ジュモー最終決戦~機械の亡国

作者:土師三良

●強襲のビジョン
 ダモクレスの大軍勢が湖のほとりに並んでいた。
 もっとも、その湖はもう『湖』と呼べるものではなくなっている。
 有翼の蛇のごとき姿をした百体ほどのダモクレスの激しい砲撃によって、湖水が蒸発してしまったのだから。
 剥き出しになった湖底には巨大な繭のようなものが鎮座していた。木の根が絡み合うことで構成された球体の繭。
 ジュモー・エレクトリシアンの本拠地である。
 蛇型ダモクレスたちの砲撃は湖を消し去るだけでなく、繭の側面に大穴を開けていた。
 その穴の奥から、動物と植物と機械が混じり合ったかのようなダモクレス――暴食機構グラトニウムたちが現れた。穴を修復するつもりなのだろう。
 攻撃側のダモクレスがそれを見逃すはずもない。グラトニウムに匹敵するほどの大きさを有した球形のダモクレスを十数体ほど降下させ、妨害を始めた。
 そして、グラトニウムと球形ダモクレスがぶつかり合っている間に複数の部隊を繭の穴に送り込んだ。
 ジュモーを討つために。
 この数年の間に彼女が得たであろう知識と技術を奪うために。

●音々子かく語りき
「ケルベロスの皆さんの活躍によって、宮城県八景島にあったジュモー・エレクトリシアンの屍隷兵製造拠点を破壊することに成功しました。ジュモーによる屍隷兵の生産ラインはこれで完全に絶たれたんじゃないですかねー」
 ヘリポートに招集されたケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が語っていた。
「その製造拠点を強襲した際、何人かのケルベロスが『機界魔導士ゲンドゥル』とかいうダモクレスに遭遇したんですよー。そいつはジュモーの配下として製造拠点を指揮していたみたいですが、実はダモクレスの主流派が送り込んだスパイだったんです。つまり、ジュモーは主流派から敵と見做されていたということですね」
 ゲンドゥル曰く、ジュモーは『ダモクレスを裏切った背信者』なのだという。攻性植物に与することはダモクレス全体の意思ではなかったのだろう。
 それでも主流派がジュモーを泳がしていたのは、有能な研究者である彼女に利用価値があったからだ。
 しかし、今は違う。
 ケルベロスに追い込まれて零落したジュモーにもう価値はない。
「ダモクレスは私たちより先にジュモーの本拠地を突き止めました。宮城県の長面浦です。そして、そこに『インペリアル・ディオン』という輩が率いる精鋭軍を送り込んで、湖水が蒸発するほどの砲撃をしやがるんですよー。ドッカーンって! ドッカーンって!」
 インペリアル・ディオンは、ダモクレスの十二創神アダム・カドモンの近衛軍々団長の一体であり、『四学科』と呼ばれる幹部たちを引き連れているという。
「ダモクレス同士が潰し合うというのは結構な話なんですが、漁夫の利を狙って高みの見物と洒落こむわけにもいきません。インペリアル・ディオンたちはジュモーの研究成果を欲しがっているでしょうから」
 インペリアル・ディオンの目的は研究成果ばかりではない。ジュモーを倒し、そのコギトエルゴスム(デウスエクス同士の戦いなので、完全な死には至らないのだ)も回収しようとするだろう。
「というわけですから、両軍の戦いに介入して、ジュモーの研究成果とコギトエルゴスムをブッ壊しちゃってください。インペリアル・ディオンたちの手に渡る前に!」
 長面浦の湖底に隠されていたジュモーの拠点には大穴が穿たれており、そこでジュモー勢のグラトニウムとインペリアル・ディオン軍の『スファイリカ』という巨大ダモクレスが激闘を繰り広げている。その混乱に乗じて拠点に侵入し、各チームがそれぞれの任務を果たすのだ。
 ここに招集されたチームの任務は、ジュノーの研究成果の破壊である。
「拠点内には、インペリアル・ディオン軍の『四学科』の一部の面々も侵入しています。研究成果の回収を担当しているのは『音楽学のムシュケー』という奴ですね。こいつは支援力と妨害力に秀でていて、自分に似た量産型の配下たちと一緒に行動しているようです」
 ヘリオライダーたちが予知したところによると、ムシュケーたちは研究成果を精査して必要なものだけを選ぶ……といった悠長なことはしないという。目についたものを一切合切持ち帰り、後から内容を確認するつもりらしい。
「そんな敵たちにどうやって対処するか――それは皆さんにお任せしまーす。回収作業中のムシュケー隊に攻撃を仕掛けて撃破するもよし。回収作業中のムシュケー隊に攻撃を仕掛けるけども、撃破までは狙わずに研究成果だけを破壊して撤退するもよし。一部のチームがムシュケー隊を足止めして、別のチームが先回りして研究成果を破壊もしくは回収するもよし。あ? 言い忘れてましたけど、研究成果の破壊を担当するチームは皆さんだけじゃないんですよ。かけらちゃんと絹さんが招集したチームも参加してくれます。心強いですねー」
 効率を重視するなら、各チームが別行動を取るのが望ましいかもしれない。ただし、その場合は一チームだけで何事にも対処しなくてはいけないので、危険度が上昇するだろう。
「最後に言っておきますが……今回の任務が失敗したとしても、ジュモーの研究成果をダモクレスの主流派に奪われるだけですから、直接的な被害が出ることはありません。なので――」
 音々子はケルベロスたちをゆっくりと見回した。厚いグルグル眼鏡の奥にあるのは心配げな眼差しか?
「――ヤバい状況になったら、迷わず撤退してくださいね。退くもまた勇気ですよー!」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)

■リプレイ

●研究対象:滅びゆくもの
 床に設けられた切り株型の機器の上に灰白色の大きな物体が浮遊していた。
 ドラゴンの牙だ。
「この小汚い歯は本物? それとも、実物大の模型?」
 レプリカントのアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が牙を横目で見ながら、前方にマルチプルミサイルを発射した。
 奇妙な機器が並べられた広い部屋を突っ切るミサイル群。その終着点で爆発に巻き込まれたのは、楽器のような武器を備えた四体のダモクレスだ。
「本物であろうと、偽物であろうと――」
 銀狼の人型ウェアライダーのリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が呟いた。
「――壊すまでぇぇぇーっ!」
 呟きは咆哮に変わった。ハウリングである。
「そうそう! じゃんじゃか壊してくわよー!」
 簒奪者の鎌を手にした大弓・言葉(花冠に棘・e00431)がレギオンファントムを繰り出した。『じゃんじゃか』という文言に合わせてオラトリオの翼をはばたかせながら。
 遠吠えと亡霊の群れに蹂躙されるダモクレスたち。いや、被害を受けたのは彼ら(彼女ら?)だけではない。周囲の機器も全壊もしくは半壊した。もちろん、そうなることを踏まえた上でケルベロスたちは対複数用のグラビティを使ったのだ。
「申し訳ありませんが、研究成果を渡すわけにはいきません」
 オラトリオのリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)がライジングダークを照射した。敵を攻撃するために。室内の機器に眠っているであろうジュモーの研究成果を消し去るために。
「リコリスちゃんってば、嘘ばっかりー。申し訳ないなんて思ってないくせに」
 サキュバスのエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)が怠惰な所作で片腕を伸ばす。
「まあ、私も思ってないけどね」
 ダモクレスたちの損傷箇所に薔薇の花が咲き、ジグザグ効果で状態異常を悪化させた。
 敵の一体がよろけると、その背後に銀髪の男が現れ出て、銃弾を撃ち込んだ。ビハインドのアルベルト。アウレリアの亡夫にしてエヴァリーナの亡兄である。
 彼に続いて、熊蜂型のボクスドラゴンのぶーちゃんがボクスタックルを見舞い、名無しのウイングキャットが爪を振り下ろす。
 サーヴァントたちの集中攻撃がとどめとなり、哀れなダモクレスは爆発した。
 その衝撃によって、傍にあったキャビネットのような機器が倒れ、前面に並んでいた扉のいくつかが弾け飛んだ。そこから吐き出されたのは、幾百もの透明の小さなキューブ。
「キラキラして綺麗ですね」
 散乱したキューブを見下ろして、人派ドラゴニアンのカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が笑った。どこか寒々しい笑顔に見えるが、実際に室温も下がっている。アイスエイジを用いて氷河期の精霊たちを召喚したからだ。
「僕は機械のことはよく判らないんですけど……たぶん、これは記録媒体ですよね?」
 にこにこと笑い続けるカルナの足下で、記録媒体であろうキューブ群が凍り付いていく。
「――!」
 ダモクレスの一体が電子音の叫びを発し、果敢に反撃を……するかと思いきや、腰を屈めて、まだ被害を受けてないキューブをかき集めた。戦闘よりも回収を優先したのだろう。
「がっつくなよ、火事場泥棒。みっともないぜ」
 黒豹の獣人型ウェアライダーの玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が指を鳴らし、死天剣戟陣を発動させた。
 天井から無数の剣が降り注ぎ、ダモクレスを床に縫いつけ、キューブ群を粉々に打ち砕く。
「ううん、たまにい。こいつらは火事場泥棒よりタチが悪いんだよ」
 と、『たまにい』こと陣内に語りかけたのはライオンラビットの人型ウェアイライダーの七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)。その身を覆うバトルオーラから気咬弾が放たれ、縫いつけられたダモクレスの頭部が吹き飛んだ。
「だって、火をつけた当人たちが盗んでるんだからね」

「目につく物は――」
 最後のダモクレスにとどめを刺して、リューディガーが室内をぐるりと見回した。
「――すべて壊せたか?」
「壊せたんじゃないか」
 そう答えた陣内の脳裏に声が届いた。他のチームの人員がマインドウィスパー・デバイスを介して念話を送ってきのだ。
『攻性植物の区画でムシュケー軍3体と遭遇。殲滅する』
 続いて、別のチームの人員の間延びした声も聞こえた。
『こちらは、エインヘリアルの区画に潜入したところですわー。こんな感じですのー』
 二チーム目の念話は映像付きだった。陣内の目に見えたのは、戦場に飛び込む金髪のサキュバス(念話の主ではない)の後ろ姿。
『了解』
 と、陣内は念話を返した。
『こちらはドラゴンの区画の掃除を終えたところだ。これより更に深部に向かう』
「さあ! 兎のごとく素早く、獅子のごとく激しく行くんだよ!」
 瑪璃瑠が走り出した。
「ぴょんぴょーん」
 両手を頭にやって兎の耳を作り、言葉も走り出した。
「がおー」
 吠え猛る獅子を真似ながら、エヴァリーナも走り出した。
 後の面々は無言で走り出した。

●研究対象:恐るべきもの
「三つの敵影が近付いてるわ」
 ゴッドサイト・デバイスで得た情報をアウレリアが皆に告げた。
 彼女たちがいるのは、いくつかの扉が並ぶ薄暗い通路。ゴッドサイト・デバイスの機能を用いていることからも判るように戦闘状態ではない。
「私たちの居場所を探知して追ってきている……というわけではないでしょうね。敵は回収作業を優先しているのだから、三対十一の無謀な勝負を挑むはずがないわ」
『三対八』としなかったのはサーヴァントも数に入れたからだ。アルベルトは無反応だが、ぶーちゃんとウイングキャットはなにやら嬉しそうな顔をしている。
「では、研究成果のある場所をなんらかの方法で知り、そこを目指しているということでしょうか? しかし――」
 リコリスが周囲を見回した。扉はすべて開かれている。中は探索済みだ。
「――それらしい部屋はありませんでしたよね」
「ゲームなんかでおなじみの隠し部屋があるかもしれないんだよ」
 瑪璃瑠が壁を拳で軽く叩いた。
「だったら、ここらへんが怪しい気がしますね」
 と、カルナが壁の一角を指し示した。
「扉の間隔がちょっと不自然ですから」
「では、私におまかせあれー」
 言葉がアームドアーム・デバイスを展開し、鋼の拳を壁に何度も叩きつけた。
「へー、重機っていうのは間近で見る機会が少ないけど、こういう仕組みでがっちょんがっちょん動くのねー」
 自身の体から伸びる機械仕掛けの腕を物珍しげに眺める言葉であったが、興味はすぐに別の物に移った。
 叩き壊された壁の向こうに現れた隠し部屋だ。
「ビンゴだ」
 陣内が部屋に足を踏み入れ、他の者たちも後に続いた。
 最初に破壊した部屋と違い、その部屋の構造はシンプルだった。扉のない冷蔵庫のような黒い機器が並び、それらの端末らしきものが中央に鎮座しているだけ。
「見るからにデータ室といった感じですね」
「うむ」
 感想を述べるリコリスの横でリューディガーが頷いた。
「これらの機器が記憶装置の類であり、なおかつ大きさと容量が比例しているのなら、膨大なデータが貯蔵されていると考えるべきだろうな」
「さっきも言ったように、僕は機械のことはよく判りませんけど――」
 カルナがまたもや氷河期の精霊を召喚した。
「――壊してしまえば、膨大なデータもゼロになっちゃいますよね。それくらいは判ります」
 精霊たちが舞い、『冷蔵庫』を凍り付かせていく。
「んー?」
 エヴァリーナが部屋の中央に目を向けた。
 端末の上方に映像が投影されたのだ。攻撃を受けた拍子に『冷蔵庫』が作動したらしい。
 正当な操作による再生でないため(かつ、激しい攻撃に晒されているため)、映像は何倍速もの状態で流され、しかもブロックノイズまみれだったが、内容は把握できた。
 デウスエクスの戦闘記録である。
 ダモクレス、エインヘリアル、ドラゴン、死神などが戦う光景が次々と映し出されていく。同じく何倍速にもなっているために聞き取れない音声とともに。
「うーん。まとまりのない映像だねー」
 エヴァリーナは首をかしげた。
「たぶん、未整理の資料なんでしょう」
『冷蔵庫』に銃弾を撃ち込みながら、アウレリアが言った。
 だが、その後で義妹と同じように首をかしげた。
「でも、そんなものをわざわざ隠し部屋に置いておくのはおかしいわね」
「ジュモーとしては、体系化できてない資料を人目に晒すのが嫌だったんじゃないか。時々いるだろ、そういう完璧主義者タイプのめんどくさい奴が」
 陣内が冗談半分に意見を述べると――、
「いえ、違うと思います」
 ――リコリスが真顔で否定した。
「この映像の中にはデウスエクス同士の戦いの記録がありません。どの戦いも相手はケルベロス……」
「なるほど」
 リコリスの言いたいことを悟り、陣内も真顔になった。
「つまり、これはデウスエクスじゃなくて、俺たちケルベロスに関する資料なんだな」
「だとしたら――」
 リューディガーが『冷蔵庫』めがけてドラゴンサンダーを放った。
「――なおのこと、敵に渡すわけにはいかんな」
「そうよ! 私の個人情報も含まれてるかもしれないし!」
 サンドバックを乱打するかのようにアームドアーム・デバイスの拳を『冷蔵庫』に叩きつける言葉。
 攻撃が激しくなったことが影響しているのか、映像に占めるブロックノイズの割合が増えた。
 その代わり、再生速度が通常のものになり、音声も一部だけ聞き取れるようになった。
『――よって、多様性が加わ――ゅうのマキナクロス化は退行に他な――ずれ、不死性を得るこ――』
「これ、ジュモーの声だよ」
 兎の耳をピンと立てる瑪璃瑠。
『――たしは以下の結論に至っ――ケルベロスもまたデウスエクスである、と――』
 そこで映像が消え、ジュモーの音声記録も途絶えた。

●研究対象:造られしもの
 ケルベロスたちが飛び込んだ部屋には四体のダモクレスがいた。
「おやおや」
 カルナがモノクル型のゴッドサイト・デバイスを操作し、敵のうちの一体をズームした。
『おやおや』という声が出たのは、敵がいたことに驚いたからではない。複数の敵がいることをデバイスで察知した上で(そして、その敵たちが動かないことから、資料を回収中であると判断した上で)突入したのだから。
 問題は、カルナがズームしたリーダー格らしき敵が他の量産型ダモクレスたちとは違ったこと。
 それはフード姿の魔術師を機械化したかのような外見の女性型ダモクレスだった。
「ケルベロスか……」
 忌々しげに呟き、指先を空間に走らせる魔術師型ダモクレス。青緑に光るルーン文字の軌跡が空間に刻まれ、科学の力で再現された疑似魔法の波がケルベロスたちに浴びせられた。
 その波が引くと、今度は癒しの力を効果を持つ混沌の水が後方から押し寄せてきた。瑪璃瑠がワイルドインベイジョンを用いたのだ。
「たぶん、あいつは――」
「――機界魔導士ゲンドゥルとかいう奴だな」
 陣内が瑪璃瑠の後を引き取り、またもや剣の雨を降らした。
「ほら、陣内くん。ちょっと懐かしい面子がいるよ」
 と、言葉が指さした先には立体映像が浮かんでいた。獅子、兎、海獣を擬人化したような三体のデウスエクスの全身図。
「ジュモーめ……神造デウスエクスのデータもしっかり収集していやがったのか」
「そのとおり」
 と、陣内の独白にゲンドゥルが応じた。
「しかし、おまえらのような定命者には無用の長物だろう。このデータを活用できるほどの技術も知識も有していないのだからな」
「活用? なにか勘違いしてない?」
 アウレリアが愛用の銃でクイックドロウを披露し、一体の量産型の右腕を吹き飛ばした。脇に抱えられていた金属製の収納箱もろとも。
 続いて、カルナが気咬弾を発射した。アウレリアと同様、部位狙いの攻撃。量産型の左腕が吹き飛び、その手に下げられていたアタッシェケースが床に落ちた。
「うん。勘違いも甚だしいの!」
 死天剣戟陣で床に突き立てられた無数の剣の柄頭から柄頭へと飛び移りながら、言葉が敵陣に斬り込んだ。
「私たちの目的はデータの回収じゃなくて破壊なんだから!」
 簒奪者の鎌に地獄の炎を宿らせ、両腕を失った量産型の頭に叩きつける。
「ジュモーの研究成果が人類の手に負えるものでないことは百も承知。しかも、その研究成果は――」
 リューディガーがブラックインヴェイジョンで敵を攻撃した。もちろん、例の収納箱とアタッシェケースをスライムに食わせることも忘れていない。
「――多くの惨劇を生み出した元凶だ。そんなものを俺たちが欲するとでも?」
「美味しい料理のレシピとか知られざるグルメガイドとかだったら、私も喜び勇んで回収してただろうけどねー」
 冗談にしか聞こえない本音を口にしながら、エヴァリーナもブラックスライムを解き放った。
「あなたがたの手にジュモー様の研究成果が渡ってしまったら、また罪無き人々が研究の材料とされ、犠牲となるかもしれません」
 リコリスが懐中時計型のアリアデバイスを取り出した。
「絶対に阻止させていただきますよ。それが……救えなかった方々のためにできる唯一のことですから」
 目を閉じて『氷哀の葬送曲』を歌い始めるリコリス。アリアデバイスで増幅された歌声が敵を叩きのめし、室内にある機器を叩き壊していく。
「さて、潮時かしら?」
 研究成果の破壊という目的は果たせたと判断し、アウレリアが擲弾銃を構え――、
「本当なら、目の前に出てきたダモクレスはすべてスクラップにしてやりたいところだけれど……」
 ――『轟音閃光弾(スタン・グレネード)』を発射した。
「ぐっ!?」
 閃光に目を焼かれ、爆音に耳を打たれ、思わず顔を伏せるゲンドゥル。
 その隙にケルベロスは部屋から逃げ出した。リコリスとエヴァリーナのチェイスアート・デバイスから伸びるビームに全員が繋がった状態で。
『ビルシャナ区画の破壊完了。だが、量産型ムシュケー十数体に遭遇。奴らが奪った資料のみ攻撃してから撤退する』
『此方も敵が増えてまいりましたわー。ある程度、破壊できたかと思いますのでー、撤退いたしますわー』
 陣内のデバイスに他チームからの報告が届いた。
『こちらは今まさに撤退中だ。遠くまで足を伸ばしたから、少しばかり遅れるかもしれん』
 返信しながら、陣内は振り返った。ゲンドゥルたちが追ってくる気配はない。無駄な戦闘をする気はないのだろう。
「僕、撤退に備えて、ここまでの経路をまとめておいたんですよ」
 自作した地図をカルナが取り出し、『スーパーGPS』の防具特徴を有するアウレリアに見せた。
「家に帰る前までが遠足……もとい、任務ですからね」
「そうだね!」
 と、瑪璃瑠が力強く頷いた。
「兎のごとく素早く、獅子のごとく激しく帰るんだよ!」
「ぴょんぴょん」
「がおー」

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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