ジュモー最終決戦~獲られる前にぶっ壊せ

作者:質種剰


 宮城県は石巻市、長面浦。
 八景島の対岸に位置するこの汽水湖に、ダモクレスの魔の手が伸びていた。
 それは、アダム・カドモン擁する近衛軍の軍団長の一人『インペリアル・デイオン』と彼が率いる精鋭たちである。
 インペリアル・ディオンは、百体近くにものぼる『幾何学』ゲオメトリアの軍勢を引き連れて、長面浦を砲撃で攻め入ったのだ。
 有無を言わせぬ物量攻撃——それこそ、ジュモーがダモクレスからは裏切り者と見做されている証左であろう。
 哀れ長面浦の湖水は蒸発し、湖底よりさらに地下にあった『ジュモー拠点』の姿があらわになる。
 しかも、元々はユグドラシルの根が複雑に絡まって繭のような球形を形作っていたのに、砲撃によってそれらが大きく破損、無残な大穴が開いている有り様だ。
 もちろんジュモー拠点からも暴食機構グラトニウムたちが防戦に現れ、穴を塞ごうとした。
 だが、インペリアル・ディオンも十数体の『天文学』スファイリカを落下させて、ものの見事にグラトニウムを押し返し、突破口を切り開かれてしまった。
 その突破口からまんまと内部へ侵入したのが、『整数論』アリトメティカと『音楽学』ムシュケーの部隊である。


「強襲屍隷兵製造拠点によって、ジュモーの屍隷兵製造拠点を破壊することに成功しました。おかげで、ジュモー主導の屍隷兵製造は完全に停止するでありましょう」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー)が、集まったケルベロス たちへ説明を始める。
「さらに、その時に得られた情報から、ジュモー・エレクトリシアンの配下として拠点を指揮していた『機界魔導士ゲンドゥル』が攻性植物に与していなくて、ジュモーに敵対する立場なことも判明したであります」
 ゲンドゥルはジュモーを裏切り者と呼び、ケルベロスがジュモー拠点を突き止めるよりも早くダモクレスが拠点を襲撃して、全ての研究成果を奪い取ってジュモーを滅ぼす——と言い放ったのだとか。
「ダモクレスは、裏切り者のジュモーの研究成果を奪い取るためだけに、ジュモーを泳がせていたみたいでありますね」
 ダモクレス軍は、ダモクレスの十二創神、アダム・カドモンの近衛軍の軍団長の一体『インペリアル・ディオン』に率いられた精鋭部隊のようで、拠点であった湖を一気に蒸発させる規模の砲撃を行っている。
「皆さんには、宮城県石巻市の長面浦へお出ましいただき、インペリアル・ディオンとジュモー勢力との戦いに介入、ジュモーの研究成果とジュモーのコギトエルゴスムを、インペリアル・ディオンに渡さないよう破壊していただきます」
 インペリアル・ディオンの撃破までは難しいかもしれないが、配下の精鋭部隊を撃破することができれば、ダモクレスの力を確実に削げるでしょう。
「さて、今回の作戦は大まかに分けると……ジュモーの撃破、研究成果破て壊、退路確保、『幾何学』ゲオメトリア要撃、『インペリアル・ディオン』戦の5つでありますね」
 当班の担当は作戦2・研究成果の破壊である。
「『音楽学』ムシュケーと配下のダモクレスたちは、ジュモーの研究成果の奪取を画策していますが、どうやら研究内容を一々確認して回収するのではなく、一切合切持ち帰って後から確認するスタイルであります」
 そこで、『回収作業中のムシュケー軍を攻撃して撃破する』『回収作業中のムシュケー軍を攻撃して研究成果を破壊して離脱する』『一部のチームがムシュケー軍を足止めしている間に、先回りして改修前の研究成果を破壊したり持ち帰る』などのやり方が考えられる。
「破壊の効率を考えると、別行動で先回りするのが妥当でありましょうが、完全な別行動は少し危険かも……先回りするならするで何か対策が必要でありますかね」
 でもでも、とかけらは言い募る。
「大立ち回りになるであろうムシュケー軍との戦いに比べたら地味に聞こえるかもしれませんけど、敵軍が欲している研究成果をこっそり先んじて破壊するって、それはそれでやり甲斐があって楽しいでありましょうね♪」
 ちなみに、拠点の大穴ではスファイリカとグラトニウムという巨大ダモクレスたちが押し合い圧し合いしているので、その隙をついて内部に突入することが可能だ。
「ただし、グラトニウムがスファイリカに撃破されてしまうと、出入り口が『インペリアル・ディオン』軍に制圧され、内部に突入したチームの脱出が難しくなりますのでお気をつけくださいね」
 もしかしたら、皆さんの行動次第では機界魔導士ゲンドゥルに会えるかもしれませんね——とかけらは話を締め括って、
「今回の作戦は、失敗しても、ジュモー軍の研究成果をダモクレス軍に奪われるだけで、直接的な被害は出ません……もしも不利になったら躊躇わず撤退する……それも勇気なのやもしれませんね」
 彼女なりに皆の無事を案じるのだった。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
皇・絶華(影月・e04491)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)
 

■リプレイ


 干上がった汽水湖の地下にあるジュモー拠点。
「目に見えてわかる何かを持って撤退する敵……だけの撃破を狙って、それ以外は入ってくる敵も逃げていく敵も深追いせずにスルーで……」
 夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)は、出入り口での迎撃の判断基準を、ぶつぶつと小声で繰り返している。
 今回、他班との連絡役を担っていた彼女は作戦の摺り合わせの必要性を痛感して、他2班とも同班の仲間たちとも緻密な相談を続けていた。
 だから迎撃基準を決して間違うまいと暗唱するのも、オーソドックスな強化ゴーグル型のゴッドサイト・デバイスを嵌めて敵味方の位置をしっかり把握する傍らで望遠鏡による目視で拠点の奥を覗いてしまうのも、璃音の念には念を入れる性格がさせているのだろう。
 当作戦に参加を決めてから長面浦へ降下して今に至るまで、ずっと覇気と責任感に満ちた様子で相談を引っ張ってきた璃音。
(「ダモクレス同士が争う中で研究成果を奪うか破壊する……なんか、火事場泥棒とかそういう感じでワクワクするね」)
 そのやる気の源は、研究成果の破壊という珍しくも面白い任務に対して膨らんだ期待だったようだ。
 一方。
「何となく、計算や合理性を優先する種族のように思ってたけど、本隊への裏切りなんて非効率的な真似もするんだな……」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は、ジュモー軍のダモクレスらしからぬ行動へ感心していた。
 彼もまた今回の任務をつつがなく成功させるべく、足止めや撤退戦に適した戦略を積極的に練っている。
 『他班とは別行動で研究成果の破壊を優先。もしムシュケー軍と遭遇した場合は他班の活動時間を稼ぐため足止めに徹する』という、現作戦の基礎を提案したのも蒼眞である。
「ともあれ、まずは入り口近くの区画から家捜しを開始しますか……。幸い、こちらが使えるデバイスは5種類。連絡も逃走も楽にできそうだしな……」
 そう呟いて、ジュモー軍の研究区画を探す蒼眞。
 ヘリオンデバイスそれぞれの利点やディフェンダーの頑健さを簡潔に説明して、今のポジション構成へ何とかこじつけたのだ。
 ついさっきヘリオライダーの胸を揉みしだいては蹴落とされていたセクハラ男と同一人物とは、とても思えない奮闘ぶりである。
 他方。
(「研究成果をどれもこれも持ち帰れると楽観視するのは危険過ぎるか。見つけ次第破壊ぐらいの腹積もりでも良いかもしれんな」)
 と、デバイスの力で宙に浮きつつ、気配を殺して通路を進むのは皇・絶華(影月・e04491)。
 いかなる時もマイペースさを崩さない絶華だが、今はマインドウィスパー・デバイスを使っていることもあって、いつ他班から思念による連絡がくるかもしれないと、神経を研ぎ澄ませている。
「ジュモーって確か6機の指揮官型の1人だったっけ。直接関わった記憶はないけど、随分長い間相手にしてたのね……」
 そう感嘆する氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が足に着けているのは、チェイスアート・デバイス。
「さあ、ちゃちゃっと全員をビームで繋いじゃいましょうか」
 足元に生じている淡い光の輪からビームが何本も伸びて、かぐらと仲間たちを繋いだ。
 何せ、依頼の目的が研究成果の破壊であり敵との戦闘は二の次、運が良ければゴッドサイト・デバイスを駆使してムシュケー軍との遭遇すら全回避できる可能性がある。
 それだけに、かぐらのポジションの選び方も戦術よりヘリオンデバイスの効果優先になっていた。
「さて……久しぶりの任務だけど力は尽くさないとね」
 フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)も、光の翼を広げて宙に舞い上がりやる気は充分。
「元から飛べるせいか、特に速度が上がるわけじゃないのね」
 初めて装着したジェットパック・デバイスの能力には、未だ慣れてないせいかちょっと戸惑い気味である。
「ジュモー軍は今、アリトメティカの部隊に攻め込まれて総力を上げて応戦しているわけよね?」
 ふと、そんなことを呟くフレック。
「ええ、そのはずよ」
 かぐらが頷く。
「それなら、監視カメラとかで此方の動きを捕捉される心配もないかしらね?」
「うーん……多分大丈夫じゃないかな。予知によるとジュモー側は戦力差でかなり圧されているって話だから、きっと監視員だって全員、ジュモーの防衛に駆り出されているわ」


 ケルベロスが侵入に使った大穴——それ自体がスファイリカとグラトニウムの大きな小競り合いの場だけに気は抜けないが——から一番近い研究区画は、閑散としていた。
 幾つものメモリバンクらしきコンピューターが無機質なモニター光を放っているだけだ。
 かの螺旋忍軍の生産プラントとは違ってあくまで研究施設だからか、実験サンプルや素体などが繋がれている雰囲気も無いのは、今からそれらを破壊しなければならないケルベロスたちにとって幸いであった。
 画面に表示されているデータから、どうやらこの区画では屍隷兵の研究が行われていたと判る。
 つい先日、屍隷兵製造拠点を破壊したことで屍隷兵の製造技術は完全に停止したので、屍隷兵の研究自体も頓挫しているはずだ。
 ムシュケー軍は拠点の奥から家捜しを始めているのか、幸いにもメモリを抜かれたり機械を荒らされた痕跡はない。
 しかし、
(「あれだけ製造されてたってのは、それだけの数の人間がヘリオライダーの予知にも引っ掛からずに殺されて、素体にされたって事だろう……」)
 屍隷兵製造拠点の異様さを目の当たりにしている蒼眞は、研究成果が他種族に流用される可能性を危惧して、
「その研究成果がダモクレス軍に渡れば更に犠牲者が出るだろうし、ここできっちり破壊しておかないとな……」
 区画内にあるコンピューター全てを破壊するつもりで、攻撃を始めた。
 桜の花びらに彩られた斬霊刀が、機械を繋ぐ有線をスパスパと切り落としていく様は爽快である。
「量産型ムシュケーは……数ヶ所に散っているけど、こっちに気づいたような動きはないね。とっとと破壊しちゃおう」
 璃音はゴッドサイト・デバイスで見たままを伝えると、自分も不可視の『虚無球体』を投げつけては、大きなマザーコンピューターを音もなく消滅させた。
(「大穴から向かって右手前の区画に到達……屍隷兵研究機関の模様。ムシュケーとの交戦は未だ無し。即刻破壊活動に入る」)
 と、マインドウィスパー・デバイスで他班のキャスターたちへ逐一報告しているのは絶華。
 もちろん、斬狼を履いた足で強烈な回し蹴りを見舞って、鎮座するメモリバンクたちを暴風でめちゃくちゃにすることも忘れなかった。
「施設の規模が大きいわね……他も同じぐらいの広さなのかしら」
 かぐらはアームドフォートの砲口をコンピュータへ向けて、無数のレーザーをぶっ放している。
「こうした侵入任務もまぁ昔何度かやってたりするわ。此処まで凄い状況というのは無かったから、少しばかり不安ではあるけどね」
 そんな言葉とは裏腹に、フレックも手際良く『御業』に炎弾を撃たせて、メモリバンクを焼き尽くした。


 次に突入した区画は、研究の痕跡がそこここに残っていた。
 データを随時記録して分析するはずのコンピューターの外装やその排熱口にまで、緑色濃いツタが這い回っているのだ。
 どこからどう見ても攻性植物の研究機関である。
「侵入者だ!」
 そして、それら攻性植物の大きな花と葉がケルベロスと量産型ムシュケー双方の目隠しになって、互いの認識を一瞬だけ遅らせていた。
 量産型ムシュケーたちは、何分研究成果の奪取が目的なだけに、研究に使われていた攻性植物の採取に手間取っていたと見える。
 コンピューター相手に記憶媒体や基板を無理やりぶっこ抜くのとは勝手が違うからだ。
「お生憎様、この場の研究成果を探そうとしても無駄だよ? もう私達が滅茶苦茶にしてるから」
 まずは璃音が、量産型ムシュケーたちをわずかにでも動揺させるべく、ハッタリをかまして挑発する。
 それと同時に、量産型ムシュケーの抱えている攻性植物の一部目掛けて、流星の煌めき宿りし飛び蹴りを見舞った。
「何だと!」
 量産型ムシュケーたちは目論み通り狼狽えて、一旦通路へ出ようとしたが、先鋒が立ち止まったので団子状態につんのめっていた。
「既に潰された研究を確かめに行くなど無駄足だ。それより邪魔者を始末した方が効率的だ」
 そう判断したらしい。
(「攻性植物の区画でムシュケー軍3体と遭遇。殲滅する」)
 絶華はすぐさま他班へ敵の数を報せてから、量産型ムシュケー目掛けて飛びかかって肉薄する。
 光の尾を引く重いキックを炸裂させて、量産型ムシュケーの機動力を削ぎ落とした。
(「こちらは、エインヘリアルの区画に潜入したところですわー。こんな感じですのー」)
(「了解。こちらはドラゴンの区画の掃除を終えたところだ。これより更に深部に向かう」)
 他班から続々と思念による応答があった。黒いゴシックドレスのサキュバスがムシュケー軍へ今しも立ち向かう映像も、同時に脳裡で展開されている。
(「ならば、増援を頼むのはやめにして、俺たちだけで対処しよう」)
 蒼眞が頷いて、空の霊力帯びし斬霊刀を閃かせる。
 量産型ムシュケーの打撲を正確に斬りつけて、致命傷を負わせた。
「お互い潰し合ってくれるだけなら簡単だったけど、ちょっと邪魔させてもらうわよ」
 気丈に言い放って、砲撃形態のドラゴニックハンマーをぶん回すのはかぐらだ。
 竜砲弾の照準合わせももはや手慣れたもので、もう1体の量産型ムシュケーの心臓部へ吸い寄せられるように着弾、派手に抉り抜いて機能を停止させた。
「残念ながらもう勇者にはしてあげられないけど、それでも仕留めさせていただくわね」
 フレックはグラビティと共鳴させた魔剣「空亡」を手に斬りかかる。
 量産型ムシュケー最後の1体を相手の居る時空間ごと切り裂いて、宣言通りにトドメを刺した。


「魔窟……??」
 それが、3つめの研究区画の内部を目にした、璃音の第一声だった。
 その空間は、コンピューターこそ他の機関と同じように居並んでいたが、それよりずっと目立つ物体で埋め尽くされていたのだ。
 アイドルのポスター、写真集から、ロボットのプラモデル、アニメキャラのフィギュア、抱き枕。
 スポーツ用品、キャンプ用品などアウトドア関連のものがあったかと思えば、その一方では、ラーメン用の寸胴鍋に豚骨や鶏ガラが放り込まれていたりする。
 あまりに一貫性のない物体の数々に、ケルベロスたちは一瞬唖然としたものだが。
 すぐに、ここが何の研究区画か悟った。
「ビルシャナか……」
 蒼眞が呆れたふうに呻く。
「それでも、どんな研究かはちょっと想像つかないけれど……ビルシャナの洗脳のシステムを探っていたとか?」
 かぐらはディスプレイのひとつを覗き込んで、誰かスイーツ好きが書いたブログにしか思えない文章に目を通した。
 タイトルには、ビスコッティー至上主義ビルシャナの教典とある。
 よく見ると、ロボットや戦闘機のプラモデルひとつひとつにも『何々教御神体』とのタグがぶら下がっていた。
「これ、わざわざ持ち帰る必要あるかしら……あるとしたら、研究結果のレポートの方でしょうね」
 フレックは苦笑いしつつも、何か大事なものが紛れ込んでいないかつぶさに観察は続けている。
(「大穴から見て左手のビルシャナ研究区画に到着。敵の気配は無し。破壊を開始する」)
 絶華は他班と行き先がかち合わないよう、現状を報告している。
「やっぱり入らない……規格が地球の製品とは根本から違うのかな?」
 璃音は持参したUSBメモリの端子が入らないかコンピュータの周りを一頻り確かめて、3度目になる溜め息をついた。
「……誰かの御神体とやらは壊さずに回収しておくか。祟られても困るしな……」
 蒼眞は蒼眞で、ようやく1立方m以内に収まる研究成果を見つけたとして、色んな『御神体』をアイテムポケットに入るだけ放り込んでいた。
「コンピューターやマザーメモリは潰しちゃっていいのね?」
 予め仲間たちへ確認してから、巨大なコンピューターの群れをヴァルキュリアブラストで景気良く破壊するのはフレックだ。
「ええ。構わないでしょう……私たちにはかなり大きく見えるけど、ダモクレスからすれば使いやすかったり、却ってコンパクトなのかもしれないわね」
 かぐらも精神を集中させて大爆発を起こす傍ら、大穴の前で今も戦っているだろう『天文学』スファイリカとグラトニウムの巨躯を思い浮かべた。
 そして、室内にあった研究成果や資料の破壊と略奪を終えたケルベロスたちが、通路へ出ようとした、その時。
「っ!」
 10数体もの量産型ムシュケーと出くわした。
(「下手に撃破は狙わず、敵の持ってる研究成果を破壊して離脱……だよね?」)
 璃音は牽制のつもりでスターゲイザーを披露、量産型ムシュケーを蹴りつけてから仲間の方へ振り向く。
 フレックも小さく頷くと、量産型ムシュケーが脇に抱えている端末の束目掛けて、空の霊力宿りし一太刀を浴びせた。
(「ビルシャナ区画の破壊完了。だが量産型ムシュケー十数体に遭遇。奴らが奪った資料のみ攻撃してから撤退する」)
 絶華は他班へそう伝えて、量産型ムシュケーに突撃をかます。
 ローラーの摩擦で炎に覆われた斬狼が、ムシュケーの持っていた研究レポートを焼き尽くした。
(「此方も敵が増えてまいりましたわー。ある程度破壊できたかと思いますのでー、撤退いたしますわー」)
(「こちらは今まさに撤退中だ。遠くまで足を伸ばしたから、少しばかり遅れるかもしれん」)
 他班もこちらと同じく、離脱を考えるに潮時のようだ。
「ドローン起動。通常モードで展開」
 かぐらはいつでも逃げ出せるように心構えしながら、小型治療無人機を前衛陣へ向けて展開している。
 蒼眞も卓越した剣戟を繰り出して、量産型ムシュケーの手元の紙束を器用に一刀両断した。
「急いで!」
 後は、チェイスアート・デバイスを着けたかぐらが先陣を切って、大穴から外へ出るだけだ。
 スファイリカとグラトニウムが戦っている場へ量産型ムシュケーが割り込んでまで追ってはこれまいという目算もあったし、何より、これ以降は退路確保の任に就いている班が撤退の手助けをしてくれるという信頼感があった。
(「こちらは——」)
 現に、白いアオザイの少女がこちらにすぐ気づいて、手を振ってくれた。
(「撃破済みのグラトニウムとスファイリカの残骸が、もたれ合ってるところから、脱出できます」)
(「了解」)
 それは、スファイリカの真上に掘削機を突き刺したグラトニウムという、図らずも歪なアーチを形成している残骸のこと。
 かぐらたちは、鉄塊剣を携えた女騎士にも守られるようにして、停止済みの巨大ダモクレスの下を潜り抜けていった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月23日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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