尽くしていった。
「お初にお目にかかるわ、ね」
それまで気配を消すために纏っていた闇を剥ぎ取り、ケルベロスチェインを解き放って構えを取る。
「私達はこの星が好きなの。だから、みんなして抵抗するのよ。あなたたちの勝手にはさせないわ」
●神滅の刃
激しいジェット音が戦場を駆け巡る。ディークスの使用するジェットパックデバイスが神滅者の剣が届かぬ上空にまで仲間たちを牽引し、自慢の剣技の大半を封じ込めていた。
「卑怯な……!! 降りて正々堂々と戦わぬか!!」
奇しくも、敵の方がケルベロスを挑発する展開となる。
「私達は強くはないもの。だから群れるし、できることは何でもやるのよ」
ルベウスは冷徹に言い放ち、すれ違いざまに流れるような蹴りを敵の脇腹へと叩き込んでいった。
「ぐッ――」
神滅者は低く呻き、意図せず半歩後退する羽目になる。
「さぁ、狩の始まりだ」
黒炎が激しく燃え盛った。闇よりも深き色彩のそれはディオニクスの肩までを覆い、満開の花の如くに咲き乱れる。変身を解いた和が腕から飛び降りると同時に迸る、溢れんばかりのオウガの粒子。
「いくよ、りかー」
青いボクスドラゴンが頷き、パトリシアの肩に飛び乗って属性をインストール。幾重にも強化されたバトルガントレットを打ち合わせ、パトリシアは霧の中に身を潜ませながら敵前へと躍り出た。
「いい名前ね神滅者! ワタシも神を殺せとオーダーを受けているノ、仲良くシマショウ!」
「ちィッ……!」
攻撃が届かないのであれば貝になって凌ぐ他あるまいと言わんばかりだ。神滅者は甲冑を盾のように組み合わせ、回復に専念する以外に策がない。
「フォーティーエイトアーツ・ナンバーナイン! サキュバスター!!」
絶好の機会をパトリシアは逃さなかった。瞬時に攻撃へ転じ、軽々と敵を抱え上げる。
「食らいナサイ!」
空中で敵の姿勢を変え、股間をクラッチして――一気に床へと叩き付けた。ダメージから立ち直る時間を与えず、ディークスは戦場をバイオガスの煙幕で攪乱する。
「こ、これは何だ? くそっ、何も見えん!」
「――ここだよ」
煙に紛れて近づいていたディークスのディスインテグレートが内包する虚無へと敵を誘った。
「ぬあッ!!」
これは効いた。
やはり、とディークスは独り言つ。
「理攻撃に弱いようだな、黒焔の?」
「フン、白犬もたまにゃ役に立つじゃねェか」
面白くもなさそうに呟いたディオニクスの紡ぐ御業が見る間に鎧と化して仲間たちに破邪の効果を付与、オウガ粒子による精度上昇に加えて固い甲冑の守りを解く力を授けていった。
「あんま粘られっと増援がきちまうからな、押してくぜ!」
「おっけー」
和のマインドリングが雷を帯び、大気中の水素を伝って狙いを定める。閃華の名が示す通り――それは、華々しく輝いて敵を撃ち抜いた。
「さすがに固い……!」
「ええ、これは手ごわい相手ですね」
ここまで数発の轟竜砲を叩き込んでなお、レフィナードの目には神滅者の動きが鈍ったようには見えなかった。
「神滅甲冑の渾名は伊達ではないということでしょうか」
「いいね、豪快な敵は嫌いじゃないよ」
煙幕の中を、一直線にユアは翔ぶ。
「葬り去るっていう技が見れないのは残念だけど、それでも強いなんて……たっぷり遊べないのが残念だよ」
ブレイクを狙い、ユアは死神の寵愛を発動。拳を包み込んだバトルオーラが鋼鉄よりも固い装甲となって神滅者をその甲冑ごと殴りつけた。そこへディークスの放つ鎖が炎を纏いながら神滅者の甲冑を縛り上げる。
「ッ――!!」
窮地に立たされながらも、あと一歩のところで神滅者は踏み留まった。
「くー、さすがに強い! でも、まだいけるっ!」
ユアが更に一歩踏み込むのを、ユエの金縛りがアシストした。神滅者の足元が急に力を失い、うわりと浮いた。そのまま、近くにあった柱に背中から叩き付けられる。
●超越
「ちいッ」
思いきり柱に叩き付けられた神滅者は苛立たしげに呻いた。すぐに態勢を立て直そうとしたにも関わらず、足元がふらついている。
「畳み掛けよう!」
千鳥足に目ざとく気付いたユアが声を上げた。
「ええ、押し切ってみせるわ。出でよ、ルイン・アッサル」
ルベウスの手元が輝き、現れ出でた黄金の槍――否、その形状を取った魔法生物は一直線に神滅者を狙って迸る。
「その紅の瞳からは逃れられないわ」
さあ、敵を貫け――!!
ケルベロス達の猛攻は凄まじかった。ルベウスの操るルイン・アッサルが追い詰めた先にはマインドリングを剣状に変えたレフィナードが回り込んでいる。
「――逃げ場はないぞ」
光剣が甲冑を削いだ。
反撃に移ろうとした神滅社だが、先ほどの攻撃がプレッシャーとなって狙いが定まらない。
「いいぞ、レフィ」
波状攻撃になるよう、ディークスはタイミングをずらして攻撃を続けた。
「with、貫け」
闇トカゲが鋭い槍の如き形状に変化し、甲冑の隙間を捉えて貫く。ユアの切なき歌聲が響き渡り、ルベウスの蹴りが再び見舞われた。
「増援は?」
ルベウスの問いに首を振ったのはレフィナードだった。
「まだ駆け付ける気配はありません」
「ナラよかった! 絶対に倒しキッテみせマショウ!」
パトリシアは足音もなく敵に近づき、その急所を指で抉る。躱す暇など与えず、蹴り、投げ技ととめどなく技を仕掛けていった。
「あなたのお好みはドレカシラ!」
そして再び、最大火力を誇るサキュバスター・EXをお見舞いしてやる。やはり理力の効きが思った以上にいいようだ。
「ワタシがプロレス技を使うのはネ。プロレスには本当に殺してしまう技があるからヨ。素人が遊びで使うだけでも死人を出す技がネ」
呼吸を整え、再び指先で喉元に狙いをつける。
――指天殺。
「ハぁ!!」
甲冑の隙間をこじ開け、気脈を閉ざす撃ち込んだ一撃がじわじわと内部から石化の浸食をし始めた。
「この俺が、負ける……? 神滅者と呼ばれるこの俺が……!?」
いくら回復による耐性をつけたところで、それを上回る状態異常の数々を身に受けては名にし負う嘆きの無賊の幹部と言えども劣勢を覆しきれはしない。
「こうなれば、仕方あるまい……!!」
「――まさか、逃げる気? させない、りかー!」
それまで囮として前に出していた和のボクスドラゴンが箱に隠れ、入れ物ごとタックルして甲冑の守りを解いた。
「ナイス、なごさん! りかー!」
ディオニクスの縛霊手【冥牙】が砲口を開き、眩いばかりの光弾を解き放った。レフィナードの竜爪撃とディークスの氷結を纏った手鎚が続けざまに迸り、守りをこじ開ける。
「沈みナサイ!」
「これで、ラスト!」
がら空きになった懐に滑り込んだパトリシアの指先が両目を潰し、血色に塗りつぶされた視界をユアの居合い斬りが一刀両断した。
「ば……馬鹿な――……!!」
神滅者はその力を振るうことすらできずに破れたのである。ケルベロスたちの完封勝利であった。
●脱出
「オイ、敵の援軍が来る前に行くぞ。撤退だ撤退」
予めチェイスアートデバイスを繋いでおいたため、使用者であるディオニクスを先頭に置いた脱出行動は速やかに遂行された。
「あれは、寄星者型の配下兵? 自然に崩れて消えていく……」
友人たちを先に逃がし、殿を担った和は去り際に自滅する敵兵に気付いて言った。
「無事に他の班も戦果を挙げたみたいだね。皆、お疲れさま。仲間やこの鎌倉という土地を守れて本当によかった。戦いの後は、可能な限り破壊された街の復興をお手伝いしたいよ」
「なごさんの言う通りだな」
「ええ。早くいつもの生活を取り戻してあげたいもの」
ディークスが頷き、ルベウスが言った。
「では、帰りましょう。他の班の方々の報告も気になりますね」
確かに、レフィナードの言う通りであった。今回の作戦は金牛宮だけでなく、他の宮殿も同時攻略されている。よい報告を聞けることを願いつつ、彼らは金牛宮からの脱出を果たしたのだった。
作者:麻人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:7人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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