ジュモー最終決戦～激突、暴食と妖星！

■リプレイ

●本音と建前
　木の根が繭の如く固まって形成された奇怪な球体。そこに開けられた亀裂目掛け、空から無数の星が落ちてくる。
　いや、星というには、いささか大きさが小さ過ぎる。その正体は、植物を纏った機械の球体。一見、特殊な力を持たないように見えるものの、巨体を生かした純粋な質量攻撃は、ある意味ではどんな爆撃や砲撃よりも強力だった。
「どうやら、既に始まっているようだな」
「うん……。できれば、どちらもまともに相手にしたくはないよね……」
　遠間から様子を窺うジョルディ・クレイグ（黒影の重騎士・e00466）に、影渡・リナ（シャドウフェンサー・e22244）が頷いた。敵の拠点から現れ、球体を押し返さんと奮闘しているのは、暴食機構グラトニウムだろう。こちらを優先して狙って来ないのは幸いだが、しかし数は決して少なくないため、正面から相手をするのは得策ではない。
「グラトニウムは、まだこっちに気付いてない？」
「ああ、恐らくは……というか、気付いたところで、スファイリカを相手にするので手一杯で、こちらに手を出す余裕はないだろうさ」
　リリエッタ・スノウ（小さな復讐鬼・e63102）の問いに、ジークリット・ヴォルフガング（人狼の傭兵騎士・e63164）が答えた。彼女の言う通り、グラトニウムは落下してくるスファイリカの巨体を受け止めるので精一杯。パワーなら負けてはいないのだろうが……なにしろ、相手の数が多過ぎるため、いずれは押し負け、潰される定め。
　このまま放っておけば、いずれグラトニウム達は全て潰され、ジュモーの研究成果は持ち去られてしまうことだろう。ならば、こちらとしてはグラトニウムを一時的にでも援護し、拮抗を保ってもらうのが一番なのだが。
（「グラトニウムの群れ……。ナターシャさんにとっては、悪夢のような光景ではないだろうか……」）
　ふと、イッパイアッテナ・ルドルフ（ドワーフの鎧装騎兵・e10770）は、ナターシャ・ツェデルバウム（自称地底皇国軍人・e65923）のことが気になった。
　彼女にとって、グラトニウムは親しき者達を殺めた憎き相手。その相手を前にして、倒すどころか、むしろ延命させるような戦い方をせねばならないとは。
「まさか、奴らを全滅させないように戦わねばならぬとはな……」
　案の定、スファイリカと激突するグラトニウムを見つめるナターシャの表情は険しかった。本当ならば、一刻も早く飛び出して、あの巨体を完膚なきまでに叩き潰したい。そう、心の内では思っていても、しかし決して足並みを崩すようなことはしないと誓っていたが……そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）が目の前でコインを投げ。
「おい、何のつもりだ、今のは？」
　作戦前に運試しなど縁起でもないと、ジークリットが泰孝を諫めた。だが、それでも泰孝は何ら悪びれることなくコインを受け止め、意味深な笑みを浮かべてみせた。
「なに、ツンデｒ……ナターシャの嬢ちゃんが因縁晴らせるかの、な」
「……っ！？」
　次の瞬間、ナターシャの顔に怒りの色が浮かぶと同時に、周囲の空気が凍り付いた。辺り前だ。運の良し悪しに関係なく、今回の作戦を成功させるためには、グラトニウムを完全に殲滅してはいけないのだから。
「今の言葉……冗談にしては、少しばかり趣味が悪過ぎますよ」
「ん、この作戦の目的、分かって言ってる？　だとしたら、ちょっと無神経過ぎ……」
　イッパイアッテナとリリエッタが、それぞれ泰孝に冷たい視線を向ける。
　最悪だ。まだ戦いも始まっていないのに、このままでは感情に流された者から足並みを崩し、作戦が崩壊し兼ねない。
「我々でいがみ合っている場合ではないぞ。既に他の班も行動を開始したようだからな」
　慌ててジョルディがその場を収めたが、どうにも嫌な雰囲気は拭えぬまま。それを払拭すべく、アデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）は先んじて前に出ると、高々と大鎌を掲げて走り出した。
「敵の科学者が敵から裏切り者と断罪されると、創作とかでは心を入れ替えて正義に目覚めると言ったことも多いが……現実ではそうはいかんようじゃのぅ……。なんであれ、この地球で悪の芽をこれ以上芽吹かせるわけにはいかぬ！」
　本音はどうあれ、ここで立ち止まることは許されない。出遅れ過ぎれば、同じ任務に就いている、他の班の負担を増やしてしまう。
　自分達の目的は退路の確保。故に、失敗すれば仲間の命に関わる大惨事。
　もはや、各々の感情を丸出しにすることで、隊列を崩すことは許されなかった。気持ちを押し殺し、半ば強引に平静を保ちつつ、ケルベロス達はグラトニウムと激突を繰り返すスファイリカに向けて、一斉に攻撃を開始した。

●心、殺して
　ぎくしゃくした形のまま始まった作戦だったが、いざ開始されてしまえば、ケルベロス達は私情を殺して黙々と任務に集中した。
　激突する二つの怪物。その内の片方であるスファイリカの背後に回り込み、彼らはグラトニウムと挟撃する形で、果敢に攻撃を仕掛けて行く。
「今は作戦の最中ですから、これ以上は何も言いません。泰孝さん……立ち回りは、理解されていますね？」
「ああ、問題ない。さぁて……まずは少し、遊んでやるとするかねぇ」
　イッパイアッテナから幻影の力を与えられ、泰孝はニヤリと笑ってライフルを構える。果たして、どこまで本気なのか掴み兼ねる雰囲気だったが、それでも彼の放った光線は、周囲の空気を凍らせながら、スファイリカへと直撃した。
「やった！？」
「……いや、どうやらそう簡単には行かぬようだな」
　続けて仕掛けようと飛び出そうとしたリナを、ジョルディが止めた。見れば、スファイリカが凍り付いたのは周囲の植物部分だけで、中は殆ど無傷のまま。おまけに、早くも凍った植物を払い除け、新たな植物が全身を覆おうとしていたのだから。
「やっぱり、一筋縄じゃ行かないね。でも……」
　それでも、何度も凍らせて行くしかないと、リリエッタが星辰のオーラを飛ばして行く。再び凍り付くスファイリカ。そして、その全身を覆う植物の隙間を狙い、アデレードがカプセルを投げ込んだ。
「よし、上手く行ったぞ！　皆の者、今が好機じゃ！」
　アデレードが叫ぶと同時に、残りの者達が一斉に駆け出して行く。彼女が投げたのは、対デウスエクス用のウイルスカプセル。さすがに、内部から侵食されてしまえば、その超絶的な回復力も抑制できるはず。
「守りはこちらに任せてくれ。機会は逃すべきではない」
　本当は自分も攻撃に加わりたい気持ちを必死で抑え、ナターシャが防御の鎖を展開しながら言った。できることなら、自分もあの巨大な球体を破壊してやりたい。グラトニウムと戦えぬのであれば、せめてその憂さだけでも晴らしたいとは思っていたが……彼女の役割は、仲間を守りつつ後方から的確な指示を下すこそ。チームの指揮官が勝手な行動を取れば、その瞬間に作戦が瓦解することぐらいは理解していた。
「グラトニウムにも気をつけろ！　やつはあくまで、施設を防衛することしか考えていないからな！」
「ならば、スファイリカを盾にするぞ。流れ弾を食らうのを、それだけ避けられるはずだ」
　ジョルディの戦斧が、ジークリットの太刀が、次々にスファイリカの周囲を覆う植物を破壊して行く。さすがに、これは腹に据え兼ねたのか、スファイリカはケルベロス達に標的を変えようとするも。
「させないよ！　……はぁぁぁっ！！」
　こちらを圧し潰さんと迫る巨体に向かい、リナが敢えて刃を納め、拳を構える。素手での格闘は得意とする戦い方ではないが、それでも全身を覆うオウガメタルを、拳だけに集中させれば。
「……ッ！？」
　轟音と共に、弾き返される巨星。体格差を物ともせず、リナは拳の一撃で、スファイリカを吹き飛ばしたのだ。
「痛ぅ……。やっぱり、ちょっと無茶だったかも……」
　それでも、オウガメタルを突き抜けて響く衝撃に、思わず拳を抑えてしまった。だが、吹き飛ばされたスファイリカはグラトニウムに直撃し、怒ったグラトニウムはケルベロス達のことなど眼中にないまま、スファイリカに更なる攻撃を加えていった。

●タイムアップ
　攻撃しては、直ぐに退く。単調な作業の繰り返しにも思われる戦いは、気が付けば既に開始から20分程が経過していた。
　だが、単調に見えるのは、あくまで何も知らない者からすればの話だ。戦っている当人達からすれば、戦況を調整しつつ自らが目立たぬよう立ち回らねばならないため、常に全神経を集中させることを要求されているのだから。
「ジーク、あっちのやつ、もう限界っぽいよ」
「任せろ、リリ。如何に再生が早かろうと……斬るのみ！」
　度重なる戦闘の蓄積ダメージを隠し切れなくなったスファイリカ。リリエッタの投げた大鎌が命中したところへ、駄目押しとばかりにジークリットが斬り掛かれば、巨体が火を噴き墜落して行き。
「えぇと……今、どれくらい倒したっけ？」
「グラトニウムも合わせ、だいたい半分くらいでしょうか？　あそこで戦っているのは、既に同士討ちを始めているようですね」
　倒した敵の数を数えるリナに、イッパイアッテナが指差ししながら告げる。見れば、彼の相棒であるミミック、相箱のザラキの手によって、既に何体かのスファイリカは混乱し、周囲の存在に手当たり次第に体当たりを仕掛けているようだった。
「有象無象が見境なく乱戦か。こりゃ、勝負あったようだな」
　ライフルの光線で牽制しつつ、泰孝が肩を竦めた。周囲にはスファイリカだけでなく、多数のグラトニウムの姿もある。だが、その大半はケルベロス達によって仕留められたものというよりも、スファイリカとの戦闘で力尽き、宝玉と化したものだった。
「今のところ、戦力の拮抗は上手くいっておるようじゃが……」
　アデレードが心配そうに、ナターシャの顔を覗き込んだ。己の手で止めを刺せないとあれば、その心情はさぞや複雑なことだろうと思ってのことだったが……そこはナターシャもプロだ。あくまで私情を押し殺し、今は任務に集中していた。
「問題ない。まずは、あの不気味な星を片付ける」
　グラトニウムへ仕掛けたい気持ちを抑え、ナターシャはスファイリカへと呪いをかける。彼女の美貌は、機械でさえも魅了するのか、スファイリカの動きが突如として鈍くなり、地に落ちた。
「そろそろ頃合いか？　だが……」
　そんな中、ジョルディが顔を上げれば、その先に見えたのは一際巨大なスファイリカ。姿形こそ周囲のスファイリカと似ているが、その存在感は圧倒的。
「似て異なる力……貴様がボスか！」
　あれが親玉だ。そう察し、ジョルディは駆けた。が、彼の繰り出した自慢の一撃は、巨体によって軽々と弾かれた。
「……なんと！？　しかし、まだ負けたわけでは……」
　勝負はこれから。正にそんな時ではあったが、しかしそろそろ撤退の時間だ。施設内での任務を終えた仲間達が、こちらに戻って来たのである。
「時間だ、退くぞ。彼らの退路を確保しろ！」
　後方から響くナターシャの声。彼女は最後の最後まで、任務に忠実な軍人で在り続けた。

●最後の断罪
　撤退するケルベロス達の後方で、なおも激突を続ける巨体と巨体。全ての敵を倒し切れなかった以上、スファイリカとグラトニウムの戦いは終わらない。
「退路は俺が守る！　今の内に、早く退くのだ！」
　流れ弾を他の仲間が受けないよう、ジョルディは盾を構えながら殿を務めた。その前を次々に他のケルベロス達が撤退して行くが……ジークリットだけは、何故か周囲に落ちていた宝玉を拾い集め、それをナターシャへと渡していた。
「ん、どうしたの、ジーク？」
「少し、やっておきたいことがある。悪いがリリは、先に逃げてくれ」
　突入した者達の中にも、親しい者がいたはずだ。今は彼女達のことが心配だろうと、ジークはリリエッタを先に撤退させ。
「こんなもので良ければ、破壊するのには付き合おう」
「……すまない。協力に感謝する」
　ナターシャと共に、宝玉へ向けて攻撃を開始する。
　そう、彼女が拾っていたのは、グラトニウムのコギトエルゴスム。直接倒すことができずとも、せめて宝玉だけでも破壊させてやれれば、少しはナターシャの気が晴れるかと思ったのだ。
「我が故郷を滅ぼした罪……その身で贖うがいい……」
　ジークリットが重力を纏った衝撃波で宝玉を中に浮かせたところで、そこへナターシャの攻撃が炸裂する。宝玉は次々に砕けて散り、周囲の空気に溶けるようにして、輝きながら消えて行く。
（「どうやら、結果は大当たりだったようだな」）
　彼らの後姿を見ながら、泰孝が心の中で呟いた。戦いの前、彼の行ったコイントスは、今のこの結果を暗示しているものだったから。
「ふむ……本来であれば、ジュモーの言う研究成果とやらを、一目拝みたかったところじゃが……」
「今は、人々や仲間の命が少しでも守られただけでも、好としましょう」
　名残惜しそうに撤退するアデレードの横で、イッパイアッテナが告げた。未だ激突する巨体を背に、ケルベロス達は無事に任務を完了した。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年10月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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