●双魚宮内部にて
ここは双魚宮の一角にある、少し広い部屋だった。その内部には十数体のシャイターンの姿がある。
「おい聞いたか? またブラッドレインが勝手に暴れているそうだぜ」
「ほっとけよ。あいつ、何考えてるかわかったもんじゃねえ……」
「とは言え、単独行動で武勲をあげられちゃあ、俺たちの立場がねえってよ」
「確かにそうだが、それよりもシャラール部隊のほうが厄介だと思うぜぇ……」
シャイターンたちはそんな話をしながら、自らの武器をタールの翼で弄ぶ。
「そこ、口を動かす暇があるなら、必ず敵を殺す術を編み出しなさい。今、すぐに」
するとその話をしたいたシャイターンに、凛とした声が突き刺さった。
「へーい。おおせのままにー」
「だがよお、姫さん……」
しかしその姫と呼ばれたシャイターン『紅蓮戦姫・サーラーフィ』の期待した反応は、どうやら得られないようだった。部下から蔑まれているわけではない。はっきりとやる気がないといった声だった。
「良いですか。今後必ず起こる地上侵攻作戦で武勲を上げるべく、我らは腕を上げねばならぬのです」
サーラーフィの言葉は、落ち着いたものだった。ただ、その他の言葉は切り捨てるといった迫力もあった。
「わかってますって。ただまあ、その『今後』ってやつもいつになるやら……」
一体のシャイターンは、そう言いながら大きくあくびをする。完全に気が抜けているのだ。
そのシャイターンを一瞥し、サーラーフィは最後にこう言った。
「勝てば良いのです。その為の手段に拘る必要はありません。他の部隊などに後れを取るわけには行かないのですから……」
●ところ変わってヘリポート
「ええか、ついにや。ついにブレイザブリクの探索に成功したで」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が目の前にいるケルベロス達に話しかけた。
「死者の泉の『門』は開いた。うちら、突破できたんや! となると、当然うちらで双魚宮「死者の泉」も含めた、魔導神殿群ヴァルハラの状況を予知する事に成功したんよ!」
おお……という感嘆の声が上がる。『門』の数はかなりの数だった。それを見事に成し遂げたのだ。
「そんで、わかったことや。あんな、どうやら魔導神殿群ヴァルハラで、王族が率いる複数の軍勢が戦争の準備をしとる。1か月後には複数の神殿を、地上に侵攻させる大作戦をやろうとしとるらしい。
いや、ほんまギリギリやったかもしれん。ほんまみんな、良くやってくれたで」
あとひと月で、ヴァルハラからの強襲を受けたかもしれない。しかし、それを逆に事前に察知できたわけである。
「となると、逆にこっちが打って出る。
門が繋がった双魚宮『死者の泉』はや、その性質上ちゅうかな、地上侵攻作戦には加わらへんみたいや。で、そこに戦力外のシャイターンの軍勢が駐屯してとる。めっちゃ、油断しきってるみたいやわ。
今回の作戦はその転移門を利用した作戦でな、主だった敵を撃破した上で、死者の泉を制圧する事が目的や。
それが出来たら、残りのシャイターンを降伏させて、他の神殿に知られる事無く、双魚宮を制圧する事ができるで!
転移門を利用するから、こっちの数は限られてしまうけど、みんなやったらいける。気合い入れて頼むで!」
なるほど。と状況を把握するケルベロス。全員が頷いた後、絹も一つ頷き返し、説明を続けた。
「まず双魚宮のことやけど、双魚宮は魔導神殿群ヴァルハラの中でも、後方に位置しとる。当然敵は侵入者が来る事はありえへんって思ってるわけやな。これを狙わん手はないな。それを利用ながらや、目的の敵を撃破するようにする作戦になるで。
で、転移には『門』で行くことになる。一度に8人ずつの転移になるわ。転移先は双魚宮内の『隠された領域』。
警戒は手薄やから、転移して一気に目的地まで侵攻、強襲することが可能や。でもや、運悪く発見されることもあるから、相手が気付く前に息の根を止めるとか、なんとかかんとかしたほうがええやろけどな」
状況はかなり有利である。そして更に絹は手のタブレット端末の画面をケルベロスに見せる。
「そんで、……これや」
得意げな絹。とても良い顔をしている。
「……地図か!」
「せや!」
もううちにまかせときー、といった表情で胸を張る。
「敵の居場所は、ここ。後でみんなにファイル配るから、よう見とってな。そんなわけで、奥の奥のほうにある一室に敵はおる。柱とか他の部屋の影にうまいこと隠れながら一気にいけるからな」
ここまで分かってしまえば、油断さえしなければ大丈夫だろう。ケルベロスは頷きながら敵の詳細を尋ねた。
「みんなにあたってもらうんは、『紅蓮戦姫・サーラーフィ』と、部下のシャイターン12体。このサーラーフィちゃんはちょっと強いけど、他のシャイターンは雑魚や。でも、油断しきってるとは言え、うちらの強襲があったら他の神殿に救援を求めに行こうとするからな。その前に、殲滅や。
サーラーフィちゃんは、妖精弓とゾディアックソードの二つの武器で攻撃してくるから、どうやって殲滅させていくか、作戦考えてな」
絹はええかな、と頷いて確認する。大きな作戦ではあるが、こちらに有利な状況となっている。
「この作戦が成功したら、この双魚宮を足掛かりにしてアスガルドゲートを攻略するアスガルド・ウォーが発動できる。正念場でもある。きっちり勝って美味しいごはん、みんなで食べよな!」
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664) |
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706) |
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770) |
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721) |
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173) |
●魔導神殿群ヴァルハラ
「柱が、崩れている……」
魔導神殿群ヴァルハラ奥地にある双魚宮「死者の泉」に潜入したケルベロスたちは、地図とヘリオンデバイス『ゴッドサイト・デバイス』を確認しながら突き進んだ。しかし、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)の眼前には大きな柱が崩れて行き止まりになっている様子だった。
「ったく。こっちは急いでいるってのに……」
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)はそう言いながらその柱をにらむ。
柱をそのまま壊して進むことはできるだろう。だが、それではせっかくの隠密行動が水の泡となる。
地図で双魚宮の全体像は把握できるが、どうもこういった細かい地形の詳細までは書かれていないようだった。ただ、だいたいの位置関係に間違いはないはずなので、しらみつぶしにして、ゴッドサイト・デバイスと合わせれば、敵に遭遇することは可能だと思えた。
とすれば、時間との勝負。派手に破壊してしまえば、敵に情報が知れてしまう。だが、他の作戦の箇所が交戦すれば、情報は伝わるだろう。それまでに敵を殲滅させなくてはいけない。
(「シャイターン……我らヴァルキュリアに代わり、エインヘリアルを生み出し続けている者達か」)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)は自らのゴーグルに映し出される敵が、左右に細かく動いていることを確認しながらそう考えた。
「動くしかないだろう」
冷静に現在の状況を把握したティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)もレイリアと同じくゴッドサイト・デバイスの情報を把握しながら頷いた。頼れるのは彼女らのデバイスからの情報。それと地図を照らし合わせて、予測して動くしかない。そしてこの先に続く道を探すべく、隠密気流を展開して動いた。
(「死者の泉……果たして、ここには何があるのか。何のための場所なのか」)
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)は、死者の泉の内部を少し眺め、ふとそんなことを思った。何かざわめきのようなものが胸を去来する。ただ、すぐに切り替える。今の状況を打破しない事には先には進めないからだ。
ケルベロスたちは自らを目立せない事に注意を払いながら、また、敵の位置を把握しながら走る。周囲の景色は宮殿そのものという感じではあったが、とにかく入り組んでいた。
(「……死者の、泉……。……ここが……」)
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)は無言のまま駆け、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)は、殿を務めた。
そして暫くの時間が経過する。
「近いですわー」
地図を片手に確認し、全員にわかるようにハンドサインを送るフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)。
地図と自分たちの位置を照らし合わせると、次の角を曲がった奥に目標の敵『紅蓮戦姫・サーラーフィ』の部隊がいるはずである。少しの時間ではあったが、確かに時間をかけてしまった感は否めない。
「拙いな」
その時、レイリアが同時に反応する。
「敵がバタバタと動き始めたようだ。動くぞ」
ティーシャの言葉に、全員が頷く。ケルベロスたちはもうここから強襲することを決めた。敵を逃がしてしまう前に、交戦に持ち込むのだ。
周囲がざわつき始めたことに気が付く。そしてわずかだが地響き感じたような感覚があった。他のチームが戦闘を開始したのだろうか。
「私が前に出ます!」
殿のイッパイアッテナが、最前列に動く。もう姿を隠す余裕はない。
「部屋から出る!」
最後尾でレイリアが全員に声をかける。
「行くしかねえなァ!」
ジョーイが冥刀「魅剣働衡」を抜刀する。
目の前に小さな点を把握する。人影である。もちろん、それはシャイターンの影だ。
ぞろぞろと部屋から十数体が出てきている。
「逃げても無駄だぞ!」
恭平が叫ぶと、シャイターンたちは一斉にこちらに『濁った目』を飛ばしてきた。
「ケルベロス!? どうやって……」
ざわつきが大きくなる。すぐに武器を取るシャイターンたち。すると、奥から1体のシャイターンが一喝した。間違いない。『紅蓮戦姫・サーラーフィ』の声だ。
「慌てるな! 訓練通りだ」
サーラーフィが冷静に指示を開始する。
「……気になりますね。何故ケルベロスがここに……!?」
サーラーフィは指示をしながらつぶやく。ケルベロスが目の前に居るということは、明らかにおかしいからだ。
彼女が思考を巡らせようとしたその時、柔らかいはがはっきり通る声で、フラッタリーが大きい身振りを加えながら前に出て言葉を相手に届ける。
「あまりエインヘリアルの方々にはー、期待されていないご様子ー」
「……何が言いたいのです?」
彼女の言葉にピクリと動いたサーラーフィが問う。
「いえー。ふと思っただけなのですがー。恐らくこの強襲もまたー、あのイグニスの計画の内でしょうしー。
病魔でアレを抑える役割ばかりー。世の中ままなりませんわねぇー」
ふふとした笑みを忘れずに付け加え、同情しますわーと言い残したフラッタリーに対し、シャイターンたちは殺気立つ。
「てめえ……」
「馬鹿にしやがって……」
「姫さん、やっちまいましょう」
シャイターンたちの言葉に、サーラーフィは頷いた。
「妖精八種族の中で唯一残った我らシャイターンの価値は、必ず認められる。その為にも、功績を稼ぐ機会を逃すわけにはいきません。……全員、戦闘態勢。持ち場につきなさい」
●数と力
『モhAヤ道無ク、嘆キハ全テ源二孵ラン』
フラッタリーの放つ火球が戦闘開始の合図となった。前衛のシャイターンたちは、その炎で焼かれるもひるむ様子はなかった。
「さあ、武勲を上げるのです!」
サーラーフィがシャイターンたちを鼓舞し、自らは弓に番えた矢を放つ。
「危ない!」
その矢は速く、後方のアンヴァルを狙うが、イッパイアッテナが腕を伸ばして受けた。受けた左腕を容易く貫通し、イッパイアッテナの腕がだらりと下がる。
「行けますか?」
アンヴァルがイッパイアッテナの傷を見て、即座に魔導金属片を含んだ蒸気を与えて癒す。
「ありがとうございます。アンヴァルさん」
傷は完治しなかったが、動く。まだまだ戦いは始まったばかりだ。
「我が名はレイリア・スカーレット。貴様らは、此処で討ち滅ぼす」
レイリアが氷結輪より「魔法の霜」を展開し、正面に居るシャイターンに向けて打ち込む。
続けてあおが、表情を変えずに「氷河期の精霊」を召喚する。
(「……相手が、油断している、間に、事を、済ませたい、ですね」)
あおはそう思ってティーシャに目配せをする。
あおの意図は、事前に話していたことだった。ティーシャはそれを見て、来た道で待ち構えて轟竜砲を撃ち放った。
「どうした? 怖気づいたのか?」
冷たい目をむけて、言葉でも言い放つ。
「そうだなあぁ! 雑魚は引っ込んでなあ!!」
ジョーイもティーシャの言葉にあわせて、超加速突撃を敢行すると前衛にいるシャイターンたちが吹き飛んでいった。
血気盛んなシャイターンたちだったが、その勢いは長くは続かなかった。
「この野郎……」
前衛の1体が毒を吐いて絶命する。
「まだです。さあ、名を上げるのです! 惑わせよ!」
「くそったれが!」
サーラーフィの声をうけ、シャイターンたちは幻覚作用のある砂の嵐を一斉に展開していく。
『黒き氷壁よ、我らが前の不破の盾となれ!』
だがそれよりも早く、恭平が極低温の石壁を生み出す。その石の壁はその砂の嵐における幻惑の効果を打ち消した。
シャイターンにおける脅威の主は、こういった催眠やトラウマなどの精神攻撃である。既に敵の情報があるという事は、それだけ対応ができるという事。
長きにわたって戦ってきたケルベロスは、その対処方法を知っているのだ。
1体1体絶命していくシャイターン。既にその数は半分以下となっていた。
数が減るほど状況はケルベロスたちに有利となっていった。
(「かかりましたね」)
そして、アンヴァルが頷く。
「……待つのです!」
サーラーフィがはと気が付いたように、全体を静止させた。
「……やられた。という事でしょうか」
サーラーフィが苦い表情で、周囲を見渡す。そこは一本の通路となっていた。
「え? どういうことです、姫さん?」
先ほどティーシャがあおから受けた視線はこれだった。ケルベロスたちは戦闘しつつ、後方へとじりじりと下がっていた。その先にあるのは隠れる場所や、逃げる通路がない箇所だった。
そして今、シャイターンたちはそこに導き出されてしまったのだ。
本来ならば完全に包囲した上で取り囲みたかったのだが、時間がなかった。そう思えば上出来といえた。
「我々が、ここだけを狙ったとでも思うのかね?」
恭平がすかさず、言葉を打ち込む。
「どういうことだ?」
だが恭平はそれには答えずに、チェイスアート・デバイスを作動させ、瞬時にシャイターンの後方へと回り込む。
「最早、妖精八種族としての誇りも忘れたか?」
代わりにレイリアが言う。それはレイリアの本心だったのかもしれない。だが、このタイミングでは愚弄しているようにしか聞こえない。
「定命化したあなた達ヴァルキュリアに、言われたくはないものですね」
そう言って、レイリアを睨む。
「そう言わずにどうですか? 貴方も?」
イッパイアッテナがそう言いながらミミック『相箱のザラキ』と共に、少し前に出る。
「我らの誇りを、馬鹿にするなと、言っている! かかれ!!」
完全に逆上したサーラーフィは、剣を抜いて叫ぶ。こうして、戦いは最終局面に突入していったのだった。
●双魚宮内部にて
「まとめて薙ぎ払うぞ」
恭平がエゴの鎖を払うと、続いてフラッタリーが鉄塊剣『野干吼』をガツリと床に突き刺して嗤う。
『此レ為Ruハ珠玉ヲ飾リシ矛ノ逆事。アS∀マノ猛リヲ顕現ス。火ト硫黄ヲ以テ、アメツチヲ地獄ニ還サン』
突き刺した剣をが床を伝い、シャイターンの足元から天を衝く。
そしてすかさず、あおが淡緑の花弁を纏う鉄槌から、時間を凍結する弾丸を精製して1体に打ち込むと、その1体は声を上げることなく消滅した。
「残り、3体です」
イッパイアッテナの言う3体とは2体の部下のシャイターンとサーラーフィだ。イッパイアッテナは九尾扇『救命扇』を雷火の陣へと見立て、後衛であるティーシャ、レイリア、そしてアンヴァルへと施した。
その力を得たティーシャとレイリアが同時に動く。ティーシャがサーラーフィに対して『バスターライフルMark9』から、弱体化エネルギー光弾を撃ってけん制を行うと、レイリアが回し蹴りでその3体の力を削る。
すると、すでに限界だった1体が崩れ落ち、もう1体のシャイターンも前のめりに倒れた。
その1体の胸からはジョーイの冥刀が背中から突き出ていた。
「へっ、ざまあねえな……」
刀を引き抜くジョーイ。これで残りはサーラーフィだけだ。彼がそう思った時だった、幾度か味わったことのある殺気に襲われる。
「まさか、こんな奇襲が起きるとは思ってもみませんでした」
とっさに刀をその殺気の方向に向けるが、一歩遅かった。
気が付くと彼の肩に剣が突き刺さっていたのだ。
「が……!?」
すぐにその場から飛び、引き抜かれた剣から二つ目の斬撃を避けた。
「まだ、こんな力があるなんてねぇ」
肩からとめどなく流れる鮮血を一瞥し、サーラーフィを見る。
「私の部隊は終わりました。ならば、せめて幾人かは道連れにしていくとしましょう……」
サーラーフィは覚悟を決め、そう言い放った。
「……そうかい」
ジョーイは回復に駆け寄ってくるアンヴァルを手で制し、右足で大きく地を踏み込んだ。
「こんなモン……気合で治せやゴルァァァァァァーーーーー!!!」
彼の叫びが、グラビティに呼応し、肩の傷がふさがっていく。
「ッシャァ!」
最後に両頬を叩いて叫ぶと、全員を見渡した。
「小細工……なしだ。殺してやろうぜぇ」
ジョーイの言葉に真っ先に応えたのはフラッタリーだった。野干吼を目いっぱい振り上げ、炎を上げながらただ力任せに振り下ろす。
フラッタリーの剣と、サーラーフィの剣が交錯するが、傷を負ったのはサーラーフィのほうだった。サーラーフィの右腕から地獄の炎が上がる。
「石と化せ!」
『『『切り裂け!!デウスエクリプス!!』』』
恭平から魔法の光線が飛び、ティーシャがテレサ・コールからのジャイロフラフープをアームドフォートから射出する。
「この程度……で」
サーラーフィは切り裂かれる傷を見るが、もう気にする様子はなかった。
『最高のアート完成の予感……さあ! 今日のキャンバスはあなたです!』
だが、ケルベロスの攻撃も終わることはなかった。それは最期まで、止めるつもりもない。
アンヴァルが放った塗料が動きを更に鈍いものにし、『絆の戦斧Plasm』を振るったイッパイアッテナが、彼女の装甲を破った。
ジョーイがオーラを纏う。冥刀にゆっくりとオーラを乗せ、狙いを定めた。
『一発デケェの行くからしっかり受け止めろよ?……でぇりゃァァァ!!!!』
「……!!」
目を見開くサーラーフィ。肩に刀が突き刺さっている。それは奇しくも、先ほど彼女がジョーイに傷を負わせた箇所と同じであった。
『…世界を、覆い、隠す、最果てへと、誘う、悲しき、調べ』
そしてその場を歌声が包み込む。あおの歌声は魔力となり、サーラーフィへと向かう。それは終焉へと導く歌だった。
『――貴様を、冥府へ送ってやろう』
もう体の感覚もない事はわかっていた。レイリアの翼が氷の結晶状に変化していく。
「かつての同胞であろうが、容赦はしない」
冥府深層の冷気を纏った一振りの氷槍を創り出したレイリアは、それを右手で握りしめ重さを確かめた。
体を反らし、自らを弓の一部としたようにしならせる。そして、その掌にある氷槍を投げ込んだ。
「だが、その誇り。侮ってなどいないさ」
レイリアがそう言った時、サーラーフィの胸には氷槍が撃ち込まれていた。
「では……先に……逝って、待っているとしましょう」
サーラーフィはそう言って、消滅していったのだった。
こうして、目標であるシャイターンの1部隊を殲滅することに成功したケルベロスたちは、双魚宮「死者の泉」から脱出することになる。
定命化することなく敗れ、消えていくシャイターン。
そう思えば、レイリアの言う『妖精八種族としての誇り』は最後まで存在していたのかもしれない。
少なくとも、目の前で戦ったシャイターンにはそれがあったのだと。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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