●石巻市長面浦
それは豪雨とも言える砲撃だった。百体近くの『幾何学』ゲオメトリアの軍団が長面浦に向かってあらゆる砲弾を撃ち込んでいるのだ。
激しい爆音、轟音と共に立ち昇る水蒸気。その熱量をもって長面浦の湖水は瞬く間に蒸発した。
そして湖底にあったものこそがダモクレス『ジュモーの拠点』だったのだ。
その形はユグドラシルの根が繭のように絡まった球形であった。しかし砲撃により、そのユグドラシルの根は破損し、穴が開いている。
暴食機構グラトニウムが慌てたように飛び出してきた。どうやら穴を塞ごうとしているようだ。
だが、ゲオメトリア以下『インペリアル・ディン軍』はそれを黙ってみていない。数体の『天文学』スファイリカを落下させ、そのグラトニウムを押し返すと、『整数論』アリトメティカ、『音楽学』ムシュケーの部隊を繭の穴へと突入させたのだった。
●ところ変わってヘリポート
「さて、話を聞いた人はいるかもしれんけど、依頼や」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が目の前にいるケルベロス達に話しかけた。
「まず、強襲屍隷兵製造拠点からの情報によってジュモーの屍隷兵製造拠点を破壊する事に成功したわけや。そうするとや、当然この屍隷兵の製造は止まる。みんな、お疲れさんやったで」
絹はまずケルベロス達のにねぎらいの言葉をかけた。
「で、そこからの情報が、今回のアップデートや。ジュモー・エレクトリシアンの配下として拠点を指揮してた、機界魔導士ゲンドゥルが、攻性植物に与してなくてやな、どうやらジュモーに敵対する立場やったわけや。
ゲンドゥルはジュモーを『裏切り者』と呼んでいたそうでな、うちらがジュモーの拠点を突き止めるよりも早く、ダモクレスが拠点を襲撃して、全部の研究成果を奪い取ってジュモーを滅ぼすって言いよったわけや。
ダモクレスはジュモーの研究成果を奪い取る為に、泳がせてたんやろなあ」
そう思たらどっちが裏切りモンかわからんで……。と絹が呟く。確かにその通りだろうが、デウスエクスの内紛など、ケルベロスからすればどうでも良いことかもしれない。そんな事を言いつつ、絹は説明を続けた。
「ほいでや、ダモクレスの十二創神でありアダム・カドモンの近衛軍の軍団長の一体『インペリアル・ディオン』に率いられた精鋭軍が、そのジュモーの拠点やった湖を一気に蒸発させるような砲撃を行ってる。そこが、宮城県石巻市長面浦。
で、そこではみんなは、インペリアル・ディオン対ジュモー勢力の戦いにに介入してもらうで。うちらの目的は、ジュモーの研究成果と、ジュモーのコギトエルゴスムを、インペリアル・ディオンに渡さんように破壊することや。
まあ、インペリアル・ディオンの撃破までは難しいかもしれんけど、配下の精鋭部隊を撃破するって事が出来たら、ダモクレスの力を削ぐ事も出来るって感じやな」
なるほど。と頷くケルベロス達。そして、作戦の詳細を求めた。
「まずや、今回はある程度の部隊で動くで。
ジュモーの撃破に向かう部隊。ジュモーの研究成果を破壊する部隊。退路を確保する部隊。『幾何学』ゲオメトリアを邪魔する部隊。そんで、指揮官の『インペリアル・ディオン』に戦いを挑む部隊になる。
目的はさっき言ったように、ジュモー自身とその研究成果をダモクレスに渡さへんってことや」
全体で障壁を取り払いつつ、目的を果たす。その為に仕組まれた作戦であった。
「砲撃によって拠点にあいた大穴は、スファイリカとグラトニウムっちゅう巨大ダモクレスが押し合い圧し合いしてるらしいから、その隙をついて内部に突入する事は可能やろう。せやけど、グラトニウムがスファイリカに撃破されてしまうと、出入り口が『インペリアル・ディオン』軍に制圧されてしまうから、悠長な事は言ってられん状況になる。そのために退路確保部隊にうまいことやってもらうわけやけどな」
その辺はちょっと情報の連携は必要かもしれんな。と絹は付け加えた。
「んで、皆の作戦は『研究成果の破壊』になる。他の班とあわせて3班で動くで。
まず、この研究成果を狙ってるのは『音楽学』ムシュケーになる。その配下のダモクレス達で動いとる。どうやら、いちいち研究内容を確認するつもりも無いらしくてな、一切合財持ち帰って確認するように動くみたいやわ。
せやから皆は、このムシュケーとその配下のダモクレスが持ち帰るより早く、なんとかせんなあかんわけや」
「……なんとか?」
するとケルベロスの一人が首をかしげて問うた。
「せや、作戦は任せる。
回収作業中のムシュケー軍を襲うのもええし、戦いに持ち込んでどさくさで破壊してもええし、隠してしもてもええ。あとは、頑張って先回りしてもええし、3班で協力し合うってのもええな。そんな感じで内容は任せるな」
目的は研究内容を持ちかえらさ無ければ良いわけだ。
「あとや、どうやら作戦内容によっては機界魔導士ゲンドゥルがおるかもしれん。わざわざ探しに行くかも任せるけど、そうすると他の班とは別行動になるから、それなりにリスクはあるで。当然、本来の目的もあるわけやからな」
確かに、このゲンドゥルと遭遇すれば、情況次第では様々な可能性は出てくるかもしれない。ただ、目的を逸らすわけにはいかない。
「まあそんなわけでや、ジュモーとの因縁っちゅうかな。それも最後になるやろ。いろんな情報を持ち帰ってくれた、締めって事にもなるかもしれん。ただや、ダモクレスの十二創神アダム・カドモンが近衛軍を投入してきたって事はかなり重要な事とも取れる。ダモクレス軍にも、大きな動きがあるのかもしれんから、気は抜かれへん。頑張ってな!」
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107) |
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434) |
●潜入
ケルベロス達は、振ってくる砲撃をかいくぐって『ジュモーの拠点』である繭のようなユグドラシルの根の穴を通り、ジュモーの研究施設に潜入していた。
先にムシュケー軍が潜入していたが、『レスキュードローン・デバイス』を使って最短ルートで突入したことにより、彼らに追いつき、軽く撃破していたのだった。
「ここが、ジュモーの研究施設……。うん、幾つかの部屋に分かれているみたいだね」
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)はそう言って、『レスキュードローン・デバイス』を一旦停止させた。
他の班とは、ある程度の所で別れたところだった。これからはこの研究成果と思われる施設を破壊していく事になる。
一つの部屋に入ったケルベロス達は、その中を確認しながら進んでいく。
「王女……レリ。そして、ハール……。なるほど、ここはエインヘリアルの研究施設ですね」
戦闘が激しくなってきているのだろう。周囲の音が、激しくなっていっているのがわかる。だが、ケルベロス達は真っ先に目的を果たすべく動いていた。
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)が一つの機械を少し触ると、彼女らの画像が映し出されていた。彼は『情報の妖精さん』でそれらの情報を素早く纏めて結論付けた。
その時、周囲の爆音と、恐らく敵の声であろうか、怒号が聞えてきた。
「余り時間はなさそうですね……。指揮官ムシュケー、機界魔導士ゲンドゥルが来る前に」
瑠璃は他の仲間にそう言って頷いた。
「皆さん、あそこの部屋に、何体かが潜伏しているようです」
ローゼスが一つの扉を指差し、『ゴッドサイト・デバイス』に映し出される人影の情報を、仲間達に伝える。
此方の戦力は多くは無い。だったら、最優先事項をつぶすまでだ。
すると、扉の横にシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が隠れ、『アームドアーム・デバイス』を出現させる。
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」
シィカが派手に殴りつけた扉は、完全に崩壊して大穴が開く。
「相手の好きなようにはさせません。任務と参りましょう!」
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が番えた炎の矢を扉の奥に打ち込んだ。
その時、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が、他班の通信に気がつく。それは、他班の皇・絶華からの通信だった。どうやら攻性植物の区画であったらしく、敵と交戦を開始したとのことだった。
『こちらは、エインヘリアルの区画に潜入したところですわー。こんな感じですのー』
フラッタリーの視界には、ラーヴァの炎と、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)がそこに突入している姿があり、それは『マインドウィスパー・デバイス』にそのまま映し出されていた。
『了解。こちらはドラゴンの区画の掃除を終えたところだ。これより更に深部に向かう』
するともう一班の玉榮・陣内がそう返してくれる。どうやら、他でも同じように戦闘が繰り広げられているようだった。
「他の班も、交戦が開始されましたー。一気にいきましょー」
最後にフラッタリーは仲間にそう伝えて、轟竜砲を部屋に撃ち込んだのだった。
●研究破壊
「さあ、破壊デース!」
シィカはそう言って研究室の一つと思われる場所の機械を、『アームドアーム・デバイス』を使って、どんどんと壊していく。
部屋の中に居たムシュケー軍の数はまだそれほど多くはなく、不意を突いたケルベロスによって一掃したところだった。
研究内容は機械と書類などだろうか。
機械は破壊し、書類は燃やし尽くす。
「ここにある情報は、大体破壊できたようでございますね」
ラーヴァが地獄の炎を操って、書類を燃やしながらそう言った。
「よし、じゃあ次の部屋にいこう」
瑠璃は後方を窺いつつ、全体を把握する役目を全うしていた。自らは余り破壊には加わらず、奇襲に備えた。
「次はー、どちらへー、参りましょうー?」
フラッタリーが少し首を傾げる。片っ端から破壊していけば良いのではあるが、効率は考えたいところだ。当の本人は情報量が既に多すぎて、あらー? と立ち止まるときが合った。
「私にお任せを。さて、時は金なりというのでしたか。迅速に参りましょう」
するとローゼスが、ゴーグルで周囲を把握し始めた。
「皆さまご迷惑をー、お掛けしてますのー」
ローゼスの演算は素早かったが、何事にも動じる様子は無かった。それを知ってかフラッタリーは安心して彼の背中に乗る。
「ここをでて、右に数十メートル先に、少し敵が集まっていますね。あまり動いていないところから、作業をしているようです」
即ち、そこに研究成果がある可能性は高い。
「なるほどー。ではみなさんー。そちらに参りましょうかー」
ローゼスの言う通り、向かった先には一つの部屋があった。
「では、とつげき……」
シィカはその部屋を見るや、一気に駆け出そうとした。
「おっと、それはなりませんよシィカ様」
「うっぷ!」
すると、ラーヴァがシィカの首根っこをつかみ、構造物の陰に隠す。
「数人見張りがいるようです。見てください」
「ほんとうデス!」
「相手が見張っているという事は、うかつに近寄れないですわね……」
ルーシィドはそのシィカの隣から顔を出し、同じように其処を覗き込んだ。
「でも、あんまり時間も無いから、躊躇していられないよね」
瑠璃が少し考え込む。すると、他の場所から大きな爆発音が響いてきた。その大きさに、見張りのムシュケー軍が中から2体ほど入り口に出てきた。
「確かに、ぐずぐずはしていられないですわ」
ルーシィドは意を決した表情で仲間達を見る。
「ここはー、行くしかないー。ですわねー」
「では、私とローゼス様で援護射撃と参りましょう。よろしいでしょうか?」
フラッタリーが頷き、ラーヴァが炎の矢を番えた。
「では、やっぱりとつげきデース!」
「行きますわ!」
こうしてシィカとルーシィドが飛び出すと、ケルベロス達は一気にその部屋に突入していったのだった。
●ジュモーの研究の果て
「少し、ダメージを戴いてしまいましたが、まだ大丈夫ですわ。シィカ様はどうでしょう?」
「何のこれしきデス!」
ルーシィドの問いに、シィカはそう元気に答えたが、ダメージが無い訳ではない。
「もう少し行きたいところだね」
その二人を瑠璃が癒しながら、考えを言う。
ケルベロス達が突入した研究施設は、どうやらドリームイーターのものであった。敵の数は十数体ほどであったが、背後を取れたという事が大きかった。
ムシュケー軍を殲滅させ、その研究施設を破壊していった。
「そうですねえ。色々と、研究したのでございましょうね……。もう少し見てみたいところではありますね」
ラーヴァは少し残念そうに言いながら、それでも研究結果を燃やしていく。
「これほどまでのー、情報はー、集めるのにも苦労したでしょうねー」
フラッタリーの言う通りであろう。その数はたった一体のダモクレスで集めることが出来る量としては、とてつもない成果と思えた。
「これまで時間もあったし、全てを研究に注いでいたんだろう」
瑠璃もそう言って頷きながら、ローゼスに「他の場所はどうだろう?」と尋ねた。
「そうですね。……と、此方の裏に、また施設がありそうです」
ローゼスのゴーグルには、部屋らしき場所に、数体の敵の姿があった。
「まだ、敵は少ないようです。行くなら今でしょう」
ローゼスの言葉に、ラーヴァのバケツヘルムから、地獄の炎が揺れながら漏れ出た。どうやら敵の邪魔をするのが心底楽しいのだろう。
ケルベロス達は、ドリームイーターの研究成果を破壊しつくして、また次の部屋に移動していく。
次の部屋はそれ程はなれていなかった。
「この数なら、何とかいけそうだね」
瑠璃は前衛であるシィカとルーシィドに、士気を高める意味もこめて背後に爆発をおこした。入り口に見えている数は1体だ。
「もうひと踏ん張りですわ!」
ルーシィドはその部屋に入ろうとしているムシュケー軍の一人にケルベロスチェインを伸ばして締め上げた。
『環Zeン無欠ヲ謳オウtO、弧之金瞳w∀綻ビヲ露ワ仁ス。其之ホツレ、吾gAカイナデ教ヱヤフ』
そしてフラッタリーが、相手のグラビティ・チェインを捕らえ、獄炎の縄で絡め取った。
『徹甲兵装を起動する。その動き縫い止めよう。』
最後にローゼスが誘導式のフレシェット弾を発射する。その弾からは装甲貫通性の高い矢が炸裂し、その1体を貫いて絶命させた。
「これは、螺旋忍軍の研究のようですわね」
ルーシィドが到達した部屋を見て、そう呟いた。
ジュモーの研究は、どこまで続いているのだろうか。ここまで来ると我々ケルベロス達の情報も、しっかりと掴んでいるはずだ。
「恐ろしいほどですね……」
瑠璃はそう言うと、さあ、破壊してしまいましょうと仲間を振り返った。それと同時に、ローゼスが警鐘を鳴らす。
「皆さん、敵が来ます!」
出入り口にローゼスが駆けると、その背に乗っていたフラッタリーもまた其処から飛び降りてドラゴニックハンマー『曼荼羅大灯籠』を構えた。
「ケルベロスが中にいるぞ!」
ハッキリとそう聞える。だが、ここの研究施設はまだ破壊していない。
「シィカ、ルーシィド! 出来るだけ、破壊を頼んだよ」
瑠璃の声に、素早く反応した彼女等は『アームドアーム・デバイス』で、片っ端からその研究成果を破壊し始めた。
それと同時に、敵が乗り込んで来る。
「多勢に無勢ですね。撤退しましょう!」
ラーヴァは目の前の3体に、無数の刀剣を降らせてその武器を弾く。だがまたその奥からもムシュケー軍が何体も現れてきていた。
『ビルシャナ区画の破壊完了。だが量産型ムシュケー十数体に遭遇。奴らが奪った資料のみ攻撃してから撤退する』
すると、フラッタリーに絶華からの通信が入る。
『此方も敵が増えてまいりましたわー。ある程度破壊できたかと思いますのでー、撤退いたしますわー』
フラッタリーは目の前の敵の攻撃を避けつつ、急所に地獄の炎を叩きこんでそう返した。
『こちらは今まさに撤退中だ。遠くまで足を伸ばしたから、少しばかり遅れるかもしれん』
すると、陣内からそう通信が帰ってきた。どうやら他班もまた、ここが潮時と判断したようだ。
「今です!」
ローゼスはゴーグルを確認しながら、フラッタリーがあけた敵の隙にもぐりこみ、槍を振り回した。
彼の空けた敵の障壁に出来た穴。ケルベロス達は其処に一気に突入してその部屋から外に出た。
「これはアンコールデス!」
最後にシィカが口から炎を吐き出し、その部屋に火を放ったのだった。
ケルベロス達は、急いで来た道を引き返していった。
帰る道は凄惨なものに思えた。
ジュモーの研究施設に殴りこみをかけたダモクレスの残骸や、ケルベロスが破壊していった跡が残る。
すると、前方に一組のケルベロス達が見えた。どうやら、一緒に突入し、同じく研究成果の破壊を担当していった者達のようだった。
「さあ、出口まで駆け抜けることにいたしましょう!」
ラーヴァがそう言うと、瑠璃が『レスキュードローン・デバイス』を展開する。
ジュモーの研究成果は、できるだけ破壊できたはずだ。
他の班の戦果はどうなっているのかは、まだわからない。
ケルベロス達は期待をこめて、ジュモーの研究施設だった場所から撤退していったのだった。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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