境界遊戯

作者:黒塚婁

●竜、墜ちる
 月の見えぬ夜であった。
 城ヶ島上空――忽然と、干からびたドラゴンが無残に破れた翼で羽ばたいていた。
 それへ、無数の黒き蛇が伸び上がり、食らいつく。
 地上から伸びた楔が、死に体のドラゴンを逃さぬように――異様に裂けた口の、蛇の怪に、次々食らいつかれたドラゴンは地に墜ちる。
 然し、何も憂う必要はない。
 竜業合体の果て、地球へ辿り着きしものへ、蛇――否、ドラゴン――ニーズヘッグが力を注ぎながら、その体を食い破る。
 それらはバラバラに崩れ落ちていく。
 深い闇に更に濃い影を作る骨の形が、兵士へと変じながら――。

●境界の防衛戦
「ユグドラシル・ウォーの集結から、それなりの時間が流れたが――姿を消していたデウスエクスどもの活動は未だ細々と続いている」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は厳しい眼差しで彼方を見やり、そう告げた。
 それもまた、その因果のひとつ。
 本星から――竜業合体をもって地球を目指すドラゴンどものうち、本隊に先行しながらも地球に辿り着けず、力を使い果たして宇宙を漂っていたものどもが、ニーズヘッグの集めた力に導かれるように地球上に転移してきたらしい。
「既に先行部隊が辿り着きつつある、という事実も度しがたいものだが――目下の脅威はもうひとつ――ドラゴンの肉体にあった全ての骨が、ニーズヘッグの力を注がれて竜牙兵へと変化しているらしい」
 忌々しげに、辰砂は言う。
 産み出されたばかりの竜牙兵は、さほど強力ではない。だが、ドラゴンの巨躯より産み出されるその数は、あまりに多いのだ。決して無限ではないが、限りなく多い、有限。
 それらは力を注いだニーズヘッグの意思、即ち『竜業合体でやってくるドラゴン達の為にグラビティ・チェインを集める』という任務を深く刻み、生まれた傍から人々を蹂躙しようと進撃を始めるのだ。
「奴らは百で一の部隊を編成している。貴様らには、それを阻止すべく、討ってもらいたい」
 それらはすべて城ヶ島大橋を利用した陸路からやってくる歩兵である。いずれも剣を手にしており、規則正しく行進している。
 指揮官は、かなり後方に存在しているようだ。
 橋を使う以上、正面から受ける攻撃は限られるだろう。それを利用するも、乱すもよし――橋を落とすなどは出来ないが、ケルベロスの能力で出来うる奇襲は可能だろう。
 それは貴様らに任せる、と辰砂は双眸を細めながら告げる。
 信を置いている、と。
「本隊が辿り着くまで、幾ばくか……予知もまだ及ばぬが、出来ることを尽くすまで」
 最後に、殲滅を願って――、彼は説明を終えるのであった。


参加者
輝島・華(夢見花・e11960)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)

■リプレイ

●決行前
 城ヶ島大橋――この地は幾度、ケルベロスとデウスエクスの戦いを見守ってきただろう。
 ふふ、と一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が何かを思い出したように笑いを零した。どうした、とハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が視線を送ると、瑛華は軽く目を伏せた。
「此所も何度目でしょう、って――魔空回廊制圧作戦でも来ましたし、もう定番のデートコースでしょうか」
 相棒に向けた声音で柔らかに囁いてから、常の涼やかな声音で戯れを告げる。
「とんでもねぇデートスポットだ」
「ふふ、冗談ですよ」
 笑いを含んだハンナのいらえに、彼女も笑う。
 会話からは和やかさすら感じるが、ひりつくような緊張の糸は切らしていない。何せ、視界の中に、既にそれらは見えていた。
「あれらがドラゴンの肉体の断片たち。橋に並べると壮観でございますね――だが生きた竜にくらべればなんということもない」
 向こうも此方を視認できているであろうか――赫と燃ゆる地獄の炎を強く揺らして、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)は笑う。
 ドラゴン――独りごちる声と共に、するりと鱗が擦れる音がして、オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)が軽く身じろいだようだ。
「身の破滅の果てに仲間がここに辿り着いたとしても、ゲートを失ったドラゴン達に逆転勝利の目はあるんだろうか……僕には、わからないや」
 ねえ、トト、とベルベットのような毛並みをもつウイングキャットの顎を撫でる。
「その僅かな望みを繋ごうとしているのでしょう……」
 絶望の底を浚う、一縷の希望を手繰るために。輝島・華(夢見花・e11960)は青紫色の瞳を橋の向こう側を捉えようとするかのように強く見つめる。
 地球上の情勢でいけば、ケルベロスの優位。さりとて万全の魔竜が再び揃えば、それを覆せる――彼らはそれを信じており、或いは、という不安は此方にもある。だからこそ、この戦いすら、負けられぬのだ。
 杖を握る彼女の傍ら、花咲く箒型のライドキャリバー、ブルームは支えるように寄り添っている。
 そうダな、と君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は頷く。十だろうが、百だろうが関係ないと冷徹に告げる。黒衣のビハインド――キリノも軽く身を起こして、彼と同じ方角を見ていた。
「真っ向から殲滅してやろウ」
「宜しく頼むよ」
 ゴーグルを装着し、レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)が朗らかに笑った。
「ゲートを破壊されて尚、執念深いものね」
 一歩踏み込めば、艶やかな漆黒の髪が風に揺れる――アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は、一度、銀髪長身のビハインド、アルベルトへと目配せすると、真っ直ぐに橋へ、敵へと向き合う。
「――いいわ。幾度来ようが幾ら来ようが……全て葬り去るまでよ」

●交戦
 がしゃがしゃと粗末な鎧を鳴らし、竜牙兵は剣を構えた。そこへ、駆けつけながら、ケルベロス達が仕掛ける。
 先陣を切るは眸――スートの力を宿す三叉のランスを、走行フォームから継続し、滑らかに投擲する。
 天空に放られたそれは、無数と分裂し、竜牙兵の群れに降り注ぐ。後衛を狙った一撃であったが、やはり盾が見逃さぬ。
 キリノが周囲の礫に念を籠め追撃を加えれば、その背に庇われながら、杖を掲げた華が、仲間を守る雷の壁を築く。
「此処より先は通行止めよ――少し、大人しくしていなさい。」
 雷鳴轟く空間を劈く程の爆音、更に迸る眩い閃光――擲弾銃から放たれた弾丸が炸裂し、散弾が周囲の竜牙兵を纏めて貫く。
 涼しい貌で銃を構えたアウレリアが、告げる。
「引き返せと言ったところで帰る所等ないでしょうし、在るべき場へと送ってさしあげるわ――果て無き宙より月無き夜より暗い場所へ、ね」
 光が引けど、戦場を掻き乱すはケルベロスが優位――。
 炎を纏って突撃するブルームを目眩ましに、アルベルトが竜牙兵の背から、一撃を叩き込む。
 庇った其の身体は、半ば崩れた。畳みかけるように、毒のオーラを纏う大蛇の尾が跳ねて叩き潰した。断頭台のように空から落下してきたオズは――気怠げな瞳で、トトへ流し目を送る。黒猫は空を駆けて羽ばたく。
 大雑把な狙いでラーヴァが撃ちだした銀の矢が、粒子を振りまき飛び回る。覚醒した感覚をそのままに、レヴィンが前へと踏み込んだ。真っ直ぐに構えた銃口が鈍く輝く。
「逃げるなよ、どこまでも追いかけ絡みつくぜ…!」
 レヴィンの右目――ゴーグル越しに、地獄の青炎が溢れ伝い、彼の握るリボルバー銃に纏わりつく――彼にとって悲しみと苦痛の象徴でもある形見の銃が吐き出す弾丸もまた、青い炎を纏っていた。
 炎は敵を惑いの迷宮へ。竜牙兵が、如何なるトラウマを見るかは解らぬが、全弾命中を見届けて、軽やかに退く。
 其処に吹き付けるは、全てを薙ぎ払う二つの烈風。
 背にヘリオン・デバイスは背負うものの、ほぼ地を叩くように飛行――謂わば、加速装置のように飛翔を利用し、隊列の中央へと踏み込むと、拳を叩き込むように突き出した縛霊手より巨大光弾が放たれる。
 光の中に消し飛ぶ影を見やり、瑛華が立ち尽くす標的の首へとグラビティチェインで編み出した鎖を、巻き付ける。
「わたしはあなたを……逃がさない」
 骨が折れる乾いた音が、高らかに響いた。

●進撃
 骨を砕き、踏みしめる音が続く。血の匂いは殆どない。アスファルトを剔る、煙と、火薬。微かな潮風だけが、生々しい匂いを運んでくる。
 声を発さず、響く音は鎧が駆け足に軋む音ばかり。混じり合う、寸分違わぬ工業製品の如く同型のそれらから移動中のものたちはどれか。攻撃に転ずるのはどれか。
 鋭く見定め――飛来する星座のオーラを、アウレリアは冷静に漆黒のオーラで受け止める。
「昔々、ある王国に滅びの預言が齎されました。国中の識者を集めても逃れ得ぬ滅びの運命を前に、王家は一つ頑丈な箱を作ることにしました」
 滔滔とオズが語る――白銀を帯びた紫髪の隙間から、金の瞳が諧謔を唄う。
 彼が癒やしを配して傷を閉ざし、華が念入りに薬液の雨で凍結を溶かす。軽やかに空を舞うトトが、鋭い爪で竜牙兵の頭部を引っ掻いては、仲間達の背後まで一気に逃れる。
 そうして、動くものが注意を引きつける合間――影を縫うように、兵の背に回りこんだ瑛華が、双節棍を巧みに操り、その頭蓋を叩き割る。
「ふふ、随分柔らかいですね。栄養不足だったんでしょうか」
 おっかねぇな、相棒の言葉に肩を竦め乍ら、ハンナは銃口を向ける。
「メンドクセェから纏めて行くぜ」
 追尾型の多弾頭ミサイルが放たれ、漸く隊列を整えた竜牙兵を穿っていく。激しい攻撃を仕掛ける二人に翻弄されながら、敵は彼女達を止める術をもたぬ。
 アウレリアとオズを始め、サーヴァント達も含めた厚い壁。同じような布陣で衝突すれば、破壊されるは弱きもの。
「この戦イ、戦場こそ戦闘機械の居場所だと、実感出来ルな」
 儚い微笑み。眸は粉塵を巻き上げる戦場へ、新たな問いを重ねる。
 ――果たして、敵は我々だけか、と。
 眸の指先が、浮かび上がるホログラムのパネルの上を素早く滑り、叩く。
「どこにも行かせなイ……お前は、ワタシのものダ」
 虚空に描く命令は、エネルギーを媒体とした、所謂、生体ハッキング。
 生き物としての根底に埋め込まれたコードが兵の身体を射て――混乱に、陥れる。
 その、頭上――空より分裂して注いだ槍で、更なる混乱が戦場を掻き乱す。無論、彼らの仕掛けに耐えきれず、砕け散るものもある。
「纏めて薙ぎ払えるのはなかなか爽快ですね」
 鞴のように首元から強く熱気を零し、ラーヴァが投擲した手をぐっと握った。金属が擦れる音が、笑い声のように響いた。
 崩れゆく仲間達の屍を踏みしめ、体勢を立て直した兵が二体、剣を振り上げ斬り込んでくる。
「おおっと!」
 レヴィンが戯けるように飛び退く。どちらかといえば、音もなく彼の前に現れたアルベルトに驚いたようであったが――。
 星辰の力から重力を引き出した重い斬撃が、霊体に叩きつけられ、さりとて、其れは揺るがない。
 彼がそれを引き留める間に、黒衣の裾を翻し、アウレリアが深紅の刀身を閃かせる。差し込んで斬り裂けば、返り血の花は咲かぬが、命は流れ込んでくる。
 もう一体は、ブルームが駆けつけ足止めしていた。鋭い一太刀で少々花を散らした箒を、守護星座の力が不意に癒やす。
「ご協力ありがとうございます」
 ラーヴァは慇懃と告げた。面白いほど、催眠がよく効いていた。とはいえ、確率に過ぎぬ。
「相手にお手数かけてもらっても悪いからな」
「お返しは丁寧に、ですね」
 打てば響くような瑛華のいらえに、ハンナは金髪を揺らして笑う。
 軽やかに空を走り、挟撃よろしく攻め込む二人の動きを注意深く見つめながら、華は杖の力を解き放ち、再度、前衛へと雷の壁を展開する。
「ブルーム、ありがとう――さあ、まだまだ参りますの」
 物言わぬ竜牙兵の群れは、まだ此方へと行進を続けている。

●静寂
 ――何故うまれ、何故しにゆくのか。
 ハープを爪弾き、オズは語るように歌う。心を惑わせる、言の葉を。
 ラーヴァの言葉を借りるなら「肉体の断片たち」である竜牙兵どもは、生まれ持った使命に従い、隊列を成して命を枯らす。
 我々は其れを摘む物語を今紡いでいるわけだが――彼は、軽く目を伏せた。全くもって、一方的な虐殺に等しい。
 オズの声音に身を震わせ、ほろほろと崩壊していく身体で、健気に剣を振り上げた兵を、鋭く滑り込んできた眸がアイアンクローで仕留める。回転したそれで頭部を剔れば、破片が周囲に飛び散り消えた。
 そして、開いた穴を埋めようと、それらは律儀に隊列を整える。その一手は、格上であれば、鬱陶しくもあっただろう。
 然し、対等、それ以下であるならば。
「失策よ。それじゃ数の利も活かせない」
 厳しく断じたのはアウレリア。ランチャーから大量に発射したミサイルが、盾と構えるもの達を襲う。正確には、その背後でまごつく後衛へと仕掛けたのだが、身代わりに被弾したのだ。
 流石に、一撃では崩れなかった。
 休む間も与えず、魔力を編み上げた華が続く――。
「可憐な花の絨毯、お見せしますの」
 凜然と唱え、紡ぐはネモフィラの幻想――冬の空に、清らかな青き花畑が広がり、そよぐ。
 美しい花々は、無情にも踏み込んだ竜牙兵どもの脚を掻き裂いた。
 壮麗なる魔術は苛烈なる威力をもって橋上に吹き荒れ、それらを一掃すれば。
 盾が崩れた傍から、立て直しでみすみす攻撃の機を喪うのだから、反撃の憂いも要らぬというもの。無論、入り乱れる戦場で、見分けのつかぬそれぞれのどれが攻撃を仕掛けてくるか解らぬ、という混沌は依然として残っていたが。
「我が名は熱源。炎をお見せ致しましょうか」
 機械仕掛けの脚付き弓より、同時に射かけられた、可燃液を取り付けた矢と高熱を宿した矢――炎の壁が空気の全てを炎熱に変えたかの如く。竜牙兵の元に落ちた業火は、広範囲を舐めて爆ぜる。
 肉もないのによく燃えますねぇとラーヴァが呟くと、あんたもだろうとハンナは楽しそうに笑った。
「オマケだ」
 紅蓮の炎纏う如意棒が、遠心力に任せて唸る。愚直に受け止めて、更に炎上する敵を、レヴィンがブラックスライムの槍で刺し貫く。
 その彼がふっと息を吐き、頬を笑みで上げた瞬間、
「なにぃ!?」
 目の前に突如飛来した黒影へ、素っ頓狂な声を上げた。咄嗟に加速したブルームが、回転する鎌へと身を投じ、庇う。
 更に、星辰のオーラが戦場を割った――すかさず、キリノが周囲に散らばる残骸の、鋭く尖ったものを飛ばして、抵抗する。
 空気を凍つ輝きの中で、アルベルトが霊気を震い、それの脚を止める。空から駆けつけたトトが羽ばたき、その氷を溶かして解き放つ。
「指揮官、補足しタ――」
「ハッ、自分から知らせて来やがったか!」
 眸の冷静な声に重ねて、レヴィンが吼える。
 手元に返る軌道を追えば、鎌を手にした竜牙兵が、前列に躍り出る兵の後ろに陣している。それでも、周囲を取り囲む兵が多ければ、安易に攻め込むわけにはいかぬか――。
 否、攻撃が来たと言うことは。
「案外、前にいましたねぇ――いや。いえいえ、失礼しました。もう在庫切れのようですね」
 新たな矢を番えながら、ラーヴァが弄した通り――竜牙兵の群れは既に半壊を超え、殿が見えている。
 他の個体に比べれば、少しだけ、異なる空気を纏っているように見えるが。オズは見極めるように目を細めた。
 言葉を発さぬ彼らの物語は、勝手にこちらが想像するより他にない――然し、戦いに向けた悲壮さ、敗戦に至る非業な空気すら、それらは持ち合わせていないように感じられた。
 虚ろな眼窩は冥い使命感だけを宿し。
 憎悪、という言葉だけが残る。
「……興味は惹かれない、かな」
 誰にでもなく小さく呟くと、オウガメタルで作り出した黒太陽を宙へと掲げる。
 絶望の黒光が戦場を照らし――雄叫びをあげながら、レヴィンが突っ込んでいく。地獄の炎を纏わせた銃を直接叩きつけんと挑めば、庇いに入った兵を一撃で仕留める。彼が開けた穴へ、今度は眸が躍る。
 敵陣深く、捻った身体に隠した槍の、穂先が一気に薙ぎ払う。
 強烈な斬撃が竜牙兵を一気に撫で斬ると、すかさず華が杖を掲げた。
 雷霆が、落ちる。
 鎌を擡げた指揮官の身が雷に踏鞴を踏めば、その眼前で、がしゃりとラーヴァが鎧を鳴らした。
 雷の霊力を帯びた槍が風を裂いて竜牙兵の腰を穿つ――、其処へ炎を纏う拳を構えたハンナが迫っていた。
 置き去りにされていた盾が動いて、彼女の拳を受け止め、絶命するが。彼女の瞳は、指揮官の背後、銀髪を風に躍らせる女を見ていた。
 生成したグラビティチェインの鎖を手に。瑛華はその背で微笑む。
「言ったでしょう」
 告げる瑛華の声音は歌うように――それでいて、静謐な殺意が宿っている。
 しゃらり、鎖の音がする。
「次は撃滅するって」
 まぁ、あなたには言ってないですけれど。
 搦めて、括って、力に任せて、へし折る。
 指揮官は首を背中につける形で倒れ込むと、灰と崩れていく――。
「やれやれ、執念深い女だ。お前も女を選ぶときは気を付けた方が良い」
 笑いながらハンナが視線を向ければ、眸はノーコメントとばかりに肩を竦めた。
 ――その影で、神妙な顔でレヴィンが頷いていたのを、華が目撃していたが、淑女は微笑んで何も言わぬ。オズが、ゆっくりと振り返る。
 指揮官を喪い、浮き足だった竜牙兵はさて、既に――。
「――大丈夫、最後の一体まで、ちゃんと送り届けてあげるわ」
 深紅のナイフを手にしたアウレリアが慈悲を与えて、いた。

 斯くして――百の部隊を飲み干した八人と三体は。この橋に、ひとたびの静寂を取り戻したと――波の音で確信するのであった。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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