「せっかくだから、目一杯に盛り上げたいよな!」
「東京の大運動会は盛況だったっていうからさ、今度はあたしたちが底力を見せて楽しい一日にしたいよね!」
とある大阪市街の商店街では、ケルベロスハロウィンに向けた準備の真っ最中。商店街を上げて、思い思いに店舗や街灯などなどを飾り付けていく。なにしろ、今年は大阪城ユグドラシルがついに駆除されたのだ。ここではしゃがないで、いつはしゃぐというのか。
例年のように、ハロウィンを狙う騒動もあるのだろうけれど、ケルベロスたちがいればきっと大丈夫。仕事を終えたケルベロスたちが疲れを忘れて楽しめるようにしっかりと準備しておこうと、市民たちは意気軒昂だった。
――その頃、未だ再建の途上にある大阪城へと還ってきたものがあった。一度、枯れ果てたはずの大阪城ユグドラシル。その根が再び大阪城跡地に繁茂したのである。そして、群れる根の間からパッチワークの魔女たちが姿を表したのだ。
彼女たちの殆どは、白き衣に身を包んだ少女という、同じ姿かたちをしていた。服装だけではなく、顔かたちまでが瓜二つに揃っている。可愛らしい姿であっても、同じ姿がこうも揃えば不気味な光景にしか見えない。それら量産された兵士たちが4人の幹部たちに率いられて、4つの軍団に分かれて大阪市街を目指す。
彼女たちが狙っているのは、もちろんハロウィンの魔力だ。彼女たちは再起をかけて、全力で決戦に挑むだろう……。
●
「今年のケルベロスハロウィンは大阪で開催するんだってさ。それはそれは熱烈な要望が届いたらしいよ」
楽しみだねと、ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)が集まった皆に笑いかけた。
「ただ、それだけならよかったのだけれど、ケルベロスハロウィンが襲撃されるって予知も判明しているんだ。パッチワークの魔女の首魁である『最後の魔女・ドロシー』が、拠点としているユグドラシルの根とともに大阪城へと舞い戻ってくるって言うんだよ」
ドリームイーター残党であるパッチワークの魔女たちは、すでに勢力として追い詰められている。残された全戦力を投入してくるだろうこの作戦を阻止できれば、壊滅まで持ち込むことができるはずだ。
「『最後の魔女・ドロシー』は大阪城で季節の魔法を集める儀式を執り行っている。皆はケルベロスハロウィンを襲撃してくる軍勢を迎撃、パッチワークの魔女幹部を撃破した上で、『最後の魔女・ドロシー』の討伐を目指してほしいんだ」
このチームでは、『オズの魔法使い』が率いる軍団の迎撃を担当する。軍団は幹部である『オズの魔法使い』と、多数の量産型白の魔女で構成されている。量産型白の魔女は、『コギトエルゴスムにユグドラシルの根のエネルギーを与え、ハロウィンの魔力を奪う事に最適化したドリームイーターとして復活させた』ものだ。本来持っていたドリームイーターの個性は一切残さず、この作戦を行うためだけに調整されている。
彼女たちはハロウィンの魔力を奪う能力を持っているものの、戦闘力が高いわけではない。ただ数が各方面に百体以上と多いため、正面からまともに衝突すれば、成長したケルベロスといえども損耗は避けられないだろう。
量産型白の魔女の群れを突破すれば、『オズの魔法使い』に仕掛けられるようになるだろう。そして軍団を撃破した上で大阪城に向かい、『最後の魔女・ドロシー』を狙うこととなる。
「作戦内容としては以上なのだけれど、ここで一つ悩ましい問題があるんだ。死神からメッセージが届いていてね、ドリームイーター残党に季節の魔法を奪われることのないよう、彼らも軍勢を派遣するだってさ」
ユカリは首をすくめて続ける。
「積極的に攻勢に出るつもりはなく、こちらが討ち漏らした残敵の掃討をする。倒したドリームイーターが得ていたハロウィンの魔力は回収するが、それ以上はしないって話なんだけど、さてどうしたものだろうね」
死神はセイレム・カリュブディスが全体の指揮官らしい。加えて4体の死神が魚類型の下級死神を引き連れて、市街地を護るように現れるという。
死神もデウスエクス、本来は信頼も信用もできない相手だ。ただ彼らの最優先事項が『死者の泉の奪還』であることは間違いなく、ケルベロスの協力を必要としているから、友好関係を築こうとしているのかもしれない。
一方、死神もドリームイーター残党を受け入れているために、季節の魔法を扱う術を習得している。ハロウィンの魔力の横取りを狙っている可能性も否めない。
「すべては推測でしかないから、判断は皆に任せるよ。死神を利用することも、無視することも、討伐を狙うことも、それぞれに利がある。十分に相談して、このチームではどう対応するかを決めてほしい」
一通りの説明を終えて一息ついたユカリは、あらためてケルベロスたちに向き直る。
「少々状況が複雑だけど、これがパッチワークの魔女たちとの決戦となることは間違いないんだ。心置きなくハロウィンを楽しめるように後顧の憂いを断って来てほしい。頼んだよ」
参加者 | |
---|---|
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) |
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594) |
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
●
「楽しい楽しいハロウィンの日なのに、何してくれてるんですか」
大阪の街路を進みながら、エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)がぼやく。季節の魔法なんてもののせいで、例年のように襲われて迷惑な話だ。何も起きていなかったら、今頃エルムはパーティーに向けて凝った料理でも仕込んでいたかもしれない。
「早く終わらせないとだめですね! だって、楽しいハロウィン、美味しいお菓子が皆を待っているです!」
小さな拳を振り上げて、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)が笑った。
間断なく周囲から響いてくる音は、きっと死神と魔女がぶつかり合っているのだろう。
(「……死神は、嫌いだ」)
彼らの姿を思い起こし、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)は小さくつぶやいた。
市街地に溢れる白の魔女たちの相手を死神たちに任せて、ケルベロスは指揮官たる『オズの魔法使い』の討伐を選択した。その判断は合理的かつ堅実で、悪い手ではないはずだ。おかげで十全な戦力が用意できている。
そう理性ではわかっていても、死神と手を取り合うことはためらわれた。ひなみくにとって死神は、家族を殺した仇敵と目している相手である。
――足は止めず、仲間から隠れるようにして煙草に火をつけた。深く煙を吸い込んで、ざらつく気持ちと一緒にゆっくりと吐き出す。
「がんばってる死神には感謝しましょう! でも、怪しい動きがないか注意もしませんと!」
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)が明るく言葉を発しながら、仲間たちを振り返る。
「――そうだね。お仕事をたっぷり押し付けてきたから、好き勝手はできないと思うけどね~」
ひなみくはかりんの視線が自分を捉える前に、甘い笑顔を取り戻していた。
「さー、みんな。がんばろ~! なんだよ~!」
ひなみくの表情にはもう、一片の陰も残ってはいない。
そうして進んだ先で、ケルベロスたちは『オズの魔法使い』と対峙した。目的を同じくする総勢二十余名のケルベロスがこの場にいる。配下もなく一人立つ魔女は、それでもまったく怯んだ様子を見せない。
「……」
すべてが緑色に彩られた魔女は、ただ無言でそこに佇んでいた。
「ハッピーハロウィン。だけどデウスエクスはお呼びじゃないよ?」
「アンちゃん、目が笑ってないですよー? 怖いですよー?」
薄く笑って告げたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)の言葉を、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)が混ぜっ返す。
「環だって、ハロウィンを邪魔されたくないだろう?」
「はい、もちろん! だから、ハロウィンがゴタゴタするのは、今年で終わりにしましょう!」
どことなく、環のテンションは高い。それだけハロウィンを心待ちにしていたのだろう。
「……まだいたのなお前ら、ってのが正直な感想だわな」
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)の手には髑髏の面。
「来年こそ、のんびりさせてもらいたいんだがね。テメエらの相手も、もう飽きたよ」
唾を吐き捨て、斜めに魔女を睨めつけながら、尖った視線を面に隠す。
「ハロウィンの最中に飛び込んでくるだなんて、さぞかし浮かれてるのかと思ってたけど、あなた随分と陰気ね。なら、もっと底なしのテンションで動けなくなるくらい、ざっくざく呪ってあげるわ!」
引きずり出した怨霊を背に、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は場違いなほど明るく笑った。
●
あの古い物語で、『オズの魔法使い』は会う者ごとに姿を変えた。それらの姿を象ったかのような、恐ろしい獣や眩い火球が魔女がタクトを振るたびに巨大なエメラルドから飛び出して、ケルベロスたちの中を駆け抜けてゆく。
その力は幹部だけあって強大で、1チームで向かい合ったのならば死線に身を投じるようなものだったろう。けれど、これだけの戦力があるなら押し切れる……!
ケルベロスの猛攻を受ける中、オズは言う。
「可哀そうなドロシー。こんな奴らにあんたを痛めつけさせたりするもんか。あんたは私たちが守ってやるよ……!」
まるでドロシーが此処にいるかのように。
「ああっ、ドロシー、ドロシー! そんなに傷ついて。……あんたたち、生きて帰れるだなんて思っちゃいないだろうね」
増えていく己の傷が、ドロシーが負ったものであるかのように。
その瞳はケルベロスを見ているようで、此処にいないものを見ているのか。
「……さっきから、何を言ってるんです? ドロシーはここにいないのですよ?」
淡々と深まりつつある魔女の狂気に、マロンは戸惑い、眉根を寄せた。
「違う……違う! ドロシーは私の、私たちの目の前で喰われてしまったんだよ! だからもう、二度と殺させはしないと誓ったのさ!」
返す魔女の言葉は噛み合わない。そもそも、かの魔女の耳に言葉は届いているのか? 届いていたとして、どの言葉に応じたのか?
「出てきな! 大事な大事なドロシーを護るんだよ! あんたたちにとってもそうだろう!?」
悲痛な雄叫びに応じるように、3つの光柱が戦場に突き立って、3体のドリームイーターたちが現れた。ブリキの木こり、臆病ライオン、能無しカカシ、すなわちドロシーと旅を共にした仲間たち。――ドロシーの姿は、やはり無い。
「このまま押し切れちゃうんじゃ、って思ったけど、仕切り直しだね」
ひなみくは軽い苦笑を浮かべながら、霊力を込めた紙兵を撒き散らす。
「仲間を呼ぶなら最初から呼んでおけよ。――つまり俺達を舐めてたってわけか、よし殺す」
魔女の意図は判然としないが、竜人は僅かな苛立ちでさえも闘志を燃やす燃料へと変えた。
魔女が呼び出した3体のドリームイーターたちは、ともに戦う仲間たちが引き受けてくれた。つまり魔女は――。
「私たちがなんとかしないといけないんですね。がんばりましょー!」
「そうですね、環さん」
むん、と力をいれる環に微笑んでから、エルムは静かで透徹した視線を魔女へと向ける。
(「さらに隠し玉を残している、ということはなさそうですね」)
とはいえ、先程より数分の一になった戦力で魔女に対峙しなければならないのだ。それだけで十分なほど困難であり、実際、受ける圧力も急激に増した。手を緩めている余裕など無いと、エルムはオウガメタルの記憶に残る黒き太陽を現出させて、白昼を裂く黒光の絶望で魔女に浴びせる。
魔女はタクトをついと振り、巨大なエメラルドを射線上に割り込ませた。
「小賢しいってんだよッ」
竜人が側面へ回り込んで突き出した、歪な槌の顎が開き、砲口が覗く。唸り声にも似た音で放たれた弾丸が魔女を捉えるが、魔女は意に介さずにエメラルドにタクトを向けていた。すると緑の宝石が赤く紅く、そして青く、やがて白く燃え上がる。
「おい、火倶利に張り付いてろ。すぐに魔法が飛んできやがるぞ」
竜人は相棒のテレビウムをひなみくの元へ追い立てる。直後、直視できぬほどに強い光を放つ火球が放たれた。
間一髪で相棒はひなみくをかばうことができたが、相棒を焦がした火球は勢いを止めることなく戦場を奔り、竜人を飲み込まんとする。
「竜人だって無理しちゃ駄目ですよ!」
……だが覚悟した激痛は、竜人に訪れない。いつのまにか目前には、青い髪を揺らして盾に変えたオウガメタルを支える、小柄な姿があった。
「むむんっ! ぼく達だけになったって、悪いことはさせないですよ!」
かりんはオウガメタルの盾を氷結輪に持ち替えて、素早く魔女へと投げ放つ。
「――冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
篠葉が厳かに唱えた力ある言葉が、地下に眠る怨霊を日向の世界へと引きずり出した。何に恐れおののくか耳をふさぐ怨霊はいかにも不安定で、ひしゃげた姿が見るものの心をざわめかせる。
「アナタたちが狙う魔力より、冥府より涌出した怨念が生む呪縛の方が強いって、教えてあげるわ!」
「ああああ……っ! 死、命なき者たち、戻ってきておくれ、ドロシー!」
呼び出した怨霊を狂乱する魔女へとけしかけながら、篠葉はずっと感じている違和感を反芻していた。
(「幹部さんの取り乱し様は、きっとフェイクじゃない。本当に『ドロシーの死』を見たのね」)
戦い続けるさなかで理性が剥がれ落ちていく『オズの魔法使い』の姿に、篠葉はひと欠けの真実を見出した。けれど『最後の魔女・ドロシー』は、依然として大阪城にいるはずだ。だとすれば、ドロシーは二人いたのかもしれない。そんな着想が脳裏をよぎる。
……魔女はしがみつく怨霊を振り払ったようだ。とはいえ当初に比して、その迫力は失われはじめていた。
(「それは私たちも同じですけど」)
マロンはそっとひとりごちた。状況は、狂える魔女との壮絶な削り合いになりつつある。他チームの仲間たちはどうしているだろう? いや、彼らのためにも耐え忍ばなければならないのだ。わずかに吹いた弱気の風を空元気で上書きして、マロンは叫ぶ。
「もうそろそろ観念して、みんなの平和なハロウィンを返すですよ!」
火力を請け負う自分が積極的に攻めなくてどうする。魔女へと指先を突きつけて詠唱を開始、膨れ上がった魔力を石化の魔法として放った。逆方向からは、タイミングを合わせて、アンセルムが間合いを詰めている。
「君にとってドロシーはよほど大事な存在みたいだけど、まずは君を突破してドロシーの首に手をかけさせてもらおう」
魔女まで数メートルという距離で、アンセルムは無造作に如意棒を前方へと投げ落とした。落下する如意棒の柄へ、素早く回転蹴りで足先に込めた闘気を叩き込む!
闘気を注入された如意棒が伸びる勢いに、足先のカタパルトから打ち出された加速が重畳して、如意棒は一条の光のごとく奔る。先端が衝撃波を産み、魔女の顎へと突き刺さる。
「ドロシー、ああドロシー! 私はまだ倒れちゃいない! 手は出させないって言ってるだろう?!」
衝撃に捻られて強制的に横を向いた顔から、魔女は凄絶な視線をアンセルムへと向けた。怒りの波動が魔力の渦を産み、あまりに巨大な禿頭が現れた。
身体を持たずに宙へ浮いた禿頭は、見開いた目で魔女と同様にアンセルムを睨みつけ、怪しげな光を浮かべる。
「それもあなたの悪戯ですか! でも番犬の悪戯のほうがきっついですよー!」
だが、その光が放たれる直前に、拳を固めた環がアンセルムの眼前へと飛び込んだ。重力を帯びた獣の拳が怪しげな光を切り裂き、巨大な禿頭を貫いて、魔女を穿つ。
そして間合いを離して魔女と向き合う環の肩に、ふわりと儚い雪が舞った。
「大丈夫、必ず戦況は僕たちの側に傾きます。……力をお貸ししましょう。さあ、頑張って」
退魔の力を持つ雪で仲間をよろい、エルムは静かに微笑んだ。一歩引いた視点で戦場を俯瞰していたエルムには確信があった。
――ここで潮目が変わるという確信が。
●
激しい炎に、巻き上がる花弁。一群の打撃力と化した集団が、華々しく魔女へと殺到する。3体のドリームイーターのうち、真っ先に砕け散ったブリキの木こりを背にして、仲間たちが援護に駆けつけたのだ。
ここで勝負をかけずして、いつかけるというのか。ケルベロスたちはより一層、心を奮い立たせる。
「お仲間は先に音を上げたみたいだぜ。てめぇも希望を此処に棄ててけ、いや、こいつで喰い尽くしてやるよ!」
「いきますよ、いっぽ! ガブガブしてください!」
竜人の掌に生まれた蒼い焔は燃え盛るほどに、周囲の温度を下げていく。そして物理法則を捻じ曲げる焔が十分に膨れ上がったところで、魔女に向けて放たれた。その後を追うようにして間合いを詰める、かりんとミミックのコンビが、ガブリングとフェアリーブーツから放たれた星のオーラで魔女を挟み撃ちにした。
「楽しいハロウィン、美味しいお菓子が皆を待っているです!」
「ええ、もう終わらせませんと、楽しい時間が短くなってしまいますからね」
オーラで包んだ金色のどんぐりがマロンの手から弾丸のごとく飛び出し、エルムは激しい炎熱をまとった足先を鏃として魔女に突き立てる。
さほど間を置かずに能無しカカシも撃破され、幕開けのようなケルベロスによる厚い攻勢が再現されていく。対して狂迷の度が深まった魔女に援軍は無い。
最後には臆病ライオンを倒したチームも魔女への攻撃に加わった。ウィルスや矢、竜砲弾に加え、突然の発火といった一群の攻撃が魔女を襲う。
「いってください!」
聞こえてきた仲間の叫びに背中を押されて。
「みんな、ありがとう。これで終わらせるわ!」
「私たちのハロウィンは渡さないよ!」
篠葉の音速の拳と、環の重力を帯びた重い拳。両極にある2つの拳を二人が交互に叩きつけたところへ、
「そうだそうだ! はっぴーなハロウィンのために、魔力はビタ一文たりとも渡さーん!」
ついにひなみくも回復の一切をかなぐり捨てて、鋼で覆った拳を振り下ろす!
吹き飛ぶ魔女は、胡乱な視線を宙へとさまよわせ……、
「喰らいつき、魔女の妄執を飲み込んでしまえ」
アンセルムの体から幾重も伸びた蔦の先が膨らみ、巨大な顎門を形作って、魔女の身体を飲み込んで、覆い尽くした。
そして顎門が消え去ったあとには、大地に伏せた魔女の姿だけが残されていた。
魔女に宿っていた狂気の炎が、全てを燃やし尽くして消えたのか、今の彼女は妙に儚げな姿だ。
「……ああ、ドロシー。どうか笑っておくれ」
聞き取れぬほどの声で小さくつぶやいて、虚ろへと還っていく。
オズの魔法使いを倒したケルベロスたちは、歓喜の声を上げる時間も惜しいとすぐに大阪城へ足を向ける。その道中で彼らは、大阪城から天へと伸びていた光の柱が消え去る瞬間を眼に収めた。
急ぎ足が次第にゆっくりした歩みに変わり、やがて完全に立ち止まる。
「ああ、終わったです! ……ほんと、よかったのです!」
「私たちの勝利に、祝杯を上げたいわね!」
安心感からか、かりんはうっすらと涙ぐみ、篠葉は快哉を上げる。
「かぼちゃのクッキーくらいならありますよ」
「エルムさんも隠し持ってたんだあ。私も私も!」
エルムや環は、ポケットから取り出したお菓子を仲間たちに分けていた。
「美味しい! ありがとうです!」
「みんな、ハッピーハロウィン。街に帰ったら、もっと盛大にやろうね」
マロンは優しい甘さに顔をほころばせ、そんな仲間たちをアンセルムは優しく見つめる。
その中にあって一人、ひなみくは固い表情を市街地に向けていた。――死神はどうなっただろう?
「おい、まだ敵が残ってたりするのか?」
「……ん、なんでもないよ。さー帰ろうか~! 帰ったら、パーティーだよ~!」
外した仮面を手にした竜人が怪訝な表情で声をかけると、ひなみくは笑顔を形作って振り返った。
――完全勝利に落ちた、かすかな陰。どう転がるかは、杳として知れない。
作者:Oh-No |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|