緑の中の暴虐者

作者:幾夜緋琉

●緑の中の暴虐者
 和歌山県は高野山。
 紀伊山地の霊場と参詣道として知られる小辺路は緑も多く、心に穏やかさを与えてくれる。
 そんな小辺路の近くには、様々な動物、昆虫が生息している。
 そしてここにも一匹の団子虫。
 しかし元気が無いその団子虫は、左右、あっちこっちちょこちょこと動き回るが……それに気づかず、踏んづけて殺してしまう、登山服に身を包んだ老夫婦。
 そして……次の瞬間、その場に現われたのは、人ほどのサイズに大きくなった巨大団子虫。
 そして巨大団子虫は、解せ無い奇声を揚げて、後方から老夫婦に向けて駆けつけ、襲い掛かるのであった。
 
「皆さん、お集まりの様ですね? それでは、本日の依頼について、説明を始めさせて頂きますね」
 セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに軽く微笑むと、依頼の説明を早速はじめる。
「今回の依頼ですが、デウスエクスの一つ、ローカストの不穏な動きを察知し、それを止めてきて頂きたいと思います」
 と、セリカが日本地図から指差したのは、熊野古道。
 自然の多い所だから、ローカストが現われた、というのも頷けるが……。
「このローカストは、これまでのローカストとは違い、知性の低いローカストの様です。彼等知性の低いローカストは知性が低い分、戦闘能力に優れた固体が多いので、注意が必要です」
「このローカストは、団子虫が大きくなった様なローカストの様です。そして熊野古道を歩く一般人の方達へ、次々と襲い掛かっている様なのです」
「このまま放置しておけば、碌な事にはならないでしょう。なので、早々に彼等を倒す必要があります」
 そしてセリカは続けて、この団子虫についての戦闘詳細を説明しはじめる。
「この団子虫は、背中の部分が硬い皮膚に覆われています。団子虫というよりは、アルマジロに近いかもしれませんね」
「そんな団子虫は、前足で一般人を捕獲、抱きつくようにして、人を盾にし、血肉をすすり、ジワジワと弱らせていくのが常套手段の様です……正直、人間サイズの昆虫に抱きつかれたら、厭な気しかしないのは当然ですが……」
「つまり団子虫は、前を人の盾、後ろを硬い皮膚の盾で護らせている、という相手です。とりあえず装甲の甘い前側、つまり一般人を引き剥がすことが、この作戦のポイントとなると思います」
「又、場所は遊歩道とは言えども、かなり足場は悪いと言える所ですので、足元不覚にならないよう、重ねて注意する様にして下さい」
 そしてセリカは最後に。
「この様に人々を虐殺し、グラビティ・チェインを奪うのをこのまま許しておく訳にもいきません。必ずや、デウスエクスを倒してきて頂けるよう、御願いします」
 と、一礼するのであった。


参加者
ヒスイ・エレスチャル(モノクロ無花果・e00604)
ドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)
エレノア・クリスティン(オラトリオの鹵獲術士・e03227)
神威・空(虚無の始まり・e05177)
葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)
ガンバルノ・ソイヤソイヤ(カオスの姫君・e18566)
逢橋・桜(オラトリオのウォッチドクター・e19904)
九頭龍・夜見(ハラキリハリケーン・e21191)

■リプレイ

●他意なき死
 和歌山県は高野山。
 紀伊山地の霊場への参詣道として有名な小辺路は、周囲の自然も多く、様々な動物、昆虫が生息している、自然多い地。
 ……そんな道端に居たダンゴムシが、踏みつけられてしまい、巨大化してローカストになり、踏みつけた老夫婦に襲いかかるというのが、セリカから聞いた行く末。
 ……ダンゴムシはとっても小さく、それを踏んづけてしまうのは、不可抗力でもある。
 更にそのダンゴムシは、攻撃を受けないよう、一般人等に取り憑いて、人の盾にするというから、尚更性質が悪いと言えるだろう。
「しかしこのダンゴムシ、弱き者から搾取し、挙句に己の盾にするとは……なんて卑劣な相手でしょうか……」
「そうですね。親の脛をかじって生活するニートがまだましに見える寄生っぷりですね。ダンゴムシはころころ丸くてわりと好きな方なんですが、でっかい生き物は嫌いなんです。差し引きマイナスです殺します」
「そうですね……知性が無いとは言え厄介です。なんとか老夫婦を救出しないといけませんね」
 ドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)、ガンバルノ・ソイヤソイヤ(カオスの姫君・e18566)にエレノア・クリスティン(オラトリオの鹵獲術士・e03227)がぽつり。
 そんな卑劣なダンゴムシへの嫌悪感に加え、ここはやはり、霊場への参詣道という、過去から続く、由緒正しき路でもある。
 そんな路の周りの自然に思いをはせるのは、シャドウエルフのヒスイ・エレスチャル(モノクロ無花果・e00604)と、オラトリオの逢橋・桜(オラトリオのウォッチドクター・e19904)、ドラゴニアンの九頭龍・夜見(ハラキリハリケーン・e21191)が。
 頬を撫でる風と、森から漂う薫風に目を細めながらヒスイが。
「私がシャドウエルフだから特にでしょうか……自然の中で、人を襲う事を許すわけには参りませんね……。言葉も通じぬ強敵との事ですが、私一人で戦うのではないのです。依頼成功に向けて善処致しましょう」
 というと。
「そうですね……今回の行く先の高野山と言えば、熊野本宮大社が有名な参詣道の一つ……ここを通られる方も多いですし、早めに安全確保してあげたいですね」
「ん……? そうでござるね。神聖なるこの地をローカスト如きが歩き回るなど、赦す訳にはいかぬ。身の程を知るでござるよ! ダンゴ虫は某も子供の時分に触って遊んでいたでござるが……こやつは唯の害虫に過ぎぬからな!」
 桜の機械音声にちょっと目を細めつつ、夜見もこくりと頷く。そして改めて神威・空(虚無の始まり・e05177)と葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)も。
「さて……どれほどのものかは判らないが、しっかりと対処するとしよう」
「そうですね……参詣道とは言え、所々は険しいところもある様ですので注意していきましょう」
 脚元、スパイクシューズや皮足袋などに履き替え、紐を確りと締めておく。
 そして、ケルベロス達は、薫風の薫る森の中の小辺路を進むのであった。

●ダンゴムシの恨み
 そして、ローカストを探して、小辺路を進むケルベロス達。
 参詣道とは言えども、所々険しい路が残る路……それを先へ先へ、と歩いていくと……。
『キャァァーー!』
 突如聞こえてくる、悲鳴。
 その悲鳴に気付き、すぐさまケルベロス達は声のした方角へ走る。
 ……すると、巨大ダンゴムシに取り憑かれている……というよりかは、抱きつかれている老紳士の姿。
 悲鳴を上げているのは、老婦の方……突然の状況に、混乱、恐怖に陥っている。
 そんな老婦に、すぐエレノアが。
「おばあさん、大丈夫ですか?」
 と、その手を取って、声を掛ける。
 それにあ、ああ……とこくりこくり。
「判りました。おじいさんは、私達が必ず助けます。おばあさんは、少し離れていて下さい。いいですね?」
『わ、わかりました……』
 と頷き、ほんの少し離れる。
 そして、ケルベロス達はダンゴムシを包囲する様に取り囲む……そして前に立つのは、桜。
「さぁ……おじいさんを放して貰いますよ」
 と、機械音声の桜がスナイパーの狙い撃ちで、ダンゴムシがおじいさんへと取り憑いている手の所を狙い撃つ。
 高命中率の攻撃を選び、仕掛け、片手が僅かに離れると共に、そのまま桜が怪力無双を使い、半ば強引に、おじいさんとダンゴムシを引き離す。
 無論、引き離されたダンゴムシは、また取り憑こうと、立ち上がる。
「……させん」
 と、空が旋刃脚で蹴りの一撃を叩き込むと、更に柊夜、夜見も。
「おじいさんには、攻撃させませんよ」
「うむ。ダンゴムシよ、これ以上の悪事はこの私が許さん!!」
 と言い放ちながら、ダンゴムシが追いすがろうとするのをせき止める。
 そして、おじいさんを背負った桜が、そのままおばあさんの元へと駆けていき、おじいさんをおばあさんの隣に降ろすと。
「少し、ここで大人しくしてて下さい。危ないですから、私達の所には、絶対に近づかないで下さいね?」
『わ、わかり、ました……』
 機械音声にちょっと異質感はあるものの、おじいさんも、おばあさんも、こくりこくりと頷く。
 そして桜も仲間達の元に合流し、ケルベロス達がおじいさん、おばあさんとの間に壁となり立ち塞がる。
 そんなケルベロスの動きに、ローカストは。
『!!』
 なんだか怒っている様な雰囲気と共に、きょろきょろと周りを見渡す。
 そして……とりあえず、先ほど引き離しの原因となった桜に、取り憑こうと飛びかかってくる。
 ……が。
「させるか、銀月」
 と空がライドキャリバーに指示を与え、ライドキャリバーがカバーリング。
 ライドキャリバーに都立高とするが……血を吸う事が出来ない為か、すぐに離れるローカスト。
 そしてローカストが離れた所に、ケルベロス達の総攻撃。
「止める……」
 と、空が指天殺で一撃を食らわすと、エレノアがシャイニングシールド、ドロレスが破鎧衝。
 クラッシャーアタックで、一撃一撃、がっつりと体力を削り取ると、更にディフェンダーのヒスイ、夜見、彼女のボクスドラゴン、獅子王丸が続けて動く。
「自然多い小辺路……ここで殺人を行わせるわけには行きません。確実に、ここで倒させて貰います……!」
「うむ。耐えて見せよ、この業火の一撃に!」
 と毒手裏剣にブレイズクラッシュ、ボクスブレスと続ける。
 そして柊夜が。
「貴様の未来の可能性はここに潰える……姑息な護りはもう無いぞ……さぁ、狩りを始めようか!」
 と、達人の一撃を叩き込むと、ドロレスのウィングキャットが、清浄の翼で銀月を回復。
 そしてガンバルノは。
「どうやら体力は問題無さそうですね。それでは……」
 と、タンバリンをしまい、フォートレスキャノンで攻撃する。
 そしてケルベロスの行動も一巡……避難させていた桜もやっと合流。
「皆さん揃いましたね……それでは、一気に仕掛けましょう。取り憑かれる前に倒せるのなら、それに越した事はありません」
「そうですね」
 ドロレスとエレノアの声に皆、頷く。
 そして空が。
「喰らいつく……!」
 と降魔真拳を叩きつければ、ドロレス、エレノアはスピニングドワーフとシャイニングレイで攻撃。
 クラッシャー効果もあり、ガッツリ体力を削り取る一方、間にはヒスイ、銀月、夜見、獅子王丸がディフェンダーで立ち塞がり、決して老夫婦の所には通さない様に立ち塞がる。
 その突破口を開こうという意味か、ダンゴムシはぴょんぴょん跳びはね、抱きつこうとする。
 ……時には抱きつかれ、動き辛くなるが、それはスナイパーの桜がホーミングアローやフロストレーザーでその手を狙い撃ちし、一、二ターンの内にはじき飛ばす。
 そして座れた仲間には、ブラッキー艦長とガンバルノが確実に回復する。
 抱きつき、打ち落とされ……繰り返し、経過する事、十ターン。
 流石にダンゴムシのジャンプにも、キレがなくなってきた……体力は、もう殆ど無い様である。
 そんなダンゴムシに、柊夜が。
「懺悔等と言っても理解できまい……狩らせて貰うぞ、その魂!」
 と宣告し、葛城流柔法・水面波頭返し。
 強烈な一撃を食らったダンゴムシ……どうにか、体力を吸い取ろうと、最後の力、高い跳躍で……ドロレスに抱きつく。
 でも……ドロレスはニッ、と笑みを浮かべて。
「肉を切らせて骨を断つ……っ! この時を待っていました!!」
 そのままダンゴムシの首根っこを掴み、完全に逃げられないようにしてからのGuns N' ROSIER。
 最至近距離からの強烈な弾丸が、ダンゴムシの体を討ち抜いて……そのまま、ダンゴムシは吹き飛ばされ、崩れ墜ちるのであった。

●恨み防ぎ
「……ふぅ、どうにかおわりましたね。皆さん、お疲れ様でした」
 服の埃を祓うようにしながら、労いの言葉を掛けるガンバルノ。
 そしてダンゴムシに取り憑かれていた一般人へ、ヒスイがすぐ。
「おじいさん、おばあさん……大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
 と、その怪我の具合を確かめる。
 幸い、老夫婦に酷い怪我はない様だが……あんなに大きなダンゴムシに取り憑かれるなんて体験、そうそうある筈もないし、トラウマにはなっているかもしれない。
 そんな、ちょっと混乱する二人を宥めつつ……正気を取り戻したら、二人が熊野本宮大社へと向かうと言うので、それを見送る。
 ……二人の姿が見えなくなったところで、桜は。
「……さて、私は折角此処まで着ましたので、熊野本宮大社までお参りに行きたいと思います。皆さんはどうしますか?」
 と軽く首を傾げると。
「……そうですね。せっかくですし、この森の自然を楽しみたいと思いますし……散歩がてらに行くのもよさそうですね」
「そうですね。それでは折角ですし、皆さんで行きませんか?」
 ヒスイ、ドロレスが頷く。
 ……とは言え熊野古道、小辺路は、結構険しい山を3つ4つ超えるという、結構ハードなルート。
 でも、それこそが参詣の醍醐味の一つ。
 ケルベロス達は、山を踏みしめながら、熊野本宮大社へと参詣しに向かうのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。