●近衛軍、始動
宮崎県石巻市、長面浦。八景島の対岸にある汽水湖。
そこに、変事が起こっていた。
水面の上空に、百体に届くかという翼ある機蛇が群れている。その名は『幾何学・ゲオトメリア』。まるで雷雲の如く稲妻を纏い、湖を覆う。
畔には、機兵の軍団。
その先頭で指揮を取る白銀の機兵が、腕を振り下ろした。
瞬間、機蛇の群れから雷光が迸る。湖水が爆音とともに蒸発し、水の枯れた湖底に、木の根に覆われた繭のごとき拠点が露わになった。一斉照射によってぽっかりと穴が開いた外壁を晒して。
そこを塞がんと暴食機構グラトニウムと呼ばれる重機が内側から這い出してくる。その数およそ、十数体。
『見付けたぞ……ジュモー』
その呟きは、軍団の誰のものだったろうか。
次の瞬間、戦端は開かれた。
球状の機械兵器『天文学・スファイリカ』が天より次々に舞い降りて、グラトニウムへ閃光や触手を浴びせかける。
争い始めた巨大兵器たちの脇を、忍の如き『整数論・アリトメティカ』と、弦楽器に似た音響兵器を携えた『音楽学・ムシュケー』の率いる軍勢が駆け抜ける。
目指すは、ユグドラシルの根に守られた拠点の内側。植物と融合した自律兵器たちが飛び出して迎え撃つも、統制の取れた機兵団の勢いを止めるには至らない。
黒山蟻の巣を奇襲する侍蟻の群れの如き一方的な攻勢を、白銀の機兵は静かに見つめていた。
それは、十二創神アダム・カドモン近衛軍が一角。
白銀の機兵『インペリアル・ディオン』に率いられし『四学科』の軍勢。
六指揮官機、最後の一人……ジュモー・エレクトリシアンの軍勢は、その攻勢の前に燃え尽きようとしていた。
●ジュモー最終決戦
スクリーンに、人形のような女の顔が写っている。番犬には、知られた顔だ。
望月・小夜が、居並んだ面々に頷いて。
「ジュモー・エレクトリシアン。我々は彼女の保有する屍隷兵製造拠点の破壊に成功しました。これによりジュモーによる屍隷兵製造は完全に停止。更に作戦時に得られた情報から、ジュモー配下として拠点を指揮していた『機界魔導士ゲンドゥル』が、実際には攻性植物に与せず、ダモクレス本軍の指示でジュモーをスパイしていたことが発覚しました」
ゲンドゥルはジュモーを裏切り者と呼び、こちらがジュモーの居所を突き止めるよりも先にその拠点を襲撃し、全ての研究成果を奪い取って滅ぼしてやると言い放った。
「ジュモーはとうに攻性植物に侵略寄生されていたようです。ダモクレスたちは裏切り者の研究成果を奪い取る為に、奴を泳がせていたのでしょうね。私たちは八景島の拠点の調査を行い、資材の搬入経路などから拠点の場所の特定を進めていたのですが……」
表示された地図は、宮城県石巻氏、長面浦。
「半歩ほど先手を取られました。動いたのは、ダモクレスの十二創神『アダム・カドモン』の近衛軍団長の一体『インペリアル・ディオン』に率いられた精鋭軍。ジュモーの拠点であった湖を砲撃し、一気に蒸発させるのを予知しました」
ダモクレス同士の潰し合いか。だがその間隙を突く事が出来れば、大きな成果を上げる事が出来るかもしれない。
「そう。今回の任務は長面浦の闘いに介入し、ジュモーの研究成果とコギトエルゴスムを、ディオンに渡さぬよう破壊することです」
インペリアル・ディオンの撃破までは難しいが、配下の精鋭部隊を撃破する事ができれば、ダモクレスの力を削ぐ事が出来るはず。
挑む価値はある作戦だ。
●介入作戦
「インペリアル・ディオンは『四学科』と呼ばれる四体の有力指揮官機を従え、それぞれが部隊を率いています。こちらも相応の戦力を以て介入いたします」
作戦目標を五つに分け、それぞれの目標に複数班を投入する大作戦になる。
『整数論・アリトメティカ』率いる抹殺部隊と、それに抗うジュモーを撃破する作戦に二班。
研究成果の奪取を図る『音楽学・ムシュケー』の部隊を押さえて研究成果を破壊する作戦に三班。
拠点出入口で争う、『暴食機構グラトニウム』と『天文学・スファイリカ』の部隊の戦闘に介入し、突入班の退路確保を行う作戦に四班。
全証拠を抹消すべく湖上で砲撃準備をしている『幾何学・ゲオトメリア』の部隊の妨害に二班の戦力を割り振る。
「そして皆さんには他二班を合わせた三班分の戦力で、敵指揮官『インペリアル・ディオン』とその護衛部隊へ挑んでいただきます」
スファイリカとゲオメトリアの中間に陣取っている総指揮官。今作戦で撃破を狙うのは難しいが、目的は指揮妨害だ。
「奴はこちらが優勢と見れば、突入班ごとジュモー基地を爆撃しろと湖上の部隊に指示を出す可能性もあります。指揮能力、白兵戦能力、共に高く、判断力もある厄介な指揮官機ですが、逆を言えば作戦中に撤退に追い込めれば敵軍は大きく混乱するはずです」
しかも奴は勢力の中枢に近い。上手く仕掛ければ、会話や態度からダモクレスの方針などの情報が割れる可能性もある。
「ですが油断はなりません。護衛部隊として、それなりの戦力を十数体は率いているはず。今作戦では失敗してもジュモーの研究成果が奪われるだけで直接の被害は出ません。不利になったら躊躇わず退くのも勇気ですよ」
小夜はそう、念を押す。
「怒涛のダモクレス軍団より続く長い因縁も、これが最後ですね……しかし十二創神アダム・カドモンが直々に近衛軍を投入してきたという事は、ダモクレス軍に何か、大きな動きがあるのでしょうか……」
だがそれを考えても答えは出ない。小夜は頭を振って、出撃準備を願うのだった。
参加者 | |
---|---|
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039) |
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
●
「それでは『作戦開始』です!」
コマンドワードを背に受けて、番犬たちは干からびた湖畔を走る。
遠く響くは、雷鳴と轟音。上空には雷雲の如く機蛇が群れ、湖底には争う巨大兵器。それを尻目に、黒塗りの人型兵器が拠点へ突入していく。
「わはははっ! 仲間割れとはご苦労なことよ! なんとも派手にやっておるなあ!」
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が、声を上げる。番犬といえども、他者の戦に割り込む経験は少ない。
「これほどの軍勢とは。ジュモーとやら、よほど都合の悪い何かを知るのか?」
普段と違う緊張に、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)は指の震えを押さえつける。フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)がそっと手を重ねて。
一方、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は目を輝かせて、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)と目を合わせる。
「すげえな、どいつもこいつも新型だ。あれと闘えるってのは、わくわくするぜ」
「これが、ダモクレスの……それも軍勢同士の闘争か。思うところはあル。少しな」
その光景には、心揺れる。良くも悪くも。
作戦に沿って分かれる番犬たち。柊の花籠のようなレスキュードローンから、新条・あかり(点灯夫・e04291)が飛び降りて。
「目標はあそこの斜面だよ。みんな、目的は敵を撤退させること。深追いは禁物。いいね」
「ええ。心強い仲間も、人々から託された力もあります。どれほどの強者が相手でも」
怖くはない。そう心を奮い立たせ、幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)は傍らを走る班をちらりと見る。
駆け下る先に、白銀の機体が十二体の護衛と戦場を睥睨している。その動きに慌てたところはない。
(「あれが近衛軍の指揮官……私には彼らの表情はよくわからないけれど……」)
ダモクレスは常に目的に邁進することを想い、愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)はかつての強敵たちを想起する。
三方を囲うように展開しつつ、フローネが土煙と共に敵軍の前で足を止めた。
「元ディザスター軍、フローネ・グラネットと申します! 近衛軍軍団長インペリアル・ディオンとお見受けします!」
『いかにも』
短い返答の後、機兵は剣を抜く。無明丸が、その態度に大笑して。
「話が早くて助かるわ! わしらはケルベロス! さあ、覚悟せいッ!」
『……挑むというなら応じてやろう。神機近衛の、武を以てな』
白銀の将は護衛部隊を解き放ち、番犬たちはデバイスの力を迸らせて共有する。
そして闘いが、始まった。
●
護り手を残して飛翔すると同時に、十二体の護衛が三方へ分散する。
皆が咄嗟に身構える中、広喜がハッと左耳のピアスに手を当てた。
「了解だっ。……みんな、あの強さの護衛機が分かれて来たんじゃ、そこで足止めだ。だから」
他班と共有した思念を伝えながら、拳を輝かせて敵機の進路に割り込んで。
「護衛機を二班で引き受けて、残った班でアイツを攻撃しようぜっ」
迸るのは、EMPにも似た蒼い衝撃。
「……騎士として、貴殿に挑みましょう!」
敵が怯んだ隙に僚班が敵将へと打ち掛かった。四学科の量産型からなる護衛機たちは、主を護ろうと走るが。
「敵将の牽制は一旦、あちらの班にお任せですね。了解しました……!」
すでにミライの奇蹟を願う禁歌が響き、その動きを痺れさせていた。さらに眸とキリノが、鈍った敵の突進を受け止めて。
(「球体型一機に忍者型二機が前衛……ならば、これダ」)
歌聲換源被甲によって力に変換された音声が、敵の前衛を弾き飛ばす。
「敵は四機も居ればこちらと互角。そんな精鋭量産型を、六機相手ですね……ええ、任せて! アメジスト・シールド、最大展開!」
フローネの盾が展開する中、横合いから飛び込むのは無明丸。
「援護助かる! さあ、ド派手に開戦じゃ!」
全力を傾注した拳が、球状兵器に突き刺さる。さらに、向き直ろうとしたところに。
「なーに、油断しとんじゃ! もう、いっぱぁつッ! ぬぅああああーッ!」
体ごと殴り抜けるように、番犬たちは乱闘にもつれ込む。
即座に降り注ぐ手裏剣や音波を、あかりの鎖が結界となって反らしながら。
「皆を必ず、無事に帰してみせる。癒し手の役目って、そういうことだから……いつも守ってもらってる分、今日は僕が守ってみせる」
そう。今回は、粘り倒せばこちらの勝ち。だが相手も一筋縄ではいかない。
「隣の班と闘ってる護衛機たち、強引にアイツんとこへ戻る気だっ」
黒光を降り注がせていた広喜が、咄嗟に叫ぶ。
自分たちの後ろを、別班と激突していた護衛機たちが駆け戻り、最初に敵将に挑んだ班……いわばA班へと襲い掛かる。
敵将は即座に背後へ跳んで戦場を脱しようとするが、今度は今まで護衛と闘っていたB班が、すでにそこに待ち構えていた。班間の素早い意思疎通が、僅かの遅れもなく戦場を交換させたのだ。
「これがマインドウィスパーデバイスの真骨頂か……この分なら次は、こちらが相手にしている連中が敵将を護りに戻ルぞ」
眸と打ち合っていた護衛が、まるで言葉に従うかのように踵を返す。
三方から視界を共有する広喜には、俯瞰するかの如く戦場が見える。自分たちから離れた護衛がB班と敵将の間に割り込み、同時にA班がもう一方の護衛部隊を抑え込むのが。
「ああ。動くぜっ」
護衛機たちは敵将への攻撃に反応し、戦場を一旦投げ出しても側へ戻る。だから、敵将を牽制するのなら。
「こんな連携が可能だなんて……! 今、自由になったのは。敵将に向かうべきなのは」
その言葉に促され、鳳琴はすでに走っている。間を空けず、攻めるために。
「……私たち! これこそ、絆の翼です! さぁ……打ち砕きますッ!」
『!』
その拳は炎翼を広げる龍と化し、敵将の剣と激突する。壮絶な爆炎を間に散らした二者の後ろから、舞い飛ぶのは。
「渦のように敵を巻き込む、即興の車懸り、か。なるほど。予定より早いが、構わぬ。我が神鎮めの力、味わうがいい! 行此儀断無明破魔軍……!」
ルティアーナの呪儀『神來儀 荒魂鎮』。嚆矢の如く風を切り、大剣ごと敵将を弾き抜ける。
(『まるで三つ首の猟犬の如き連携……!』)
敵は凄まじい反応で殺到する攻撃をいなすものの、数撃がその装甲を掠めて。
『……舐めるな。有機体ども』
敵は咄嗟に、全周を衝撃刃で薙ぎ払った。更に。
「さっきの護衛部隊が戻るぜっ」
「了解です……!」
「任せて……っ」
護衛部隊が、風のように舞い戻る。反応したフローネが敵に組み付き、あかりが即座に癒しを飛ばす。
護衛を二班で翻弄し、残る一斑で敵将を牽制する、三班での即興連携。
敵と味方が逆回り、闘いは渦の如く激しさを増していく……。
●
闘い始めて、しばらく。
番犬たちは渾身で敵を翻弄するが、敵もまた近衛の意地を見せつける。
「はっはぁ! 強いのぅ! そんな強さで何をしに来たのかと思えば、仲間討ちとは……のうッ!」
無明丸が、生成した氷柱を握りしめる。渾身の一投は螺旋を描いて、前に出てきた球状兵器に突き刺さった。その後ろから、二体の奏者が弦を爪弾く。
「ムシュケー型、一体が癒し手、もう一体が攪乱担当で、前衛を奮起させてきます。特徴の異なる機体を、上手く配置してる……!」
「流石に総指揮官。硬い布陣ダ。一旦、回復する。キリノ、頼む。ゲオメトリア型が、後方から砲撃して来るぞ」
ミライは追憶を払う者の歌で、敵の心を鈍らせて。眸はキリノの援護の中、稲妻を放つ機蛇の攻撃をいなして、音声を癒しの光へ変換する。
敵は攪乱されつつも、勝る地力でじわじわと押し返し始めている。
その時、敵将と打ち合うA班から、一人の少女が問いかけた。
「あなた達、ジュモーの研究とドレッドノートで何考えてるのよ。マキナクロス再臨でもまだ狙ってるの。まさか、ケルベロスを戦力化しようなんて思ってないよね?」
絆ある者の声音に、蹴りで忍者型と馳せ合っていた鳳琴が、ハッと振り返る。
(「シルさん! そう……ダモクレスとの闘いも、きっと大詰め。近衛からなら、何か……」)
聞きだせるかもしれない。
あかりが稲妻の壁を展開しながら、隣の戦場へ重ねて問いかける。
「……湖面を蒸発させるほどの攻撃までして。あなた達が直々に動かざるを得ないほど、ジュモーの研究成果は重要なものなの?」
駄目で元々、何か聞ければ儲けもの。その程度の認識で掛けた問い。
『ジュモーは、地球に毒されてしまったのだ。あの御方の輝かしき理想に異を唱え、他種族並存の多様性を追求しようなどと』
だが意外にも敵将は、淡々と言葉を告げる。
『デウスエクスの共存共栄など、夢物語。だがあの地に集った有機体どもを解析して得られた情報は、確かに役に立つ』
大剣を剣を振るって仲間たちを薙ぎ払いながら。
(「多様性……? 共存?」)
番犬たちの脳裏に走る困惑。敵将は気にする様子もなく、転がるように敵を入れ替え、再び戦場の渦は巡る……。
護衛部隊を抑えるため、番犬たちは休みなく走る。時に、稲妻のように敵将と激突しながら。
その大剣の瞬断が、遂にキリノの姿をかき消した。ルティアーナが敵将を追うが、そこへ割り込むのは球状兵器。舌打ちと共に、ルティアーナは深々と刃を叩き込んで。
「このまま……散り果てよ!」
遂に爆散するスファイリカ量産機。息を切らして片膝をつく彼女を、護り手たちが囲い込む中、遠くから敵将と打ち合うB班の声が響く。
「近衛軍が裏切り者の始末を付けるためにこのような辺境の地までおいでになるとは驚きでございます」
「しかも近衛軍の軍団長が来るとは、護衛の役目は放棄でありますか?」
言うなれば、それは挑発。反応から、敵軍の情勢を探れるか。こちらもまた、眸と鳳琴が敵と打ち合いながら振り返る。
「たかが裏切者にこの大戦力。よほど縋る先がなイらしい。近衛が聞いてあきれルな」
「それとも近衛軍には、貴方のような猛者がまだまだいるのですか?」
すでにこちらも生傷だらけだが、武人を誘うならばこれくらいでいい。
敵将は仲間の剣を受け止めながら、にべもなく語る。
『確かに難儀な話よ。グラビティ・チェインを生み出す地ではあるものの、この地球という存在は毒が強すぎる。だからこそ派遣兵力だけで片をつけたかったのだがな』
こちらの挑発が届いたかは不明だが、ディオンは剣を振り払いながら答える。
『貴様らの力が我らの予測を超えたことは認めよう。猛毒の地球を守り、六大指揮官に加えて五大巧すら倒す者がいるとはな。……故に、我ら近衛が来たのだ』
地球の毒……それの為に投入していなかった本軍を、遂に差し向ける気になったのか。
しかしなぜ奴は、こんなことを話す? 如何に近衛が強くとも、全員の口を塞げると思ってはいまい。
疑問を覚えながらも、番犬たちは再び戦嵐に身を投じる。
すでに闘い始めて十数分……激戦は、最終局面へ到達しようとしている。
●
降り注ぐ手裏剣を眸が弾く中、もう一体の忍者型がその懐に突っ込んで行く。
だがあかりは、すでに機蛇が砲撃体制に入っているのに、気付いている。
(「前衛はもう限界……でも、敵の攻撃は人数の集中した後ろを狙ってくる。戦力を維持するんだ。ごめん、眸さん……!」)
「ワタシに構ウな……!」
逆袈裟に切られた彼は、遂に倒れた。
同時に、あかりの放つ黒豹の幻影が稲妻を弾きながら戦場を駆ける。
その加護を受けた広喜が腕から放つは、心射る矢。敵群に滑り込み、背後にいた癒しの奏者の頭蓋を貫く。
「眸もあかりも、俺たちを護り抜いたぜ……お前はどうだ? 近衛が警衛対象から離れちまっていいのか? 俺にはアダム・カドモンのデータはねえが」
敵味方が共に倒れて行く戦場の中心。そこに立つ将機を、ミライの歌『Fenrir』が凛と気高く打ち据える。
「主の為に一生懸命……戦場を混乱させるためにきたけれど、一途なあなたのために歌います。アダム・カドモンは、貴方が仕えたいほどかっこいいお方なのです?」
『私が何か口走るとでも? 語ったことは知られようと何ら構わぬことのみ』
敵将に跳ぶ間は与えない。息を切らしつつ、その大剣にルティアーナの刀が激突して。
「敵とはいえ、礼は失さぬ。汝にも、敵にこそ示す礼儀があろう! 機神とまで標榜する聖上の志……答えてみよ!」
問い自体を振り払うように、その大剣が火を噴いた。
全周を斬り払う一撃が来る。飛翔している仲間たちも、すでに傷つき疲労困憊。
まずい……!
『植物と融合した紛い物など、使い捨ての駒に過ぎぬ。ここの情報は、地球をマキナクロス化する上で有用というだけだ。……その根拠を、見せてやろう!』
熱線が、斬撃となって迸る。咄嗟に飛び込んだフローネが、盾を展開しながら食い下がって。
「衆合無、ルーン、各種族に、ケルベロスまで……それら全ての情報を取り込み、あなた方は……! アダム・カドモンは、何を成そうというのです!」
気を吐いて後、彼女は弾け飛ぶように倒れた。
だが。
『……!』
その後ろから飛び出した鳳琴と無明丸が、咆哮と共に拳を振るう。顔面を殴り抜かれ、地面に手をついて転がりながら、両者は睨み合う。
その時だった。戦場の彼方が、騒がしくなったのは。
拠点に突入した仲間が、戻って来る。
……作戦が、終わりつつあるのだ。
●
戦闘開始より、20分目のこと。
「よし! ずらかる時間じゃな!」
無明丸が息を切らして片膝をつき、閃光を放つ。あかりが鎖結界を放つ後ろに、ドローンがやって来る。
「皆が戻って来る……僕らの仕事は終わりだ」
「流石でした。このまま続ければ、押し負けるのはこちらです」
ミライは敵に敬意を示し、撤退戦の構えを取る。
だが敵将は、遠方の闘いが収束しつつあるのを見て、部下を抑えた。
『ジュモーが倒れたか。ならば、私の任務はここまでだ。これ以上の消耗は望まない』
殺気こそ解かぬままながら、敵将は終わりを宣言する。追撃の気配はない。
「ジュモーが……か」
眸に肩を貸していた広喜は、目を見合わせる。
突入作戦がどうなったのかはわからないが、敵将はぽつりと語る。
『……我らは最初から、何も隠してなどいない。純粋なる機械のみの世界こそ、ダモクレスの理想』
フローネとルティアーナが、顔を上げた。
「それが……答えですか」
「なるほどの。ようやく腑に落ちた」
奴はただ、宣告をしていたのだ。己が認め得る宿敵へ。
『我らがアダム・カドモンは地球の毒を浄化する為、全地球のマキナクロス化を行うだろう……また会おう、番犬ども』
両者は因縁を結んで、刹那を睨み合う。
「勿論、相手になりますとも……ね、皆さん!」
鳳琴が拳を握ってそれを受け、番犬たちは踵を返した。
やがて来たる嵐を思い描きながら……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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