●Accident
ふわふわと綿のような雪が寒空の下を舞っている。
他県では小春日和が続いているそうだが、この土地であたたかな陽気など一切も窺えない。けれど、クリスマスマーケットが開催された今、案外これで良かったのかもしれないとも思う。
今年幼稚園にあがったばかりの双子たちが嬉しそうにはしゃいでいる背中を見つめて、母である若い女性は口元に笑みを刷いた。はじめて目にするヒュッテや、自宅より背の高いモミの木のツリー、甘いお菓子に、おもちゃの数々。これからおねだり攻撃が始まるのかと思えば少しばかり辟易もするが、せっかくのクリスマスだ。いい思い出として記憶に残してほしい。
「ほら、ちゃんと手を繋いで」
姉が弟の手をきゅっと握りしめてこちらを振り返り、ふへへと奇妙な顔で笑う。しっかり者のお姉さんとして振る舞いたいが、クリスマスマーケットが嬉しくて顔が緩んでしまうのだろう。微苦笑を浮かべて前を見るように促した、その時。
双子が誰かにぶつかって、尻餅をついてしまった。
「す、すみません!」
慌てて二人を抱き起しながら顔をあげると、そこにあったのは――いや、居たのは恐ろしいまでに屈強な肉体をした大男、だった。声をかけたことではじめてこちらに気が付いたらしく、よそを向いたままの恰好で視線のみを落とす。
「へへっ……可哀想に……」
虚ろな瞳に下がった眉。目の下には暗がりでもはっきりとわかるほどの濃い隈が浮かんで、腕まくりをした黒シャツから覗く胸板や腕は皮膚が引きつり、傷痕だらけ。
巨体を押し曲げるようにしてしゃがみこんだ大男は、抱き合って震え上がる親子にずいと顔を近づけて、
「オレなんかの目に止まっちゃって……可哀想にね……」
ニタリと笑った。
●Caution
「エインヘリアルの出現が予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)曰く、その男は過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、つまりは使い捨ての尖兵として地球に送り込まれたその一人ということだ。
「現場はクリスマスマーケットが開催されている自然公園です」
そう言って、クリスマスマーケットの案内パンフレットを開いたのはアイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)だった。みなによく見えるよう胸前で掲げてみせた三つ折りのそれには、赤いペンで丸が描かれている箇所がある。
「ペンで丸印を描いた場所が、罪人エインヘリアルが現れるポイントなんですけれど……」
「実はここ、地元の人しか知らないような裏道に繋がっているんです」
不運にもイベントが開催されていることもあってか、その通りに一般人の姿があった。セリカはその道を利用していた親子が惨殺される姿を目にしてしまったらしく、表情が暗い。
敵は身の丈三メートルを超す巨体で、武器はバトルオーラに類似したものを扱い、肉弾戦を得意とする男らしい。一見すれば格闘家のような風貌だが、病人のような形相でちぐはぐな印象を受けるのだとか。
「配下と言ったものもなく、不利になっても撤退はしません」
「ただ、先ほども言ったように現場は住宅街と自然公園を繋ぐ、細い小道です。少し先に進めば公園内に入ることができるのですが、幸いマーケットからもある程度距離が離れているため、進撃を抑えることが出来ればそちらに被害が及ぶことはないと思います」
アイヴォリーの補足に頷きを返したセリカは、改めてパンフレットを指差した。
「住宅街から公園に向かって歩いているのは、幼稚園生のお子さんが二人、そしてその後ろに母親である女性が続いています。エインヘリアルは進行先で立ち止まっていたらしく、そこに先頭の子どもたちがぶつかってしまったみたいなんです」
周囲に他の一般人は居ないため、皆にはこの親子とエインヘリアルとを引き離し安全に退避させてほしいのだ。そして、これを撃退する。
「小道の左右はとくに生垣や柵などがない森になっているので、そこから奇襲を仕掛けたり、あるいは背後を取ることも可能だと思います。うまく意識を引き付けて、親子を逃がしてあげてください」
ぎゅっと両手を握りしめたアイヴォリーの眼差しとセリカの切実な表情に、集まったケルベロスたちの気が引き締まる。
「このクリスマスマーケットが初めての経験になる子どもたちも多いと思います。そんな小さなお子さんのために……そしてイベントを楽しんでいる皆さんのためにも、どうか撃破のほど、よろしくお願いいたします」
「わたくしからも、お願いいたしますね。でも、きっと皆さんなら大丈夫だと、信じています」
ふんわりと陽射しのようなあたたかさで、アイヴォリーは微笑んだ。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(シーソルト・e00040) |
桐山・憩(鉄の盾・e00836) |
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918) |
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101) |
ミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347) |
水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841) |
●
膚が粟立つように巡る怖気は、その顔色の悪さのせいでも、落ち窪んだ様相のせいでもない。指の爪先から、いや髪の毛の一本からすら放たれる殺気が、ナイフの切っ先のように、額を、心臓の真上を、首を突き付けているのだ。呼気さえも奪われる。
母親が引きつった喉の奥で声を詰まらせた。
(「だめっ……!」)
子どもたちの柔肌に武骨な指先が触れそうになった、そのとき。視界の左右から、小道に向かって美しい虹が架かるのを、見た。鋭く空気を裂いて、暗がりから飛び出してきたそれは、巨体の男の側頭部を、そして子どもに伸びた左腕を激しく貫く蹴りだった。
「――貴方の命運は此処でお終い、可哀想にね!」
「あらあら、あなたこそ可哀想に。……だなんて、これっぽっちも思ってなくてごめんなさいね!」
地面に着地したアイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)とミレッタ・リアス(獣の言祝ぎ・e61347)を見止めて、ゆっくりと立ち上がる大男――エインヘリアルが口を開くより先に、流星の嵐が吹き荒れた。躯体に撃ち込まれた無数の砲弾を一瞥し、頸だけで振り返った罪人が、森の茂みから飛び出してきた水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)を目にして、口の中に溜まった血を吐き捨てる。
大気を弾くように寄越されたのは、黒い澱のようなオーラ。瞬きの間に撃ち抜かれた拳を喰らい、和奏は紫色の双眸を眇める。その一発は鋭く重く、そして激烈だった。寸の間呼気が止まったとすら思えるほど。
「……行け!」
刹那。
アームドフォートから浮遊砲台を展開し、無数の砲撃を加えるそれは和奏と同じ”流星の嵐”である。敵の背面に撃ち込まれたそれは、和奏が放ったものではない。罪人が肩越しに振り返ると、小道を挟んだ反対の森から、ゆっくりと姿を現した水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)を見た。
「そんな子供殺したってつまんないだろ? こっち来いよ、俺たちが相手だ。……それとも、ケルベロス相手は怖いか?」
僅かに首を傾げて、双眸を眇めてみせる。分かりやすい挑発だ。弟の傍らに立った和奏を見、それから腰を抜かした親子へ視線を落とす。
「そっちには行かせません。あなたの相手は……私たちです!」
一歩、踏み出した歩みを阻害するべく、和奏が銃口に光を収束させる。小さく鼻を鳴らし、己を取り囲むケルベロスを睥睨する罪人。端から端までじっくりと。まるでどいつから殺してやろうかと、品定めでもするかのように。
「随分と貧弱そうなツラだな、クソ野郎。シシシ」
その視界に親子が映らぬよう、ずいと身を乗り出して遮ったのはエイブラハムを傍らに携えた桐山・憩(鉄の盾・e00836)だった。自身の倍以上はある身の丈の罪人を仰ぎ、浮かべるのは思いきり見下した嘲笑である。”嘲笑う案山子”――言葉に内包されたグラビティで相手の思考を侵し、怒りに染め上げる彼女のとっておき。
にんまり、と三日月のように瞳を細めて、罪人が笑った。
途端、場に居る者たちが一斉に動き出す。腰を抜かした母親はかろうじて子どもたちを両腕に抱きかかえたが、目の鼻の先で行われる乱闘とも呼べる荒々しい戦闘にすっかり怖気づいていた。
その肩に、優しく手のひらを宛がったティアン・バ(シーソルト・e00040)は、悲鳴をあげそうになった母親に「しっ」と人差し指を立ててみせる。
「安心してほしい、ケルベロスだ」
言うなり、武装全てをプリンセスモードに変形させると、茫洋とした瞳にわずかなやさしさを湛えて、大きく頷く。大丈夫だ、と。幼い弟を腕に抱き上げ、姉は母親が胸に掻き抱く。ティアンは仲間たちが足止めをしてくれているその隙に、元来た道へと引き返す。まろぶように前へ、前へ。口から乱れる呼気を零して先へ、先へ。
殿になって戦場から遠のいていくのを見ていたエイブラハムは、雪が舞う夜空に高く飛び上がると、清浄なる風の羽ばたきを起こして癒しを降らせる。憩は斧を引っ提げて高々と飛び上がると、頭蓋を叩き割る気迫をもって一撃を振り下ろした。が、罪人はくるりと身を反転させ、闘気を纏わせた右腕の拳で迎え撃つ。
「ハッ!」
ギザギザとした鮫のような歯を見せて笑った憩が、衝撃で後方へ吹き飛ぶ。しかし、地面に片手を突いて減速すると、すぐさまドラゴニックハンマーに持ち替えた。アイヴォリーはすぐさま煌く砂糖衣が絢爛たる真紅の幕を引くグラビティを放って、傷付いた憩にフランボワーズの華やぐ甘さを塗り重ねる。ゆるりと癒えていく傷、不可思議な光景に罪人も少し目を引いたらしい。
ミレッタはそのわずかな隙を突くように、武器に積もった呪いのひとつを解放する。
「ささやきは傷。寂しくて怖くて苦しくて傲慢な呪いを」
とめどなく続く怨嗟と嫉妬で縛りつけ、先へ進むなと囁く、誰かの願望の残響。”渇望魂月”――ミレッタが罪人の躯体を絡め取る内に、一人が集中して攻撃を受けぬよう、協力して立ち回る水瀬姉弟。
まず和奏がバスタービームを罪人の腹に撃ち込むことで巨体を押し込むと、翼が真っ直ぐと振り払ったバスタードソードで無防備な背面を叩き切る。だが、それはまるで肉の鎧だった。衣類を裂いても尚、さほど傷付かぬ硬い筋肉は隆々としており、男の歴戦を思わせる。
(「一方的な虐殺だったんだろうけどな」)
だからこそ、あの幼子たちを守れて良かったと心から思う。まるで、幼少期の自分たちを見ているような、そんな心地になる子どもたち。もう彼女らの気配が遠くに在ることは分かっている。
なぜならば。
「もう安心していい」
乾いた音に交じった、静謐な声。揺らぎもなく揺蕩うような滑らかさで、ドラゴニックハンマー・櫂を大地に突いた一人の少女。こめかみを掠めた礫が、皮膚を裂いて真っ赤な血を垂れ流す。衝撃でのけ反った姿勢のまま、ぎろりと視線を落とした罪人が、ぐぐっと身を起こしながら拳を振り下ろす。ティアンは両手で櫂を持ち上げると、ドラゴニック・パワーを噴射。両者は真正面からぶつかり合った。
世界が弾け飛んだのではないかと思うほど、真っ白な色が視界を突いた。目を眇めたエイブラハムが羽ばたきで邪を祓うと、吐息が触れそうなほど至近で睨み合う罪人とティアンが、どちらからともなく距離を取った。
「厭な目だ。何もかも見下している」
罪人は、喉を震わせて笑っている。
もう遠慮はいらない。そうと分かれば憩が駆ける。勢いのままに地を蹴り上げ高く飛び上がると、エインヘリアルの太い膝を蹴って更に上へ。
「隙だらけだぜアンポンタンが!」
夜空を奔る流星の煌めきを帯び放つ蹴りを、今度こそ頭蓋に叩き込んでやった。よろけた巨体に左右から飛び掛かった和奏と翼が、脇腹に差し込むように破鎧衝を突き立てた。挟撃を仕掛けた姉弟の頭を、それぞれ鷲掴みにした罪人は、大地に叩き伏せるように投げ飛ばす。
地に伏した二人を見て、小さく息を呑んだアイヴォリーは、すぐさま光の盾を具現化すると、翼へと付与。エイブラハムのヒールも重ねて二人の傷を癒すその隙を補うように、しなやかな身のこなしで高く飛び上がったミレッタが、ファナティックレインボウで敵の意識を引き付ける。無駄のない動きに、罪人も感心したようだ。
ティアンは自身の肉体に纏うオーラの弾丸を放つと、それは罪人の首に噛みついた。それに、覚えがあったのだろう。
「オレも、こういうのを持っている」
頸を僅かに傾げて嘲笑った罪人が、ティアンのオーラを蹴り飛ばす。それは霧散させただけでなく、宙を駆ける咆哮となって牙を剥く。まるでこの世全ての闇を搔き集めて形成された牙とでもいうのか、己の身体より大きな口が、ティアンを喰らう。
しかし。
肩口にめり込む牙の痛みに眉根を寄せたのはティアンではなかった。
「ンだよ、この程度か?」
返り血を頬に浴び、両手で口をこじ開けて牙を引き抜いた憩が、不敵に笑う。指先の力で牙を粉砕した憩は、地面に叩き捨てると、それは塵となって罪人の元に返っていく。目まぐるしく攻守を繰り返すさまに目が回りそう。けれどアイヴォリーは皆の動きを、そして敵の挙動をしっかりと見据えて最もダメージの多い憩に再度”煌幕”のヒールを施した。
「幕上げれば虚構の舞台、さあ至極の一皿を」
艶めく光が絢爛で見惚れるほど印象深い一皿だったが、残念ながら何かに隔てられたように堅く歯を立てることはかなわない。フランボワーズの香りを深く吸い、短い礼を口にした憩がすぐさま走る。
死角から氷結輪を振り被ったミレッタが、冷気を孕むクリスタライズシュートで斬り付けると、敵の射線を注視していたティアンが、膝を突いて崩れる間際、その視線が向けられた方をいち早く読み取った。
「憩」
「わーってるよ」
口端を吊り上げて笑った憩は、フロストレーザーの発射準備に取り掛かっている和奏の前に割り込むと、敵の真正面から顔面目掛けて竜砲弾を叩き込む。もろに直撃を喰らった罪人が、黒い煙を吐き出して、上体を仰け反らせる。が、広げた五指を固く握りしめて拳を揮う――かと思えば、寸前でピタリと静止。僅かな一瞬の内に身を捩じって躯体をへし折り蹴りを放ったのだ。
ごほ、と咳き込むと血が滲んだ。何とかぎりぎりのところで攻撃を庇い受けた翼は、手の甲で血を拭うと、姉の放った凍結光線に乗じ、卓越した技量からなる、達人の一撃を放つ。エイブラハムが忙しなく飛び回り、傷付いた仲間たちを癒し援護する。雪に交じるあたたかな風が頬を撫でて、それは暴れ狂う拍動を押さえるに至る。
「君の、首を、もらう」
言うなり、ティアンの身体が掻き消えた。
ハ、と息を呑んで見渡すもその姿はなく。ならばどこに――感じた殺気に頭上を仰ぐと、そこにあるのは青白く光る一太刀の刃。空中で刃の上に立ったティアンが、そのまま首元目がけて落下する。まずい、と思い避けようとしたところ。
「行かせると思いますか?」
「まぁゆっくりしていけよ」
右から和奏が、左から翼が。それぞれ展開したアームドフォートの浮遊砲台、その標準を向けている。チッと舌打ちする間もなく寄越される夥しい数の砲撃が、エインヘリアルの巨体を蜂の巣にする。逃げることも防御を取ることも出来ずに、集中砲火を喰らう頸裏に落ちてきた”断頭台宣言”。くるりと身を翻して着地したティアンが、赤く染まって見えた。いや、違う。これは己の皮膚の下から滲み出た血液が視界を覆っているのだ。
「さあ、早く降参してくださいな」
トン、と巨体の前に降り立ったアイヴォリー。蕩けるショコラの瞳に真っ直ぐとした想いを浮かべ、口元に華やかな笑みを湛えて薔薇の棘が絡う茘枝の馨を突き付ける。
「子供たちが――わたくしも、クリスマスを楽しみに待っているんですもの!」
瞬間、言葉に呼応するように物質の時間を凍結する弾丸が瞬く間に精製される。それは敵が動き出すより素早く胸に撃ち込んで、呼気を奪う。喉の奥で声を詰まらせる。一歩、這いずる足に、とめどなく続く怨嗟が絡みつく。一歩、引きずった足を叩き割る。
そして。
「おしまい」
額に突き付けられた殺気が、ティアンの言葉と共に乾いた音を立てた。
●
「もう大丈夫、よく頑張ったね」
ミレッタに優しく頭を撫でられた子どもたちは、ほわほわーっとした表情を浮かべて瞳をきらきらさせた。サンタさんではないけれどウサギさんに出会えて嬉しいらしい。そういえば、ここは森の小路。
「……ちょっとくらい食べ過ぎても大丈夫よね、戦ってカロリー使ってるし。それじゃ、行きましょ翼」
まるで、それは自分に言い聞かせているようでもあった。お姉さんぶっているけれど、賑やかなクリスマスマーケットに何となくそわそわしているのは和奏も同じようだ。親子が無事にマーケットに向かう背中を見送った途端、これだもの。
「……ったく、和奏もあの女の子と変わんないな?」
つい顔がほころんでしまう小さなお姉ちゃんの様子を思い出し、翼は肩を竦めて笑みを零した。
甘いグリューワインの香りに、シュトーレンの魅惑のフォルム。ツリーに飾るオーナメントを探しにわくわくと歩みを進めていたアイヴォリーは、目的を忘れて、ついふらふらと寄り道をしているようだった。
右を見ればテディベアにぬいぐるみ、左を見ればシュトーレンやブッシュドノエル。クリスマスの気配を多分に発揮する魅力がおいでおいでと手招きする。
「ミレッタ……寒い季節に熱々のワイン最高です……!」
「寒い日にこの温かさ、私すごく生きてる! って感じがするわね」
大切な友達とこんなに素敵な時間を過ごせるなんて。無事に怪我ひとつ負わせることもなく、また罪人も葬り去った。瑕疵を残さず依頼を終えて巡るマーケットの楽しいこと!
「甘いものとも合いますねえ」
ちらちらと舞う雪の儚さと、煌めくイルミネーションが束の間の瞬きを格別にする。笑い合ってシュトーレンを頬張ったなら、幸せな気持ちで身も心もいっぱいに。ただそれだけで身も心もぽかぽかと幸せな気分。
スイーツが並ぶヒュッテの通りを、翼の腕を引っ張ってずんずん進む和奏が居た。右手にはチョコレートが掛かった苺が握られており、それはイルミネーションの光をきらきらつやつや照り返して、美味しそう。引きずられている翼も、何だかんだとマーケットの雰囲気に揉まれている内に楽しくなってきたらしい。
そんな水瀬姉弟を横目に、肩口にエイブラハムを乗せた憩が、
「なぁティアン。このスノードーム良くね?」
と、持ち上げて傍らに居るティアンを振り返ろうとしたその時。
下から「あ」という小さな声を聞いた。振り返ると、いや見下ろすと、そこにはさっきの子どもたちが居た。どうやらスノードームを見ようと背伸びした際、気が付いたらしい。母親も気が付いて目を丸くしたが、憩は唇に人差し指を押し当てた。
「いいから楽しめ。メリークリスマス」
口端を吊り上げると、エイブラハムがにゃあと鳴いた。
漫ろ歩きに見つけたオーナメントは美しい海モチーフだった。それは、貝殻や海星の飾り。
「アイヴォリー、何か買ったの」
ちょうどそこへ、ティアンがひょこと顔を出した。
「大事な貴女への贈り物にしたくて――まあ、ティアン」
目ざとく紙袋を見つけたティアンの目がきらんと光る。
「おや、ということは、それ、クリスマスにティアンにくれるのか。楽しみにしていよう。ティアンもアイヴォリーにクリスマス、何かあげたいな。これとかどうだろう、夜空の星抱く天使のオーナメント」
白い指先で摘まんで、こっちがいいかな? あっちがいいかな? と品定めする様子に、なんだかおかしそうにアイヴォリーが口元に手を添える。
「ふふ、まだ、秘密ですよ」
「ふふ、ひみつ、ひみつ」
二人は額を突き合わせて、笑いあった。
作者:四季乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年11月30日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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