富士樹海魔竜決戦~復活の魔竜は狂風を纏いて

作者:青葉桂都

●魔竜たちの復活
 富士の樹海の奥地で、今1つの命が絶えようとしていた。
 樹母竜リンドヴルムが苦しみにあえいでいるのだ。
 最強の魔竜はもはや産めない。産むに十分な力を得る前に、ケルベロスたちはこの樹海へと攻め込んできてしまった。
 そして、樹母竜を守るべき邪樹竜クゥ・ウルク=アンも倒れた。
 けれど――。
 リンドヴルムは咆哮をあげる。
 それは断末魔でありながら、同時に願いを込めた咆哮でもあった。
 直後、その胎を、いや全身を食い破って無数の竜たちが飛び出してくる。
 色も形も様々な竜――その数、17。
 ただし、17体の竜を見た者がいれば、その共通点には容易に気づくことができるだろう。
 鱗の隙間からのぞく植物……竜たちはすべて、攻性植物を身に宿しているのだ。
 そして17の魔竜は、母竜の死を嘆く間もなく動き出さねばならなかった。
「まとまり行けば、全滅の危険もある。ここは散り、各々でこの場を切り抜けるのだ」
 魔竜たちの1体が呼びかけ、それをきっかけに竜たちはそれぞれに飛び立つ。
 中に、ひときわ強い風――狂風を纏う竜がいた。
「ケルベロスなど、ひとっ飛びに飛び越えてくれよう! このブースト・レイノルズの風、二度とは阻ませぬ!」
 魔竜ブースト・レイノルズが灰色の翼をはばたかせると、木の葉混じりの風が富士の樹海に吹き荒れる。
 自らが生んだ魔竜たちが旅立っていくのを見つめる樹母竜リンドヴルムの瞳には、どこか満足げな色が宿っていた。

●樹海のケルベロスたちを救え!
 富士の樹海へ向かったケルベロスたちは、無事に邪樹竜クゥ・ウルク=アンを撃破した。
「ですが、クゥ・ウルク=アンを倒したケルベロスたちに危機が迫っています」
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は集まったケルベロスたちに落ち着いた声で告げた。
「ドラゴンの陰謀は阻止できたものの、クゥ・ウルク=アンは集めたグラビティ・チェインをすべて樹母竜リンドヴルムに集め、不完全ながらも魔竜を孵化させたのです」
 出現した魔竜の数は17体。このままでは、戦いで消耗したケルベロスたちは蹂躙されてしまうことだろう。
「皆さんには急いで樹海へ向かい、撤退を援護して魔竜を撃破していただきたいのです」
 芹架はそう言って、ケルベロスたちを見回した。
 それから、彼女は自分が予知した敵について説明を始めた。
「敵は魔竜ブースト・レイノルズです。狂風を身にまとい、風を用いて攻撃してきます」
 竜の突撃は近接範囲内の敵をすべてなぎ倒し、風で圧迫して動きを封じてくる。
 さらに風そのものによる範囲攻撃も可能だ。放たれる嵐には刃のように鋭い木の葉が無数に混ざっており、それによって追撃することができる。
「2種類の範囲攻撃は十分以上に脅威ですが、単純な威力という意味でもっとも警戒すべき攻撃は、鉤爪を生やした4本指の腕によるものでしょう」
 風を切り裂いて振り下ろされる攻撃は、当たりどころが悪ければ一撃で倒される可能性すらある。
 もっとも、敵は直接攻撃よりも風による範囲攻撃を好むようだ。追いつめられたり挑発されなければ頻繁には使ってこないだろう。
「魔竜は非常に強力な敵です。ただ、孵化したばかりで充分なグラビティ・チェインを得ていない分、その力は落ちていると考えていいでしょう」
 また、攻性植物と融合した体で復活したが、その体にまだ魔竜は慣れていない。戦闘が始まってすぐは、動きがぎこちなくなっているようだ。
「それらの要因から、短期決戦を意識した作戦を立てることで勝機を見出すことができるでしょう」
 戦いが長引けば慣れて、能力を十分に使いこなしてくるだろう。そうなれば撤退することも考えたほうがいいかもしれない。
 魔竜たちの目的は聖王女軍との合流のようだ。余力があるうちにケルベロスが撤退すれば深追いはしてこないだろう。
「この作戦でもヘリオンデバイスを使うことができますので、必要に応じて活用していただけますようお願い足します」
 最後に、芹架はそう付け加えた。
「攻性植物の力を得た魔竜は強力な敵です。ですが、ケルベロスの皆さんも、かつて魔竜と戦った時より多くの力を得ています」
 きっと勝てるはずだと、芹架は言った。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)

■リプレイ

●狂風への挑戦
 ヘリオンデバイスを装備して、ケルベロスたちは富士の樹海に挑んでいた。
「竜が相手でも綺麗に決めて魅せる……くっくっく」
 神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)の含み笑いは樹海の中へと響いて、そして木々に吸い込まれていった。
 幸い、魔竜に追われている者との合流は――彼ら自身の工夫の甲斐もあってか――敵と遭遇するより早く行うことができた。
 そしてそのうち2人は、今もケルベロスたちと同行している。
「……おい、無理してんじゃねえだろうな」
 鋭い眼光を行く手に向けたまま、いつも通りに不機嫌な声を相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は発した。
 大きな声ではなかったものの、伝えようとした相手には届いている。
「さっき戦ったばかりですけれど、まだ大丈夫です! 相手はドラグナーでしたし、全然いけますよ!」
 応じたのは銀狐の少女、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)だ。
 天真爛漫な少女の動きに、傷や疲れの影響は見られない。ヘリオンデバイスを装着し、走りづらい樹海の地面を駆けていく。
「ま、足手まといにならなきゃいいんだけどよ」
 そう言って、竜人は改めて走る速度を上げた。
 魔竜と遭遇したのは、それからほどなくのことだった。
「前方から強い風を感知しました」
 ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)が仲間たちに警告する。
 そしてすぐに、ケルベロスの誰もが、木々の間を吹き抜ける狂風を顔に、体に感じた。
「この風――2年ぶり、というべきなのだろうな」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が鉄仮面の下から声をもらした。
 今回リンドヴルムによって復活した魔竜たちの多くは、かつてケルベロスたちと交戦して、討ち果たした竜だった。ジョルディは以前の戦いにも参加していた。
 風はなおも強くなり、ケルベロスたちの足が思わず止まる。
 次の瞬間、富士の樹海に生い茂る木々が、狂風によってなぎ倒される。
「ブーストレイノルズ、ここでしっかり倒していくの! ある意味産まれたてではあるけど容赦はしないからね!」
 大弓・言葉(花冠に棘・e00431)はケルベロスたちを覆った影を見上げて叫ぶ。
 ジョルディと同様、かつて彼女も魔竜と戦った。かたわらのサーヴァントと共に……だが、熊蜂に似たボクスドラゴンのぶーちゃんは、体を縮こまらせている。
「ここにいたか、ケルベロス!」
 魔竜ブースト・レイノルズの怒声は、風となってケルベロスたちへ吹きつけられた。
 だがその風に吹き飛ばされる者などケルベロスたちの中にはいない。
「一度は討たれたが、樹母竜により黄泉返りし竜か……だが、鱗を剥けば攻性植物を身に宿す身体であると」
 敵の体に生えている、攻性植物と同化した証を目にして人狼の女性が呟く。
「しかも、相手は狂風を巻き起こす竜と来たか。ふふ……私も同じく風のグラビティを操る……胸が高まるな」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は愛用のゾディアックソードを油断なく構える。
 仲間たちもそれぞれの得物を素早く構え直した。
「母の為の復讐とは、題材的に嫌いではないけれど。地球の民を襲撃したそちらに非があるから、自業自得で面白くないんだよね」
 どこかアンニュイな雰囲気をまとうオズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)の手から、ケルベロスチェインが流れる。
「母竜の無念、このブースト・レイノルズの風が晴らす。貴様らに我が風を阻むことなどできんぞ、ケルベロス!」
 地上近くまで降りてきた魔竜が翼をはばたかせる。はばたくたびに、新たな風がケルベロスたちへと吹きつけてくる。
 その風を押し返して、ケルベロスたちは竜へと接近した。
「いざ尋常に……参る!」
 ジークリットの声がブースト・レイノルズの風と真っ向からぶつかり合い、そして魔竜とケルベロスたちの戦いははじまった。

●荒れ狂う魔竜
「行くぞ、ケルベロス!」
 風をまとって魔竜ブースト・レイノルズはケルベロスたちへと突撃してきた。
 体に直接触れずとも、巻き起こす風だけでも容赦なく体力を削り取る突撃。
「おい!」
 竜人が怒鳴ると、彼のテレビウムであるマンデリンが飛び出した。一気に接近しようとして風に巻き込まれたジョルディをかばう。
 そして、突撃する竜の動きが止まったところで、ケルベロスたちは反撃に移った。
 言葉が竜砲弾を放ち、ぶーちゃんがブレスを吐く。
 砲弾は魔竜を確実に貫いて動きを止めたが、ブレスは敵の鱗を軽く撫でただけだった。
 サーヴァントに対して、言葉は心配げな視線を向ける。
(「大丈夫かな、ブーちゃん。たぶん乗り越えられるはず……!」)
 彼女が自分に言い聞かせている間にもケルベロスたちは攻撃を続ける。
 攻撃にひるまず再び肉迫しようとするジョルディを、エアシューズで高速移動する竜人が追い抜いていく。
 髑髏の仮面をかぶった竜人は、制御しがたい速度から飛び蹴りで竜を狙う。
「その風を浴びるのは二度目! 飛ばされるものか!」
 敵の動きが止まったところに、ジョルディの鉄塊のごとき戦斧が食い込んだ。力任せにそれを押し込み、彼は少しでも深く竜鱗を切り裂こうとする。
 柧魅はその攻防の間に、素早く木々の間へと身を隠していた。
(「せっかくの森の中だからな。忍者らしく、必殺の奇襲攻撃といこうじゃないか」)
 ジェットパックデバイスで飛翔し、枝の上に着地する。音もなく樹上を駆けて、彼女はブースト・レイノルズへと近づく。
 仲間たちを狙う魔竜の後方で、柧魅は唇の端を上げた。
「背中がお留守になってるじゃないか。派手にしてやろう……くっくっく」
 魔竜の背中に着地すると同時に、彼女は魔竜の背中に触れた。
 大量のエネルギーを手のひらから竜へと注ぎ込む。
 ブースト・レイノルズが持つ灰色の鱗が、一瞬だけ灰色に輝いた。
 そして、魔竜の背中で赤熱する光が爆発する。
「攻撃植物の力なんぞ爆炎で焼き飛ばしてやろう」
 なぎ倒された木を蹴って、柧魅は再び攻撃する機をうかがう。
 魔竜の初撃で傷ついた前衛たちへ、スズナが吹かせた癒しの風が通り抜け、ジークリットのドローンが支援に飛び回る。
「皆さんに疑似螺旋力を供給します」
 さらにピコがカラフルな爆発で鼓舞しながらナノマシンを仲間たちに飛ばし、オズが作り出す鎖の結界が仲間たちを守った。
 支援ごと吹き飛ばそうと、木の葉混じりの風を魔竜は叩きつけてくる。
「回復を休んでいる暇はなさそうだ。しばらくは、僕の代わりにトトにがんばってもらうことになりそうだね」
 オズはゆっくりと息を吐いた。
 攻撃の余波だけでも、前衛の仲間が浴びている攻撃の威力がわかる。
 中衛から攻撃するウイングキャットのトトは尻尾から輪を飛ばして攻撃していた。
「孵化したばかりでこの戦闘力は流石ですね……!」
 同じく回復に努めているスズナが、言った。
「そうだね。手分けして、効率よく回復していこう」
「しっかり攻撃をしのいで、戦闘経験なら圧倒的に私達の方が上だってことを、思い知らせてあげましょうよ!」
 スズナの言葉にオズはうなづいた。
 同時に、その手の中でパズルが完成し、蝶が飛び出して前衛の仲間たちを癒す。
「せっかく手に入れた居場所だからね。守らせてもらうよ」
 故郷を奪った者たちと同じく――あるいはそれ以上に、力を信望する者たち。その暴れまわる様を見つめて、オズは再びため息をついた。
 ブースト・レイノルズの攻撃は激しい。
 けれど、ケルベロスたちもけして、負けてはいない。
「例え強固な鱗と言えども、これならば!」
 非物質化したジークリットの斬霊刀が、魔竜の鱗を貫いて敵を切り裂く。
「体温の異常上昇を確認。これより、強制排熱を行います」
 ピコは呟きながら、魔竜との距離を詰めた。
 彼女が有する疑似螺旋力ジェネレーターからは、大量の熱が発生している。金色の長い髪は、それを排出するための機能がある。
 けれど、その髪から排出する熱量には限界がある。
 螺旋の力を操り、彼女は自らの体内にある熱を一気に排出した。
 ピコが高熱を魔竜の灰色がかった鱗へ放つと、その巨体が燃え上がる。
 炎の中でブースト・レイノルズはピコをにらみつけたが、彼女は無表情に凶悪な視線を見返しつつ、再び中距離まで後退した。

●阻む者
 ケルベロスたちの攻撃は、魔竜の動きを確実に縛ってきていた。
 けれど、魔竜の動きは少しずつよくなっているのもわかる。攻性植物の力になじんでいっているのだ。
「皆さんに優しい追い風を届けるのが、私の仕事ですからっ! 癒すのはメディックの仕事! 短期決戦、存分にやって下さい!」
 スズナは仲間たちに呼びかけた。
「ならば、そちらからまず片付けてやろう!」
 木の葉の嵐が後衛へと吹きつけられる。
 まず衝撃を感じ、そしてまるで刃のように葉っぱが肌を切り裂いていくのを感じた。
 細身の体が、切り裂かれながら吹き飛ばされていく。言葉はジークリットがとっさに守ったものの、オズやぶーちゃん、ミミックのサイも同じだ。
 だが、一撃で倒れたりはしない。
 痛みをこらえて、スズナは狐の妖力を発揮する。
「豊穣の夏風よ、いまここに!」
 稲の開花を祈願する夏風が、傷ついた仲間たちを癒していく。
「だんだん力に慣れてきてるみたいだね。早めに決着をつけたいところだけれど」
 言ったオズはジークリットへ、光り輝く掌を掲げて癒した。
 攻撃を受けて、ぶーちゃんが体を震えさせたのが、言葉から見えた。
「ぶーちゃん、大丈夫?」
 語りかける言葉を見上げてくる。ボクスドラゴンが怯えている理由が、もともと臆病だからなだけではないと、言葉は知っていた。
 けれど、夏風が吹く中で、ぶーちゃんは一歩魔竜へと近づいた。
 乗り越えようという想いは確かにあるのだと、言葉は感じる。
「一緒にやろう、ぶーちゃん」
 クリスマスホーリーボウを構えて、心を射抜く矢を放つ。
 その矢を追って、ぶーちゃんは飛んだ。矢が吸い込まれた直後、ボクスドラゴンの体当たりが魔竜へと痛烈にぶち当たる。
 衝撃が、魔竜の巨体を後退させた。
 ケルベロスたちは魔竜を徐々に追い詰めている。ブースト・レイノルズの力が増したところで、傷が癒えるわけではない。
 跳躍したジョルディの斧が、魔竜の頭を深々と断つ。
 他のケルベロスからも攻撃を浴びながら、4本指の腕を、魔竜が振り上げた。
 狙われたのは柧魅だ。
「貴様も、ちょろちょろと目障りだ!」
 忍者らしく自然を利用しながら攻撃を繰り返していた彼女へと、魔竜の爪が伸びる。
 竜人は爪を体で受け止めた。
「邪魔を!」
「うるせえな。復讐してから他所様と合流しようだなんて、悠長なこと考えてるのが悪いんだよ」
 魔竜の爪は彼の体を深々と切り裂き、えぐり取る。
 それは、彼が守りを固めていなければ……そして、仲間たちが支援を重ねてくれていなければ、耐えられなかったであろう攻撃だった。
「ああ、生まれたばっかだもんな。知らねえのも無理はねえ。二兎追いはどっちも取れねえって相場が決まってるんだ。テメエはここで死んで終いだよ」
 耐えきった竜人は、ブースト・レイノルズを仮面の下で見上げ、不機嫌に鼻で笑う。
「だから死ね」
 吐き捨てた彼の体からワイルドの力が染み出した。
 蒼い焔と化した混沌が魔竜の体を包み込み――燃え続けるための熱を、ドラゴンから容赦なく奪い取る。
「身体に不純物を混ぜたせいで弱くなったんじゃないか? 完璧すぎるオレと違って、不完全な生き物は大変だな」
 柧魅の蹴りも鋭く魔竜を切り裂き、凍りついた体を砕く。
 反撃を受けて魔竜がひるむ。けれど、そのまま追撃に移るわけにはいかない。
「とはいえ威力はさすがですね。回復に回ったほうがよさそうです」
「同意しよう。癒しの風よ……身体を蝕む魔竜の狂風を祓いて、我らに力を与えよ」
 メディックだけでは回復しきれないと判断し、ピコとジークリットが言葉を交わした。
 魔竜が纏う狂風を、ジークリットが吹かせた爽やかな風が吹き飛ばす。ピコが生み出した、力場を発するナノマシンのドローンが竜人や他の仲間たちを守る。
「直接攻撃に出たということは、追いつめられたからのはずです。あと一息、私達の力を見せてあげましょう!」
 檳榔子黒色の杖を手に、大自然を通じてスズナが自分と竜人をつないで癒す。
 オズも静かに寓話を語り始めた。
「昔々、病の流行を知らずに街を訪れた林檎売りの娘がいました。娘は苦しむ人々の様子を見て気の毒に思い、林檎をすべて譲りました」
 身を捨てて苦しむ人々を助けた娘の物語が、竜人の傷を癒していく。
 スズナの言葉通り、ケルベロスたちは魔竜をもう追いつめていた。
 ジークリットの剣が竜の急所を見極めて、その鱗を打ち砕く。
 逃れようとした魔竜の巨体が、木々の間に仕掛けた鋼糸に引っかかり、敵はうるさそうに身をよじる。
 これまで気にも留めなかった糸に気を取られた隙に、柧魅は派手に魔竜を爆発させた。
「く……あと少しで、新たな体が、力が完全に使いこなせたものを……!」
 ブースト・レイノルズが咆哮をあげた。
「ならその前に殺す」
 まだ血を流しながら、竜人がチェーンソーでずたずたに敵を切り刻む。
「相馬さんに続くよ、ぶーちゃん!」
 言葉の弓が時空を凍らす弾を放ち、ぶーちゃんのブレスが竜を焼く。
「あと少し時を稼げば……!」
 ブースト・レイノルズは飛ぼうとしたようだった。
 だが、その前に黒い影が立ちふさがる。
 脚部のタイヤとブースターを組み合わせたジェットローラーダッシュから魔竜の眼前まで飛んだのだ。ジェットパックデバイスも起動している。
「ジョルディィィ……ダァァァイナミィィィック!!」
 レプリカントの体が変形していく。両手に持つ超重の斧と合体し、彼の体は巨大な戦斧へと変化する。
 斧が魔竜の首を叩き切る――。
「お前の敗因は……2年前に俺を斃せなかった事だ!」
 人型に戻って着地したジョルディが、斧を掲げる。
 鉄仮面が地面に落ちて割れる甲高い音を、魔竜の首が落ちた重い音がかき消した。
「敵の沈黙を確認しました」
 ピコが魔竜の死を確認して、静かな声を出す。
「魔竜が相手でも完璧に決めてしまったな……くっくっく」
 柧魅が笑いをもらす。
「無事に解決したようで、なによりだね」
 物憂げな様子でオズが呟く。
 言葉はゆっくりと、自分のサーヴァントに近づいた。
「お疲れさま、ぶーちゃん。がんばったね」
 怯えながらも戦っていたボクスドラゴンに声をかける。恐怖を乗り越えられたのだと信じて、彼女は微笑みかける。
 魔竜ブースト・レイノルズは倒れた。残る16体の魔竜がどうなったかはわからないが……1体でも多くの魔竜が倒れたと信じて、ケルベロスたちは樹海を引き上げていった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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