パッチワーク最終決戦~魔女たちの終宴

作者:波多蜜花

●魔女の宴、その前に
 大阪市街のとあるイベント会場、そこは他の街と同じようにハロウィンを目の前にして、市民たちが楽しそうにパーティの準備を行っていた。
「そっちの準備はどないなっとるんや?」
「もう少し人手を回してくれへんか!」
「こっちの準備が終ったらそっちに回すよって」
 大阪の市民たちはこの地でケルベロスハロウィンを行うこととなり、夏に東京で行われたケルベロス大運動会が大成功だったことを受け、東京に負けてなるものかと大盛り上がりなのだ。
 ハロウィンの魔力を狙い、デウスエクスの襲撃はあるかもしれないが――ケルベロス達がいれば大丈夫だと信じてのこと。
 それよりも、戦いに勝利して帰還するケルベロス達に楽しんでもらえるパーティにすることが、この大阪を活気付かせることに繋がると皆が楽しんで準備を進めていた。
 けれど、その幸せを壊そうとするのがデウスエクス。再建中の大阪城からユグドラシルの根が現れ、パッチワークの魔女達に率いられた――ユグドラシルの力で量産された白の魔女エーテルの軍勢がハロウィンの準備に湧き上がる大阪市街へと侵攻を開始した。

●ヘリポートにて
 十月のイベントと言えばハロウィン、それはケルベロス達も例に漏れずでヘリポートもハロウィンの空気を感じてか、どこか浮足立っているように思えた。
「今年のケルベロスハロウィンは大阪で開催されることに決まったんやって!」
 ぱっと輝くような笑みを浮かべて、信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)がヘリポートに集まったケルベロス達に向けて告げた。
 けれど、すぐに表情を引き締めて、言葉を続ける。
「なんやけどな、これを狙ってパッチワークの魔女の首魁である『最後の魔女・ドロシー』が大阪城に舞い戻ってくるんよ」
 ユグドラシルの根と共に大阪城へと戻ったドロシーは残された全戦力を以てしてケルベロスハロウィンを襲撃するだろう、ハロウィンの魔力を求めて。
「ドリームイーターの残党でもあるパッチワークの魔女は、かなり追い詰められとるんよ。大阪地下の潜入作戦でも把握した通り、魔女の残りは少ないよってな」
 この魔女たちの作戦を阻止することが出来れば、勢力として壊滅状態になるといって間違いないだろう。
「せやよってな、皆には大阪城から出撃してくるドリームイーターの軍勢と、パッチワークの幹部、それから大阪城の中で季節の魔法を集める儀式を行っている最後の魔女ドロシーを倒して欲しいんや」
 阻止しなければ、ケルベロスハロウィンが台無しになるだけでなく、復興しようとしている大阪も大きな痛手を負うだろう。
「パッチワークの幹部は四人、番外の魔女・サーベラス、第七の魔女・グレーテル、オズの魔法使い……そしてうちらが担当する第四の魔女・エリュマントスや」
 彼女達が率いるのはユグドラシルの力で量産された白の魔女エーテル、その数はかなりのものだ。
 量産された魔女の正体は『コギトエルゴスムにユグドラシルの根のエネルギーを与え、ハロウィンの魔力を奪う事に最適化したドリームイーターとして復活させた』もの。コギトエルゴスム化する前のドリームイーターの個性などは全て消し、この作戦を行う為だけに調整された魔女だ。
「まずはこの白の魔女エーテル、この魔女たちはハロウィンの魔力を奪うことはできるんやけど、その分戦闘能力は高くないんや。今の皆やったら敵にはならんと思うんよ」
 けれど数が多く、各方面に百体以上配置されている白の魔女とまともに戦えば負けることはなくとも消耗するのは必須だ。
「白の魔女を突破したあとには、第四の魔女・エリュマントスとの戦闘になるやろな」
 そして、エリュマントスを突破した先に、大阪城で季節の魔法の儀式をしている最後の魔女ドロシーがいるのだ。
「白の魔女を突破し、パッチワークの魔女を倒し、最後の魔女を倒す……ちょっと難しいんちゃうかって思うやろ? そこで……ってわけとちゃうんやけど、この作戦に先立って東京焦土地帯のブレイザブリクに死神からメッセージが届いてな」
 ドリームイーターの残党が季節の魔法を狙って動き出している、それを阻止し季節の魔法を奪われないようにするために我々も軍勢を派遣する、と。
「死神が言うにはな、うちらが倒し損ねて市街に抜けてくる白の魔女を倒す予定で進軍を考えてるらしいわ」
 それから、死神が倒した白の魔女達が得ていたハロウィンの魔力は回収するが、それ以上を行うつもりはない、とも。
「死神の方からケルベロスに手を出すつもりはあらへんけど、戦闘を挑まれれば応戦は止む無し……やって」
 死神を利用し、確実にパッチワークの魔女と最後の魔女を倒すか、死神を信用せずケルベロスのみで戦うか、死神を敵に回して戦うか――。
 どれを選んだとしても、一長一短はある。選ぶのはケルベロスである君達次第。
「どの道を選んでも、皆やったら何とかなるって信じとるよって……皆のハロウィンを取り戻す為にも頑張ってきてな!」
 どうか迷いを捨て、魔女たちの宴に終焉を――。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558)
アンジェリカ・ディマンシュ(清廉なる魔弾使いの令嬢・e86610)

■リプレイ

●開宴
 ケルベロス、魔女、死神――数々の思惑が入り乱れる今回の作戦であったが、エリュマントスを担当する四チームの意見は綺麗に纏まっていた。
 ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)が言う所の、双方に喧嘩売って三つ巴とかクッソ面倒くせェ。死神連中を相手にしなくていいんならぶん投げて利用してやろうぜ! で、ある。
 勿論、死神を利用することのデメリットはあるかもしれないが、それを差し引いても今魔女達を殲滅するというメリットは大きい。この時期に魔女が動くのは季節の魔力を集める為、それを阻止するのはケルベロスの役目だ。
「死神のこととか、不安はあるけれども……ハロウィンを楽しむ為にも、パパッと片付けちゃいましょ♪」
 七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)がヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558)を見上げて言うと、ヴァルカンが大きく頷く。
「頑張ったら、ハロウィンにはとびきり甘いものを頂戴ね。じゃないと、すごいイタズラしちゃうわよ?」
「ふむ……精一杯応えるとしよう」
 すごいイタズラにも興味はあるが、愛しい妻が張り切っているならば夫としては応えねばなるまいと、ヴァルカンが小さく笑った。
「琴ちゃん、琴ちゃんと一緒ってだけで、こんなに心強い……背中、預けるからねっ!」
 幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)の手を握り、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)が微笑む。
「私もです、ハロウィン、守らなければですね」
 繋いだ手をしっかりと握り返し、鳳琴がゴッドサイト・デバイスを使用する。敵と味方の大まかな把握の為だ。
「命を大事に……大事に」
「大丈夫ですか、アンジェリカさん」
 ケルベロスとして、初めての作戦の前に緊張を見せるアンジェリカ・ディマンシュ(清廉なる魔弾使いの令嬢・e86610)に向かって、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が声を掛ける。
「え、ええ! わたくしにできる精一杯でご一緒致しますわ!」
「おーおー、頼もしいこった! ま、俺らができるだけサポートすっから安心して攻撃に専念しとけ」
 ぽん、と背中を叩いてアンジェリカの緊張を解くようにジョーイも言葉を重ねれば、アンジェリカの身体から余計な力が抜ける。深呼吸をして、彼女もゴッドサイト・デバイスを使用した。
「大まかな位置はわかりました」
「ええ、間違いないと思いますわ」
 エリュマントスと思われる敵の位置、そして他チームとの連携。
 チーム全員が顔を見合わせ、魔女の企みを阻止する為に第四の魔女の元へ駆けた。

●魔女の意地
 四チームが一気にエリュマントスの元へ駆け付け、攻める姿勢を見せた瞬間に魔女エリュマントスが叫んだ。
「こんなの勝てるわけないじゃない!」
 信じらんない、あたし一人なのに! そんな響きも含んでいたかもしれない。白の魔女で時間が稼げると思っていたのに――羽豚を飛び回らせ、瞬時に彼女が叩き出した行動は、逃走であった。
 逃げたぞ! 誰かが叫ぶ。その声を聞きながら、逃げるに決まってるじゃないとエリュマントスは思う。それに、逃げた分時間が稼げるはずだ、とも。だが、みすみすとケルベロス達が魔女を逃がすはずもなく、四チームは一瞬の間で顔を見合わると、逃げた魔女を追う為にデバイスを駆使し、行動を開始した。
 まず最初に逃げる魔女を捉えたのはライ・ハマトで、続いて彼女のチームメンバーが攻撃を仕掛けていく。それでも逃げる魔女をローレライ・ウィッシュスター達が迎えるが、羽豚を召喚して目くらましにして逃げ出す。
 時間を、とにかく時間を……! そう考えるエリュマントスの前に、今度はイッパイアッテナとミミックのザラキが立ち塞がった。
「もう! しつこい!」
「今日はお供にブリキとカカシを連れていないのですか」
 意外そうな顔をしたイッパイアッテナが今回こそは大阪城地下で倒し損ねた魔女を倒す! とザラキのエクトプラズムで具現化した戦斧にルーンの力を乗せて力一杯振り下ろすと、その動きを邪魔せぬよう、ザラキが魔女に喰らい付いた。
「悪いわね、ハロウィンを楽しみにしている人達の為にも逃がすわけにはいかないの!」
「その通りです!」
 シルが背に一対の青白い翼状になった魔力を展開し、魔女に向かって六芒増幅を使用した精霊収束砲を放つと、鳳琴がすかさず竜の力持つ大槌を変形させ、砲弾を撃ち込む。
「えーっと、なるはやだっけ? それでお前さんを片付けんぞ!」
 続くジョーイが地面に少し歪な守護星座を描いて、自分を含む前に立つ仲間へ守護を送った。
「ほんと、やってらんないったら! お行き!」
 エリュマントスが苛立ったように羽豚をアンジェリカに向かって突進させるが、それを許すジョーイではない。しっかりと間に立ってそれを阻むと、即座にさくらが前衛に向かってヒールドローンを飛ばし、重ねるようにヴァルカンが煌く粒子を放ち感覚を研ぎ澄まさせる。その流れるような仲間の動きに圧倒されつつも、アンジェリカが詠唱を紡いだ。
「冥界から鳴り響くは黄金の旋律、旋律から形を成すは魔導の武装、武装から放たれるは正義の執行」
 紡ぐ声が黄金の光となり、音響魔方陣を作り出す。その中央にそっと指先を伸ばせば、黄金の魔弾がエリュマントスを襲った。
 精度の上がった一撃をイッパイアッテナが落とし、ザラキが真似するように作り出した武器で攻撃すると、シルが電光石火の蹴りを叩き込み鳳琴が極限まで集中させた力をエリュマントスに向かって爆破させた。
 怯んだその隙を突き、ジョーイが鋭い一撃を放つと、エリュマントスがステッキを扱うように鎌をくるりと回す。
「眠れ!」
 後衛に向かって放たれた言葉はモザイクと共に鳳琴とアンジェリカを襲う。二人が受けた傷と、失い掛けた意識を覚醒させるようにさくらが星翼を広げた。
 それは二人を優しく包み込み、傷を癒す。オーラに重ねるように、ヴァルカンが光の粒子を後衛へと放出し感覚を引き上げる。その感覚のままに、アンジェリカが視認できぬ速度で弾丸を撃ち込んだ。
「もう!」
 ケルベロス達の攻撃を受けながらエリュマントスが逃げ道を探り、羽豚を飛ばす。そして一瞬の隙を突いて、ケルベロス達を振り切った。
「逃げましたのね、でもその先には――」
 アンジェリカがデバイスの力で魔女が逃げる先に仲間がいることを覚る。
 そしてそれは正しく、残る一班がエリュマントスを全力で討ち取ったのであった。

●最後の魔女
 第四の魔女を撃破した後、最後の魔女ドロシーを倒す為ジェットパック・デバイスを使用した彼らは立ち上った光の柱へと向かう。
「います、最後の魔女……ドロシー!」
 デバイスの力で仲間をビームによって牽引していた結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が確信を持った口調で言った。
 その言葉により、四チーム全員が光りの柱を囲むようにして、中央部分にいるドロシーへと迫る。
「そう……他の魔女は皆倒されてしまったのね」
 想定していたよりも早いケルベロス達の到着に、最後の魔女ドロシーが儀式の手を止めて笑う。
「この作戦は失敗ね」
「ドロシー、最後の魔女……あなた達の目的は何だ」
 レオナルドの問い掛けに、ドロシーが唇の片端を持ち上げて答える。
「そう、お前たちは何も知らないのね」
 最後を覚悟したドロシーが語るそれは、赤ずきん可愛さに正気を失ってしまったポンペリポッサが魔女の力を死神に譲渡してしまったこと、それにより季節の魔力を死神が得て邪魔になる魔女を滅ぼすであろう事――。
「だから私たちはハロウィンの魔力を使い、死神に奪われた魔女の力を全て取り戻し……生き延びること、それこそが」
 今回の作戦であったのだと、ドロシーの口から詳らかにされる。
「けれど、それもお前たちのせいでお終いね」
 その責は、取ってもらうわ。
 そう、魔女が嗤った。
 瞬間、吹き荒れるのはドロシーのモザイクの波紋。それは前に立つケルベロス達へと襲い掛かり、吹き荒れた。
「く……っ」
 強い眩暈にも似た感覚に、イッパイアッテナがグラビティの力を籠めた刃を大地に突き刺す。
「大地の力を今ここに――顕れ出でよ!」
 疑似的に龍穴の次元と繋げ、共鳴させることにより大地に眠る清浄なる力が呼び覚まされる。それは仲間の傷を癒すと共に、思考をクリアにさせた。清浄な空気の中、ザラキが主を守るようにドロシーに噛み付く。
「あなた達の目的は分かったけれど、魔女の力を取り戻したところで悪さをするなら変わらないわ!」
 疾風の如き速さの蹴りをシルが叩き込み、鳳琴がそれに頷くと竜の力が猛る一撃を撃つ。
「これで睡眠にゃ多少の抵抗もできるだろ!」
 二人の隙の無い連携に続き、ジョーイが前衛に向けて守護星座を描いた。
「これ以上、魔女による犠牲は出させない!」
 魔女と戦うことを想定して作り上げた、加護の施された大槌――魔女狩りの鉄槌に竜の力を乗せ、レオナルドが重い一撃を叩き込む。
「わたしが皆を守ってみせるから……見ててね、ヴァルカンさん!」
 誰一人落とさせない、そんな強い気持ちをさくらがヒールドローンへと乗せて前衛に向けて飛ばす。
「無論だ、俺も君に恥じぬよう戦おう」
 ヴァルカンが頷き、さくらのヒールドローンが向かった先に重ねて感覚を覚醒させる煌めく粒子を放った。
「冥界に響く黄金の旋律を甘受なさいませ!」
 アンジェリカが洗礼たれ我が金色に染まる冥界魔装の旋律よ(オルクス・オブ・オラシオン)を撃ち出すと、ドロシーが右手のブリキが手にした鍵杖をシルに向かって振るう。それは炎を纏い彼女へと襲い掛かった。
「シルさん!」
 シルの聞き慣れた声と姿が両肩のショルダーシールドを展開して彼女を庇う。
「リビィさん!」
 その声に笑顔を向け、ヴァルキュリアの乙女が盾としてシルを守り切る。その動きに見事、と呟いたイッパイアッテナがザラキと共にドロシーにすかさず攻撃を仕掛けると、シルと鳳琴が息の合った動きで砲弾と爆破を同時に展開してみせる。
「さすがシルさん」
「琴ちゃんが合わせてくれるお陰よ」
 言葉の端々に滲み出る信頼に互いが頬を緩ませ、すぐに表情を引き締めて仲間の動きを阻害しないように動くとジョーイがその横からドロシーへ弾丸のような攻撃を浴びせた。
 続くレオナルドが地獄の炎で練り上げた炎弾を放ち、さくらがドロシーへの攻撃の通り方や皆が受けたダメージの度合いを綿密に計算し弾き出した結果を割り込みヴォイスで他班へと繋げる。
「ドロシーのポジションをディフェンダー、属性を炎と推測!」
 そしてドロシーの治癒を阻止する為に対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射すると、ヴァルカンが鳳琴とアンジェリカの命中精度を更に上げる為に粒子を放った。
 その支援を受け、アンジェリカがハープを軽く爪弾き、魔力の弾丸を撃ち込む。
「ああ、まるで羽虫のようだわ、お前たち」
 ドロシーが再びモザイクの波紋をアンジェリカと鳳琴に向かって解き放つ。それを防いだのは守護星座の輝きを纏ったイッパイアッテナとジョーイで、催眠の圧を弾きながら二人を守り切った。
 幾度となく刃を交え、他チームのメンバーからも猛攻を受けるドロシーが疲弊していく。それでも、倒れることなく立っているのは最後の魔女としての矜持であろうか。
 さくらが傷付いた仲間を癒す為、翼のようなオーラを広げる。
「わたし1人では無理でも、わたし達ならきっと大丈夫……広がれ、星翼!」
 ふわりと翼が消えると、ヴァルカンへ視線を向けた。
「ああ、わかっている。いくぞ、さくら!」
「出し惜しみはなしよ、ヴァルカンさん!」
 二人の力が合わさったそれは、ワイルドグラビティ。天使の放つ雷が闇を払い、龍が紅蓮の刃を振るう――!
 戦場を共にする仲間の苛烈なまでの戦闘にアンジェリカが息を飲む。けれど彼女もこの場に立つケルベロス、倒すべき相手は目の前にいるのだ。
「いきますわよ!」
 負ける訳にはいかない、その気持ちを胸に、体内のグラビティ・チェインを破壊の力に変え、弾丸に乗せて撃ち込んだ。
「お前、お前だけでも」
 ドロシーの炎を纏った鍵杖がレオナルドを捉え、振り下ろす。それをレオナルドが魔女狩りの鉄槌で受け止めた。
「ぐぅ……ッ」
 重い一撃に手が震えたが、身を削る炎を鉄槌で横へと滑らせドロシーを跳ね除ける。
 後ろに数歩飛び去ったドロシーに向け、イッパイアッテナが戦斧からルーンの力を再び発動させ、光輝く斧をザラキの攻撃と共に振り下ろす。
「琴ちゃん!」
「はい!」
 シルが背に青白い魔力の翼を展開させ、鳳琴が龍状の輝くグラビティを練り上げる。
「さぁ、全部持ってけーっ!」
 シルが一気に距離と詰めてドロシーの眼前に立ち精霊収束砲を放つと瞬時に横にずれ、その後ろから鳳琴が掌をドロシーへ向けた。
「これが絆の翼――……さぁ、打ち砕くッ」
 掌打と共に叩き込まれた龍は鳳凰の如き炎翼を広げ、魔女を襲う。
 それに景気がいいと笑って、ジョーイが家宝だという刀を抜いた。
「一発デケェの行くからしっかり受け止めろよ? ……でぇりゃァァァ!!」
 大きなモーションから生み出される悪鬼羅刹を断つ一撃を放てば、ドロシーの顔が歪む。もう、立っているのもやっとなのだろう。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
 レオナルドが戦うことへの畏れ、その全てを心臓の炎へ変えて叫ぶ。
 今は、今だけは畏れの全てを勇気に変えて。
 腰を低くした居合の構えを取ると、心臓が陽炎を燃え立たせた。
「最後の魔女、ドロシー! これで、終わりだ――!」
 レオナルドが叫び、高速の斬撃がドロシーを捉える。
 勇敢なる獅子の渾身の一撃は、今ここに最後の魔女を討ち取ったのだ――。

●終宴
「ああ、本当に終わるのね」
 ドロシーが小さく呟いて嗤う。そうして、最後の力を振り絞るように最後の魔女である自分を討ち取ったケルベロス達を見た。
「パッチワークが滅べば、魔女の力の全ては死神が奪うだろう。その力で死神が何を為すのか見届けられないのが残念ね」
 魔女の姿がぼろぼろと崩れていく。
「……そしてそれを為された時……絶望に打ちひしがれるお前たちを見ることが出来ないのも――」
 ドロシーの姿が完全に崩れ去り、光の柱が閉じる。
「それでも、俺たちは……どんな結果にだって抗ってみせるんだ」
 崩れ去ったドロシーに視線を落とし、レオナルドがそう呟いて前を向く。視線の先には、共に戦ったケルベロスの仲間がいた。
 そして、ここに居ないケルベロス達も、ケルベロスではない人々だって、どんなことがあっても前を向く力を持っているのだから。
 そう信じて、ケルベロス達は大阪城を後にした。
 今ここに、魔女たちの長き宴が終わる――。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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