終幕の刻

作者:坂本ピエロギ

『双魚の門は思考する。侵入者は通さぬと』
 ブレイザブリクから死者の泉へと続く、転移門の内側。
 静謐に支配された異空間の通路を、その黒騎士はひとりで守り続けていた。
『門は泉を守る。侵入者は排除する』
 騎士がエインヘリアルと呼ばれる存在であったのは、遠い昔の話。
 今や騎士はただの『門』。心を喪いし、死を与える現象であった。
 負った責務はただ一つ。泉への転移門を死守すること、それのみである。
『排除。排除。排除――』
 討たれた『門』は、もはや数知れず。
 だがすべき事は変わらない。命令に従い、役割を果たす。
 防御機構の現身たる『門』は、最後まで泉への道を守り続ける――。

「お疲れ様です。門の攻略も、いよいよ終わりが近づいて来ましたね」
 ムッカ・フェローチェは、ケルベロス達を見回してそう告げた。
 磨羯宮ブレイザブリクの探索により、死者の泉への隠しルートが発見されてはや3ヶ月。泉の転移門を守る『門』――泉の防御機構に取り込まれ、死んでも復活する黒騎士――との戦いは最終局面を迎えつつある。
「『門』の撃破総数が42体に達すれば、泉への転移が可能となります。依頼の成功報告も着々と届き続けていますし、順調に行けば転移門が開放されるのは時間の問題でしょう」
 だが、出来るならば、その勝利をより確かなものとしたいとムッカは言った。
 成功数が多ければ門開放の確実性も上がり、万が一の事態にも対応できる。その為にも、今一度『門』の撃破を頼みたい、と。
「今回戦う『門』は防御力と耐久力が高い個体です。その半面で回避力は低く、命中対策はそこまで気にしなくても問題ないでしょう。ただ……」
 しばし言葉を切った後、ムッカは口を開いた。
 この『門』は、厄介な能力をひとつ備えているというのだ。それは――。
「命を火力に変換して放つ、一度限りの全力攻撃。いわば自爆攻撃に近いものです」
 発動のトリガーは『門』が瀕死になった時だ。背中の黒翼が大きく膨れ上がった時がそのサインで、攻撃の威力は『門』に残る生命力に比例する。そのまま発射を許してしまえば、デバイスを装着したケルベロスでも大ダメージは免れないだろう。
「ただしこの攻撃は、発射に1分間のチャージを必要とします。黒翼が膨れ上がった後に、『門』の生命力を大幅に削れれば、脅威でないレベルまで火力を落とせるでしょう。うまく行けば発射前に撃破する事も可能かもしれません」
 この攻撃は『門』自身にも反動のダメージを与えるため、凌いだ後の撃破は容易だ。
 総攻撃によって火力を封じるか、或いは防ぎきった上で叩き潰すか。全てはケルベロスの作戦にかかっていると告げて、ムッカは説明を終えた。
「泉への道が開けば、恐らくエインヘリアル勢力との決戦も間近です。来る戦いに勝利する為にも、確実な成功を掴みましょう。皆さんの健闘を祈ります」


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●一
 東京焦土地帯、磨羯宮ブレイザブリクに存在する一角。
 死者の泉へと繋がる異空間の回廊を、ケルベロスの一団が疾風のように駆けて行く。
「さあ、今日も張り切っていくよー!」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)の一声に、藍がエンジンを唸らせて応えた。
 3ヶ月に渡って行われた『門』の攻略戦もいよいよ終盤。ことほ達は合図を交わし合い、迷わずに進んでいく。終幕も近いであろう戦いに向け、各々の想いを胸に秘めながら。
「オルスタの最前だなんてサイコーじゃん? やっぱ最後はスタオベで締めたいよね!」
「OK。ここはひとつ、張り切って行こうか」
 ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)は元気よく頷いて、機敏な足取りで道を行く。靴型デバイスの調子は絶好調、『門』との戦いでは遺憾なく力を発揮してくれるだろう。
「今日もバッチリ支援させてもらうね。皆よろしく!」
「こちらこそ。この戦い、必ず勝利を飾りましょう」
 盾役として前を行くガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)は、愛用の天蠍星剣を力強く握りしめる。そうして前方を見据える灰色の瞳が映すのは、いまだ閉ざされた転移門の眺めだ。
「あの門が開けば、新たな戦いが始まるのでしょうね……」
 エインヘリアルの生命線である『死者の泉』。
 死者をエインヘリアルに生まれ変わらせる機能を持ち、更には天秤宮アスガルドゲートの付近にあると目される場所へ攻め入る事は、すなわち彼らとの決戦と同義だ。ユグドラシルさえ制圧しつつある勢力との戦いは、恐らく相当な規模となるだろう。
「門のその先、か。何が待っている事やら」
 乾いた呟きと共に、副島・二郎(不屈の破片・e56537)が飛翔する。
 その背に装着するのはジェットパック型のデバイスだ。人々の希望を力に、隊列の後衛へ移動した二郎は、転移門の前に立ちはだかる黒騎士を視界に収める。
 『門』――死を与える現象に昇華した、泉の守護者を。
『双魚の門は思考する。侵入者は通さぬと』
「悪いけど通して貰うよ。ボク達は、門の先に行かなくちゃいけないんだ!」
 抜剣する『門』をシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は真正面から見据えると、ぬいぐるみ型のオウガメタルを掲げてそう告げた。
 『門』が向けてくるのは純粋な殺意のみ。ならば戦う以外に道はない。
「フリージアさん、ブレイブマインを多めにお願いするね!」
「承知しました。お任せ下さい」
 後衛のフリージア・フィンブルヴェトルが、爆破スイッチを手に頷きを返す。
 その隣で、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は折紙型のレスキュードローンを飛ばし、グッと親指を立てて笑った。
「へへっ、頼りにしてるぜフリージア。よろしくなっ!」
 そうしてケルベロス達は武器を構えると、抜剣した『門』と対峙する。
 回廊を満たす張り詰めた空気。そこを悠然と飛ぶ鳩のようにメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)は飛翔しながら、愛用のシルクハットを傾ける。
「さあ、今日もショーを始めようか」
 もう、いつ幕が下りても悔いのないように――。
 そう微笑んで、メロゥはシルクハットからチェーンソー剣を取り出した。
 回転を始める鋭刃。無言で漆黒の剣を構える『門』。彼我の間合いを着実に詰めながら、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は静かに口を開く。
「番人だったのに、死者の泉に取り込まれて大変だったよね?」
『門は侵入者を排除する。排除。排除』
 『門』の機械めいた返答に、イズナはそっと目を伏せた。
 答える意思も、感じる心も、もう残っていないとしても。戦いが始まるその前に、彼女は労いの言葉を、役目を果たし続けた騎士へと送る。
「あなたももう解放してあげるね。……おつかれさま」
 ここから先はただ刃をもって語るのみだ。
 ケルベロスと『門』、互いの存在を賭けた死闘はこうして開始されるのだった。

●二
「行くよみんな。必ず勝とう!」
 戦いの口火を切ったのは、デバイスで駆け出すイズナの一声だった。
 ジェットパックを駆り、チェイスアートで疾走し、アームドアームを護りと為し、番犬達が一斉に動き出す。門を守る黒騎士へ、確実な死を与える為に。
「よう、また会ったな……つっても分かんねえか」
 三度目の邂逅となる『門』を見据え、広喜は無邪気な笑顔で言った。
「今度こそ焦土地帯から出てってもらうぜ。覚悟しろよなっ!」
 宣言と同時、伸縮自在の鉄鎖を地に放つ。
 腕部換装パーツ拾弐式――装着者の広喜を介して地獄を充填した鎖は、回路に青色の光を湛えながら魔法陣を描き出した。守護の力が前衛を包み、刃を弾く盾となる。
「てめえにゃ俺達の一人だって倒せねえ。それを証明してやるぜ」
「アリクイさん、力を貸して!」
 広喜に続いたシルディが、愛用のオウガメタルに語り掛ける。
 アタッカーの仲間が決して仕損じる事のないように――同時、空間を染めるように銀色の粒子が散布され、『門』と切り結ぶアタッカー2名の体へ吸い込まれた。そうして強化された体を二郎は駆使し、精神力を極限まで集中させていく。
「支援感謝する。……命中は十分だ、行くぞ」
 刹那、サイコフォースの炸裂が空気を揺さぶった。
 対する『門』は二郎の一撃を防ぎ、なおも剣を振るい続ける。攻撃力は僅かに衰えたが、爆発のダメージが痛打となった様子はない。
「堅いな。異空間の強化によるものか……」
 鋭い眼光を『門』に向けながら、二郎が唇を噛む。
「闇雲に攻めては埒が明かない。まずは守りを剥いで行くぞ」
「任せて。敵の装甲、破ってみせるよ」
 靴型デバイスで地を蹴り、イズナが跳んだ。
 魔力を秘めたドレスをひらめかせ、軽快なステップを刻む。『門』の回りを翻弄するように舞いながら、煌めくパイルバンカーに螺旋の力を注ぎ込む。
「デッドエンドインパクト、いくよっ!」
 グラビティの煌めきを宙に残して、螺旋力で加速。ジェット噴射の加速力と共に射出するバンカーが甲冑をぶち破り、漆黒の破片をばら撒いた。刹那、反撃とばかりに『門』が放射する剣光がイズナらを捉える。
『門は通さぬ。侵入者は排除――』
「やらせないからっ! 藍ちゃん、GO!」
 即座に射線へ割り入ったのは、ことほと藍だ。
 濁流のごとく荒れ狂う、重力を帯びた光波。ことほは己が身を防波堤と為して、すぐさま『樹冠戴く小さな庭』を発動する。エクトプラズムで生成した小庭の生命樹で、麻痺の呪縛を振りほどくために。
「お願い、生命の樹。少しだけ力を貸して!」
「援護します、ことほ様!」
 木漏れ日を浴びたことほの隊列を、フリージアのカラフルな爆発が彩った。同時、呪縛を振り切った藍が『門』の足をスピンで払う。暴れ牛の如き猛攻を浴びせ続けるその体には、いまだ光の傷が残ったままだ。
「もう少し癒しの力が欲しいですね。この戦い、失敗は許されません」
 そう判断したガートルードの行動は迅速だった。
「この力が仲間の支えとなるなら……存分に振るおう。異形の力を!」
 腕のワイルドにグラビティを集中させると、霧状の衣に変えて後衛へと散布。癒しの力を強化する混沌水の霧で仲間達を包む。
 『門』はブレイクとキュアの力を持たない。故に、一度付与に成功すれば、戦闘終了までその効果は永続する。息を合わせて駆け出したヴィルフレッドもまた、螺旋の力を練り上げると、デバイスで飛翔するメロゥへと付与していく。
「僕もちょっとだけ、手助けするよ」
「ありがとう、助かるよ」
 中衛からの手厚い支援にメロゥは手を振って応じると、地上の『門』を見澄ました。
 敵の負傷はいまだ軽微。だがそれはケルベロスの無力を意味しない。
 自分達は積み上げているのだ。攻撃に耐える守りを、そして盾を砕く必殺の力を。
「今からそれを見せてあげる。さぁ、今日のショーも楽しんでいってね?」
 滑空から振り下ろされるチェーンソー剣。
 螺旋の力を帯びたメロゥの斬撃ラッシュは『門』の甲冑をズタズタに切断し、その内部に満ちた漆黒の液体を派手に飛び散らせるのだった。

●三
 熾烈な戦いは、なおも続いた。
「その鎧、凍らせてあげるよ!」
 イズナの周りを浮遊する刃が氷結の螺旋を放ち、漆黒の甲冑に直撃する。
 身を刻む凍傷に呻きを漏らす『門』。イズナの攻撃はなおも止む事無く、星槍の突撃と浮遊刃の螺旋による猛攻撃で、服破りと氷を積み上げていく。
「死者の泉――双魚の星の名を持つ門なんて、終幕にふさわしいよね」
『門は通さぬ。何者も通さぬ』
 反撃で繰り出す『門』の剣がイズナへ放たれた。
 即座に味方を庇い、ガートルードが身代わりの一撃を浴びる。破られた衣服が舞い散り、防御の力が奪い取られる。
「やってくれましたね……受けなさい!」
 魔法陣の守護でダメージを減衰しながら、瞳には闘志を漲らせ、天蠍星剣で達人の一撃を振り下ろす。甲冑を叩き割られて氷に包まれる『門』。それを眺めながら、ガートルードは小さく唇を噛んだ。
(「効いている。けど、まだ浅い……!」)
 守りに優れ、ダメージを半減させる『門』のポジション効果は、今なお分厚い壁となって致命打を阻んでいた。その事実が微かな焦燥となって、ガートルード達の心を捉える。
 まだ火力が足りない。更なる氷が必要だ。もっともっと鎧を破らねばならない。
 『門』の全力攻撃を、確実に避ける為にも――!
「回復は俺達に任せろ。ガンガン攻めてくれよなっ!」
 後衛では、広喜がフリージアと共に絶え間ない支援を続けている。
 広喜は守護をもたらす魔法陣。フリージアは勇気を鼓舞する煙幕。混沌水の強化によって癒しの力は一層高い。回復が途切れぬ限り戦闘不能者が出る事はないだろう。
 ならば、残るメンバーの仕事はひとつ――攻撃あるのみだ。
「真の闇でも決して迷わず、獲物を捕らえるその力。一部を借り受け転換し解き放つ!」
 シルディは己がグラビティを高め、音波に変えて放つ。
 コウモリさんエフェクト――状態異常を増悪させる超音波だ。指向性と音圧の高い音波が反響し、『門』を更なる氷で包む。続けて迫るのは『猫の足音』で加速することほ。速度を込めた飛び蹴りが流星のように降り注ぎ、敵の脚甲を蹴り砕いた。
「皆、ここからだよ。絶対に勝つからね!」
 傷だらけの体で、ことほは胸を張って笑う。
 戦士としての『門』には敬意と挑戦の意志を。そして、現象たる防御機構には尽きぬ怒りを秘めて、ことほの猛攻は更に激しさを増していく。
『門は通さぬ。門は――』
「力ずくでだって通るんだから。私達の執念、甘く見ないで」
 振り下ろされる剣。それを蹴り払うは猫の足音。強固な守りを誇るディフェンダー同士が火花を散らすなか、アタッカーの支援を終えたヴィルフレッドが気配を殺し、『門』の背後を狙い定める。
「そこ、もらったよ!」
 靴型デバイスの力を帯びて、音もなく懐へと潜り込むヴィルフレッド。いまだ堅さを保つ『門』の装甲を『farfalla nero』の零距離連射でジグザグに撃ち抜き、弾き飛ばした。
 装甲は次々剥がれ、被弾するたび氷に蝕まれ、『門』の体には着実に傷が増えていく。
「全力攻撃のサイン……まだ兆候は見えないね」
 『門』を凝視しながらメロゥがチェーンソー剣を振るう。
 煙幕の鼓舞と螺旋力で威力を増した斬撃が、強烈な一撃となって傷口を切り開いた。飛び散る鎧の破片と、溢れ続ける漆黒の液体は、ダメージの蓄積を如実に物語っている。
「皆、注意していこう。多分もうすぐだ」
「オッケー。どんな変化も見逃さないよ!」
 サムズアップを返し、注視を続けるシルディ。
 同時、二郎は凝縮した青黒い混沌水を『門』めがけ散布する。傷口を押し広げて破壊する『掻き毟る群青』が、甲冑を激しく濡らしていく。
「――爪痕を残せ、錆びた刃の如くあれ」
 そして――混沌が『門』の鎧を吹き飛ばした、次の瞬間であった。
『排除システム、起動』
 ぶわり、黒翼が音を立てて膨れ上がる。それは即ち全力攻撃のサインだ。
 ケルベロスを残らず包めそうな程に巨大な翼を背に、防御機構の化身は厳かに告げる。
『カウントダウン開始。発動まで六十秒』
「全力攻撃……! 皆、急ごう!」
 シルディの警告が飛ぶと同時、一斉に『門』へ殺到するケルベロス達。
 熱く激しい1分間が、いま始まろうとしていた。

●四
「いっけえええぇぇっ!!」
 ことほの振り下ろす鋼斧が、ルーンの光を湛えて『門』の脇腹に食い込んだ。
 確かな手応えと共に吹き飛ぶ甲冑。その露出した肉体を狙い、ヴィルフレッドが零距離の射撃を容赦なく浴びせかける。靴型デバイスの強化は強力で、一度の見切りによる命中低下をものともしない。
『五十二、五十一……』
「隙だらけだよ、っと!」
 タタタタタタン――。ガジェット銃の連射が一発残らず『門』の肉を抉った。ジグザグの一撃に鎧が吹き飛ぶのも構わず、『門』は剣を真一文字に構えて力を溜めていく。
 カウントダウンがゼロを刻む時は、即ち全力攻撃がケルベロスを蹂躙する時。その一撃を阻止するため、シルディは攻性植物をけしかける。
「逃がさないよ。いけーっ!」
 蔓の捕縛は『門』の腕を絡め捕り、それでもなお『門』は止まらない。
 一秒また一秒と減っていくカウント。そこへガートルードは全身に力を溜め込み、筋力を載せた斬撃を追撃で叩き込む。
「そこっ!!」
 回廊を揺さぶる衝撃。溜め斬りの一閃を浴びた『門』の体が、ぐらりと揺らぐ。
 だが、なおも『門』は姿勢を立て直してカウントを続行する。
 効いてはいる、だが致命打に至らない――高まる焦燥が心を捉えようとした正にその時、ガートルードらに加勢する者達が現れた。
 サポートとして参加した、4名のケルベロス達である。
「ふーん。しぶといね、あの黒騎士」
「ええ。私達も全力で行きましょう――カッツェ、援護を」
 先手を打ったのは、蘇芳・深緋とバラフィール・アルシクだった。
 深緋の蹴とばすオーラの星が、僅かに残る『門』の鎧を吹き飛ばす。続くバラフィールが叩きつけるのは、雨雲から降り注ぐ氷槍だ。
「水の力よ……ここに集いて、我が敵を貫く槍となれ!」
「及ばずながら力添えしよう。トトも攻撃を頼むよ」
 オズ・スティンソンは、蛇尾に毒を込めて狙撃。
 そこへ続く2体の翼猫が、ひっかきとキャットリングを繰り出して追撃の矢と為す。
 君乃・眸は広喜と視線を交わし最前列から疾駆。碧炎纏う大剣を、ブレイズクラッシュの一撃に変えて叩きつける。
「デバイスの力乗らぬこの身だが、遅れは取らなイ。こちらも地獄の門を開かせて貰おウ」
「ああ、俺達は絶対負けねえ。笑って一緒に帰るんだ」
 焦土地帯で、磨羯宮で、どんな戦場でも常に肩を並べた最高の相棒。
 そんな眸への感謝をありったけ込めて、いま広喜は『狙イ詠』の拳を放つ。
「壊れるまで、逃さねえ」
 全身の回路に炎を充填。演算加速で狙いすました拳がめり込んだ。ごっそりと脇腹を抉り取られる『門』。なおもカウントを刻む声が漏れ続ける兜を、二郎のサイコフォースが爆発で包み込んだ。
「――吹き飛べ」
『十五……十、四……』
 攻撃を浴び続けた『門』の翼は萎み、体は原型を失いつつあった。
 イズナはそこへ秘石を掲げ、『災い振り撒く古の呪縛』を解き放つ。
「双魚宮への扉も、わたしたちの未来も。わたしたちが、この手で開いてみせるから」
 だから――イズナは決然と言葉を継ぐ。
「もう終わりの刻だよ!」
 ルーンの輝きが悪夢と呪いを誘い、『門』を包んだ。
 心と身体を捻じ曲げられて、黒騎士の体がずぶずぶと崩れ始める。なおも掠れる声で続く秒読みを終わらせるため、メロゥは全ての力を開放した。
 翼、尾、忌み子の面。それら全てを解き放ち、障壁を排除する一手を放つ。
「面白味も仕掛けも無い。これはただ、単純な役割を持つだけの一振りだけれど」
 だからこそ、何も偽らず君に贈ろう――。
 言い終えるや、呪いの手刀が『門』を捉えた。
「――『開』」
 衝撃で弾かれ宙を舞う剣。その切先が地面を刺すより早く、追撃の手刀が一閃する。
「……もう、お休み」
『三……二……――』
 停止するカウントダウン。ごろりと転げる『門』の首。
 墓標めいて地を突き刺す剣が、終幕の刻を告げる。

●五
「よしっ勝利!! メロゥちゃん、おっつかれー!」
「ありがとう。今日も中々刺激的だったね」
 ことほは拳をグッと突き上げると、戦友に惜しみない拍手を送った。
 舞台を終えて微笑むメロゥの隣では、イズナとシルディがそっと転移門に目を向ける。
 何かしらの変化があった時を想定しての行動だったが、門は依然沈黙を保ったままだ。
「むー。まだ開く気配はないみたいだね」
「そうみたいだね。さあ帰ろう、無事に戻るまでが作戦だからね」
 そうしてイズナの一言に、ことほと仲間達も頷きを返す。
「オッケー。記念撮影も完了したし撤収ー!」
「そうだね。さあ撤退撤退!」
 メロゥは最後に一度、無人となった異空間と門を振り返った。贈るのは、今はもういない『今日の観客』への言葉だ。
「――お疲れ様、本当に」
 そうして後には、完全なる静寂の帳が下りる。
 静かに佇む転移門の先、死者の泉でケルベロス達を待つものが何なのか。
 今の彼らはまだ、知る由もない――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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