漆黒のドラゴン

作者:ゆうきつかさ

 突如として住宅街に姿を現したドラゴンは、自らの存在を示すようにして咆哮を響かせ、辺りにある建物を破壊していった。
 ドラゴンの全長は、10メートル。
 グラビティ・チェインの枯渇により、様々な機能的制約を受けており、雄々しく広げた翼は単なる飾りと化しており、飛ぶ事さえ出来なかった。
 そのため、怒りに身を任せながら建物を破壊し、人気の多い方向に向かいながら、沢山の人々を殺戮していった。
 しかも、ドラゴンが目指しているのは、街の中心部!
 このまま放っておけば、間違いなく被害は拡大していく事だろう。
「長崎県の長崎市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが、復活して暴れだすという予知がありました」
 ヘリオライダー、セリカ・リュミエールは教室ほどの広さがある部屋にケルベロス達を集め、今回の予知を説明し始めた。
「幸い復活したばかりのドラゴンは、グラビティ・チェインが枯渇している為なのか、翼が生えているにもかかわらず、飛ぶ事が出来ません。そのため、街を破壊していきながら、沢山の人間を殺戮しつつ、街の中心部に向かっているようである。おそらく、その目的は沢山の人間を殺戮してグラビティ・チェインを略奪し、力を取り戻す事でしょう。そうなれば、ドラゴンが飛び立ち、他の街を襲う事は確実。そうなる前にドラゴンを倒す事が今回の目的です」
 そう言ってセリカが真剣な眼差しで、ケルベロス達を見た。
「ドラゴンの能力は、以下の3点。まずひとつめ。口から毒の息を吐き、沢山の相手を毒に侵す事。続いてふたつめ。手足の爪を超硬化し、呪的防御ごと相手を超高速で貫く事。そしてみっつめ。太い竜の尻尾を振るう事で、近くにいる相手を複数まとめて薙ぎ払う事です。弱体化しているとは言え、相手はドラゴン。まずは、まわりにいる市民達を避難させ、戦いに挑む必要があります。一応、街は破壊されてもヒールで治す事が出来るので、まわりの被害を気にせず、ドラゴンの撃破を優先してください。その事を踏まえた上で、ドラゴンを倒す事が今回の目的です。それでは、よろしくお願いします」
 そう言ってセリカが、ゆっくりと頭を下げた。
「えーっと、とりあえず殴ってから考えればいいよね?」
 降魔拳士、朝倉・皐月は、途中で考える事が面倒になって軽く流した。
 もちろん、自分なりにあれこれと考えてはみたのだが、途中で訳が分からなくなってしまったらしく、『細かい事は気にせず、やっつけてから考えればいい』という結論に至ったようである。
 それに例え建物が壊れたとしても、ヒールで治す事が出来るのだから、ドカーン、ずばばばあーんと片付けてしまえばいいだろう。


参加者
コリント・クラナッハ(白き蒼竜・e00021)
祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)
双星・雹(流星天使・e00152)
アライン・ロケッツ(ポーカー喫茶の店主・e00207)
ヴェラ・フィーナ(レプリカ・e00580)
安詮院・哀子(アレルヤ・e01571)
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)
高原・結慰(オラトリオの鹵獲術士・e04062)

■リプレイ

●漆黒のドラゴン
「ようやく、現れたわ」
 ビルの上からドラゴンの姿を確認したアライン・ロケッツ(ポーカー喫茶の店主・e00207)は、アイズフォンを使って仲間達に連絡を取っていた。
 予知された時刻よりも3時間早く現地入りしたためか、ドラゴンが現れるまで随分と長く感じられた。
 その分、警察と一緒に一般人達を避難させる事が出来たため、逃げ遅れた一般人は想定していた数よりもだいぶ少なくなっていた。
 そのせいか、ドラゴンは一般人達が多い場所を目指して、進行方向を変えてしまったものの、仲間達が各所に散らばっていたため、すぐに手を打つ事が出来た。
「やれやれ。最初から、大仕事ですね……」
 コリント・クラナッハ(白き蒼竜・e00021)が複雑な気持ちになりつつ、深い溜息をもらす。
 ドラゴンが現れた事で、街はパニック状態。
 警察なども協力してくれたおかげで、何とか避難誘導には従ってくれてものの、辺りにはピリピリとした空気が漂っていた。
「まさか、初っ端からドラゴンとはのう。じゃが、飛べないドラゴンなど、所詮はでかいトカゲじゃ。まあ……、破壊力はでかそうじゃがな」
 ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)が、辺りの様子を窺った。
 ドラゴンは本能の赴くまま破壊活動を続けており、逃げ遅れた一般人達があちらこちらで助けを求めていた。
「飛ぶことが出来ないのは幸いだが、人を襲うっていうのは看過できんな。ここで始末しておくに越したことはない……か」
 安詮院・哀子(アレルヤ・e01571)が、険しい表情を浮かべる。
 ドラゴンは逃げ遅れた一般人達に襲い掛かり、今にも食らいつきそうな勢いだった。
 それでも、被害を出す事がなかったのは、サポート参加した仲間達が多かったためだろう。
 彼らがいなければ、多くの一般人がドラゴンに襲われ、命を落としていた可能性が高かった。
「とにかく、一人でも多くの人達を助けないと……」
 高原・結慰(オラトリオの鹵獲術士・e04062)が仲間達と連絡を取りつつ、翼飛行で逃げ遅れた一般人達を助けていく。
 一般人達の中にはパニックに陥って暴れ回っている者もいたが、何とか途中で落とす事無く運んでいる。
「そ、そうですね」
 ヴェラ・フィーナ(レプリカ・e00580)も小さく頷くと、逃げ惑う一般人達を安全な場所まで連れていく。
「とにかく、こちらの存在にドラゴンが気づく前に、みんなの避難を終わらせてしまいましょう」
 祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)が警戒した様子で辺りを見回しながら、ドラゴンに気づかれないように注意深く行動した。
 しかし、一般人の多くが同じ方向に逃げている事に気づいたらしく、ドラゴンが威嚇するようにして天高く咆哮を響かせた。
「Aide! 危ないからこっちに避難するですの!」
 その間にシエナ・ジャルディニエが、サポート参加した仲間達と共に、避難が遅れた一般人達を安全な場所まで誘導する。
「空飛ぶ体験です。私に感謝しやがれ……です」
 フレーゲル・プラティンスが、老人や子供を優先しながら、安全な場所まで飛んでいく。
 それと同時にドラゴンがフレーゲル達を威嚇するようにして咆哮をあげたが、サポートで参加した仲間達が守ってくれた。
「どうやら、ボク達を放っておくつもりはないようだね」
 すぐさま、双星・雹(流星天使・e00152)が、ミミックのパンドラに指示を出す。
 その指示に従ってパンドラがドラゴンの行く手を阻み、一般人達が逃げるまでの時間を稼ぐ。
「……なんで私はこんなところにいるのでありますか?」
 ブラウト・ミルヒシュトラーセが、両目をパチクリさせた。
 目が覚めたら、そこは戦場。
 何が起こっているのか分からないが、とにかくとんでもない事が起こっているようである。

●倒壊したビルの傍
「わーん、お母さぁーん」
 何処かで子供が泣いている。
 腹の底から声を出すようにして、ワンワンと泣き叫んでいた。
「……っと。此処は危ないよ? 皆に所に連れて行ってあげる」
 それに気づいた結慰が子供の前に急降下すると、ドラゴンに気づかれる前に勢いよく飛び立った。
「お、おいっ! 一体、どうなっているんだっ!?」
 近くにいた中年男性が、驚いた様子で声を上げる。
 未だに状況を飲み込む事が出来ないのか、狂ったように質問攻め。
「ここは危険ですので、誘導に従って避難してください」
 すぐさま、コリントが中年男性に駆け寄り、他の一般人が避難した方向を指差した。
「いや、そうじゃなくて。俺は何が起こっているのか、聞いているんだ! それに何だよ、あの化け物は……。ほ、本当にドラゴン……なのか」
 中年男性が不安げな表情を浮かべる。
 事前に避難勧告が出ていたものの、未だに納得していない。
 おそらく、自分のところは大丈夫。ドラゴンが来る訳がない、と妙な自信を持っていたのだろう。
 そのため、現実を受け入れる事が出来ず、どうしてこんな場所に現われたのか、気にしているようだった。
「ふん、余り人助けは得意でないんだがね」
 哀子が話をしている暇がないとばかりに、中年男性の腕を掴む。
「お、おい! 俺の質問に答えろ! 一体、ここで何が起こっているんだっ! あのドラゴンは何だっ! 早く俺の質問に答えろ!」
 中年男性がイラついた様子で叫ぶ。
 自分の身に起こったのか、必死に理解しようとしているようだが、その間もドラゴンが暴れているため、説明している暇などない。
「ここはわしらに任せて、早く! 罪のない人々をドラゴンの餌になど絶対にさせんわい」
 ガナッシュが中年男性を守るようにして、ドラゴンをジロリと睨み付けた。
 ドラゴンはサポート参加した仲間達が気を引いているものの、あまり時間が残されている事は確実だった。
「何だか考えるのが面倒になっちゃった。とりあえず、殴ってから考えよう!」
 そう言って朝倉・皐月(地球人の降魔拳士・en0018)が、躊躇う事なくドラゴンに突っ込んでいく。
 その間に哀子が騒ぐ中年男性を連れて、安全な場所まで避難した。
「細かいことは殴ってからってのは面白ぇ! よっしゃ、ならこの俺も影ながら全力で人肌脱ぎまくってやるぜぇ!」
 笑福道・回天も皐月も皐月と連携を取りつつ、サイコフォースを使う。
 それに気づいたドラゴンが咆哮を響かせ、毒の息を吐き出した。
「あれは毒……!?」
 その事にいち早く気づいた雹が、身の危険を感じて飛び退いた。
 足元に転がった毒はぶすぶすと音を立て、異様な臭いを撒き散らす。
 それは何かが腐った臭い。
 これをモロに被っていたら、間違いなく無傷では済まなかった事だろう。
「被害が大きそうだから、ここは辻ヒール大事なのです。辻ヒーラー出番なのです。私はやればできる子、やればできる子……」
 まるで呪文を唱えるようにしながら、マリィア・デッセルがウイングキャットの『ニア』と一緒に仲間達を援護する。
「それじゃ、頼んだよ」
 静葉がマリィアにサポートを任せて、ドラゴン退治に向かう。
 ドラゴンは静葉達を敵として認識しており、排除すべき対象になっていた。
「ここから先には行かせません」
 それでも、ヴェラは怯む事なく、ドラゴンの行く手を阻む。
 ドラゴンも『すべてを食らってやる!』と言わんばかりの勢いで、大地を揺るがすほどの咆哮を響かせた。
「いくら叫んだって……もう逃げられないわよ」
 アラインもドラゴンの背後に陣取り、含みのある笑みを浮かべる。
 既に仲間達がドラゴンを包囲するようにして陣取っており、ドラゴンの退路は完全に断たれていた。
 しかし、ドラゴンはまったく恐怖を感じておらず、敵意を剥き出しにして襲い掛かってきた。
「この状況でまだ抵抗するとは……、随分と諦めが悪いですね」
 結慰が深い溜息をもらして、ドラゴンの側面からアイスエイジを仕掛ける。
 その一撃を食らったドラゴンが牙を剥き出しにすると、再び大きく息を吸い込んで、毒の息を吐こうとした。
「おなじ手が何度も通じると思ったら大間違いだよ」
 それに気づいた雹がドラゴンの口めがけて、時空凍結弾を撃ち込んだ。
 これにはドラゴンも驚き、口から泡を吐く勢いで、大量の血を吐いた。
「……少し大人しくさせる必要がありそうですね」
 その間にコリントが反対側に回り込み、テイルスイングをドラゴンに放って、後ろに飛び退いた。
 すぐさま、ドラゴンは怒りに身を任せて尻尾を振り回してきたが、既にコリントの姿はその場にない。
「やれやれ、思ったよりもしぶといの。だからといって見逃すつもりはないが……。このまま奴を街の中心部に行かせる訳にもいかんしの」
 続いてガナッシュが真正面から、ドラゴンに破鎧衝を叩き込む。
 それでも、ドラゴンは怯む事なく、鋭い爪を振り下ろす。
「……危ない!」
 次の瞬間、アラインがドラゴンの背後から、マルチプルミサイルを撃ち込んだ。
 続け様に攻撃を食らった事で、ドラゴンが激しい痛みに苦しみながら、狂った様子で尻尾をブンブンと振り回す。
「あいたた……」
 その拍子にヴェラがバランスを崩して尻餅をつき、顔をしかめて苦笑いを浮かべる。
「大丈夫か? このまま一気に仕留めるぞ」
 哀子が仲間達と連携を取りつつ、テイルスイングを放つ。
 それに合わせて、仲間達も次々と攻撃を仕掛けていき、ドラゴンの体力を確実に削っていく。
「砕け、必殺! グラビティィ・ブレイクゥゥゥ!!」
 次の瞬間、ガナッシュが仲間達と連携を取りつつ、ドラゴンめがけてグラビティブレイクを仕掛ける。
 続け様に攻撃を食らった事でドラゴンが断末魔を響かせ、崩れ落ちるようにして倒れ込み、そのままピクリとも動かなくなった。
「……ったく、ドラゴンの名折れだってのよ」
 ドラゴンが完全に息絶えた事を確認した後、静葉が疲れた様子で溜息をつく。
 サポート参加した仲間達が頑張ってくれたおかげで、被害も最小。
 予想よりも被害が出ていないため、依頼的には大成功だろう。
「それにしても、復活したてでもこの破壊力とは、流石ドラゴンと言うべきかのう。すまんのう、ヒール持って来てないから建物の修理は任せるぞい」
 そう言ってガナッシュが苦笑いを浮かべて、その場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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