ジュモー最終決戦~チェック・メイト

作者:のずみりん

 戦況は決しつつあった。
 石巻市は長面浦の美しい汽水の湖面は百を数える大蛇の閃熱光に消滅し、繭を髣髴とさせるユグドラシルの根の球……背信のダモクレス、ジュモー・エレクトリシアンのアジトを露わにしていた。
「報告、インペリアル・ディオン。『幾何学』ゲオメトリア軍団、防壁を突破しました。しかし暴食機構グラトニウムが出現、修復を開始しています」
「『天文学』を投入しろ。『音楽学』『整数論』続けて突入準備」
 ディオンと呼ばれた指揮ダモクレスは、騎士然と堂々たる風格で配下たちを投入し、障害を蹴散らしていく。
 惑星を思わせる『天文学』スファイリカ部隊は降下するや、その広範囲への照射で十数体もの暴食機構グラトニウムを押し返す。
 開かれた突破口に飛び込んでいく無機質なダモクレス部隊、『音楽学』ムシュケー、『整数論』アリトメティカ、その同型機種の配下たち。
 それはさながらチェスの『チェック』であった。
「アダム・カドモンの名の元、インペリアル・ディオンが命ずる。背信者ジュモーを討ち取り、研究成果を奪取せよ」
 朗々と通信が命運を通告する。
 ジュモーの滅亡はもはや決定づけられた。変わるものがあるとすれば、それがどのように為されるのか。
 ただそれだけだ。

「緊急事態だ。発見されたジュモー・エレクトリシアンの拠点が、ダモクレス軍に攻撃されようとしている」
 駆け付けた息も荒いまま、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は集まったケルベロスたちに説明を始めた。
「先日、屍隷兵製造拠点を強襲し破壊したのは記憶に新しいと思う。その際に皆が持ち出してくれたデータから状況が判明した。どうやらジュモーは攻性植物に与し、ダモクレス主流を完全に裏切ったらしい」
 それを知らせ、拠点を調べ上げたのが最奥で出会った機界魔導士ゲンドゥル。
『奴の全ての研究成果は、この『機界魔導士ゲンドゥル』が根こそぎ奪いとり滅ぼして見せる』
 かの指揮官ダモクレスが言い残した言葉が、今まさに実行に移されるのだろう。
「だが状況は予想をはるかに超えていた。ダモクレスが投入したのは十二創神、アダム・カドモン配下の近衛軍……『インペリアル・ディオン』率いるダモクレスの最精鋭だ」
 ジュモーの身柄はそれほどまでに価値があり、危険視しているのだろう。
 その戦闘力はすさまじく、ジュモーが拠点を隠した宮城県石巻市の長面浦は完全に蒸発、ケルベロスたちが駆け付ける頃にはジュモーと研究成果に王手をかける勢いだという。
「もはやジュモー・エレクトリシアンの命運は完全に尽きた……が、こちらとしても指をくわえてはいられない事態だ」
 素直に喜べぬと顔をしたリリエが指摘するのはジュモーの研究成果。大阪城ユグドラシルよりジュモーは攻性植物とダモクレスの融合に多大な成果を上げており、近衛軍はその奪取を狙っている。
「このままジュモーが撃破され研究成果をダモクレスに奪われては、我々にも多大な脅威となる。何とか双方の戦いに介入し、近衛軍が奪取する前にジュモーと研究成果を破壊してほしい」
 ジュモーの敗北は決定的だが、まだ時間はある。その敗北の形を変えることはまだ十分できるはずだ。

「我々の担当はジュモー・エレクトリシアン本人と、彼女を撃破に向かっている『整数論』アリトメティカだ」
 たどり着く頃、ジュモーの拠点では近衛軍が『天文学』スファイリカを投入し、暴食機構グラトニウムの戦闘が続いている。
 ケルベロス側のチームは二班。
 先行している『整数論』アリトメティカの後を追う形で突入し、戦闘を行っている双方へと介入していく形となるだろう。
「どのタイミングで仕掛けるかは皆に一任するが、状況としてはジュモー側が劣勢だ。我々が加勢しなくてもアリトメティカ部隊はジュモーを撃破し、コギトエルゴスムに変えるだろう」
 仕掛けるタイミングはおよそ、戦闘の激しさとリスクの天秤だ。
 もっとも堅実なのは戦闘中のアリトメティカを背後から叩き、そのままジュモーを撃破することだが、指揮官型ダモクレスと配下との連戦はかなり苦しい戦いになるだろう。
 逆に楽をするならジュモーが撃破された後、撤退するところを狙ってジュモーのコギトエルゴスムを破壊するという手もある。これは消耗したのアリトメティカ部隊のみを相手にすればいいが、何らかの想定外で見逃したり逃走される危険も大きい。
「折衷案として戦闘で消耗したジュモーに止めの一撃を狙うという手もあるが……これもタイミングの見極めが重要になってくるな」
 あるいは二班で分担してアリトメティカとジュモー両方と同時に戦う手もあるだろう。
 どのように行動するか、よく考えて決めたほうがよさそうだ。

「今回の戦いはあくまでダモクレスの戦力強化の阻止で、失敗しても直接被害がでることはない……が、十二創神であるアダム・カドモンが近衛軍を投入してきたのは、相応の意味があることだろう」
 ダモクレス側にも大きな動きが生じているのかもしれない……ケルベロスたちに言い示しながら、リリエは不安そうな顔で手書きの戦場図に指を立てた。


参加者
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ

●ダブル・チェック
 ケルベロスたちが乗り込む頃、ジュモー・エレクトリシアンの命運は尽きようとしていた。
 彼女の開発してきたオーズボーグたち、攻性植物との融合ダモクレスはアダム・カドモンの近衛軍にも善戦したが、そこまでだった。
 情報分析とステルスを役とする『整数論』アリトメティカとその量産型たちは螺旋を帯びた手裏剣で、その触手を、手足をもぎ、ブレードを突き立てていく。
「五感を幻惑するアクティブステルス装甲に、あのブレード……それ自体がウイルスの伝達媒体か。厄介だね」
 介入の機をうかがうリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は『増設レドーム・センサーユニット』を起動し、『メディカル・エスコーター』を調整する。
 介入のタイミングとした勝負が決定的となる瞬間は近く、時間はない。
 今もまた、残るジュモー配下のダモクレスが火花をあげて停止する。
「本星の勢力からも離れて、裏切りものになって、今更なにをしてーんだか……街に現れた屍隷兵も、何が目的だったんだ?」
「ジュモーも試していたのかもしれません、可能性を。コンセプトこそ違いますが、母と同じものを感じます……この最後も」
 万が一にジュモーが近衛軍を凌いでも、ケルベロスたちに抗う力は残らないだろう。
 そこまでしてと軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)の怪訝としたつぶやきに、ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は腰部に畳んだ『母のユニット』を撫でる。
 ジュモー襲来よりややもして『載霊機ドレッドノートの戦い』で相まみえたピコの母個体、『エミュレーター・クイーン』は同じ研究者タイプだった。
 彼女が似合わない拠点防衛に回されたのも、今にしてみれば厄介払いだったのかもしれない。
「シエナさんにとっても、ジュモーは母なのです。過去や宿縁と決着を着けるためには、今回が……」
「真意を探る意味はあると私は思います。やるだけやってみますよ、素敵な夢が見られるように」
 同道するチームより、シエナの背中を見遣る源・那岐に、カロン・レインズが後を継いで願う。
「ダモクレスからすれば私たちも、ジュモーも、等しく異常個体ということなのかも」
「同情の余地はないが、哀れなものだな」
 ピコと頷き、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)はその胸に手をあてる。彼の中にもまた、今は亡き壊滅した307部隊のすべてが『R/D-1』戦術システムとして共にある。
「思うところはありますが、彼女の処遇はシエナさんたちに任せるとしましょう……そろそろです」
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)にこたえる。戦況をにらむヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)の狩猟者の目は決定的瞬間をとらえていた。
 アリトメティカの螺旋手裏剣がオーズボーグを捉えた、あれはかわせない。両断。
『『整数論』へ仕掛ける。動向には注意せよ』
 足音を殺し、ヴォルフはハンドサインを仲間たちへと飛ばすと背を落として駆け出していく。
「……うまくいくと思いますか?」
「流石に近衛兵、精強ではあるわ……でも」
「わからない。けれど妨害は元より、損害を出せば補う為の行動も生まれるはず」
 誰かに見られているような一抹の不安。
 後方を警戒したテレサからこぼれる声に、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は答えてドラゴニックハンマーを砲撃モードで腰だめに構える。
「アリトメティカは任せたわよ!」
 ジュモーへと立ち向かう円城・キアリの声が、一行の背中を押した。
「お任せください。どう転ぶにしても……」
「まずやることは決まっている。いくぞ!」
 ジャイロフラフープ・オルトロスとテレーゼを合体させ背部に水平向きで接続、ジェットパック・デバイスとドッキング。
 飛翔するテレサを、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)が『アームドフォートMARK9改』で掴む。
 マークの『LU100-BARBAROI』クローラーがうなりをあげて加速する。
「SYSTEM COMBAT MODE」
 空地共同で、ケルベロスたちはダモクレス二勢力の戦う戦場へと突入した。

●クレイジー・ハウス
 分断の初撃は不可視の電波から放たれた。
「R/D-1 『CRAZY HOUSE』PROTOCOL INFECTION」
『了解。R/D-1、侵入開始』
 かつてダモクレスたちより組み込んだ『エクスガンナーシステム ver.β』を介したマークの『TARGET CONTROL』電子攻撃が量産型アリトメティカたちに混乱を撒く。
「優先攻撃目標……目標?」
「電子攻撃を確認。修正パッチを要請」
 無論、元は量産型の戦闘機種にすぎないマークの演算能力は、最高級のステルス機であるアリトメティカに叶うものではない。
 だがそれで問題ない。
「異常個体……ケルベロス!」
 『整数論』アリトメティカの漢字か紋様にも見える頭部インターフェースが明滅し、対抗措置を開始する。それはすなわち、ダモクレスたちの注意がジュモーからケルベロスに移ったということ。
「ケルベロスの牙と心の強さ、刻んで経験するといいわ。何事も計算で成り立たないと」
 マキナのドラゴニックハンマーをランチャーに散布される『殺神ウイルス』が戦線に帯を作り、混乱する『整数論』部隊をジュモーから引き離す。
「私が滅するのは『整数論』、お前の側だ!」
 そこへ上空から爆撃のように放たれるティーシャの『カアス・シャアガ』重砲。
 テレサとライドキャリバー『テレーゼ』の『フォートレスキャノン』『ガトリング斉射』のつるべ撃ちが間隙をこじ開け、ヴォルフと双吉が敵陣中心へと『チェイスアート・デバイス』を踏み鳴らして飛び込んだ。
「割り込みは『徳』たる所業じゃあないがな!」
 周り蹴る嵐が生み出す烈風の刃。破滅の音を上げ巻き起こる『螺旋模倣・軋峰烈脚断斬陣』の嵐が量産型アリトメティカたちを凪ぎ、火花を散らす。
 おろおろと周囲を見渡し、時に互いの手足をぶつけあう量産型ダモクレスの異常行動は螺旋を用いた方法こそ異なるが、マークと同じ脆弱性をついた思考回路への攻撃。
「っぐぅ……こんだけ痛めつけても、ここまでか! 頼む!」
「ふむ、まだ動くか。Brechen……」
 そして逃れた量産型にも敵の絶望を祈るヴォルフに答えた『Verwesen Beten』の精霊たちが混乱と破壊を撒き、その行動を一時あるいは永遠に封じていく。
 アリトメティカと量産型、十機からなる『整数論』部隊はその名の示す秩序を失ったかに見えた。
「状況を更新。ケルベロスの戦力漸減を実施する」
「それは望むところ、といいたいけど……!」
 閃光。
 リティの警戒を促す声がかき消える。
「っ、リティ……! Code A.I.M……start up」
 青の輝きをマキナは呼ぶ。『CCP A.I.M』が消えかけた仲間たちの意識をぎりぎりに引き戻す。
「今の攻撃は……っ」
「マークや俺と同じだ……光信号による螺旋の技、俺たちの『脆弱性』をついてきやがった!」
 頭を振るピコの困惑する声に、ありえない敵が放ってくる螺旋を双吉はブラックスライムで受け流し叫ぶ。
 双吉の技は識別を誤らせ、マークの電子攻撃は優先攻撃目標を改ざんしたが、『整数論』アリトメティカの攻撃……『ウイルスフラッシュ』とでも呼ぶべきか。視覚を通した情報攻撃はより具体的なトラウマを引き起こす。
 手にした『忍者刀【紅竜鱗】』を防御にふるうピコには何が見えているかわからないが、それが思い出したくない最悪であることは間違いない。
「パッチアップデート配布。各機、攻撃を再開せよ」
 機械的な『整数論』アリトメティカの指令に、量産型が各部を発光させる。
 身を立ち直らせ、一瞬にして復帰。念入りに重ねがけた異常はもはや欠片もない。
「エスコーター……パッチアップデート。敵ウイルスへのアップデートおよび医術治療を開始……っ」
「ヒールドローン、防壁構築。リティさん、大丈夫ですか?」
「問題ない、こっちにはぽっと出の新型とは段違いの経験がある……これ以上の電子戦合戦は、苦しそうだけどね」
 切り込み口を変える必要がある。
『メディカル・エスコーター』を展開するリティの皮肉を切り裂き、とびかかる量産型アリトメティカのブレードが、テレサの『有線式ディスクユニット』を叩き割った。

●イリーガル・ムーブ
「最大脅威目標を算定。目標」
「っ、ティーシャさん!」
 拠点の中空より現れ出でた無数の手裏剣に咄嗟、テレサはティーシャたちを分離する。
 直後、『テレサ専用メイド服【スカイ・ネット】』ごとを少女を螺旋の旋風が切り刻む。
 間一髪、『斬環の末妹モード』へと再合体して着地するティーシャ。『Iron Nemesis改』ジェットブーツを機動させるも、次々と襲い掛かる螺旋手裏剣、ウイルスブレードが必殺の一撃を放たせない。
「DAMAGE LEVEL YELLOW……!」
「螺旋制御、電子戦ともにこちらを上回っています……このままでは」
 庇うマークの『HW-13S』防盾が本体を繋ぐサブアームにブレードを差し込まれ、引きちぎられていく。
 ピコの『増設型擬似螺旋炉』がフル稼働し、ナノマシンを活性化させて手裏剣を撃ち落とすが、それも相殺がやっと。
 そして『整数論』にはまだ先ほどのウイルスフラッシュが残っている。
「流石に近衛兵、精強ではある……けれど、危機的状況は逆説的にチャンスでもある。ケルベロスとして学んだことだわ」
「それは誤学習だ、異常個体。我々はアップグレードを続け進化することができる。マキナクロスを離れ、その技術の恩恵を失ったお前たちは不揃いな間引き対象に過ぎない」
 それでも。マキナの反論と放ったコアブラスターが宙を切る。量産型のまとうステルス装甲の上位種、ナノマシンと螺旋気流を駆使したステルスフィールドだ。
「学習されている……いやしてきたか!」
「螺旋の力ってのは色んなところに分け与えられてるな……本星もなくなって、摘まなきゃいけないってのは残念だがっ」
 ヴォルフの好奇心を帯びた声に、双吉は唇を歪ませる。『螺旋のプロメテウス』より与えられた螺旋の技、果たして彼のデウスエクスを超えて練られるか。
「レドーム、全方位索敵っ」
「螺旋使いとしちゃあ、負けられねぇ闘いだぜこれはっ!」
 リティの『強行偵察型アームドフォート』がマークした虚空を毒手裏剣が打つ。螺旋力の生むDNA侵食毒に、飛び散る火花。
「違う……!」
 だがにじみ出て倒れる姿はアリトメティカではない。量産型だ!
「『サイレン』個体の能力は既に収集されている」
「っ!」
 瞬間、リティの目前に瞬間移動のように迫る『整数論』アリトメティカのウイルスブレード。
 巨大な『対艦戦用城塞防盾』を滑るように押しのけ、刀身が迫る。
「まだだっ、デウスエクリプス!!」
 ティーシャの体当たりがゼロ距離から『デウスエクリプス』を叩きつけたのは、半瞬遅れ。
 返す手で放った手裏剣に『擬態用マルチウェア』を切り裂かれながらも、ジャイロフラフープの運動エネルギーがそのウイルスブレードの刀身をたたき、へし折っていく。
「ティーシャッ」
 ヴォルフの『Unterwelt』の名を冠した偃月刀が稲妻の突きで量産型を沈める。同時、支えを失ったリティの体が倒れていく。
 振り向く再びアリトメティカの頭部センサーが明滅するのをヴォルフは見た。

●ステイル・メイト
「まだだ……貴様らを滅するまで」
「SYSTEM REBOOT!」
 量産型の突き立てるブレードを跳ね飛ばし、マークは『M158』ガトリングガンをクイックドロウで斉射する。庇われ出来た一手でティーシャはジャイロフラフープを切り離した。
「……動作に支障はない。攻撃を続行」
 折れたウイルスブレードの短い刀身で交差受けしたアリトメティカの装甲……艶のある蒼光の黒に走る二筋の切り傷を刻み、白黒の円形マスドライバー型アームドフォートは傷ついた拠点の壁面へ深々と突き立った。
 再び満ちるウイルスフラッシュの光。
「フィールド内のナノマシン……指令、活性化……攻撃対象、『整数論』アリトメティカ」
「なに」
 だがその攻撃は完全には為されなかった。
 力なく倒れたピコの呟きに、テレサたちの『デウスエクリプス』の与えたアリトメティカの薄傷から、血しぶきのように火花が舞った。
「アップグレードされたとして、元が同じであれば……私の力でもあります」
「ナノマシンを、逆用したのか」
 すでにピコのナノマシンは使い切られ、マフラーもない忍装束は見るも無残な有様だ。だがそれはそれだけ、それ以上のナノマシンが戦場に散布されているということ。
 そして洗練し隠密のみに取り入れたアリトメティカに対し、ピコはより攻撃的に螺旋による『ナノマシン活性化』を用いることができる。
「いったはずよ……何事も計算で成り立たないと」
「あぁ……無理だ、敵わない――そういう闘いだからこそ! 俺はこの螺旋で乗り越えなきゃいけねェッ!」
 悪化した状態異常がアリトメティカのステルスを縛り、マキナの轟竜砲を直撃させる。
 肉体を凌駕した双吉の魂が『螺旋模倣・軋峰烈脚断斬陣』を吠える。
「不確定変数をあなどったか……」
 吹き荒れる烈風は量産型アリトメティカを凪ぎ、乱し、そして止んだ。
「が、あっ! まだ……生まれ変わるには、徳が……先生よっ」
 技の主から移植された双吉の右腕が、力なく垂れ下がっている。二度の必殺技の強行でビキリと音を立て崩れた足では、その螺旋の源に突き立てられる手裏剣をかわす事はできなかった。
「世界はマキナクロスの元、整然と均一でなければならない」
「ならばこれ以上、お前は戦い続けまい」
 しかしヴォルフは『Gift』を濡らす血をぬぐい、アリトメティカへそう呼びかけた。
 ケルベロスたちはすでに動けるのはヴォルフとピコが僅かばかり。『整数論』部隊はアリトメティカ本体に量産型も半数を傷つきながらも残している。
 だがそれ以上、『整数論』は動かない。それはヴォルフの指摘の的中を意味していた。
「こんなになってまでっ、本当に助かりました! 今、手を貸しますから!」
「ようやってくれたのぅ! ジュモーは撃破したぞ!」
 傷つきながらも勝利を叫ぶラインハルトと朔耶の声。
「……任務、不完全終了」
 倒されたジュモーの姿にアリトメティカの無機質な体と声に不愉快さが垣間見えたのは、見る者の感傷であろうか。
 ステルスフィールドが荒れ果てた拠点に『整数論』を溶け込ませ、気配が遠のく。
 互いに打てる手を失った、ぎりぎりの勝利。まともに戦えば危なかった。
「……そろそろ近代化改修かな」
 キアリのドローンにつかまっての撤退のなか、リティはぽつりと声を漏らした。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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