巨大な鉄球を振り回す者

作者:塩田多弾砲

 そこは、都市部から離れた山間部。人家は近くには無く、工場やコンクリの建物が残された、ほぼ廃村と呼ぶにふさわしい場所。
 そこに、いわゆる『モンケン』または『フンドウ』と呼称される、巨大な鉄球が数個、鎮座していた。
 そして、その近くには。錆びついて朽ち果てつつある巨大なクレーン車が。
 屋外に放置され、そのまま錆の塊になりつつあるそれに、小さな機械の虫が潜り込むのを、誰も見ていなかった。
 数刻後。
「……近野先輩と遠藤さんの言っていた、デパートの子会社……とは関係ないようですね。央真先輩」
 スーツを着た、まだ新人らしき女性が、
「ん、どうやらそのようだね、端野くん」
 先輩と呼んだ男性とともに、そのスクラップが放置されている場所にやって来た。
「しっかし、先代から引き継いだ土地を放置してガラクタ置き場にって、もったいないにもほどがあるっつの。端野くんもそう思うっしょ?」
「まあ、今からでもこのクレーン車や重機を解体するなりして始末して、更地にすれば良いことですし……え?」
 端野は、彼女は『それ』を見て、思わず声をあげた。
 クレーンが『腕』のように動き、ウインチを伸ばしたのだ。
 先端のフックを飛ばして、巨大な鉄塊……『モンケン』に引っかけると、
『モモモモ……モンケーン!』
 立ち上がった。
「なっ……なんだこれ!」
 央真は予想外の、その巨人の姿に驚愕した。それはまるで、片腕の巨人。
 身長5m程度の、細長い右腕と、ずんぐりした履帯の下半身、頭部をめり込ませた胴体を持つ、歪な巨人の姿をしていた。
 その右腕は細長く、モンケン……鉄球を接続している。
『モン……ケェェェェンッ!』
 そいつは鉄球を右腕に吊り下げながら、上半身を回転させはじめた。
「……先輩、何かヤバいです! 逃げ」
 端野はそれ以上、言えなかった。巨人が弾き飛ばした、鉄球の直撃を受けたのだ。
 それは、端野に直撃し、鉄球ごと遠くへと弾き飛ばしてしまった。
「あ、あああ……」
 恐怖に捕らわれた央真は、
 新たな鉄球を装着した巨人から逃げようとしたが、できなかった。
 鉄塊の直撃により血の染みと化した央真を無視すると、巨人は、
 新たな犠牲者を求め、移動し始めた。

「みなさん、重機シリーズのお次のラインナップ……ってな感じのダモクレスが出たッス! 杭打機の次は、破砕用鉄球のダモクレスッス!」
 ダンテが言う『杭打機』は、燈家・陽葉(光響射て・e02459)たちにより破壊された。
 そして、今回は、『工事の破砕用鉄球』のダモクレス、との事だ。本来は、クレーンに巨大な鉄塊の球を吊り下げ、それを叩き付けて建造物を破壊するための重機だが、
「っても、最近じゃあ、こんな鉄球を用いる解体はしないそうッスが」
 ダンテの言う通り、昨今での建築物解体作業は、丁寧な分別解体および、適正処分が定められている。
 そも『モンケン』とは本来、杭を打つためやぐらを組み降下させる打撃ハンマーや、振動を用い地面に打ち込む杭打機、ないしはその重りを呼称していた。
 が、この鉄球を用いる打撃の解体は扱いが難しく、現在では行われていない。……わずかに、農村や人家が近くに無い場所、山間部などでは少数ながら使われている様子だが。
 現場は、国道からも離れ、交通の便も悪く、更には限界集落と言っても過言でない状況の村の、屋外の広場。それでも村長は会社の重機の置き場所として、モンケンが十数個とクレーンを含めたさび付いた重機を数台、この屋外に置いて保管していた。
 そのうち、村長が亡くなり、会社も潰れ、この場は忘れられた。重機と鉄塊は放棄されて放置。現在に至る。
「で、このダモクレス。モンスターとモンケンとを合わせ、『モンケスター』と呼ぶッスが、こいつはクレーン車が素体ッス。攻撃方法は『鉄球を掴み、それを叩き付けたり投げつけたりする』ってもんスが……単純ゆえに、かなりきっついッスよ」
 胴体の素体はクレーン。腕は右腕のみで、手首のウインチにモンケンを引っかけて、鉄球として叩き付けるというシンプルかつ単純な攻撃を行う。
 モンケンは、振り回して相手を弾き飛ばしたり、投げつけて遠方の目標へ叩き付ける事も可能。しかも放置されたモンケンは十数個あるので、戦うのには困らない。恐らくは、参加したケルベロスを全員二階ずつ圧殺しても、おつりがくるほどの量はある。
 幸いと言うべきか、モンケン以外の鉄塊や、それに準ずる質量・重量の物体。……岩の塊や放置された自動車や重機などの残骸……は、周囲には見られない。
 モンケンが無ければ、あるいはモンケンを掴むクレーンの『腕』を破壊すれば、こちらにも勝ち目はあるかもしれない。
「……とはいうものの、ここに放置されてるモンケンはただの金属塊とはいえ……600キロから1トンはあるものばかりッス」
 物理に疎くとも、そんな金属塊に勢いを付けて迫ってきたら。グラビティを用いたところで、破壊も、防御も、ほぼ不可能なくらいの困難さを伴うだろう。
 クレーン自体も、細くはあってもかなり頑丈。ダモクレス化したために、その頑丈さが強化されてもいるらしい。
「……要は、めっさ苦戦するっつー事ッス」
 しかし、苦戦は今まで何度も潜り抜けて来たし、それを勝ち抜いても来た。
 ならば、今回も勝ち抜くだけの事。そもそもただ鉄の塊を振り回すしか能のないスクラップごときが、地獄の番犬ケルベロスの名を冠する者たちに対抗するなど、身の程知らず以外の何物でもない。
「なわけで、みなさん。このダモクレス『モンケスター』の討伐、思ったより苦戦するかもッスが、もし引き受けるんなら……」
 言うまでもない、君たちは引き受けると答えると、詳細を聞き始めた。


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
マリン・アルセラス(地球人の巫術士・e86034)
 

■リプレイ

●鋼鉄の死体
 そこには、周囲には人の気配がなかった。工場や人家、舗装道路はあるものの、雑草が多く生え、整備されていない。
 あちこちには、放置され朽ち果てつつある、自動車やトラクターなどが。それらは何かの死体のようだと、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は感じていた。
「……のどかな田舎だけど……良いところ、って感じじゃないなあ」
 周囲は正に、『廃墟』へ変化し、さほど時間が経過していない。そんな印象を与える。
「……自動車などの『残骸』や、これから戦うことになる『重機』だけでなく、この村、この地域自体が、『時代に取り残されている』感ありますね」
『自分は違う』と、ステイン・カツオ(砕拳・e04948)は心中で付け加えた。とはいえ、この周辺は時代に取り残されていた事は事実らしい。
 ダモクレスの素体となったクレーン車、ないしはそれを置いていた村長は、土木会社の社長でもあった。が、会社経営の手腕はあまり良いとは言えず、結局倒産させてしまった。
 そのまま、孤独のうちに亡くなり、重機も放置。鉄塊も放置。現在に至る。
「……話に聞いていたとおりだけど、良く窃盗団に盗まれずに済んだわね」
 獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)もまた、思わずつぶやく。元婦警の彼女は、思い出していた。屋外に放置された機械や資材の金属を盗み、それを転売しようとする窃盗犯の事を。
 とはいえ、モンケンは運ぶのはおろか、積み込む事すら大変な代物。放置されるのもある意味当然か。
 そして、
「……近野先輩と遠藤さんの言っていた、デパートの子会社……とは関係ないようですね。央真先輩」
「ん、どうやらそのようだね、端野くん」
 端野と央真の二人を、ケルベロスは発見していた。

「ケルベロス? あなたたちが?」
「ハイ! すぐに逃げて下サイ!」
 パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)と、
「でないと、大変な事になります」
 マリン・アルセラス(地球人の巫術士・e86034)とが、焦りつつ避難を誘った。
「まあ、そうおっしゃるなら、従いますが。で、どちらに逃げれば?」
 央真が、『そっちがそう言うんなら、従いますよ』という態度を隠すことなく従った。
「!? 央真さん!」
 が、
 時すでに遅し。端野の態度が、それを物語っていた。
 目前の、完全に朽ち果てたとしか思えぬ巨大なクレーンの残骸が、
 再び命を宿したかのように、動き出したのだ。

●蘇る巨体
 それはまるで、ホラー映画などでよくある『生ける屍が、目を覚まし立ち上がる』様を思い出させた。
 鋼鉄の死体が立ち上がると……片方しかない腕を振り上げた。既にその手には、鉄塊……モンケンをひっかけ、握っている。
『モモモモモ……モンケーン!』
「くっ、動きだす前に避難と思ったけど!」
「少しばかり、遅かったかっ!」
 銀子とステインが、同時に身構える。
 銀子は前に進み出て、マリンと並び立つ。パトリシアと陽葉は後ろに下がり、ステインは……央真と端野に駆け寄った。
「え? え?」
「な、なんですかっ!?」
(「……ちっ!」)
(「ああもう、面倒ですねっ!」)
 驚愕と恐怖に、動けない二人。そんな彼らに『モンケスター』の振るったモンケンが……迫って来た。
 しかし、ケルベロスは動ける。そして『モンケスター』と、そのモンケンの射線上に最も近いのは、ステイン。
(「間に合いそうに……『無い』ですッ! この距離、この状況で、ダメージ喰らわずに二人を庇うなど不可能! 向こう見ずな馬鹿以外、助けになど入れないですねッ!」)
 一瞬の逡巡の後、ステインは、
「……そして自分は、救いようのない馬鹿でやがりますよ!」
 二人に突っ込んだ。央真と端野、二人の男女を突き飛ばし、モンケンの射線から外し……、
「!!」
 鉄塊が、彼女を『掠った』。その衝撃はステインを吹っ飛ばし……、現場からやや遠くに建つ、崩れかけた壁に叩き付けた。
「なっ……」
 マリンは言葉を失い、
「なんデスカ! こいつのパワー!」
 パトリシアは驚愕し、
「……なんて、奴!」
 陽葉は必死に冷静さを保ち、
「……避難誘導をしたかったけど、その余裕は無さそうです。お二人とも、急いで逃げて!」
 銀子はかえって冷静になり、二人に指示した。
『モン……ケェン……』
 そして、目前の怪物は。
 ダモクレス化して生じた頭部を、その顔を、ケルベロスらへと向けた。
 それはまるで、嘲笑っているかのようにも見えた。

●暴虐の鉄塊
『モンケスター』が、不様な短めの足で歩き出した。
 一般人二人はなんとか離れた様子。あとは目前のコイツを倒すのみ。
 しかし、それが一番難しい。マリンはフェイントで注意を引くも、『モンケスター』を目前にすると、委縮してしまう自分も自覚していた。
「大丈夫よ! 一人じゃない!」
 銀子がそんなマリンを見て、前に踏み込む。全身防御を己に施し、組み付かんとする彼女に対し、
『モン……ケーン!』
『モンケスター』の剛腕が襲い掛かった。縦に振りかぶり、地面に叩き付けてくる。
「くっ!」
 すんでのところでそれを交わす二人だが、地面からの榴弾、土埃や砕かれた石の欠片、そして叩き付けられ砕けたモンケンの欠片が襲う。それらが皮膚に食い込む細かな痛みに、銀子は顔をしかめた。
「……持ち替えた?」
 すぐに近くの、別のモンケンを手に取る『モンケスター』。その僅かな隙を見逃さず、陽葉はパトリシアへとメタリックバーストをかけた。
「……Obrigado(ありがとう)! それじゃ、イキマス!」
 即座にパトリシアが、駆け出す。今現在、注意は前衛の銀子とマリンへと向けられている。すなわち、今こそ攻撃の好機!
「……48arts、No49!」
 己が全身を、グラビティの念動力により、意のままに動かす。跳躍し、『モンケスター』の右腕、その関節部へ、
「ミサイルヒット! Atirar e destruir(撃つ、そして破壊する)!」
『ミサイルヒット・PM』。己の限界を超えて、パトリシアは攻撃し、打撃を放ち、直撃させた!
 ダメージは通った。それを直感的に悟ったパトリシア、そして陽葉だったが。
(「……ダメ!」)
(「なんて、硬い……ッ!」)
 同時に、そいつの『硬さ』も実感させられた。
 そして、続いて自分たちに注意が向いた事も知った。
「……え?」
 銀子が組み付いて、注意を引こうとしたが。
 できなかった。『モンケスター』は腕を広げ、胴体を回転させたからだ。
 周囲の建物が薙ぎ払われ、鉄塊の重量と質量の前に叩き付けられ、壊され、木っ端微塵にさせられていく。
「だめ! 近づけない!」
 銀子はすぐに、『モンケスター』の回転する腕から距離を取った。マリンもそれに従う。
 単純だ。単純な質量攻撃に過ぎないが、単純ゆえに強く、手強く、対処するのが難しい。
 そして、『モンケスター』は更なる単純な攻撃を繰り出した。
 モンケンを、投げつけたのだ。それは……パトリシアへと向かってくる。
「オタスケー!!」
 ……などと、軽口をたたく余裕はなかった。先刻のステイン同様に、かろうじて直撃はしなかったが、
 モンケンは近くの電柱にぶち当たり、それを根元から折ると。そのままパトリシア……の隣にいた、陽葉に向けて倒れたのだ。
「……ああっ!」
 巨大な棍棒で殴られたような打撃が、彼女を襲った。
「シッカリ! 傷は浅いヨ!」
 電柱をどけたパトリシアは、魔人降臨で治癒する。
「このっ……滅びよ!」
 モンケンを投げ終え、回転を止めた『モンケスター』に。マリンは『達人の一撃』を放つ。簒奪者の鎌が、先刻にパトリシアが攻撃した部位へ、腕の関節部へ正確にヒットするが、
 やはり、まだ破壊には至らない。そして、また近くのモンケンを掴むと、
『モン、ケーン!』
『モンケスター』は前進した。
「本当に、頑丈……! どうすれば、あの『腕』を破壊できる?」
 悩む銀子に、『モンケスター』が迫りくる。
 そいつは再び、胴体を回転させ振り回し始めた。『腕』の耐久力は、まだ十分にある様子。このままでは、こちらが消耗するだけで終わってしまう。
『モン、ケーン!』
 鉄球が、再び投擲された。距離を取っていた銀子にそれは迫ってきたが、パルクールを彷彿とさせる動きで、銀子はそれを回避する。
「……ふっ、やるじゃあ、ないの!」
 怖い。
 怖いのに……内心では、この怖さを楽しみ、悦んでいる。そんな自分を銀子は発見していた。
 だが、戦いである以上、脅威である以上、この悦びは終わらせる必要がある。その終わらせ方を、どうするか。
「……苦戦してる、ようですね」
 いきなりの『声』が、銀子の思考を中断させた。
「……ステインさん? 大丈夫なの?」
 彼女の割り込みヴォイスが、銀子へ返答する。
「あまり大丈夫じゃないですが、大丈夫ですよ。それより……」
 皆さんで、やつの気を引いて下さい。一か八か、試してみたい『策』があります。
 マリン、パトリシア、陽葉にも、その言葉は伝わっていた。

●鉄獣の損壊
『モンケスター』が、新たなモンケンを手にした。今度のそれは、表面に『1t』と刻まれている。
 今までの600~900kgの鉄塊ですら、恐ろしい威力だったのだ。ましてやそれ以上の重量を持つ鉄球で叩き付けられたら……。
 そこから先を考える事を、マリンはやめた。自分にとって初めての戦い、それを……失敗するという予想を立てたくはない。
「マリンさん、行くわよ!」
「ええ!」
 銀子とともに、マリンは駆け出した。
 そして、二人して『モンケスター』の周囲を走り回り、その注意を引く。
『モンケスター』は二人に対し、迎撃するかのように腕を振り回すと、モンケンを周囲の建物に叩き付けた。さながらまとわりつく虫を追い払う様に。
「もうイッチョ! ミサイルヒット!」
 その隙に後方から、パトリシアが再び『ミサイルヒット・PM』を、
「狙い、断つ!」
 そして陽葉が、それに続き『破・残風止水』を、怪物の『腕』目掛けて解き放った。
 命中するも、やはり……『破壊』にまでは至らない。
 やがて、焦れたかのように『モンケスター』は、
 その身体を回転させ始めた。
「……!」
 その途端、側面に待機していたステインが、
 側面から、回転する腕の内部へ入り込んだ。
 1tの鉄塊を持ち、それを振り回す『腕』。
 勢いとともに迫る『腕』、その関節部、今までにパトリシア、マリン、陽葉、そして銀子がダメージを与えたその『部位』に、ステインは、
「……ぶち抜けろ! あほんだらぁぁぁッ!」
 オイルよりもどす黒い悪意を込めた、右ストレートの拳を、その場所に叩き付けた。
『パイルバンカー』、肉体の鉄拳と、鉄球を持つ機会の鉄腕との激突。
「ぐっ……わぁぁぁぁッ!」
 ステインは拳に、砕けるかのような激痛を叩きこまれた。自分の手首がへし折れ、手の骨が砕けた事を……悟った。
 そして、『ベギィ!』という、破壊音も響き渡った。
「ステインさん!」
 マリンは叫んだが、
「……痛い、けど……無駄ではなかったようですね! こん畜生がッ!」
 激痛とともにステインが、歪んだ笑みを浮かべているのを見た。
『モンケスター』の右腕が、完全に折れて、破壊されていたのだ。
 先刻の『ベギィ!』という破壊音は、ダモクレスの腕がブチ折れ、吹き飛んだ時の音。その事を、マリンは、そして銀子と陽葉、パトリシアは理解した。
『モン……ケェン!』
 唯一理解できていないかのように、『モンケスター』は戸惑うように声を上げていた。
「『こっちが攻撃したのに、なぜダメージを食らった?』って、疑問を感じてやがりますか? 簡単に言えば、ボクシングの『クロスカウンター』と同じ理屈ですよこの野郎!」
 地面に転がり、己の拳を押さえつつ……ステインは歪んだ顔で『モンケスター』を嘲笑った。
「……1tの鉄球を持って、腕を叩き付けてくるんです。その勢いのところに、こっちも全力でぶん殴ったら……」
『相手の勢い』と、『こちらの勢い』。ダメージも二倍になると言うもの。
 加えて、今まで部位狙いで攻撃し、ダメージも蓄積していたところに、ステインの拳が叩き込まれたら。ただで済むわけがない。
「ステインさん、あとは任せて!」
 攻撃の手段が無くなった『モンケスター』に、銀子が突撃した。
「獅子の力をこの身に宿し……」
 全身に紋を刻み、
「……以下略! さあ、ぶっ飛べ!『術紋・獅子心重撃(ジュモン・レオンハートインパクト)』ッ!」
 己の肉弾のラッシュを解き放った。
 胴体部の外装が吹っ飛ぶが、『モンケスター』はまだ倒れない。
「これならどうっ!『イカルガストライク』ッ!」
 陽葉が続けざまに、氷を纏わせた『要綱の一閃』……パイルバンカーの強烈な一撃を食らわせる。
 上半身が吹き飛んだが、まだ倒れない。
「……滅びよ!」
 マリンの、簒奪者の鎌によるグラビティブレイクが決まると……、
『モンケスター』は倒れ、そして、
 その動きを止めた。
「……どうやら、ジ・エンドのようデスネ」
 パトリシアが安堵とともに、嘆息する。
 そして、ひりついた戦いの空気が断ち消えていくのを、皆は実感していった。

●終焉の瓦解
 陽葉のメタリックバーストが、ステインの砕けた拳を治癒していく。
「大丈夫?」
「ええ。このくそったれ重機の腕をブチ折れたんですから、これくらいの痛みなんか平気の平左ってやつですよ」
 ステインは笑顔を浮かべたが、陽葉の目には無理して浮かべた笑顔のようにも見えた。
「……終わった、んですか?」
「……すごい音がしましたが……大変だったようですね」
 央真と端野が、戻ってくる。
「ええ、ダモクレスは破壊しました。普通だったら、この状況をヒールするのですが……」
「ああ、その必要はないですよ」と、央真が銀子へと告げた。
「私達の仕事は、現状がどうなっているかの調査ですが。ここは遅かれ早かれ、更地にする予定でしたからね」
 聞くと、ここは持ち主不在になったため、市の所有となり、公的機関から不動産業や土地関連の企業に対し競売にかけるらしい。
「残念と言えば、怪物になったこの重機を回収できなかった事くらいです。放置され破損してても、日本の古い重機は海外で良く売れるんですよ。ともあれ……」
 二人は銀子と、他のケルベロス達へ向き直ると、
「……皆さんは私達だけでなく、これからここに来るだろう人々も救ってくださったんです。皆さんのおかげで、新たにこの土地に来る人々も……これからは平和に暮らせるでしょう。改めて……」
 ありがとうございました。
 礼を述べるとともに、二人は頭を下げた。
「……ま、この地にも。新たな風が吹いてくれる事を願いたいですね」
 ステインは周囲の景色を眺めつつ、そして今後の展望を願いつつ、思わずそんな事を呟くのだった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年11月7日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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