ジュモー最終決戦~今こそ因縁との決着を

作者:ハル

●宮城県石巻市の長面浦にて
 ケルベロスが奇襲を仕掛けた八景島の対岸にある汽水湖――長面浦は、今まさに、炎に包まれようとしていた。
 空を覆うは、夥しい砲弾の雨。何も知らぬ者が空を見上げれば、曇り空に見紛う程の圧倒的な物量攻撃。
 そして、それらを成しているのは軍団長インペリアル・ディオンに率いられた、『幾何学』ゲオメトリアの軍団であった。
 紫の色彩で煌々と不気味に輝く百体近くのゲオメトリアは、インペリアル・ディオン軍の先鋒として空間を完全に掌握しようとしている。
 ゲオメトリアの砲撃により大地が揺れ、長面浦の湖水が蒸発していく。
 やがて長面浦の湖底が姿を現すと、干上がった湖底の更に地下にあった『ジュモー拠点』の存在が露となった。かの拠点は、ユグドラシルの根が繭のように絡まった球形のそれ。しかしそれも砲撃により、大きく損傷してしまっているようだ。
「――――!」
 ジュモーの拠点から、十数体の暴食機構グラトニウムが顔を出す。ユグドラシルの根に空いた穴を防ごうと奮闘を始めているのだ。
 だが卓越した指揮能力を誇る軍団長の一機たるインペリアル・ディオンは、即座に同数程度の『天文学』スファイリカを降下させ、持ち前の耐久力と自己回復力を発揮してグラトニウムを押し返す。
 突破口を切り開いたインペリアル・ディオンは、迷わず『整数論』アリトメティカ、『音楽学』ムシュケーの部隊をジュモー拠点内部へと送り込むのであった。
●作戦概要
「皆さん、お疲れ様でした。私達は、強襲屍隷兵製造拠点によって、ジュモーの屍隷兵製造拠点を破壊する事に見事成功しました。この成果は大きく、ジュモーによる屍隷兵の製造は完全に停止するでしょう」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)はケルベロスの成功を喜ぶと同時に、屍隷兵として利用されてしまった者達に哀悼の意を示す。
 一呼吸の後、桔梗は強襲屍隷兵製造拠点によって奪取できた情報について口を開いた。
「得られた情報はどれも有用でしたが、その中でもジュモー・エレクトリシアンの配下として拠点を指揮していた、機界魔導士ゲンドゥルが齎した情報は一際大きな意味を持っていますね。機界魔導士ゲンドゥルが攻性植物に与しておらず、ジュモーに敵対する立場である事が判明したのですから」
 ゲンドゥルはジュモーを裏切り者と呼んでいる。さらにゲンドゥルは、ケルベロスがジュモーの拠点を突き止めるのに先んじてダモクレスがジュモーの拠点を襲撃し、全ての研究成果を簒奪した上でジュモーを滅ぼすと宣言しているのだ。
「ダモクレスは裏切り者であるジュモーの研究成果を余さず奪うため、ジュモーを泳がせていたと考えられます。ジュモーを滅ぼすために出陣したダモクレス軍は、ダモクレスの十二創神、アダム・カドモンの近衛軍の軍団長の一体『インペリアル・ディオン』に率いられた精鋭軍と推察されており、ジュモーの拠点であった湖を一瞬の内に蒸発させるほどの砲撃を行っています」
 そこでケルベロスには、宮城県石巻氏の長面浦に向かって欲しい。
 目的は、インペリアル・ディオンとジュモー勢力との戦いへの介入だ。
「ジュモーの研究成果並びにジュモーのコギトエルゴスムをインペリアル・ディオンに渡す訳にはいきません! 加えて、インペリアル・ディオンの撃破は困難かもしれませんが、配下の精鋭部隊を撃破できれば、ダモクレスの戦力も削ぐ事ができると期待できます!」
●ジュモーを撃破せよ!
「作戦における大きな役割は五つ。ジュモーの撃破、研究成果の破壊、退路の確保、『幾何学』ゲオメトリアの要撃、対『インペリアル・ディオン』戦です」
 その中で、この場に集まってもらったケルベロスに与えられた役割は――。
「――これまで何度もその名を耳にし、時に迫りながらも取り逃してきた、ケルベロスにとっても因縁のある相手。ジュモー・エレクトリシアンの撃破が、私達が成すべき任務となります!」
 とはいえ、その道程は決して容易なものではない。
「まずは拠点への突入。こちらに関しては、ジュモーの拠点に空いた大穴から潜入という形になると思います。スファイリカとグラトニウムという巨大ダモクレスが互いにやり合っているので、その隙を突いて突入してください」
 肝心のジュモーについてだが、インペリアル・ディオンが送り込んだ部隊も当然ながら狙っている。
「ジュモー用に回されている戦力は、諜報能力に優れた『整数論』アリトメティカと、その配下のダモクレスのようです。ジュモーや配下の攻性植物に寄生されたダモクレスも必死に迎撃していますが、彼我の戦力差は大きく、ジュモーが撃破されるのは時間の問題でしょう」
 ジュモーのコギトエルゴスムを回収させないよう、ケルベロスも動く必要が出てくるだろう。
 提案された作戦は三案程。

『戦闘中に背後からアリトメティカへの奇襲攻撃を行う』
『両者の戦闘に直接介入後、ジュモーをケルベロスが撃破する(コギトエルゴスムを破壊する)』
『ジュモーを撃破した後に撤退してくるアリトメティカ勢力を、強襲して撃破を目指す』

 ――などの案が有力視されている。
「いずれの作戦にせよ、最終的に求められているのはコギトエルゴスムを破壊してのジュモーの完全撃破です!」
 強い意気込みを抱き、桔梗はケルベロス達を見渡した。
「ジュモーの拠点の特定がダモクレスの襲撃までに間に合わなかったのは痛恨ではありますが、ダモクレス軍とジュモー軍の間隙を突く事さえできれば、大きな戦果を挙げる事が可能です。何より、今回の作戦は仮に失敗した場合でも、ジュモー軍の研究成果をダモクレス軍に奪われるだけで、私達にとっての直接的なリスクは最小限で済みます」
 ダモクレスの動向を鑑みても、これから先は大きな動きが予想される。
 その気勢を削ぐ意味でも、そしてケルベロスとしても、まずはジュモーとの因縁を断つのが第一歩となるだろう!


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)

■リプレイ


「彼らは上手くやってくれたな!」
 ジュモー拠点に潜入を果たした月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は、友軍が暴食機構グラトニウムと量産型スファイリカの戦力均衡を見事保つ様子を思い出し、呵々と笑う。
「ヘリオンデバイスを使っての近接と後衛を高機動で両立…デバイスをカスタマイズして初速を上げられないかな? それなら少しは行動が楽になるのに……」
 油断しないのは歴戦ゆえか。ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)が、整備されたデバイスに関して呟いた。
「――これで最後か」
 ジュモーが直接、間接的に関与した事件は多岐に及ぶ。神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)もジュモーの拠点を見回し、微量の感慨にふけるが……。
(「ま、誰が相手であろうが負けないけどな」)
 柧魅はいつも通り、傲然とした態度を崩さない。
「外の部隊に現状を報告しておくとしよう。カロン、拠点内の様子は分かるか?」
「……周辺にダモクレスの気配はないですね。余計な戦闘は避けたいですし、注視しておきます」
 マインドウィスパー・デバイスのおけげで、隠密時でもキルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)とカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)、仲間内でのコミュニケーションも自然に。カロンはスーパーGPSなどを駆使し、簡易的なマッピングも行っておく。
「anxiété……ジュモーお母様はわたし達の話を聞いてくれるでしょうか?」
「ジュモーの食指を動かせれば希望はあるんでしょう? わたしだって彼女の事は多少なりと知っているつもりよ」
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)の背中を押す。そう、希望はある。少なくとも、シエナはそれを感じ取っていた。
「自信を持って、言葉を交してください。あなたの身は私達が守りますから」
「Merci beaucoup」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)もまた、別種の覚悟を決めている。いざという時の為に、彼女は多くを背負うつもりでいる。
 隠密し、ケルベロス2部隊は拠点内を息を殺して進む。
「……この先で交戦中のようですね」
 道中、カロンが指摘した。
「確かに。あれ、じゃな?」
 朔耶が慎重に覗き込めば、ジュモー・エレクトリシアンとアリトメティカ両陣営が激しい戦闘を繰り広げていた。
「機を見て介入といこうか。驚く奴らの顔が楽しみだ……くっくっく」
 柧魅の言葉を合図に、ケルベロス達はジッと戦況を伺う。
「本星の勢力からも離れて、裏切りものになって、今更なにをしてーんだか……街に現れた屍隷兵も、何が目的だったんだ」
「ジュモーも試していたのかもしれません、可能性を。コンセプトこそ違いますが、母と同じものを感じます……この最後も」
 と、同道する部隊からふと漏れる疑問と、それに共感からの仮説を呟く声。
「シエナさんにとっても、ジュモーは母なのです。過去や宿縁と決着を着けるためには、今回が……」
 那岐がシエナの背中を見遣り、慮る。
「真意を探る意味はあると私は思います。やるだけやってみますよ、素敵な夢が見られるように」
 カロンが少しでも良い結末を願った。
 だが、ジュモーが齎した事象を鑑みれば、説得に懐疑的となるのも仕方ない一面も。キルロイが視界に収まる多数のダモクレスに対する、抑えきれぬ憎悪を堪えているように。
「思うところはありますが、彼女の処遇はシエナさんたちに任せるとしましょう……そろそろです」
「chance……最後にもう一度だけ頂きますの。決着をつけて参りますわ」
 シエナが、テレサに感謝を。
 その時、アリトメティカの螺旋手裏剣がオーズボーグを両断した。配下が残り2体となったタイミングで――。
「ヴォルフからハンドサインだ」
「了解です! まずはジュモー配下であるオーズボーグを排除しましょう!」
 キルロイがヴォルフへと了解の意を返し、ラインハルトが抜刀。
「アリトメティカは任せたわよ!」
 キアリが最後に一度、頼もしい友軍に視線を向けた。
 双吉達がアリトメティカを。こちらはジュモーを請け負う。
 その際、シエナがアームドアーム・デバイスを展開させ、視界を遮ろうと試みた。
「風よ、力を貸して……さあ、共に舞いましょう!!」
 那岐が秘められた聖なる風を纏い、戦の為の戦神楽を舞って己が力に。
(「僕の考えが合っているのかどうか、確かめさせてもらうよ、ジュモー!」)
 カロンの流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが、オーズボーグを吹き飛ばす。
「――――!!??」
 介入により、両陣営の配下の間に僅かながら乱れが。アリトメティカ戦で消耗しているオーズボーグはなおさらに。
「でぇえやあああああああ!」
 そんな敵の状態を見定めたキルロイが、オーズボーグに突き立てた武器を通してグラビティを伝染。
「追撃します!」
 飛行状態からオーラの弾丸を放ち、時として地を這う様に近距離戦を仕掛けるラインハルトの一撃も相まって、オーズボーグをただの植物と鉄屑へと変えた。
「…………」
「相変わらずの冷たい瞳ね、ジュモー。でも、今のあなたの前に盾はないも同然。今回こそは本音を聞かせてもらうわよ!」
 ジュモーの眼鏡越しに、キアリは幾度となく相対した際と同じ冷気を感じ取る。まるで、今の状況を予期していたのではと疑いたくなる程の落ち着き払った態度は、デウスエクスにとっての死が間近であった事を感じさせない。
 最後のオーズボーグの決死の反抗をケルベロスはいなし、キアリとシエナが負傷者をヒール。
 アロンが、前進したダモクレスの機先を制すように神器の瞳で睨み、炎上させた。
「開放……ポテさん、お願いします!」
 朔耶がポテさん――魔法の杖を白いコキンメフクロウの姿に戻したうえで、自身の魔力を注いて撃ち出す。
「さぁ、ここからは母と子の時間だ。オレは完璧だからな。無粋な忍者ではないのだ」
 柧魅の電光石火の蹴りが、オーズボーグの機能を永遠に停止させる。
 対峙するジュモー・エレクトリシアンとケルベロス。
「わたくしの拠点へようこそ、ケルベロス。何か御用でしょうか?」
 無駄を嫌ったのか、何食わぬ態度でジュモーが沈黙を破る。
 と、那岐を伴ない、シエナがヴィオロンテと一歩前に踏み出した。
 そして――。
「Demander……わたし達の側につく気はありませんか?」
 そう、決死の口火を切るのであった。


(「すまんのぅ。助力したいのは山々じゃが、ジュモーからも目を離せんゆえ……」)
 シエナ達から少々下がった位置で朔耶が伺う先。『整数論』アリトメティカと、その足止めを行ってくれているケルベロスの戦闘は激化の一途を辿っていた。
「綺麗事を言う気はないけど……行動がなんであれ他人の功績だけ奪うってのは、やっぱ許せんよ」
 朔耶は仲間を傷つけるアリトメティカを一瞥し、吐き捨てる。
(「今は自分の成すべき事を為すために、耐えるべきです」)
 その近くで、ラインハルトも拳を握りしめていた。
 その時シエナの説得――条件等も含めて――を受け、熟考していたジュモーが静かに目を開く。
(「一考する価値はある、そういう認識でいいのかしら?」)
 キアリからしても、その反応は今まであまり見られなかったもの。
 キルロイの鋭い視線を全身に浴びながら、ジュモーは言った。
 ――逆でしょう、と。
「それはどういう意味ですか?」
「まず結論として、わたくしはあなた方ケルベロスをわたくしなりに認めております」
 ジュモーの一挙手一投足を警戒するカロンの問いに、ジュモーはシエナをチラリと盗み見、淀みなく答える。
「Attentes……ジュモーお母様、それは――!」
 シエナの希望が色づく中、身を乗り出す彼女を那岐が抑える。まだ続く言葉があると悟っているのだ。
「ケルベロスのおかげで、これまで敵対するしか無かった多くの種族間に調和が生まれています。いわば、多様性が生まれようとしているのです。しかし、その多様性は、地球がマキナクロス化してしまえば、失われてしまうものでもあります」
 多様性。それは、シエナの知るジュモーの思想に近い。さらにその奥には、ジュモーと縁深い存在の思想も透けて見えた気がした。
「その思想が、あなたがダモクレスを裏切ったとされる所以ですね?」
 那岐の言に、ジュモーが頷く。
「だからこそ、あなた達はわたくし達の同胞となるべきなのです。『デウスエクス』にケルベロスが加われば、わたくし達は旧来のデウスエクスを打倒し、より良い世界を築く事ができるのですから」
「――ちょっと待てよ。お前さん、今、俺達に『デウスエクス』へ加われと、そう言ったのか?」
「逸るな。気持ちは分かるが、まだ話は終わっていない。くっくっく」
 無残な姿の屍隷兵達の存在が脳裏を過り、キルロイの瞳が殺意を超えた感情で溢れる。柧魅はキルロイを抑え、最後まで見守るべく耳を傾けた。
「Vérification……ジュモーお母様、わたし達の提案の条件は、コギトエルゴスム化した上で、いずれお母様に定命化を受け入てもらう事ですの。つまり?」
「無論、認められません。ケルベロスはデウスエクスとなるに相応しい強さを有しています。しかし、ただの人間には優れた点はまったくといっていい程に認められませんので。定命化するなど以ての外です」
「Faux……人には力だけではない強さがたくさんありますの!」
 ケルベロスは人の素晴らしさを懸命にアピールする。しかしケルベロスが語る人の強さ、凄さがジュモーの琴線に触れる事はない。ジュモーはケルベロスを認めている。ただし『デウスエクス』として。そして力のない人々はジュモーにとって、どこまでいっても価値のない存在でしかない。
「ジュモー、私達が『デウスエクス』の一員となる、そんな未来はありえません!」
「……本当にロクでもねぇ……屍隷兵製造以上になぁ……!」
 空気が変わるのを察知し、カロンと朔耶が身構える。
 それは、今までケルベロスが守ってきたものを捨てろという事。
「残念ながら、今のわたくしとあなた達では、戦って決着をつける他の選択肢はないのでしょうね」
 言葉を失ったシエナが瞳で訴えかける中、ジュモーはそれが当然の帰結であるかのようにケルベロスへと凍り付くような敵意をぶつける。
「……わたし、あなたが本気で嫌いだわ、ジュモー」
 シエナのために力を尽くしていたキアリも、ここに至ってはジュモーを睨みつけた。


「――リキ、頼むぞ!」
 朔耶の指示を受けて、オルトロスのリキが、ジュモーの放つ蒼のレーザーを刀で受ける。
 カロンの流星の如き飛び蹴りが、那岐の舞剣「ローズマリー」から乱れ咲く花の嵐が、キルロイの放つ美貌の呪いが、ジュモーを次々と襲った。
「……さすがですね、ケルベロス。それだけに、惜しくもありますが」
「デウスエクスとしてこの力を振るわない事が、ですか? 生憎と、僕はお断りです!!」
 正義感の人一倍強いラインハルトには、ジュモーの考えは嫌悪感しか生まない。高所から呪詛を載せた刃で迫り、ジュモーの腕を斬り飛ばす。
「あなたとの因縁も、これで最後よ! 朔耶!」
「うむ!」
 百合咲く舞台、修羅を包む華の芳珠。刃を種に血を吸い上げてほころぶ白の……Ah――――和ロック調の歌詠を奏で前衛を癒すキアリ。朔耶は仲間へのエンチャントを終え、黒影弾で攻勢に出る。
「ヴィオロンテ! 激励お願いしますの!」
 シエナが那岐にヒールを。
「複合式忍殺術・黒雷閃華」
 柧魅が粒子を蓮華の花の如く拡散し、触れるものすべてを凍てつかせ、迸る黒き雷霆を朱の鋼糸に伝わせ咲き誇る。
「ジュモー、あなたは強い。ですが……!」
 彼女の本分は研究者としてのそれ。ラインハルトの魔力と血によって生み出された剣が深く突き刺さる。
 ケルベロスはジュモーが解き放つ攻撃用ドローンを掻い潜り!
「でぇえやあああああああ!」
 猛り狂う憎しみを込め、キルロイが断罪の劫火を放った。
(「僕達を分析し、知り尽くしているキミだ。この結末が想像できなかったはずがない。それでもキミはキミの理想のために立ち上がった。その事は覚えておくよ!」)
 カロンの夜天魔法が顕現する。フォーマルハウトが喰らいついた。
 ケルベロス達の脳裏を、2017年初頭に端を発した、載霊機ドレッドノートの戦い、螺旋忍軍大戦強襲、大阪都市圏防衛戦、グランドロン迎撃戦、そして宇宙での邂逅が過り、それらすべてが力となる!
(「ごめんなさい、シエナさん。でも、子の手で親を殺す……そんな場面は見たくはありませんから」)
 熾炎業炎砲――那岐が放つ炎弾に包まれたジュモーが遂に膝をつく。その姿は敗者のものでも勝者のものでもなく、自らの思想に殉じた者のそれ。
 精巧な人形のようであった肢体が焼き爛れ、内部機構が露出する中、ジュモーは告げる。
「今は理解できなくても、いつか、あなた達が不死を望み、デウスエクスになる事を望む日が来る筈です。もし、その時が来たならば、生き残っているデウスエクス達と手を取り合って、多様性のある世界を築いていって欲しい……」
 未来を予言するようでもあり、「戯言を」そう切って捨てようとするキルロイを止まらせる何かがあった。
「ケルベロス――」
 ジュモーは最後、シエナ達にデータが収録されている謎のブラックボックスと一緒に、彼女の最後の言葉を贈り、灰に還った。

「こんなになってまでっ、本当に助かりました! 今、手を貸しますから!」
 アリトメティカを足止めしてくれていた部隊は凄惨な有り様だった。ヴォルフとピコを除き、全員が戦闘不能となっている。
「ようやってくれたのぅ! ジュモーは撃破したぞ!」
 朔耶が聖なる光で癒しを与え、キアリが分身の術をかけながら、負傷者輸送のためにドローンを活用。
「……任務、不完全終了」
 と、ジュモーの死後、様子を伺っていたアリトメティカが無機質な声色で呟き、ラインハルトが「待て!」そう呼びかける間もなく配下と影に消えた。
「……取り逃がしたわね。でも――」
 キアリの意識が、シエナがヴィオロンテと共に宝物のように掻き抱くデータに向く。
 その中で、ケルベロス達はジュモーの最後の言葉を思い出していた。

『アダムアダム・カドモンの狙いは、地球のマキナクロス化です。仮にこれが成功してしまえば、あらゆる存在が機械化され、世界は全て均一にされてしまうでしょう。どうか、その未来だけは阻止してください』

 ケルベロスは著しく消耗する仲間を庇いつつ、即座の撤退を決行。
「どんな情報が秘められているのか、実に楽しみじゃないか」
 柧魅が嘯く。
 ケルベロス達はジュモーの口ぶりに言い知れぬ期待と不安を綯い交ぜにしながらも、全員で帰還を果たすのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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