双魚宮「死者の泉」潜入戦~大罪背負いし護衛姉妹

作者:ハル


 魔導神殿群ヴァルハラの一つ、双魚宮「死者の泉」。
 魔導神殿群ヴァルハラの中でも後方に位置するそこは、侵入者が現れるはずもない場所であった。ゆえ、そこで繰り広げられているのは油断、慢心、それらが渦巻く、いつまでも続くかと思わせる享楽の日々。
「双魚宮の役割はエインヘリアルへの転生のみ。やることやってれば文句言われる筋合いはないわ。まして、今回の戦争には不参加なのだから」
 その中心で、闇のような灰黒と布切れにも似た衣服を纏った女が笑う。その名はアストライア。死者の泉の守護者たる者。
 守護者がこの緊張感のなさなのだ。アストライアの護衛である姉妹“嫉妬の炎”ギーラと“強欲な炎”ガシェーは言わずもがな……。
「それ……欲しい」
「――あっ……それ、ボクの……!」
 険悪な雰囲気で、憎悪さえ込めて睨み合っていた。
 片言で喋るガシェーの手中には、ギーラの私物がまるで我が物であるかのように納められている。
 自身を『ボク』と形容する、私物を奪われたギーラは、「あぁ……妬ましい」そう何度も何度も繰り返し呟いた。
 ガシューは奪わずにはいられず、ギーラは奪われる事で嫉妬せずにはいられぬ、そんな最悪の関係性。
 一方アストライアは、護衛の姉妹から漏れ聞こえる雑音など気にした風もなく、思考の全てを死者の泉の研究に注ぎ込んでいる。
 ともあれ双魚宮の日々は続く。
 侵入者が足を踏み入れるその日まで。


「本当にお疲れ様でした。皆さんのおかげで、遂に死者の泉の『門』を開くことに成功しました」
 42を超える門を見事踏破したケルベロスに、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)は惜しみない称賛を贈る。
「さて、これで私達は次の段階を迎える事となりました。『門』を突破した事により、双魚宮「死者の泉」も含めた、魔導神殿群ヴァルハラの状況を予知する事が出来たのです」
 まず、桔梗が魔導神殿群ヴァルハラではの現在の状況を説明する。
 どうやら、魔導神殿群ヴァルハラでは、王族が率いる複数の軍勢が戦争の準備を行っているようなのだ。
「その動向から、一か月後には複数の神殿を地上に進攻させる大規模な作戦を行おうとしている事が読み解けます。……想像したくもありませんが、もし門の探索が間に合っていなければ、大変な事態が巻き起こっていた事でしょう」
 桔梗は僅かな安堵を見せ、改めてケルベロスに感謝する。
「門が繋がった双魚宮「死者の泉」は、定命の者をエインヘリアルに転生させる重要施設である、というその性質上、地上侵攻作戦には加わらないようです。そこでは戦力外のシャイターンの軍勢が駐屯しており、油断しきっている様が伺えます。私達は、この状況は利用すべきでしょう。転移門を利用した作戦を行い、主だった敵を撃破した上で、死者の泉を制圧するのです」
 仮に全てが成功すれば、残りのシャイターンを降伏させ、他の神殿に知られる事無く、双魚宮を制圧する事ができるだろう。
「転移門を利用するため、投入できる戦力は限られたものとなります。ですが皆さんならば完遂してくれると、私は信じています!」


「皆さん既にご存知の通り、双魚宮は魔導神殿群ヴァルハラの中でも後方に位置していて、侵入者が来ることなどありえない、敵はそう認識し、油断しきっています。私達はその隙を突き、標的の撃破を狙います」
 『門』で一度の転移できるのは8人ずつ。転移先は双魚宮内の『隠された領域』となる。
「警戒は当然ながら手薄です。転移した直後に一気に目的地まで進攻する事も可能ですが、もしも運悪く発見されてしまった場合、騒がれる前に始末しつつ、内部を探ってください」
 当部隊が撃破すべき標的は、『“嫉妬の炎”ギーラ“』と『“強欲な炎”ガシェー』の二体となる。
「シャイターンの姉妹であるらしい彼女達は、「死者の泉」を守護するエインヘリアル『アストライア』の護衛を担っています。アストライアは者の泉を通じて双魚宮全体を掌握する事が出来る指揮官であるため、真っ先に叩き潰す必要があります。アストライアと対峙する部隊がそちらに集中できるように、皆さんはギーラとガシェーを引き付け、撃破してください」
 標的の居場所は、予知である程度把握が済んでいる。桔梗が、内部を記した地図をケルベロス達に配布した。
「途中の移動では、偶然遭遇するシャイターンを除けば、他の有力的と接触する機会はないはずです」
 嫉妬の炎”ギーラと“強欲な炎”ガシェーは、その名の通りにそれぞれ嫉妬と強欲の力を戦闘に利用する模様だ。強力な炎と、精神的な揺さぶりには注意したい。
「ただ、この姉妹はその性質から仲が非常に険悪なようでして、どちらかがピンチに陥った際でも互いのフォローをする可能性は低いと思われます」
 アストライアを撃破できれば、双魚宮のシャイターンは指揮官を失い、有力な指揮官が指揮しない限り戦意を失って降伏するだろう。
「双魚宮を足掛かりにできれば、アスガルドゲートを攻略するアスガルド・ウォーを発動させる事が可能になります。他勢力が動く前に、エインヘリアルとの決着をつけてしまいましょう!」


参加者
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
輝島・華(夢見花・e11960)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ


「門を抜けると、そこは死者の泉じゃったのじゃ」
 ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は、辿り着いたそこ――双魚宮の『隠された領域』を見渡して呟いた。
「ああ、ついにここまでやってくきた! って感じだ」
 かの『門』の踏破に掛った労力を考えれば、ケルベロスにとって大きな感慨が。ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が気合を入れるように拳を握りしめ、
「ですが、ここからが正念場ですわね。『門』の制圧を無駄にしないためにも」
 輝島・華(夢見花・e11960)が、表情を引き締めた。
「まずは友軍部隊と合流するのが先決ね。エクハルトさん、お願いできるかしら?」
 植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)が視線をやると、彼は即座に頷き、マインドウィスパー・デバイスを起動。
「こちら“嫉妬の炎”ギーラ及び“強欲な炎”ガシェーを担当する部隊のハインツ・エクハルトだぜ。リューイン、応答してくれ――」

 こちらの部隊を確認し、青が印象的なヴァルキュリアの少女が手を振っている。
(「無事に合流できてなによりですが、ここからはより慎重に行動しなければ……」)
 ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)は彼女を含む8名の部隊に笑顔で応じつつ、装備や左手に仕込んだワイヤーの調子を丹念に確認しながら、隠密気流を纏うアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)の動きに追随した。
(「門番さんが必死にがんばってたのに中の人たちはたるんでるな~」)
 と、思念を通じ、そんな呆れた声を発したのはエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)。
(「あら、お腹が空いてしょうがない時のエヴァに少しだけ似ているわよ?」)
 気心の知れたアウレリアの言に「むぅ~」と抗議の視線を向けつつも、エヴァリーナは仲間がより素早く動けるようにデバイスを接続する。
 チェイスアート・デバイスと共に、リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)や、こちらの女性陣と視線を交わす妖艶な黒髪のサキュバス女性が協力して敵の位置を把握している功績も大きいとはいえ、それでも内部の雰囲気はケルベロス達に衝撃さえ与える緩さ。
 逆にケルベロスは一切警戒を緩めず、ウィゼが物陰から通路を覗き込む。
 シャイターンの翼に何かを察知する能力があるかもと懸念しての行動だが、そんな慎重なウィゼですら早くも徒労感を感じる程だ。
(「――この先は行き止まりね。……何度目かしら。でも、少しずつ目的地に近付いているのは間違いない」)
 スーパーGPSを元に地図に情報を書き留めるリティ。ゴッドサイト・デバイスを展開しつつ、迷彩ポンチョの裾を翻しながら、音もなく移動する。敵位置を把握するリティ達誘導の元、総勢16名のケルベロスは怠惰に更けるシャイターンを回避し、時に回り道を強要されつつも、既に判明している標的の居場所を目指した。

 やがて――。

「……行くわ」
「了解です!」
 いよいよ、死者の泉に足を踏み入れたケルベロス。リティが感情の読めない静謐な声色で合図を発し、ラインハルトが続く。
「敵に遭遇する事無くここまで来れたわ! 失敗はできない。だけど私達ならやれるはずよ!」
 碧達はアストライア並びに、ギーラとガシェーを既に視界に納めていた。
 協調する部隊とタイミングを合わせ、強襲を敢行!
「他所を侵略しながら自身は絶対に安全圏にいられるなんて決して有り得ないと教えてあげるわ」
 アウレリアが、黒鉄の拳銃を構える。
「……誰? えっ、ケルベロス……?」
「どうしてボク達の双魚宮に? 一体どうやって。……あんなに連れ立って……妬ましい」
 と、予期せぬ侵入者の存在に気づいたギーラとガシェーが目を丸くし、疑問を呈する。
「サフィーロ王子がやったのか、ホーフンド王子がやらかしたのか、或いはヴァルキュリアが何らかの手引きをしたのか……そんなところかしら?」
 一方でアストライアは格の違いを見せつけるように冷静に所見を述べているが、それでも最早ケルベロスの接近からは逃れようも無かった。
「ま、どれでも良いわ。殺して聞き出せば良いだけよ」
「だったら……その後、欲しい。元ケルベロスの、エインヘリアル、なんて」
 しかし、自然に意識を切り替えるアストライアにせよ、強欲の炎を燃やすガシェーにせよ、ケルベロスの存在に怯えるような無様を晒さない。無論ギーラもだ。
「じゃ、貴方たちに任せるわ。16体とも全部、殺しちゃって」
 現状が些事だとでも言いたげな様子で、アストライアは当然の如く告げる。
 主人の命に応じて、前に出ようとする護衛姉妹二人。
「あの姉妹はオレ達に任せろ! 絶対にそっちに向かわせたりしないぜ!」
「こちらで出来る事は精一杯頑張らせて頂きますわ。アストライアはどうか、よろしくお願いしますの!」
 ここまで同行した友軍部隊へと決意を込めた言葉を投げかけるハインツと華。手始めに、ケルベロスはギーラとガシェー両名をアストライアから引き剥がしてやる!
「――判りました。ありがとうございます! ……必ず期待に応えてみせます!」
 こちらの覚悟に応えるように、銀髪が目を惹くオラトリオの少女の力強い声が背中を押してくれた。
「あらあら」
 一度は興味を失ったアストライア。
 しかし、ケルベロス達は総力を挙げ、決してその侮蔑を許したりはしない。
 頑張ろうね、ブルーム――花咲く箒にも似たライドキャリバーと共に最前線に躍り出た華が、前衛の前に雷の壁を構築。
「あはっ、ビックリしちゃったかなー? さぁてチビ助くん、ここからのお仕事よろしくね~!」
 姉妹の反応に気をよくしながら、エヴァリーナがハインツのサーヴャントに微笑みかけ、ガシェーに轟竜砲を放った。
(「包囲してアストライアと分断後、圧し潰す!」)
 アウレリアはギーラに向けて目にも止まらぬ弾丸を放ち、対象を絞らせないように。
 ハインツも竜砲弾で続く。
「スノー、私達は皆の支援よ! あの二人、厄介な性質をしているみたいだけど、好きにはさせないわ!」
 碧が戦乙女の歌を奏でた。
「支援感謝します! 火力は僕達に任せて!」
 ラインハルトの喰霊刀が呪詛を帯び、美しい奇跡を描いて襲い掛かる。
「……ごのぉッ! ……ア、アストライア様……!」
「ケルベロス、生意気、だよ……!」
 ギーラの嫉妬が紅蓮となり、メディックを叩き潰さんと碧に襲い掛かる。ガシェーの火炎が渦となり、前衛を覆い尽くさんとした。対し、ポルターガイストを放つビハインドのアルベルト、激しいスピンと共に美麗な花弁を散らすブルームが壁となって立ち塞がる。
(「範囲攻撃でありながらこの火力……!」)
 エヴァリーナがガシェーのポジションにアタリをつける中、舞い上がる火炎をジェットパックデバイスで飛行する事によって掻い潜り、高速で回転するウィゼがギーラを後退させた。
「ドローン各機、座標指定完了……レーザー発射と同時にグラビティフィールド展開。リソースはドローン軌道、レーザー反射角演算に回せ」
 徐々に姉妹とアストライアの距離を離そうとする最中、防盾を地に突き刺し、その上から固定砲身でギーラに狙いを定めるリティが、小型偵察無人機の群れを操って飽和攻撃を喰らわせながら二人の様子を観察。
「……護衛というだけあって、今もアストライアの方を気にしているわね」
 そして、姉妹がアストライアとの再合流を諦めていない事をリティは悟ると、ウィゼに視線を向けた。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、これが何だか分かるかのぅ……!」
 頷くウィゼは、此れ見よがしにアヒルちゃんミサイルを懐から取り出すと、自慢げにその素晴らしさを語るのであった。


「それ……欲しい!」
 餌に真っ先に喰いついたのはガシェー。
(「用意しておいて正解だったのう。アヒルちゃんミサイルや、つぶらな瞳で観察分析を頼むのじゃ!」)
 殺神ウイルスをギーラに投射するウィゼ目掛けて簒奪の黒い影が迫るが、華が雷壁を盾に受け止める。華はゴッソリと生気を抜き取られる虚脱感に襲われるが、同時にスノーの羽ばたきで付与されたBS耐性も相まって、負った火傷が大幅に緩和された。
 加え、碧がカラフルな爆風を発生させ、士気を押し上げる。
「碧姉様、スノーさん、ありがとうございます!」
「ええ、後でスノーを褒めてあげて」
 互いにフォローし、協力し合う。それはケルベロスにとって当然とも呼べる一幕。
 しかし――。
「妬ましい……ああ……妬ましい」
 ギーラにとってみれば、それら全てに嫉妬を煽られずにはいられない!
 タールに濁った視線が前衛全体に猛威を振るい、ケルベロスの心身のバランスを崩そうとする。
 華が薬液の雨を降らせるも、間に合わない。
「この強烈な影響力は……皆さん、彼女はジャマーです! ですが――嫉妬も強欲も! 心の弱さだ! ならば、それらを愛し理解し受け入れてなお僕は前へ進む!」
 ラインハルトがギーラのポジションを見極め、剣を振るう。
「大丈夫、心を強く保つんだ! オレ達がいつもやって来たのと同じようにな!」
 誰かを守る方法は、何も身を張るだけではない。ハインツは改めてその事実を認識しながら、レイピアの先端から美しき花の嵐を。
 彼と連携してチビ助がガシェーを神器の瞳で睨みつけ、エヴァリーナが自身に向けて祝福の矢を射つ。
  ――が、再びギーラとガシェーが動く!
「……連携……と呼べるものではないわね。姉妹であるからこそ、表面ではなく根本的な所で似ているのかしら? 嫌な所を突いてくるわ」
 ギーラの紅蓮が碧に直撃し、ガシェーの火炎が前衛を炙る。嫉妬の影響を消し切れていない今、ヒールの的を絞れないのは痛手だ。リティは難局を乗り切る事を信じ、殺神ウイルスでギーラの弱体化を。
(「エヴァリーナさんとチビ助くんがいれば、ガシェーのエンチャントには対応できるわ! そこを抑えれば、耐えきれるはずよ……!」)
 嫉妬心による戦線の乱れは致命傷になりかねない。碧は状況を注視して癒しの力を行使する。他の仲間達も、耐性はもちろん、万が一の対応策は有していた。
「ワタシの、作戦、盗った、の?」
「……ガシェーはいつもそう。全部自分の手柄。ボク、ガシェーが大っ嫌い」
 そんな中、ギーラとガシェーは戦いながら互いを罵り、睨み合っている。
「子供じみた争いには物凄く既視感を感じるわ……ねぇ、アルベルト?」
 アウレリアが伴侶をチラリと伺いつつ、銃口を狙いすます。
「損傷部位分析……破損深度測定……完了。狙うべきは、其処ね」
「……ッ、ボクばっかり!! なんで、ガシェーを狙ってよ!!!!」
 弾丸はギーラの肉体を抉り、苦悶の声を上げさせた。
「ご飯のおかずの奪い合いは兄弟姉妹あるあるなんだよ、義姉さん」
 とはいえ、ガシェーが傷つくギーラに見向きもしないのは間違いない。だが、だからこそエヴァリーナは警戒していた。ガシェーがギーラをアッサリと切り捨ててアストライアと合流してしまう事を。そしてエヴァリーナはガシェーの視線が再びアストライアに向いたタイミングである事を口にする。
 ――へー、侵入者倒したお手柄、姉妹に譲っちゃうんだー。優しいねー、と。
「全部、ワタシ、の!」
 瞬間、ガシェーの瞳が欲望で煮え滾る。
「誰かに嫉妬した? 妬ましく思った? …あぁ、僕にだってあるよ。でもそれは間違いじゃないし、人なら誰でも思うことだ! 僕は君達を否定しない君達の考えも思いも受け入れる! その上で――」
 ガシェーをやり過し、ラインハルトが左手に仕込んだワイヤーとデバイスを駆使し、猛烈に加速。そして、回避困難な斬撃を浴びせかけた。
「アヒルちゃんミサイルが「皆の武術を借りるのじゃ」と言っておるのじゃ」
 ウィゼが観戦していたアヒルちゃんミサイルから仲間の技を引き出すと、嵐のような連撃がギーラに襲い掛かる。
「――あぁ……妬ましい……」
「そろそろ静かにしてくれる?」
 間髪入れずにリティのバスタービームが炸裂すると、ギーラを嫉妬の炎諸共消し去った!


「ギーラ、死んだ。ワタシのもの、盗ろうとする、悪い子」
 ギーラの死に様を一瞥したガシェーは、『ざまぁみろ』まるでそう言いたげに鼻で笑う。その場の誰もが嫌な感情に駆られただろう……その赤い髪に覆い隠されたガシェーの表情を窺い知るまでは。
「――くっ!?」
 ラインハルトの一撃が見切られ、カウンター気味に簒奪の影が彼を覆い尽くす。
「僕に構わず、ガシェーを!」
 意識を失う間際、ラインハルトの叫びが轟いた。
 意を汲み、ケルベロス達は攻める。
 恨み言を延々と呟きながらも、片割れの死に理解不能の喪失を感じているガシェーを。
「失って初めて気付く事もありますわ。でも、私達は歩みを止める訳には参りませんの」
 ギーラの死後、勝敗の天秤を一気にケルベロス側に傾いている。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
 華の掌に魔力で生成された花弁が生まれ、風に乗ってガシェーを切り刻む。
 ガシェーが怯んだタイミングで、碧が滅殺の意思を込めて轟竜砲を。アウレリアの対物ライフル型ドラゴニックハンマーも唸りを上げ、エヴァリーナは油断なくディフェンダー陣を癒してフォローした。
「ワタシの、なのに。全部、全部、ワタシ、の。それなのに、どうして、零れて……!」
 ガシェーから、永遠だったはずの命が流れ出していく。
 手を伸ばす先は、ケルベロス。
 彼女にないものを持つ者達。
「これが全力の一撃!縛れ、導け、《絡(ファーデン)》ーーッ!!」
 それはまるで、黄金のオーラを纏うハインツ達に憧憬さえ抱いているかのように。彼の蜘蛛糸に引き寄せられたガシェーが吹き飛んだ。
 リティの飽和攻撃が、ウィゼのアヒル真拳奥義『幻武極』がガシェーを襲い――。
「その奥底へと沈めて死者の泉警護を労いましょう」
 アウレリアの正確無比の弾丸が、ガシェーの心臓を撃ち抜き、半身と同じ「死」を与えた。

「増援に警戒だよ!」
 友軍とアストライアとの戦闘が終盤に向かう中、エヴァリーナ達ケルベロスは横槍を警戒し、陣を敷く。
 同時に、
「あっちの状況次第では、いつでも救援に入れるようにしておかないといけないわね」
「ですわね、アストライアの撃破はかなり重要な任務ですから」
 碧と華は、重傷者も出ている友軍の状況に目を細めた。
 だが、リティが一瞬だけフッと緊張を緩め、言った。「その心配はないようね」と。
「――おのれ、ケルベロスゥッ!!」
「これで最期よ、アストライア!!」
 彼らの前で、アストライアの闇が流星の煌めきに浄化されるようにして、光の粒子と化したのだ。
「やったな!!」
 ハインツが拳を突き上げた。
「死者の泉について、どんな話が聞けるか楽しみじゃ!」
 任務を終えたウィゼ達ケルベロスは足並みを揃え、無事に撤退を果たした。

作者:ハル 重傷:ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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