サボテンのテラリウム

作者:芦原クロ

 とある植物園に有る、ガラス張りのドームで出来た温室。
 真冬でも熱帯の雰囲気が味わえ、サボテンのコーナーは特に広い。
 丈夫で成長が早く、乾燥や寒さにも強いサボテンは、育てやすい上に種類も多く、どれも個性的な見た目で人気だ。
 この植物園では温室内に、販売所と制作スペースが有り、サボテンを使った自分だけのテラリウムが作れる。
 テラリウムとは、水槽やガラス瓶、アンティークグラスなどの透明な容器で、好みの植物を栽培するものだ。
 根腐れの防止剤や制作道具は揃っている為、好みで、石や砂、サボテンと相性の良いコケや植物を入れてゆくだけという、初心者でも簡単に作れる。
 容器の形、石や砂の色違いも豊富で、LEDライトや小さなフィギュアを入れたりなど、レイアウトの幅も広い。
 ピンセットを使い、石や動物のフィギュアをサボテンの横に入れ、自分だけの癒し系テラリウムを完成させた一般人が、一息吐いた矢先。
 悲鳴が湧き起こった。
 慌ててその場を離れ、悲鳴のする方向に目をやると――攻性植物と化し、巨大化したサボテンが、一般人を次々と襲っていた。
 逃げる者、戸惑う者、恐怖で動けなくなった者も、次々と捕えられ、殺されていった。

「レイナ・クレセントさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来ました。皆さんの力が必要です……急ぎ現場に向かい、攻性植物を倒してください」
「まだ予知の状態だから、一般人の避難もする必要が有りますね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の後に、レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)が続く。
 セリカは頷き、説明を始める。
「レイナさんの言っている通り、避難誘導が必要です。避難誘導する役目と、避難誘導が終わるまで、攻性植物を攻撃して注意を惹き付ける役目、この分担が出来れば大丈夫です」

 配下は居らず、攻性植物は1体のみ。
 幸いにもサボテンの展示スペースは広い為、戦場として最適だろう。
 戦闘中、少し気をつけていれば、他の植物が傷つくことも無い。

「放っておけば多くの死者が出てしまいます。どうか攻性植物の討伐を、お願いします」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
香月・渚(群青聖女・e35380)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)
佐竹・レイ(あたし参上・e85969)

■リプレイ


 現場に到着すると、サボテンは攻性植物になり、巨大化し始めていた。
 メンバーは担当した役割を果たそうと、迅速に動きだす。
 一般人に襲い掛かろうとする敵の行動に気付いて、割り込む形で一般人を庇ったのは、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)。
「ここは危なくなるから、誘導に従って避難して!」
 割り込みヴォイスで一般人に呼び掛ける、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)。
「私は、隣人力を駆使して、一般人を安心させておくね」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は必要に応じて、一般人に好印象を与えながら、避難誘導を開始。
 展示物を巻き込まないスペースや、出入り口、安全な場所などを事前に調べて把握していた、キリクライシャ。
 その情報を頼りに、避難誘導を行なってゆく。
(「まさか私が危惧していた攻性植物が本当に現れるとは、驚きましたけど、被害を出さずに済むのは幸いですね」)
 安全に逃げられるルートを確保して、一般人を誘導しつつ思案する、レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)。
 キリクライシャも、一般人を一人も残すまい、と。割り込みヴォイスを用いて、確実な避難誘導を続ける。
 続々と多数の人間が移動してゆく光景を、異形は見逃さない。
 避難する人々の方向へ、動き出そうとした瞬間、香月・渚(群青聖女・e35380)が立ちはだかった。
「ここから先は行かせないよ」
「そーよ! あなたの相手はあたしと、ここにいるみんなよ!」
 渚の言葉に続くように、佐竹・レイ(あたし参上・e85969)が強気な声を上げる。
「攻性植物サボテンの針は痛そー……」
 痛いことが嫌いな朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は、針がぶっすり刺さるのを想像してしまい、猫の尻尾が少しだけ膨らんだ。
 もしも刺さったら、尻尾は更にぶわっと膨らんで、涙目になること間違いなしだろう。
 顔をブンブンと横に振り、悪い考えは振り払って。
 敵の意識が、避難誘導中の方角へ向かないように、環は位置取りも入念に頭に入れている。
「さぁ――打ち砕くっ!」
 幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)が力強い拳撃を異形に打ち込み、敵の意識を自分達に移す。
 鳳琴の攻撃を受けた敵は、この場に居る者から先に始末する、とでも言うように。
 猛り狂った咆哮を、大きく響かせた。


「痛い思いをして、苦手意識が芽生える前に倒したいですー」
 他の植物等が傷つかないよう気を配っていた環は、敵の体の一部が、地面に接して融合し始めたことに素早く気付く。
 敵の攻撃が来るよりも前に、自分を含めた前衛陣を、聖なる光で包む。
 直後、侵食された大地が前衛陣を飲み込んだ。
「まだまだ、この程度では倒されません」
 拳法の構えから、輝く龍の形状をしたグラビティを放つ、鳳琴。
 一番負傷したレイを治癒し、「ですよね!」と目配せする様は、頼もしい。
「あたりまえよー! 幸さんありがとー♪」
 心を鼓舞され、立ち上がったレイ。
「ペトリファイドウッドって知ってる? 時間を閉じ込めたミステリアスな化石よ」
 植物の化石について、レイは唐突に話しだす。
 敵は言語を解していない様子だが、レイに注目した。
「あなたがしっかり生きた時間も残してあげる!」
 古代語の詠唱を終え、レイは石化効果の有る魔法の光線を放つ。
 他の植物を傷つけまいと、注意は怠らずに。
(「サボテンかぁ、ボクは変わった植物とか好きだから是非とも部屋に飾っておきたいな」)
 戦闘後の楽しみを考えるが、油断はせず、渚は真っすぐに敵を見据えて。
(「そのためにも、まずは目前の攻性植物を倒してしまおう!」)
 ドラちゃんと共に、味方の回復役を務める、渚。
(「避難してもらう必要はあるけど、寄生してない分、ちょっとだけ気は楽かな」)
 メリルディは一般人の気配が全く無いことに、ほんの少し息を吐いて。
(「でも、気を抜かないでしっかり倒さないとね」)
 精製した凍結の弾丸を、メリルディは狙いを定め、敵に撃ち込んだ。

 戦闘開始から、数分が経過。
 避難誘導を担った仲間が合流するまでは、と。
 治癒やサポートを怠らず、敵からの、高威力の攻撃に堪え忍んで。
 守りだけに偏ることは避け、攻撃して状態異常を付与し、敵が自己回復をすれば、即座にブレイク。
 敵が耐性を得ないように、確実にブレイクを決める。
 ほぼ、その繰り返しだった。
「焼きサボテンにしてあげるよー!」
 戻って来た氷花が、炎を纏った強烈な蹴りを叩き込むまでは。
「……護りを剥がして斬り分けるだけ」
 林檎を均等に六つに割るが如く、キリクライシャは敵の護りごと斬り分け、破壊する。バーミリオンは回復に専念。
 合流後、敵を囲むように布陣して。
「この弾丸で、その身を石化させてあげます!」
 レイナは、竜機兵器【T-REX】を拳銃形態に変形させ、魔導の石化弾を発射する。
 敵も足掻いて反撃し、燃えたぎる破壊の光線を放つ。
 光線が命中した鳳琴は吹き飛ぶも、宙でくるりと身軽に回転し、地面へ着地。
「一般人の避難誘導が終われば、心配なく拳を振るえます! はぁぁっ!」
 鳳琴の拳が音速を超え、敵を打ちのめす。
 敵がその巨躯を倒してしまえば、他の植物が巻き込まれてしまう。
「猛烈な雨にご注意ください、なんてね?」
 環が素早く回り込み、敵の頭上から、斬撃の嵐と高熱の蒸気を降らせる。
「くー、りーっ!!』
 麻痺毒を詰めた特製のイガグリを召喚し、敵の頭に落とす、メリルディ。
「……リオン、鳳琴さんの回復をお願いするわね」
 足止めが十分に付与されているのを確認し、キリクライシャは攻撃手段を切り替える。
 ヌンチャク型の如意棒で、敵に一撃を叩き込んだ。バーミリオンは言われた通り、鳳琴を回復。
 続いてドラちゃんも鳳琴を回復させ、完全な状態に戻す。
 これ以上、回復の必要は無いと判断する、渚。
「オウガ粒子よ、皆の感覚を覚醒させよ!」
 渚は、味方へと輝くオウガ粒子を放出し、支援に回る。
「人々を守るケルベロスは、……私たちは! 決して負けませんっ!」
 味方の心を奮い立たせるかのように、鳳琴は基本の構えを取りつつ声を張り上げた。
 鳳琴が地面を踏み込み、一気に敵との距離を縮めれば、電光石火の蹴りが炸裂。
(「サボテンのテラリウムを作るためにも、此処で攻性植物に負けるわけにはいかないよ」)
 氷花は意気込み、アイシクル・インパクトに凍気を纏わせ。
「雪さえも退く凍気を、食らえー!」
 杭を思いっきり突き刺し、敵を凍結させる、氷花。
「この炎に包まれてしまいなさい!」
「高威力のグラビティで畳みかけてやるわ!」
 レイナが炎の蹴撃を食らわせ、レイがほぼ同時に、彼の者はヘルギを展開。
 高威力の猛攻を受けた敵は霧散し、消滅した。


 メンバーが気を配っていたお陰で、植物は被害を免れていた。
 戦闘の痕跡は残さないよう、ヒールで修復し、一般人の避難も解除する。
 平穏な光景が戻り、一息吐くメンバー。
「きれいでかわいいサボテンを見たいですー。ということで、テラリウム作り! 行きましょう!」
 環が元気いっぱいに仲間たちを誘い、しげしげとサボテンを眺めていたレイが、不思議そうに振り向いた。
(「うわー渋っ、サボテンとかウケるー! こんなのにハマるのオッサンよねぇ……って、え? きれいでかわいい?」)
 疑問符を浮かべながらも、同じ旅団の友達が言うならばと、興味津々についてゆく、レイ。
(「サボテンのテラリウムかぁ、実際に作るのは初めてだけど、良い物が作れたら嬉しいな」)
 氷花は思案しつつ、仲間たちと共に制作スペースへ足を運ぶ。
「え、これサボテンなの!? 鬼カワイくない!? ヤバイんだけど! そーいえばサボテンの花もカワイイし……これはアリね!」
 先刻、思ったことを口に出さなくて良かったと思いながら、レイは可愛い系のサボテンを見てはしゃぐ。
 キリクライシャは先ず、容器の細かな選別から始めた。
 帰宅後にリボンを掛けられるようにと、丸くてくびれの有る、ボトルタイプの容器。
 白い化粧砂を丁寧に掛け終えると、白く、もふもふした見た目が特徴のサボテン、マミラリア属の白星を選んで。
 レイアウトに移れば、全体のバランスを見て、コケは直感で選ぶ、キリクライシャ。
 白兎のフィギュアを1つ、ピンセットでそっと置く。
 続いて、リンゴを数個、まるで兎がリンゴを食べているように見える配置にし、完成。
「……題するなら……」
 イメージ通りに作り上げたテラリウムを見て、呟く、キリクライシャ。
(「……ひとりじめ」)
 その後の言葉は口にはせず、思うだけにした。
「キリクライシャさんもう完成させたの!? ふぁぁ鬼カワイー!!」
 レイが瞳を輝かせ、自分も作ろうと意気込む。
「テラリウムだからサボテンのほかにもいくつか入れたいな。多肉植物とかエアプランツとか、そういうのね。LEDライトとかも、つけたら夜も楽しめそう」
「聞いているだけで楽しさが伝わります!」
 縦長の、三角錐ガラス容器内に、全体のバランスを見極めながら追加してゆく、メリルディ。
 レイアウトを楽しむメリルディの言葉に、環は尻尾をブンブン振って、喜んでいる。
 鳳琴はずらりと並ぶ、様々な種類のサボテンを、暫く眺めていた。
「出来たー、クリスマスにはぴったりだね♪」
 雪をイメージした白い砂と、ミニサボテンが1種類。
 雪の結晶や星などの飾りを入れて、スノードームのようなテラリウムを完成させた、氷花。
「小さな小瓶とサボテンを選んで、小型のテラリウムを作ります。涼し気な感じにしましょう」
 小瓶に収まるサイズのサボテンを使い、砂の色は青色を選んで。
 レイナがイメージした通り、色合いのバランスも良く、清涼的なテラリウムが完成。
「よし出来た。とてもいい感じだね!」
 渚は小さなサボテンと紫色の砂を入れ、幻想的なアレンジを加えて完成させ、満足げだ。
「難しそうよね、器用な人とか手伝いのスタッフさんがいたら一緒に作ってもらいたいなぁ……」
 小型の容器をようやく選び終えたレイが、やや困った様子で呟く。
「一緒に、テラリウム作りを楽しみましょうか」
「佐竹さんー、私も一緒に作りますよー!」
 鳳琴と環がその呟きを聞き逃さず、優しく誘う。
「えへへ、ありがとー♪」
「こんな感じにしたいってイメージとかは、有ります?」
 嬉しげなレイに、環も微笑み返しながら尋ねる。
「サボテンを樹みたいに中央に置いて、寄り添う動物を一匹置くの。サボテンの育ち方がわかるし、ぼっちじゃ可哀想だもんね」
「優しさが伝わるテラリウムですね」
 レイがイメージを伝えると、鳳琴も優しく微笑んで。
「……やった! いいかんじにできたわねー♪」
 鳳琴と環の手伝いが有り、イメージ通りのテラリウムを何とか完成させることが出来た、レイ。
 あとは、鳳琴と環が自分の分を作り終えれば、全員完成となる。
「美しく作れました……! ふふ、お土産にしていきましょうか」
 葉が美しく重なり、まるでバラの花弁のようなロゼット型の多肉植物を数個、サボテンの周囲に植え。
 何処に飾っても、オシャレなアクセントになるテラリウムを、作り上げた鳳琴。
 環はアンティーク調のガラス容器と、コンパクトで可愛いミニサボテンを選んだ。
 トゲは毛のように細く、柔らかいものを選んだので、触れても痛くない。
「この雰囲気に合う砂……砂ー!」
 砂選びに苦戦中の環は、店員や仲間たちに訊いて回り、白い砂をベースにする。
 自分の髪色に近い、明るめな赤茶色の砂を散りばめ、ようやく完成。
 作ったテラリウムを、仲間たちで褒め合い、和気あいあいと盛り上がった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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