富士樹海魔竜決戦~灼華の劔

作者:秋月諒

●生誕を祝う
 樹海の奥地——それは、産声を上げる。初まりにあったのは炎であった。赤く、猛々しき炎が一度空を染め、樹母竜リンドヴルムの体を食い破り、爪を立てるようにして這い出れば赤き翼が広がる。長き尾が地を叩き、ひゅん、と振るえば木々が切り倒された。熱は一拍の後に届く。走る炎こそ、炎帝の名を有する証であった。
 魔竜・炎帝エスターテ。美しき炎の竜。
 その生誕を見送った樹母竜リンドヴルムは、ひどく満足げな息をひとつ零し、崩れ落ちる。食い破られた身でその孵化こそ本望だというように。
 樹母竜亡き地に、炎帝エスターテは啼く。頭部に飾る花が王冠のように美しく咲いた。

●炎帝の領域
「皆様、お集まり頂きありがとうございます。急ぎの案件となります」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って、集まったケルベロス達を見た。
「クゥ・ウルク=アン樹海決戦に向かった皆様が、危機に陥っているのです」
 クゥ・ウルク=アンの撃破し、ドラゴンの陰謀を阻止することに成功した。だが、不完全ならがも17体の魔竜が孵化したのだ。
「攻性植物との同化に必要な期間が足りずに、孵化に必要なグラビティ・チェインも不足していた為、孵化には『樹母竜リンドヴルム』のグラビティ・チェインを全て奪い尽くしているようです」
 魔竜は強敵だ。それが17体、あの樹海にいるという。
「急ぎ樹海に向かってください。樹海決戦に参加された皆様の撤退を援護し、孵化した魔竜を倒してください」
 そう言ってレイリは、魔竜が一体の名を告げた。

「皆様に迎撃して頂くのは、炎帝エスターテと言われる魔竜です」
 炎を操る魔竜だ。その鱗は硬く、長い尾の先は刃の如き鋭さを持つ。
「先に言ったように、魔竜は強敵です。——ですが、勝機はあります。勿論、厳しい戦いであるのには違いありませんが——……、道はあります」
 魔竜は孵化したばかりで、充分なグラビティ・チェインを得られていないのだ。
「魔竜の体は、攻性植物と融合していますがその体に魔竜本人がなれていません。戦闘開始直後は動きがぎこちなくなるでしょう」
 勿論、戦いが長引けば魔竜も今の体に慣れ、十全に能力を使いこなしてくるだろう。
「時間勝負です。可能であれば短期決戦に持ち込むべきでしょう」
 容易い相手で無いのは事実だ。だが勝機があるのであれば——使うべきだろう。
「えぇ、全力で一発かましてやりましょう」
 ふ、と不敵に一つ笑ってレイリは集まったケルベロス達を見た。
「ここまで話を聞いてくださり、ありがとうございました」
 目礼と共に、信を込める。短く、『常駐型決戦兵器』ヘリオンデバイス発動のコマンドワードを紡ぎ、レイリは顔を上げた。
「今作戦の目的は、魔竜の撃破、撤退してくるケルベロスの皆様の支援にあります」
 魔竜は強敵だが——勝機はあるのだ。
「皆様であれば成せると信じています」
 無事に戻ってきてくださることも、と信を込めてレイリは告げた。
「では行きましょう。皆様に幸運を!」


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
天乃原・周(不眠の魔法使い・e35675)

■リプレイ

●熱風が告げる
 吐き出した息が、重い。疲労ではなく、空間の熱さが理由であった。
「夏でも恋しいのかね」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)は息をつくと、額の汗を拭った。デバイスのゴーグルは無事に合流を確認していた。
「やはり、周囲一帯の気温が上がっているということでしょうか」
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)は涼やかに告げる。眉を寄せ、スキットルを呷った万を視界に、エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)は視線を上げた。
「確かに、この一帯だけ気温がまるで違います」
「何らかの魔術的結界という訳でもなさそうですし」
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が眉を寄せ、息をついた。
「純粋に熱くしているのでしょうか?」
「魔竜の空間……」
 呟いてリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は顔を上げた。
「その力、でしょうか」
「熱こそが魔竜の力か。住みやすい寝床に変えられているとは……」
 熱された空気を取り込んで肺で慣らし――レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)は視線を上げた。
「随分、勝手をしてくれる」
 銀の瞳がひたり、と一点を見据える。ふいに、生い茂る木々が焼け落ちた。炎の唸る音は無いままに、ただひとつ熱を帯びた羽ばたきが来る。
「灼熱こそ我が郷里。業火こそ我が同胞」
 そこに見えたのは赤き鱗の竜。羽ばたき一つで炎を散らし、吐息は大地を染め上げる。美しき炎の竜――魔竜・炎帝エスターテであった。
「炎帝エスターテ。冬は嫌いでは?」
 熱さを構わず、天乃原・周(不眠の魔法使い・e35675)は視線を上げた。
「キミは、夏を好む竜だ」
「だからこそ、魔竜たる我は炎と熱にて世界を塗り替える」
 僅か、身を浮かせた魔竜の影が戦場に落ちれば風が、止む。
 ――来る、と誰もがそう思った。
「撤退を」
「――あの細い道を下っていってください。そうすれば近道です」
 エリオットに続けて、リコリスはそう言った。一度だけ、視線を撤退する彼らへと向ければ、は、と竜が笑った。
「それを許すとでも?」
 嘲笑と共に炎帝エスターテが身を浮かした。距離を詰める気か。風が唸り、圧を以て竜は飛ぶ――筈であった。
「通すと思うか」
 轟音と共に、竜の道筋に木が倒れ込む。それは、レスターのデバイスで切り倒されたものであった。
「魔竜」
 低く男は告げる。竜への怒り、獣のような衝動を抑え、レスターは視線を向けた。
「邪樹竜に続いて死にに来たか。殊勝な事だ」
 鋒を上げ、低く構え――告げた。
「望み通りにしてやる」
「フハ、その望み、なら立派に叶えてみせることだ。我が灼熱に灰となる前に!」
 我こそは、と魔竜の咆吼が戦場に響き渡った。
「炎帝なり」
 瞬間、咆吼は灼熱の炎となり戦場に届く。

●魔竜・炎帝エスターテ
 叩き付けられる炎が前衛を襲った。熱か、痛みか。くらり、と揺れそうになった体を前に――出す。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
 踏み込みをイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は選んだ。竜の気を引くように名乗りを上げ、一気に前へと飛び出れば魔竜の視線がこちらを向いた。
「挑むか。我が灼熱に!」
「――あぁ。容易く倒されるとは思わないでもらいたい」
 応じたのはエリオットであった。掲げた手から舞い上がった光り輝くオウガ粒子が前衛へと届く。
「回復を」
 それは加護の力を持つ回復。落とす息一つ無いままに視線を上げたレスターも回復を紡ぐ。重ね紡がれた加護は前に立つ者の攻撃力を上げる。体が軽い、と小さく笑ったウィッカは空へと身を飛ばす。
「私の上を取るか」
「空にあるのを竜だけと思わないことです」
 竜の顔に影を落とし、静かにウィッカは告げた。纏うは流星の煌めき。空より落とすこの身は――重力を、帯びる。
「行きます」
 ガウン、と落とした蹴りと共に、ウィッカは身を横に振るう。交わす視線は一瞬に――ただ、溢れる光を見た。
「光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ! 銀天剣・玖の斬!!」
 抜き払った武器を掲げ、イリスは解放の言葉を紡ぐ。全天より光を武器に注ぐ、輝く刀身に、僅か魔竜が息を飲んだ。
「光だと」
「――えぇ、光です。エスターテ、貴方を捕らえます!」
 キィイン、と甲高い音を響かせ、光は鎖のように魔竜に絡みついた。
「でっけェおかわりじゃねェか。精々気張って喰い尽くすかね」
 吼えるように告げた万の影が――走る。波うち、身を起こした影は獣となって竜に牙を立てた。
「この炎帝に逆らうというのか、ケルベロス!」
 ぐらり、と魔竜は身を揺らす。零す血さえひどく熱を帯びていた。この竜が本気を出せば、一帯を焼き尽くし、夏を招く事もできるのだろう。
(「ううん、夏以上に……全てを燃やし尽くす。今の炎帝にはそれができる」)
 ひとつ周は息を吸った。
「……うん、大丈夫。行こう、シラユキ」
 傍らに立ったシャーマンズゴーストに頷いて、周は一度強く拳を握った。服の下、魔術回路が活性化する。走る痛みに引きずられないように顔を上げ――告げた。
「出でよ、ベールフェゴル! その怠惰を分け与え給え!」
 それは召喚魔法。古代の神、ベールフェゴルの幻影を大地に呼び起こすもの。
「ハ、召喚物が我を……」
 竜の言葉が途切れる。そう、ベールフェゴルの幻影を『見た』のだ。怠惰にとりつかれた竜の動きが一拍、鈍る。
「な――」
 竜の苛立ちめいた炎に、迷わずレフィナードは地を蹴った。緩く握った拳と共にパイルバンカーの螺旋力を解放する。ギュイン、とジェット噴射と共に踏み込んだ先――だが、敵の姿が、消える。
「回避しましたか」
 翼で空間を叩くように魔竜は後ろに回避を取る。空を切った一撃に、レフィナードは魔竜の動きを再確認していた。魔竜の体は、攻性植物と融合している。だが、まだその状態には慣れていない筈だ。
「ですが、これとは。簡単に攻撃を届かせてはくれませんか」
「ハ、我は炎帝。どうだ、跪き乞うて見るか?」
「遠慮しておきましょう」
 言の葉こそ穏やかに、だがレフィナードは魔竜の嘲笑に冷えた瞳を返した。一撃、躱されたとて、まだ足りないと分かっただけのこと。ならば届かせる。届くまで走り続けるだけのことだ。
「――歌を、届けましょう」
 静かにリコリスは告げる。失われた愛しい思いを歌い上げるように、前に立つ仲間へと回復と加護を紡いだ。
(「立て続けの戦いとなりますが……まだ、私は戦えます。魔竜の復活は阻止出来ませんでしたが、せめて、此処で打ち倒さなくては」)
 その方法があるのであれば、この手が、声が届くのであれば。
「貴方にも……」
 誰もが、覚悟と共にこの戦場に立っていた。

●灼華の誘い
 血と炎を纏い、戦闘は激化していた。大地を焼く炎と鋭い尾は着実にケルベロス達にダメージを刻んでいた。――最も、傷を受けているのは炎帝も同じだ。
「さぁ、炎帝の炎にいつまで耐える? いつ灰となる!」
「灰、か」
 後衛へと向かった一撃を庇い受け、レスターの吐き出した息は血に濡れていた。荒く拭った男は視線を上げる。
「回復を」
「皆様に光の癒しを……」
 エリオットとリコリスが回復を告げる。
 魔竜の攻撃は相変わらず重い。
 ――だが、重くとも耐えきれていた。蹂躙ではない、戦えている。
(「2年前には歯が立たなかった魔竜という存在も、今ならば殺せる」)
 奮い立つ闘志が、レスターの右腕の銀炎を滾らせる。ゆるり持ち上げた手で撃鉄を引いた。
「落とす」
 レスターが銃口を向けた瞬間、一撃は届いていた。庇うために持ち上げられた翼は届かない。――そう、奴の動きは速くとも、捕らえられる一撃は確かにある。
「行きます!」
 強敵と相手を理解しているからこそ、イリスも一層気合いが入っていた。タン、と軽やかな踏み込みで一気に間合い深くを狙う。竜の尾を飛び越えれば竜の懐だ。
「さぁ、目の前ですよ。紅雪さん」
 刀の紅雪にそう声をかけ、一撃を叩き込んだ。紫黒の妖気を纏う刃が竜の鱗を砕き、沈む。一撃に魔竜が巨体を揺らした。
「貴様」
 低く、唸るように告げた竜の吐息が瞬間、熱を帯びる。
「焼き尽くせ灼華よ!」
「――」
 強引に、イリスは身を振るう。回避をひとつ派手に取ったのは降り注ぐ劔が狙ったのが前衛だけと分かったからだ。
「は、貰うぜ?」
「えぇ」
 どうぞ、と微笑み告げた娘は、痛みと熱の中、それでも膝だけは付かない。それは、ウィッカも同じであった。
「ゲートを破壊したというのに、未だにドラゴンの脅威は残っていますか……」
 踏み込んだ万の蹴りが竜に沈む。合わせて行ったレフィナードの一刀が届く。
「届かせてもらいますよ」
 煽るような言葉をひとつ選んだのは、盾役の身を理解しているからだ。
「いつまでそれで防げると?」
 戦場に熱を零しながら炎帝は嘲笑う。強者の余裕と告げられた言葉にレフィナードは視線を上げた。
「果たせないと思いますか」
「倒れると思うか」
 ハ、とレスターが薄く笑う。攻撃手を庇い、一度姿を消したシラユキを見送った周が視線を上げる。
「キミを、倒す為に来たんだ」
 払う指先から周が虚無球体を放つ。展開された力は、逃す事無く竜へと届く。
(「まだ、流れは完全にこっちには来てはいない」)
 戦況を見据えながらエリオットは回復を選ぶ命中率を上げる回復術式は準備してきて正解だった。随時、皆で回復し、敵に砕かれようとも加護を紡ぎ直す。盾役のダメージも随分と蓄積してきていたが――時間がかけられないのも事実だ。
「如何に魔竜といえど、こちらにはヘリオンデバイスもあります。必ずここで倒しましょう!」
 氷結輪を解き放ち、ウィッカは戦場に冷気を呼ぶ。炎帝の零す熱が支配していた空間に氷結の風が生まれ――やがて竜の鱗がバキ、と凍てついた。
「届きましたよ。炎帝」
「貴様……」
 それは、この戦いで初めて見た変化であった。バキバキと炎帝の鱗が凍り付き、巨体に深い傷が走る。ハ、と炎混じりの血が零れ落ちる中、ぐらり、と魔竜・炎帝エスターテは身を揺らし、嗤った。
「フハ! これこそ戦場。我が灼熱を振るうに相応しき地、我が焼き尽くすに相応しき大地よ!」
 竜の咆吼に炎が混じる。その中に、リコリスは一つの気配を感じ取る。
「これは、攻性植物の力……。ですが、完全な覚醒には……」
 まだ、時がかかる。
 戦いの中で、体に使い方を馴染ませて来たのだろう。完全覚醒にはまだ時間はあるが、時間はもうかけられない。
「燃え盛る炎も、その身に流れる時も、全て凍てつかせましょう……」
 凍結の銃弾をリコリスが放つ。グン、と身を起こした炎帝が牙を見せた。
「戦場を思い出したぞ」
 ゴォオ、と空間が熱を帯び、ヒュン、と長い尾が、来る。狙いは、エリオットか。――だが。
「――あと一つ、これが弱点だからでしょう」
 そこに影がひとつ、割り込んだ。

●平定に至るには
「レフィナードさん!」
「――」
 竜の尾が、刃の如き鋭さでレフィナードを貫いていた。返す言葉が血に濡れる。歪む視界で、回復を告げたエリオットに首を振った。自分の事はよく分かっている。
「今は、炎帝を。……あれが、弱点だからこそ饒舌に語り、力の覚醒に近づいて……」
 それは盾役として攻撃を多く受けてきたから悟った道筋。精度に悩んだ攻撃も敏捷であれば届いた。
「――分かった」
 短く、届いた万の言葉を耳にレフィナードは倒れる。戦闘不能となった彼を庇うように、エリオットは前に立ち、苛立つように炎を吐く炎帝を万は見据えた。
「喰い尽くすか」
 ダン、と足で地を叩く。影の獣が咆吼無く竜へと喰らいつく。
「二度もこの炎帝に牙を立てるなど……っ」
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
 炎帝が身を捩る。だがその程度では、万の影の獣は止まらない。
「悲劇は、起こさせません」
 リコリスは手を、伸ばす。白い小鳥と共に。
「此処で、終幕と致しましょう」
 羽ばたきを見送り、魔力を重ねて共に行く。白い小鳥の零す光が竜へと届けば、刻まれた氷が、炎が、竜の体に広がっていく。
「れは、こんな、このようなもので我を捕らえると……!?」
 荒ぶる炎が戦場を加速させていた。零れ落ちた血が地面を濡らす。誰一人、立ち止まる気も無かった。
「後、少しです」
 エリオットはそう告げた。
(「ドラゴン勢力……ゲートを破壊してなおその勢いは止まることなく、今また新たな魔竜を生み出そうとしている……」)
 奴らは主力であるドラゴンはもとより、配下のオークやドラグナーもが多くの人々に不幸をもたらし、恐怖と絶望を啜ってきた。
 許すものか。斃れるものか。死なせるものか。
「僕は、これ以上の人々の犠牲を、許さない」
 だからこそ選んだのは、聖剣を掲げること。平和への祈りと人々を守護する意思を込めて、一撃を――放つ。
「天空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!!」
 それは闇を切り裂く光芒。
 一撃に、炎帝は身を揺らす。広げた翼で身を支えるようにした、その影へとイリスは踏み込む。
「今日はご馳走です、沢山食べていって下さい!」
 紅雪にそう、告げる。流れるような抜刀と共にイリスが見たのは五芒星を描くウィッカの姿だ。
「藍の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者に避ける術無し」
 魔剣に指を滑らせ、放つは呪いの刻印。竜の懐にて放ったのは――魔剣が刻印を貫く因果の為。魔剣と妖刀が炎帝へ届く。熱を帯びた鱗を裂き、ぐらり、と竜は揺れた。
「ケルベロス、貴様等……!」
 咆吼が炎を喚んだ。焼き尽くすように放たれた炎の吐息へとレスターは踏み込む。
「この身を灼く憎悪に比べれば、お前の炎など恐れるに足りん」
 周の前、立った男は薄く嗤う。
「還せ」
 追いすがる右の腕より、滔々と溢る銀の蛍火。捕らえ離さずにしろがねの燐火は竜を――大地に捕らえる。
「な――」
「炎帝エスターテ」
 翼は空を捕らえず。炎は大地を焼けども――構わずに周は行った。首元から浅く見える刻印が青白く光り輝く。
(「冷静に、どんなときも冷静に対処するって教わった」)
 よく観察して、踏み込む場所はこのナイフを向ける先は――見えている。
「キミはこれで終わりだよ」
「貴様……!」
 炎帝が大口を開ける。炎が滾り――だが、その熱が力となるより早く、周の一撃が届く。ナイフは氷結を喚び、バキバキ、と炎帝の体が凍り付く。
「この炎帝を倒す、だと。貴様等、我が、炎を……!」
 バキン、と最後、冷気が走る。最後の咆吼は僅かに熱を帯びて空に――消えた。

 魔竜・炎帝エスターテは光となって消えた。いずれ、倒れたレフィナードも目を覚ますだろう。
「大丈夫! 無事に帰ろう!」
 周はそう言って、笑みを見せた。あぁ、と誰もが頷き、デバイスを展開しながら富士の樹海を駆け抜ける。魔竜との戦い、勝利の報を届ける為に。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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