ビデオよ、永久に眠れ！

■リプレイ

●都内某所
「……今度はビデオテープレコーダーのロボか」
　ハル・エーヴィヒカイト（閃花の剣精・e11231）は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された倉庫にやってきた。
　この倉庫は個人が所有しているものだが、事前に連絡していた事もあり、何のトラブルもなくスムーズに話を進める事が出来た。
　……とは言え、まわりが住宅街である事もあり、途中で誰かがやってくる可能性もあったため、殺界形成で人払いをする事にした。
「先日VHSビデオデッキと戦ってきたばかりだけど……。当然、ベータマックス側の機器がダモクレス化することもあるよね。枯れ草や……つはものどもが夢のあと……」
　瀬入・右院（夕照の騎士・e34690）が物思いに耽りながら、ダモクレスの存在が確認された倉庫を眺めた。
　倉庫は未だに使われている事もあり、草一本生えていなかったが、中にしまってあるモノは、ほとんど動かされる事がないようである。
　そのため、ベータマックス専用のビデオテープレコーダーも、倉庫の奥底にしまわれたまま、まったく出された事が無かったようだ。
「ベータ？　ビデオ？　……のレコーダーなダモさん？」
　マロン・ビネガー（六花流転・e17169）が、不思議そうに首を傾げた。
　何やら聞き慣れない言葉であるが、おそらく映像記録媒体のご先祖様。
　事前に配られた資料を読む限り、VHSとの戦いで敗北し、歴史から姿を消してしまったようである。
「ビデオテープレコーダーかぁ。話には聞いたことがあるけど、実物は見たことが無いなぁ」
　天司・桜子（桜花絢爛・e20368）が、事前に配られた資料に目を通した。
　そこにはビデオレコーダーの写真も添付されていたが、かなりゴイツ感じのモノだった。
「やはりビデオテープなんて過去の遺物扱いですよね。俺、小さい頃では馴染み深いものだったんですけど……これも時代に流れ。平成や昭和に置いて行かれたダモクレス、リア充共々爆破すべし！」
　霖道・裁一（残機数無限で警備する羽サバト・e04479）が、キリリとした表情を浮かべた。
　だが、ダモクレスと化したビデオテープレコーダーからすれば、望んでいない未来。
　だからと言って、ダモクレスを放っておくという選択肢は存在していなかった。
「古い物には、古い物なりの良さがあると思うのですけどね。まぁ、ダモクレスとなってしまったからには、仕方ないので倒すまでですが……」
　湯川・麻亜弥（大海原の守護者・e20324）が、複雑な気持ちになった。
　ダモクレスと化す事が無ければ、違った結末もあったかも知れない。
　しかし、こうなってしまった以上、破壊するしかないだろう。
「いまや、もっと高性能の記録媒体も多数出ていますから、ビデオテープはあまり使われなくなりましたので、破棄されるのも仕方ないかもですね」
　綾崎・玲奈（アヤカシの剣・e46163）が、何やら察した様子で答えを返した。
　そう言った意味で、使われるのも、仕方のない事。
　だからと言って、ダモクレスと化したビデオテープレコーダーも、同じ気持ちという訳では無い。
　むしろ、逆。
　何処も壊れていないのに、まったく使われる事が無かったため、余計に納得がいかなかった可能性が高かった。
「まぁ、ダモクレス化したのなら、倒すしかないけど……」
　そう言ってリサ・フローディア（メリュジーヌのブラックウィザード・e86488）が、廃墟と化した倉庫をジロリと睨みつけた。
「ビデオテェェェェェプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　次の瞬間、ダモクレスと化したビデオテープレコーダーが、耳障りな機械音を響かせながら、倉庫の壁を突き破って、ケルベロス達の前に陣取った。

●ダモクレス
「まぁまぁ原形を留めてはいるが……どのみち廃棄だな。一時停止とは言わずともスロー再生くらいには刻ませてもらおう」
　ハルがダモクレスに視線を送り、スターゲイザーを繰り出した。
「レコォォォォォォォォォォォダァァァァァァァァァァ！」
　その一撃を喰らったダモクレスが、バランスを崩してヨロめきながら、耳障りな機械音を響かせて、超強力なビームを放ってきた。
　そのビームの中で、何らかの動画が再生されていたものの、のんびり見ているだけの余裕はなかった。
「一体、何を再生しているのか知らないけど、観ているだけの余裕はないようね……」
　すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、自然属性の盾でダモクレスのビームを防いだ。
「考えるのは後回しよ。まずは素早い動きを封じておかないと……！」
　その間に、桜子が間合いを取りつつ、スターゲイザーを仕掛け、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「ビ、ビ、ビデオォォォォォォォォォォォォ！」
　その途端、ダモクレスがバランスを崩して、倉庫の壁をヘコませた。
　その拍子に、倉庫の中にしまってあったものが、雪崩の如くアスファルトの地面に広がった。
「さぁ、ネオン。一緒に頑張りましょうね！」
　一方、玲奈がボクスドラゴンのネオンと連携を取りつつ、ダモクレスを囲むようにして陣取った。
　その指示に従ってネオンが属性インストールを使い、自らの属性を注入した。
「ビデオテェェェェェプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ビデオテープレコーダー型のアームを振り回し、ケルベロス達に迫ってきた。
　即座にマロンが紙兵散布を発動させ、祭壇から霊力を帯びた紙兵を大量散布し、仲間達を守護した。
「もう君の時代は終わってディスクなんですよ斬り！」
　それに合わせて、裁一が一気に間合いを詰め、凶太刀を繰り出して刺し貫き、刃から伝わる呪詛で魂を汚染した。
「ビ、ビ、ビ、ビ、ビィィィィィィィィィィ……」
　その影響で、ダモクレスが激しく痙攣し、真っ黒なオイルを撒き散らした。
　この様子では、心の中に芽生えたトラウマと戦っているのだろう。
　まるでベータマックスのビデオテープを求めるかの如く、天に向かってアームを伸ばした。
　だが、そこには何もない。
　ダモクレスが見ているのは、単なる幻。
　それ故に、どんなに頑張ってアームを伸ばしても、掴み取る事は出来なかった。
「戦闘中に余所見とは、随分と余裕ですね」
　その隙をつくようにして、麻亜弥がブレイズクラッシュを仕掛け、地獄の炎を黒海の大碇（簒奪者の鎌）に纏わせ、ダモクレスめがけて叩きつけた。
「ビ、ビ、ビ、ビィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　それと同時に、ダモクレスの身体が地獄の炎に包まれ、悲鳴にも似た機械音を響かせた。
「熱いのは嫌ですか？　それなら、冷やしてあげましょう」
　玲奈がネオンと連携を取りつつ、ボルトストライクを仕掛け、自らの拳でダモクレスを殴りつけ、氷属性の爆発で追い打ちをかけた。
「テープレコーダァァァァァァァァァァァァァァァァ！」
　次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ビデオテープレコーダー型のミサイルを飛ばしてきた。
　アスファルトの地面に落下したミサイルは次々と爆発し、大量の破片を飛ばしてきた。
　それが鋭い刃物になって、ケルベロス達の身体を容赦なく切り裂いた。
「大丈夫よ、落ち着いていれば必ず助かるから」
　リサが鎮めの風を発動させ、竜の翼から仲間の心の乱れを鎮める風を放った。
　それに合わせて、右院がフローレスフラワーズを発動させ、戦場を美しく舞い踊り、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「ビ、ビ、ビデオォォォォォォォォォォォォォ！」
　その事に腹を立てたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、再びビームを放とうとした。
　だが、ケルベロス達に何度も攻撃された事で、ビームの発射口が壊れているらしく、そこからは何も発射されなかった。
「それ以上、暴れるのであれば、鋭き角の一突きで、貫いてあげますよ……」
　すぐさま、麻亜弥が暗器【カジキの角】（アンキカジキノツノ）で、カジキの角の様な鋭く尖った武器を服の袖から取り出し、ダモクレスを一突きした。
「レコオダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ！」
　その一撃を喰らったダモクレスが、悲鳴にも似た機械音を響かせ、真っ黒なオイルを撒き散らした。
「早送りも巻き戻しも出来ないようテープの動き止まるべし！」
　それと同時に、裁一が嫉妬暗殺術（カップルシスベシ）を仕掛け、気配を消して接敵し、ダモクレスに怪しい薬物を投与した。
「テ、テ、テ、プ、プ、プ……」
　その途端、ダモクレスが小刻みに震え、身体が痺れて動かなくなった。
「これで昭和に帰るがいい。令和の時代に君ではついてこれまい。さあ、永久に眠れ。……さよならだ」
　次の瞬間、ハルが絶技・天翼崩陽刃（テンヨクホウヨウジン）を仕掛け、翼状に展開した3対6本の剣をビットのように縦横無尽に飛行させ、全方位からダモクレスを斬り刻んだ。
「テェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェプ」
　その攻撃を喰らったダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、大爆発を起こして完全に機能を停止させた。
「……凄い！　派手に散る悪役みたいなのです」
　それを目の当たりにしたマロンが、瞳をキラキラと輝かせた。
「ダモクレスさん、ゆっくりと眠りについてね」
　桜子がなむなむと両手を合わせ、ダモクレスの冥福を祈った。
　おそらく、ダモクレスにとっては、不本意な最後。
　望んでいたモノも手に入らなかったため、余計に無念だったかも知れない。
「ひょっとして、ベータマックスのテープがあったら、大人しくする事が出来たのかな？　今となっては、どうする事も出来ないけど……」
　右院が複雑な気持ちになりつつ、ヒールで辺りを修復し始めた。
　おそらく、ダモクレスが求めていたのは、ベータマックスのテープ。
　それさえあれば、まったく違った結末になっていたかも知れない。
　そんな中、裁一はマロンを連れ、面白い映画のビデオを借りるため、レンタルショップに向かうのだった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年10月19日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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