パッチワーク最終決戦~引きあい響きあう生命

作者:ほむらもやし

 ハロウィンを控えた大阪の街は活気に溢れていた。
「ゴートゥーキャンペーンさまさまや、笑いがとまらんで!」
 皆、商人らしい良い顔をしていた。
「稼げるときにしっかり稼ぐ。当然のことや」
「まあ、ややこしいことがあっても、またケルベロスがなんとかしてくれるやろ」
 人で賑わうハロウィンの時期にデウスエクスが何か仕掛けて来るのでは無いかと心配してしまうのは時代の状況を考えれば当たり前の感情。
 大阪城もまだ再建の途上、デウスエクスの残党勢力の暗躍も後を絶たない。
 でも、何かが起こるかも知れないとずっと家に籠もっていたら気が滅入ってしまう。
 そもそも賑やかじゃ無い大阪なんてさみしすぎる。
「デウスエクスを何とかするのは、ケルベロスの仕事や」
「ぎょうさんゼニも出してるしな!」

 同じ頃、再建中の大阪城に、再びユグドラシルの根が出現する。
 そこから姿を現したのは、量産型白の魔女の軍勢とパッチワークの魔女――番外の魔女・サーベラス。
 白の魔女はどこか魔女っ子のような雰囲気がある。
 サーベラスは見覚えのある風景を確かめるように見渡すと進撃を開始する。

●急を告げる事態
 関西からの強い要望により、今年のケルベロスハロウィンは大阪で開催すると決定した。
 準備が進む最中、パッチワークの魔女の首魁、最後の魔女・ドロシーがユグドラシルの根と共に、大阪城に戻ることが予知される。
「ドリームイーター残党――パッチワークの魔女らは残存戦力の全てを動員してケルベロスハロウィンを襲撃するべく準備をしていた。再建した戦力は彼女らにとって最後の希望。したがって作戦を阻止すれば、ドリームイーター、すなわちパッチワークの魔女の勢力は事実上壊滅する」
 正に勢力の命運を掛けて戦いを挑んできている。
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は真剣な表情で告げた。
「皆には、まず大阪城から出撃してくる、量産型白の魔女の軍勢と、番外の魔女・サーベラスを撃破し、次いで大阪城内で季節の魔法を集める儀式を行っている、最後の魔女ドロシーの撃破を目指してもらいたい」
「量産型白の魔女とはドリームイーターの一種だ。コギトエルゴスムにユグドラシルの根のエネルギーを与え、急造のドリームイーターだ。多くが魔法少女のような外見をしているが、コギトエルゴスム化する前のドリームイーターの個性も消し去れている。ドリームイーターらしい鍵を持って戦うけれど、ハロウィンの魔力を奪う事に最適化したせいなのか、戦闘力は低い」
 現在のケルベロスの実力なら、一度に多数の白の魔女を相手にしても撃破出来る。
 ただし各方面で100体ほどの多数と戦うことになる、普通にやりあうと、白の魔女との戦いだけで消耗してしまうだろう。
「そこで意識しておいて貰いたいのが、救援を名目に現れる死神勢力の動勢だ」
 季節の魔法を操る術を完成したと見られる、死神の魔女とも言われるセイレム・カリュブディスが指揮する有力な死神は4名。4名それぞれが魚類型の下級死神を率いて、市街地を護るように展開する。
 なおセイレム・カリュブディスは予備選力として、戦力が足りない場所にいつでも向かえる態勢となっている。
「皆が戦う、番外の魔女・サーベラス方面にはRe:ベリアル・マリスが魚類型の下級死神と共に来援する。救援が目的で、死神側からは、ケルベロスを攻撃するつもりは無いそうだ」
 このほかにも、死神が撃破出来たドリームイーターが得ていたハロウィンの魔力の回収以上は望まない趣旨の、メッセージが届けられている。
「死神への対応は、『(1)救援を無視して戦う』『(2)救援を利用して有利に戦う』『(3)死神の幹部と戦闘を行う』――の3つ、どの対応とするか、チームとしての方針を決めて下さい」
 種族や勢力の再起、命運を懸けた戦いが繰り返される。
「大阪の人たちも大変な思いをしてきた。やっと巡ってきたハロウィンだ。思い切り楽しめるようにしたいね」
 ハロウィンという楽しむための祭りを切っ掛けに、思惑が様々に交錯していた。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
美津羽・光流(水妖・e29827)
ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)
オリーヴィア・エーレンフリート(白き癒しの歌姫・e86530)
 

■リプレイ

●迂回
 一行がたどり着いた時、サーベラスの指揮するモザイク攻性植物との戦いは始まっていた。
「死神との共同戦線のおかげでここまでは楽に来れたっすけど、ここからは苦しくなりそうっすね」
 セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)は険しい表情をする。
 サーベラスはカボチャやキノコの攻性植物を指揮している。無駄な動きは少なく、巧みな連携によって、正面から攻撃を掛けるケルベロスたちを苦しめていた。
「このまま正面からいってもあかんやろ」
 美津羽・光流(水妖・e29827)は足を止めた。
 このまま合流して正面からの戦闘に加勢するだけでは、現状の打破は難しそうに思えた。
「その通りだよね――何とか、手薄な背後に回り込んで崩したいところだね」
 ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)が告げる。
 背後に回り込めば、正面から戦うチームとの挟撃の形に持ち込める。
「うまく行けば、一挙に有利にできるで」
 とはいえ、見つからずに背後に回り込める秘策があるわけではない。
 行動を後押してくれるのは、ゴッドサイト・デバイスによって、おおよその敵と味方の分布が把握できていることぐらいだ。
「まぁねえ、途中で見つかったときは、お姉ちゃんも頑張っちゃうからね」
 そんなタイミングで、楽観的に言うのは、オリーヴィア・エーレンフリート(白き癒しの歌姫・e86530)だった。次いで、近くに落ちていた木の枝を拾い、肩の高さに掲げて中腰の姿勢でコソコソと歩いてみせる。
「なんですかそれ?」
 ちょっと呆れたような空気が漂う。しかし緊張はほぐれた。
「こうすれば公園の立木に見えるかなって」
「それならこうやって、腹ばいになって、ほふく前進する方が、まだいいっすよ」
「石垣の写真をプリントした布でも用意しとけばよかったかしら?」
「かくれ身の術っすか?」
 即興で次々とアイデアが浮かぶが、どれも効果は疑わしい。
「行こう、時間が勿体ないで」
 と、急かせる光流の格好は、ハロウィンの仮装を連想させる、海賊風の恰好だった。
「ところで、その衣装は作戦なのかな?」
 魔術師として見過ごせないと、毅然とツッコミを入れるヴァイスハイト。
「ま、季節だし、そういうことにしとこうか――」
「そうなんだ。なかなか格好いいと思ったんだよね」
「あ、ありがとう」
 同じ仕事をするなら、可能な限り良い結果に繋げたい。
 同じ思いを胸に、慎重に歩みを進める一行。
「雑魚ばかり倒してもキリが無いのデース!」
 そんなタイミングで、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が、光流の肩を叩いた。
「状況を変えたいからな、何とか背後に回り込みたいところや」
 木陰から木陰へ、2手に分かれた2~3人ずつが互いに合図を送り合い、合流と分離を繰り返しながら、一行はサーベラスの背後を目指して進む。
「あと少し、どうか気づかれませんように」
 オリーヴィアは幸運を祈りながら、ヴァイスハイトの背中を見つめる。
 サーベラスがシャドウボクシングでもしているかのように、犬の如き獣の頭部のついた腕を突き出しながら、カボチャやキノコの攻性植物を鼓舞し、一心不乱に指揮している様子が見える。
「やっぱり後ろの方は手薄だね。遠回りをした甲斐があったね」
 サーベラスの意識は正面ばかりに集中していた。
 背後に城があると状況が、後方から敵が来ないという思い込みを抱かせたのかも知れない。
「これなら上手く行きそうなのデース!」
 後方は矢張りがら空きだ。思惑通りに進みそうな状況に、シィカが強く拳を握りしめる。
「ほんまにハラハラしたで、――ここからが本番や」
 果たして、背後に回り込むことに成功した一行は、サーベラスを攻撃の射程に捉えた。

●攻撃
 最初に仕掛けたのは光流だった。
「西の果て、サイハテの楔よ。訪れて穿て。滅びは此処に定まれり」
 狙いを定め、出現した氷の楔を、手の動きと共に高速で打ち込む。
 サーベラスの背中にズブッとした衝撃と共に熱い感覚が神経を巡る。そして視界が赤く染まった。
「えっ?! 敵、なんで!!」
 サーベラスの認識では、ありえない方向からの攻撃だった。
 刺さった氷の楔を無造作に引き抜きながら、後ろを振り向く。
 投げ捨てようとして、腕の先の獣の顎が、楔から染みだした魔力によって、ズタズタに爛れていることに気づいた。
「くそう……よくもやったな」
「さぁ、僕。あの頃を思い出して、死を恐れぬ魔術師の力を披露しようではないか!」
 紙兵が吹雪のように舞い、ヴァイスハイトの声が響く中、攻撃は続く。
「レッツ! スタートデース!!」
 高らかな叫びと共にシィカの放った、殺神ウイルスの詰まったカプセルが山なりのカーブを描きながら――落ちてくる。
 当然、その軌跡の先に自身がいることにサーベラスは気づいているが、避ける暇はなく頭部に直撃する。
 殴られたような衝撃と共にカプセルが割れる音がガツンと脳に響いて半身が怪しげな液体にまみれる。
「よくもよくも!」
 サーベラスは粘液に塗れた顔で、眉をつり上げ、睨みつけてくる。
「めちゃちゃ怒ってるみたいっす」
 厭な予感がしたので、セットは杖を振り上げ、ライトニングウォールを発動する。
 展開された光の壁が頼もしく見えた。
「ええい、そんなものこうしてやるよ!!」
 直後、ピンクのモザイクキノコがぴょこぴょこと体当たりをして、その加護を消し去る。
「そんなのずるいっすよ!」
 サーベラスは背後の敵に集中する。指揮の途切れたモザイク攻性植物の群れの連携は失われ、勢いづいた正面のチームの猛攻によって急速に戦力を削られている。
「ほう、人数の少ない方なら、倒せるとみたのか? だが、そうは、させないッ!!」
 空高く跳び上がったヴァイスハイトの足から流星の如き輝きの尾が伸びる。
 落下の加速を重ねた、輝く蹴りは上空からサーベラスを狙い、直後に激突する。
「だけど。惜しかったね。僕らはそんなに弱くない」
 衝撃音と共に光が爆ぜて、足元の砂を舞い上がらせながらサーベラスは吹き飛んだ。
 オリーヴィアの発動したガーディアンピラーによって、星の輝きを宿した魔力柱が出現する。
「此処が戦場という舞台ですわね。さぁ、わたくしの歌と演奏に耳も心も奪われてくださいませ」
 柱から放たれる輝きが広がり、悪意を祓う加護がもたらされる。
「叩けるときは叩く。削れるだけ削ったるで――」
 光流の海藍刃の一瞬の煌きから生まれた、空の霊力が腕先――ズタズタの獣の頭部を狙う。
 距離が詰まり、目にも止まらない高速の刃が獣の顔の傷を引き裂くかに見えた瞬間、上から降ってきたカボチャ攻性植物が身代わりに切られる。
「どうだい。あんたらの思い通りにはならないよ」
 機を逃さず、モザイクを散らしながら消えて行くカボチャを踏み越えてサーベラスは光流に迫る。
 そして勢いのままに腕先の獣の口からモザイクを放出する。
 瞬間、光流と巻き込まれたシィカの視覚と聴覚がノイズに覆われて、頭を激しく揺さぶられるような不快な感覚に襲われる。
 五感が乱されても思考までは奪われない。バッドステータスから来る異常だと理解できる。
 一拍の間を置いて、悪意を祓う加護が発動する。
 シィカはすかさず飛び上がり、空中からサーベラスに狙い定める。
 瞬間、視界の端に、正面のモザイク攻性植物群との乱戦を抜け出し、先ほど別れた仲間たちが進撃してくる様子が見えた。
「ふふ、こんな場所で歌うのは初めてなので緊張してしまいますわ」
 歌い続けていた、オリーヴィアがぽつりと言う。
 状況に合わせて、仲間を支援する歌と、敵を攻撃する歌を使い分けるというのは、実際にやってみると意外に大変なことだった。
「そう言えば、サーベラスはケルベロスの別称だな。魔女がどうして地獄の番犬を自称するのだ?」
 ビハインド『テスタメント』が、念を込められた石や木が嵐となって飛び乱れる中、ふと思い浮かんだ疑問を投げかけるヴァイスハイト。
 しかしその返答を聞く前に、正面を突破したチームからの攻撃が始まった。

●戦いの末に
「えーい! うっとうしい!」
 終わりの始まりだった。
 明確に不利な状況に陥ったにも関わらず、サーベラスは嘆くそぶりも見せなければ、退こうとする気配もない。畏れとか臆病さといった感情が、そもそも欠落しているのかも知れない。
「思い通りにならないのはこっちもやけど」
 前衛として立ち続け、常に攻撃の起点となってきた光流が激烈な威力を秘めた刺突を繰り出す。
 派手に雷の霊力を散らして刃はサーベラスに突き刺さる。即座に退いて間合いを広げようとした瞬間、仕返しとばかりに鍵刃を薙ぎ、光流の身を切り裂く。
「手が届く仲間ぐらいはぜったいに――」
 セットの溜め込んだオーラが解放されて、深手を負った光流を包み込む。莫大な癒力がまるで時間を巻き戻すように、切り裂かれ、パックリと開いた傷口を元通りに塞いで行く。
「我は死を恐れぬ魔術師、テスタメントの名を冠せし魔銃よ顕現せよ」
 敵の気を引くように、高らかに詠唱するヴァイスハイト。
 詠唱の途中で、赤毛のウェアライダーが落とされる様子が見えたが、気に留める余裕はなかった。
「――シュロス・ブレッヒェン・ツヴァイ・マギゲヴェーア」
 一拍の間の後、召喚された二丁銃の銃口に魔方陣が現れる。
 瞬間紫のオーラと共に莫大な魔法力を孕んだ弾丸が射出され、弾丸は吸い込まれる様にサーベラスの腕に命中する。飛び散った紫のオーラが攻め手を封じるバッドステータスとなって墨のように染みついた。
「キリがない、どうすればいい?」
 前後からの挟撃にサーベラスは果敢に応戦を続けているが、行動の精彩を急速に欠き始めていた。
 状況を打破しようと、サーベラスは、攻撃の起点になっている光流を狙う。
 しかし鍵刃の一撃は、庇うように間に割入って来たビハインド『テスタメント』に食い止められる。
 一息をつく間もなく、別方向からの攻撃、爆破の炎に包まれるサーベラス。
 好機に乗じて、間合いを詰めた光流は満身の力を込めて繰り出すのは絶空斬。
 空の霊力を帯びた海藍刃はズタズタに傷ついていた腕先を、元の獣の形が分からなくなる程に切り裂き、破壊し尽くした。
「くぅ……こんなもので……」
 もはやサーベラスは立っているのもやっとという状態に見えた。
 だがその消耗具合は少人数で迂回攻撃を掛けた者たちも、多少の程度差はあっても似ているとセットは感じる。
「いま、攻撃されたらひとたまりもないっすね」
 別チームの合流が遅れていれば、限界を迎えるのは此方が先だったかも知れない。
 撤退が許されない戦場で、文字通り死力を尽くして戦う姿には、形容しがたい切なさがあった。
 そんなタイミングで自身を鼓舞するサーベラスの咆吼が轟き、そこにシィカの叫び声が重なり、直後、炎が激しく煌めいた。
 その煌めきの中でサーベラスが果てたことに、光流とヴァイスハイトはすぐに気がついて、少しの間目を伏せた。気配を察したオリーヴィアも歌を終えた。
「長い戦いだったっすね」
 セットは周囲を注意深く見渡す。
 戦闘の気配はまだ残っているが、死神も約束通りの行動をしてくれてたらしく、周囲の量産型白の魔女の多くが斃されているように見えた。
「死神に借りが出来たとは思わへんけど、なんか嫌な感じがするな」
 斃した白の魔女の死骸の下に出現させた魔法陣から魔力を吸い取る魚型死神の様子を目にした光流の呟きにヴァイスハイトが同意で返す。
「ドロシーの方は他の皆さんに任せましょう。出来ることをやるのも仕事だよ」
「はいはーい。ヴァー君と皆の為にお姉ちゃん頑張っちゃうね」
 かくして一行は、疲労の重なった身体に鞭打って、残された量産型白の魔女の掃討に乗り出す。
 戦いを終えるまでには、もうしばらく時間が掛かりそうだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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