死者の泉へと繋がる転移門――。
そこに、それはいた。
否。突如として沸いた、と言うべきか。
3メートルを超える体躯は彼がデウスエクスが一体――エインヘリアルである事を示していた。だが、そこに勇猛果敢で知られた勇者の面影はない。兜と面頬に包まれた顔は何も映していなかった。
何故ならば、それはただの防御機構だったからだ。
死者の泉に囚われ、死者の泉に仕えるだけの存在。ただの『門』と己を呼称する彼に、自我と呼べる物は存在していなかった。
鉄靴が石畳を叩く。重く鳴動する剣の切っ先が石畳を梳る。
こつり、こつり。ぎゅるり、ぎゅるり、と。
転移門を守る為、彼はただ、そこに在り続けるのだった。
「ブレイザブリクの隠し領域に、死者の泉に繋がる転移門が発見されたことは、聞き及んでいるわね?」
リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の問いに、グリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)が是と頷く。光の翼を抱く少女の表情はいつもと同じく真摯な物だ。緑色の眼差しに促され、赤髪のヘリオライダーは次の言葉を紡いだ。
「リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)によって発見された転移門は、双魚宮『死者の泉』に繋がっていたわ。ただ、転移門は『門』と呼ばれる防御機構によって守られている。つまり、転移門を突破するには、『門』の打破が必須なの」
『門』は『死を与える現象』が実体化したような黒い鎧のエインヘリアルの外見をしていると言う。一体を撃破しても次が現れる――死んでも蘇り続ける守護者の様な物であった。
「ただ、見かけ上はそうであって、無限に出現する存在、というわけでは無さそうね」
数として42体。それらを攻略することで、道を開くことが出来るのだ。
「今回、『門』の出現が確認されたのは、転移門へと続く異次元回廊。異次元回廊は、魔空回廊の一種と思って貰って構わないわ」
「魔空回廊ですか……」
魔空回廊の内部は濃密なグラビティ・チェイン空間であり、デウスエクスの戦闘能力が強化される場所であることはもはや常識と言っても良いだろう。
グリゼルダの独白にリーシャは首肯で答える。
「そう、異次元回廊内もまた、濃密なグラビティ・チェイン空間よ。『門』の戦闘力は強化されいて、皆が力を合わせても攻略は厳しいかも知れない」
それでも、『死者の泉』と言うエインヘリアルの生命線を突く行為は、抗い難い魅力的な物だった。
故に『門』の攻略を行う。それがケルベロス達に託された依頼であった。
「『門』の話をするわね。彼の持つ得物は巨大な大剣。どう言う原理かは判らないけど、鋸の様な駆動をしているわ」
また、『門』が放つ叫びは、衝撃波と自己回復の二種類がある様だ。それもまた、『門』のグラビティなのだろう。
「みんなが倒すべき敵は『門』一体のみ。異次元回廊内は仄かに輝いているし、戦闘行為に支障を来す物はないわね」
防御機構と言う名であっても、侵入者を排除すると言う一点に特化した存在だ。その攻撃力を侮ることは出来ないだろう。
「『門』を撃破し、死者の泉に直通するルートが開けば、エインヘリアルとの決戦の火ぶたが切って落とされることになると思うわ」
激励の言葉に、グリゼルダは拳を握りしめる。様々な想いが重なり、渦巻き、それをただ、飲み込んだ。
「朗報を待ってるわ。それじゃ、いってらっしゃい」
「はい、いってきます!」
そして、仲間達と共に、歩を進めるのであった。
参加者 | |
---|---|
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695) |
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965) |
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471) |
アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486) |
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102) |
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471) |
●転移門へ至る道
異次元回廊と言ってしまえばそれまでだが、其処は奇妙な空間だった。
双脚に伝わる石畳の床は、堅牢な見た目に反して歪んでいるように心許なく、充分な筈の広さを誇る通路はしかし、ぐにゃぐにゃと不規則に波打ち、鳴動している様にも見える。
(「なーんか……悪酔いしたときに見える世界みたいねえ」)
ふーむと、アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)は唸る。
無論、ケルベロスである彼女らが悪酔いすることは無い。船酔い、或いは酩酊感すら引き起こしそうな風景はしかし、あくまでも風景。戦闘に支障を来す物ではない。
とは言え。
「気持ち悪いよ」
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の言葉に是と頷いてしまう。よくぞ、『門』――此処を守護する黒騎士もこんな場所を居住地と出来る物だ。
「その『門』だけど……どう?」
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)の呼びかけは、同じ旅団所属のイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)に向けられていた。
「駄目だね。気付かれている」
狙撃用のゴーグルを額に上げ、裸視を送りながらの台詞だった。
転移門の前に立つ黒騎士――『門』は巨剣を構え、微動だにしていない。フルフェイスの兜の為、視線は追えないが、彼の視線がケルベロス達を捉えているのは明白だった。
接触まで数十歩。それを踏み越え強襲しない理由は余裕の表れか、それとも降りかからない火の粉を払うことは無い、と言う防御機構であるが故の理由か。
「後者かな?」
既に戦闘態勢へと移行したノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)が不敵に笑った。
ぱさりと跳ね上げたマントを跳ね上げ、そこから零れる刻まれた肢体はあくまで誇らしく。女性らしい曲線を描く身体に刻まれた魔術回路が妖しく煌めく。
「ならば真っ向から立ち向かうだけだ。確実かつ迅速に終わらせるぞ」
「はい!」
意気軒昂。長い青髪をポニーテールに結い直しながら紡がれたリィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)の言葉に、気合い充分とグリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)の応答が返ってくる。死者の泉の防御機構を前に、彼のヴァルキュリア戦士の気概は頼もしい。
「さて、彼を解放しよう」
ただの現象と化してしまった彼に『物語』を紡ぐ力はない。ただ、排除するのみ。
そう考えないといけない事が何よりも悲しいと、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)は表情を歪める。だが、それが躊躇の理由にはならない。理由にする訳にいかない。
「ここで引くわけにはいきません。通らせてもらいます! 勿論、全員で!」
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)の宣言が、事実上の鬨の声となった。
●『門』は唸る
一対二条の翼がはためく。
一つは光状の翼。天使を思わせるそれはシルが紡ぐ物。
一つは蒼色の羽根。リィンの背から零れたそれは、妖精の如く、との感慨を皆に抱かせた。
そして、二人の牽引の元、ケルベロス達は飛翔する。異次元回廊は天上までの距離がおそらく15メートル強。充分な高さからの急襲にて、『門』の虚を突く。
「闇を切り裂く、流星の煌めきを受けてみてっ!!」
流星の煌めきはシルの繰り出す蹴り。そして、
「――火の花に追う。焔の蝶」
イズナが静かに紡ぐ。
掌からそっと放たれるは火赤の蝶。幻想的に舞う焔蝶の群れは鱗粉宜しく火の粉を零し、『門』の黒い身体を灼いてゆく。
くぐもった悲鳴は、生きながらにして業火に焼かれる苦しみだろうか。
だが。
「そうだよね」
返す刀として振るわれた巨剣をナイフで受け止めたオズが、薄く笑みを浮かべる。燻る煙の残滓を空間に置き去り、『門』は腕を振り抜き、身体を旋回することで炎を全て消し飛ばしていた。
頭上からの襲撃ではあったが、『門』への奇襲とは至らなかった様だ。それはイズナが計測した通りであった。
「トト!」
「冒されぬよう……病魔よ、消え去りなさい」
「オズ様、治癒します!」
主に声に応え、サーヴァントのトトが、そして、バラフィールとグリゼルダが彼に治癒を施す。
清浄な風は彼の傷を拭い、光翼から紡がれた光の盾は彼のみならず、守り手達を覆う。続けて施された緊急手術は、オズに刻まれた傷口を塞いでいく。
口元を緩く結び、仲間への返礼を破顔で行ったオズは、皆に続けとばかり、自身へのグラビティを紡ぐ。
「昔々、驕り高ぶった幸運の女神が、不運な妖精の娘と運比べをしました。負けるようなことがあればこの権能をくれてやろう、そう言って――」
その物語は幸運を紡ぐ物か不運を表す物か。語られた物語は彼の身体への癒やしとなっていく。
同時に響くのは激しい殴打音だった。
「余計なことをしちゃ駄目だよ」
『門』が行おうとした追撃は、胸に突き刺さったエネルギー光弾に阻害され、地を削るのみに留まる。
投げかけられた言葉は次弾を装填するリリエッタが発した物だ。それが無ければ、更なる斬撃が、オズを切り裂いていただろう。
そして、その一弾を皮切りに、一対二本の蹴りが『門』を強襲した。
「幾渡、泉に産み落とされても――何回だって倒してみせます!」
ノアルの鋭蹴は空を裂き、緑色の尾を発しながら『門』を切り裂き。
「ここは押し通らせて貰うぞ!」
炎に包まれた旋体脚は、紅き輝きと共にリィンから放たれる。
「まったく、呆れるほどの攻撃力だな」
アーシャの独白は三連撃を決めた仲間への賞賛か、それとも。
「……いやはや、全く」
光り輝く掌を向けられたオズが、袈裟掛けに残る傷をなぞりながら、微苦笑を浮かべた。
得物で防ぎ、幾重も治癒を重ね、それでも一刀の片鱗が残っている。防御機構としての一撃は、それだけで戦況を覆す程、重い。
使役使いが受ける不利益を鑑みても、長期戦ともなれば劣勢は必至。
「なんだかんだでぶん殴って速攻撃破が必要って訳か」
それが一番楽で確実で……そして、難しい。
アーシャが浮かべた笑みは、オウガらしく好戦的に呵々と響いた。
甲高い悲鳴は、『門』の巨剣が奏でる音だった。
それが空を裂き、地や壁を裂き、そして、ケルベロス達を裂く。
鎧や防具は意味を成さず、防御の祝福もまた、切り裂く攻撃を前に、その加護を失っていく。
「カッツェ!」
最初にその凶刃が穿ったのは、バラフィールのサーヴァント、カッツェだった。
主の悲痛な声を背景に、自身を盾と化し、仲間を守ったウイングキャットは、光と消えていく。
「トト。頼んだよ」
自身の従者を切り裂かれたのが如く、表情を歪めるのはオズだ。主に応じるよう、黒猫のウイングキャットが一歩、前へと進み出でる。
「ちっ!」
返す刀を跳躍で躱したアーシャは嘆息と共に表情を歪めた。
口の中を鉄の味が満たしていた。もう何合、幾合の攻撃を裁いただろうか。サーヴァント2体とケルベロス2者。皆が全力で捌いた攻撃は、しかし、いずれもが重く、強力であった。
「これが攻勢一点特化の防御機構って奴か」
攻撃が付与する不利益は全て、バラフィールとグリゼルダの治癒が拭い去っている。そして、バッドステータスの解除を施すのは彼女だけでは無い。自身を含めた多くの仲間達がキュアの能力を用いて仲間の治癒を行っている。
だが、いかんせん、最大の問題はその攻撃力にあった。
「ごめんね。力及んでいないわ」
「いいえ。予想出来たことです。むしろ、これまでの回復支援、助かっています」
深緋の言葉に、短礼で返すバラフィール。そもそもがポジションや異次元回廊が積むブーストによって、攻撃力を増強した敵だ。全てを乗すれば、彼の持つ破壊力は、地球で暴れる並のエインヘリアル程度では足下にも及ばないだろう。
加えてダメージはヒールで完全に消去することが出来ず、身体に蓄積していく。その牙が最初に剥いたのが、体力に劣るサーヴァントであった。それだけの話だ。
「みんなを倒させない!」
ディフェンダー達が倒れる前に『門』を倒す。それ迄の時間を皆が――ヒーラーを引き受けるサポーター達が稼ぐ。
大自然から取り入れた治癒を振るうことほも、オーラを施す久遠も、その為に走り、否、飛び回っている。
だが、それが何処まで通じるのか――。
「相手の動きも鈍っている! 大丈夫! こちらだけが消耗しているわけじゃない!」
竜砲弾の轟音を響かせ、ノアルが叱咤の声を上げた。
彼女の攻撃だけではない。シルの理力剣による斬撃が、リィンの斬霊刀の剣戟が、イズナの雷の槌が『門』の生命力を梳り、都度、悲鳴の様な叫びを木霊させている。
「いつか必ず、死者の泉まで到達するんだよ」
影から影へ。小柄な体躯で死角を飛び交い、リリエッタの身体が空中で急停止する。
手に握られた突撃銃が構えられた刹那、飛び出た無数の弾丸が、『門』へと突き刺さった。
「だから、ここでおやすみ、だよ」
その言葉を『門』は追いかけることが出来なかった。
敵を捉えるべく、身体を旋回させた黒騎士はしかし。
「こっちをガン無視するなよ。中身入ってる?」
アーシャが背から伸ばした鋼鉄腕の殴打が、彼の行動を阻む。
斬りつ斬られつ。
一進一退の戦いは未だ、終わりの兆候が見受けられなかった。
●死出でる門の調べ
それは何度目かの叫びだっただろうか。
『門』が轟かせるそれは暴風の如くケルベロス達を吹き飛ばし、或いは自身の傷をも吹き飛ばしてしまう。
だが、それは違った。自身を癒やす叫びに混じった呻き声のような低い音は――。
(「焦燥?」)
グリゼルダの目の前で、『門』は自身の傷を癒やしていく。それを止める術はグリゼルダにも、そしてケルベロス達にも無い。
だが、今まではそうであっても、現在がそうであるとは限らないのだ。
「攻撃を続けて」
自身も炎の蹴りを叩き付けながら、リリエッタが言葉にする。
グリゼルダだけではない。彼女達もまた、それを理解したのだ。
黒騎士は焦っている。その理由はもはや明白だった。
「終わりが近い」
イズナが呼び起こすドラゴンを模した稲妻は、『門』の脳天から足先までを貫いていく。身体を覆う紫雷に上がった高音は、悲鳴か、もしくは軋む鎧の金属音か。
「貴方は強かった。でも、死者の泉に囚われ、ただの防御機構に堕ちちゃった。だから――」
炎の蝶と稲妻を纏う淑女はにふりと蠱惑的な笑みを浮かべる。
「そんなのは、怖くない」
「だよね」
防から攻へ転じたオズは、毒のオーラを纏う尾を『門』へと叩き付ける。人にしては大柄な、しかし、エインヘリアルの巨躯と比べれば小さく見える蛇の尾は、それでもエインヘリアルの足を締め上げ、腹部を守る胴鎧を打ち砕く。
色黒の蛇の傍らには、既にトトの姿はない。バラフィールのカッツェ同様、既に戦いに殉じていた。
「終わりだ。閉幕を宣言しよう」
声は静かに、そして幾許かの寂寥を伴って紡がれた。
「ああ、そうだな! そろそろてめぇの顔も見飽きたぜ!」
飛び出したのはオズと同じく、防戦に努めていたアーシャだ。自身の身長をも凌駕する突撃槍に全てを注ぎ込み、弾丸の如く衝突する。
その身体にもオズと同じく、無数の傷が刻まれている。治癒と斬撃によって刻まれた血化粧は、防御役としての誉れ。美しき戦女神の出で立ちをも思わせた。
「まったく……無茶を」
焦燥すらも演技だったらどうするつもりか。
苦笑し、バラフィールは電撃を呼び覚ます。雷の鉄槌は『門』の身体を打ち据え、その巨体を震わせた。
「ですが、皆さんの言う通りです。もはや、戦局は決しましたよ」
「バラフィール」
グリゼルダの呟きに、こくりと頷く。
死を看取ることこそがヴァルキュリアの本懐ならば、それを今、為す。死者の泉に囚われた哀れな虜囚が解き放たれる様を見送るのが、自身らの役目なのだ。
嘆きも悲鳴も響かせない。死より湧き出る調べは此処で尽きさせる。
「これが、私の魔法です」
ノアルの体表が、正確には其処に刻まれた魔術回路が光を発する。励起した魔術は怨霊を呼び覚まし、そして怨霊は投擲ナイフへと姿を転じる。
これが、彼女の魔法。彼女の郷里に伝わる、彼女達だけの魔術だった。
雨の如く降り注ぐ無数の刃は、まるで天が『門』の存在を否定するかの如く飛び、突き刺さり、抉り取っていく。
巨大な顎が、牙を持って押し潰すが如く。
「この世に形を得た悲しみの欠片達よ、我と共に舞い踊れ! 悲しみを全て束ねた欠片、悪意断ち切る一刀に変えここで貫く!」
そして、青い神風が吹き荒ぶ。左右の拳を打ち付け鳴らし、嵐は到来する。
その名はリィン・シェンファ。氷刃を纏った拳と脚による連撃は黒騎士を梳り、そして。
「全てを零に!!」
生み出された氷の巨刃は黒き鎧を貫き、抉り、破壊する。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……。六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
そして、魔力砲撃が煌めいた。
光翼を、精神を、全ての魔力を。シルは全てを掌に集束。六芒の輝きを以て、解き放つ。
「どれだけ強くったって、これの直撃は痛いはず! さぁ、全部もってけっ!!」
氷の刃に縫い止められた騎士にそれを躱す力があるはずも無かった。
視界は光に覆われ、そして全てを消失させていく。黒い鎧も、駆動する刃も、そして、咆哮も、悲鳴すらも。
「終わり、ましたね」
光が弾けた時、転移門の前に残された物は何も無かった。
黒い残滓は何処にも無く。
悲しき調べは全て、途絶えていた。
●次の戦いの為に
「残念ですが、門に変化は無いようですね」
まだ42体に至っていないのか。それとも42体を撃破しても、ある程度の時間を有するのか。
開かない転移門を前に、バラフィールが独白する。
もしも時間が必要ならば此処で待つと言う手もある。だが、まだ防御機構に対して42体の撃破が至っていない事が理由であれば……。
「色々気になるけど、いずれ機会があるよ。今は撤退しよう」
流石に二連戦は勘弁して欲しいと、オズが力なく笑う。全てを出し切ってもぎ取った勝利だ。即座に同じ力の敵と遭遇したくはない。
見れば、久遠も深緋もことほも、同じような笑みを浮かべている。補助役とは言え、彼らもまた全力を以て敵に立ち向かっていた。連戦の余力など残してはいないだろう。
「空間が閉じられる可能性もあります!」
「退路を断たれる前に、急いで脱出だよ」
撤退を促すノアルとリリエッタの言葉も正鵠を得たものだった。何分、ここは敵地である異次元回廊だ。何が起きるか判った物ではない。
「帰ったら、モツ鍋で一杯といきたいわ」
アーシャの呟きに、ふふりとグリゼルダが微笑する。
「鍋料理は良いですね。美味しいですし、暖かいですし、何より種類が沢山ありますし」
「脱線してる脱線してる」
大食漢のヴァルキュリアの台詞に、突っ込み入れるのはリィンだった。そして皆を促し、戦場を後にする。
揺れる青髪は既に元の側面縛りに。それは戦いが終わったことを物語っていた。
「みんな、お疲れ様っ!!」
ゴールは間近。でも、まだ時間が必要。無茶をするのは今じゃ無いよ、とのシルの言葉は嘆息混じりで、そこに込められた感嘆は、期待か嘆きか判らなかったけれども。
「もうすぐ解放してあげるからね。待っててね」
イズナは振り返り、転移門に視線を移す。
遠くない未来、此処が開かれるだろう。
ヘリオライダーならずとも、そんな未来が予知出来る気がした。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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