死せる龍の骨と、群雲の兵

作者:baron

 夜も更けた城ケ島の空に干からびた龍が出現した。
 それだけならば人類にとって行幸だったかもしれないが、続く光景で容易く変転する。
『グ……ラティ……ビティ……』
 現れた無数のニーズヘッグが干からびた龍を瞬く間に食い尽くしていく。
 食い千切られた骨が地面に落下すると、次々と骨の兵士に変転し始めたのだ。
 やがて竜牙兵たちはグラビティを求めて動き始める。


「竜業合体によって本星から地球を目指すドラゴン達の内、本隊に先行しながらも地球に辿り着けず、力を使い果たして宇宙を漂っていたドラゴン達が居ます。彼らはニーズヘッグの集めた力に導かれるように地球上に転移してきたようですね」
 セリカ・リュミエールが城ケ島の地図を手に説明を始めた。
 既に知っている者はあの件かと頷き、知らない者は真剣な表情で見守っている。
「問題なのはこのドラゴンの肉体にあった全ての骨が、ニーズヘッグの力を注がれて竜牙兵へと姿を変えているのです」
 産み出されたばかりの竜牙兵は強敵とまでは言えないが、とにかく数が多い。
 更に問題なのは、やがてやって来るであろう仲間の為に、グラビティを集めようとしている事である。
「この竜牙兵は一定数が揃うと溢れるように街を目指します。その前に阻止をお願いします」
 敵は弱いが、だからこそ並みのケルベロスでは勝てないほどの力が集まるのを待って侵攻しているらしい。
「まず先に説明しておきますが、事件が判明してより既に避難勧告は終わっています。あふれ出す竜牙兵を倒すことが任務ですので、ご安心ください」
「さすがに無数の竜牙兵を相手にしながら住民は守れないしな」
「そこは助かるけどとにあっく数が多いじゃない? 能力が判ってるなら説明して頂戴な」
 セリカの説明にケルベロス達は安堵しつつ、解説の続きを待つ。
 彼女は説明の前に二本の指を立てた、どうやら二種類いるらしい。
「中枢となるのはドラゴンの血肉を浴びた赤い個体たちです。彼らは星剣を持ちそれなりの戦闘力を持ちます。しかし大多数の白い個体は弱いのか、基本的には遠距離攻撃を繰り返すのみです」
「なるほど弱兵らしい戦い方だな」
「ダガ勇将の元に弱兵ナシだ。指揮個体が強ければ侮れマイ」
「いかにもいかにも」
 なんでもゾディアックソードを使う精鋭が指揮個体の周囲におり、そのほかは基本的に雑魚らしい。だが戦いは数であり、相手は対ケルベロスを考えて数を揃えているのかもしれない。油断は禁物だろう。
「竜牙兵の数は多いですが無限ではありません。迎撃によって数を減らせばニーズヘッグの拠点への強行調査などが実行できるようになるでしょう。敵の本隊が辿り着く前に解決したいところですね。みなさんの無事とご活躍をお祈りしております」
 セリカはそういうとヘリオンやメンバーに合わせたデバイスの準備に向かったのである。


参加者
三和・悠仁(人面樹心・e00349)
武田・克己(雷凰・e02613)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ


 城ケ島の沿岸に辿り着いたケルベロス達。
 そこに居たのは無数の竜牙兵。もはや親の顔よりも見慣れたという者すら居た。
「え、ちょ、多っ!! 押し寄せる敵なのです!!」
「うわ、すっげー数だな。圧巻というかなんというか」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)は目を真ん丸にして驚き、長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は苦笑を浮かべた。
 あこの御め目は最初からパッチリしているのです。とか言ってはいけない。
「流石にこんだけ雁首揃えて街にこられても迷惑な話だし、もういっちょ眠ってもらうとするか」
 千翠は苦笑しながら軽い運動を始めた。
 軽装で来ているが、あれだけの数を相手にするなら走り回る必要があるだろう。
 正確には走るではなく、飛翔しながら戦うというべきか。
「こ、こ、こわくは……あるのですが……ないのです!! これ以上進ませないためにも、最前線を護るのです!」
 あこは小声でボソボソ言っていたからか、猫が首を掴まれるような感じで浮かび上がった。
 早速に誰かがデバイスで飛行を始めたのだろう。
 しかしコレだと竜牙兵怖いのだが、空飛ぶのが怖いのだか判らないのです。
「びゅんびゅん飛ぶぞー!」
 グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)は今日も軽快を空を飛ぶ。
 なるほど貴女でしたかと、友人たちは訳知り顔で納得した。
「ジェットパックー! 飛ぶぞー!」
 まるでヒーローの様に装備の名前を叫び、希望者を募って浮かび揚がらせる。
 誰ですヴァルキュリアは自分で飛べるから気にしなくて良いだろうとか。
 グラニテはアイスエルフなので、こういう時に飛べるのは物珍しくてうれしいのだ―。
「重くない……わよね? ていうかソレ、ペンギンじゃない」
「だいじょうぶ、だー。まだまだいけるぞー。絵や想像の中では飛べるぞー!」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)はグラニテの生返事に不満を覚えた。
 別に怖いわけではない、重いのを否定してくれないとこれではた自分が体重を気にしているようではないか!
 しかしグラニテに空気を読めと言う方が無茶だろう。
「そこはちゃんと体重は重くないかと言うべきなのです」
「余計なお世話よ!」
 なんてやり取りがあったかは置いておこう。

「状況開始。一匹たりともここを通さず全て撃破する。皆全力を尽くしてくれ」
「了解です。問題ありません」
 ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)がデバイス越しに号令をかけると三和・悠仁(人面樹心・e00349)の反応が地上から帰って来る。
 どうやら彼はサーヴァントたちと一緒に地上班を務めるようである。
「指揮官と雑魚どもか。どんな奴らだって指揮する奴がいると厄介だ」
「雑兵の集まり……とはいえ、個を数で討つのは単純ながら有効。それは当然身を以て知っていること、ですので。油断なく、全て折り潰すとしましょう」
 一直線に敵指揮官へ向かう武田・克己(雷凰・e02613)と違い、悠仁はどっしりと構えて少しずつ接近していく。
「そろそろ目標の居る場所だ。連携して波状攻撃を仕掛けるぞ」
「了解。指揮官から潰して、あとは簡単に済ませたいもんだな」
 ケルベロスは大量の敵に臆することなく、ハルや克己たちが先頭になって敵指揮官のもとへ斬り込んでいく。
「白い砂浜に青い海……に竜牙兵。バカンスロケーションがぶち壊しじゃないの! いますぐに退場してもらうんだから」
「まあ、気を抜かなければ大丈夫だろ……多分」
 レイが気を取り直すと岡崎・真幸(花想鳥・e30330)は頷いて保証してあげた。
(「ケルベロスが強くなってなければかなりの惨状になりそうな数よなぁ……」)
 とか真幸も内心では思っていたわけだが、それを口に出して皆を不安がらせたりはしない。
 大人という者はそんな物だし、危険だったらそれをフォローしておこうと箱竜のチビの方を眺める。
「弱っているとは言ってもドラゴン勢強えな。お前も竜なら頑張らないとな。頼んだぞ」
 真幸はそう言って早速治療の準備を始めるのであった。

 相対距離が縮まっていく中で、先に動いたのはケルベロス達だった。
 普段はデウスエクスの方が強大なので先制されることも多いが、今回ばかりは勝手が違う。
 仲間たちの思いをパワーに、一同は一気に動き出した。
「射程に入った。行くぞ!」
 ハルはその心が高鳴るままに空を疾走し、敵集団の中にいる赤い個体へ向けて飛び掛かった。
 あまりにも早過ぎてデバイスのモニターが追い付かないが、ここまで来ればもはや不要!
 空を滑り白く染まりゆく髪の毛は箒星の如く!
『……』
「止められたか。だがしかし!」
 ハルの一撃に別の赤い個体が立ち塞がった。
 だがその程度は考慮の上だ。見れば仲間たちがすれ違い、代わりに狙いの敵へ攻め寄せている!
「言葉が喋れるのかどうかわからねぇが、お前さんを生かしておくと面倒なんでな。速攻で潰させてもらうぜ」
『グ……ヌ』
 克己はまるで地面を突き刺すかのように降下。
 仲間たちに先立って、敵が遮断するよりも先に斬撃を浴びせたのである。
 克己は確かな手応えを感じるや、蹴り飛ばすようにその場を離れる。
「どけどけどけ! 当たった端から飲み込んでやる。食らい落とせ」
 千翠が黒い波を迸らせながら突っ込んで来た!
 大雑把に呪いの渦に巻き込み、こっちに来るならお前も巻き込んでやるよと竜牙兵を巻き込んでいったのだ。
 その波に当たった物は液体の様なイメージにも書かっ割らず燃え尽きていく!
「……っぶねえなあ。抜けなかったからいいが、到着してたら巻き込まれてたぞ」
「何ってんだ。事前に避難しといてさ。だいたい俺が味方に当てるかっての」
 軽口を叩く克己に、千翠は豪快に笑いながら棒でドンと地面を着いた。
 すると波はどこかに消えて途端に周囲は静かになっていく。
「歩いても、歌っても、嘆いても。きみの周りが変わってくれないなら、なー? その時には他でもない、自分自身から――」
 そこへグラニテが合流。骨のように真っ白な、雪の様に真っ白な空間に竜牙兵たちを閉じ込めていく。
 何処にも行けない空間、何も変わらない空間。それをイメージしてちょっと寂しい。
「見渡す限りの竜牙兵、有象無象って感じね。どこに攻撃したって外れそうにないわね!」
 一方でレイはいつもの様に元気である。
 ……本当は緊張したりもするけれど、今日も元気です。
「足元を凍らせて敵の進軍を遅らせる……試してみよーっと♪ 思い出しなさい……何もない宇宙で凍り付いた記憶を!」
 レイが一瞬だけ着地しながら冷気を放つと、周辺が瞬時に凍り付き始める。

 流石に精鋭らしき赤い竜牙兵は問題ないが、同じ場所に居た普通の竜牙兵たちは凍り付いていった。
「おっ……凍ってるぞー。きれいだなー」
「ふむ。攻撃を受けたわけではないのか。なら先にすべきことがあるな」
 グッタリしてたグラニテが氷を見て気分を直したので、真幸は援護を始める事にした。
「その前に、あこたちの出番なのです!」
「まあ、その。そういう事です」
 あこだって参戦するのです!
 もちろん悠仁が居るのも忘れてはいけない。
「えーとえーと、こういう時は強化をするのです!」
 あこは木槌を持って、足元にコンコンした。
 すると仲間の周囲が輝き、イケメンが超イケメンになったような気がする。
「……まずは攻勢の援護ですかね」
 悠仁は状況を推進させるために爆風を吹かせた。
 その風に乗って前衛の動きが増し、加速して攻撃が可能になるだろう。
「私もそうしたいところだが、先に防壁を張った方が良いかな。流石にこの数は雑魚でも脅威だ」
 真幸は星剣の加護を広げ、前衛たちの周りに結界を張った。

 今まさに敵が攻撃を放とうとしている所であり、その助けがどれほど重要か分かろうというもの。
 精鋭である四体の竜牙兵が動き、遅れて普通の個体も動き始めている。
『ケチラセ』
『オオォ!!』
 指揮官らしき赤い竜牙兵が剣を掲げると、その指示に従って敵が群がって来る。
 先陣を切るのはやはり剣を持つ精鋭たちだった!
「……行け」
「あこ達もいくのです、ベルもやるのです!」
 悠仁はキャリバーのウェッジに仲間の盾に成れと指示を出し、自らも剣を受け止める。
 そして翼猫のベルもまた、あこの指示で仲間たちを庇い始めた。
 だが流石に数が多い、最初に動く精鋭たちの頃ならまだ集中力が続くが、次々に撃ち込まれる光や骨の中には防ぎきれないモノもあった。
「はっ! この程度か! 風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
「チビ。回復を」
 克己が血笑いを浮かべながら啖呵を切ると、真幸はすかさず箱竜に回復をさせる。
 見れば他のサーヴァントたちは、ケルベロス達に近づけまいと、群がる敵をなぎ倒していた。
「倒れるよりも先に倒せば問題ありません。この数は今だけですから」
 悠仁の奮戦は屍の山の中にあって、自分がその中に埋もれても良いとでも言わんばかりだ。
 しかし彼の言う事もまた真実。数が力になっているのであれば、数が居無くなれば負けないのは道理。
 そして攻撃の中でも危険なのは、あくまで精鋭である赤い竜牙兵の攻撃なのだ。
「確かに! このまま打ち倒すぞ。心配するよりもその方が速い!」
 ハルは飛行して突撃しながら両手に構えた刃を回転させる。
 常ならば弧を描くような動きしかできないが、空にあっては例え錐揉み回転ですら可能だ。
 空を飛ぶ種族ではないシャドウエルフの彼であるが、ハルに取ってその程度の動きに馴染むのは容易かった。
「そういうこったな! こんなものは運が悪かっただけだ! さっさと潰してしまえば問題ない!」
 克己は空間ごと竜牙兵を切り裂いていく。
 既に度重なる攻撃を受けて深く傷付き、倒せないまでも今にも膝を着きかねないところまで追い込んでいく。
「あと少し! ……くっ。邪魔だ!」
 千翠がトドメを刺しに行くが敵の阻まれてしまった。
 だが彼の勢いはまさに大車輪! 吹っ飛んでいく雑魚共によって、火花が周囲に散るほどである。
 敵の盾役は深く傷ついてこちらも倒れそうになる。
「任せろ、ばりばりー……。あたると痛いぞー、さむいかもしれないけどなー」
 ここでグラニテが目標を変えて、すかさず突っ込んだ。
 自身の力を開放しながら、次々に連続攻撃を放ちラッシュを決めた。

 ここで最初の一体、いや二体目がほぼ同時に崩れ去る!
「ふっふーん、これで敵は竜合ならぬ烏合の衆ね♪」
『オノ……レ』
 レイはアイススケートの様にポーズを決めながら手刀を浴びせたのだ!
 クルリとドヤ顔まで決めて得意げである!!
『コロセ!』
『コロセ、コロセ!』
 まあ竜牙兵たちが復讐しようとワラワラ向かってくると、涙目になってしまうんですけどね。
「にぎゃー!」
「ニャー! あと半分なのですー!」
 レイは頑張って避けようとしたがむしろ、あこに押し倒されるよう庇われ苦労した。
 じゃれつくようにカバーされた結果だが、モフモフとしていて断り難い。
 エッチだったらお断りするところであるが、仕方ないのでカバーさせてあげるんだからねと言ってしまった。
「三毛もクロもキジトラも♪ 尻尾の千切れた子も折れて曲がったビリビリ尻尾もみんな仲良くにゃにゃにゃん、にゃん♪」
 あこはそのまま翼猫のベルと一緒にグルグル回る。
 後ろの正面ニャンコだらけ、お盆もハロウィンも霊が大忙しでみんな回復タイムなのです!
「退け、邪魔だ」
 悠仁は周辺を爆発させて一息ついた。
 ガラガラと竜牙兵であった残骸が吹っ飛び、仲間たちは息を吐くと同時に爆風に乗って更なる攻勢をかける。
 足りなければ追加で癒せばよいし、その担当には専門の仲間がいる。
「少しは自愛して欲しいものだね。これではキリがない」
「自分から当たりに行くのが役目です」
 真幸が癒しの光で周囲を切り裂くように仲間を包み込むと、悠仁は言葉を和らげて否定する。
 盾役だから傷つくのは仕方ない。そういう彼に真幸は苦笑しながらチビも呼んで、多重のヒールを掛けるのであった。

 そして更なる時間が過ぎ、精鋭である赤い個体が全滅すると戦況の変化が激しくなった。
「よし! こいつで終いだ! 残りを片付けろ!」
 克己の剣閃で赤い竜牙兵が爆発、試算していく。
 戦いの天秤はとっくにケルベロスの方に向いていたが、加速度的に竜牙兵が消えて行くことになる。
「掃討戦だ。みんな、よく我慢してくれたね」
 ハルは次々に敵を屠り、まるで流れる水の如く敵を始末していく。
 その動きが止まるのはガードされたからではなく、敵陣が途切れたからだ。
「よーし! 誰が沢山倒せるか競争しようぜ!」
「お? おー! 頑張るのだー。真っ白シロスケー~」
 千翠が無造作に棒を振り回すと、グラニテは小首を傾げた物のウンウン頷いて続いていった。
「ちょっと! あんたら攻撃役なんだからズルイじゃない!」
「……逃がさないように戦う方が重要だともいますけどね」
 レイはポジションの違いに文句を付けつつ、よく見たら格好良い兄貴たちに囲まれてる方がズルイと抗議する。
 そんな様子を眺めていた悠仁は、自分の治療もそこそこに敵の掃討に加わった。
 逃がさないように注意して、ウェッジと共に外周の敵から倒していく。
「そういう問題じゃないと思うのだがねえ」
 これには真幸も苦笑い。真顔で苦言を呈しつつ残っている傷を治していった。
「終わりよければすべて良しなのです!」
 デバイスの力もアリ、次々に吹っ飛んでいく竜牙兵。
 それを見ながら、あこは笑顔で追いかけて行った。その様子はボールを追い掛けたくなる猫の様であったという。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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