なぜか胸がどきどきする大きな岩

作者:ほむらもやし

●ことの始まり
 熊本県は天草諸島、苓北町の某所に、乳房の形をした巨岩がある。
 この巨岩に触れると、胸が大きくなるとか、良いお母さんになれるとか、様々な御利益がまことしやかに語られ、「おっぱい岩」と呼ばれて、地元の人のみならず、世界中の人に愛されていた。

 しかし異変が起こった。
「ひどい、非道すぎる。いったいだれがこんなことを?!」
 素晴らしかった、おっぱい岩が鉄板で叩き潰したかのように粉砕されて、その破片が平坦に並べられていた。

「大変な事件が起こりました。天草諸島にある、世界の人々を魅了して止まない、あのおっぱい岩が、デウスエクスの襲撃により破砕されてしまいました!」
 ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)は怒りと悲しみを込めて叫ぶと、共に修復に向かってくれる者を募り始めた。
 破壊したおっぱい岩を破壊するのみならず、平らに並べるなど、女性の胸の美しさを否定し、愛でる精神を踏みにじる悪行。

「少し取り乱してしまいましたが、人的な被害はありませんでしたわ。これは不幸中の幸いと言えます。ですが、おっぱい岩の無残な姿をこれ以上晒させるわけには行きません」
 美しいおっぱいを思い浮かべて、しっかりとヒールを掛ければ、必ずやおっぱい岩はもとの姿を取り戻す。
 犯行に及んだデウスエクスは、してやったりと、今頃ほくそ笑んでいるのだろう。
 せこい手口には腹が立つが、それはほんの一時のこと。ヒールを掛ければ修復はすぐに出来る。
「さあ、行きましょう。ケルベロスの力を示す時です。MAKE BREASTS GREAT AGEIN!」


■リプレイ

●冬の天草灘
 ざざーん。潮の引いた岩場に波が打ち寄せる音が響く。
 そして急に賑やかになる。
「元の写真を見てみましたけど本当にその……アレですね」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は呆けたような表情で平らに並べられた巨岩の残骸を見つめた。
 破壊されてなお、ひと目でそれと連想できるワンポイントは健在。
「おっぱい岩……」
 一拍の間を置いて、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が呟く。
 そこだけ声に出していうと、妙になまめかしいため、すました表情をつくる。
「はぁ……また、変なもののヒール依頼です……ね?」
 でもなかなか適切な語彙が思いつかない。
「って、え? 何これ。ものすごく……はい。お胸です……」
 頑張ったけれど、これが精一杯。
「これが自然にできたものなんですか。すごい……」
 写真で見ると自分の身長よりもずっと大きい。
 いい大人でも、思い切り胸にダイブできるサイズ。
 巨体で知られるエインへリアルの手にも余るだろう。
「噂には聞いた事あったけど、残骸でも、またこれは……」
 アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)は、参考写真と残骸を交互に見比べると、照れくさそうに、鈴の方を見る。
「うん、僕もだいたいイメージできた、そろそろヒールしなくちゃね」
「はい……みなさんも用意できているようです」
 誰に言われるわけでなく、壊された岩を囲んでヒールを掛けようとしていた。
 カイム・リーヴェルト(シャドウエルフの刀剣士・e01291)も、鬼城・蒼香(青にして蒼雷・e18708)と共に頭のなかに修復後のイメージを思い浮かべる。
「特定のイメージに偏らないように、皆でやるわけですか?」
「好みは誰にでもありますし、こういうのはただ直せば良いってものでもないでしょう」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなのです」
 少し首を傾げる、カイムに蒼香は諭すように言い、カイムは蒼香がいつまでも健康でいられるように願いを込めようと思う。
 考え方や感じ方はそれぞれ。
 そう言えば、昨晩の天気予報では、今日が今年一番の寒さになると言っていたが、海からの風を溜まらなく寒いと感じる者もいれば、さほど寒くないと感じる者もいるだろう。服装ひとつみても、コート姿の者もいれば、背中側の無い例のセーターを着ている者もいる。
「何か気になるのですか?」
「いえ、なんでもありません」
 カイムは突然の蒼香の問いかけに、慌てたように横に首を振った。
 さて始めようというところで、ミリムがボソリと呟く。
「どうせどっかの鳥の仕業なんでしょうね。こういうのは」
「この手際のよさ。本当にそう言い切れるのでしょうか?」
 ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)が首を傾げる。
 そのような小さいほうが好きなビルシャナはいたが、今回は破壊したあとで、何かを主張するように残骸を平らに並べてある点が特異だった。
「鳥も怪しいですが、なりを潜めている螺旋忍軍という可能性もありますね」
 羽毛でも落ちていれば、容疑を掛けやすかったのだが、残念ながら見つかっていない。
「そろそろ、ヒールを始めないとね?」
「そうですね。推理はそのくらいにして、早く元通りにしたいですね♪」
 促すようなアリアの声に、鈴、カイムと蒼香が「まったくその通り」と同意を示す。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、 道を示せ!」
 アリアの召喚した光り輝く狼の群れのエネルギー体が現れる。
 それが号砲となって、宙に紋章が輝き、或いは叫び、無数の光の粒が乱舞した。
 6人のそれぞれの思いを乗せたヒールが結集し、無残を晒していたおっぱい岩は虹色の光に包まれる。
 そして光が消えた後、おっぱい岩は復活した美しい姿を現した。

「酷い状態でしたがちゃんとヒールできて良かったです♪」
 立派で大きな胸になるように願いを込めたという蒼香。
 そんな様子にカイムはにこにこしている。
「色あいが更にリアルになった気がする……」
「そうだね。おっぱい岩にはご利益があるって聞くけど?」
 可愛らしく赤面する鈴の顔を見ながら、アリアは言う。
「あの岩……豊胸とか、ぼ……母乳が出やすくなるご利益とかあるんですね」
 無意識のうちに、胸を下の方から上にふにふに……していて、がっくしと下を向いてしまう。
「大きすぎても困るけど……もうちょっとくらいあっても、いいよね……」
「で、鈴はどう思っているのかな?」
「ふぇ!? い、いやですね。アリアさん、信じてるとか、胸の大きさ気にしてるわけじゃ?!」
 フォローのしようが無い。しどろもどろになってしまう鈴、一方アリアも聴いてはいけなかった呟きだったような気がして少し気まずくなる。
 何か話さなきゃ。
「鈴ぐらいの大きさでも十分好きだけどね」
「……そうですか」
 一拍の沈黙。そのあとに続く言葉が気になる。
「……ありがとうございます」
 内心ホッとするアリア。こうしておっぱい岩のヒールを終えた一行は温泉に向かう。

●温泉のある部屋
 国民年金宿舎は個室の小さな露天風呂とプールサイズの露天風呂も備えていた。
「まあー寄っていただいてありがとうございます!」
 デウスエクスによるおっぱい岩破壊のニュース以来、利用のキャンセルが相次いだ。この日、一般の利用者は居らず、ケルベロスだけの貸し切り状態になっていた。
「水着着用で入浴しても、差し支えありませんか?」
「はい、もちろん大丈夫です」
 従業員の返答に、蒼香は嬉しそうに目を細める。そしてありがとう、と笑顔のまま頷き返す。
「よかったです。楽しみですね」
 皆で楽しむのも良いかもしれないが、今日は大切な人と2人で過ごしたい。
 カイムも蒼香もそう言う気分だった。
 それを察したかのように案内されたのは、専用の露天風呂つきの個室。西に天草灘を臨む絶景である。
「いい感じの場所ですね、滑りやすいですし足元には注意で……」
 露天風呂はきれいに掃除されており、個室専用の露天風呂であるため、床は乾燥している。従ってよほど不注意でも無い限りすべって転ぶことは無さそうなのだが。
「眺めも良いです。今日は2人きりでゆっくり楽しみましょう」
 黒の水着に押し込まれた、蒼香の胸のサイズはメロンよりも大きい、121cmのSカップと言われる爆乳だ。そのようなものがあれば、意識はそこに集中して、注意が疎かになる。
「いま、そちらに行きます」
 最前線でのデウスエクス戦では、決して隙をみせることの無いカイムも、今は油断だらけだった。
 果たして、足の親指が敷石の凹凸にぶつかって激痛に見舞われるのは必然であった。
「おあっ、んんっ!!?」
 激痛と共に倒れ込んだカイムの顔面にきめの細かな布に包まれたような柔らかく温かな感触が来る。
 現金なもので、即座に痛みが消し飛ぶ気がした。
「むむむ」
 その感触の良さが、薄い水着の布で隔てられた蒼香の胸に由来することはすぐに分かった。
 谷間に顔を埋められて、カイムの両手が胸に触れている。
 カイムの手は冷たくて、蒼香の胸のほうが体温か高かった。
「このまま、もうすこしいいですか?」
「いつものスキンシップですか、仕方ありませんね」
「やっぱり大きい……」
 手の動く感触がして、くすぐったさと共に甘美な刺激が胸とは反対側の背骨から脳に駆け上がって来るような気がした。
 思わず、うめき声をもらす蒼香。
「ごめん。ちょっと調子に乗りました」
「いいですよ。もっとたのしみましょう。まだこれからですよ」
 夕方になれば海に沈む夕日も見えるかも知れない。
 夕焼けの光を浴びて陰翳をつくる蒼香の姿を想像して、その美しさに息が詰まるような気がした。
 楽しい時間は、まだ続きそうだ。

●遊びの時間
「温泉、楽しかったね。鈴はどうだった?」
「はい。……海の見える大きな温泉、良かったです!」
 プールサイズの露天風呂の感想を話しながら、宿舎の中を巡るアリアと鈴。
 宿舎では20世紀の後半を思わせるマッサージチェアやカラオケカセットのような電化製品が現役で使用されていて、それらを見つけて回るのも面白い。
「よく見ると照明はLEDですね」
「そのようだ。あっちは遊戯室になっているんだね」
「あれはパチンコの台ですね、昔のゲーム機もいろいろです」
 アリアの視線の先には、ゲームに熱中する浴衣姿のナオミがあった。
「シリーズ作は最近もリリースされているけれど、これはかなり前のバージョンだね」
「この格闘ゲームも私より年齢が上なのですね」
 リリースされたのは1991年らしい。昔風のイラストは褪色によって薄くなっていたが画風には見覚えがある。
「このゲーム、私が小学生の頃に流行っていましたの」
 当時最新の家庭用の据置型ゲーム機にも移植されてさらにヒットした。ナオミも友人の家に集まったり、デパートの最上階にあるゲームコーナーで盛り上がったりしたそうだ。
 そんなことを話していると、風呂上がりのミリムがやってくる。
「私も仲間に入れてくれませんか?」
「ミリムさんもやってみますか――」
「格闘ゲームですね……2P側との対戦もできますね」
「できますわよ。この緑色の肌のキャラクター、私もだいぶやりこみました」
 ちょっと自信たっぷりに言うナオミ。
「そうなんですか、ゲームは超下手ですが、ナオミさんになら勝てるか……も」
「どうして、その結論になるのですか?」
 眉をつり上げるナオミ。
「そういう解釈もあります……コンティニュー、ワンモア!」
 手にした50円玉に気合いを入れるミリム。
「仕方ありませんわね」
 強いフリをして頷くナオミだったが、ゲーム経験のアドバンテージと言うのは、小学生のころのもの。
 対するミリムも金髪の軍人風のキャラクターを選んで対戦開始。
 かくして。
「……どうにか勝つことができましたが、かなり厳しかったですわ」
「残念、なら次は、あちらにある卓球で、もう一戦。今度はアリアさん、鈴さんもどうですか?」
 フリーで使える卓球台は遊技場の真ん中の一番目立つ場所に設置されている。
 ネットも綺麗に張られておりいつでも遊べる状態だ。
「どうする鈴?」
「……そうですね。アリアさんさえよければ」
 遊技室にピンポン球を打ち合う軽快な音が響きはじめる。
 はじめは球の跳ね具合を確かめるように乱打しつつ、ラリーを続けてみる。
「なかなかラリーが続きませんわ」
 激しく動けば当然揺れやすいところは揺れる。浴衣にスリッパと言うのも危険だった。
 つまり卓球は胸が小さい方が有利だった。
「鈴さん、卓球がお上手なんですね」
 意外さにミリムは目をパチパチと瞬きさせる。
「……そんなことありません。でも、相性は良いのかも知れません……?」
 そう言って鈴は控えめに胸を張るのだった。
 窓から差し込む陽光が夕焼けの色を帯び始めていた。
「夕ご飯までは、時間があるみたいですから、もう一度、露天風呂の方に行ってみませんか?」
 少し汗ばんではいるが、ミリムが爽やかな表情で言うと、反対する者はいなかった。
「それでは、また後ほど……」
 天草灘に沈む夕陽を見ながら、皆で温泉の露天風呂を堪能したあとは、天草と島原、そして熊本の海と山の幸を使ったご馳走が待っている。お腹いっぱい食べたあとは、あたたかい布団も待っている。
 こうして破壊されたおっぱい岩を取り戻した、ケルベロスたちの短い休息の時間は更けてゆく。
 どうかこれからもお幸せに。いつまでも幸せを享受できますように。次に会うときも笑顔でいられるよう、祈りを込めて。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月13日
難度:易しい
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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