異形の騎士を越えよ

作者:baron

 歪みが特定方向に進むような場所。
 そこを場所と呼んでよいのか分からないが、確かに進むべき方向が存在する。
 暫く前か、それとももっと前か? 確かにそこで戦闘が行われていたようだ。
『……』
 いつの間にかその場所に、黒く異形の影があった。
 床とでも言うべき比較的安定した場所の上に立ち、誰かが奥に進もうとするのを阻んでいるかのようだった。
 その道は明滅して、消えたり確定したり。
『……』
 今にも飲み込まれそうであるというのに、異形の影がまるで騎士の様にそこを守っていた。


「ブレイザブリクの隠し領域より死者の泉に繋がる転移門を発見したことは御存じの方もおられるでしょう」
 セリカ・リュミエールが説明を始めた。
 隠し通路が双魚宮「死者の泉」に繋がっている事までは確認できたのだが、死者の泉を守る防御機構『門』によって護られており、それを突破しない限り、死者の泉に向かう事は出来ない。
 そして重要なのは、『門』は『死を与える現象』が実体化したような黒い鎧のエインアルの姿をしているという。だがその力は並ではんかう、凄まじい能力を持ってくる者を阻んでいるという。
「今回の『門』は剣と盾を構えたオーソドックスな騎士というべきスタイルをしています。とはいえ盾はあくまでそういう形状をしているだけであり、殴りつけて来るようです。そして振り抜くと衝撃波が発生します」
 セリカにケルベロス達は詳細を訪ねていく。
 例えば魔空回廊のような場所で数倍の力を持つらしいが、こちらはデバイスを使えるのか……などだ。セリカは使えると答えたり、参加者にはキーワードを伝えると教えてくれる。
「この『門』を42体撃破すれば、死者の泉に転移が可能になると予測されています。死者の泉に直通するルートが開けば、エインヘリアルとの決戦の火ぶたが切って落とされるでしょう。今ならばまだ敵はこちらの動きに気が付いていません。今の内に攻略を御願いしますね」
 セリカはそう言って出発の準備を整えに向かった。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ


 歪な空間は誰かが通ることで道のように思えて来る。
 変転する世界が確定しているのだろうか?
「ここか。幾つか証言はあるけど、今回聞いてる感じと一致する……かな?」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)はメモと見比べながら周囲の景色に付いて感想を漏らした。
「敵は要るっぽいけど、判り難いなあ」
「それはこっちで確認するね。……えーっともうちょっと奥? もうちょっとがどのくらいのちょっとかは……ひ・み・つ」
 朔耶が覗き込むとメロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)は片眼鏡型のデバイスで敵の位置を把握した。
 味方同士の位置を把握すれば、回廊のおおよその形状も理解できる。
「何度目かだが……。慣れねぇな、殺し合いってのは、よ」
「気にすることはない。相手はデウスエクスですらない……ただの現象だ」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)のつぶやきを拾ったファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は、常の無表情からは伺えぬ口調で吐き捨てた。
「詳しくは知らないが奴らは生物ですらない。エインヘリアルの誰かを模しているのか、元からかは知らないがな」
「ゆえに門か。まあ門というよりも、門番というところだろうが」
 ファルゼンは友人の鎧に似た姿に怒りを覚えるが、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)としては肩をすくめるしかない。
 命も持たぬ現象が人の形を持って立ち塞がるとは奇妙だが倒すのみである。
「まだ気になるのか?」
「殺すって方は、まあいいさ。ただどう考えても、死神達がここを見に来ない事が気になって、な。いくら信頼していようが、油断が色んな組織を破滅に導いたって事を理解してないとは思えないんだよなぁ……」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)はレガース型のデバイスの調子を確かめながら、鬼人に尋ねた。
 どうやら命を刈り取る事には踏ん切りを付けられるようだが、別の事が気に掛かっているらしい。
「オレが門討伐依頼に挑んだのも8回目だな。つーか大分総撃破数が重なっている気がするが後どのぐらいだろうな」
 泰地は指折りに自分や友人達が倒した数、そして友人たちが聞き込んできた数を簡単に計算する。
「オレらと前後して良く判らねえ対象も居るはずだが……あと10数体ぐらいか?」
「そのくらいの筈だ。時間勝負の厳しい戦いだが、さっさと倒して次に進むぞ」
 泰地が地面を踏みしめるようにレガースを足に合わせると、レーグルは拳を打ち合わせて気合を入れた。
 地獄化した腕に装着した籠手が火の粉を散らす。

 それは敵が向かって来たからであり、戦意を高めるための仕草だった。
 他の仲間たちも敵の姿に気が付き、それぞれに配置に付いたり、デバイスの力を起動させていく。
「コマンドワード、なぜだか私、起動は『イグニッション!』ってやつが好きなんだけど、なんでだっけなー……?」
「魂の形がそう求めている。それがロックなのデース!」
 山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)の良く判らない疑問に対し、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は良く判らないなりに応えた。
「まあそうだね。自意識……というか知性も好きな事も無いのはかわいそうだけど、よくわからずに戦わされる運命からは解放してあげないとね!」
 ことほとしては命を狩ることに嫌悪感はない。
 オウガは戦闘種族ゆえに倒し倒される事自体は運命として理解しているのだ。
 ただそこに感情が無く操られることは可哀そうだと、戦闘種族ゆえに無意味な戦いを行う『門』を哀れだと思った。
「初めてか、何度目か、もしくはこれで最後の、こんにちは! 元気にしていたかい? 人恋しくて泣いていないかな?」
 その間にもメロゥは戦闘態勢を整え、徐々に距離が縮まっていくのを待つ。
「ふふ、いい子にしていたなら、今日も素敵なショーをプレゼントしてあげようね」
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」
 メロゥが技を放とうとグラビティを集中させ始めると、シィカはギターをかき鳴らしながら走り出していた。

 エインヘリアルの形をした影は既に動いていた。
 攻撃範囲に入るやノータイムで行動を選択し、強靭な脚力で迫り来る!
『っ!』
「痛っ……レッツ、ロック!」
 シィカはその反応に対して飛び込んでいたのだ。
 顔面を盾で殴りつけられながら、巨大な腕……アコーデオン型のヘリオンデバイスで我が身を支えて立ち上がる。
「どんなに強くても負けないデス! 二度目のライブもばっちり決めて、ロックに撃破デース!」
 立ち上がりながら魂の力を迸らせるシィカは、まるで天を突く拳だ。
 ニワカの彼女は知らないのだが、強大な力に抗う生き方こそロックな魂らしい。
『……』
「……刀の極意。その名、無拍子ってな」
 すれ違ったその時、鬼人は刀を振り抜いている。
 考えるよりも先に体が動き、幾重にも繰り返した訓練の身が素早い相手の動きに対応していた。
 敵が殴りつけた盾を引き戻すよりも先に、無駄なく斬撃を放っていたのだ。
「牽制は任せろ……オラオラオラオラオラオラオラ!!!」
 そこへ飛び込む影が一つ。
 泰地は走り込みながら態勢を整え無数の蹴りを放った。
「相変わらず、あんま効いてねえな。だが……狙いはそんなんじゃねーぞ!」
 泰地の蹴りで痛みを感じてないように見える『門』だが、実のところ宣言通り牽制が目的だ。
 蹴りに次ぐ蹴りを放ち、相手の腕や足を動かさないように固定する為。
 そんな無茶な動きができるのも、体を支える軸足の筋肉、そして体のバネを構成する筋肉あってこそである。
「どうだ?」
「問題ないよっ。傷は深いけど体の動きを邪魔する程じゃないみたいだしね」
 面倒見の良いレーグルが念のために確認すると、ことほはシィカの傷を見ていた。
 顔面を殴られたように見えるが頭突き気味のディフェンス。脳震盪は起こしていないし、盾の攻撃自体も胸と額で受けた形なので半減している。
 それでもなお強力なダメージであるように見えたが、ことほが癒せば何とかなるレベルだ。
「そうか、なら遠慮は不要だな。……奏でよ、奪われしものの声を」
 ここに至ってレーグルは戦いのみに意識を切り替えた。
 両の拳が燃え上がり、戦意と共に炎に包まれたのである。
 その猛々しい炎に痛みはないのか? この腕は既に地獄なり、あるとしたら敵に対する恨みのみ。呪詛を叩きつけて癒されない思いを力に変えて浴びせた。
「よいしょっと。これでまた戦えるねっ!」
「バッチリデ-ス!」
 ことほはその間に周囲から……だけだと不安なので世界中から自然の力を集めた。
 それは傷を治すのに万全ではなかったが、シィカが先頭に復帰するには問題ない。
 念のためにライドキャリバーの藍も送り出し、ことほは戦いを見守ることにした。
「誰の許可を得て身内の……私の友の姿を真似ているんだ?」
 ファルゼンはグラビティと共に蹴りを叩き込んだ。
 その時、歪んだ色彩で敵の姿が別の色に見えた気がする。
 それに友の姿を思い浮かべて不機嫌になり、こっちに掛かって来いと打撃だけではなく言葉を投げつけ気を引こうとするのであった。
「ふつー打撃って言ったら、ああいうのとか、こういうのを言うんだけどねぇ」
「褒めても何も出ねえぞ」
 朔耶がその攻撃や、泰地の躍動する筋肉を見て溜息を吐いた。
 もちろん彼を褒めたのではなく、『門』の放った盾に寄る打撃にマイナス票を入れているのだ。
「盾は投げる物であり同時に殴る鈍器でもある……って、それなら初めから盾でなくハンマーでも使ってろ」
 朔耶はオルトロスのリキに指示を出しながら、周囲に黄金の輝きを灯した。
 果実から放たれる光は、それだけで間を退ける力となる。
「ねえねえ。じゃあ、僕の攻撃はどうかな? どうかな?」
「好きに決めれば良いじゃん。あんま興味ないし」
 メロゥは人間形にした足で飛び蹴りしてたのだが、その足を朔耶に見せつけて尋ねてみる。
 自分の蹴りが打撃として及第点なのかは興味はない。
 むしろ興味があるのは、朔耶の反応が面白いかどうかだ。そんなことは百も承知だったのでスルーされてしまったんだけどね。

 それはそれとして敵はケルベロスの攻撃を物ともしていない。
 聞いていない筈はないが傷を痛がる様子はなく、躊躇ない行動は実に不気味である。
『……っ! っ!』
 黒い鎧から暗黒の波動が放たれる。
 ただそれだけで空間が振動し、濁流の様なグラビティが溢れた!
「失せろ。迷惑をかけられるのはアレだけで十分だ。同じ姿で吠えるな」
 ファルゼンは箱竜のフレイヤ共々、力の奔流に立ち向かった。
 見れば他の仲間たちも次々にグラビティの嵐に飛び込んでいる。
「吶喊デース! レッツパーリィ!」
 シィカは大鎌を杖代わりに何とか立ち上がったが、フレイヤやリキ達は吹き飛んでいる。
 傷つきながらも後方から走っているのは、仲間を守ろうとしているからか、それとも攻撃の為か?
「こっちも協力するから一気にやろう」
「いーよー。みんなでがんばろー」
 朔耶は頭をかきながら面倒そうに果実を掲げ、ことほは徐々にエクトプラズムを集め始めた。
 二人の視線の先には、傷つくサーヴァントや仲間たちが居る。
 たったあれだけの攻撃で盾役たちを薙ぎ倒す一撃を、大急ぎで治療するためだ。
「やる気も起きねえほどお返ししてやれ!」
「ヘーイ!」
 泰地が全身の筋肉から絞り出すようにエネルギーを放つと、シィカは握り締めた大鎌をぶん投げた。
 掌底気味に放つ一撃と、クルクルと回転しながら飛ぶ刃が『門』を襲う!
「……っち。無反応かよ。覚える価値もねえってか? それとも、本当に記録もねえのか?」
 鬼人は刀を返して弧を描く斬撃を浴びせながら、時折に前に戦ったような所作……。
 踏み込みなど何度か使う動きをしてみた。
 技ならともかくそういった動きは何度か見るもので、相手の反応から記録などしていない事を理解した。
 それは無視されているようで不快でもあるが、記録していないという事は学習しないという事でもある。どうしたものかと『利用の仕方』に悩むのであった。
「むうう……ん! かあぁぁ!!」
 レーグルは両掌を合掌の様に合わせた後、ゆっくりと開きながらグラビティを集中。
 そして生じた力を己の意思と共に叩きつけるべく、手の平を諸共に突き出したのである。
「やはり火力は高いな。……あの馬鹿とどっちが先だったか、などは興味もない。その姿で迷惑をかけていること自体が不愉快だ!」
 ファルゼンの顔は無表情ながら、握り込む拳が怒りを示す。
 掌を開くと同時にグラビティによる爆発が敵の周囲を覆った。
「ど・れ・に・しようかな。っと。まあ、することは一つなんだけどね?」
 メロゥは無数のカードを宙に並べ、その内の一枚を無造作に表にした。
 すると氷でできた騎士が突撃を開始。
 その瞬間、メロゥは他の札を全て表にする。それらは全て同じカードだが、細かい衣装が違う。その差は何と聞かれれば気分の問題でしかない。
「そろそろまた来るけど大丈夫かい?」
 朔耶は前衛陣に光の加護を分け与えながら後方に尋ねてみる。
「大丈夫大丈夫。みんなーまた頑張れるよー」
 ことほはそう言いながら治療を続け、高速で飛び込んで来る敵に誰かのサーヴァントが切りつけられたのを目撃する。
 あーっとフレイヤーちゃん吹っ飛んだー!
 まあ連続で攻撃されなきゃ大丈夫だよね!

 それから暫く攻防が続く。
 最初のころは圧倒的な戦闘力に押し負けることもあったが、徐々に盛り返していった。
「先行し先攻し潜行し穿孔せよ。駆け抜けろ閃光。【センコウを我が手に】……失せろ!」
「ポテさん、やっちゃってください!」
 ファルゼンの拳が光となって敵を穿ち、朔耶の連れていたフクロウがその隙をついて敵の顔面にまとわりついた。
 かなりの傷を負わせているはずだが、敵は瞬時に反撃を行う。
「さぁさぁご注目あれ、今日も楽しい手品の時間だよ。お代は見てのお帰りだけれど――見たのなら、無事には帰れないかもね」
 メロゥは無数のカードの内、敵が確認した一番最初のカードを起動させた。
 パチンと指を弾けば、あら不思議! カードは消え失せて敵を内側から切り裂いて現れたのだ。
『っ!』
「やらせるか」
 接敵中に振るわれた剣より、真空の刃が前衛ではなく後方を目指す。
 だがファルゼンは拳でこれを防ぎ、カバーすることに成功した。
 我が身を盾に血を流しながら仲間を守る!
「んー。これなら大丈夫そーかな? あと少しみたいだし」
「なら最後の追い込みってとこか!」
 ことほは治療を始めるが泰地たちが既に攻撃を始めている。
 無反応だから判り難いが、敵はこれまでの攻防で深く傷ついているからだ。
 多少見立てが違ったとしても、泰地の手刀は空間すら歪ませる勢いであり敵の態勢を大きく崩していた。
「行け!」
 レーグルの放った鎖が四方に散った。
 気が付けば何もない空間を支点に敵を捕らえている。
「これにて御用デース!」
「悪いな。コイツで終わりだ!」
 シィカの棍が敵の体を地面とでも言うべき場所に押し付け、そこへ鬼人の振り下ろす刃がトドメを刺した。

 首を切り落としスプラッタかと思えば、カランという音も無く兜も中身も消え失せてしまう。
「お早い御帰りだ。ショー、楽しんでもらえたかな?」
 弔いの言葉であるかのようにメロゥが声をかける。
 楽しみでも驚きでも何でも良いのだが、ただ戦闘してただ無に変えるだけでは寂しいと思う。
「こいつ自身、どうなってるんだろうな? 殺しても、殺しても、死に続けて、蘇り続けるってのはよ。何を思って、戦うのか、聞いてみたい所だ」
 終わりがない生き方というのは地獄と変わりないではないかと鬼人は思う。
「改めて思うけど… エインヘリアルも変っ!」
「勘弁してくれ。アレが変なだけだ。まあ私が言う言葉でもないが」
 朔耶の感想にファルゼンはため息交じりに返す。
 友人の外聞など今更であるが、それでも似ているというだけで悪化すると思えば何か言いたく。
「修復は要らないとして後は戻るだけ?」
「その前に楽しく気力の回復デース」
 朔耶が周囲を見渡すが何か壊れた様子もない、シィカは何を調べたわけでもなくウンウンと頷いてギターを奏で始めた。
「連戦となる前にさぁ帰ろう!」
「気づかれたら困るし、寄り道しないでまっすぐ帰るよー」
 メロゥが声をかけると、ことほも治療を済ませて帰還を始める。
「無事にお渡って報告しねえとな。入れ違いもあっただろうし、あと数回ってくらいまで減ってりゃいいんだが」
「その辺りは他の仲間に期待だな。居なければ我々で始末すれば良い話だ」
 泰地の希望にレーグルは肩をすくめて、溜息ではなく火の粉と主に戦意を新たにするのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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