飛ばない燃えないフライヤー

作者:baron

『グラビティを収集を開始します』
 森の影から奇妙な声が聞こえてきた。
 そこは郊外にある山中で、峠道を越える最中に一望することができる。
 しかし外見上の美しさとは別に、森の中はひどいものだ。
 何しろ峠道からゴミを投げ捨てても気が付かない者も多いので、心無い者がゴミを投げ捨てるのだという。
『……検索終了。収集活動に移行します』
 森から出てきたナニカは、峠道に飛び出すとゴロゴロ転がりながら麓へ。
 そこからは町中を目指して、より正確には犠牲者を求めて移動を開始した。
 まるで樽のような形状をした廃棄家電が、ダモクレス化してしまったのである。


「ある県にある山中に不法投棄されていた家電製品の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生するようです」
 セリカ・リュミエールが地図とカタログを手に説明を始めた。
 まずテーブルの上に置かれた地図を見ると、言葉通り山に面した道であるようだ。
「場所が場所だけにまだ被害は出ていませんが、放置すれば大変なことになってしまうでしょう。その前に現場に向かい対処をお願いします」
 セリカはそういうと今度はカタログを開き、形状や能力を説明し始めた。
「今回の敵は電気フライヤーを元にしています。火を使わずに調理ができるという家電なのですが、初期の品であり後に色々と不具合となる欠点が存在するタイプですね」
 それでも最初のころは便利に使われていたようだが、不便なだけに壊れると捨てられてしまったのだろう。
 特に掃除や使い回しの具合など、沢山の人が使用し把握しなければ、不便なのだと判らなかった欠点もある。
「攻撃方法は残留した油を熱して飛ばしてきたり、体当たりなどになります。また取り込んだ物を弾丸として飛ばしたりもするようですね」
「その辺はよくあるダモクレスと同じだね」
「まあ廃棄家電を取り込んでるだけだしな」
 よく見かける技が多く、研究されている事も多い。
 よほど新人ばかりでなければ苦戦はしないだろうという予測だ。
 もちろん逃げられたら一般人では相手できないので、大変なことになってしまう。
 ケルベロスが成長した今日では、こちらの方が問題かもしれない。
「罪もない人々を虐殺させるわけにはいきません。みなさん、よろしくお願いしますね」
 そういってセリカは軽く頭を下げると出発の準備に向かった。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
ジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)
柄倉・清春(暴走機関車清香ちゃん・e85251)

■リプレイ


 幸いなことに山に掛かる峠道には雪は積もって居なかった。
 陽は当たっているのと森が風を遮断しているためか、むしろ暖かいとすら思う。
「うーん……だいぶ残念な感じだけど放ってもおけないよね」
 そんな中でメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は苦笑を浮かべた。
 森から峠道へ奇妙なダモクレスが現れたからだ。
 道がカーブになった場所に隠れて様子を伺っているが、樽が転がって来るようにしか見えない。
『グラビティを収集します』
「標的を捕捉。念のため結界を張り次第に状況開始、各自全力を尽くそう」
 ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)は殺意の結界を張った。
 グラビティの解放と共に髪が白く変わり始め、張り切った所で出撃を促す。
 何しろ敵がグラビティを追い求める意欲は生半可ではない、隠密が得意な者ばかりではないし、その内に見つかるだろう。
「電気フライヤーですか、最近は便利な家電も増えてきましたね」
「あったら便利そうな家電だね」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)とカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は油断なく道を回り込み始めた。
 まずは左右に展開して、ダモクレスを町に行かせない様に封鎖する為だ。
「最近では色々な家電が出ているのですね」
「まぁ、このダモクレスは使い勝手が悪くて破棄されたみたいだけどね」
 アクア・スフィア(ヴァルキュリアのガジェッティア・e49743)が反対側から包囲しながら相槌を撃つと、中間に居るカシスは森の方にチラリと視線を向けた。
 そこは山からコッソリ捨て易いので、まだまだゴミが捨てられているはずだ。
「便利なものがある一方で、このような欠陥品も出ているのは残念です」
「僕も悲しい事態だと思います。早く終わらせてしまいましょうか」
 故障ゆえに欠陥品でも不良品でもないが、アクアやバジルが口にしているのはそういう意味ではない。
 ダモクレス化して本来の用途とは捻じ曲げられてしまったという悲劇だ。
 人々へ被害を出さぬためだけではなく、この悲劇を止める為にもケルベロスは戦うのかもしれない。
「火を使わずに、調理できるのは、安全で嬉しいですけど……。ダモクレスになってしまったら放置はできませんよね……」
「そうだ。君が悪いわけではないが、人に害をなそうというなら討たねばならん」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)がため息吐きながら前線で敵を遮る壁となると、ハルは周囲を見渡して戦いの到来を告げた。
 もはや様子を見る必要はない、皆は思いを秘めてそれぞれに動き出したのである。

 そして動き出したのは敵も同様だ。
 ゴロゴロと転がって峠道を下っていたが、一気に加速したのである。
『敵対反応を発見。排除します』
「飛べないフライヤーは……えーっと、なんていうのかしらね。とにかく、罪もな人々を殺させないわよ!」
 そこへジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)が飛び出して、突進してくる大樽……じゃなくてダモクレスを受け止めた!
 逞しい腹筋で受け止めると、圧し掛かって押し潰そうとするのをブリッチで跳ね返そうとする!
「間抜けなフォルムだが……加速度がつきゃじゅーぶん凶器じゃねぇか。まぁ、当たってはやらねーけどな」
 柄倉・清春(暴走機関車清香ちゃん・e85251)はそろりそろりと軸線をずらし、万が一にも当たらないようにしてから走り出した。
「その動きを封じさせてもらう。皆はその隙に攻撃を」
「はいよっと。ただ正面からってのは性にあわねーんでな」
 隣で肩を並べていたハルが走り出すと、清春は面倒くさそうな顔を浮かべながらも付き合った。
 相手の視線から外れここで待機、ハルは軽いジャンプから山を蹴って三角蹴りを放つ!
 そして動きを止めた清春はというと、更に大回りして他の仲間の後を行く!
「動きを止める……ですか。束縛する薔薇の蔦よ、敵を縛り上げなさい!」
 バジルが薔薇を掲げると蔦が伸びてダモクレスを覆い始める。
 そこへ仲間たちが力を合わせて襲い掛かった。
「もう少し早かったら面白かったのかな? さぁ、この一撃を避けきれるかな?」
「そろそろ良い塩梅かねえ? 威力はともかくあんま動き止めてねえし、フォローからか」
 カシスは軽く翼をはためかせて滑空して飛び蹴りを放った。
 そろそろと再移動を始めた清春は、タイミングを変えてやはり飛び蹴りをダモクレスに食らわせる。
「さぁ。わたしも行くわよ電気フライヤー! ぼっこぼこにしてあげる!」
 ジェミは拳を解くと指先を揃え、切れ味の良い掌底を繰り出した!
 傍目からは掌で殴っただけに見えるが、回転と螺旋の動きを加えることで装甲すら引き裂くのだ!!
「その身体に、フルスイングを受けてみなさい!」
 そこまでやってようやく相手が避けるのを諦めた所でアクアが思いっきりぶっ叩く!
「最初は防壁からですかね」
「ならキュアはこの子が。……さぁ、行きますよ夢幻。サポートは……任せました!」
 メリルディが懐から短剣を引き抜くと光が零れ始め、仲間たちの周囲に光の壁を創り上げていく。
 その力は仲間たちを守り、綾奈は翼猫の夢幻に仲間の援護を任せ自身は攻撃に回るのであった。
「その硬い身体……かち割ってあげます!」
 綾奈が斧槍を掲げると、雷の力が周囲に振り撒かれる。
 そして翼を広げて滑空すると、急降下を掛けて斧槍を振り下ろしたのである!

 これにはさしものダモクレスもたまらないか?
 いいやブルブルと震えて、中に蓄えられた油を噴出して来たのだ!
「きゃっ!? ……さいあく、です」
 綾奈は仲間を庇う必要が無かったので助かったと思うべきか、油塗れになって気持ち悪いと思うべきか悩んだ。
 言葉には出ないものの少し開け悩み、とりあえずの怒りを叩きつけて報復する異にした。
「おいテメェ、ゴラァ。恋人がいんのにどーしても目がいっちまうだろーが!! ありがとうございますだっ」
「……?」
 清春は思わず怒りと共に褒め称えた。
 何と言うか綾奈の服が濡れてヌルヌルな状態に男の悲しい性に逆ギレを起こしたのだ。
 しかし危なかった。綾奈は清楚で無口なタイプだ(しかも天然で判ってない)。
 これがもう一人の豊満で赤毛の子だったらドストライク過ぎて危険だったかもしれない!
「オレの尊厳が奈落の底にマッハゴーしねえ内に片付けさせてもらおうか!」
「いちいち反応しなきゃいいだろう。……もっとも速攻というには賛成だがな」
 清春が行動する前にハルが先に動き出した。
 亜空間より呼び出された刀をハルが掴み取り、派手に切り裂いていく!
「追撃いっくわよー」
 ジェミは槍を回転させると腰だめに構えて突撃を掛けた。
 彼女はプロレス技を基調とするが、別に武器が使えないわけではないのだ。
 タックルじみた突進に加えて、槍の威力を底上げした。
「水よ、私の手に集い、その大いなる力を爆発させなさい」
 アクアはその手に膨大な水の魔力を集中させた。
 あまりの量に解き放つだけで大爆発を起こしたのだ。
 だがそれだけでこの技は終わらない。何とか魔力の方向を制御することでハイドロカッターの様に水の勢いで全てを切り裂くほどである。
「水があれば炎もあるべきだよね。このまま、オーバーヒートしてしまうと良いよ」
 カシスは逆に摩擦熱で炎を起こすほどの蹴りを放った。
 駆けよってサッカーボールの様に蹴りつけて、動けないところを蹴り飛ばす!
「遠隔……爆破です、吹き飛んでしまいなさい!」
 バジルはグラビティを集め、腕を一振り青きオーラを解き放って周辺を爆破した。
 ダモクレスの樽の如き体を包み、特定方向に吹っ飛ばして動きを止める算段だ。
「待った甲斐があったってもんだ。こいつを傷口にぶち込んで引っ掻きまわす……ククク、想像しただけで涎もんだなぁ。よく鳴けよ?」
 清春は刃を傷痕に突き立てると、まずは動力を止めたままグリグリと弄り倒していく。
 それに慣れた頃を見計らって、チェンソー剣の動力をスイッチオン!
 ガリガリと内側から削り始めたのである。
「鋼の如きこの一撃を受けなさい」
 綾奈は天使の翼の様に展開させていた流体金属を一か所に固めて、まるで巨大な腕の様に動かした。
 圧力を掛けられた流体金属は恐るべき勢いで襲い掛かったのである。
「ん~。もうちょっと余裕があるかな?」
「まだ単体攻撃だけだし、ジャマーみたいだから思ったより威力ないものね。でもそれだけに負荷が掛かったら気を付けないと」
 メリルディが迷っているとアクアが相談に乗ってくれる。
 まあ今はまだ余裕があるというか、盾役が二人居て別々に受けたから言える事だ。
 カバーは確実に防げるわけでも、確実に成功するわけでもない。悩ましいが今だけの幸運とも言えるだろう。
「やっぱり今の内にしておくわ。捕まえさせてもらうね」
 メリルディは御業を用いてダモクレスを束縛する。
 そのイメージには植物を想起し、蔦が絡みつき葉が覆いつくす様に力を振るっていく。

 こうしてケルベロス達の攻勢は続くが、だが戦いもまた序盤だ。
 状況が進むまでに数分の時間を要したのである。
「それは見せてもらったわ!こんな……ものぉっ!! 師匠譲りのこの体に、通じるもんですかっ」
 ジェミは鍛え上げた腹筋の力で飛んでくる瓦礫を跳ね返した!
 最初は押し切られていたが、何度か受ける内に馴れたのかもしれない。
 人間(レプリカントだけど)には無限の可能性があるのである。
「終局にはまだ遠いか。油断しないように。ここで逃げられた水の泡だ」
「……そうですね。気を付けましょう」
 ハルが浮遊する刀の包囲網を転移作り上げると、綾奈は自らは正面を抑えつつ翼猫の無限には回り込ませた。
 そして浮遊する刀の一本を掴み取り、再びハルは斬り込んでいく。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
 ここでカシスがその勢いに乗り、罪を浄化する為にエナジーで造られた剣を放つ。
 それは一本が突き刺さると、追いかけるように無数の刃が造られていく。
 ドスドスと次々に突き刺さる様は、威力よりも動きを縫い留める効果が強いかもしれない。
「囲んでいきますよ。ダモクレスは遠慮は不要です」
「トゲトゲのバールです、これは痛いですよー!」
 アクアとバジルはバールのようなナニカを掲げて、餅つきの様に交互に振り下ろした。
「イーヤッハー! 袋だフクロ! なんだったら金属バットでも良いくらだぜ」
 清春は斧を構えて打撃パーティに参加した。
 この場合のパーティは、チームという意味でもお祭りという意味でも同じである。
 ブン殴ってブン殴って、おまけにぶブン殴る!
「神速の突きを……見切れますか?」
 残念ながら綾奈はそのノリには付き合わず、打撃ではなく突きで対応した。
 斧槍を深く素早く突き刺し、切り裂きながら突き抜けたのである。
「もう倒した方が早いかもだけど……。この傷は忘れよう? 先に進めるよ」
 メリルディはその身に住まうケルスの力を借りた。
 癒しの力で仲間たちを覆い、突き刺さったアスファルトやガードレールあるいは鈍い痛みを取り払っていく。
 さっき受けた範囲攻撃が割りと負荷が強かったので、取り払って置こうと思ったのだ。

 そしてその判断は正解だったかもしれない。
 運悪く一人の乙女が酷い目にあったからである。
「きゃぁっ!? ちょっとー、よくも、やったわね!」
 なんとジェミが油まみれになったのである。
 彼女は躊躇なく遠慮なく羽織っていた上着を脱ぎ捨て、下に来ていた水着を晒した!
「み、水着……これはたまらん。つい目が行ってしまう、恋人たちの危機……でもないか。いや、悪い訳じゃないんだがよ。なんか違うぜ」
「悪かったわね」
 残念ながら清春はあまり興奮しなかった。
 水着に興味が無い訳でも男の方が良い訳でもない。
 単にジェミが堂々とし過ぎてロマンが無いからである。レスラーである彼女は水着が当たり前なので隠そうとはしないのだ。
「これで終わりにする……命を活かす祈りの剣! 白翼千華ッ!」
 ハルは浮遊させた刀を持ち換えながら、次々に切りつけた。
 ある時は刀であるときは剣で、そしてフィナーレは燕の翼の様な白刃を振るう!
「さよならだ」
 トドメを刺した後、ハルは短く祈りをささげた。
 叶う事ならば、生まれ変わった時は真っ当な機械にでもなれば良いと思いながら。
「ふう、終わりましたね。皆さんご無事でしょうか?」
「オレは問題ないぜ。あ……そこは油で滑りやすくなってるから気を付けてくれよな」
 アクアが皆に声をかけると、清春は颯爽と注意を促した。
 戦い終われば別の心配をするし、怪我をしているならば女性こそ先に癒されるべきだと思う。
「一気に治すわよ。その上でまだ痛い所があれば申告して欲しいかな?」
「その方が早いでしょうね。お手伝いしましょう」
 メリルディが治療を始めるとバジルがそれを手伝ってみなの傷を癒していく。
 他にも治療できる者はいるので、早々に怪我そのものは無くなった。
 後は打ち身など直ぐには直らない痛みをゆっくり治すだけだ。
「残るは足元の修復とかですね。さっさと終わらせて帰りましょうか」
「寒くなってきましたしね」
 バジルが砕けたアスファルトを直していくと、カシスは大きな破片を持ち上げて直しやすいようにしていく。
 そして変異してしまったものは砕き直して可能な限り元の形にしていった。
「こんなところですか」
「念のため……上から見て回りますね」
 周囲を確認するカシスの言葉に、綾奈がパタパタと空を飛んで空からチェックを始めた。
「終わったようだな? 手早く報告を済ませ串カツでも食べに行こうか」
「そういえば腹減っちまったな」
 チェックも終わった所で、ハルと清春は出がけに見かけた店にでも寄ろうと言いながら下山を始めた。
「わたしは甘い物がいいかな。お菓子とか食べたい」
「あら、良いですね。どこかの喫茶店でお茶でも行きましょうか」
 メリルディが飴を取り出しながら山を降りていくと、アクアはクスリと笑ってそれに続く。
 美味しいパフェでもあれば良いのだが。
「私達は洗濯。ううん適当な着替えを買ってお風呂ね」
「……そうですね。ベタつくの気持ち悪い」
 ジェミと綾奈は油をできるだけ落としながら、中古で良いからどこかに服屋が無いかなと家路を急ぐことにした。
 こうして戦いは終わりそれぞれの道に進むのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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