●いい日、猫の日
語呂合わせ、というものが世の中にはある。それこそ、日付の数だけあるのではないかと思うほど、毎日が何かの語呂合わせの日だったりするものだ。
そして、本日11月22日も、そんな語呂合わせが存在していた。
一般的に言えば、良い夫婦の日。それから、11でわんわん、22でにゃーにゃーとし、ペット達に感謝する日。
そして今、猫塚・千李(三味を爪弾く三毛猫・en0224)が街中で受け取った猫カフェのフライヤーにも。
「いい猫の日……?」
語呂合わせに乗じて、キャンペーンを行うという内容だ。
猫の日といえば2月22日か日本としては有名で、8月8日は世界猫の日と言われている。けれど、語呂合わせなど好きな様に決めてしまえばいいのだ! とばかりに、猫カフェのフライヤーには大きく『本日いい猫の日! 癒しの空間で猫とゆったりとした寛ぎのひと時をどうぞ!』と書かれていた。
「猫、猫カフェか」
猫カフェというからには、多種多様な猫がいるのだろう。街中で見掛ける野良も可愛いけれど、人に馴れた猫も……そう、きっととてつもなく可愛いに違いない。
●猫と過ごす? 過ごさない?
「よかったら猫が好きなやつもどうかと思ってな」
そう言って、千李が貰って来たばかりのフライヤーを興味がありそうな者へと渡した。
渡されたのだし、見るだけならタダだと目を通せば猫カフェの店内はキャットタワーにもなるように木材をふんだんに使った内装で、店内も広い。
大人数でも対応できるブロッククッションが敷き詰められたスペースや、一人でも落ち着いて寛げるような一人掛けや二人掛けのソファなど、訪れる人に合わせた環境が整っている。
猫は好きだけれどアレルギーがあったり触ったりするのは苦手という人の為に、猫が入れないように仕切られた場所から猫を眺め、ケーキセットを楽しめるような場所もあった。
様々な配慮が施された猫カフェ、しかも本日キャンペーンにより割引という文字に心が揺らぐ者もちらほらと居たようで、千李からフライヤーを受け取って真剣な表情で思案している顔も見えた。
秋も深まり、冬が訪れる少し前の一日を、猫と過ごすのもいいかもしれない。
●猫を隠すなら猫
その日、ルル・サルティーナ(タンスとか勝手に開けるアレ・e03571)は今までにない敗北感を覚えていた。
テストで0点を取っても、それで某オラトリオに怒られても、世界は酸っぱいな……くらいで済ましてきたというのに。
「猫さんのお誕生日を祝いに来たというのに、なんという見事な擬態……!! この広い店内の何処に猫さんが居るのか、全く分からぬ…!」
数多いる可愛い猫たちを眺め、時にオスかメスか確認しつつルルが猫さんが見つからないんだよ! と小さく叫ぶ。そしてそんな彼女の横には真面目な顔をしたチロ・リンデンバウム(チャージマン犬・e12915)が。いい称号だね。
「落ち着いてルルたん……!」
そう、落ち着いて考えてほしい。
「千李の兄貴は三毛猫よ!」
そっちだったか~~! 猫カフェに動物変身して行かないと思うとかじゃなかったか~~! 今日はルル乳の常識担当置いてきちゃったか~~!
「特徴さえ捉えれば、数が多くても探し出せる……! そう、このチロに掛かれば!」
その子はハチワレ、おっ可愛いね君。この子は靴下、髭がイカしてるね君。こっちの子はキジトラにサバトラ……あっお膝に乗りますか? 乗りませんかそうですか。
「どの子も千李の兄貴じゃない……!」
「これはきっと、ルルにはお誕生日を祝わせないという、鋼の意思を感じるんだよ……!」
「くっ、さすが千李の兄貴だぜ……手強い!」
人懐っこい猫たちに囲まれつつ、ルルがぐっと拳を握る。
「ふっなめて貰っちゃ困るんだよ」
「猫だけに?」
「猫の舌はざらざらしてるんだよ、違わないけど違うよチロちゃん! こうみえてもルルはこの世の辛酸を嘗め尽くした地獄の番犬ケルベロス……!」
多分嘗めたかもしれないけど、辛酸って漢字で書けるようになったら教えてほしい。
「この程度の試練、見事に乗り越え、必ずや猫さんのお誕生日を祝ってみせる……!」
「その意気だルルたん!」
ルルはやればできる子! ちょっと方向性が違うだけで、やればできる子なのだ。
「この子かな……? あっ女の子だった。じゃあこの子……」
ロシアンブルーの可愛い子ちゃんをルルが抱き寄せた時だった。
「ルルたん! 背後だ! 背後に三毛猫が!」
「背中? 気配を消して背後に回り込んだか……!」
さすが猫さんだよ! とルルが後ろを振り向こうとした瞬間、三毛猫がルルの背中に乗った。
「う、動けないんだよ!」
猫を背中から降り下ろすなんてそんな。
「ありゃ駄目だな。あっすみませんそこのイケてる店員さん、チロにメロンソーダをお願いします」
「俺か」
「はい!」
二人の一部始終を全て見ていた千李が本物の店員さんを呼んでメロンソーダを頼む。すぐに持ってきてくれたそれをチロに渡すと、三毛猫に揶揄われているルルを眺めた。
「ルルたん、完全に遊ばれとるわ」
「助けないのか?」
「楽しそうだから! しっかし本当にこの店内から千李の兄貴を見つけ出せるのか……もしや既に、店外に脱出してるのでは……!?」
ルルを肴にメロンソーダをぐびぐび飲みながら、チロが真剣な顔で呟く。
「いるはずだよ! ルルにはわかる、猫さんの匂いは確かにこの店内に……! あ、すみません、そこのイケてる店員さん、猫ちゃんのおやつをください」
「猫のおやつは一個百円らしいぞ」
「……いっこ、ひゃくえん? ひゃく……ひゃく?」
ひゃくってなんえんだ……? 三毛猫を背中に乗せたまま、ルルがクエスチョンマークを飛ばす。大丈夫か、君もしかしなくても来年中学生じゃないのか。……大丈夫?
「百円は百円さ、ルルたん! ん? 何か尻尾が……ギャワー! チロの尻尾が! チロの尻尾が引っ張られとる!」
言われてみれば、チロの立派な銀色の尻尾に猫が数匹じゃれていた。
タスケテー! と尻尾を揺らすチロから猫をはがしつつ、凄まじい負のオーラを感じて千李がそちらに目を向けると、そこには彼女達のお目付け役が見えて、千李はそっと心の中で手を合わせたのだった。
●猫は癒し
そう、彼女はとても疲れていた。猫じゃらしを片手に癒しを求め、猫カフェに来るほどに。
「……癒されに来ました」
奥の一人用のテーブルに通され、癒し空間でぽつりとマリオン・フォーレ(野良オラトリオ・e01022)はそう呟いた。
お一人様だよ! 悪いか! という気持ちで店を訪れたのだが、ふんわりクッションに背中を預ければ、一人で来て良かったのではないかと気が付いた。
そうだ、猫に囲まれぼんやりと過ごす時間……そんなもの一人でなければ手に入らないではないか。
「一人で来て正解でした」
猫じゃらしを揺らしながら、マリオンがストレスの原因を思い出す。概ね旅団の連中なのだが、これが本当に……!
「どいつもこいつも好き放題しやがって、爆竹投げるわ宿題埋めるわ埋めたとこ掘り返して家庭菜園始めるわテスト燃やすわ燃やして焼き芋作るわ人の武器を勝手に魔改造するわ崖から落ちるわ行方不明になるわしれっと帰ってきたと思ったら綺麗な色の蝶々を追い掛けて47都道府県制覇するわ……」
一人としてまともな奴が居やしねぇ! と、思い出しぷんすかをしてしまったマリオンが頼んでいたアイスティーを一気飲みした。
「ぷはー、美味しいですねこれ!」
クールダウン。しかしこれだけの悪行だ、癒し系美貌の聖女たるお姉ちゃんでも限界が有るというもの。
「だからたまには可愛い猫ちゃんとイチャイチャして癒されても、罰は当たらないと思うんですよね」
しかしだ、先程から絶えず猫じゃらしをひこひこ動かしているけれど、猫がこない。なんでや。
猫はどこだ……とマリオンがきょろきょろと視線を彷徨わせる。そして、見てしまった。
「……あ、あいつら……!!」
しかも千李さんにまで何かしらの迷惑を……! 本人は迷惑とは思っていないし、むしろ面白いと思っているのだが、マリオンからすればもう色々臨界点を超えそうだ。完全に虚無った顔をしている。
旅団に帰ったらお説教だよコンチクショー! クッションに突っ伏したマリオンの背に、さっきまで全く寄ってこなかった猫がちょこんと乗ったのであった。
●猫天国
猫カフェを楽しみにやって来たのはジェミ・ニア(星喰・e23256)と、初めての猫カフェに少し緊張しているエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)だ。
「ここが猫カフェ……」
姿勢を正したエトヴァの横で、ジェミは目の前に広がる愛らしい猫達の姿に頬が赤らみ目が潤んでいた。
「ここが天国……!」
二人用のテーブルにふかふかのソファが備え付けられたスペースに案内されたジェミは、早くも猫達の可愛さにめろめろだった。
「僕は、いつの間にか三途の川を渡っていた!? エトヴァも天に召されてしまったの?」
「大丈夫ですよ、ジェミ。ここは現実なのデス」
「現実でこんなに幸せなことがあっていいの? いつも無事を祈ってたのにエトヴァも一緒だし、やっぱり天国なんだ……」
飼い猫の可愛いみけ太郎を残して、と言い掛けたジェミを正気に戻す為にエトヴァがジェミの頬を両手で包み込んで視線を合わせる。
「現実デス」
「えっ、現実?」
「ハイ、大勢の猫サンに囲まれていますが、現実デス」
そう、にっこりと微笑みかければジェミも落ち着いたようで、死んでなかった、良かったと息を吐く。
「しかし、にゃんこ天国でもありマス、思う存分楽しみまショウ」
肩をぽんっと優しく叩かれたジェミが、どっちなの!? と慌てるが、すぐに目の前に現れた最強生物――仔猫に視線が釘付けになった。
つぶらな瞳、小さなふにふにの前足、ぴるぴる動くお耳。世界の可愛いを凝縮したような存在、それが仔猫。
「きみのひとみはいちまんぼると……」
あまりの可愛らしさにレプリカントであるジェミの心臓がキュン! とときめく。そしてそのままソファに倒れ込んだ。
「ア、ジェミ、しっかり」
そうは言うけれど、エトヴァも仔猫の可愛さに釘付けだ。
そんな二人を知ってか知らずか、仔猫は倒れ込んだジェミの膝に乗り、お腹の辺りを前足でふみふみして――にぃーあ、と鳴いた。
「可愛イ……」
「ふみふみからの、はじめてのみゃー……」
オーバキルもいいところだった、死因は仔猫の可愛さによるにゃん死。本望。
「……はっ、大丈夫ですカ」
「だいじょばない……可愛すぎて動けない」
喜びに満ち溢れた様子のジェミに、家族がこんなに喜ぶなら毎日……だと心臓が持ちそうにないので、週に一回くらい通ってもいいとエトヴァが笑みを零した。
ぱたん、と可愛い尻尾の感触に頬がゆるゆるになっていると、仔猫が違うものに興味を移したのかジェミの膝を蹴ってどこかへ行ってしまう。
「蹴る時の感触も最高だった……」
やっと起き上がったジェミに、エトヴァが笑って違う方を指さす。
「あちらに三毛の子がいますネ」
言われた通りの方を向けば、三毛猫が寛いでいる。愛猫のみけ太郎を思い出しつつ、黒猫も白猫も、キジも皆可愛いとエトヴァとジェミが笑いあう。
「ふふ、一緒に遊びまショウ」
エトヴァが猫達にそう呼びかけ、猫のおやつを取り出す。
「その前におやつを……」
食べますカ? と聞こうとしたら既に猫達がエトヴァの持つ猫のおやつを狙って集まってきていた。
「……天国!」
猫に囲まれ微笑むうちの兄がこんなにも可愛い! 猫と一緒で可愛さが天元突破!
「ハイ、順番に……」
再び猫の可愛さに加えて、兄の可愛らしさにも倒れ込んだジェミを集まった猫達が遠慮なく踏みつけていく。
二人の幸せな猫天国は、時間が許すまで続いたのでありました。
●翼猫と猫の日を
ウイングキャットのカッツェを抱いて、バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)が猫カフェの扉を潜った。
案内されたのは小さな座敷風になった仕切りのある場所で、バラフィールは壁を背もたれ代わりにし、カッツェは香箱座りと呼ばれる自分のお腹の下に前足も後ろ足も全て仕舞っている座り方で彼女の傍で寛いだ。
翼を広げることもなく、心得た様子のカッツェを撫でていると興味深そうに猫達がバラフィールとカッツェの元へ集まってくるのが見えた。
自分から触ろうとは思わなかったけれど、その可愛らしさには口元が緩んでしまいそうになる。
「あら……おいで」
そう呼べば、にゃあ、と仔猫が数匹カッツェに構ってほしそうに前足をちょいちょい、と出してきた。
それをカッツェが慣れたように猫じゃらしがわりに尻尾を揺らして、相手をしているのが――。
「なんて可愛らしい……」
思わず笑みが溢れて指先を伸ばすと、仔猫がにぁーと鼻先を擦り付けてきた。
首元を撫でてやると、気持ち良さげに喉を鳴らしている。その可愛らしさに吐息を漏らしていると、仔猫たちがカッツェのお腹を探りだした。
「おっぱいを求めているのかも……?」
困惑した様子のカッツェに小さく笑って、親猫を探そうかとした時だった。
にゃあ、と大人の猫が仔猫を呼んだのだ。
「お母さんが来てくれましたね」
すぐに仔猫たちが母猫の元へと駆け寄って、にぁにぁと擦り寄る。その姿に目を細めていると、このカフェへのフライヤーをくれた男の姿が見えた。
「あの、猫塚さん」
名を呼ばれ、千李が振り向く。
「お誕生日おめでとうございます、ささやかですけれど」
そう言って彼女が渡してくれたのはお箸と猫の箸置きがセットになったもの。
「ありがとな、ええと」
そう言った彼に名を告げると、千李が改めて彼女の名を呼んで微笑んだ。
●猫日和
案内された席は足が伸ばせる軽い仕切りがあるタイプの一人用で、薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)はクッションにもたれながら低い丸テーブルの前に座った。
辺りを見れば、キャットタワーに座ってカフェを見下ろしている猫や、お昼寝を楽しんでいる猫が見える。猫は店内を自由に歩き回っていて、控えめに言っても――。
「猫天国だ……」
思わず天を仰いでしまったけれど、同じようなポーズを取っている人はこの店では何も珍しくない。滅多に来ない場所ゆえ、少しだけ緊張していたのだけれど、そんなものはどこかへ吹き飛んでしまった。
だって、猫が近くを歩いていくんだもの。
「可愛いなぁ……」
見ているだけで可愛いし癒される、この世にアニマルセラピーがあるのも頷ける。
「えっと、確か動物とふれ合うときは自然体で、無理に迫らず動物達の方から来るまで待ちの姿勢でいてあげるのがいいんだっけ?」
とはいえ、猫じゃらしなどで構うのはOKのようで、貸してもらった猫じゃらしをあすかがそれとなく振ってみる。
「おー、早速ハチワレちゃんが一匹来た」
八の字に見える顔の模様が特徴的な黒白の日本猫が、あすかの元へてってと駆けてきた。
「ほら、おいでー」
猫カフェにいるだけあって、人懐っこい猫は猫じゃらしで遊んでもらった後はちゃっかりあすかの膝の上で休憩だ。
「人懐っこくて可愛いなぁ……」
今日何度この可愛いを言っただろうか。そう思いながら猫を撫で、おやつ食べる? と問い掛けた。
にぁ! と鳴いて応えた猫の為におやつを購入し、ちょっとずつ食べさせる。すると、こちらを窺いつつ隠れているサバトラが見えて、思わず手招きしてしまう。
「警戒心が高いのも猫って感じでいいよね!」
普段はツンツンなのに、時折見せるデレは破壊力が高いのだ。勿論常に甘えたな猫も可愛い、猫というだけで可愛い、猫って最高!
「異論は認めない」
強火なセリフを口にして、あすかが猫になりたいと呟いた。
●いい夫婦と猫の日
本日11月22日は何の日かと問われたら、七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)は隣にいる夫、ヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558を見上げて即座に『いい夫婦の日』と答えるだろう。
だが今日は――。
「ヴァルカンさんヴァルカンさん、右を見ても左を見てもにゃんこが、にゃんこがにゃんにゃかしてるわよ!」
にゃんにゃか。
「にゃんにゃか、か」
「そうよ、にゃんにゃかよ!」
にゃん、とさくらが両手を猫の手のようにして、ヴァルカンに向けて揺らしている。正直に言えば猫よりも妻の方が可愛いと思ってしまったのだが、それは黙っておこうとヴァルカンが頷く。
そしてにゃんにゃかしている猫達は、人懐っこく二人に近寄ってきては離れてを繰り返していた。
「かーわーいーいっ!」
いつになくハイテンションなさくらにヴァルカンが小さく笑う。
「こらこらさくら、そう興奮していては猫達も怯えてしまうぞ?」
「はっ……あ、呆れた?」
恐る恐るそう問いかけてくるさくらに首を横に振り、優しい瞳を向けた。
「呆れたりはしない、知っているだろう?」
「もう、ヴァルカンさんったら」
頬を桜色に染めた妻の可愛らしさにヴァルカンの尻尾が思わず揺れると、猫達がわらわらと集まってくる。
「……おお~よしよし、お前は賢そうだな」
そのうちの、膝にまでよじ登ってきた仔猫を見てヴァルカンの頬が緩む。
「どれ、一つこの私と遊ぼうではないか」
鋭い爪先で猫を傷付けないように、それこそさくらに対するような優しさで仔猫の喉元を撫で、ごろごろと喉を鳴らす仔猫を愛でる。
「楽園はここにあったのね……わたし、もうここに住む……」
猫に戯れ付かれ、可愛がる夫(34歳)とか最高すぎる、スマホで連射待ったなしだ。
でも、なんとなく。
わたしだってものすごく賢いし、可愛いと思うんだけど? なんて対抗心が生まれてしまう。猫と張り合うなんて馬鹿げてるとは思えど、そんな顔をわたし以外に向けるなんてという気持ちも……女心は複雑なのだ。
ヤキモチじゃないけど、なんだか面白くないと思っていると、違う仔猫がさくらの膝によじ登る。
「わ、わ! 仔猫が膝の上に……!」
「……おや、その子はさくらの膝の上がお気に入りとみえる」
ちょっと嫌な気持ちはすぐに霧散して、さくらも目の前の仔猫の可愛さにめろめろだ。
「可愛い……あ、やばい」
「どうした?」
「あ、足が痺れてきた……助けて、ヴァルカンさんっ」
猫を膝から下ろせばいいのだけれど、こんな気持ち良さそうに寝ている仔猫をどけるなんてできるわけがない。
助けて、とヴァルカンを見れば迷いなくシャッターを切る彼の姿があった。
「ヴァ、ヴァルカンさん!?」
「すまん、もう少し我慢してくれ」
絶好のシャッターチャンスを逃す訳にはいかないのだ。
「ぁ、あっ、写真はあとで見せてぇえええっ」
すっかり痺れた足を起きた仔猫に突かれ悶絶するさくらを眺めつつ、猫相手に嫉妬するほど狭量ではないけれど、羨ましくはあるとヴァルカンがさくらの耳元で囁く。
「さくら、帰ったら俺にも膝を貸してくれ……な?」
「ヴァルカンさん……もちろんよ」
甘い囁きに蕩けるような笑顔で返して。
いい猫の日を堪能した後は、おうちであなたといい夫婦の日を――。
作者:波多蜜花 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年11月22日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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