双魚宮「死者の泉」潜入戦~老戦士の四王

作者:寅杜柳

●地底の双魚と略奪の妖精たち
 地の底に座する魔導神殿群の一、双魚宮。
 その神殿を守るのは死者の泉を引き継ぎし妖精種族シャイターン。
 死者の泉を有する双魚宮は定命の者をエインヘリアルへと転生させる役割を持つ故に、前線から離された神殿でもある。
 シャイターンの司りしは炎と略奪、地の底ではその暴力衝動をまともに発散する相手もいない。
 つまり、
『酒だ酒だ!』
『こんな地底じゃつまらねえ!』
 酒盛り、喧騒。危険から遠いこの神殿に駐屯するシャイターンは享楽に耽る事で退屈を紛らわせていた。つまり、非常に油断している。
『地上侵攻作戦早く始まらねえかな……』
『――ああ、もうすぐだ』
『た、ターリブ様!?』
 酒盛り中の一人のシャイターンの呟きに、二人の配下を連れて片手に巨大な酒瓶を持った老爺が応える。
 顔や全身に刻まれた古傷、濁りながらも鋭い瞳に古強者の風格を漂わせる彼は、手に持つ酒瓶の中身を一息に飲み干し言う。
『作戦が成功すれば儂等の出番になるだろう。だから今のうちに楽しめる事は楽しんでおくがいい』
 そう言いながら新たな酒瓶を配下から受け取りつつ、ターリブはふらりと神殿の中を巡り始めた。

「八月から皆が頑張ってくれていたブレイザブリクの『門』の攻略がついに成功したよ!」
 ヘリポート、集まったケルベロス達に雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が告げた言葉はエインヘリアルに対する新たな局面が始まる事を意味する者。
「これで死者の泉への道が開かれて、さらに魔導神殿群ヴァルハラの状況の予知も得られたんだけど……どうにも今、王族が率いる複数の軍勢が複数の神殿を地上に侵攻させる大作戦の準備をやっているみたいだね」
 もし門の探索が間に合ってなかったら大変なことになってただろう、と白熊は言う。
「今回門が繋がった双魚宮『死者の泉』は性質的に地上侵攻作戦には加わらない。だから戦力外のシャイターンの軍勢が駐屯したままで、兎に角油断しきっているみたいだ。だからそれを利用して転移門から奇襲を仕掛け、主だった敵を撃破して死者の泉を制圧できれば残りのシャイターンを降伏、双魚宮を他の神殿に知られる事もなく制圧出来るはずだよ」
 一度に転移できる人数に限りがあるから投入できる戦力も限られてしまうけど、皆なら何とかできるはずだ、と知香は期待に満ちた目でケルベロス達を見渡す。
「それじゃ作戦についての説明だ。双魚宮は魔導神殿群ヴァルハラの中でも後方に位置している。だからシャイターンも侵入者が来る事はないと油断しきっている。皆にはその隙を突いてシャイターン氏族の主力を率いる四王の一人、ターリブを撃破してきて欲しい」
 潜入に使用する『門』は一度に八人ずつ、双魚宮内の隠された領域への双方向ができると知香は言い、地図を差し出す。
「警戒は手薄、ターリブの大体の居場所への道筋も予知で見えたから、この地図の通りに行けばシャイターンとの接触を最小限に向かう事はできる。もし運悪く遭遇したとしても騒がれる前に畳みかければ仕留められるはずだよ」
 少々の騒ぎならシャイターン同士の喧嘩と勘違いして流されるだろうけれど、流石に仲間を呼ばれてしまえば難しいだろう。
「それで標的のターリブだけれど……見た目は斧を獲物とする鎧の老人だね。前線にはあまり出てきてないみたいだけど主力を率いるだけ合って強力だ。斧の強烈な攻撃に炎を帯びた蜃気楼で焼き払ってきたり、装備の各所に埋め込まれた宝石から光線を放ってこちらの足を止めてくる。状況が悪くなったら気合を入れて呪縛を祓ってくることもあるから倒しきるまで油断はできないだろうね。あと、他にシャイターン二人も傍にいるみたいだけど、そちらは集中攻撃をかければ時間をかけず仕留められる」
 援軍を呼ばれても厄介だから逃がさず先に仕留めた方がいいだろう、とヘリオライダーは言い、
「ちなみに他の班が死者の泉を狙ってくれるけれど、もしそちらが制圧できても四王が生きていたらシャイターン達は戦意を失わず最期まで抵抗を続けるだろう。だからなるべく速やかに、死者の泉制圧前にターリブを倒してきてほしい」
 そう言って知香は説明を終え、ケルベロス達の瞳を見る。
「向こうの準備前に仕掛ける事が出来たのは幸いだね。双魚宮を制圧できさえすれば、逆にこちらからアスガルドゲートに仕掛ける事もできるだろう。まあ、どう転ぶにしてもこの作戦を成功させてからだ」
 どうか頼んだよ、と知香は期待に満ちた言葉で話を締め括った。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
モヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)

■リプレイ

●双魚宮潜入
 転移したケルベロス達は速やかに双魚宮宮殿内へと飛び込み、地図にある地点へ向かい探索を開始する。
「苦労しただけの価値はあったようじゃな!」
 長き門との戦いの果てに辿り着けた双魚宮を見まわしながら、オラトリオの服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)は拳を打つ。
「音もなく忍び寄って心臓を鷲掴みにする。ククク、いいじゃねえか!」
 シャイターンの衣装を纏い肩に黒電波という名のテレビウムを乗せ、物騒な事を言う柄倉・清春(あなたのうまれた日・e85251)に、肉食獣の如き笑みと同意を返すオウガのグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)。
 清春の手にした地図には立体構造こそ不明だが、自分達の位置と目的地までの大まかな道のりが示されている。
 そして低空を滑るように飛行し足音を消している大弓・言葉(花冠に棘・e00431)は地図とゴーグルが映す敵の位置とを見比べ注意を払っている。
 敵の配置を映し出すデバイスとの組み合わせは、限られた広さの領域への潜入には非常に有効だ。
「ふふーん、しっかりばっちり倒しに行くの!」
 恐る恐るな様子の黒い熊蜂のようなボクスドラゴンのぶーちゃんの頭を軽く撫でつつ言葉が明るく言う。
「んー、ここを通り抜けるのが早そうだね」
 地図を見つつ中性的なドワーフのシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が指した先には雑多なものが山積みになった真っ暗な大部屋。
 ドワーフの夜目を活かし先導する彼に続き、ケルベロス達は静かに駆け抜ける。部屋の最奥には別の通路への扉、その先に敵がいない事を確認し開く。
 少し長い通路、巨大な木箱が所々転がっているのはシャイターンの饗宴の為だろうか。
 すぐ仲間を庇えるよう警戒を緩めぬ清春、その傍を走るモヱ・スラッシュシップ(あなたとすごす日・e36624)とミミックである収納ケース。彼女の後ろに続くスノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)は異様に静か。
 内心ではシャイターンを真正面から血祭りにあげる事を考えているけども今は自重、お祭りにはまだ早いのだから。
「少し先の直角に三つ、哨戒か」
 赤と灰を纏う女が静かに警戒を促す。禍々しい中身の金属めいたミミック、エイクリィを連れる彼女はユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)。
 先に察知したケルベロス達は木箱に身を隠しつつやり過ごす事にする。
 箱の隙間から見える表情は明らかに油断そのもの。
 もし見つかったとしてもグラハのデバイスによる逃走、追跡補助が効果を発揮する。最悪、物騒な手段で突破する事も考えていたがその必要もないようだ。

 慎重かつ大胆に、デバイスと能力を最大限に活用したケルベロス達は遭遇戦を悉く回避し、遂に目的地へと到着する。
 眼前の大広間から漏れ聞こえてくる声は若者二人に老人一人――間違いないだろう。
 他の班の様子は不明だが四王は早くに仕留める必要がある。
 さあ、勝負の時だ。

●一気呵成
「ぬぁあああああああーーーっ!!」
 扉を開くと真っ先に無明丸が駆け出し、発光する拳を振りかぶりシャイターンに痛烈な一撃を見舞う。
 あまりに唐突だったからか反応すらできず、弓の妖精は見事壁に叩き付けられた。
 同時、グラハが発火装置を取り付けた魔斧を遠間より振るえば弓の青年は一瞬で炎に包まれ、
「この身、この意志は鋼の盾なり。脆弱なるものよ、砕けるものなら砕いてみせよ!」
 慌てて庇おうとしたナイフのシャイターンを赤いオーラが包み、同じく赤のオーラ纏うシルディへと注意が逸れる。
「デハデハー、アタシの魔剣で血祭りとイキマショウ――サア、お祭りの始まりDeath!」
 炎が消えぬ間にジェット加速したスノードロップが一息に飛び込むと、
「纏めて、叩きkill!」
 流水の如き滑らかさで魔刀を振るいシャイターン達を斬り裂いた。
『バカな! 何故ここにケルベロスが!?』
『まさかホーフンドか?』
 配下二人が困惑しつつ弓とナイフを其々構える。
『――今はどうでもよかろう。一人のみ生かし、じっくりと聞き出せばよい』
 そんな二人を鎮める威厳溢れる声、それこそ四王の一人ターリブが言。彼の手の酒瓶は割れる事もなく中身を留めていた。
「よぉ王様。そいつは味わって呑めよ。今生最期の酒になんだからなぁ」
 粗野な口調で清春が挑発すれば、老戦士は酒を一息に飲み干して背負った戦斧に手をかけ力強く振るう。
『若造が』
 その動きは酒精の影響などない万全のもの、同時に空気に焦げ臭い匂いが混じり突然発火する。
 地獄を召喚したかのような獄炎が後衛を包むも、その殆どは護り手達により防がれる。
 即座に展開された雷撃の壁と黒電波の応援動画が前衛を癒せば、清春がカラフルな爆発を引き起こし後衛を鼓舞。
「――貴様の物語を否定する」
 そしてユグゴトが弓の妖精の存在、行為を否定すれば妖精は酩酊を悪化させたかのようによろめく。
 それを悪化させるよう財宝の幻影を脳髄のミミックがばら撒き、紫のエクトプラズムを武器へと具現化させた収納ケースが頭部に一撃を見舞う。
『……急いで、救援を』
 不利を感じ取ったか、助勢を求めナイフの妖精が扉へと駆け出そうとするが、
「行かせないよ!」
 そこに言葉の竜の砲弾とぶーちゃんのブレスが命中し吹き飛ばせば、その間に恐ろしい速度でスノードロップが回り込む。
 靴のデバイスが効果的に機能していた。
 覚悟を決めたか、配下二人も王と同じく迎え撃つ態勢をとる。

 ケルベロス達のアドバンテージは非常に大きなものだった。
 妖精弓より放たれし魅了の矢が黒電波に命中するも、
「データサポートを行いマス」
 モヱがグラビティにより即座にロールバックし解除。
 変形したナイフの妖精の斬撃をシルディは防ぎつつ、周囲にドローンを展開し守りを固める。
 正直なことを言うなら、彼にとってはデウスエクスとも理解し合い仲良くできて戦いが終わるのが一番だけれども、それは地球の人を守ることに優先するものではない。
「さア、アタシと一緒に踊りマショ!」
 生き血を求める魔剣の逸話を元に創造された魔剣、それを手にした魔刃が立体的な円舞を舞えば妖精の血が神殿を汚す。
 飛翔戦闘を得手とする彼女の攻撃は非常に重く、配下妖精達の負傷も見る見るうちに重なっていく。
 更にぶーちゃんのブレスが弓の配下の呪縛を増幅し、もはや虫の息といった状態の弓の妖精。
『せめてターリブ様に……』
 その最後の一矢は敵へのものでなく、王への祝福の矢。番えた矢が褐色の指を離れると同時、黒い靄のような力の塊を纏ったグラハが飛び込む。
「――もう十分に生きたか? んじゃ、死ね」
 狙うは胸の中央、心臓。それを的確に槌矛でを叩けばシャイターンの生命活動の調和は破壊され、崩れ落ちる。
 まだ止まらない。
「面倒事は早々に片付けるに限る」
 ――どれ程歪で醜悪でもそれは紛れもなく母なるものの偶像、揃った双魚の星の並びより放たれたオーラがナイフの妖精を侵し、更に飛び掛かるエイクリィの実体化させた三本の刃が妖精の腹部を切り裂いた。
 明らかな深手、それを癒す前に双魚宮の天井を蹴り加速した言葉が飛び蹴りを見舞い、更にスノードロップが流水の軌跡で振るう魔刀で続く。
 耐えきれぬと判断したか、シャイターンは王を庇いつつ炎の蛇を彼の元へと走らせる。
 三撃。流星にぶち抜かれ更に流水の刃に刻まれたシャイターンはそのまま崩れ落ちる。
 残るは四王ターリブのみ。
 だが老王に動揺はない。纏う装備に埋め込まれた青石より光線をモヱに放つ。清春が防ぐがその一撃はデバイスがあってなお重い。
「お前の娘だっけ。アレな、殺したのはオレだよ」
『寝言を。真だとして、それを証明するものはないだろうに』
 そう言うや否や表情一つ変えず、老戦士はタールの翼より獄炎を散布する。
「ほぉ……似てはいねぇが、そういうこともあるか」
「きゃり子氏とは似ても似つかないような気が致しマスガ……」
 グラハとモヱが知る清春のビハインド、清春が言うには彼女と縁があるらしい眼前の老戦士の印象は全く異なる。
「ほう! やっとこシャイターンらしき戦士に出会えたか!」
 そしてそんなターリブの姿を見た無明丸は上機嫌。真っ向から力と力をぶつけ合える相手が眼前にいるのだから。
「さぁ! いざ尋常に、勝負ッ!!」
 無明丸が拳――腕輪型の日本刀を纏ったその一撃は打突ではなく斬撃を刻み込むもの。ジェットパックで加速した彼女は月弧の如き軌跡の一撃は横薙ぎの斧に弾かれる。
 黒のテレビウムが凶器で殴りつける――しかしその巌のような体はぐらつきもせず濁った瞳は敵を見据えていて。
「騒々しい宴、酒の席は大好きだが、私は憂鬱に呑まれた方が己らしいか。胎内に還り給えよ、老戦士」
 悪夢に染め上げる黒き魔力弾、老王の精神を侵すには至らないがそれを起点に言葉とグラハが動く。
 戦闘からは縁遠くも見える言葉だが、グラハはその力量をよく知っている。
 彼女を信頼しグラハは跳躍、同時に竜槌の砲弾が放たれターリブを撃てば、直後魔斧が振り下ろされる。それは翳した手甲に阻まれるが、与えられた重圧に老戦士の表情が歪み、そして吼える。
 威厳溢れる声は彼に纏わりつく呪縛を祓うと共に戦意を高めるもの。
 ケルベロス達と王の視線が交差する。
 戦いはこれからだ。

●老王の最期
 剛斧は幾度と振るわれ、青の石より放たれた光線は容赦なくケルベロス達を灼く。
 獄炎の熱は残留しまるで熱砂で戦っているかのよう。
 護り手達は代わる代わる受け互いに癒しているが、徐々に癒しきれぬ傷は蓄積されていく。黒電波と収納ケースは既に耐えきれず姿を消していた。
 無明丸へと斧が振るわれる。それをシルディが割込み盾で阻み、体が軋む。王の一撃は小柄な彼を純粋な腕力で吹き飛ばしてしまいそうなほど強烈。
(「おじいちゃん1人でここまでの破壊力とはね……!」)
 けれどシルディも頑丈さでは負けていない。巨大な機械腕で床を掴み耐え抜けば、
「わははははははっ! 炎と略奪を司る戦士がこんな場所でさぞ退屈しておったろう!」
 覚悟し往生せい、と後方から飛び出した無明丸の雷速の拳が突きこまれ、金属鎧の守りを劣化させる。
 更にエイクリィが喰らいつくが、老王は剛斧で弾き飛ばすと怒号と共に呪縛をも振り払う。
 ぬくもりは此処にあるというのに拒絶して何処に逝くのだろう、そんな風にユグゴトは疑問に思うけれども答えはきっとない。
 古強者、とは言っても過ぎ去ればそれは単なる遺物。
「出番は若人に譲ってやれや、なァ?」
『貴様らが飛び込んできて何を言うか』
 朱殷に染まった鎚矛の砲撃形態より放たれた砲弾が老王を撃ち足を止め、さらに飛び込んだ言葉の炎纏いし鋭い蹴りがタールの翼越しに老戦士の頭部を正確に蹴り飛ばす。
 苛立ちと共に老戦士が翼を広げれば獄炎が周囲に発生。延焼は耐性に抑え込まれているが、純粋な威力も相当な物。
「蝕め、血染めの白雪」
 だがその熱気を突っ切りスノードロップが愛用の魔刀の名を口にし無数の霊体宿す刃でターリブを斬り裂けば、飛び込んだ無明丸の空の霊力纏うボディブローが胴体に突き刺さり、
「もういっぱぁつっっ!」
 止まらない。無明丸は逆の拳で顎を突き上げるように殴り抜く。
 そこで熊蜂竜の果敢な体当たりが突き刺さり、ターリブの纏う加護を砕く。サーヴァント故に多少時間がかかったが、これで配下の置き土産は消え去った。
「ぶーちゃんナイス!」
 戻ってきたぶーちゃんに主が褒めれば得意げに見える。普段より大所帯だから少しばかり強気なのかもしれない。
 だがターリブはあくまで冷静に攻撃を重ねる。清春が受ける何度目かの斧、呪縛もあるというのに振るわれる斧の衝撃が一層増しているように感じるのは彼の錯覚だろうか。
 モヱの放った電気ショックが清春の生命力を賦活化させる。デバイスの効果も相俟って傷は塞がるが、蓄積された傷は守りのデバイスがなければ既に倒れていてもおかしくない程だ。
『何故まだ立つ。そこまでしてゲートを破壊したいのか』
「ゲートがなんだ人類がどーだなんざガラじゃねぇ。……ただ、ふんぞり返ってるやつの喉元に歯ぁ立てんのは愉快だからな」
 清春の応えに、そうかとターリブが呟く。
 そこから数合。
 満身創痍のターリブの纏う青石から清春に光線が放たれる。
 だが、シルディが庇いに入り一筋たりとも通さない。
 光線が止まった瞬間、
「逃がさナイヨ」
 呪詛を乗せた魔刀の軌跡は狂気じみた美しさ、堅牢なターリブの防御を物ともせず深々と切り裂いて、
「おいで」
 ユグゴトが母たるものの可能性――狂信を宿した偶像の柱で老戦士に仕置きを見舞う。
 恐ろしい熱気の中、清春が感じたのはひんやりとしたオウガ粒子の感覚。更に雷撃が彼の体を賦活化させる。
「柄倉氏、お願いしマス」
「んじゃ、終わりは任せたぜ」
 モヱとグラハの支援を受け、清春は老いたるシャイターンへと飛び込むと五刑に準えた攻撃を見舞う。
 鼻と膝への連撃、そして体勢を崩し逃れられぬようにした上で生命を奪う為の連撃を欲望と凶暴性の儘に叩き込む。
 喧嘩殺法の中の飛び切りの清春の攻撃――それが空を切る。
「……ハハッ、もう死んでやがる」
 清春がそう呟くと同時、限界を迎えていた老王はどう、と正面に倒れる。
 戦斧と床の衝突する重い音が戦場たる部屋に響いた。

●そして、十二宮の戦いへ
 直後、戦闘をようやく察知したのかシャイターン達が飛び込んでくる。
『ああっ! ターリブ様!』
「血祭続行デスカ!?」
 即座にスノードロップが魔刀を構え迎撃態勢をとるが、このままでは数に押し切られる可能性も高いと思考したグラハは靴のデバイスを発動させる。
 だが。
「仕掛けてこない?」
 シルディの呟いた通り、攻撃してこないのだ。ユグゴトも仕置き相手の様子を訝しむ。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 張り詰めた空気をぶち壊しにするかのように拳を突き上げ宣言する無明丸。それは或いは敵を激昂させるかもしれない行為。
『……降伏だ』
 けれど、シャイターンが次々に武装を放棄し始める。
 どのようにしてかこんな最奥にまで侵入され、あまつさえ四王を討たれた。その事実はケルベロス達の想像以上にシャイターン達の士気を挫いたようだ。
 程なく他班の作戦の成功、そして死者の泉制圧の報が齎される。
 負傷をモヱが癒す中、清春は思う。
(「戦いが苦手なあいつを、この場に連れてこなくてよかった」)
 咎を背負わせるのも、この老戦士の最期を見せるのも酷だから。

 大きな戦果を得たケルベロス達は死者の泉より転移、地上へと帰還する。
 最も深き双魚宮を制圧したケルベロス達――エインヘリアル達との決戦は間近に迫っていた。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年12月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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