ナオミの誕生日~ちょっと変わったパソコンショップ

作者:ほむらもやし

●毎日つかうのに
 快適に使えていたパソコンが時間とともに、動作がもっさりとしてくることがある。
 必要だと言われる、アップデートやセキュリティの強化を繰り返すごとに。
 不可解である。
 パソコンに不満が出てくると、新しいパソコンを見たくなる。
 正直、パソコンショップは見るだけでも楽しい。
 ハイパフォーマンスか省電力か。シンプルか豪華盛りか。
 バッテリーを搭載したノートやタブレットタイプから、キューブやタワー型の据え置きタイプ。
 使うシーンに応じて、本当に様々な形のパソコンがある。
 20時間もバッテリー駆動ができるノートパソコン。
 180度回転するヒンジでディスプレイを回転させてノートにもタブレットにもできる個性的なパソコン。
 透明ケースの中で色とりどりのLEDが輝く超派手なパソコン。
 CPUもメモリもストレージも最速を目指す……。
 パーツを見て、どんな構成がいいか妄想するだけで、どきどきする。
 使わないものまで、つい買いそうになってしまう。
 ただ見ているだけでも、時間があっという間に過ぎて行く。
●快適なパソコンがほしい
「ああああ、なんでこんなにもっさりしているの!」
 小型ストレージをノートパソコンに接続してしばらく。
 ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)が叫び声をあげた。
「もう辛抱なりません。ちょうど良い機会ですし、パソコンを新しくしましょう!」
 クリスマスセールの時期、今年一年の自分にご褒美をあげても良いかもしれない。

「というわけで、オリジナルのパソコンを作りに行きませんか?」
 向かうのは、明輪電機というパソコンショップ。広告には『きみのかんがえた最強のパソコンがつくれる』というキャッチコピーが踊る。
「ノートやタブレット型のパソコンも作れるのは珍しいと思いませんか?」
 他にも、多少特殊な筐体でも、ロジックボードを様々な形状で制作したり、既製品を削ったり……いろいろな技術を持っているらしい。
「私は持ち歩きやすくて電池が長持ちするノートパソコンが欲しいですわね。昔撮った写真がどんどん増えちゃって、目当ての写真をサッと探せると助かりますわ」
 年を取れば取るほど撮影画像も増える。
 年齢と必要なストレージ容量は比例するのかも知れない。
「まずケースを選んで、物理的に収納可能なパーツを集めて、組み立てるだけ、多分簡単でしょう?」
 大きいケースは設置場所が限られるが、どんなパーツでも選ぶことができる。
 持ち運びできるノートやタブレット型は収納スペースが少ないため、選べるパーツが限定される。
 あと気をつけるのはパーツ同士の干渉や冷却らしい。
「ギリギリの性能を狙うと。その時は上手く行っても、あとから想定外の不具合が起こるらしいですわ」
 余裕というパーツを忘れずに。ということらしい。
 はじめて自分でつくるパソコンはどんなものになるのだろうか?
 今年1年の自分にごくろうさまを。
 来年に向けて快適に仕事ができる、自分にぴったりのパソコンを作ろう。
 2020年12月25日、34歳の誕生日を迎えるナオミは、ハイティーンの少女のように笑った。


■リプレイ

●パソコンはあなた専用の特別な道具
「パソコンを組み立てる? というお話を聞いて、来ちゃいました」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)と共に店を訪れた、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)の姿を認めると、声をかけた。
「いらっしゃい。……そうね、でも、好きなパソコンつくるって意外に大変みたい」
「そうなんですか?」
 周りを見渡してみる。
「しーぴーゆー? メモリー? エスエスディー? うぅん?」
 棚やガラスケースには、色々な形状の部品が並べられており、見た目だけで、どのような機能を持っているのかは、ハッキリ言って、わからないものが多い。
 でも目に留まる物があった。
「ケース? これは分かります。うーん、四角いこの箱のことです?」
「リリもぱそこん屋さん、見学させてもらうね」
 リリエッタがジーッと見ている。
 普通のパソコンと似た形をしている箱、側面が透明になっている箱や、イルミネーションのようにぴかぴか光っている物、フレームだけで中身が丸出しの物、汽車にヨット……これはテレビウムかな? 果てには恐竜の骨格模型のような物まである。
「これもケース、でしょうか?」
「じー……」
 リリエッタがすごく見ている。その視線の強さは穴があいてしまいそうなほど。
「ぱそこん、リリが触ると何もしてないのに壊れちゃうから見てるだけにするよ」
 誘われて見に来たから、もとより自分で作るつもりはあんまりなかったけれど、デモで動いているゲーミングパソコンのイルミネーションが、ゲームのシーンが激しくなるのに連動しているように、明るさを増したり色が変わったりするのが気になった。
「これ、今年の東京タワーと似ているね」
 東京タワーのライトアップは、夏と冬で変わるランドマークライトと17段に配置され12色に変化するインフィニティ・ダイヤモンドヴェール、そして純白の輝きで知られる。
「たしかにそのように見えますね。風車もだいぶ早く回っているようです」
「風車ってなにか意味があるのかな?」
「パソコンは暑がりだから、冷やしてあげないと仕事をしてくれないそうですわ」
 ミリムとリリエッタが、どうしてだろうと、首を傾げたタイミングでナオミが口を挟む。大きな風車はゆっくり回転し、小さな風車は速く回転している。どちらも外に向かって空気を吹き出すようになっている。
「熱くなりすぎたらダメということですね――ところで、ナオミさんのパソコンはどんな形になるのでしょうか?参考にしてみても良いですか?」
「いいですわよ。でも参考になるほどのものじゃないかも。私の……」
 ナオミの場合は持ち歩きがしやすくてキーボードが打ちやすいもの。それができるので選んだら昔の業務用端末を小さくしたような本体になった。
「これって、古いパソコンの中身を入れ替えたような感じですよね」
「はい、こんなのが手に馴染むような気がしますし……」
 パソコンでできること自体は20年前も今も大きく変化はしていない。
 ただしデータの容量は莫大になり、それをやり取りできるように速度も大幅に速くなった。機能もやたら細かく直感的な操作ができるようになった。
「なるほど。人それぞれということですね。――で、これが話題の七色に光るゲーミングでしょうか?!」
 ナオミのパソコンがあまり参考にならないと分かったので、ミリムは店のなかで一番目立っているゲーミングパソコンを作ってみることにした。
 そこに店員さんが現れる。その視線は獲物を見る猛禽が如し。
「わかりました。つまり、予算に応じて松竹梅のコースがあるのですね」
「そのようですね。安いモデルでもゲームはできるけれど、高いのに比べて動作が緩慢だったり、画面が粗くなったりするわけですね」
 なんとなくイメージはできたが、リストにはパーツの型番がずらり。
 しかし末尾についたアルファベット一文字の違いで性能に違いがある、くせ者だった。
「SLとSXの違いって?」
「SLが省電力で、SXが演算プロセッサを簡略化した廉価版らしいわね」
 ひとつひとつの仕様を検索しながら調べるのも、パソコンに詳しくなった気がしてきて楽しい。
「じゃあDX2は?」
「クロックが2倍にパワーアップしているそうですわ」
 20年前ならPHSを使ってゆっくりネット接続したが、今ならスマートフォン1台で同じことができて、しかも検索できる情報量も桁違いに多い。
「こっちのDLC3は?」
「えっと、内部クロックの3倍速で……」
 こんな感じで検索を続けること暫し。
「……性能が良いと値段も高くなるけれど、2倍の値段だから2倍多いとか速いとは限らないのですね」
「そのとおりですわね」
「そうと分かれば、とりあえずマザーボードとか言う、いかにも大事そうな名前と電源から……」
 さて、マザーボードを選ぶと、ケースと、CPUとメモリーが限られてくることもある。が、そのあたりは規格が合う物を選べばなんとかなるため、細かくは触れないことにして、ミリムは予算に見合ったパーツを、リリエッタやナオミと共に一通り集めてみる。
「これが、これからミリムのぱそこんになるんだね」
 マザーボードにケース、電源ユニット、SSDにメモリー、グラフィックボード……などなど、たくさんのパーツとミリムの顔を交互に見ながら、リリエッタが訊ねた。
「東京タワーみたいなパソコンになりそうです」
「ナオミのはちっちゃいパソコンなんだね」
「はい。でもこんどは、尖ったパソコンにもチャレンジしてみたいですわね」
 変わらないことも大事だけど、新しい可能性に挑戦してみることも必要かもしれないと、ナオミはひそかに思う。LEDだって単色にしかなかったのに、今では多色発光できるようになった。ミリムやリリエッタが首を傾げながらもパーツのひとつひとつに興味を持ち、はじめてのパソコン作りに挑んでいる様を見ていると、気持ちが若返って来る気がする。
「年と言えば……、ナオミ、お誕生日おめでとうだよ」
「ありがとうございます。よろしくおねがいしますわね」
 誕生日はいくつになっても嬉しいもの。でも数字が大きくなってくると、なんとなく照れくさい。

「良いパソコンが作れそうでしょうか?」
 そんなタイミングで、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が声を掛けてくる。
「はい。ストレージがとても高性能になっているので、溜め込んだ写真を探すのが、とても速くなりそうです」
 できあがりが楽しみです、と言うナオミに、バジルはにっこりと笑んで目を細め。
「今日はお誕生日おめでとうございますね。自分へのご褒美のパソコン、良い事だと思いますよ」
「ありがとうございます。バジルさんも、新調されるのですか?」
「はい。とりあえず、読み込みや動作が早いパソコンが良いですね」
 同じようにSDDと書かれていても速度や耐久性に差がある。
 機械は苦手と言いながらも、バジルは一番大事にしたいところを重視した構成を思案する。
「すると、そのSDDがいい感じに対応しているチップセットを搭載したマザーボードが必要なわけですね」
「速さは相当なものですが、発熱が大きいという問題もあるようです」
「私は筐体が小さいので発熱の小さなものを選ばざるを得ませんでしたが、バジルさんは多少本体が大きくなっても気にされないのですよね」
「確かに、持ち運びをする機会はそんなに無いと思いますので、コンパクトなサイズじゃなくても良いのですよ」
 作りたいパソコンの輪郭が定まってくる。
 予算はケルベロスカードを使えば相当の無茶もできそうだけど、できる限り思い描いている予算内に収めたい。
「SDDって意外に高価ですよね」
「容量が大きくなると確かにそうですよね」
 高速のSDDは発熱が大きくなりがちだ。価格の安さで少ない容量を選べば別の物で、いずれ足りなくなると予想される容量を補わなければならない。するとケースの内部が手狭になり、配線も多くなる。
「やっぱり一番大事な所ですから、最初に決めたとおりにします」
「いいですわね。やっちゃいましょう」
 大事なところの構成とスペックが決まったところで、バジルは組立を依頼する。
「良いパソコンが出来ます様に」
「キリッとしたジンジャーエールみたいなパソコンになりそうです」
 祈るように呟くバジルに、ショップの店主は不思議な形容で応じる。
「……のどごしが、爽やかそうですね」
 パソコンの動作がスッキリキリッとする。そんなイメージがバジルの頭のなかに浮かんだ。

 一方、ミリムの組立作業はプラモデルか玩具の組立ブロックで遊んでいるような感覚でサクサクと進んだ。
「ネジ位置や差込み口の形状が決まっているから、間違いにくいのですね」
「逆にしたら、挿さらないようになっているんだね」
 見学と称して作業をのぞき込んでいた、リリエッタが感心した風な顔をする。
 正直、説明書だけだと迷うところもあるが、近くに慣れた人がいると、そういった心配もない。
 梱包材の処分に困ることも、ケーブルやネジの置き場にも困らない快適な作業。
「こんな感じですか。初めてにしてはよくできたと思います」
「すごいすごい。動かしてみてよ。画面はここにある……ふるえっちでぃーの液晶? これで良いのかな?」
「はい。大丈夫みたいです」
 最小構成での通電は最初に確認しているが、組み上げてパソコンらしい形で電源を入れるのは初めてだ。
 ディスプレイをつなぐと「NO SIGNAL」の文字が表示される。
「……それでは入れますね」
 チェック用のプログラムの入ったUSBメモリーを差込んでから、電源ボタンを押すと、青と白のLED点灯し、同時に冷却ファンが一斉に回り出す。
「なかなか画面が表示されませんね……あ、出ました」
 基本ソフトはまだ入っていないため、黒バックの画面に文字と棒グラフのようなものが表示されるばかり。
「チェックが終わるまで時間が掛かるみたいですから、お店の中を回ってみましょう」
「はーい」
 お店には様々な商品が空間を埋め尽くすように展示さている。
「この板チョコみたいなキーボード面白いですね」
「なんだか変わったぷにぷにしたのもあるね」
 思わず欲しくなりそうだけど、作ったパソコンに似合うかどうかは別の話。
「ほんとに鼠っぽい可愛いマウスも!」
 リリエッタと共に触ってみるミリム。手触りはもふもふ、ワイヤレスだけどコードのような尻尾が出ている不思議なデザイン。
「面白いアイテムが多いですわね」
 小さいマウスを探していたナオミが声を掛けてくる。
「これ、ボタンをクリックするとチューチューって、音がしますよ」
「本当、これも面白いですわ」
 ちなみに、このマウス、白、黒、灰、茶の4色のバリエーションがある。4個揃えてみたくなる仕様である。
 マウスの他にもお店が企画して、開発した面白い商品が多い。
 ゾウの形をしたキーホルダーと思ったら、LANケーブルだったり、しめ縄みたいと思ったらLANケーブルだったり、腕の長いこけしに見えるLANケーブルだったり……。
「LANケーブルがたくさん余っていたのかもしれませんね」
 見て回っていた、バジルが世の中の暗部を見てしまったかのような表情をした。
「あっちに、テレビウムみたいなケースもあったんだよ」
「はい、確かにありましたね」
 仲よさそうに頷き合うミリムとリリエッタ。
 そんな2人の様子に、不思議と嬉しい気分になるナオミ。するとバジルが言った。
「今日はありがとうございますね。新しいことをやってみるのも楽しいです」
 パーツを見て回りつつ、仕様をきめて組立製作は依頼した。どんな使い心地かはまだ分からないけれど、良さそうなパーツを選んだから、きっと動作の速いパソコンになっているだろう。
 パソコンのパーツや性能を表す用語には聞き慣れない言葉が多かったが、だいたいの意味は分かるようになった。強い風が建物の壁に当たる音が聞こえる。外ではもう日はもう暮れていた。
「今夜から、かなり冷え込むそうです」
 そんなタイミングで、パソコンの動作チェックが正常に終わったことが告げられる。
 凍てつく寒さの冬。
 ソフトのイントールとか、帰ってからやることは、まだまだありそうだけど、今日は楽しい夜になりそうだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月6日
難度:易しい
参加:3人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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