落ち葉吸い込み放題の秋

作者:星野ユキヒロ


●屋外用掃除機のめざめ
 11月に入り、落ち葉が目立つ季節になってきた。千葉県の自然公園に併設するキャンプ場では大量の落ち葉を屋外用の掃除機で一気に掃除していた。近くの学校の生徒が毎年集めた落ち葉を落ち葉炊きに使うのだ。
 掃除が終わり、用具入れに片付けられた掃除機の周りに風に乗って鈍く光る金属粉のような何かが流れてきた。まるでその掃除機を目指していたかのように不自然に向きを変え、中に入り込んでいく。
『シュゴオォオオオ……』
 ガコン、と動き出した掃除機は蔦にまみれ、異様な雰囲気。這い出した蔦を足のように使い、掃除機は這いずりはじめた。

●屋外用掃除機討伐作戦
「屋外用掃除機のダモクレスが千葉のキャンプ場で動き出すようヨ」
 ヘリポートにケルベロス達を集めたクロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「前からこなしてきた廃棄家電事件とはちょっと毛色が違うネ。攻性植物の胞子が現役の機械に取りついて変化させているヨ。幸いまだ被害は出てないのコトだけど、放っておいてみすみす多くの人々に危害を加えさせるわけにはいかないし、その前に現場に向かって撃破してほしいアル」

●攻性植物系掃除機ダモクレスのはなし
「このダモクレスは寄生した植物が足となって這い回るダモクレスに変化しているアル。攻撃の仕方は、すごい力で吸い込むのと、吸ったもの、小石なんかを高圧で打ち出してくる、主にこの二つヨ。こうやって言うと大したコトないように聞こえるけど、ダモクレスが打ち出してくる小石はちょっとしたガトリングガンくらいの威力はあるヨ。油断は禁物ネ。キャンプ場は開放してない日アルから、一般人の避難にもそれほど気を配らなくても大丈夫ヨ。管理者にも話は通してあるネ」
 クロードは手持ちの端末で航空写真を見せてくる。確かに使えないのなら、わざわざキャンプ場に来る者などいないだろう。
「終わった後のキャンプ場は好きに使っていいらしいカラ、落ち葉炊きでもしてくるのも一興かもアルネ」

●クロードの所見
「この事件、ユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレスの勢力によるものってことも考えられるヨ。そうだったら手掛かりを逃す手はないアル。張り切ってやってきチャイナ!」


参加者
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
ミルフィーユ・タルト(甘いもの好き・e46588)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
 

■リプレイ

●落ち葉のキャンプ場へゴー
 ヘリオンから降り立ったケルベロス達は自然公園の入り口から中に入り、現場のキャンプスペースへ徒歩で向かっていた。
「キャンプ場ですか、開放されていたらさぞかし人で賑わっていたでしょうけど、ダモクレスが現れたからには、人々の安全の為に倒さないといけませんね」
「落ち葉が沢山散っている景観は、秋を感じられるわよね。早くダモクレスを倒して、秋を満喫してみたいな」
 見事な紅葉の自然公園はこんな晴れた日に来ないのはもったいない美しさを見せていた。綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)は残念そうに、しかし紫の瞳に使命を宿らせた顔で言う。ボクスドラゴンのネオンは小さな翼をぱたぱたとはばたかせ、そんな玲奈を見ていた。
 ミルフィーユ・タルト(甘いもの好き・e46588)も自分の瞳の色によく似た見事な紅葉の色づきと自然の空気に、行楽気分を味わいたくなっているようだ。
「攻性植物が取り付いて変形したダモクレスか……。ダモクレスも、攻性植物も、脅威はなかなか収まらないわね」
「ユグドラシル・ウォーの影響はこんなところにまで来ていたのね。これ以上被害は広げない様に頑張りましょう」
 赤い髪と青い髪の二人、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)とリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)はデウスエクスの侵略に想いを馳せる。ケルベロス達の頑張りが未来を獲得することを信じて。
「機械仕掛けにも種は宿るものだ。私の胎に還る事を『望む』ならば如何様な貌(カタチ)でも構わない。全ては我が仔だ」
 ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)はすべての生命を自らの仔だと認識している。いたずらをする仔にはお仕置きしなければ。ミミックのエイクリィが金の髪を見上げている。
 しばらく歩いていると視界が開けてキャンプ場が現れた。
『シュゴオオオオオオオオ、シュゴオオオオオオオオ』
 件の掃除機ダモクレスが落ち葉を吸いまくっているのが見える。吸っても吸っても、落ち葉は落ちてくるのでまだ外に出て行って人を襲うまで手が回っていないようだった。

●バキュームバトル開始
『シュゴオオオオオオオオ、シュゴオオオオオオオオ』
 ケルベロス達の姿を認めた掃除機ダモクレスはシュゴシュゴと音を立てて威嚇している。ケルベロス達は素早く陣形を敷き、掃除機ダモクレスを逃がさないように配置についた。
「おいで……貴様の存在も『安寧』に導いて魅せる。抱いてやるとも、掃除機。貴様の物語を否定する」
 ユグゴトが慈愛に満ちた声で語り掛けながら掃除機ダモクレスの存在を『否定』し、証明を混濁させる。這いずる掃除機ダモクレスは混乱するように蠢き、その進みを鈍らせた。その隙をついて、エイクリィがガブガブとかぶりついている。
「キャンプ場が使えなくなるのも嫌だし、なるべく周りには被害がいかないように戦いたいわね」
 そう言いながら、悠姫は圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って放ち、掃除機ダモクレスの足止めを強めた。
『シュゴオオオオ』
「その吸引、受けます!」
 霊弾を当てられた掃除機ダモクレスは驚いたように悠姫のほうを向くと、強い吸引力で吸い込もうとする。間に割って入った玲奈が吸引攻撃のダメージを肩代わりした。
「さぁ、行きますよネオン。サポートは任せましたからね!」
 そのままエレメンタルボルト、ディープブルー・スノウで掃除機ダモクレスを殴りつけ、氷の属性の爆発を起こして吸引から逃れる。ネオンが属性インストールで負った傷の治療を行った。
「さぁ、育ちなさい……地中に眠る植物よ。蔦となり相手を絡み捕りなさい!」
 ミルフィーユが地面に手をかざすと、植物の蔦が地中から伸び、掃除機ダモクレスを動かしている攻性植物の蔦足にからみつく。これでさらに動きを止めることに成功した。
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい」
 リサがエネルギーで盾を創り、クラッシャーの悠姫に耐性を付与する。
 戦いはまだ始まったばかりだ。

●吸って吸って
「此処に母親が在る事も解けないのか。色は茶色だろう。さあ、吸い付くが好い」
 ユグゴトが再び物語を放棄させようと語り掛ける。母は此処に在るのだ。そして此処に真実など無いと。エイクリィも同じように噛みつき、援護した。
「この太刀で、その身を汚染してあげます!」
 玲奈が掃除機ダモクレスの機械と蔓の隙間を刺し貫き、反対側からネオンが体当たりをする。
『シュゴオオオオオォォォォオ!!』
 掃除機ダモクレスの吸い込み攻撃は玲奈をまた吸い込もうとするが、ネオンがすかさず肩代わりした。
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 玲奈とネオンが団子になって掃除機ダモクレスを相手している隙に回り込んでいた悠姫はガジェット、不思議なポケットを形態変化させ、敵を麻痺させる特殊な弾丸を放った。弾丸は掃除機ダモクレスの蔓部分に命中し、俊敏さを奪う。
「この一撃で、凍結させてあげるわよ!」
 そのまま、ミルフィーユが氷の斬撃を放つ。掃除機ダモクレスの機械部分の表面がピキピキと凍結していった。
「ディフェンダーに優先して耐性を付けていくわよ。自然を巡る属性の力よ……」
 リサが耐性付与を乗せ、仲間をかばって傷ついたネオンに癒しを与えていく。ネオンは傷が治って嬉しそうだ。
 戦いはまだまだ続く。

●砂交じりの石礫
 一進一退といった具合の攻防戦が続いた。掃除機ダモクレスは足止めで自由を奪われているが、よほど攻性植物ががっちりと喰らいついているのか非常にタフだった。
「仔よ、暗黒星に酔い痴れるが好い」
 ユグゴトは悍ましい形の星座に並べた光からオーラを飛ばし、掃除機ダモクレスに仕置きの愛撫を成す。エイクリィはエクトプラズムで武器を創り、石化攻撃を行った。
「魔導石化弾よ、敵の身体を石化させなさい!」
 悠姫も不思議なポケットを拳銃形態に変化させ、エイクリィに続き石化の弾丸を蔓に叩き込む。
『コォオオォォ……』
 連続で石化を受けた掃除機ダモクレスは今までにない小さな音で吸い込む姿を見せる。何かがおかしい。
『ゴオォッ!!!!!』
 一拍おいて、掃除機ダモクレスの吸引部から逆流した内容物がガトリングガンのように広範囲に石礫となって前衛のケルベロス達に襲い掛かった!
 玲奈はとっさに悠姫を抱きかかえて庇う。その背に石礫が激しく食い込んだ。ネオンも礫を受けて吹っ飛んでいく。
「大丈夫よ、落ち着いていれば安心だから」
 メディックのリサが前に出て、竜の翼から、仲間の心の乱れを鎮める風を放つ。苦しそうに息をしていた玲奈とネオンの呼吸が落ち着き、傷が癒されていった。
「まだこんな攻撃をする力を残しているなんて……地中に眠る植物よ、もっと、さらに絡み捕りなさい!!」
 ミルフィーユが絡みついていた蔦をさらに増やして足止めをした。
「ありがとう、これでまた戦えます」
 リサに礼を言った玲奈は精神を極限まで集中させ、掃除機ダモクレスのすぐそばを爆破する。どかんどかんと爆発する音と共に、蔓がぶちぶちと千切れる音がした。ネオンはさらに玲奈に属性インストールを施しサポートをする。あともう少しだ。
「さあもう眠るが好い、母の胎内で……」
 ユグゴトの仔をあやしてやりたいという意思が魔法に変わり、将来そうなる可能性を感じさせる一撃になる。エイクリィもまた石化でサポートした。
「霊体よ、私の武器に宿りなさい!」
 あと一息の命の炎を感じ取ったミルフィーユは、白夜の霊剣に無数の霊体を憑依させて汚染の斬撃で一刀のもとに切り伏せる。
『シュオオオオオオォォォォ……!!!』
 それは掃除機ダモクレスの断末魔。吸引部を天に向けてひっくり返ると、空に無数の落ち葉を吹き出し、掃除機ダモクレスはその動きを止めた。

●落ち葉炊きをしよう
 戦闘が終わり、そこには物言わぬ掃除機ダモクレスが大量に吐き出した落ち葉が山と積まれていた。任務完了の報告を終え、予定通り満を持して落ち葉焚きだ。
 リサとミルフィーユが荒れた地面をヒールで直し、均す。もともとこのキャンプ場は近隣の小学校が毎年落ち葉焚きを恒例にしているので管理者の気遣いか、子供用にわかりやすく手順を書いた立札が設置されている。必要な道具や薪は無人の販売所で買ったり借りたりできるようになっているようだ。
「ふむふむ……落ち葉はやや濡らして……なるほど、落ち葉だけでなく薪も使うのですね」
 玲奈が販売所で調達してきた薪に火をつけ、落ち葉を積み、落ち葉焚きが始まる。
「シイタケでも焼くべきだ。バターや醤油も用意したぞ。皆の食材も楽しみだ」
「私は焼き芋で落ち葉焚きしますね!」
「そうね、焼き芋を焼きたいわね」
 ユグゴトがシイタケを持ってきたので、借りた網で焼いていく。網などの器具を置く焚火と、芋を焼く焚火をわけることにした。玲奈と悠姫はアルミホイルで焼いた芋を落ち葉の下にうずめていく。
「私は栗を焼きたいわ」
「私も栗を焼いて食べたいな」
 栗はスキレットで焼くようである。リサとミルフィーユは包丁で栗に軽く切れ目を入れ、ユグゴトのシイタケの網の横にスキレットを置いて栗を焼き始めた。
 焼き芋用の焚火はおき火にし、じっくりと焼いていく。栗の方は蓋をして三十分、待っている間にユグゴトのシイタケは良い感じに汗をかき、食べごろに焼けていた。
「うむ、美味い。味覚もまた快楽の一つでは在る」
 たくさんあったので、みんなでシイタケをわけながら栗と芋が焼きあがるのを待つ……。やがて、香ばしいおいしそうな香りと共に次は栗が焼きあがった。
「美味しい焼き栗が出来たわね。皆も良かったらお一つどうぞ」
「美味しくできたわね。何だかモンブランとかも食べたい気分になるわ」
 リサの配る焼き栗を、みんなでスプーンでくり抜いて食べる。ミルフィーユの言葉に、モンブランいいわねえ、秋の味覚、などと沸き立っていると、こんどは芋が焼けた。暑いので軍手とトングで取り出し、しばらく待ってから手を付けた。アルミホイルの中の新聞紙が焼け残って郷愁を誘う。竹串を刺してみると、すうっと中までで突き通り、どうやらいい具合に焼けているようだ。本当に熱いので全員軍手を装着。半分に割るとぽっくりとした黄色い中身が現れ、断面の繊維はキラキラと輝いていた。
「わぁ、とても熱々ですね、美味しそうです!」
 玲奈が歓声をあげる。その通り、確かにとても美味しそうな焼き芋だ。火傷に気を付けてひとくち。
「ホクホクして熱く、とても甘くて美味しいわね」
 悠姫も焼き芋をほおばって、笑顔を見せる。
 玲奈は熱くないように小さく分けておいた栗と芋をネオンに分けた。甘い秋の味覚にネオンも嬉しそうだ。ユグゴトのエイクリィはシイタケが焼けるのを興味深そうに見つめている。
 落ち葉焚きの炎と焼き立ての食材は、戦闘で汗をかいて冷え始めていたケルベロス達の体を優しく温めてくれる。一般人を危険にさらさずに済み、任務を完了したささやかな打ち上げには充分といったところだ。
 落ち葉用の掃除機が集めてくれて、今はパチパチと音を立てて燃えていく落ち葉に秋を満喫したケルベロス達だった。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月20日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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