ジュモー最終決戦~ゲオメトリア・アンブッシュ

作者:柊透胡

 ――それは、徹底的な物量攻撃。
 宮城県石巻市は長面浦にズラリと並ぶのは、厳つい頭部と翼を具えた機竜ならぬ機械蛇の如き軍団。その数、三桁にも上ろうかという威容。
 一斉に、砲撃が繰り出された。
 容赦ない範囲攻撃に、長面浦の湖水は蒸発。湖底の土砂さえも抉られ、露となったのはユグドラシルの根が繭のように絡まった球形の――恐らくは、何らかの拠点であろう。更には、先の砲撃で絡み合う根の一部が大きく破損し、穴が開いてしまっている。
 ――――。
 程なく、大穴を塞ぐべく暴食機構グラトニウム十数体が、慌ただしく出撃する。だが、即座に落下してきた異形の球体がやはり十数体、グラトニウムを牽制。戦線を押し返した隙を逃さず、クノイチのような部隊と楽士めいた部隊が、大穴の中へと次々と突入した。
 一連の淀みなき作戦行動は、総て白騎士の如きダモクレスの指揮に依る。
 インペリアル・ディオン――ダモクレスの十二創神、アダム・カドモンの近衛軍を束ねる、軍団長が一機。
 そして、麾下の『四学科』率いる四部隊の目的は、今しも突入を果たした『ジュモー・エレクトリシアンの拠点』の制圧。
 進化を求め続けた最後の六大指揮官の命運は、尽きようとしていた。
 
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 集まったケルベロス達を見回し、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)はタブレット画面を一瞥する。
「八景島強襲の作戦成功により、ジュモー・エレクトリシアンの屍隷兵製造拠点が破壊されました。これで、ジュモーの手による屍隷兵の製造は完全に停止するでしょう」
 更に、ジュモー・エレクトリシアンの配下として拠点を指揮していた『機界魔導士ゲンドゥル』は、実は攻性植物に与しておらず、寧ろジュモーに敵対する立場である事も判明している。
「ゲンドゥルは、ジュモーを裏切り者と呼んでいました」
 そして、ケルベロスがジュモー拠点を突き止めるよりも早く、ダモクレスが拠点を襲撃して全ての研究成果を奪い取り、ジュモーを滅ぼすと言い放ったのだ。
「ダモクレスは研究成果を奪い取る為に、ジュモーを泳がせていたと考えられます」
 ダモクレス軍は、ダモクレスの十二創神、アダム・カドモンの近衛軍の軍団長が一機『インペリアル・ディオン』に率いられた精鋭揃いであり、手始めに拠点があった湖を一気に蒸発させるような砲撃を行っている。
「皆さんには、宮城県石巻氏の長面浦に向かい、インペリアル・ディオン軍とジュモー・エレクトリシアン勢力の戦闘に介入。ジュモーの研究成果及びコギトエルゴスムが、インペリアル・ディオンに渡らぬよう、破壊して下さい」
 インペリアル・ディオンの撃破は、流石に難しいだろうが、配下の精鋭部隊を撃破すれば、ダモクレスの力を削ぐ事が出来るだろう。
「本作戦は、5つに役割分担が為されています」
 ジュモー撃破、研究成果破壊、退路確保、『幾何学』ゲオメトリア要撃、そして、『インペリアル・ディオン』戦だ。
「皆さんは、『幾何学』ゲオメトリア要撃を担当して頂きます」
 インペリアル・ディオン配下、『四学科』が一である『幾何学』ゲオメトリアは、範囲攻撃に於ける殲滅力に秀でているという。
「最初の一斉砲撃でジュモーの拠点を露出させた後、ゲオメトリアが率いる攻撃部隊は、空中で待機。エネルギーチャージを行っています」
 作戦終了後、ジュモーの拠点を完全に破壊する算段の模様。
「攻撃部隊の砲撃は、幸い連射は出来ないようですが……エネルギーチャージ完了後、ケルベロス優勢の状況となった場合、インペリアル・デイオンは、ケルベロス諸共に拠点を破壊しようとするかもしれません」
 これを防ぐには、攻撃部隊のエネルギーチャージを邪魔しなければならない。
「ゲオメトリア配下のダモクレスは、攻撃するかダメージを被れば、チャージがリセットされてしまうようです。攻撃部隊の数は100体近いですが……コンスタントに、チャージをリセットしていって下さい」
 作戦後は、速やかに離脱を――その際、『幾何学』ゲオメトリア自体へ、一太刀浴びせるなども出来ない事も無かろうが……要撃に割かれた戦力は2チームだ。避けた方が無難だろう。
「我々も、自爆した八景島の拠点を調査し、資材の搬入経路などからジュモーの拠点の特定を進めていたのですが……結局、間に合いませんでしたね」
 眉根を寄せる創だが、今回の作戦でダモクレス軍とジュモー軍の戦いの間隙を突く事が出来れば、大きな成果を上げられるだろう。
「尤も、喩え作戦が失敗しても、ジュモーの研究成果をダモクレス軍に奪われるだけで、直接的な被害はありません。劣勢となった時、躊躇わず撤退するのも勇気の一種と考えます」
 一方で、ダモクレスも、いよいよ十二創神「アダム・カドモン」の近衛軍を投入してきた。ダモクレスの方にも、大きな動きがあるかもしれない。
「ともあれ、私達が目の前の作戦を1つ1つ遂行していくのは、いつもと変わりありませんね……どうぞご武運を」


参加者
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
立花・恵(翠の流星・e01060)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)

■リプレイ

●ゲオメトリア・アンブッシュ
 『幾何学』ゲオメトリア――厳つい頭部と翼具えた機械蛇は、優に20mはあるだろう。
 その半分程のサイズの量産型は、数にして約100体。機体を彩る光は――総て、水色。
 ジュモー・エレクトリシアンの拠点を剥き出しにした最初の総攻撃の後、攻撃部隊は空中でエネルギーチャージを行っている。
(「敵の数が多すぎる……!」)
 ダモクレスらしく整然と空に並ぶ様に、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)は思わず唇を噛む。
(「他が目標の分、圧力は下がってるっすけど……こちらを先に潰す事に注力されたら、危険っすね」)
 激戦の確信に武者震い。だが、やるしかない。
 ゲオメトリアの部隊を放置すれば早晩、突入したケルベロス諸共に、ジュモーの拠点は破壊されてしまう。
「研究施設に向かう仲間を守る大切な作戦だ。気は抜けないな」
 表情も硬く、リボルバー銃を構える立花・恵(翠の流星・e01060)。ゴットサイト・デバイス越しに、ジッと攻撃部隊を見据える。
「嗚呼、量産型がうじゃうじゃと……全滅が目的じゃないけど、結構厄介だな」
「それにしても、成果が得られなければ、裏切り者として処分されるのか。ジュモーもちと哀れじゃのう」
 因縁のあった敵の最期を思うウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)だが、小さく頭を振った。
「感慨に浸るのはここまで……幾何学の者達と学問バトルの時間なのじゃ」
 さあ、見せてやろう。ケルベロスの勝利の方程式を!
「ふみゅん、つまるところ負けなければ大勝利なのだ!」
 三段論法すらすっ飛ばし、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)もやる気満々。
「よーし! 負っけないぞー!」
 和が着けるのは、小型通信機型のヘリオンデバイス。同じくゲオメトリアに対峙するチームにも、キャスターはいる。連絡は密に……だが、100体ものダモクレスは脅威だ。念話の暇があるなら、攻撃する方が良いような気も。既に戦闘中だろう他のチームとの連絡については、言うに及ばず。
「あ……」
 全体の作戦開始より10分――ゲオメトリア達の光が、一斉に水色から緑色に。
「あれって……チャージが進むと、色が変わります?」
 七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)の見立ては、恐らく正しい。
「よし、牽引する」
 敵の陣形に目を凝らしていたコクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)だが、チャージが進んだのを頃合いに、ジェットパック・デバイスを起動。仲間をビーム牽引する。
「うむ。デバイスは初めて使うが……凄いな」
 独りごちるコクマ。ケルベロス大運動会の競技と段違いに自由に空を飛べて、感動を覚えた様子。
「さて、時間稼ぎ、か」
 耐えて耐えて耐えろというなら、幾らでも――静かに闘志を燃やし、ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)は仮面越しに、地上でエンジンを吹かせる相棒を見やる。
「ラハブ、地上の支援を任せたぞ」
 ライドキャリバーに騎乗して一体化すれば飛行は可能であったが、ドゥマは敢えて、地上に残す選択をした。
「カッツェ、回復サポート……お願いしますね」
 翼あるヴァルキュリアであるバラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)も、今回はデバイスで空を往く――その前に。レスキュードローン・デバイスを従え、やはり地上に残る小柄へ声を掛ける。
「貴女に言うまでもない言葉だとは、承知しているのですが……」
 本当は、地上チームも気に懸けて欲しかったが……小さなウイングキャットに、戦場の横断は流石に酷だろう。
 それでも、賢そうな碧眼を瞬かせ、カッツェは期待に応えるように小さく鳴いた。

●充填の階梯
『こちら上空、これより妨害戦を開始する、なのだー!』
 地上チームに報せながら、氷結輪を構える和。逸早く、両のリボルバー銃の照準を『幾何学』ゲオメトリアに合わせた恵は、その周囲をも巻き込む勢いで制圧射撃を敢行する。
(「それにしても、拠点諸共破壊なんてやる事が大雑把だな。物資不足っていっても、まだまだ物量は十分って事か」)
「そこだっ、てややー!」
 和は首魁の後ろに控える一団目掛けて、ニブルヘイムシールを展開する。地面から大いに育った魔法の霜は、次々とダモクレスに貼り付いていく。
(「ディフェンダーは2人……慎重にいくっすよ」)
 必要に応じて、やはりディフェンダーであるドゥマとも庇い合い、戦線を保たせる事も念頭に。鉄塊剣二刀、盾のように構える佐久弥。
(「ここは、デストロイ……否、ゲイルブレイドっすね」)
 少しでも多くの敵を巻き添えにするならば、強烈な横薙ぎが巻き起した旋風を以て斬り飛ばさんと。
 佐久弥の刹那の逡巡で、息を合わせるタイミングを得たか。超加速突撃を敢行するドゥマ。最前線を擦り抜け、鉄槌届く限り。ラハブも攪乱せんと疾走する。
「……っ!?」
 だが、手応えは浅い。案の定、一群のチャージはさして崩れておらず、忌々し気に唇を歪めた。
「ゲオメトリアは……前衛か」
 首魁自ら、矢面に立つという意味でも。地裂撃が届いたという意味でも――『幾何学』ゲオメトリアに肉迫、大地をも断つ強撃を繰り出すコクマ。クラッシャーか、ディフェンダーか、測りかねて眉根を寄せる。
「はてさて、ある意味絶景ですね」
 一方で、七海はワクワクした面持ちか。
「私、嫌がらせ好きなんですよ。どれだけやれるでしょうか」
 七海、或いはにゃにゃみは自宅警備猫。彼女がいる場所は、何処だって『自宅』だ。ライジングダークの構えで、七海はゲオメトリアの陣形を見る。
「……あれ?」
 敵は大きく3集団に分かれる様子。その中で1つだけ、命中率が低い。
「キャスター30体ですかね」
 確かに、ドゥマがキャバリアランページをキャスター相手に敢行したとなれば、不本意な結果も仕方ないだろう。
「ふむ……」
 思案顔のまま、ケルベロスチェインを手繰るウィゼ。全方位に射出、最も間合いの離れた集団を狙う。その数は、最多の40体。貫けば神殺しの毒が機体を汚染するだろう。
「攻撃部隊なら、メディックの線は薄いかのう」
 ジャマーの厄は、掛かれば重い……掛かれば。
「中衛はキャスター、後衛はスナイパーとして……」
 初手の援護はカッツェの清浄の翼に任せ、バラフィールはレガリアスサイクロンを放つ。
「……」
 手応えはさて置き。敵の動向に、バラフィールは紅の双眸を眇める。
「3集団の時点で『飛行中』でない事は判りましたが……ディフェンダーもいないかもしれません」
 ディフェンダーの庇う行動は自動的だ。にも拘らず、ケルベロスの攻撃を遮る動きが皆無ならば。
「クラッシャーにキャスターにスナイパー。清々しいまでに、攻撃偏重だね」
 苦笑も束の間。恵は二丁拳銃を手に勇ましく敵群へ飛び込んでいく。全方位射撃は舞うが如く。
「まぁ、何だっていい、俺達はやる事をやるだけだ!」

 程なく、地上チームも攻撃開始。ケルベロス達は合計100体もの大軍を相手取り、列攻撃を駆使してエネルギーチャージを阻む。
「うーん……色の変化、何段階だろ~?」
 ゲイボルグ投擲法を踏襲しながら、怪訝そうに小首を傾げる和。
 チャージが進むにつれ、敵の機体及び翼は水色、黄緑、黄、オレンジ、と変化していく模様。
「……やばっ!?」
 満遍なく、全体に攻撃を浴びせたとして、やはりキャスターは取り零すケースも少なからず。初めてピンクの量産型を認め、七海は直感的にチャージ完了を察知する。
「ピンク! 撃たせちゃダメ!」
 幸い、七海の危惧は、他のケルベロス達の共感を得るものであり、集中攻撃で水色に戻った。
 基本、ケルベロスの攻撃が命中すれば、敵も『水色』に戻るが、回避すればチャージ続行で色も変化なし。更には、ダメージが低過ぎると、元の色から1段階、或いは2段階ダウンに留まる場合もあるようだ。
(「こちらも、全員『後衛』ですから」)
 一方で、オウガ粒子を放出するバラフィールの表情も芳しくない。地上のサーヴァントも後衛ならば、ケルベロス8人と共に列減衰を被る。更に使役修正も重なれば、早期的なエンチャントの付与は見込めまい。
 列攻撃の偏重はやむを得ない。だが、火力が散じるが故に、敵の撃破に至らないのが苦しい。だが、列減衰は悪手かりではない。悪影響を受けない立ち回りであれば。
 ――――!!
 序盤、ケルベロスを無視してチャージを続行していた敵も、邪魔されるにつれ排除に戦力を割くようになってきた。
「……っ!」
 爆炎の弾丸の軌道を、全身で遮る佐久弥。
「倒れるつもりは、無いっすけどね」
「生憎と、割かし硬いのでな」
 文字通りの盾たるは、デイフェンダーの本懐。ドゥマも全身に実弾の連射を浴びながら、戦言葉で己を奮い立たせる。
「……本当は、太陽の光は苦手なのだが、そうもいってられぬよな」
 眩しげに双眸を細めるのも束の間。コクマはチャージの封殺を最優先に、敵の動向に注視。攻撃を以て叩くべきを示し続ける。
「ぼやぼやしてると、撃ち抜くぜ!」
 恵の的確な射撃はチャージ進む個体を穿ち、時に場を圧さんと弾幕を張る。
「あたし達が戦線を維持し続けないと、幾何学の砲撃で、中の者達が生き埋めになってしまうのじゃ!」
 奮戦の意志を叫びながら、ウィゼはケルベロスチエインを操り、お手製の南瓜爆弾を投げ続ける。
 ――気が付けば、戦闘開始より10分以上が経過していた。
「そろそろ、かな……?」
 マインドウィスパー・デバイス越しに、他チームの動向を窺う和。
「撤退の時に一斉砲撃されるのは、防がないとね」
 同様にデバイスの反応を気にしながら、七海が獣の拳を握り締めた時。
「……っ」
 誰かの、息を呑む音が聞こえた。
 一際巨大な『幾何学』ゲオメトリアの色は、ピンク――フルチャージの色。

●チャージを散らせ!
 中盤以降、チャージを諦めた敵の反撃で、まずメディックのバラフィールが、次いでディフェンダーの佐久弥が回復に回り、手数が確実に減じた。
 地上チームも似たような状況であったようだ。
 サーヴァントの奮闘もあり、ギリギリまでチャージ攻撃の発射は防いできたものの――首魁が列攻撃に耐える率は、量産型の比ではなく。
 恐らく、地上チームが見計らった撤退のタイミングは、上空チームと同じ。だが、このまま、ゲオメトリアを放置しての撤退はあり得ない。
『ゲオメトリアだけは何とかしなきゃね』
 地上チームからの言葉に、否やはない。
『了解!』
 元気よく、念話に応答する和。同時、七海は猫の拳をゲオメトリアに突き付け叫ぶ。
「前衛集中攻撃! ゲオメトリアを狙える人は狙って!」
 地上より炎が次々と。上空チームのグラビティも殺到する。
「光に包まれ、影に消えろ!」
 サンダンス・ミラージュイクリプス――恵は空を翔け上り連射する。闘気で激しく発光する銃弾は、機械が相手であっても幻影を錯覚させるだろう。
「目からビーム! 目からビーム! 目から……ビームっ!!」
 説明しよう! 和の「目からビーム!」は、目からビームを飛ばすオリジナルグラビティである! ……実は、御業が目からビームが出ているように見せ掛けている模様。
「……我が腕に宿るは黒い者が齎す滅びの炎剣」
 チャージなどさせるものか! ――意気強くゲオメトリアを睨み、コクマが発現するのは炎の奥義。
(「我が憤怒、我が怒号……我が慟哭が呼ぶは滅びの炎――」)
 地獄の炎纏うペンギンロボ5体が突撃総攻撃するや、己が右腕の『地獄』も超巨大な炎の剣と化す。
「とくと味わえ、我が怒りをぉおおおお!!!!」
 ――ちなみに。ペンギンロボ達のジェットパックは自前です。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ハロウィン・ナイトの始まりなのじゃ」
 コクマの激情の技と対照的に、何処かファンシィでコミカルなのは、ウィゼの愛くるしい悪夢に満ちた南瓜爆弾。
 ハロウィンボムは爆発と共にばら撒き幻覚を見せる。その幻覚は、敵のグラビティ・チェインを菓子の形に変換して奪うのだから、中々凶悪だ。
(「ジュモーの最期、見届けたかったのですが……」)
 ふと脳裏を過った。直接でなくとも、3年前、同じ戦場にいた者として。
 初めて攻撃を優先させ、バラフィールは惑星レギオンレイドの「黒太陽」を具現化する。絶望の黒光を照射すると同時、カッツェも地上から歯車の如きキャットリングを放つ。
(「倒れる時は最も有効的に、っす」)
 次々と前衛へグラビティが撒かれる中、鉄塊剣を腕力で御した佐久弥は、単純かつ重厚無比の一撃でゲオメトリアに喧嘩を売る。叩き潰せれば重畳だが……流石に、佐久弥のデストロイブレイドだけでは足りない。
「……生きたなら死ね」
 ラハブのガトリング掃射に合わせ、虚空より巨大な銀のショベルを出すドゥマ。ゲオメトリアに取り付き、『空間』に穴を掘る。
「デウスエクスは死を尊べ。生と死のサイクルへ還れ」
 ショベル持つ骨の手足の少女が何体も湧くや、地獄化した空間を乱暴に掻き混ぜていく。
「さぁ、覚悟は良いですか?」
 ドゥマと入れ違いに全長20mを駆け上がる。飛び掛かった七海の獣腕が、ゲオメトリアへアッパーを叩き込む。
「頭が高い――伏せなさい」
 勢いのまま敵の頭上から、七海は渾身のダブルスレッジハンマーを振り下ろす。
 ――――!!
 確かな手応えに、七海の唇に笑みが浮かぶも。
 ――――。
 ゲオメトリアは冷然とケルベロス達を見る。喩え2チーム総掛りでも幹部クラスの撃破は叶わない。だが、それでも。
「速やかに撤退なのじゃ!!」
 ゲオメトリアは『黄色』に戻っていた。集中攻撃の余波で、前衛の量産型のチャージも阻止される。
 ウィゼがチェイスアート・デバイスを繋げるより早く、量産型のフルチャージ光線が、幾度か地上を、上空を舐める。
 前衛に火力を集中した分、中後衛にフルチャージの量産型が幾許か残ってしまったのは、止むを得まい。
「なぁに、私も、あなた達も死ねばそこまで。ただそれだけですよ」
 穿たれた痛みも構わず、飄然と嘯く七海。猫の身軽さで宙を翔ける。
「見たか! これぞキャスターさんの回避力なのだ!」
「判ったから、さっさと動け」
 紙一重に大いに胸を張る和の肩を押し、コクマはチラと地上を見やる。
(「大丈夫、なら良いのだが」)
 地上チームの通信担当の安否を気にしている。
「佐久弥さん!?」
「大丈夫……何度だって凌駕して、必ず帰るっすよ」
「では、私も……この命は、生命を護るために」
 最後まで射線を遮る佐久弥に素早くヒールし、バラフィールは地上のカッツェと合流する。
「ラハブ、的を分散させる」
 相棒へ直接降下したドゥマはエンジンフルスロットル。地上チームとは反対の方向へ疾駆する。
「次は決着付けようぜ! またな!」
 張り上げた恵の声は、果たして届いたのか――機械蛇は微動だにせず、終ぞ声を発する事も無かった。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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