双魚宮「死者の泉」潜入戦~破壊と炎熱の后妃

作者:雷紋寺音弥

●焔の后
 双魚宮。それは定命の者をエインヘリアルに転生させる、彼らにとっての重要施設。
 だが、重要な場所であるにも関わらず、その存在は今まで公の場に姿を見せることはなかった。単なる転生施設である以上、直接的な地上侵攻には関与しないため、制御を担当する者以外は常駐していなかったのである。
 そのような場所だからして、双魚宮に残されている者は、戦争時に戦力外とされるシャイターンの軍勢が大半だった。しかも、彼らの大半は敵襲もないということで油断しきり、連日酒盛りで賑わっている始末。
 もっとも、どのような集団の中にも、変わり者というのはいるものである。特に、武芸に秀でた者達ともあれば、同胞の放蕩ぶりに呆れ果てる者も出てくるわけで。
「ああ、退屈だわ。なんで、この私が留守番なんか……。上の連中は、何にも分かっていない……いえ、分かっているからの仕打ちかしら?」
 大きく身体を伸ばしながら、シャイターンの女が誰に言うともなく口にした。燃えるような赤い髪、煌々と輝く太陽の如き色の瞳、そして全身に刻まれた焔のタトゥからは、絶えず凄まじい熱が放たれている。
 炎后・ブラッドレイン。『炎』と『略奪』を司るシャイターンの中でも、特に強大な力を持つとされる危険な女。動けば必ず屍山血河が生まれる人の形をした『蹂躙』とされながら、しかしその戦術眼もまた極めて鋭く、敵対者を絶望させることに至高の喜びを感じる魔性の存在。
 クレバーかつ残酷。そんな言葉が相応しい彼女は、その手に握り締めた炎斧の力を振るえる相手が現れることを心待ちにしつつ、心の靄を払うようにして空虚な闇の中での鍛錬を続けていた。

●生と死の狭間へ
「召集に応じてくれ、感謝する。お前達がブレイザブリクの探索に成功したことで、ついに死者の泉の『門』を開く事が出来た」
 ここまでの地道な努力が実を結んだ結果だと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。そして、『門』を突破したことで、双魚宮「死者の泉」も含めた魔導神殿群ヴァルハラの状況を予知することも可能になったと付け加え。
「現在、魔導神殿群ヴァルハラでは、王族が率いる複数の軍勢が戦争の準備を行っている。1か月後には、複数の神殿を地上に侵攻させる大作戦を行おうとしているようだな」
 仮に『門』の探索が間に合わなければ、大変なことになっていた。だが、『門』が繋がった今こそ、こちらから攻め入る絶好の機会。双魚宮「死者の泉」は、その性質上、地上侵攻作戦には加わらない。そのため、戦力外のシャイターンの軍勢が駐屯しているだけで、しかも油断しきっている。
「この状況を利用すれば、転移門を利用した作戦で主だった敵を撃破し、死者の泉を制圧できる。後は残りのシャイターンを降伏させてしまえば、他の神殿に知られる事無く双魚宮を制圧する事も不可能ではないはずだぜ」
 双魚宮は魔導神殿群ヴァルハラの中でも後方に位置しており、それ故に侵入者が来る事はありえないと油断しきっている。敵もまさか、こちらが転移門を利用して侵入してくることまでは、さすがに予想していないのだ。
 もっとも、『門』で一度に転移できるのは8人ずつなので、一気に大部隊を送り込むことはできない。転移先は双魚宮内の『隠された領域』となり、そこに少数精鋭で突入し、有力な敵を各個に叩いて行くことになるだろう。
「双魚宮の警備は、他の神殿に比べても手薄だからな。転移した直後に、一気に目的地まで侵攻することが可能だが……運悪く発見された場合は、騒がれる前に敵を瞬殺して行けば、まあ問題はないだろう」
 むしろ、問題なのは今回のターゲットとなるシャイターンだとクロートは告げた。その名は炎后・ブラッドレイン。半裸に炎のタトゥを刻んだだけの扇情的な格好をしているが、彼女も立派なシャイターン。『炎』と『略奪』を司る種族であることに変わりはなく、その肢体に見惚れていると、手痛い反撃を食らうだろうと。
「ブラッドレインの戦闘力は、今回の任務でターゲットになっているシャイターン達の中でも最強クラスだ。力も強く、頭もキレる上に、恐ろしく冷酷かつ残虐だ。唯一の幸いは、周りに配下がいないことだが……要は、配下などいなくとも、お前達8人くらいを纏めて相手にするだけの力を持っているということだ」
 不意を突いて奇襲を仕掛けられたとしても、最初の一発を当てるのがせいぜいだろう。そこから先は、正面からの真っ向勝負。彼女の個人戦闘力はケルベロス達のそれをも凌駕するため、正面から1対1で戦って勝てるような相手ではない。そのことを念頭に置いた上で、しっかりと役割を分担して戦うことが重要になる。
「敵の準備が整う前に、逆侵攻のチャンスを得られたのは僥倖だったな。油断しきったシャイターンを降伏させれば、双魚宮を足掛かりにして、アスガルドゲートを攻略するアスガルド・ウォーを発動させる事も可能になるはず……」
 その時こそが、エインヘリアルと決着をつける時なのかもしれない。決戦の時が刻一刻と迫る中、勝利のために必要な布石は、少しでも積み重ねておきたいところ。
 今まで積み上げて来た勝利を生かせるか否かは、この戦いに掛かっている。そう言って、クロートはケルベロス達に、改めて双魚宮の攻略を依頼した。


参加者
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●本物はどれ?
 門を超えて双魚宮へ転移するや否や、ケルベロス達は早々にゴッドサイト・デバイスを展開した。
 情報によれば、ブラッドレインは他のシャイターンとは異なり、単独で行動しているはず。となれば、後は場所を探り当て、そこに奇襲を仕掛けるだけかと思われたのだが。
「えっ? これって……」
「バラバラの点が一つ、二つ、三つ……思ったより、たくさんあるね」
 デバイスの画面に目をやりつつ、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)と影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は、互いに顔を見合わせた。
 多数の点が一カ所に固まっている場所は、恐らくシャイターンの4王などがいる場所なのだろう。だが、それでは残る散在した点はいったい何か。この中のどれかがブラッドレインであるのは、間違いないはずなのだが。
「少し、詰めが甘かったようですね。ブラッドレイン以外にも、その辺を好き勝手に動いているシャイターンがいることを考慮しておくべきでした」
 空木・樒(病葉落とし・e19729)が、ヘリオライダーの言葉を思い出して呟いた。
 万が一、目標の敵を見つける前に発見された場合、攻撃を集中させて騒がれる前に倒せば問題ない。それは、裏を返せば単独行動をしているシャイターンが、ブラッドレインの他にも存在するということだ。
「点の大小などで、敵の戦闘力が判明するような機能があれば便利だったのだが……」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)が頭を抱えながら口にしたが、ここまで来てしまった以上、引き返すというわけにも行かなかった。デバイスの機能を十分に理解していれば、あるいはその欠点を補完する策を見い出せたかもしれないのだが。
「ん、仕方ないね。とりあえず、近くの敵から順番に倒して行こう」
「今のところ、そうする他になさそうですわね……」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の言葉に、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が頷いて答える。確かに、現状では虱潰しに散在する点へ接触し、奇襲を仕掛けて行く他にない。
 デバイスの情報を頼りに、ケルベロス達は双魚宮の中を進んで行った。点が密集している場所は、迂回してでも避けて通る。他のメンバー達が激しい戦いを繰り広げている最中に、迷い込みでもしたら一大事だからだ。
(「あれ……? もしかして、あれがブラッドレイン?」)
 何やら随分と露出度の高い格好をしたシャイターンが鼻歌を歌いながら座っているのを見て、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)が足を止めた。ここからでは距離があり、おまけに後ろ姿だけなので、あのシャイターンがブラッドレインかどうかは分からない。しかし、ここで見逃すつもりもないので、とりあえず先手必勝だ。
「……てやぁぁぁぁっ!」
「おわっ! ちょっと、いったい何……うぎゅっ!?」
 振り向いたシャイターンの顔面に炸裂するシルの飛び蹴り。直撃を食らったシャイターンの女は、反動で宮殿の柱まで吹っ飛んで行き……盛大に激突した後に、そのまま目を回して動かなくなった。
「どうやら、ハズレだったようだな……」
 完全にノビているシャイターンの女を前に、リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)が溜息交じりに呟いた。騒ぎにならなかったのは幸いだが、これは思っていた以上に効率が悪い。
 とりあえず、ここで目を覚まされると面倒なので、このシャイターンは倒してしまおう。それぞれ、無言のまま頷くと、ケルベロス達は気絶したままのシャイターンに向けて、情け容赦ない必殺攻撃の嵐をお見舞いした。

●ハズレの果てに
 デバイスの情報を頼りに、双魚宮の探索を続けるケルベロス達。途中、何度か散在している点に対して攻撃を仕掛けたが、そのどれもがブラッドレインではない雑魚ばかり。
「残る点は、後三つか……」
「できれば、今度こそ本命でありたいところですね」
 デバイスの点を指し示す銀子に合わせ、樒がレスキュードローンを展開した。これで双魚宮内を索敵していると見せ掛け、相手の注意を逸らした隙に、一斉に攻撃を仕掛ける作戦だ。
 果たして、そんな彼女達の努力が報われたのか、レスキュードローンの存在に気づくや否や、シャイターンの女は手にした斧で、果敢にそれを斬り付けた。
「……堅っ! なんなの、これ!?」
 想像以上の頑強さに、目を丸くする女シャイターン。そこを逃さず、リリエッタが銃を構え、彼女の手首を狙って撃ち抜いた。
「痛っ! しまった、これは囮ってわけね」
 咄嗟に振り向く女シャイターンの身体に刻まれたタトゥから、一斉に炎が溢れ出す。間違いない。今度こそ、本当に本物のブラッドレインだ。
「まだまだ! 隙あり!!」
 続けて、シルがブラッドレインの足下目掛け、その足を砕くべく蹴りを食らわせる。が、さすがに本物のブラッドレインは、そう甘い相手ではない。
「おっと、そうはさせないわよ」
 咄嗟に紅い焔の力を纏った戦斧で薙ぎ払い、シルのことを叩き落とした。咄嗟に空中で受け身を取り、シルはなんとか無事に着地して。
「……と、危ない、危ない。あなた、強いんだってね。まあ、今の攻撃を避けるくらいだし、噂通りの実力かな?」
「だったら、どうしたって言うのかしら? まさか、私の強さを知った上で、喧嘩を吹っかけようってつもり?」
 不敵に笑うシルの言葉にも、ブラッドレインは何ら動揺する素振りさえ見せない。圧倒的な実力差を持つ、強者故の余裕だろうか。もっとも、相手がそれだけ強いのであれば、シルにとっても好都合。
「不謹慎だけど、ちょっとわくわくしちゃうの。それじゃ、やりましょうかっ!」
 そう、彼女が叫ぶと同時に、他のケルベロス達も現れて一斉に攻撃を開始する。真っ向勝負で適わないのは百も承知。ならば、ここは手数を稼いで相手を消耗させる他にない。
「門を護るシャイターンの中でも最強、か。単身でも我らを倒せるというその意気込み……気に入った! ならば私も戦士として、戦いを通し敬意を示そう」
「敬意? 私は別に、戦えれば何でも構わないわ」
 ジークリットの言葉を鼻で笑い飛ばし、タールの翼を広げて構えるブラッドレイン。どうやら、あまりお友達になれるような相手ではなく、理解し合える存在でもなさそうなわけで。
「ようやく掴んだこの機会を、逃すわけにはいかないよね」
 木の葉を纏い、自らの力を高めるリナ。同じく、樒とルーシィドもまた、それぞれの力を仲間達に与えて行く。
「大切なのは初撃です」
「後ろは、私達にお任せください!」
 賦活の電撃が、銀色の粒子が、共に戦う仲間達の力を強化する。それらを受け、リィンと銀子、そしてジークリットが、一斉に攻撃を開始した。
「まずは、これで……」
「その動きを、止めさせてもらうぞ!」
 銀子とジークリットの拳がブラッドレインを殴り飛ばし、続け様に放たれるリィンの蹴り。待機の摩擦が熱を呼び、それは焔となってブラッドレインに食らいつく。
「へぇ、やるじゃない。だったら、私もちょっと本気を出そうかしら?」
 それでも、ブラッドレインもまた強引に踏ん張って攻撃を受け止めると、お返しとばかりに焔の斧を回転させて、燃え盛る熱風のカマイタチを放って来た。
「あなた達が私の動きを止めるなら、私はあなた達の加護を焼きつくしてあげるわ!」
 燃える風の刃は、やがて収束して溶岩の如き塊となり、銀の粒子を焼き払って行く。互いに妥協を許さない必死の攻防。焔の后との戦いは、まだ始まったばかりだ。

●その名は蹂躙
 辛くも奇襲を成功させ、激しい攻防を繰り広げ始めたケルベロス達。だが、実際に対峙してみると、奇襲された事など嘘のように、ブラッドレインは存分にその強さを発揮して、ケルベロス達を追い詰める。
「どうだ、リリ。まだ、行けそうか?」
「ん……なんとか、ね……。あのカマイタチだったら、まだギリギリ耐えられると思う……」
 自ら盾となり仲間を守るリリエッタとジークリットの二人。他の者達に比べても、彼女達はかなり激しく負傷していた。
 原因は、同じ隊列に過剰なまでの仲間が固まっていることだ。広範囲に攻撃を拡散させれば、個々の威力や効果は低下しても、総ダメージ量ではむしろ少数精鋭で受け止めた時よりも負傷の度合いが高くなってしまうこともある。
「うふふ……随分と頑張ってるみたいだけど、中には守りが甘い子もいるみたいね」
 ブラッドレインの顔が、獲物を見つけて甚振る時の形に歪んだ。その視線の先にいるのはルーシィド。デバイスで仲間を守り、回復で仲間を支える彼女は、しかしブラッドレインの攻撃に対して、何ら耐性を持っていない。そんな彼女に、狡猾で残虐なブラッドレインが目をつけないはずもなかった。
「ルー、下がって!」
 間一髪、割り込んだリリエッタが、ルーシィドに代わってブラッドレインの放った炎弾を受け止めた。だが、傷付いた身体で強烈な一撃を正面から食らった代償は大きく、それが彼女の限界だった。
「ああ、美味しい。やっぱり、小さな女の子の魂って最高ね。エインヘリアルの連中は魂の選定をしろって煩いけど……こういう穢れなさそうな魂は、むしろ食糧にする方が好みだわ」
 自分の狙いは、最初から護り手であるリリエッタだった。そう言わんばかりの表情で、舌なめずりをするブラッドレイン。
「貴様……よくもリリを!!」
 他人を食糧扱いするブラッドレインに対し、怒りを露わにしてジークリットが殴りかかった。が、彼女の振るった拳は虚しく宙を泳ぎ、ブラッドレインはタールの翼を広げると、軽々と攻撃を回避した。
「熱くなり過ぎですわ、ジーク様。挑発に乗っては、敵の思う壺です」
 せめて、ジークリットだけでも倒れさせまいと、ルーシィドは叫びつつも大地の加護を広げて行く。本当は、自分だって怒りをぶつけたいし、感情のままに叫びたい。しかし、それでは身を呈して自分を守ってくれたリリエッタに申し訳が立たない。
「残りの人は、私に任せてください。これ以上は、わたくしの前で仲間が倒れ伏すなど、決してさせたりは致しません」
 回復薬を仕込んだ長針を、一斉に投函する樒。その言葉に、リィンもまた頷いて。
「同感だ。これ以上、仲間をやられて堪るものか! 全員、私に続け!!」
 髪留めを更に固く縛り直し、強烈な蹴撃を食らわせる。まずは一発、彼女の蹴りが大気との摩擦で炎を呼ぶが、炎はブラッドレインも得意とする攻撃手段。当然、焔の斧で受け止められて威力を殺されてしまうが、それでケルベロス達の攻撃が終わったわけではない。
「まだまだ! 今度はこっち!」
「私がいるのも、忘れたらダメだよ!」
 左右から同時に斬り掛かるシルとリナの二人。互いに交差するような形で刃を重ねて斬りつければ、最後は銀子が束縛の鎖を解き放ち。
「よし、捕まえたわ! 後はこれで、一気に攻撃を集中させれば……」
 相手の逃げ道を塞いだことで、微かな勝利を確信する。もっとも、そんな状況に追い込まれてなお、ブラッドレインは余裕の表情を浮かべていた。
「こんな鎖で、私の動きを封じたつもり? ……甘いわね」
 瞬間、彼女の全身に刻まれたタトゥから激しく炎が噴き出し、それが彼女の身体を蝕む拘束を取り払って行く。それだけでなく、焔はブラッドレインの傷口を覆い、彼女の受けた負傷を瞬く間に焼き消して行くではないか。
「はい、これで仕切り直しね。どう? 必殺技を用意していたのに、それを使えなかった気持ちは?」
 さすがは、この双魚宮にて最強のシャイターン。冷静にして残虐。人の形をした『蹂躙』の異名の由来を、まざまざと見せつけられるケルベロス達だった。

●焔后の最後
 激しさを増す焔后との戦い。幾度となく繰り返される攻防は、その度に両者の体力を激しく奪い、癒せぬ傷を刻んで行く。
 見れば、既にジークリットもまた、力を使い果たし倒れていた。リリエッタが倒れた以上、仲間を守れるのは彼女しかおらず、それ故に攻撃が集中してしまうことは避けられなかった。
「はぁ……はぁ……。あなた達、なかなかやるわね」
 だが、それでもケルベロス達は、確実にブラッドレインを追い詰めていた。現に彼女もまた全身の傷を癒すことができず、タトゥの力を以てしても、体勢を立て直しきれないのだ。
「これ以上は、遊んでいる余裕もなさそうね。悪いけど、一気に終わりにしてあげるわ!」
 それでも、未だ瞳の奥に闘志を宿すブラッドレインは、決して諦めてなどいなかった。
 焔の斧を回転させて、紅蓮のカマイタチでケルベロス達を攻撃する。二人の守り手を失った今、それらは空中を飛んでいる者も含め、ケルベロス達の肉体を直接焼き焦がし蝕んで行く。
「きゃぁぁぁぁっ!」
「そ、そんな……ここまで来て……」
 リナが、銀子が、それぞれ焔の刃に切り刻まれながら力尽きた。それだけでなく、他の者達も激しく負傷しており、これ以上は限界だった。
「あはははは! 戦場では、弱い者から食われるのよ!」
 もはや勝利は目前と、勝ち誇った様子で笑うブラッドレイン。しかし、全員が倒されていない以上、まだケルベロス達が負けたわけでもなく。
「ま、まだまだ……ここからは、全力全開っ! 最大火力で押し通させてもらうからっ!」
 最後の力を振り絞り、シルが精霊の力を収束させて行く。威力の代償に射程を犠牲とした攻撃は、この状況では捨て身にしかならないが。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
「な、なんですって!?」
 まさか、自分から飛び込んで来るとは思わなかったのか、これにはブラッドレインも面喰らった。そして、反応が一瞬だけ遅れたところへ、シルの全身全霊を掛けた一撃が炸裂し。
「今だ! 宿業の鎖、断ち切るはお前の役目だ、樒!」
 トドメは任せたと叫ぶリィン。その言葉に静かに頷き、樒は影の刃を展開して行く。
「貴方ほど、恨みを晴らしてほしいという依頼が来ている方はいませんよ。悔いる必要などありません、ただ滅びて下さい」
「……がはっ!!」
 正確無比な樒の攻撃が、ブラッドレインの胸元と眼球、そして喉笛を同時に貫く。脳髄に心臓に頸動脈。急所を同時に穿たれれば、さすがの彼女とて生きてはいまい。
「ぞん……な……わだじが……ごんなどごろ……で……」
 最後まで己の敗北を信じられぬまま、ブラッドレインの身体が焔に包まれ消えて行く。その姿を見て、ようやく安堵の溜息を吐くケルベロス達。
 前哨戦にしか過ぎないこの戦いで、ここまで強いシャイターンが存在していたとは。決戦の日に彼女と遭遇しなくて済んだことを喜びつつ、負傷した仲間同士で肩を貸し合いながら双魚宮から撤退した。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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