双魚宮「死者の泉」潜入戦~享楽の中で

作者:八幡

●双魚宮の一室
 どこか背徳的な甘い香りの流れる一室。
 数十人は入れるであろう広さのある、その部屋の奥に一体のシャイターンが座する。
 さらにその周りには、複数のシャイターンが居り、手に酒や肴をもって享楽にふけっていた。
「ささ、魔王イブリース様。もう一杯」
 享楽にふける配下の者たちの様子を満足そうに見つめていた座するシャイターン……魔王イブリースの盃が空いているのに気づいた者が、赤い液体で盃を満たせば、
「さぁ、呑んで歌え。もっと俺を楽しませろ」
 イブリースはその液体を浴びるように飲んで見せてから、配下の者たちにもっと騒げと、もっと自分を楽しませろと命じる。
「さすが俺たちの王だ、話が分かるぜ!」
 イブリースの言葉を聞いた配下の者たちはわっと盛り上がり、一層の享楽にふけ、
「飽くまで飲み明かすぞ」
 その様子にイブリースはにやりと笑って見せたのだった。

●『門』の先へ
「死者の泉の『門』を開くことができたんだよ!」
 ケルベロスたちの前に現れた、小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はそう切り出した。
 死者の泉と言うと、ブレイザブリクの隠し通路で出現した防衛機構のことだろう……ついにそれを突破、開けたということか。
 門の情報を思い返しているケルベロスたちに、みんなのおかげだよ! と笑いかけたから透子は続ける。
「門が開いたから、双魚宮『死者の泉』も含めた、魔導神殿群ヴァルハラの状況を予知できるようになったんだよ」
 魔導神殿群ヴァルハラとは双魚宮を含め、アスガルドゲートを守るように配置された神殿群のことだ。
「今、魔導神殿群ヴァルハラでは、王族が率いる複数の軍勢が戦争の準備を行っているんだよ。それで、一か月後には複数の神殿を地上に侵攻させる大作戦を行おうとしているみたいなんだ」
 もし、門の探索が間に合わなければ、大変なことになっていただろうと、先手を打てて良かったと透子は小さく息を吐く。
「門が繋がった双魚宮『死者の泉』は、地上侵攻作戦には加わらないから、戦力外のシャイターンの軍勢が居るんだけど……シャイターンたちは油断しきっているみたい」
 油断しているとなれば、そこに付け込まない手は無い。
 作戦を察したケルベロスたちに透子は頷くと、
「この状況を利用して主だった敵を撃破した上で、死者の泉を制圧する事が出来れば……シャイターンの残党を降伏させて、他の神殿に知られる前に双魚宮を制圧できるんだよ!」
 双魚宮を制圧できると両の拳を小さく握った。

「みんなに倒してもらいたい相手は、魔王イブリースと言うシャイターンだよ」
 自分の話に興味を持ったケルベロスたちに透子は続ける。
「イブリースは強力な炎を操るシャイターンだけれど、配下に良いところを見せようと、自分一人で戦いを挑んでくるよ」
 つまり配下のシャイターンは気にする必要が無いのだが、先に配下のシャイターンに手を出した場合はどうなるか分からないだろう。
「イブリースが居る部屋はここなんだけれど……門からの転移先は双魚宮の隠された領域な上に、双魚宮自体が魔導神殿群ヴァルハラの中でも後方に位置しているから、敵は侵入者なんてありえないって油断しるんだよ」
 さらにイブリースが居る場所を説明するために、透子は紙の上に簡単な地図を書きながら説明を続ける。
「だから警戒はものすごく手薄なんだよ。でも、もし運悪く敵と遭遇した場合は、騒がれる前にさくっと倒しちゃってね!」
 今のみんななら巡回している程度の敵は瞬殺できるからと透子は断言する。
「あとは、イブリースを倒したときに、アストライアが倒されていない場合、配下のシャイターンたちが襲ってくると思うから倒すタイミングも重要かも」
 全ての説明を終えた透子は、ケルベロスたちを真直ぐに見つめ、
「双魚宮を押さえられればエインヘリアルとの決着に近づくはず……だから危険な任務だけれど、この作戦を成功させてほしいんだよ!」
 あとのことをケルベロスたちに任せるのだった。


参加者
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
六星・蛍火(武装研究者・e36015)

■リプレイ


 神殿の中を進む。
「まさかエインヘリアルたちが、このようなものを使った侵攻を企てていたなんて」
 このようなもの、つまりは自分たちが潜入している、双魚宮の内側を眺めて、翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は小さく頭を振る。
「思い切った手を打ってきましたね」
 風音の首の動きに少し遅れて揺れる長く美しい緑の髪。その緑色に風音のシャティレが身を寄せる様子を横目で見つつ、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は風音の言葉に頷く。
 それに……と、セレナは言葉を続ける。
「いよいよアスガルドとの戦争が目の前となりましたね」
 一か月後にあるというエインヘリアルたちの大規模侵攻。
 エインヘリアルたちが、こんな思い切った手段をとる理由はその侵攻のため、無論勝算あっての事だろう。
「その前哨戦ともいえるこの戦い、必ず勝利してみせましょう」
 ならばその勝算を崩すために、もはや避けられぬその戦いを少しでも有利にするために、今回の作戦を必ず成功させましょうとセレナは藍玉めいた目を正面へ向ける。
「ええ、人々の命を脅かす作戦なら全力で止めるまで」
 そしてその勝利は、人々の命を守る事に結びつくのだ。セレナの視線を追うように、風音もまた真直ぐに正面を見つめ、
「フフフ敵地へのカチコミ、いつだって腕がなりまくりね……!?」
 片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)は気合がはいるわ! と、腕を鳴らすのだった。

「情報通り、だな」
 拳をふにふにして鳴らす真似をしている芙蓉の前で、手にした地図と、強化ゴーグル型ヘリオンデバイスにより得られた敵味方の位置を見比べていた、レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)は頷く。
 神殿の規模に比べてあまりに敵の数が少ない……情報通り緩み切っている証拠だろう。
「敵が居ないのは良いのですが、なかなか入り組んでいますね」
 カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)はレヴィンが持つ地図を覗き込んでから興味深そうに周囲を見渡す。
 レヴィンに分かるのは敵味方の位置であり、地図も大雑把なもの……それだけの情報だと迷宮のように入り組んだ神殿の中では行き止まりに当たる事も多い。
「先行する」
 やはり目視が必要かと、レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)が音もなく先頭に立てば、
「私も見てくるよ、任せて。任せて」
 アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)も任せてと手を上げてから、くるりと回ってレスターの後を追う。
「ああ、宜しく頼むよ」
 そんなアイリスがレスターに並ぶのを確認して……レヴィンは少しだけ目を細めた。

 レヴィンのゴッドサイトがあるとは言え避けようのない遭遇もある。
 だがそれも、レスターやアイリスが敵を発見すれば容易に身を隠すくらいの時間は確保できた。何よりカルナのチェイスアートによって身を軽くしていた事が功を奏していただろう。
「緩み切っているわね」
 欠伸をしながら先の通路を横切っていくシャイターンの姿を見送ってから、六星・蛍火(武装研究者・e36015)は、ふっと小さく息を吐く。こちらの準備は万端。対してシャイターンと言えば、だらだらと言われた事をやっている程度。
「作戦が上手くいっている証拠ですね」
 結果、カルナの言う通り奇襲を気取られないという最高の結果に結びついている。
「ええ、魔王イブリースの部屋まで後少し。このまま進みましょう」
 故に、このままいけば問題ないだろう。蛍火はカルナの言葉に頷いて、再び目的地を目指して移動を始めたのだった。


 シャイターンの巡回を回避しながら移動をする事、暫し。
「随分と、騒がしいですね」
 通路の奥から聞こえて来た賑やかな音に、風音が耳を立てる。その音は、この神殿には似つかわしくないほどに粗暴で品が無い声や物音。
「この先の扉から漏れているようだ」
「お祭り騒ぎだったよ」
 先行していたレスターとアイリスも戻って、その音が通路の先の扉から漏れているものだと伝える。神殿の中でお祭り騒ぎ……これはもう間違いないだろうと、一行がレヴィンに目を向ければ、
「あの中が魔王様の部屋で間違いないぜ」
 ご名答と、レヴィンは頷く。
「後は……タイミング、ですね」
 魔王の部屋が分かったのなら後は突撃するタイミングを合わせるだけだ。それもレヴィンのゴッドサイトで分かるだろうかとセレナが目を向ければ……丁度その時、芙蓉のふかふかしたお耳がぴくりと揺れる。
「あ、アストライア班から連絡があったわ」
 どうしました? と視線を向けてくるセレナに片目を閉じてから、芙蓉が帝釈天・梓紗によく似たマインドウィスパーに意識を向ける。
「ふむふむ、今から戦闘を仕掛けるそうよ」
 そこから聞こえてくるのは青髪の少女の声。内容は戦闘開始の合図だ。ゴッドサイトでも十分に状況は分かるが……確実な情報が得られるのはありがたい。
「では、私たちも頃合いを見て戦闘を開始すると、返信をお願いね」
 セレナと顔を見合わせた蛍火が小さく頷いてから芙蓉に返信を依頼すれば、芙蓉は任せてと再び片目を閉じる。
「少しだけ待機ですね」
 芙蓉たちのやり取りを見ていたカルナがそう告げれば、一行は再び巡回を警戒しながら待機するのだった。

 扉を開いて部屋の中に飛び込む。
 部屋に入ってまず目に入ってきたのは、宴の様子。酒を手に、享楽にふけるシャイターンたちの姿。
「わあ。随分と楽しそうだね、だね!」
 その様子をアイリスは楽しそうだと評するが、
「魂を捧げて守ってたもんが堕落の都なんざ、『門』達もさぞ喜ぶだろうよ」
 レスターは呆れたように息を吐き、
「制圧すりゃおれたちの方が有効に使えるな」
 自分たちが有効に使ってやると、宴の中央……宴の主である魔王へと目を向ける。
「何故ケルベロスがここにいる」
 当の魔王と言えば、座したままにレスターたちを見回して、何かを考えこんでいる。
「フフフ私の可愛さに驚いているようね……!」
「なにぃ!?」
 そんな魔王の様子に芙蓉は胸を張って自分の可愛さのためだと主張したり、レヴィンが吃驚して見せたりしつつ油断なく魔王の前に歩みを進める。
「エインヘリアルどもの差し金か? まさか俺の計画が……まぁ良い。お前らを叩きのめして吐かせればいいだけの話だ」
 にじり寄る芙蓉たちを、さらに取り囲もうとしているシャイターンたちを手で制しつつ魔王は立ち上がる。こいつらは俺がやるお前たちは手を出すなと、そこはかとなく格好良いポーズを決めて立ち上がった魔王だが……エインヘリアルに抹殺される心当たりがあるらしい。
「なんで強い指揮官なのに戦力外なのかと思っていましたが、色々と問題のある方のようですね」
 魔王の言動に何かを納得したカルナが頷き、
「やる事は変わらないわ。必ず今此処で、制圧させて頂くからね」
 蛍火が得物を持つ手に力をこめると、
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 セレナの名乗りを合図にするように戦いの火蓋が切られた。


「酒に酔って弱ってました、とか言われると興ざめです」
 ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させつつ、カルナは魔王の顔に照準を合わせる。
「魔王の名が伊達ではない所、見せてください」
 そしてその顔に酔いが回っていない事を確認すると、竜砲弾を打ち放った。
「大層な肩書に見合う実力はあるんだろうな」
 カルナが放った砲弾を魔王が左手で受けた瞬間、爆発が起こり魔王の姿を煙が包む。その姿に油断なく目を向けながらレスターは光り輝くオウガ粒子を放出する。
「せいぜい『楽しませろ』、魔王よ」
 放出された粒子は風音とレヴィンの体を包み、そのレヴィンが大見得を切るレスターの横を駆け抜けて……駆ける勢いに任せて流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放つ。
「ぬかせ」
 カルナの砲弾を左手で受け止めていた魔王は、レヴィンの動きについていけず、その蹴りをまともに腹に受けるも、余裕だとばかりに鼻で笑って見せる。
「すごいね、すごいね! じゃぁ、私とも遊ぼう」
 魔王の腹を蹴った反動を利用して後ろに下がるレヴィンと入れ替わるように近づいたアイリスはくるりくるりと回り、
「お酒なんかよりずうっと飽きさせないし、酔わせてあげる。そうね、こんな踊りはどう?」
 大きく跳び跳ねて踊るように魔王の周りをまわりながら、その手を、焼けた靴を、燃え尽きるほどに激しい衝動を、魔王の体へと叩きつけていく。魔王は戯れるように自分の周りをまわるアイリスに黒い炎を纏った手を向けるが、
「アンタが私を見ているとき! 私もまた! 可愛いのよ!」
 芙蓉が右手を目元に当てながら可愛いポーズをとると、その目に巫術の光が宿り、なんかドン! と魔王の心を響かせる。このウサチャンを見ていた方がヘルシーでヘヴンリー。その上ラビュラスやも? そんな錯覚を覚えさせ……つまりは足を止めた。
 ついでに手も止まった魔王からアイリスが離れるのを目で追いつつ、風音は地面にケルベロスチェインを展開して、味方を守護する魔法陣を描く。風音の描いた魔法陣の光を受けてシャティレがブレスを吐き、芙蓉の梓紗が手にした狂気で魔王に殴りかかれば、ブレスを鬱陶しそうに振り払う魔王だが……ふと足元で何か銀色のものが輝いたかと思えば、そこには流れるような銀糸が揺らめいて、
「享楽に耽け、暴力に酔い痴れる者に私の剣は見切れません!」
 次の瞬間には、セレナの持つ乙女座の星辰を宿した白銀の騎士剣が足元から左切り上げに振るわれる。卓越した技量からなるその一撃は、魔王の腹に真っ赤な線を刻み、その表面を凍り付かせる。
「私の自慢の一曲、お聴きなさい」
 セレナの一撃に思わず呻きをあげる魔王を見つめながら蛍火は、月の魅力と神秘性を曲にしてヴァイオリンで演奏する。奏でられた音色は確かな力となって、降り注ぎ……仲間たちに敵の加護を砕く力を与えるのだった。


「燃えろ!」
 イヴリースは黒い炎を纏う右手を目の前にいたセレナへ向ける。
 手を向けられたセレナは反射的に身を低くして頭を庇うが――セレナの頭上を越えて伸びた銀色の何かが、今まさに炎を放たんとしていた魔王の手に重なる。
 重なった瞬間、銀色の何かは黒い炎に包まれ、セレナは横へと飛ぶ。
 そして状況を確認すべく魔王へ目を向けたセレナが見たものは、黒い炎を銀の炎を纏う右腕で受け止めるドラゴニアンの姿。
 腕を焼かれてなお苦悶の表情一つ見せず、燃やせるものなら燃やしてみろとばかりに魔王を睨みつけるレスターの姿だ。
「それだけか」
 ついに黒炎はレスターの腕を焼き尽くせず、猛る銀の炎を前に消え去り、レスターは銀の炎纏う腕で魔王の手を掴んだまま左手で骸を振り上げる。
 目の前で振り上げられた無骨な剣に魔王は思わず腰を引くも、レスターはそれを許さず……力任せに振り下ろした。
 肩口にめり込んだ巨剣は魔王の血潮に濡れるも、その渇きが癒える事が無いかのように、その血潮を刀身に吸い込んでゆく。
「ッ!」
 放っておけば無限に命を吸い取ろうとする無骨な剣から逃れるべく魔王は、レスターの手を強引に振りほどいて後ろに下がるも、
「まだ踊り足りないよね、よね?」
 アイリスが空を切るように蹴りを打てば、そこから星形をした理力の塊が放たれて、魔王の顎に当たる。
「花の女神の喜びの歌」
 下がったところに顎へ一撃をもらった魔王は大きく仰け反り、その隙に風音はレスターへ目を向ける。
 何ともない……と言う態度を見せているレスターだが、だらりと下がった右腕には相当な傷を負ったのだろう。
 それは譲れぬ何かを押し通したが故の代償……だが、譲れぬものなら風音にもある。誰も倒れさせはせぬと静かに燃える思いがここにある。
「春を謳う命の想いと共に響け」
 風音は大きく息を吸い込むと、花と春の女神が喜び、歌い踊る様を歌う。風音の歌は数多の命の喜びを呼び、レスターの腕をみるみる癒して……動きに支障のない程度まで回復させる。そして仰け反っていた魔王が何とか体制を立て直したところで、レスターは何ともないぞとばかりに、銀の炎に包まれる右手を見せてやり、
「アデュラリア流剣術、奥義」
 魔王がレスターの様に気をとられた一瞬の内に、セレナは自身の肉体に魔力を巡らせ、瞬間的に運動能力を限界まで向上させると、その懐へ入り込む。
「――銀閃月!」
 高められた能力全てを使った一撃は、夜空に浮かぶ月のような軌跡を描いて……魔王の胸元に大きな傷を残すのだった。

 切り結ぶこと幾度目か。
 魔王が放った紫の炎に、蛍火は両手を突き出し……両手の前に宵闇の中を輝く蛍の様に煌めくオーラを盾に受け止める。ごうごうと音を立てて燃える炎はオーラの盾越しに蛍火の腕を、飛び散った炎が白い肌を焼くが、その炎もほどなくして消え去る。
「月影。力を合わせるわよ!」
 感覚の無くなった手を前に翳したまま蛍火はオーラをため、さらに彼女の月影に声をかければ、月影もまた属性を注入して蛍火の傷を癒す。
「しつこ――」
 腕の感覚を取り戻した蛍火は、魔王の動きを邪魔するように張り付き、魔王は蛍火を蹴り飛ばそうとするが、
「フフフ、これも努力のたまものね!」
 上げようとした足は思い通りに上がらず、それどころか芙蓉が放ったグラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾をまともに受けてしまう。普段からの努力、戦闘序盤からの仕込み……それらが積み重なって、魔王の足を完全に止めたのだ。仕込みは十分となれば、後は仕上げを決めるのみ。カルナは自らの魔力を圧縮しながら頭上に手を掲げ、不可視の魔剣を魔王の頭上に形成し、
「穿て、幻魔の剣よ」
 手を真下へ振り下ろすと同時に、不可視の魔剣を魔王に向けて放つ。頭上から撃ち込まれた魔剣は、先にレスターによって刻まれた肩口の傷へ吸い込まれ……そのまま魔王を貫通して地面に突き刺さる。そして、地面に縫い留められるかたちとなった魔王の目の前に、レヴィンは駆け込み、
「オレは絆の力を信じてる! 行くぜ! ホーリーダンスッ!!」
 大切な人達の力を借り、全身全霊をぶち込む。
 強い絆はきっと何者にも負けないと信じて、己の炎は魔王の黒い炎になど負けないと信じて、渾身のグラビティをこめた青き炎の弾丸を魔王の腕に、腹に、脳天に撃ち込んでいく。弾丸を打ち込まれた魔王は踊るように体を震わせて――最後には力なく地面に崩れるのだった。

 魔王が倒れた後に、配下の者たちが襲ってくるかと身構えた一行だったが、配下の者たちはあっさりと降伏した。元々エインヘリアルに対して忠誠心など無かったのか、一行を相手に勝ち目がないと思ったのか……それは分からないが、ともかく任務はこなしたのだ。
「制圧完了ですね」
 誰からともなく零れたその言葉に、一行は頷くのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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