ジュモー最終決戦～鋼の軍団長を妨害せよ！

■リプレイ

●湖畔を駆け抜けて
「ヘリオンデバイス、起動します！」
　デバイスを装着したケルベロスたちが、長面浦を駆け抜ける。
「ダモクレスだらけでありますな。急いだほうがよさそうであります」
　クリームヒルト・フィムブルヴェト（輝盾の空中要塞騎士・e24545）が周囲を見渡す。
『そうでございますね。仕事は迅速にこなすといたしましょう』
　鉄仮面の下から、黒鋼・鉄子（アイアンメイド・e03201）の丁寧ながらエコーのかかった声が響く。普段よりも装甲が追加されているのはヘリオンデバイスによるものだ。
　目指す敵はインペリアル・ディオン。他に２つのチームが同じ敵を目指している。
「湖を干上がらせるなんて、ダモクレスらしいやり方ですね。敵は十二創神アダム・カドモンの近衛軍……ですか」
　葛城・かごめ（幸せの理由・e26055）はぬかるんだ地面を走りながら言う。
「アダムが神なら。イヴでも作るのかね」
　無表情に走りながら、櫟・千梨（踊る狛鼠・e23597）が言った。
　淡々と告げられたそれが軽口だとわかったのは、彼を普段から見知っている者だけだったかもしれない。
「……可能性はいくらでもある。聞いても返答はないだろうが」
　副島・二郎（不屈の破片・e56537）が、包帯に包まれた目を向けた先に、敵はいた。
　マントを羽織り、機械の大剣を手にしたダモクレス。
　ヘリオライダーから聞いていた通り、１２体の護衛に囲まれているのがわかる。
「作戦通り、１方向を開けて３方向から布陣しましょう」
　確認する如月・沙耶（青薔薇の誓い・e67384）の言葉に、仲間たちが頷いた。
「それじゃ飛ぶとするか。普段から飛んでいられりゃもっと楽なんだがな」
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）が帽子を押さえて、装着しているジェットパック・デバイスを起動する。
　彼自身の体が浮き上がり、そしてデバイスから延びる光が中衛や後衛に位置するメンバーをつないで持ち上げる。
　１２体の敵は、四学科と呼ばれる配下たちの量産型のようだ。
　弦楽器のような武器を供えたものが４体に、手裏剣を手にした忍者型の敵が４体。飛竜にも似た砲撃ユニットと、球形をした敵が２体ずつ。
　量産型といってもけっしてザコでないことは明らかだ。
　それでも、ケルベロスたちはその配下を１体でも削って、ダモクレスの将軍を撤退させなければならない。
　番犬たちは臆することなく敵へと接近していった。

●包囲作戦
　ケルベロスたちは、作戦通りに他のチームと分散して、インペリアル・ディオンの軍団へと接近していく。
「元ディザスター軍、フローネ・グラネットと申します！　近衛軍軍団長インペリアル・ディオンとお見受けします！」
　移動する途中、紫の髪をしたレプリカントが名乗りを上げる姿が見えた。
『いかにも』
　鋼の剣士が短く応じる。
　他の者たちもインペリアル・ディオンへと声をかけていた。
　ケルベロスたちはその声を聞きながら、それぞれのポジションにつく。
『では、ご奉仕の時間でございます』
　位置についた鉄子が、必要以上に――無礼なほどに丁寧な動きで武器を構えた。
『……挑むというなら応じてやろう。神機近衛の、武を以てな』
　敵将の、機械の大剣が一閃する。
　３部隊に分かれたダモクレスたちが、ケルベロスたちへと襲いかかってくる。
「指揮を妨害するためにも、できればディオンへの牽制は途切れさせないようにしたいところですね」
『そのつもりでございますが……そうするには敵が少々厚いようでございますね』
　かごめと鉄子がディオンを狙う隙をうかがっているが、強敵ぞろいの戦場ではそれも簡単ではない。
　千梨はその言葉を聞いて、他のチームにいる友人たちへと、マインドウィスパー・デバイスで呼びかける。
（「２人とも聞こえるか？　この調子じゃインペリアル・ディオンに攻撃するのは難しそうだ。協力して隙を作れんかね？」）
「了解だっ」
　聞こえてきた友人の思念が、聞きなれた声と同じく千梨の耳に心地よく響く。
　静かな心で、彼は鬼の冷気が込められた御札を構える。
「まあ背水の陣ではないな。水無いし」
　誰にともなくつぶやきながら、札を飛ばす。
「いざとなれば逃げる心算で、適当に気張りますか、ね」
　魔法の霜で敵を足止めしたところに、仲間たちが攻撃をしかけていく。
　友人の攻撃が衝撃で敵をひるませるのが見えた。
「……騎士として、貴殿に挑みましょう！」
　その隙に、白銀の騎士を先頭にしてもう一方のチームが攻撃する。
「敵将の牽制は任せて、こちらはこちらで役目を果たすとしよう」
　呟くような二郎の言葉に、仲間たちがうなづく。
　３分の１ではなく半数――均等に、それぞれのタイプの敵が半数ずつ、ケルベロスたちへと接近してきた。統制の取れた動きだ。
　容赦なく放たれる飛竜型の光線に、沙耶が妖精の加護を得たロングブーツで走りこむ。
「ボクが皆様を護るであります！」
　そして弦楽器による音波攻撃はクリームヒルトの盾と、彼女のサーヴァントであるフリスズキャールヴが受け止めた。
『回復役から片付けましょう。動きから見て忍者の片方がメディックでございます』
　鉄子がオウガメタルより暗黒の太陽を生み出し、敵後衛を照らし出す。かごめも氷結輪から魔法の霜を生み出していた。
　足を止めたところに、鬼人が敵へ食らいつく炎を放つ。
　攻撃する間に二郎は紙兵をばらまいて前衛の仲間たちを守らせている。
　だが、そのまま戦い続けることはできなかった。
　戦っていた敵が、攻撃を受けるのも構わず後退を始めたのだ。
「なんのつもりでありますか？」
　クリームヒルトが首をかしげる。
「ディオンのほうに戻ろうとしてるみたいです。千梨さん……」
「……うん、わかってるよ、と」
　沙耶が声をかけるより早く、すでに千梨はデバイスを使用していた。
（「こちらで引きつけた護衛だが、強引に戻ろうとしてる。よろしく頼んだ」）
　いつも通り淡々とした思念で千梨は友人たちへと再び呼びかける。
「だったら、次はこっちが仕掛けるチャンスってことだよな。しょうがねえ、やるか」
　鬼人が息を吐き、空いた隙間へと一気に飛び込む。
　他の仲間たちも続き、インペリアル・ディオンへの距離を詰める。
　灰色の躯体を目の前に、鬼人はその姿を見逃さないように観察する。
（「その姿は覚えておくぞ。何時かは、倒さなきゃいけない相手だ」）
　大剣を振り上げ、そして衝撃をともなって振り下ろす。
　鬼人はクリームヒルトが翼を広げてとっさにかばってくれたが、ディフェンダーたちはまともにその衝撃波を受けることになった。
　範囲攻撃とは思えぬ威力でケルベロスたちが蹴散らされる。
「ゲンドゥルを釣り出すつもりが、十二創神の直属部隊がお出ましとは」
　かごめは鬼人のデバイスで飛びながら、少しでも圧力をかけるためディオンへ告げた。
「思わぬ大物がかかりましたね。この機会を逃す手はありません」
　飛ばした氷結輪がディオンの剣にはじかれた。
　ダモクレスの将軍に対して、そう簡単に攻撃は命中しない。とはいえ、後衛から狙いすました攻撃ならば話は別だ。
『この一矢が死に至るものであることを知りなさい――ガルド流冥弩術”冥土送り”』
　氷結の螺旋を込めた鉄子の矢がディオンを貫く。
　その矢を引き抜いて、投げ捨てる。
（「……明鏡止水、と言うが」）
　千梨はその姿を見、心の中で呟いた。
（「水が、心が無ければ、そもそも揺らがぬのか」）
　淡々とした声で、ディオンを見据えて千梨は呟いた。
「それは強いだろうな」
　動揺はない――とはいえ、交戦に意識を割けば、指揮能力は落ちるはずだ。
　回復に手数を割いた者以外は、ディオンへの牽制を続ける。
　もっとも、それもやはり長くは続かない。
　最初とは別の護衛たちが突っ込んでくるとの連絡を、ケルベロスたちは受け取った。
「次はこっちに割り込んでくる、か。デバイスなしでこうされてたら危なかったかもな」
　千梨が呟く。
　ディフェンダーのクリームヒルトや沙耶、フリスズキャールヴが素早く護衛たちの攻撃を受け止めに向かう。
　代わってその護衛と戦っていたチームがディオンへ向かうのが見えた。
　マインドウィスパー・デバイスの有効性を確かめながら、ケルベロスたちは入れ替わり立ち代わり、インペリアル・ディオンへと攻撃を続けていった。

●ダモクレスの思惑
　他のチームの一方から、ディオンへ問いかける声が聞こえたのは数分後のことだった。
『ジュモーは、地球に毒されてしまったのだ。あの御方の輝かしき理想に異を唱え、他種族並存の多様性を追求しようなどと』
　ケルベロスの１人と剣を交えながら、ディオンが傲然と告げる。
『デウスエクスの共存共栄など、夢物語。だがあの地に集った有機体どもを解析して得られた情報は、確かに役に立つ』
「いつもと違う動きは物資じゃなくて情報を強奪に来たからってわけか」
　鬼人が呟いた。
　護衛に幾度も妨害され、幾度も入れ替わりながらケルベロスたちは交戦を繰り返す。
　３度目か、４度目かのディオンへの接近。１０分ほどが経過したはずだが、将はもちろん護衛たちもなかなか崩せない。
　千梨が霊弾を飛ばして敵の足止めを試みた。
　鉄子はそれに合わせ、氷結の螺旋を込めた矢をこれまでと同じくディオンへ放つ。
　狙いすました矢が敵将を貫く――が、荒れ狂う螺旋が体内を駆け巡ってもダモクレスは揺らぎもしなかった。
　ディオンが鉄子を見た。
『近衛軍が裏切り者の始末を付けるためにこのような辺境の地まで間になるとは驚きでございます。余程、お暇でいらしたのでしょうか？』
　仮面越しの、エコーのかかった声で言葉を投げかける。
「しかも近衛軍の軍団長が来るとは、護衛の役目は放棄でありますか？　それとも、ダモクレスの戦力ももう余裕が無くなってきたでありますか？」
　盾から癒しの光を放って反撃に備えつつ、クリームヒルトも問いかける。
「たかが裏切者にこの大戦力。よほど縋る先がなイらしい。近衛が聞いてあきれルな」
「それとも近衛軍には、貴方のような猛者がまだまだいるのですか？」
　護衛たちと戦っているチームからも、問いかけの言葉が聞こえてくる。
　沙耶は仲間たちの会話が邪魔されないよう、氷河期の精霊で攻撃して護衛たちの注意を集めようと試みていた。
「これって内ゲバだよな？　デウスエクスも難儀だな」
　接近した鬼人も攻撃とともに言葉を投げかける。
『確かに難儀な話よ。グラビティ・チェインを生み出す地ではあるものの、この地球という存在は毒が強すぎる。だからこそ派遣兵力だけで片をつけたかったのだがな』
　鬼人の越後守国儔をディオンは大剣で受け止める。突き刺さった鉄子の矢を引き抜き、無造作に投げ捨てた。
『貴様らの力が我らの予測を超えたことは認めよう。猛毒の地球を守り、六大指揮官に加えて五大巧すら倒す者がいるとはな。……故に、我ら近衛が来たのだ』
　大剣の一撃は、地上にいた沙耶を狙って守りの上から痛打を与える。
　自分たちならばケルベロスを圧倒できる。ディオンの言葉にはそんな確信がこもっており、それに見合うだけの戦闘力も見せていた。

●インペリアル・ディオンの撤退
　戦いは長引き、そして、敵の戦力はわずかながら減っていた。
（「ここまでは戦闘不能を出さずにすんでいるが……いつまで続くかな」）
　二郎はエレメンタルボルトから盾を作り出して、沙耶の守りを強化する。
　戦闘開始からずいぶん経過している。もうすぐ２０分近い。攻撃を受け止め続けている防衛役はそろそろ危険な状態だ。
　音波による攻撃がまたケルベロスたちを襲ってくる。
　そして、フリスズキャールヴが主をかばってついに倒れた。
「……刀の極意。その名、無拍子」
　だが、その音楽家に向かって、鬼人が接近する。極限まで無駄を省いたその踏み込みに対して、ダモクレスは反応できなかった。
　認識していてすら反応できない斬撃が、ダモクレスの体を３つに断ち切っている。
　インペリアル・ディオンの声が聞こえてきたのはその時だった。
『植物と融合した紛い物など、使い捨ての駒に過ぎぬ。ここの情報は、地球をマキナクロス化する上で有用というだけだ。……その根拠を、見せてやろう！』
　さすがは近衛軍の将というべきか、ケルベロスの問いかけに応じる余裕がまだある。
　その時、彼方で誰かの声が聞こえてきた。
　拠点側の方でなにかあったようだ。だが確かめる暇もなく、忍者型の敵が手裏剣を鬼人へ向けて放った。
「させません！」
　とっさにかばった沙耶が手裏剣に切り裂かれて、倒れる。
　だが忍者型のほうも、もう損傷は大きい。そして、その周囲が結界に包まれた。
「散ればぞ誘う、誘えばぞ散る」
　結界内部に顕現した千梨の御業が、咲き誇る桜の形を成す。
　花が風を呼び、風が水を呼び、そして嵐が訪れる。
　結界が消えたとき、残っていたのは嵐に巻き込まれた残骸だけだ。
『拠点から味方が出てきているようでございます』
　敵を撃破したことで生まれた隙で、鉄子が拠点の騒ぎの様子を確かめる。
　突入していた仲間たちが出てきているのだ。
『ジュモーが倒れたか。ならば、私の任務はここまでだ。これ以上の消耗は望まない』
　インペリアル・ディオンの声が戦場に響いた。
　当初より数を減らした配下のダモクレスたちも一時動きを止めている。
『……我らは最初から、何も隠してなどいない。純粋なる機械のみの世界こそ、ダモクレスの理想』
　告げる言葉は、あたかも誇示するかの如く戦場に響いた。
　いや、事実宣言しているのかもしれない。
「どこまでも、それが目的なのですね」
「隠す気がないというのも、厄介なもの、かもな」
　かごめや千梨の呟きに応えるでもなく、敵はなおも言葉を続ける。
『我らがアダム・カドモンは地球の毒を浄化する為、全地球のマキナクロス化を行うだろう……また会おう、番犬ども』
　その言葉を最後に、ダモクレスたちは引き上げていく。武器を向けたまま後退する敵に対し、下手に攻撃することはできなかった。
「……どうにか、撤退させることはできたでありますね」
　クリームヒルトが輝く盾を構えたまま、息を吐いた。
「負傷者が出てしまったな」
　二郎が沙耶へと近づいて、そこだけは生身の手を差し出す。
「気にしないでください。二郎さんが回復してくれたおかげで、皆さんを守ることができましたから」
　手を借りて立ち上がった沙耶が言う。
『こちらも引き上げるといたしましょう。警戒は怠らないでくださいませ』
　武器を向けながら撤退していく敵に得物を向けたまま、鉄子が言った。
「ああ。見せてもらった手の内はしっかり持ち帰るとしようぜ」
　鬼人がロザリオに手をのせる。婚約者からもらったそれに、彼は無事を祈る。
　インペリアル・ディオンとの戦いはこれからだ。
　そう確信しながら、ケルベロスたちは戦場を離れた。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年10月23日 難度：普通 参加：7人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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