パッチワーク最終決戦~大阪城と季節の魔法

作者:沙羅衝

●商店街
 ここは、有名ななにわの作曲者が作った商店街のテーマが流れるアーケード街。
 人通りで賑わう店先ではハロウィンの飾りつけが始まっていた。
 そんな商店街に店を構えるおっちゃんらが、声高に拳を振り上げていた。
「えらい東京モンが、ええ感じで盛り上がったそうやないか!」
「このまま黙って見てるだけのワシらちゃうやろ? なあ!」
「大阪城も再建中やし、ここはやったらなあかんやろ!」
 どうやら、ケルベロス達に楽しんでもらえるようにといった意味もあるようだった。
「せやけど、でうすえくすが来たら、大変なんちゃうん?」
 少し小太りで愛らしく笑うおばちゃんが、その男達に割ってはいる。するとおっちゃんの一人がにかっと笑い、こう言うのだ。
「はははっ! そんな時はな、ケルベロスがおるんやで! 大丈夫や!」
 得意そうな表情だが、周りからのツッコミ待ちでもある。
『それやったら、意味無いやろがー!!』
 続く言葉に、周りがまた賑やかになったのだった。

 そんな時、大阪城に小さなユグドラシルの根が現れていた。
 大勢の白の魔女を率いたパッチワークの幹部達。
 そして、彼女達は大阪城から出撃していくのだった。

●ところ変わってヘリポート
「今年のハロウィンなんやけどな、大阪でする事が決まったで!」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が目の前にいるケルベロス達に話しかけた。
 その話に、周りのケルベロス達はいよいよこの季節が来たかと、少し笑顔になった。
 しかし、その中の一人が、でも、集められたってことは、何かあるんだろ? と尋ねた。
「せや。実はパッチワークの魔女の首魁『最後の魔女・ドロシー』がや、拠点のユグドラシルの根と一緒に、大阪城に戻ったらしい。そんで、残された全戦力を投入。ケルベロスハロウィンを襲撃してくるっちゅう予知が判明したんや」
 パッチワークの魔女たちは、勢力としては追い詰めているはずだ。なりふり構っていられないと言ったところだろうか。だが、この作戦を阻止できればその勢力は壊滅となるという事も意味している。
「みんなには、大阪城から出撃してくるドリームイーターの軍勢とパッチワークの幹部を撃破して欲しい。で、最後に、大阪城内で季節の魔法を集める儀式をやってるドロシーの撃破までを依頼するで」
 少しざわつくケルベロス達。思っていたよりも、大きな依頼であったからだろう。
「詳細や」
 絹はそんなケルベロスの姿を見ながらも、説明を続ける。
「まず、量産型白の魔女やねんけど、『コギトエルゴスムにユグドラシルの根のエネルギーを与え、ハロウィンの魔力を奪う事に最適化したドリームイーターとして復活させた』ものらしいわ。どうやらコギトエルゴスム化する前のドリームイーターの個性とか全て消したうえで、この作戦を行う為だけに調整したらしい。ちゅうことはや、結構本気ってやつやな。で、この白の魔女やねんけど、ハロウィンの魔力を奪う事ができる能力を持つわけやねんけど、戦闘力は高く無い。ハッキリ言って弱い。でもや、その数が問題でな、各方面に百体以上配置されてるらしいから、まともに戦うと、こっちもしっかり消耗する」
 なるほどと頷くケルベロス。そして、各方面? と聞く。
「せや、今回は全体で四体の幹部がこの白の魔女を率いてる。『番外の魔女・サーベラス』、『第七の魔女・グレーテル』、『第四の魔女・エリュマントス』、そんで『オズの魔法使い』。それぞれの班であたっていくわけやけど、みんなには『オズの魔法使い』を相手にしてもらうで。
 この量産型白の魔女を突破した後に、戦闘になるはずや。そんで、その後にもし向かうことが出来たら、『最後の魔女ドロシー』がいる大阪城に向かって欲しい」
 かなりの長期戦になる可能性があった。どうするかという表情のケルベロス達だが、絹がもう一つ情報や、と付け加える。
「実は今回の作戦なんやけど、死神からのメッセージが届いてる。どうやら、死神たちもドリームイーターの動きは、察知してたみたいや。
 その話によると、季節の魔法を奪われないようにするために、軍勢を派遣してくれるそうや。
 持分は、うちらが撃ち漏らして市外に抜けてくるドリームイーターの撃破を予定してるらしい」
「どういうつもりだ?」
 絹の話を聞いて、一人のケルベロスがそう言う。
「まあ、怪しいっちゃあ怪しいねんけど、こうも言ってきてる」
『我々が倒したドリームイーターが得ていた、ハロウィンの魔力は回収させてもらうが、それ以上を行うつもりは無い』
『こちらからケルベロスを攻撃するつもりは無いが、戦闘を仕掛けられれば応戦するだろう』
 絹は少し声色を変えて、代弁する。
「まあ、うちらとの友好関係をそのまま継続したいって狙いもあるやろし、それはタテマエで何か別の目的があるってのも、可能性としてはあるわな……。
 そんなわけでや、うまく使えたらええんちゃうかって事は言えるけど、実際にどうするかはみんなにまかせるな。その辺相談しといて」
 絹の説明はここで終わりだった。後はどういった作戦を立てるかになる。
「とりあえず、折角大阪でやることになったハロウィンや。現地の人も楽しみにしとる。せやから、護り抜くで! 頼んだ!」


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)
 

■リプレイ

●オズの魔法使い
「死神さんたちのおかげかもねー」
 クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)は、この場に集合できたケルベロスの様子を見てそう思った。
 ケルベロス達は魚類型の死神に、量産型白の魔女を完全に任せた。出来るだけ見つからないように、細心の注意を払って『そこ』に近づいたのだ。
「そうだね。この選択が正解だったと信じるよ」
 隠密気流を開放させながら、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は妖精弓『阿具仁弓』を手に取った。
 周囲には他の3チームが揃っていた。そして『そこ』には1体のドリームイーターの姿。
「……」
 取り囲む無数のケルベロスに静かな眼差しを向ける『オズの魔法使い』。
「……流石に、強そうだね」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)がそう呟くと、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)もゴーグルを外しながらコクリと頷いた。
 他の班も意を決したようだ。
「さて、役目を果たそう」
 新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)がそう言うと、全員が一斉に攻撃を開始したのだった。

「……速い」
 陽葉がそう呟く。彼女の放った音の衝撃が地面を抉るが、そこには敵が存在していなかった。
「他の皆もいるし、ボクたちは支援の方がよさそう!」
「やっぱり、甘くはないね」
 シルディの声に頷きながら、瑠璃も自ら撃ち込んだ竜砲弾の行方を確認する。
「凍らせますー」
 クリスタが後方から冷気の嵐を生み出し、ほんの少しだがオズの魔法使いに冷気が纏わりついた。
「確かに俺達は、そっちのほうが良いな」
 恭平がそう言うと、全員がその動きにあわせる。敵は強大な力を持っている。他チームの支援に回る事に迷いは無かった。
 ケルベロス達の攻撃は、まだまだ敵に効果的なダメージを与える事は出来ていない。しかし、各チームそれぞれがやる事を理解し、動くことによって少しだけでもダメージを与えていけている。
 すると、爆炎が立ち込める中、彼女はこう言うのだ。
「可哀そうなドロシー。こんな奴らにあんたを痛めつけさせたりするもんか。あんたは私たちが守ってやるよ……!」
「ドロシーを守っているってことだね……」
 瑠璃は最後の魔女ドロシーの事を少し考える。パッチワークも死に物狂いだが、我らケルベロスもまた戦力を注いでいる。そう思うと哀れにも思えた。
 魔女がタクトを振るうと、巨大な火球が飛び交い、そして明らかにこの世のものではない魔獣が、ケルベロス達を襲う。
 その火球に陽葉が被弾するも、すぐに恭平が傷を癒す。
「あら。何処かへんですー?」
 突如クリスタがそう呟いた。
「ダメージか!?」
 恭平はクリスタにそういうが、彼女は魔女を指差して首を振った。
「ああっ、ドロシー、ドロシー! そんなに傷ついて。……あんたたち、生きて帰れるだなんて思っちゃいないだろうね」
「錯乱している……のかな?」
 シルディは、少し構えを固め、細心の注意を払う。攻撃が来たら弾く。そして傷つけば癒す。それだけを考えた。
 そうしているうちに、他の班からグラビティがオズの魔法使いへと打ち込まれていく。流石にこの人数だ、強大な敵でも打ち倒せるだろうと思えた。
「ああ、やめろ! ドロシーに手を出すんじゃないよ、悪い魔女め! なんてこと……ああ、ドロシー……!」
「……ドロシー? パッチワークのドロシーの事だよね」
 陽葉もまたクリスタの直感とその言葉を結びつけた。確かに何かがおかしい。
 他の班のメンバーも、その様子に少し戸惑っているようだった。
「違う……違う! ドロシーは私の、私たちの目の前で喰われてしまったんだよ! だからもう、二度と殺させはしないと誓ったのさ!」
 魔女は完全に錯乱状態にあるのか、取り乱し始めた。髪を振り乱し何かを叫ぶ。
「どういう事だ? ドロシーは喰われたって!? いや、でも居るんじゃないのか?」
 瑠璃が取り乱す魔女にそう問うが、答えは帰ってこない。
「出てきな! 大事な大事なドロシーを護るんだよ! あんたたちにとってもそうだろう!?」
 代わりに魔女はそう叫ぶと、3つの光が柱のように天に向かって伸びた。
「サーヴァントか?」
 恭平はまた警戒心を強め、その中のものを見極める。
 光が薄れると、その柱からには3体のドリームイーターが存在していた。
 ブリキの木こり、臆病ライオン、そして脳無しカカシという3体のドリームイーターだった。

●臆病ライオンと勇気
 ドリームイーターは4体。そしてケルベロス達は4班となった。
 各班は頷きあいながら、敵とする1体を見定めて対峙した。
「俺達の相手はこのライオンという事になるな」
 恭平は他の班が散る中、ライオンの目の前に立つ。
「時間も無いからね。すまないが一気に倒させてもらう」
 瑠璃はそう言って、太古の月の女神の力を大きな剣として出現させ、斬りつけた。
「う……うわぁ!!」
 するとライオンはビクビクしながら、その一撃を避けようとする。
「い……痛い!!」
 だが、瑠璃の剣はその青く光る尻尾を捕らえた。
「はじめまして、だね。そういう訳なんだ、できれば何もせずにどいてくれると嬉しいな」
 シルディは、怯えるライオンに対してそう声をかける。だが、目に涙を浮かべながらも、首を横に振る。
『キラキラの守りなんですー』
 そんなライオンを見ながらも、クリスタは自らの力で産み出した氷の結晶を前を行く陽葉とシルディ、そして瑠璃へと施す。
「退く気は無いってことで良いよね」
 陽葉はクリスタの施した、なんとも気持ちの良い冷気を感じながらそう言って、弓を引く。
『響け、大地の音色』
 衝撃と共に弾け飛ぶライオン。どっという鈍い音と共に地面に打ち付けられた。
「戦う気があるのか、無いのか。お前はどっちなんだ?」
 恭平が地面に転がりながら体制を立て直すライオンに向かって問う。ライオンは頭を両腕で抱えたまま、よろよろと起き上っていた。
「……だめだよ。行かせないよ」
 ライオンの言葉とその行動は完全に裏腹だった。明らかに攻撃する態度ではない。少し恫喝すれば一目散に逃げてしまいそうな表情でもあった。
「怯えているのかな? でも、ボクたちもここを通らないといけないんだ。素直に通してくれないかな?」
 シルディはそう言って、ライオンを説得しようと試みる。
「戦いたくないよ。でも、ここも通したくないよ。……ねえ、どうすればいい?」
 その言葉に少し唖然とするケルベロス。こんな場面に出くわすとは思っていなかったからだ。だが、そうこうしているうちに、他の班の戦いも激しさを増してきている。
「もう、討ってしまいましょう」
 クリスタの言葉には抑揚が無かった。それは彼女が不機嫌になっている証拠だ。それに気がついた瑠璃は少し考える。
(「時間もないし、此方も余りダメージを負いたくない。ならばやはり……」)
「クリスタのいう事ももっともだね、通らせてもらうよ」
 ケルベロス達は、瑠璃のいう事に同意し、一斉に攻撃を仕掛けた。
「冷たき炎に焼かれよ」
 まず動いたのは恭平だった。ネクロオーブから水晶の炎を呼び出し、ライオンに放つ。
「ごめんね、ボクたちは先に進まなきゃいけないんだ」
 シルディはそれだけ言い、意を決してライオンの懐に飛び込み、リボンで飾られた柄の先に星形の鉄球がついているドラゴニックハンマー『まう』でライオンを殴りあげる。
 宙に跳ね上げられるライオンに、陽葉の矢が突き刺さる。だがそれでケルベロスの猛攻は終わらない。
「えーい」
 クリスタが氷結輪『聖夜の氷晶』を射出し、ライオンを切り裂きながら凍えるような冷気を身体に負わせる。
「い……痛い! 寒いよ!」
 地に落ちたライオンは転げまわりながらそう叫ぶ。
「終わりにしよう。いっそ、一思いにさせてもらうよ」
 凝視も出来ないようなその姿に、瑠璃は哀れみを覚えたのか、出現させた剣を一気に振り下ろした。
「……ああっ!」
 ライオンは肩口から袈裟切りに突き刺さっている剣を見て叫んだ。
「……終わり、なのかな。また何も出来ない……まま」
 ライオンは力なく倒れ、動かなくなっていく。そして、言葉も最後には聞えなくなっていった。
「さて、あっちの加勢に行こうか」
 恭平はライオンが最期である事を確信し、魔女と対峙しているケルベロス達を確認する。そして、一歩踏み出したとき異変に気がつく。
「何!?」
 振り返って見た先に映るのは、ライオンが再び立ち上がる姿だった。
「ぼ……くは、まも……らなきゃ。ダメ……なんだ」
 ライオンはそう呟き、そして咆えた。
「ガアアアアアアアアア!!!!!!」
 その咆哮と共に、ライオンの傷は癒え、その瞳からは明らかなる意思がケルベロス達に突き刺さる。
「ぼくは、ドロシーを、護る!」
 そして、目の前にいる瑠璃に、目にも留まらない速さで、爪が突きたてられた。
「ぐっ!」
 その力は強大であり、一瞬にして庇った左腕が切り裂かれてしまう。
「我は告げる、汝倒れる定めではないと」
 恭平はその傷を見て、瑠璃の傷を癒し、更なる防御の力を施した。
「そうだね。ライオンさんは、ドロシーさんを護る。そして、ボクたちは地球を護る!」
 シルディは少しだけ、笑顔を見せる。何処かやるせなかったのだ。
「皆さん頑張りましょうー」
 クリスタがそういうと、陽葉もまた確りと弓を構える。彼女達の表情は心なしか晴れやかに見えた。
「これで……心置きなく」
 こうして、ケルベロス達は臆病ライオンと再び対峙した。だが、此方も引く気はない。
「俺達も俺達の仕事をさせてもらう。いくぞ」
 恭平の声と共に、またグラビティが湧き上がっていったのだった。

●護るものたち
 瞳が輝き、爪や牙を振るうライオンの事を、もう臆病と表現する者は居ないだろう。それほどにライオンの力は強大だった。しかし、もうそれ程体力が残っていない事も理解できた。力を振り絞っているのだ。
「これが……勇気、なんだよね。すごい」
 シルディは敵であっても、リスペクトを忘れなかった。何度もその爪に切り裂かれた彼は、負けるものかと立ち上がる。
「でも……」
 シルディは手にする武器を少しだらりと下げ、肩の力を抜く。
「どうして、そんなに哀しそうなの?」
「かな……しい?」
「うん。ライオンさんは、もう臆病なんかじゃない。でも、その眼の奥そこに何か残っている気がするんだ」
 ライオンは彼の言葉を聞き、少し嗤った。
「そうだね。ぼくはこの戦いの先に、どうしても確かめたい事があるんだ。でもそれを確認する事は、同時に哀しいことなんだろうって、わかってるんだ」
「それは……?」
 シルディは優しく聴く。だが、ライオンはいいんだ、と首を振った。
「それはぼくの願いであって、君たちには関係がない。さあ、続けよう」
「でも!」
 また腰を屈めて牙をむくライオンそのものになった彼に、なお食い下がろうとするシルディ。だが、クリスタがそれを止める。
「彼には彼の護りたいことがあるのでしょうー」
 クリスタの声に、唇を噛むシルディ。
「それも強さ。勇気ですねー」
 クリスタはすっと腕を舞う様に振った。すると、万華鏡のような氷の結晶が降り注いだ。
「護るという事は、一つじゃない。それは、それぞれが考えればいい」
 瑠璃はシルディにそれだけ言うと、最前列で大きな剣を出現させる。
「僕にも。護るべき人がいるんだ。立場が同じかどうかは知らない。でもね、その為に戦うって気持ちは、同じだと思うよ。だから、決着をつけよう」
 少し反動をつけたライオンは、瑠璃に噛み付く事で、それに応えた。
 瑠璃は剣でその牙を受け止め、また応える。
「ガウウウウ!!」
『行くよ!!』
 渾身の力が籠められると、瑠璃の剣がライオンを押し始めた。そして、凌駕する。
 弾き飛ばされるライオン。切っ先が傷を付けたのだろう。ライオンの片目からは血が溢れ出た。
「縛!」
 恭平がケルベロスチェインで、ライオンを縛る。
「強かった。ああ、勇敢だったぞ」
 恭平もまた、そのライオンの心意気に応え、最期を与えるべくチェインを繋ぐ。
 そして陽葉が薙刀でライオンの胸を貫いた。
「……最後、お願いだよ」
 ぐぅぅとくぐもった声のライオン。もう、事切れる寸前であることが解る。その最期を陽葉はシルディに託した。
 ゆっくりとライオンに近づくシルディ。
「ボクは、家族や仲間を護ります」
「……うん」
「だから、先に進まなきゃいけないんです」
「……わかるよ」
「本当は、……本当は誰とだって仲良くしたいんです! 諦めたくないんです!」
「仲良く無かったのかい?」
「え?」
「ぼくはキミの事を、これっぽっちも恨んじゃいないんだ。戦っただけだよ。それに、ぼくの護りたい人はもういないんだ」
 不意にシルディの瞳から涙が零れた。泣くつもりなんかじゃなかった。でも、心にその言葉が滲み渡る。
「じゃあ、キミにお願いだね。叶えてくれないか?」
 ライオンは、ぼくを終わらせて欲しいと続けた。
「……うん」
 シルディは涙を止めなかった。
 それを受け止める事を選んだ。
 彼の振るう『まう』が優しい重力の鎖で、ライオンに死を与える。
 勇気を求めたライオンは、勇気の力で消えていったのだった。

 ライオンを倒したケルベロス達は、すぐにオズの魔法使いの方へと駆けた。
 見ると、他の班は既に集まっているようだった。そして、彼女はかなり疲弊しているようだった。
『黒き氷壁よ、来たれ』
 恭平が仲間達に極低温の石壁を生み出して、与える。
「まだ何かしてくるかわからないからな!」
 恭平の声に頷く仲間達。ここが勝負どころと見たほかの4人は、それぞれに武器を構え、放つ。
「お薬ですよー、嘘ですけどー」
 クリスタのウィルスが魔女に打ち込まれると、陽葉が矢を放ち、瑠璃が轟竜砲を打ち込み。シルディが燃え上がらせる。
 それは此方の無事を知らせる合図でもある。
「いってください!」
 シルディが叫ぶ。
「みんな、ありがとう。これで終わらせるわ!」
「私たちのハロウィンは渡さないよ!」
 遠野・篠葉と朱藤・環の拳がオズに叩きつけられると、更に攻撃が加えられた。そしてアンセルム・ビドーから蔦が伸び、魔女を飲みつくした。
 最後に残ったのは、力ない魔女であった。
「……ああ、ドロシー。どうか笑っておくれ」
 その呟きが、彼女の最後となったのだった。

 オズの魔法使いを撃破したケルベロス達は、すぐに大阪城へと向かう。
 しかし、その途中で大阪城から延びていた光の柱が、消えるのが見えた。どうやら、ドロシーは討ち取られたようだった。
「さあ、ハロウィンですー」
 クリスタがそう言うと、ほっと一息ついた。
 敵の事も頭をよぎる。それぞれが思う事はありそうだった。
 すると、シルディが仲間の前に立ち、ふと笑顔でこう言ったのだった。
「護るって、色々だね!」

 光の柱はもう見えない。
 彼らは前を向き。頷いた。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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