●狙われたハロウィン
その日、大阪市では大々的な祝祭の準備が進められていた。
市民が行き交う街の広場ではイベントの設営が行われ、駅前の商店街ではお化けを模したお菓子やグッズが所狭しと店先に並ぶ。あちこちで楽しそうに準備を進める市民の表情は、いつになく活気で満ちていた。
10月31日、ハロウィン。
大阪城ユグドラシル・ウォーの勝利により、攻性植物の脅威から解放されたこの地では、街をあげてのケルベロスハロウィンが行われるのだ。
いまだデウスエクスの襲撃はあるだろうが、それでも人々の表情は明るい。
ケルベロスがいれば大丈夫だ。戦いに勝利して帰還する彼らのためにも、楽しんで貰えるパーティーにしよう――。市民の活気と勢いに乗って、ケルベロスハロウィンの支度は滞りなく行われていく。
同時刻、再建中の大阪城。
城内の一角で、街の賑わいを聞きつけたように顔を出したユグドラシルの根があった。
根というにはあまりに小さいそれを伝って現れたのは、モザイクに包まれた異形の者達。可愛い白魔女の大集団と、それを率いる『パッチワークの魔女』の幹部達だ。
『時は満ちたわ。儀式を始めましょう』
首魁たる『最後の魔女・ドロシー』を城に残し、4体の幹部達は街へと出撃していく。各々の配下に、小さなお化け達を連れる可愛い白魔女の群れ――この作戦のためだけに作り替えた、大勢の同胞達を従えて。
サーベラス。レルネ。オズの魔法使い。
それらに混じり、金髪のお下げの少女がひとり、大阪の街へ駆けて行く。
『白魔女のみんな、レッツゴーりん♪ ハロウィンの魔力はいただきり~ん♪』
第七の魔女・グレーテル。『迷い』が欠落した、パッチワークの魔女の一人である。
●ヘリポートにて
「お疲れ様です。今年のケルベロスハロウィンは、関西市民の要望により大阪市で開催する事が決定しました。私達も、早速お祭りに行きたいところですが……その前に、少し厄介な事件が起こりそうです」
ムッカ・フェローチェは、集合したケルベロス達にそう告げた。
ケルベロスハロウィンの舞台となった大阪市。その市街地一帯を、大阪城内に舞い戻ったドリームイーター勢力が襲撃する予知が判明したのだという。
「敵は『最後の魔女・ドロシー』を首魁とするパッチワークの魔女集団と、その配下であるドリームイーターの軍勢です。彼女達はユグドラシルの根と共に大阪城に舞い戻り、全戦力を投入してのケルベロスハロウィン襲撃を企てています」
パッチワークの魔女は勢力として追い詰められており、この作戦を阻止できれば組織として壊滅状態になるのは間違いない。大阪の街とハロウィンを守るため、確実な撃破をお願いしたいとムッカは言った。
「ドリームイーター勢力は『最後の魔女・ドロシー』、パッチワークの幹部が4体、そして『量産型白魔女・エーテル』の大群で構成されています。皆さんには白魔女とパッチワークの幹部を撃破後、大阪城で儀式を行うドロシーを撃破して欲しいのです」
先鋒となる白魔女達は、ハロウィンの魔力を奪う事に最適化されたドリームイーターだ。戦闘力は高くなく、現在のケルベロスなら手こずる事はないだろう。ただし各現場には百体を超える白魔女達が配置されているので、正面から戦えば消耗は必至だ。
「幹部である魔女達は4つの軍団に分かれ、それぞれ白魔女の軍勢を引き連れて大阪市街へと侵攻します。皆さんも他チームと連携しつつ、これを迎撃して下さい。幹部との戦闘は、白魔女の軍勢を突破した後に行う事となるでしょう」
ムッカ班が担当する幹部は『第七の魔女・グレーテル』。かつてジュモーやレリと共に、ユグドラシルの多種族連合を担ったデウスエクスの1体だ。彼女を撃破し、なおかつチームの余力が残っていた場合は、大阪城へと向かいドロシーと戦う事になる。
「ドロシーは、季節の魔法を集める儀式を城内で行っています。他幹部を倒したチームも、余力があれば駆けつける手筈です」
白魔女を倒し、次にグレーテルを倒し、最後にドロシーを倒す。
かなりの激戦となる事は間違いないだろう――気を引き締めるケルベロス達に、ムッカはもう一つ重要な情報があると付け加えた。
今回の作戦に先立ち、死神勢力から磨羯宮にメッセージが届けられた――と。
「死神はこちら側に、『ドリームイーターを阻止し、季節の魔法を奪われないように軍団を派遣する』というメッセージを送って来ました」
メッセージによれば、死神はケルベロスが討ち漏らしたドリームイーターを撃破し、彼らが得ていた季節の魔法を回収する予定だという。それ以上の行動を取る気はないが、攻撃を仕掛けるなら反撃する、との一文も添えてあったそうだ。
「死神はデウスエクスですから信用は出来ません。もっとも彼らは『死者の泉』奪還に私達の力が必要であるため、友好関係を構築しようという意図がある可能性は否定できません」
ただし死神勢力は、ポンペリポッサとの取引でドリームイーター残党を引き入れた事で、季節の魔法の扱い方を習得している。ケルベロスの目を欺く形で、ドリームイーターが集めた魔力を横取りする作戦を行う可能性もあるため、油断は出来ない。
死神とは対エインヘリアルでは同盟関係にあるが、それ以外では依然として敵同士だ。ゆえにこの作戦で死神と戦っても、状況が変わる事はないムッカは付け加えた。
「本作戦では、死神勢力への対応も併せて行う必要があります。彼らの救援を無視するか、あるいは利用するか。それとも敵として戦うか……どの選択にも一長一短がありますので、皆さんで相談して決定して下さいね」
幹部やドロシーを撃破出来ずとも、ケルベロスハロウィンを守り切ればドリームイーター勢力は壊滅するだろう。そうなれば生き延びた残党は、死神や攻性植物の聖王女の諸勢力に吸収される事となる。
「この戦いに勝利すれば、デウスエクスの勢力がまたひとつ潰える事でしょう。ハロウィンを守るためにも、確実な遂行をお願いします」
参加者 | |
---|---|
宵月・メロ(人騙り・e02046) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
人首・ツグミ(絶対正義・e37943) |
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・e49233) |
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604) |
●一
大阪の市街地を、不気味な静寂が覆っていた。
至る所にハロウィンの装いが凝らされた街の中、祝祭を楽しむ市民の影はそこにない。
悪戯好きの幽霊に代わり、街の随所に見えるのはパッチワーク討伐部隊のケルベロス達。そして魚類型死神の大群だ。
「では死神よ、後は任せたのじゃ」
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は、魚類型死神に白魔女・エーテルの迎撃を要請すると、主戦場の脇道に身を隠す。
ウィゼらの部隊は『対グレーテルA班』。同B班共々、白魔女達の対応を死神に任せて、パッチワークの幹部撃破を狙うチームだ。
「夢喰いに荒らされるハロウィンは、今年で最後にせねばのう」
「ああ。死神共をきっちり利用させて貰おう」
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は頷きを返し、デジカメ付きの飛行ドローンで周囲の様子を伺い始めた。
主戦場に展開するのは迎撃担当の2班と、死神の群れ。その遥か前方からは、100体を超える白魔女の大軍が脇目もふらずに突っ込んでくる。両者の間で戦闘が始まるのは、もう間もなくだろう。
「この分なら囮は必要なさそうだな。急いでグレーテルを探そう」
ドローンを操作しながら、マークはぽつりと呟く。
「戦闘で顔を見た敵なら手配書も作れたんだが……ゴッドサイトの方はどうだ?」
「白魔女集団の北側に1体。こっちが本命みたいだね」
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)が、強化ゴーグル型デバイスを覗きながら言った。
「B班も『本命』に向かい始めたみたい。わたし達も急ごう」
「了解ですよーぅ。地に足つけて参りましょうかーぁ」
隠密気流をまとう人首・ツグミ(絶対正義・e37943)を先導に、全員が動き出す。
主戦場を迂回しながら遠くの大阪城に目を向ければ、そこには禍々しい輝きを放つ巨大な光柱が見えた。魔女ドロシーが執り行う魔力簒奪の儀式だろう。
「ハロウィンのイタズラくらいは許しますけどねーぇ。あれは完全にアウトですねーぇ」
そう呟いてツグミはくふふと笑う。
「夢喰いの魔女は存在自体が悪。すなわち粛清あるのみですよーぅ」
「うん。頑張ろうね、ツグミ」
デバイスを元にナビを務めながら、マイヤは大阪の街並みに目を向けた。
通りの家々にはお化けの飾りつけが施され、どこも祝祭の準備が整えられている。平和でありふれた、日常の風景がそこにはあった。
「……復興、どんどん進んでるね」
「ええ。戦争終結から4か月、早いものです」
マイヤの呟きに、宵月・メロ(人騙り・e02046)が頷きを返した。
元来怖がりであるメロは、強敵と戦うときに感じる恐怖も人一倍に強い。だが、大阪の街を守らねばという責任感は、その恐怖さえも抑え込んだ。
「この街が戦場になるのは、これで最後にしないと……!」
「そうだね。行こうラーシュ、わたし達もハロウィンパーティの始まりだよ!」
相棒のボクスドラゴン『ラーシュ』の力強い咆哮に、ぐっと拳を握るマイヤ。
その横で、黒猫型のレスキュードローンを飛ばしていた円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が小声で警戒を促した。
「皆、気をつけて。……いるわ」
そこは大きな広場だった。ほぼ同時にグレーテル班Bも到着し、16名のケルベロス達の視線が広場の中央へと注がれる。
金髪の三つ編みを下げた、小さな夢喰い――第七の魔女・グレーテルへと。
『りんりんり~ん♪ ハロウィンの魔力はいただきりん♪』
「護衛ゼロ、ですか……よほど自信があるようですね」
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・e49233)は通信機型デバイスを操作し、すぐさま他班へと通信を送る。
(「こちら対グレーテルA班。標的を発見しました、これより戦闘を開始します」)
(「此方もグレーテルを確認しタ。戦闘ヲ開始する」)
A班とB班が連絡を送ると、すぐに対白魔女の2班からも応答が返って来た。
(「了解。こちらも丁度エーテル掃討を開始するところだ」)
(「しろの、まじょ、たおしてから、いきます、ね」)
そうして通信終了と同時、A班とB班は左右から分かれグレーテルを取り囲む。この後にはドロシー戦も控えている。1分1秒が惜しい状況だった。
「グ、グレーテル! ……さん、逃がしませんよ!」
呼び捨てが落ち着かないのか、さんを付け足して番犬鎖を構えるメロ。
そんな彼と仲間達をグレーテルは一瞥すると、ぴょこんと立った前髪を揺らし、挑発するようにふふんと笑う。
『たったこれだけの戦力で、ボクを倒せると思ってるりん? 後悔するりん♪』
「後悔するのはてめぇだぜ。悪趣味な恒例行事も、今日限りでお終いだ!」
大見得を切るグレーテルに、狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)が凄絶な笑みを返す。
彼の右腕で地獄の炎が弾け、そして広場は戦場へと変わった。
●二
ハロウィンの魔力を奪わんと、大阪市街へ進軍する第七の魔女・グレーテル。
そこへケルベロスは2班に分かれての同時攻撃を開始した。マイヤはその先陣にまじり、轟竜砲で味方を援護していく。
「行くよ、グレーテル!」
デバイスの力を帯びて発射された竜砲弾が、放物線を描いてグレーテルに命中した。
着弾の衝撃で足止めを受けつつも、魔女の動きは余裕そのもの。直撃のダメージをものともせず、襲い来る攻撃を平然と捌き続けている。
『りんり~ん♪ りんりん♪』
一見すれば可愛い姿の少女。だがその正体は、ハロウィンの魔力でドリームイーター勢力の再興を目論む魔女。手心など加えるケルベロスは、この場に一人も存在しない。
「SYSTEM COMBAT MODE」
戦闘モードを起動したマークが、即座に防御態勢を整えにかかった。
高密度グラビティチェインが回転開始。コア内部で回転の速さを増した二つの重力鎖で、『遠心防御』の抗グラビティフィールドを生成する。
「くふふ。粛清開始ですよーぅ♪」
続けて、BS耐性の力場に包まれたツグミが妖精弓から矢を射る。
標的を追尾する魔法の矢、ホーミングアロー。その一矢をグレーテルは細腕でガードし、迷いなき視線を投げ返した。どうやら最初の獲物を定めたらしい。
『ボクの危険な迷宮、たっぷり堪能するといいりん♪』
言い終えると同時、グレーテルの力で具現化した巨大迷路がツグミら前衛を包んだ。
無限に続くお菓子の迷宮。幾重にも曲がりくねり、そこかしこに罠が潜むフィールドは、迷い込んだ者の体力と精神を瞬く間に奪い去っていく。
出口はどこだ? 罠はどこに? 私は誰? 目の前にいるのは……味方なのか?
「こんなもんで……止まるかよぉっ!」
ジグはシャウトを飛ばして催眠を払うと、力ずくで破った壁穴から戦場に戻った。
間を置かず、マークとツグミ、そしてサーヴァント達も帰還を果たす。その体は、ジグと同じく傷だらけ。状態異常の耐性をもたらす力場は、その殆どが消滅している。
「なるほどメディックね……どこまでもイヤらしい魔女だわ」
危険を察したキアリは、すぐさま妖精靴で踊り始めた。黒猫のデバイスをフルに駆動し、フローレスフラワーズで催眠を残らず除去していく。
だが、仲間達の受けた傷は、依然として深いままだ。グレーテルの火力に肝が冷えるのを感じながら、キアリは急ぎ仲間達に告げた。
「回復できる人はそっちに専念して。アロンは攻撃をお願い」
承知とばかり咆哮をあげ、パイロキネシスを浴びせるアロン。
それと共に、ウィゼは両腕に縛霊手を装着すると、炎上するグレーテルの小さな身体を、左右から挟むように殴りつける。
「一筋縄で行く相手ではない、という事じゃな……!」
中衛から放つ双掌裂界撃の重圧にも関わらず、グレーテルはなおも苛烈な攻撃で二つの班を攻め続ける。そこへ禁縄禁縛呪を叩き込んだ紅緋に、ウィゼは思念を飛ばした。
(「バラバラに攻めては埒が明かぬ。足並みを揃えて削るようB班に要請じゃ!」)
(「了解しました。2班に別れた優位を利用しましょう」)
紅緋はすぐさまデバイスを介して、B班と情報を共有し合う。
敵のポジションと攻撃能力。そして攻撃と回復を班単位で交互に行ってグレーテルを削る作戦。それは即ち、この戦闘が長期戦を余儀なくされるという事だ。
「皆さん、少しの間辛抱して下さい!」
ラーシュから属性インストールを受けたメロは、急ぎ前衛を守護魔法陣で包んでいく。
半年ぶりの戦い、それも敵はパッチワークの魔女。鎖を握るメロの手は小刻みに震え、掌はじっとり汗に濡れている。
――急がないと、ドロシーの儀式が……!
広場の先、大阪城に立つ光柱の存在は、否が応でもメロや仲間達の焦燥を煽る。
一方、グレーテルはそんな彼らの心を見透かしたように、
『ふっふ~ん♪ キミ達全員、城には行かせないりん♪』
心を抉る鍵を手に、更に攻勢を強めていくのだった。
●三
グレーテルとの苛烈な戦闘は、それからも続いた。
魔女は紛うことなき強敵だった。お菓子の迷宮は迷い込んだ者達を催眠で撹乱し、迷いを物質化した刃は切り裂いた者達に強烈なトラウマを想起させた。
一撃一撃の火力が桁外れに高い。そのうえ解呪の力までも付いて来る。
「DAMAGE LEVEL……CATASTROPHIC」
「ガネーシャパズル、力を貸して下さい」
メロは光の蝶でマークを癒しながら、懸命に己を奮い立たせ続けた。
戦闘開始から10分が過ぎた。グレーテルが繰り出す猛攻を、メロとキアリは崖っぷちで必死に防ぎ止めている。仲間を庇ったアロンは既に消滅し、マークも傷だらけ。嘆く暇さえ惜しむように、メロは鎖とパズルを振るい続ける。
(「グレーテルさんも削れてきてる。もう少し時間をかければ……!」)
班単位での回復と反撃。A・B両チームはこの二つを1分ごとに交互で繰り返し、着実にダメージを与え蓄積させていった。対するグレーテルも、鍵に刃に迷宮にと、まさに猛牛のごとき勢いで暴れ続ける。
『牛の被り物を脱いだボクの力、思い知るりん♪』
得意げに胸を張るグレーテル。そこに、すかさずキアリが挑発を投げた。
「あら、ホルスタインのアレ? 御大層な自信の割には……ふっ。絶壁ね」
『ふっふ~ん♪ まだ強がりを言う元気が残ってるりん?』
そうしてジグへ放たれた大鍵を、マークが肩のシールドで庇った、正にその時――紅緋のデバイスから、チーム全員に通信が届いた。
(「対白魔女班から連絡。戦闘が終わり、間もなく此方に着くそうです」)
待ちに待った、援軍の報告。
それから1分も経たぬうち、対白魔女の2班が広場の端へと殺到してきた。かなりの激戦だったのだろう、浅くない傷を負った者もちらほらと見て取れる。
「大丈夫か!? 助太刀に来たぞ!」
「個人的には平和なハロウィンを希望しますが、そのためにもお仕事がんばりましょうか」
応援の仲間から薬液の雨が放たれた。
ドローンを介した回復支援は、深手を負ったマークらを瞬時に癒していく。
マークはそれに応えんと踵のパイルバンカーで脚部を固定し、アームドフォートを展開。主砲の一斉発射をもって感謝の号砲とした。
もう防戦に回る必要はない。ここからは反撃の時間だ。
「XMAF-17A/9――OPEN FIRE」
戦闘開始から16分。砲声が轟く中、最後の攻撃が始まった。
ケルベロス4班からなる一斉攻撃。砲撃と魔法と斬撃が降り注ぐなか、みるみる傷を増やしていくグレーテルめがけ、マイヤが時空凍結弾を発射する。
「いけえええぇぇっ!」
金色のルーンアックスの一振りが放つ弾丸が、魔女の額に直撃。そこへ続けて殺到するのは、メロと紅緋の連携攻撃だ。
「ごめんなさい、グレーテルさん……!」
メロの手から、番犬鎖が勢いよく放たれた。
全身を凍らせ、凍傷を深めていくグレーテルを猟犬縛鎖が絡め捕る。グレーテルは束縛を解こうと力を込めるが、紅緋の戦術超鋼拳はそれを許さない。一発二発と拳がめり込む度、魔女の衣服が破られていく。
「次の機会など与えません。その首、もらい受けます」
「うむ、お騒がせなハロウィンは今年で終わりじゃ!」
びしっと天を指さしたウィゼが、アヒル型の巨大ミサイルを召喚した。
照準セット、発射。ラッパ型の嘴で超鋼拳の一撃を再現したアヒル真拳奥義『幻武極』がまっすぐにグレーテルへと着弾し、その服を更に裂いていく。
だが――まだ浅い。もう一押し必要だ。致命打となり得る高火力の一撃が。
それを察知したキアリは最後の力で『歌詠』を絶唱し、仲間の心を奮い立たせる。
「ジグ、ツグミ。お願い!」
寓話六塔戦争。グランドロン迎撃戦。そしてユグドラシル・ウォー。
数々の事件で暗躍を続けた魔女グレーテルに、今こそ終焉を――願いを込めた純白の花弁を浴びて、ジグとツグミが動き出す。
「魔力をくれてやる気はないんでな。抉らせて貰うぜ、グレーテル!!」
四方八方から攻撃を浴びるグレーテルめがけ、ジグが一直線に駆け出した。
一呼吸で肉薄し、地獄化した右腕で魔女を鷲掴む。
そうして放つのは『アンチエネミーシェイキング』、地獄の零距離号哭だ。
「■ケ。■■ハ■絶シ、涙■■■凍■ツク嘆■■河■■我■■■■再臨ス――」
地獄化した声帯が放つ言葉が、グレーテルの心を恐怖で塗り潰していく。
なおも迷わぬ視線で、まっすぐに前を見つめるグレーテル。その目に映ったのは、大鎌を構えるツグミの姿だった。
「さてさてーぇ。最期は、魔女らしく火あぶりと行きましょうかーぁ♪」
正義の味方を称するツグミは、全力で鎌を振るう。
容赦はない。悪が許されるのは、粛清された時を置いて他にないのだ。
「自分は貴方を救いません。願いもしないし祈らない。ええ、ええ。神の手など払いのけましょう。それが貴方の結末ですよーぅ♪」
刃が一閃。『正義』の炎がグレーテルを焦がす。
そうして『毒麦と見做せば』を浴びた魔女は、心臓までも灰と化して、
『あれれ!? ボク死ぬりん!? みんなバイバイり~ん!!』
あっけらかんとした言葉だけを遺し、跡形もなく消滅した。
●四
「――終わったようだな」
それから程なくして、戦闘モードを解除したマークが大阪城を指さした。
城にあった儀式の光柱が、ゆっくりと消滅していく。それはすなわち、別働班の仲間達がドロシーを撃破した事を意味していた。
ケルベロスは勝利したのだ。死神達も、じきに元居た場所に戻っていくだろう。
マイヤはふっと安堵の息を漏らすと、笑顔で大阪の街を眺める。
「デバイス初めてだったけど楽しかったー。ラーシュもお疲れ様!」
これより始まるのは、平和なハロウィンの祝祭。
それが夢喰うデウスエクスに脅かされる事は、もう二度とない。
人々の楽しむ姿を思い描き、祝祭の賑わいに胸を躍らせながら、ケルベロス達は帰還の途に就くのだった。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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