東京焦土地帯の地下深く、『門』より至るもう一つの神殿――双魚宮「死者の泉」。
『門』を介さなければ辿り着けない彼の地こそ、エインヘリアルにとっての禁断の領域。
故にこの場所に、足を踏み入れる者が現れようなど、誰もが思うはずはない。
神殿を護りしシャイターンの主力部隊、彼らを率いる4人の『王』は、配下を引き連れ、日夜酒盛りなどの宴会騒ぎで、緊張感の欠片もない様子。
片や、他のシャイターン達を苦々しく思い、前線への配置を願って、護衛の任務などより訓練に励む、親エインヘリアルのシャイターン達。
更にこの地を守護するエインヘリアルは、ひたすら研究に没頭しており、もし今この神殿内で襲撃があったとしても、気付く者などいないだろう――但し、一つの部隊を除いては。
――神殿の奥の暗がりの中、会話を交わす二つの影。
フードを目深に被った女性のシャイターンが、傅きながら目の前の男に報告をする。
「……揃いも揃って、実におめでたい連中よ。だが我らにとっては、好都合」
不気味な威圧感を放つ男のシャイターンは、女性の報せを聞くと口角を吊り上げ、冷たい笑みを薄っすら浮かべる。
「クックック……もうすぐだ」
徒ならぬ不穏な空気が、周囲を包む。
秘めた野心を覗かせながら、男は再び闇の中へと姿を消した――。
●暗躍する影
ケルベロス達はブレイザブリクの探索に成功し、遂に死者の泉への『門』を開く事が可能になった。
その結果、死者の泉も含めた、魔導神殿群ヴァルハラの状況までも予知する事が出来たと、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が集ったケルベロス達に伝えると、現在の状況を語り始める。
「魔導神殿群ヴァルハラでは、王族が率いる複数の軍勢が戦争の準備を行っている。1か月後には、複数の神殿を地上に侵攻させる大作戦を決行するつもりみたいなんだ」
この緊急事態を予知出来たのも、門の探索が間に合った結果だと、シュリは改めてお礼を述べる。
門が繋がった双魚宮「死者の泉」は後方に位置している性質上、地上侵攻作戦には加わらない為、駐屯している大半は戦力外のシャイターンの軍勢だ。それに加えて連中は、侵入者など来る筈はないとすっかり油断しきっているようだ。
つまり、敵の警戒が薄いこの状況を利用して、転移門を使った襲撃作戦を実行する。
そして敵の主力を撃破し、死者の泉を制圧すれば、残りのシャイターンを降伏させて、他の神殿にも知られる事なく、双魚宮を無事に制圧する事ができるだろう。
「ちなみにこの作戦には転移門を利用する為、投入できる戦力は限られてくるけど、皆ならきっと成功出来ると信じているよ」
『門』で一度に転移できるのは8人ずつで、転移先は双魚宮内の『隠された領域』だ。
転移後は、それぞれの班で目的の敵を撃破する。特に何事もなければ、目的地まで一気に進める事が出来るだろう。
敵の居場所についても予知で把握済みだと、メモした地図を手渡すシュリだが――。
「ただ……キミ達が相手をするのは、『暗殺部隊』。敵の中でも、唯一警戒を解いていない部隊なんだ」
この部隊を放置しておくと、シャイターンの他の部隊に警告などを送って、防衛態勢を整える可能性がある。従って、対応は必須の相手と言える。
部隊を率いているのは、『蝕血のヴァンド・アル・カディア』。タールの翼に紫紺の炎を纏ったシャイターンで、かなり狡猾で野心に溢れた性格のようだ。
彼の他には『冷たき慈悲のハナーン』なる女性のシャイターンも、暗殺者として相当の手練れらしい。
「どうやら彼らは、嘗ての第五王子イグニスを支持していた勢力らしく、この機に乗じて、エインヘリアルに反旗を翻そうと企んでいるみたいだね」
暗殺部隊と遭遇し、戦ったとしても勝てない戦力というわけではない。だが接触の仕方次第では、交渉の余地もあるかもしれない、とシュリは付け加えて説明する。
「どう対応するかは、キミ達に全て任せるよ。色んな意味で気を付けなければならない相手になるけど、この好機は是非とも活かしたいからね」
この潜入作戦が成功すれば、エインヘリアルとの決着をつける足掛かりになるだろう。
敵は一筋縄ではいかないが、これまで多くの困難を乗り越えてきた彼らであれば、大丈夫だろうとシュリは心の中で無事を願う。
斯くして、ケルベロス達を載せたヘリオンが、焦土地帯に向けて飛び立った――。
参加者 | |
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ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033) |
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707) |
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069) |
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471) |
●シャイターンとの交渉
死者の泉を制圧すべく、ケルベロス達はブレイザブリクの門から転移し、宮殿内部の侵入に成功。警戒には最大限の注意を払い、標的となる敵の居場所を目指して直走る。
「まだ僕達には気付いていないみたいだね。そろそろ中間地点を超えたところかな」
敵に見つからないよう隠密気流を身に纏い、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が地図を見比べながら現在の位置を確認する。
「無用な戦いは避けたいからね。でも敵も警戒しているから、油断しないで進んでいこう」
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)は逸る気持ちを抑えつつ、足音を立てないように慎重に歩を進める。
「ま、相手がどう仕掛けてくるかだが、怪しい動きをすればブッ飛ばすだけだ」
もし戦闘になればそれも止む無しと、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は敵襲に備えて武器を手に取り、気を張り巡らせる。
「通路を抜けた先が、目的の場所のようですね。このまま一気に行きましょう」
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)がゴッドサイトデバイスで敵の配置を捕捉しながら、仲間に伝えて交戦を回避し、神殿内の奥まで進む。やがてケルベロス達は、暗殺部隊を率いるシャイターンの部屋の前まで辿り着く。
そして戦闘態勢を整えながら、覚悟を決めて扉を開き、部屋の中へと雪崩れ込む。
「あなたが暗殺部隊の指揮官ね。わたし達はケルベロス、少し話を聞かせてもらっていいかしら」
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が身構えながら、室内にいたシャイターンの男と対峙する。
「ケルベロスだと!? 馬鹿な、一体どこから……まさか、デスバレスを介して通ってきたのか」
暗殺部隊を率いる蝕血のヴァンド・アル・カディアは、ケルベロス達の想定外の襲撃に驚くが、死神の手引きによって死者の泉まで侵入したと推測する。
ケルベロスは死神と同盟関係を結び、死神は死者の泉の奪還を、ケルベロス達はアスガルドゲートの破壊を目的として協力しているのだろう。全ては彼の勘違いでしかないが。
「……成る程、お前達の狙いは分かった。ここは一つ話し合いをしようではないか。ただ噛み付くだけの狂犬ではあるまい」
今は彼らと戦うよりも、利用するのが得策と。そう判断したヴァンドは、自ら交渉を持ち掛ける。
片やケルベロス側も相手の出方次第では交渉も視野に入れていた為、申し出を受け入れる事に異論なく、斯くして双方共に一旦武器を収めて、話し合いの場を持つ事にした。
(「何だこの胸を圧迫するような感覚は……嫌な予感がする」)
黒い翼に紫紺の炎を纏った男。ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)はその毒々しい炎の色を目にした途端、失くした心に灯る地獄の炎がざわつき始め、妙に不快な気分を感じ取る。
「戦いはオレ達ケルベロスが圧倒的に有利な状況だ。死者の泉の制圧も間もなく終了する。そうすりゃ、アスガルドゲートの破壊も直に叶うだろうさ」
抵抗は無駄だと牽制するかのように、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は誇張交じりに戦況を伝える。
キソラの言葉を聞いたヴァンドは、状況的に間違った事は言っていないと彼らの事を信用する。それに目の前の番犬達を突破し、双魚宮から脱出しても、制圧された失態によって、全てのシャイターンがコギトエルゴスム化のような罰を受ける可能性が高いだろう。
ならば一先ず彼らの話に乗りながら、より良い条件を引き出そうと、ヴァンドは頭の中で策を巡らす。
「確かに、死者の泉は全ての魔導神殿群『ヴァルハラ』の最奥、アスガルド・ゲートの喉元に位置する。だが、それが即ちアスガルドゲートの危機とはならないのだよ。魔導神殿にはアスガルドゲートを守護する鍵の役割がある。つまり、魔導神殿群ヴァルハラを制圧しない限り、アスガルドゲートに触れる事さえできないのだ」
死者の泉を制圧したとて、アスガルドゲートの破壊までには至らない。ではケルベロス達はどう対策するのか、案が無ければ有利な情報だけ得てエインヘリアルの所に逃げれば良いと、ヴァンドが不敵な笑みを薄っすら浮かべる。
「果たしてそうかのぅ? 死者の泉に我らが攻め込んだ事に、エインヘリアルは気付いておらぬ。この双魚宮を制圧した事で、我々はここに大軍を展開出来る。つまりは、全ての魔導神殿を最大戦力で奇襲する事も可能というわけじゃ」
すると端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が異を唱えるように、ヴァンドの疑問にすかさず答える。
ヴァンドはふむ、と括の案に頷きながら、このやり取りを愉しむように話を続ける。
「なかなか考えられた作戦だな。だが、少し遅かった。既に各宮殿には、王子を筆頭とした主力軍団が展開しており、地上侵攻の準備に入っている。つまり、奇襲の効果は、限定的なのだよ」
ケルベロス達の作戦も、エインヘリアルの大軍勢の前では決して有利なわけではない。
それにヴァンドも暗殺計画を目論むからには、各宮殿の位置や展開している軍団の戦力配備なども把握している事だろう。
即ちこれは取引である。ケルベロス達も相手の意図を察知しており、どこまで譲歩し、応じるか。その決断力が試される――。
●ヴァンドの計略
ヴィルフレッドはここまで敵の態度や表情を観察しつつ、伝えられる情報に嘘偽りはないと、冷静に考え、分析する。とは言えまだ油断をしてはいけないと、警戒心を解かずやり取りの全てを注視する。
「お前はエインヘリアルに不満があるんだろう。それにいつかはエインヘリアルに下剋上を起こそうと、反旗を翻すつもりじゃねえのか? だったら力を貸さないでもないぜ」
「僕達メリュジーヌも仲間になって、妖精八種族は、悉くエインヘリアルを離反している。もし僕達みたいに定命化を受け入れるなら、いつでもそれを歓迎するよ」
双吉は暗殺を企むヴァンドの感情を汲み取り、働き掛ける。オズもメリュジーヌとして、エインヘリアルから解放されてケルベロスの一員となった喜びを伝え、ヴァンドの心を揺さぶろうとする。
もし定命化を受け入れたなら、数十年の寿命で死を迎え、永遠の生命を失くしてしまう。彼ら暗殺部隊の目的は、シャイターンとしての力を誇示する事のみ。故にケルベロス達の下に付く事などは、あり得ない。
「我らの望みは、アスガルドを支配する事だ。お前達がアスガルドゲートを破壊するというのならば、我らはアスガルドに戻って後方を撹乱してみせよう。そして、ゲートを破壊した後、アスガルドは我らシャイターンの地となるだろう」
定命化を拒み、デウスエクスのまま、エインヘリアルに代わってアスガルドの支配者となる。それこそが野心家ヴァンドの計画なのだ。
だが例え支配したとしても、アスガルドのグラビティ・チェインは何れ枯渇してしまう。その問題についても、ヴァンドは対策を練っていた。
「それと死者の泉は、管理者であるシャイターンに譲ってもらう。これが唯一の条件だ」
ケルベロスとの戦争でエインヘリアルが全滅すれば、数百年分のグラビティ・チェインが得られるだろう。更に死者の泉を使って、サルベージしたエインヘリアルを即座に殺せば、半永久的にグラビティ・チェインを確保でき、ゲートを破壊されてもアスガルドでの生存は可能だという計算だ。
ケルベロス達としても、流石にこの条件だけは認めない。となれば、これ以上の交渉を続ける事は困難だ。
そろそろ引き際かと思った矢先――括のマインドウィスパー・デバイスが、アストライア撃破の報せを受信した。
今回の作戦の目的を達成した今、もはや眼前のシャイターンに用はない。
「……残念ですが、死者の泉を渡すわけにはいきません。それに、あなた達は仲間にするには信用できなさ過ぎます」
ウィッカの冷たい視線が相手を見据え、交渉は決裂したと打ち切った。
「定命化を受け入れねェ時点で、お前達は、敵(デウスエクス)なのだからな。そもそも、王子の軍団が宮殿に居る事くらい想定済みだ。その全てを打ち砕いて、オレ達はアスガルドゲートを破壊してみせる」
シャイターンの力に頼らずとも、エインヘリアルに勝ってみせると、キソラが力強い口調で言い放つ。それは相手に対する宣戦布告の意味でもあった。
「馬鹿な……我々が後方を撹乱しなければ、お前達が宮殿を攻めている間に、アスガルドゲートから双魚宮へ軍勢が攻め寄せるぞ。その軍勢から双魚宮を護りながら、王子の軍団が護る魔導神殿を攻め落とせるわけが無い。双魚宮が奪還されれば、お前達は帰る道を失って敗北するのだ!」
交渉が失敗に終わったヴァンドは、狼狽えながら負け惜しみを言うが、その声を聞き入れるケルベロスは一人もいない。
「わたし達が王子の軍団を撃破するまで、双魚宮を護ってくれる存在に心当たりがあるわ。信頼できる仲間とは言えないけど、あなたよりは全然マシよ」
最後にキアリが、死神勢力の増援を仄めかし、後は残ったシャイターンを倒すのみだと布陣を展開。
「くっ……我らと手を組まなかった事を、後悔させてやる!」
番犬達は最初からその心算など無かったと知るや、ヴァンドは怒りの形相を浮かべ、翼の炎が一層激しく燃え盛る。
そして柱の陰から、一連の様子を監視していた女のシャイターン、冷たき慈悲のハナーンが姿を顕わし、交渉の舞台は一転して戦いの場へと変貌していく。
「その紫色の炎を見ると、何故だかすごく、自分自身が抑え切れないんだよね」
相棒のライドキャリバー・ディートに跨り、ヴィットリオが加速しながら炎を纏い、ヴァンド目掛けて一直線に疾駆する。
最初は貴様から灼いてやろう、と突撃してくるヴィットリオに向けて、ヴァンドが炎の弾を発射する。だがオズが咄嗟に割り込み、矢を番え、迫る炎の塊を撃ち落とし、オズに続いてウイングキャットのトトが鋭い爪攻撃で威嚇する。
「やっぱり同じ妖精族でも、君達は相容れないみたいだね。だったら僕も、容赦しないよ」
●叛逆者の末路
結局こうなる事は予測していた。ケルベロス達はあくまで予定通りの行動を取ったまで。エインヘリアルとの秤にかけていたシャイターンとは対照的に、戦闘に関しても万全の備えで、戦いを有利に進めていった。
「もう動きは見切ったからさ。無駄な抵抗は止めたらいいよ」
戦闘中、ヴィルフレッドは敵の動作を見極め、行動パターンの全てを把握。漆黒の銃を構えて照準を合わせ、相手の次の一手を推測し、最適解を導き出す。
「残念だったわね。下らない暗殺計画もこれまでよ」
オルトロスのアロンを従えながら、キアリがハナーンに狙いを定めて攻撃に出る。
まずはアロンが口に咥えた剣で斬りつけ、キアリが間合いを詰めて隙を狙う。
敵の刃を掻い潜り、強く踏み込み、闘気を纏った拳をハナーンの肚に叩き込む。
その直後、距離を取ろうとハナーンが後ろに飛び退る。そうした対応もヴィルフレッドは既に見抜いていた。
トリガーを引き、銃から放った弾丸は、着弾すると炎が爆ぜて、敵の身体を灼き焦がす。
「ひふみよいむな。黄泉路の馳走じゃ、存分に喰らうてゆかれよ」
括の手にした二挺の銃が火を噴いて、そのうち一発は地面に向けて撃ち込んだ。その弾丸を媒介として、相手の縁を括って捕縛する。
ハナーンの足元に広がる幻影、彼女に視えているモノは、今まで殺めた者の無数の手。
血塗れた数多の手の群れが、常世に引き摺り込むかのようにハナーンを掴んで離さない。
「こちとらハナから、てめぇらと連むつもりはなかったけどな」
双吉が翼に纏った黒い残滓を右腕に這わせ、掌を広げて力を溜めると、熱を帯び、次第に赤く変化していく。
「なーんか肌に合うんだよなぁ、柄の悪い連中の技ってよー。まっ、嬉しくもねぇが」
その翼はシャイターンの翼を模倣したかのような形状で、自分の精神的にも似たところがあると、双吉が苦笑しながら力を使う。
黒と赤とが混ざり合い、滾るマグマの如く燃え上がる。そこへ螺旋の力を掛け合わせ、うねる紅蓮の渦がハナーンを呑み込み、巨大な炎の嵐となって、血肉も骨も灼き尽くし、一片たりとも跡形残らず消し去った――。
「おのれ……こんな所で死ぬわけには、いかんのだ!」
いよいよ追い詰められたヴァンドが焦りの色を見せながら、死に物狂いで番犬達に襲い掛かる。
禍々しい毒の炎を周囲に放ち、浴びせた相手を蝕み、侵し、死に至らしめんと苦しめる。
――失った筈の感情に、熱い心が蘇る。ヴィットリオの双眸に映るシャイターン、その男だけは赦しておいてはいけないと、薄らぐ記憶の中の自分が訴えかける。
「この程度の毒など――全てを焼き付くせ、燃え盛る炎の不死鳥よ!」
ヴィットリオの全身から噴き出る白い炎が、鳥の翼のように広がって、仲間を包み、蝕む毒を浄化していく。
「どこに逃げても無駄だから。お前を倒して、僕達が勝利を掴み取る」
オズが奏でる歌声は、絶望の闇を照らす月光の如く、未来への希望を齎す勇壮なる調べ。
紡ぐ英雄譚に仲間の闘志が奮い立ち、全てを終わらせるべく、火力を集めて攻め立てる。
「逃がさない――汝、動くこと能わず、不動陣」
ウィッカが魔法を発動させて、虚空に描いた五芒星がヴァンドの足元に浮かび上がる。
そして呪文を唱えると、魔法陣から聖なる光が溢れ出て、シャイターンの悪しき力を封じ込める。
「さあて、コイツで終いだ。ドウゾ、とっておきを――」
魔力を帯びたキソラの瞳が、ヴァンドの姿を捉えた瞬間――ヴァンドの意識は精神世界の檻に囚われてしまう。
男の眸に映るのは、熱くて凍てつく氷の焔。鋼の牙が消えない疵を刻み込み、刃が織り成す牢獄からは抜け出せないまま、恐怖と苦痛にのたうち回り、繰り返される悪夢の終焉――グシャリ、と鈍くて重い低音が、昏い世界の中で最後に響く。
キソラの手には、竜から削ぎ落とした白い巨骨。そこから朱い雫がポタリと落ちて、地面には動かなくなったヴァンドの死骸が横たわっていた。
「裏切るも、裏切られるも、自業自得といったところかのぅ」
野心に振り回された男の哀れな末路を、見届け終えると括は踵を返して、帰路へ向かう。
「……イグニスは、またどこかに復活しているのでしょうか」
ウィッカがふとした疑問を、ぽつりと呟く。
この暗殺部隊は、嘗てイグニスを支持した者達と聞く。今回の彼らの企みも、何か繋がりがあるのだろうかと、そう考えるものの真相は分からず。
「まあ一応任務は果たした事だし、次は戦争の準備をしないとね」
イグニスの事も気になるが、今は待ち受ける大きな戦いに専念するより他にない。
キアリはふぅっと息を吐きながら、早くの皆のところに帰ろうと、仲間と共に部隊の残党を狩りつつ、出口を目指して駆け出した――。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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