富士樹海魔竜決戦~炎と氷のバルバース

作者:朱乃天

 ――海原の如く広大な森が果てしなく続く、富士の樹海の奥深く。
 この地で『最強の魔竜軍団の結成』を企てたドラゴン勢力の野望は、先のクゥ・ウルク=アン樹海決戦においてケルベロス達に阻止された。
 しかし、阻止に至るまでの間に得られたマリュウモドキのグラビティ・チェイン。
 樹母竜リンドヴルムはそれらを利用し、不完全ながらも、多数の魔竜を孵化させる。

 ミシミシ――と、樹皮を引き裂く音がして、樹の女王たる竜の胎がみるみる膨れ上がって喰い破られる。
『オオオォォォ……』
 生命を育む樹液に塗れ、新たに孵化した魔竜達の群れ、その産声が木霊する。
 数は全部で17体。それぞれ異なる容姿を持つモノ達だが、彼らに共通しているのは――全身のあらゆる箇所から生えた攻性植物。
 生命を蝕む定命化。その進行を打ち消すべく、樹母竜リンドヴルムの胎内で攻性植物の力を宿し、再び生命を得ることで、自身の定命化をリセットさせる――それがドラゴン達の作戦だった。
『……グルルルルルゥ』
 孵化した内の一体が低く唸り声を上げ、力尽き果てていく樹母竜リンドヴルムの最期の姿を、血のように赤く耀く双眸に映す。
 己の生命と引き換えに、魔竜の孵化を成し遂げた――それで死ぬなら本望なのだと、リンドヴルムは満足そうに微笑みながら崩れ落ち、一欠片の宝石となって大地に散らばる。
『グオオオオォォッッ――!!!!』
 母たる竜の最期を看取った魔竜は空に向かって吼え猛り、紅蓮と蒼の翼を大きく広げ、闘争本能の赴くがままに羽搏いていく。
『我の翼は熱く昂る怒りの心、そして冷たき死へと誘う憎悪の念――我等に仇なす番犬共、ここより一歩たりとも逃しはせぬ!!』
 生まれ変わった竜の落とし仔達が目指す先、全てはケルベロス達への復讐の為――。

「クゥ・ウルク=アン樹海決戦に向かったケルベロス達だけど、彼らに新たな危機が迫ってるんだ」
 緊迫した空気に包まれながら、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)がヘリポートに揃ったケルベロス達に予知した事件を語り出す。
 決戦に向かったケルベロス達はクゥ・ウルク=アンを撃破して、ドラゴンの陰謀を阻止することに成功したが、その後、孵化した17体の魔竜に襲われ、蹂躙されてしまう。
 だが魔竜の孵化はどうやら不完全らしく、今から急行すれば現地の仲間と合流できて、敵の襲撃を食い止められる。
 仲間の撤退を援護しつつ、孵化した魔竜を撃破する。その為にも皆の力を貸してほしい。
 シュリはケルベロス達に助力を願い、今回戦う魔竜に関する情報を彼らに伝える。
「キミ達が戦う相手の名前は、『魔竜・バルバース』。氷と炎の翼を生やしたドラゴンで、攻性植物と融合したことによって、全身から蔓の触手を伸ばした不気味な姿になったみたいだね」
 敵の攻撃方法は、炎と氷の二種類のブレスに、角から放つ雷の雨。更には蔓の触手で締め付けたり、回復能力までも備わっている。
 攻性植物の力も加わり、一筋縄ではいかないが、生まれたての魔竜は決して万全な状態ではないらしい。
「魔竜は強敵だけど、孵化したばかりで、充分なグラビティ・チェインを得られていないようなんだ。だからこの状況なら、こちらにも勝機は確実にあると思っていいよ」
 先の決戦が成功したことにより、ドラゴン達の計画は不完全となり、融合した攻性植物の力も上手く定着できず、その身体に魔竜自体が慣れてくるには時間が掛かる。
 戦闘開始直後は動きがぎこちない為、そこに付け入る隙がありそうだ。だが戦いが長引けば、身体に慣れて十全に能力を使いこなしてくるのは間違いない。従って、短期決戦に持ち込むことが最良の策と言えるだろう。
 もしこの戦いに敗北すれば、魔竜は攻性植物の聖王女の勢力に合流しようと離脱する。
 しかしそうさせない為にも、必ず勝利を収めて帰還する。例え強敵相手だろうと、ここに集った皆だったら、大丈夫だから。
 ケルベロス達の強さを信じつつ、シュリは彼らをヘリオンに乗せ、魔竜達が待つ深き樹海の奥地目指して飛び立った――。


参加者
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
知井宮・信乃(特別保線係・e23899)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)

■リプレイ

●目覚めし魔竜
 富士の樹海に潜伏していたドラゴン勢力。ケルベロス達は敵の拠点を襲撃し、指揮官の撃破に至ったが――。
 その結果、多くの魔竜が孵化して目覚め、この地に残る番犬達に復讐すべく、牙を剥く。
「どうやら……危機的な状況になったみたいね」
 眼前に広がる昏き森。羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)はその先に待つ魔竜を警戒しながら、奥の方へと目を凝らす。
 これ以上、大きな脅威にさせてはならない。それを防ぐ為にも力を合わせて乗り越える。
 だから、まんごうちゃんも一緒に頑張ろう、と結衣菜は相棒のシャーマンズゴーストと視線を交わして頷いた。
「……近いな。ドラゴンはこの先にいるぞ」
 ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)が強化ゴーグル型デバイスで魔竜の位置を捕捉して、森の奥深くを指差し、仲間に伝達。
「これから助けに行くよ、みんな待っていて……。魔竜はぜったい逃がさないから!」
 ティーシャの言葉に、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)の気持ちが一層昂る。ドラゴンを仲間の元へは行かせない。待ち受ける強敵との戦いに、イズナは身震いしながら、決意を強く、突き進む。
 生い茂る樹海の奥を目指して駆けるケルベロス達。そこで彼女達は一体の巨大な竜と遭遇するのであった。
「ドラゴンとも長い付き合いになりましたね。いつまでも好き放題させるわけにはいきませんから、これで最後にしましょう」
 圧倒的な威圧感を放つ最強種族を前にしながら、知井宮・信乃(特別保線係・e23899)はもはや見慣れたものだと、微塵も臆することなく太刀を抜く。
『来たなケルベロス共。攻性植物と融合し、生まれ変わった我等の力を見せてやろう!』
 マリュウモドキを糧にリンドヴルムの胎から孵化した魔竜・バルバース。
 炎と氷――緋色と蒼の対照的な対の翼を大きく広げ、威嚇するかのように吼え猛る。
 しかしケルベロス達は一歩も怯まず、戦闘態勢に移行しながら邪悪な竜と対峙する。
「この戦い、ボクが皆様を護るであります!」
 護り手として戦場に立つからには、絶対に誰も倒れさせはしない。
 クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は強固な意思を内に秘め、盾を構えて迎え撃つ。
 ――今頃は、『彼女』も別の魔竜と交戦していることだろう。
 幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)は鳳凰の羽を模した髪飾りに手を触れて、大切に想う人の安否を気にしながらも……互いに成すべき務めを果たすのみ、と今はただ、魔竜を倒すことだけ考え、意識を集中。
「私たちには仲間の絆、人々から託されたデバイスの力があります」
 必ず、再会すると誓いを込めて――纏った紅蓮の闘気が燃え上がり、背中に装着されたジェットパックが煙を上げて噴出し、鳳琴の身体が宙を翔ぶ。
「――いざ、参りますッ」
 そして磨き上げた体術を駆使して、鮮やかな蹴りを魔竜の顔面目掛けて叩き込む。この攻撃が戦闘開始の合図となって、他の仲間も気勢を上げて飛び掛かる。
「目覚めたばかりで悪いけど、ここまでよ」
 獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)もジェットパックで空を飛び、握った剣に力を注ぐ。
 ドラゴンを相手にする以上、恐怖はあるが、ゴングが鳴ってしまえば薄れるものだ、と。秘めた闘争心に火を灯し、急降下しながら加速を増した一撃を、魔竜の首根に振り下ろす。
 ザンッ――と、銀子の筋力を載せた刃が、鎧の如き皮膚を斬り裂き、血が飛沫く。
「ドラゴン……戦争以外でやりあうのは初めてだけど、皆がいるからね。さぁ、お仕事お仕事!! ぜひもなしー!」
 露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)にとっては、これがドラゴンとの初対戦。けれども気負うことなく普段と変わらず戦うのみと、身丈に合わない黒いコートを靡かせながら、星降る剣で描いた星座が光を放って、仲間に加護の力を齎していく。
 攻性植物の力を宿したドラゴンに、ケルベロス達はヘリオンデバイスを用いて挑む。
 敵の野望を打ち砕く為、そして何より仲間の窮地を救う為。八人の乙女達が力を合わせ、生まれ変わった最強種族に立ち向かう――。

●氷炎翼のバルバース
『生命を賭して我等を産んだ母たる竜と、孵化することなく死した同胞達の分までも、我等は大望を成就させる! その手始めに、まずは貴様等から葬ってやろう!』
 全ては種族が生き延びる為。ドラゴン達にとってもこれは譲れぬ戦いなのだと、力を発動させるバルバース。
 滾る怒りを顕わすように、炎の翼が燃え盛り。大きく開いた顎門から、業火の息吹が番犬達を灼き尽くそうと吐き出される。
「そうはさせません」
 直後に信乃が念動力で鎖を操り、地面に魔法陣を展開すると光が溢れ、仲間を呑み込む煉獄の炎を打ち消していく。
「怪我の治療は私に任せて」
 火傷を負った者には結衣菜が心霊治療を施して、エクトプラズムの疑似肉体で怪我を治して火傷の痕を取り除く。
 癒し手二人で戦線を支えている間、残りで火力を集めて早期に魔竜を撃破する。強大な力を得たとはいえ、身体が慣れてくるには時間を要する。敵に付け入る隙があるならそこしかないと、それぞれが覚悟を抱いてこの戦いに臨んでいた。
「聖王女のところに行かせるつもりはない、悪く思うな」
 ティーシャが自身に合わせてカスタマイズしたバスターライフルを構えて、魔力を充填。ゴーグル越しに照準を合わせてトリガーを引き、撃ち放たれた光弾が魔竜の力を中和する。
「狙うなら今のうちであります!」
 まだ全力を出せない状況こそが好機だと、クリームヒルトが魔竜の構造的に脆い部分を、高速演算によって看破する。そして素早く距離を詰めながら、超振動の衝撃波を魔竜の赤い胸部に打ち込んだ。
 更にイズナが胡蝶の如き光の翼を翻し、突撃しながら竜の懐目掛けて潜り込む。
「襲うんだったら滅ぼされるくらい覚悟しててほしいよね。そんな覚悟もないドラゴンは、ここで終わりにしてあげるよ!」
 拳に螺旋を纏わせて、肚に手を触れ、溜めた力を一気に解放。籠めた螺旋の闘気が内部に至り、臓腑を貫き打撃を与える。
『グフォッ!?』
 バルバースの口から漏れる呻き声。その反応に攻撃が効いているのを確信し、ケルベロス達は手を緩めることなく攻勢を掛ける。
「こいつはさっきの炎のお返しよ」
 銀子が全速力で疾走すると、鍛え抜かれた美脚から、炎が生じて熱を帯び。跳躍し、身体を捻り、焼け付くような灼熱の蹴りが魔竜の顎に炸裂する。
「やっぱり戦いは、強い相手じゃなくっちゃね」
 今度は沙羅が反対側からドラゴンを挟み、脚に理力を籠めて蹴り込めば。星のオーラが空に舞い、戦場を華麗に彩りながら、魔竜に新たな手傷を負わせる。
「どれほど相手が強敵でも……怖いものなど、何もありませんっ」
 鳳琴が息を吸い込み、拳の一点に力を集束。練られた闘気が渦を巻き、繰り出す拳の一撃に、大気が揺らいで、喰らった魔竜の巨体がグラリと傾ぐ。
『ぬおッ!? やはり一筋縄ではいかないか!』
 ケルベロス達の波状攻撃に脅威を感じるバルバースだが、それも想定内だと冷静に応戦。自身の身体が思い通りに動かないなら、使いこなせるようになるまで耐え凌ぐ。
 短期決戦を狙う番犬達とは真逆な作戦で、ドラゴンはこの戦いを乗り切る心算だ。

 ――魔竜の頭に生えた角が輝きを増し、バチバチと火花が弾け飛びながら放電する。
 次の瞬間、烈しい雷鳴と共に稲光が奔り、目も眩むような閃光が、ケルベロス達に襲い掛かって降り注ぐ。
「くっ……。フリズスキャールヴ、一緒に皆を護るのです!!」
 クリームヒルトがテレビウムに指示を送って、並んで前に立ち塞がり、絶え間なく降る雷の雨を、身を挺して受け止めてみせる。
「……雷に打たれたくらいで、倒れるつもりはないのであります。――翼よ、治癒の光を纏うのです」
 分厚い重鎧で身を固めても、凄まじいまでの衝撃は完全には防ぎ切れない。
 それでもクリームヒルトは踏み止まって、痺れる身体も厭わず気丈に振る舞い。光の翼の力を使って、まばゆく輝く聖なる光で自身とテレビウムの負傷を瞬時に修復。
「大丈夫、私がしっかり支えるから」
「僕も手伝うよ」
 結衣菜が祈りを捧げるように念じると、木の葉がざわめき風が吹き、沙羅も結衣菜に合わせるように、軽やかな身のこなしで舞い踊る。咲き乱れる花弁を風が運んで巻き上がり、癒しの力を宿した風と花弁が、仲間の身体も心も優しく包む。
「まだ不完全とはいえ、侮れないか。だがこれ以上、好き勝手な真似はさせん」
 本来の力を発揮できなくても、相手は最強種族のドラゴンだ。
 油断は禁物だと再認識しながら、ティーシャが身の丈程のハンマーを、くるりと片手で取り回し、大砲形態に変形させて狙いを定め――号砲一発。
 砲声が轟き響き、爆発音が木霊する。立ち上る黒い煙に紛れるように、イズナがすかさず接近し、手にしたナイフを振り翳す。
「わたしのフロッティで、すべて凍り付かせてあげるよ!」
 稲妻状の刃を傷口に刺し、肉を引き裂き、傷を広げるように掻き抉る。
「それにしてもめちゃくちゃね。炎と氷と雷を、一緒に使ってくるなんて」
 府警で忍者なんていう、自分の経歴も言えたものではないけれど。などと銀子は自嘲しながら薄く笑い、両手に無骨な剣をそれぞれ携え、斬り掛かる。
 右手を大きく振り被り、真一文字に下ろした剣が魔竜の肩に食い込んで。その体制から次は左手の剣を横に薙ぎ、二つの刃が交わりながら、十字の傷を刻み込む。
『……ッ!? グワアアァァッッッ!!』
 銀子の渾身の一撃がよほど堪えたのだろうか。激しく痛がり、苦しみ悶え、悲鳴を上げるバルバース。
「どうやら手応えありのようですね。それならこれはどうでしょう」
 ここは仕掛け時だと、信乃が凍気を練り上げ、突き出す手から氷の螺旋を発射して、苦痛に喘ぐバルバースに追い討ちを掛ける。
 戦況は今のところケルベロス側が優勢だ。このまま畳み掛けることができれば撃破するのも不可能ではない。だがそう思った矢先――バルバースに融合した攻性植物の力が発現し、全身が黄金色の光に包まれ、これまで受けた傷を癒して生命力を再生させる。
「……そう簡単にはいかないようですね。それでもひたすら、攻撃あるのみです!」
 敵の回復力に対抗するには、それを上回るだけのダメージを重ねる以外に方法はない。
 鳳琴は闘志を奮い立たせて念を込め、精神を高めて視えない力をぶつけると、バルバースの腕が膨らみ、大きく爆ぜる。
 ケルベロス達と魔竜の本当の勝負はこれからだ。この死闘の行方は、果たしてどちらに傾くのだろうか――。

●絆の勝利
「……やっぱりドラゴンは強敵ですね。だけど決して勝てない相手じゃない、そして絶対に勝たなくちゃいけません」
 ドラゴンとは幾度も戦ってきて、その強さは嫌と言うほど身に染みている。けれど自分達だって、戦う度に強くなってきた。
 だからこそ――と、信乃は愛刀に手を添え、身構えて。ドラゴンの強さに敬意を示し、刃に霊気を纏わせ、振り抜く鋭い一閃に、鮮やかな朱が虚空に舞う。
「如何に強力な魔竜であろうとも、ボクは必ず仲間を護りきってみせるであります!」
 クリームヒルトも盾役として仲間を庇い、代わりに受けたダメージは、その都度回復しながら気力で耐えて、戦線の維持に努めるのであった。
「――この恵みを以て、あなたを癒やすわ」
 傷付く仲間は、結衣菜が樹海における森と緑の恵みを力に変えて。この地に漂う魔力を両手に集め、魔法の木の葉を手品のようにパッと出し、自然の生命を借りて回復させる。
 ケルベロス達の守りの備えは万全で、ここまで一進一退の攻防ながら、被害を最小限に留めて魔竜と互角以上の勝負を繰り広げている。
 手数を重ねて必死に仕掛ける番犬達だが、これ以上、時間を費やすことは難しく。しかしさしもの魔竜も力を削がれ、消耗している今こそが、最後の好機と判断し。そろそろ纏めて畳み掛けようと、全員総攻撃で一気呵成に攻め立てる。

「これで決めてみせる! 行くぞ、テレサ!」
 ティーシャが異空間から仲間の姿を模した残霊を召喚。『彼女』の円形マスドライバーを自身のアームドフォートに換装し、それをティーシャが勢い付けて投げ飛ばす。
『『切り裂け!! デウスエクリプス!!』』
 投擲された円環は、うねりを上げて旋回し、魔竜の装甲を物ともせずに、肉を抉って斬り刻む。
『グギャアアアァァァッッッ!?』
 叫びと共にバルバースの巨体がよろめいた。態勢を立て直そうとする魔竜の前に、沙羅が立ち、赤錆色の銃を突き付け、問い掛ける。
「――君は今幸せかい?」
 そう囁いたと同時にトリガーを引き、魔竜を包む空間に歪みが生じ、大爆発を起こす。
 幸福は生きとし生ける者全ての義務なのです――魔竜にとっては『死』こそがそれだと。
「――不吉の月。影映すは災い振り撒くもの」
 イズナが天に掲げるは、災いの秘宝。災厄のルーンが刻まれた秘石。
 ルーンの耀きが禍々しい彩を帯びると、世界の帳が落ちて闇の紗幕に覆われて。不吉の月が翳る時、空から零れ堕ちたるは――昏き悪夢と旧き呪い。
 降りかかる災禍を避ける術はなく、魔竜の心と身体を捻じ上げて、精神までも掻き乱し、その魂に呪縛の楔を打ち付ける。
「獅子の力をこの身に宿し……以下略、さあ、ぶっ飛べっ!!」
 魔術と忍びの技術を組み合わせた銀子の秘術――詠唱と共に全身に浮かんだ紋様を、体内に取り込み身体能力を極限まで上昇。彼女の鍛え抜かれた体術が、最大限の力を発揮し爆発的な猛攻撃でバルバースを追い詰めていく。
『おのれェ……魔竜となったこの我が、まさか番犬如きに……負けるというのか!!』
 深手を負い、後がなくなったバルバースは、力に振り回されたまま、力を制御出来ずに終わろうとする。それに対して八人の力を結集させたケルベロス達の連携力が、ドラゴンの個の力を上回り、最後は止めを刺すのみだ――。
「今こそ見せましょう。これが、絆の翼です――!!」
 ここまで繋いでくれた仲間の想いを込めながら、鳳琴が纏う紅蓮の闘気が、空を焦がさんばかりに雄々しく燃える。そして少女と炎が一つになって、龍の形を成していく。
「これで全てを砕きます……私達の、勝ちだっ!!」
 炎の龍に変化した、鳳琴の最大火力の一撃は――鳳凰の如き翼を広げ、悪しき魔竜を灼き砕く。そしてバルバースは地獄の劫火に包まれながら絶命し――血肉も骨も、灰燼と化して跡形残らず消え散った。

 ――斯くしてケルベロス達はドラゴンの野望を見事に阻止し、この激闘に打ち克った。
 戦いを終えた乙女達は皆、勝利の余韻に浸って喜びを共に分かち合う。
 互いに顔を見合わせ、空に向かって拳を突き上げ、勝鬨の声が響き渡った――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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