「アスガルド・ウォーの勝利、おめでとうございます。エインヘリアルのゲートを破壊し、数多くの魔導神殿を落とした手腕、本当にお見事でした」
ムッカ・フェローチェは惜しみなき称賛をケルベロス達に贈ると、話を切り出した。
先の戦争で地上へと転移した三つの魔道神殿。そのひとつ、双児宮ギンヌンガガプの所在が判明したという。
「場所は宮城県仙台市……載霊機ドレッドノートの付近です」
ギンヌンガガプは、第三王子モーゼスが守る魔道神殿だ。
この宮殿には「終末の巨人族」――ユミルの子のような、身長10mにも及ぶ巨人――の模倣体を造る装置があるらしく、彼ら巨大エインヘリアルの軍勢によって、宮殿の周辺には防衛網が築かれているとムッカは言った。
「ギンヌンガガプは現在、宇宙空間に向けて謎の電波を送っており、何らかの策略を巡らせている危険性があります。今回の作戦では、双児宮の内部へ潜入を行い、敵の作戦を暴いて欲しいのです」
幸い、双児宮はドレッドノートの付近で停止しており、すぐに動き出す気配はない。
有益な情報を持ち返る事ができれば、それを元に再突入も可能になる事だろう。
「宮殿にはモーゼス王子の他、彼の兵士達も存在します。王子を撃破し、宮殿内の設備なども破壊できれば最善なのですが……」
それらに関しては、困難と判断した時は断念して構わない。今後の戦いに繋げる為にも、少しでも多くの情報を掴んで来てほしい――。
ムッカはそう言って、作戦の詳細を話しはじめた。
「ギンヌンガガプへ潜入するには、二つの障害を突破する必要があります」
そのひとつが、現場周辺を防衛している巨大エインヘリアルの存在だ。
判明しているのは『ユミルの子』、『獣型巨人』、『光の巨人』の3種類。いずれも数は多くなく、単独で哨戒活動を行っている為、外縁部で1体を狙って撃破すれば間隙を縫って双児宮に接近する事が出来るだろう。
「ただ、外縁部以外にも巨大エインヘリアルは存在します。彼らの警戒をかわす行動も重要になるでしょう。あくまで一例ですが、隠密気流を使用する場合などは、全員で活性化して行動した方が発見されるリスクは減る筈です」
本作戦ではチーム毎の行動が推奨される。2つ以上のチームが同じ場所で動いていると、巨大エインヘリアルとの遭遇戦が発生する危険性が高くなってしまう。その点はくれぐれも注意して欲しいとムッカは言った。
「もう1つの障害は魔獣巨人キメラディオス。防衛網を抜けた先に待つ、宮殿の門番です」
キメラディオスは様々な獣と融合した外見の巨人で、これを撃破しなければ双児宮へ潜入する事は出来ない。その能力などは判明していないが、魔道神殿の門番を務める敵である。相応の力を有している事は間違いないだろう。
「宮殿内部には、モーゼス王子を初めとした敵戦力が予測されています。王子の撃破は必須ではありませんから、くれぐれも無理はしないで下さいね」
そう言ってムッカは、作戦の流れをまとめた。
最初に、双児宮の周辺を守る巨大エインヘリアルを排除し、警戒を突破。
そして、宮殿に接近した後、門番である『魔獣巨人キメラディオス』を撃破。
最後に、宮殿内へ侵入して、第三王子モーゼスらの作戦を暴く――。
「この作戦では、迅速な行動と綿密な連携が鍵です。防衛部隊の撃破に時間を取られたり、進軍中に敵に発見されたチームは、防衛網の突破が困難になるかもしれません」
ケルベロス達へ注意事項を伝えるムッカだが、その表情に不安の色はない。
今まで数々の戦いを勝利に導いたケルベロスなら、必ずこの作戦を成功に導いてくれる。そう信じているからだろう。
「モーゼス王子の勢力がドラゴンやダモクレスと交信を目論んでいるとすれば、早急に対処しなければ間に合わない恐れがあります。可能な限り多くの情報を持ち返り、今後の作戦に活かして行きましょう。皆さんの健闘を祈ります」
ムッカはそう言って一礼すると、ヘリオンの発進準備を開始するのだった。
参加者 | |
---|---|
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609) |
源・那岐(疾風の舞姫・e01215) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
人首・ツグミ(絶対正義・e37943) |
●一
主なき載霊機が見下ろす、仙台市内の無人地帯。
そこを防衛する獣型巨人との戦いは、一発の砲弾によって幕を開けた。
「んぅ。どかんどかん、いくぞー」
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)の轟竜砲が放物線を描き直撃する。脚部の蹄を砕かれ、呻きを漏らす巨人。そこへ勇名の合図が飛び、ヘリオンデバイスを装着したケルベロスが次々に攻撃を仕掛けていく。
「敵はキャスターのようですね。撃破を急ぎましょう!」
目力を発動したジェミ・ニア(星喰・e23256)が、蛇の文様を宙に描きはじめた。
この戦闘はあくまで前哨戦に過ぎない。ジェミらの目指す先は、巨人を倒した先にある。
双児宮ギンヌンガガプ――第三王子モーゼスが守る魔道神殿に。
「いきます。刻印『蛇』」
怒りの雄叫びを上げて迫る巨人の前方、ジェミの背から黄金色の蛇が実体化した。
物体として受肉した蛇に両脚を絡めとられ、たたらを踏む獣型巨人。その頭上を光の翼で飛翔するのは、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)だ。
「双児宮の巨人……ここで倒れてもらうよ」
パイルバンカー『星槍』の推進力で加速し、空中から急降下。デッドエンドインパクトの一撃で分厚い胸板をぶち破る。対する巨人は、怒りに任せて毒爪を振るおうとするも、
『グウゥ……ッ!』
「余所見は禁物ですよーぅ?」
その刹那、飛来した矢が、露出した筋肉に深々と突き刺さった。
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が放つ、ホーミングアローの一射である。
「くふふ。あなたのような悪は粛清あるのみですぅ♪」
悪と見做した存在に対し、ツグミは一切の容赦がない。
膨大な火力を伴い発射された追尾矢は、防御を削られた巨人を次々と射抜き、その肉体を真っ赤な血で染めていく。
「粘りますねーぇ。応援が来ると面倒そうですぅ」
「そウだな。速攻で押し切ル」
ツグミの言葉に、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は戦棍グザニアを構えて頷いた。
今は何よりも速さが求められる状況だ。轟竜砲の砲撃と、ビハインドの『キリノ』が放つ金縛りの連携攻撃が、怒涛の勢いで巨人を追い詰める。その間も眸は、通信機型デバイスによる思念の中継を止めることはない。
「敵の動きが鈍ってきていル。もう一息ダ」
「おうっ、任せろっ!」
眸の思念に、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が応答を返した。
祝福の矢でアタッカーの支援を完了し、爆破スイッチを掌に収める。流れるような動作で攻撃準備を終えた広喜は、普段のそれより微かに固い笑顔で準備を整えた。
「……よし、オッケーだっ!」
「ブレイブマイン、発動!」
同時、源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が炊く七色の煙幕が前衛を鼓舞していく。
更なる激しさを伴って迫るケルベロスの攻勢。それに耐えうる術を、巨人は持たない。
「十六夜さん、お願いします」
「任せろ那岐。霊地の森を脅かす者は、すべて葬る」
天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)は、竜氣で包んだ刀を構え、飛翔。
ジェットパックで宙を駆り、敵の懐へ肉薄する。広喜の遠隔爆破を浴びてのけ反る巨人。狙うはその胸元に露出する、巨大な心臓だ。
「天導を染め上げろ! 総餓流・曼珠沙華!」
一閃とともに心臓を断ち割られ、巨人は地響きとともに斃れ伏した。
ケルベロスたちは敵の増援が来ないことを確認すると、準備を整え走り出す。
巨人の骸の彼方、静かにそびえる双児宮を目指して――。
●二
隠密気流で気配を殺し、消音ブーツと迷彩マントの重武装で姿を隠して進むことしばし、防衛網を抜けた8人を迎えたのは、巨人の轟く咆哮であった。
「気をつけて。宮殿から敵が出てきます!」
先頭のジェミが、眼前に迫った双児宮の門を指し示す。
その先に見えるのは、宮殿の門番たる魔獣巨人キメラディオス。そして、巨人と交戦するケルベロスの4班だった。後方からは、助太刀せんと駆けつけてくる3班も見える。
「みんな。力を合わせて、やっつけるよ!」
イズナの一声とともに、8人もまた戦闘に加勢した。
生命力をすする牙と、石化の爪を前に、一歩も退かず戦い続ける4班の仲間。
それをイズナらの班は、後方からの回復と攻撃で援護していく。
「あの巨人、よほど俺たちを通したくないようだな」
「いかにも悪の怪物、という感じですしねーぇ」
気咬弾を発射しながら、十六夜とツグミは巨人の背後にそびえる宮殿を仰ぎ見る。
双児宮ギンヌンガガプ。それは左右非対称の大きさの神殿が、互いに結合しあったような姿の建築物だ。遠近感を狂わせるような歪な外見は、その中で待つであろう存在の不吉さを否が応でも連想させる。
「小さな西宮殿と巨大な東宮殿。巨人がいるのは東宮殿のようですねーぇ」
「ああ。巨人の生成装置は、恐らく東だろう」
攻撃を続行する二人の会話は、すでに戦いの後を見据えたものに変わりつつあった。
魔獣巨人は強敵だが、60名を超えるケルベロスの力はそれさえ凌ぐ。
果たして巨人はしばらく抵抗を続けたが、グラビティを絶え間なく浴び続けて次第に原形を失い、やがて塵となって消滅した。
「こちら君乃。探索場所の分担ダが……うム、了解ダ」
撃破を確認した眸は、他班との簡潔なやり取りの後、連絡の内容を仲間たちに伝える。
行動可能な班は全部で8つあり、これらを二手に分けて東西の宮殿に突入すること。
突入後は4つの班が、各自で手分けして内部を探索すること。
そして、眸らの班は西宮殿の担当であること。
「以上ダ。急ごウ」
「了解だぜっ。片っ端からブッ壊してやる!」
相棒に笑顔を返し、広喜は拳を握りしめる。これだけ派手な戦闘を繰り広げた以上、間違いなく敵はケルベロスの襲撃を察知しているだろう。
「……待ってろよ」
脳裏を乱し続ける謎のノイズ。広喜はいまだ固い笑顔のまま、その発生源たる『何か』を睨み据えると、宮殿へ突入していった。
●三
「んぅ。みんな、きをつけて」
他班と分かれ探索開始からしばらく経った頃、ふと勇名が仲間たちを呼び止めた。
彼女のゴーグル型デバイスに、付近に敵反応を感知しているという。
「その曲がり角のさきにいる。10くらい、もっと奥に3つ」
「かなりの数ですね。何かを守っているのでしょうか?」
那岐の疑問に、眸は頷きを返す。
「怪しそウだな。まずは情報を探ってみよウ」
眸は物陰に身を隠し、僅かな死角から通路の奥を見澄ました。
それから程なく、視認した敵の映像がデバイスを介して仲間たちに表示される。
「これは……ダモクレスですか?」
「それに、顔に浮かぶこの文字……『ケ』と『オ』?」
メタリックなボディ。そして顔面には、カタカナに似た記号。およそエインヘリアルらしからぬ外見に首を傾げる那岐と十六夜の横で、ふいに広喜が口を開いた。
「……ああ。どっちもダモクレスだ、間違いねえ」
そうして僅かな逡巡の後、広喜は言葉を続けた。
うまくいけば、無駄な戦闘は避けられるかも知れないと。
「勇名、探索中の皆がいない場所は分かるか? 出来るだけ遠くがいい」
「ん? んぅ。それなら、あっちー」
勇名が指し示す方向に視線を向けて、広喜は身体の通信機器に手を伸ばした。
「ヲ型より緊急連絡。現在、宮殿西エリア外郭にてケルベロスと思しき勢力と交戦中。敵は多数、至急援軍を送られたし――」
暫しの後、10の敵影は何かに導かれるように、西の方角へ遠ざかっていく。
程無くして足音が聞こえなくなると、広喜は仲間たちを振り返った。
「さ、急ごうぜ。さすがに二度は通じねえだろうからな」
広喜はメモリのデータを発掘すると、それを仲間たちに伝える。
あのダモクレスたちが『ケ型』と『オ型』という識別名であり、彼らと広喜は同じ量産型ダモクレス部隊に所属していたということを。
「へへっ、なんだよ……俺、あいつらと戦うのかよ……」
程なくして目的地と思しき部屋の扉に辿り着くと、広喜は悲痛な声で笑った。
懐かしさ。寂しさ。そして動揺。抑えきれない感情が、奔流のように心を乱す。
「俺……俺は……」
自分はこれから、かつての同胞と戦うのだ。その事実が、錘のように重い。
消え入りそうな声で、きしむような笑顔を浮かべる広喜。
そんな彼の肩に、優しく手を載せる者がいた。眸であった。
(「大丈夫ダ広喜。……ずっと、側にいルから」)
(「……ああ。ありがとよ、眸」)
デバイスを介して語り掛ける眸の言葉。
それに勇気を貰ったように、広喜は氷が解けるような笑顔で拳を握りしめる。
――そうだったな。ここが、眸の隣が、俺の居場所だ。
そして――。
鋼の拳が、扉を勢いよく叩き破った。
●四
辿り着いた部屋は、殺風景な広間だった。
鋼でできたスケートリンクのような、非常に広い空間。天井には巨大モニタが設置され、判読不能の文字列が絶え間なく流れ続けている。
『通信エリアに侵入者。イ型、応戦中』
『機密保管エリアが攻撃を受けています。シ型による排除を――』
アナウンスが流れる広間中央には、ケ型とオ型を従えたエインヘリアルが1体。
第三王子モーゼス――機械鎧に身を包んだ、巨躯の戦士である。
広喜はそこへ一歩進み出ると、真っ青に燃える炎の拳を向けて笑った。
「よぉ。『モセス型』」
『ふむ。わが強化装甲のタイプ名「モセス式」を知っているとは……ただの鼠ではないな』
モーゼスはケ型とオ型の2体を盾役に送り、自身は狙いに優れる後衛で鋼剣を構える。
広喜を、そしてケルベロスたちを敵と認めたのだろう。
『よかろう。テストには丁度良い相手だ』
「行くよ。必ずみんなで帰るんだから!」
デバイスのビームを接続するイズナ。剣を構えて飛ぶモーゼス。
静寂の広間が、一瞬で戦場へと様変わりする。
モーゼスがイズナの眼前に肉薄し、鋼剣を一閃。それを庇ったジェミは勇名の属性盾に守られながら、追撃の負傷を気力溜めで塞ぐ。
「あの王子、強いです。8人では手に余るかもしれません」
それは言外に、この戦いにおけるケルベロス側の不利を示すもの。
ならば、今すべきことはふたつ。他班が宮殿を破壊する時間を稼ぎ、そしてあの王子から情報を引き出さねば。
「ダモクレスの技術に詳しいみたいですね。彼らと仲良しなんですか?」
『成程。その問いを投げるか』
ケルベロスの猛攻を剣で捌きながら、モーゼスはジェミに言葉を返す。
『もう察しはついていよう。宮殿の電波が、ダモクレスへの救難信号であることはな』
「くふ、勿論ですよーぅ」
気咬弾を練りながら、ツグミが笑った。
「ダモクレスの技術、ダモクレスの配下、ダモクレスと所縁ある土地……答えとしては十分予想できる範囲ですぅ」
「ではワタシは、少し話題を変えよウ」
気咬弾を身代わりに浴びて吹き飛ぶオ型。
眸はその一瞬を狙い、ホログラムのハッキングでモーゼスを捉える。
「アスガルド・ウォーでは何をしていタ? 後ろで震えていタのか?」
『待っていたのだ。ダモクレスを』
鎌をかける眸の問いに、モーゼスは返す。
『本来ならば地上に侵攻した時、彼らも援軍に現れる筈だった。ヴァルハラ大空洞から発信していた電波によってな。そして私はダモクレスと同盟を組んだ後――』
「王座を奪う気だった……ということですか」
マインドシールドでジェミを癒しながら、那岐が続けた。
王子はそれを肯定するように、麻痺のミサイルを後衛に浴びせながら笑う。
『察しが良い。英雄王や第二王子、彼らを葬る好機など滅多にないからな。本来なら、その後にケルベロスと死神も滅ぼす手筈だったが』
「同盟を組むって、ダモクレスの誰と?」
惨殺ナイフ『フロッティ』に螺旋の力を込めながら、イズナが舌鋒で切り込んだ。
「王子様だし、やっぱり偉いひと? でもそれなら、手ぶらで迎えてなんか貰えないよね。大方、宮殿の設備でも手土産にする気なんじゃない? 巨人の生成装置とか」
『ふふ。私が同盟を求めるのは、超神機ただ一人だ』
氷の螺旋で凍てつくのも構わず、モーゼスは答える。
超神機アダム・カドモン――ダモクレスを束ねる十二創神の名前を。
『生成装置は、彼らダモクレスにとって価値あるもの。取引材料としては申し分ない。とはいえ、どうやらそれも過去形になりそうだが』
広間のアナウンスが宮殿の状況を流し始めたのは、まさにその時だった。
『連結エリアが攻撃を受けています。東宮殿、接続を維持できません』
『イ型の反応がロストしました。通信途絶』
『ユミルの死骸、消失を確認』
『ここまでか。万端とは言い難いが、多少の損失はやむを得ぬ』
「待て、それはどういう……!?」
オーラの弾丸でモーゼスに応戦していた十六夜は、ふと妙な感覚に気づいた。
神殿が、揺れている。
破壊の振動だけではない。重力に逆らう強烈な力の奔流だ。
「まさか……宮殿が浮上し始めている!?」
『そういうことだ。片割れになろうとも、この宮殿をケルベロスには渡せないのでね』
恥を忍んででも、撤退を選んだということか。
そうしてモーゼスが剣を掲げ、最後の命令を終えた直後であった。
『双児宮よ、飛べ。マキナクロスへ――』
「よう王子。こいつは礼だ」
青く燃える鋼の拳が、鋼の兜にめり込んだ。
刳リ詠――傷口を焼く炎でモーゼスを焼きながら、広喜は迷いなき笑顔を送る。
「俺は尾方広喜。次は絶対ブッ壊す」
『……よかろう、覚えておいてやる』
ケ型とオ型に守られながら、広喜を睨み据えるモーゼス。
今日の戦いは、ここまでだ。
イズナは靴型デバイスが動くことを確認すると、すぐに仲間たちへ思念を飛ばす。
「脱出するよ。急いで!」
加速、そして疾駆。デバイスの機動は何者にも遮られることなく、宮殿の外へ8人を送り届けるのだった。
●四
宇宙へと遠ざかっていく西宮殿を、那岐は地上から見上げていた。
「何とか帰還できましたね。お疲れ様です」
巨人の生成装置と通信設備は破壊完了。東宮殿は地上に落ちた。
完全勝利にこそ届かなかったが、十分に成功と言える成果である。
「王子は逃げてしまいましたねーぇ。まだ色々、聞きたかったですぅ」
「本当ですね。それにしても、アダム・カドモンですか……」
くふりと微笑むツグミの隣、ジェミはモーゼスの言葉を反芻していた。宇宙へと去る時に彼が残した「マキナクロスへ」の一言を。
「ダモクレスの本拠地が、地球に迫っているのでしょうか」
「うん。そうなったら、やっぱり空が戦場になるのかな」
イズナは光の翼を広げて、ふわりと宙を舞う。
青く美しい地球の空。願わくば、この眺めが戦いで汚されなければ良いが。
「任務完了ダ。さあ広喜、皆が待っていル」
「ああ。戻ろうぜっ!」
眸が差し伸べる手を、握り返す広喜。
ノイズに強張る笑顔は、もうそこにはない。
双児宮の戦いを終えたケルベロスたちは、こうして帰還の途に就くのだった。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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