『クラブ・アイーダ』

作者:麻人

「おつかれさまでしたー!」
 夜のバイトを終えて家路につこうとしていた青年は、「あれ?」と首を傾げた。どうしてうちの電飾看板がこんなところにあるんだ?
 道端の真ん中でちかちか光っているそれを元の場所に戻そうとして、「あれ?」と再び首を傾げた。
「なんで手足がついて……え? 動いた?」
「ヨッ、シャチョサン! カワイイコガソロッテマスヨ!!」
「うわっ!」
 電飾看板はおどけて笑い、驚いた青年は慌てて逃げ出した。その靴の裏に付着していたのが、金属っぽく鈍く光る粉のようなもの――そう、電化製品をダモクレス化してしまう攻性植物の胞子であった。

「大変っすよ、屋外にあった電飾看板がダモクレス化する事件が発生したっす。放っておけば被害者が出て一大事っすよ」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004) が示したのは、とある歓楽街の一角にある雑居ビルの通りである。
「まだ被害が出てないのは幸いっすね。奴らの狙いは人々を虐殺してグラビティ・チェインを奪うことっすから、絶対に放置してはおけないっす」

 時刻は既に真夜中を過ぎており、歓楽街と言えども人気はまばらになっている。電飾看板が変形したロボットのような姿のダモクレスは堂々と路上を闊歩し、人間を見つけ次第襲いかかるつもりなのだ。
「どうやら、攻撃方法なんかも元の電飾看板に由来するみたいっすね。ぱーっと電飾が光って正気を失わせたところへ、体当たりしたりコンセントを振り回してくるような感じっす」

 ダンテは説明を終え、困ったように両腕を組み合わせた。グラビティ・チェインを狙うデウスエクスはまさに神出鬼没である。
「こいつらを倒していくうちに、ユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレス勢力の情報に繋がるといいんすけど……とにかく頼んだっすよ。無差別に人を襲う奴らに天誅食らわしてやって欲しいっす!」


参加者
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●夜の街へ
 ほとんど無人となった真夜中過ぎの街は、人間たちが眠った後で幕を開ける物語の始まりを予感させる静けさであふれていた。
「さあ、いくよ――!」
 そんな暗闇の中へ、颯爽と飛び降りてゆくのがアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)である。ヘリオンが降下しながらジェットパック・デバイスを起動し、通りの上空で周囲を見渡した。
「例のダモクレスはどこだい?」
「電飾看板らしいので、すぐに見つかると思うのですが……」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)はきょろきょろと辺りを探してみる。懐中電灯の電源を入れ、夜道を照らすと少し肝試しみたいな雰囲気になった。
「そういえば、今回のダモクレスは廃棄品やガラクタに取り付くモノとはまた別なのですね」
「ええ、通常は家電がダモクレス化することが多かったのだけれど攻性植物絡みのものはこうやって家の外で使われている電化製品が事件を起こす場合が多いようね」
 それにしても、とリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)は軽く肩を竦めて足元をランプで照らす。
「よりにもよって電飾看板とはね――」
 明らかにケルベロスたちの持参した明かりとは違うそれが、街に降りた暗闇の中で光っていた。
 ちょっとレトロでちょっと妖しげな、赤やピンクに紫色の豆電球で飾り立てられた電光看板。
「えーっとその看板は? クラブ……アイー……?」
 ミリムは目を凝らし、看板に書かれた店名を読み取ろうとする。オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が助け船を出した。
「『アイーダ』……地球人類の間でも名だたる壮大なオペラのことだね」
「へー、お詳しいんですね!」
 意外そうにミリムは目をみはり、「てへへ」と頭をかいた。
「てっきり飲み屋さんかと思ってました。そんなに壮大なお名前なら、もっと高級なバーとかだったりするのかな?」
「え? ああ……うん……」
 オズは歯切れが悪い。
「どうしよう、本当のこと教えてしまっていいのかな?」
「夢は壊さないでおきましょう」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が小声で応じる。
「なにせ歓楽街ですものね。本来、未成年のわたしたちがこんな時間にいていい場所ではないのだし」
「そうだよね。でもちょっとだけ、役得かなと思わないでもないよ。なにしろ任務だから、こうやって堂々と歩いても許されるわけで」
 白い息を吐きだし、見上げる街はちょっとした異境の気配を漂わせている。こんな真夜中でなければさぞさし賑わっていた街なのだろうな――九竜・紅風(血桜散華・e45405)は電灯の落ちた店先や路地を眺めて呟いた。
「一般人がやってくる前に、アレを手早く倒してしまわねばな。さぁいくぞ疾風丸。サポートは任せたからな!」
 紅風の隣で疾風丸ことテレビウムがチャンネルを応援動画に合わせる。
「オヤ? オ客サンデスカ?」
 こちらに気付いた電光看板が剽軽な声を上げた。
「ラッシャッセー! 六名様、ゴ案内デス!!」

●一夜の戯れ
「来ます! 皆さん気を付け――うわぉ! 眩しいっ!! ……あだぁっ!?」
 その身をギンギラギンに光らせ、体の自由を奪ってからの体当たりにミリムは「あいたたた」と尻もちつちながら叫んだ。
「目潰しからのタックルとは卑怯ですね! さっそくやり返させてもらいますからね!?」
 ミリムがレイピアを振り回すと、看板に当たるごとに幻の薔薇が舞い散った。
「シャチョサン! 隠シ芸オジョウズネ!」
「ええい、芸じゃありませんてば!」
 いまのうちに、とミリムはたーっと道路を横切って持ってきたキープアウトテープで立ち入り禁止の目印を張る。
「これでよし、と!」
「いいね。さぁ、行こうか――黄金騎使がお相手しよう」
 アンゼリカのスターゲイザーで蹴り飛ばされた看板がごろごろと転がりながら悲鳴を上げた。
「アーレーソンナゴ無体ナ!」
「電飾看板は人々の気持ちを楽しく、明るくするものだよ。人を襲うだなんて君の本来の用途からはかけ離れた行為だ」
 アンゼリカの拳は音速を超え、直撃を受けた看板はさらに吹っ飛んだ。
「人々を恐がらせる前に、ここで倒させてもらう!」
「ああ、誰かが通りがかる前に決着をつけるぞ!」
 唇に凄絶なる笑みを浮かべ、紅風は敵を呪いの渦中へと引きずり込む。この美貌こそが呪い――さあ、俺を見たが最後、お前はもう動けない――。
「アワワワワ、綺麗ナオニーサンウチデ働カナイ?」
 足止めや捕縛されて動けなくなった看板はぼっこぼこに叩かれまくりながらもスカウトに余念がない。
「商売熱心なのはいいけれど、これはきつーい一発よ!」
 悠姫の作り出したエクトプラズムの霊弾は巨大な綿あめのように膨らみながら宙を迸る。
「霊弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 プラズムの塊は看板に絡みつき、じたばたしている間にミリムと紅風の蹴りが立て続けに入った。
「どうやら、敏捷が弱点のようだね?」
 仲間にもそれを伝えるアンゼリカに、看板は焦ったように電飾をちかちか点滅させる。
「ギクウ!!」
「そうと分かれば、こうだ!」
 流星のような蹴撃が側面を抉り、看板にヒビが奔った。
「イケマセンオダイカンサマ!!」
「ちょっと、一体どういうプレイのつもりなのよ!」
 拳銃形態をとった悠姫のガジェットガンがお仕置きのように乱れ撃たれ、石化に誘う。
「さっさと倒さないと、何を言い出すかわかったもんじゃないわ」
「ほんとに。仕事熱心なのはいいけど、それで犠牲者を出すわけにはいかないものね」
 リサはゆったりと微笑み、両手を伸ばして自分の眼前に属性でできた盾を作り上げた。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい!」
 看板は全力で光り輝くが、『盾』によって守られたリサは動じることなく暗い足元を照らすようにランプをかざした。
「どうしたの? 効きが悪いようね」
「何度やっても無駄さ」
 紅風は自分の小指を噛みちぎり、戦場を血の霧で包み込む。看板が一生懸命に振り撒いていた麻痺のほとんどから仲間たちを解放してしまうと、それは自ずから晴れていった。
「よし、今だよトト。一緒に頑張ろう」
「にー」
 オズのウイングキャットであるトトは空へと舞い上がり、翼を羽ばたかせて清浄なる風を送り込む。
「これで、大丈夫かな……?」
 輝く両手の加護によってミリムの痛みは完全になくなった。
「どうもです! てやあ、てやてやてや!!」
 ここぞとばかりにミリムは攻め立てる。
「アワワ!!」
 甲高い剣戟音が響き、電飾が幾つも割れた。
「この弾丸で、その身を石に変えてあげるわよ!」
 再び、悠姫の弾丸が効果を発揮。
 窮地に追い込まれた看板は汗を流して交渉を始めた。
「オ、オヤスクスカラ、ミノガシテクレナイ……?」
「悪いけれど」
 オズはにっこりと微笑み、首を横に振る。
「交渉決裂だね」

●勝ちて帰れ
 かくして、電光掲示板に残された道はケルベロスたちに勝ってこの場を切り抜ける他はなくなった。
「果たしてできるかしら? 先に言っておくけれど、私たちの援護は鉄壁よ」
「そういうことだね」
 回復の二枚看板を背負うリサとオズの舞い起こす風が仲間たちを守るように靡き、戦場に滞空する。
「通行人もいまのところ現れる気配はないね。大丈夫、このまま戦いを続けよう」
 肩越しに背後を気にしていたアンゼリカは自信をもって一般人の安全を請け負った。この分なら戦いが終わるより前に誰かが間違って通りがかってしまうような事態は避けられそうだ。
「どうやら、形勢は決まったようね?」
 悠姫がドレスを翻してガジェットを変形――銃型に組み変わったそれを看板目がけて突き付ける。
「逃れられるものなら、逃れてごらんなさい!」
「ァヒン!」
 急所を弾丸で射抜かれた看板はくすぐったそうな悲鳴を上げたきり動けなくなった。
 まるで電球が切れてしまったかのように看板から明るさが消えていく。どうやら自力では動けないらしい。
「今よ!」
 悠姫の号令に、攻撃手を担うミリムとアンゼリカが同時に飛び出した。
「さあ、夜空に咲き散りなさい! 緋牡丹斬り!」
「この光の中……消え去るといい!」
 ミリムの赤に染まる白い刀身とアンゼリカの光を帯びた羽が暗闇に美しく映えた。
 まず、ミリムの剣が緋牡丹を看板に刻み、それからアンゼリカの両手より放たれた究極なる光が敵を焼き尽くす。
「ゴムタイデス、オキャクサマ!」
 さすがにこの連撃は効いたらしく、看板は身悶えるようにコンセントを振り回した。
「させないよ」
「忌まわしき血だけど、今はその力を貸してね」
 だが、すかさず割り込んだオズがそれを受け止める。同時にリサは自ら傷つけた指先より咎人の血を放ち、彼の受けた傷を癒した。
「まだ、俺たちも控えているぞ?」
 紅風は舞台上で微笑む男優のように構え、その足元に紅蓮の炎を纏う。
「これで、焼き尽くしてやるぞ!」
 その名が示す通りに、紅蓮の炎を纏った一陣の風となって駆けた紅風の蹴りが看板を穿ち、止めとなった。
「マタキテネ……マタ……ガクッ」
 ダモクレスは動かなくなり、あとには電球が切れて壊れた看板だけが残されたのである。

●夜食といえば?
「こんなものかしらね?」
 手を腰に当て、悠姫は戦闘に巻き込まれたガードレールやらアスファルトやらをヒールで修復した。
「そっちはどう?」
「ちゃんと直せたよ。あとは看板がどうだろう……このままじゃ、お店の営業にも支障が出るよね」
 オズはミリムの手元を覗き込む。
「できる限りは直してみましたけど、これくらいが限界ですね。原因となった胞子もどこかへ飛んでいってしまったみたいですし、今回できることはこれで全てでしょうか」
 ところで、とミリムは壊れた看板を指差した。
「この看板のお店がどういうお店なのか気になるのですけれども……試しに中入ってみませんか?」
「えっ」
 オズが困ったような声を出す。
「それはちょっと、ねえ?」
「残念だが、既に閉まっているようだぞ」
 紅風が助け船を出し、アンゼリカが代わりに提案する。
「なら屋台に寄って行かないか? おでんがいいな。冷える季節に、平和の温かい味……格別じゃないか」
「そうだね、そうしよう!」
「???」
 ミリムは不思議そうに首を傾げつつ、屋台を探すみんなの後をついていく。
「クラブ・アイーダ……いったいどんなお店だったのでしょうか?」

作者:麻人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月29日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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