最強魔竜軍団結成の野望は潰えた。
だが、『樹母竜リンドヴルム』の嘶きには、苦痛とともに歓喜の響きが混じっている。
マリュウモドキが得ていたグラビティ・チェインを使えれば、樹海決戦より撤退するケルベロスを追う刺客たちを、孵化させられる。
たとえ、内より胎を裂かれようとも。
己が身を食い尽くされようとも。
いくつもの爪や牙が、樹母竜から突きだしてくる。
獣の顔が、眩い炎のごとき鶏冠を戴いて外界を覗いた。
喉まで牙を持った兄弟には、鉱石の煌めきが連なっている。
粘液まみれの毛皮に包まれし者が、大地に滑り落ちる。
こうして、生まれ直された魔竜、総勢17体。
「まとまり行けば、全滅の危険もある。ここは散り、各々でこの場を切り抜けるのだ」
黒鱗が言った。
咆哮を返すものがいる。
彼の言葉を待たずに飛び立ったものもいる。
粘液の毛皮、魔竜ニフカルマ・グリードは、遅れて身体を起こした。
するとその胸部は、人間の女性に似ているとわかる。
やはり、粘液まみれで、首すじに巻き付いた蔦と花弁から垂れてくるらしい。
蔦は頭部の角の、羊のように曲がった先まで登っている。
「アタシは仇の息の根を止める。抱きつくして。それから聖王女の元へ行く。グギャオオ」
宣言とともに、七彩の炎を吐いた。
軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、待機していたケルベロスに作戦の依頼をする。
「クゥ・ウルク=アン樹海決戦に向かったケルベロスたちが、危ないことになってんのよぉ。そのみんなは、クゥ・ウルク=アンの撃破に成功して、ドラゴンの陰謀を阻止してくれたんだけどぉ。不完全ながらも孵化した17体の魔竜によって、蹂躙されようとしてる。急いで、急いで!」
樹海に向かい、作戦後のケルベロスたちの撤退を援護し、孵化した17体の魔竜を撃破する。
それが、依頼内容だった。
「もちろん、魔竜は強敵よ。でも、孵化したばかりで、充分なグラビティ・チェインを得ていないから、勝機はある。魔竜の体は、攻性植物と融合したんだけど、その体に魔竜本人が慣れていないため、戦闘開始直後は、動きがぎこちなくなるみたいなの。戦いが長引けば、今の体に慣れて十全に能力を使いこなしてくるので、できれば短期決戦に持ち込んでほしいな」
冬美によれば、粘液の毛皮を持つ、魔竜ニフカルマ・グリードは、3種の攻撃を備えている。
「四本ある尻尾も、粘液にまみれた毛皮に覆われていて、この尻尾で叩かれると防具を溶かされる。ツメに捉えられ、人間の女性のものに似た胸部に押しつけられれば、脱出は困難。口からは、七彩の炎を吐くよ。浴びれば、催眠に陥っちゃう」
もし、ケルベロスが敗北・撤退することがあれば、この魔竜は聖王女に合流してしまう。
「さあ、ユグドラシル残党の魔竜勢力を壊滅させるチャンスだよ。レッツゴー! ケルベロス!」
参加者 | |
---|---|
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
除・神月(猛拳・e16846) |
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
小柳・瑠奈(暴龍・e31095) |
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320) |
九門・暦(潜む魔女・e86589) |
●樹海の魔竜
ねじくれた樹々のあいだを縫うようにして跳んでいると、倒木が増えてきた。
茂みに顎をのせて魔竜ニフカルマ・グリードがへたばっている。
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)は、ドラゴンの頭部を認めたところで、『憐れみの賛歌(キリエ・エレイソン)』を歌う。
報復には許しを。
タイヤを載せた枝をしならせて、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が、ライドキャリバーで飛びかかる。
バイカーとアーミーの中間のような黒い革ジャケット。右手をハンドルから離すと、折りたたまれていたパイルバンカーが凍気とともに起動する。
先端を、ドラゴンのこめかみに届かせた。
裏切りには信頼を。
ニフカルマは、首をもたげた。角に這う蔦から粘液が散る。
大柄な女性が、女のカラダそのままに、片角に旋刃脚を当てた。除・神月(猛拳・e16846)は、粘液に対処して服を着てこなかったのである。
角への衝撃が、ジンと全身に行き渡ったかのように、魔竜は巨体を痺れさせる。
絶望には希望を。
首筋の蔦は、まだ成長の途中に見えた。ミニスカ巫女服が、倒れ掛けの樹木を駆け上がる。
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)は、竜の首の高さに達すると、卓越した技量でもって鈍器と刃物を操り、蔦からの粘液を凍らせる。
闇のものには光を。
攻性植物の融合を使いこなさぬうちに、倒す。エクスカリバールを振りかざし、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は、竜の眉間に着地した。
霜のはりはじめた蔦を剥がすように、武器の先端の曲がったところを突き立てる。
許しは此処に。
引き起こされた蔦の束に、横方向へと雷が落ちた。小柳・瑠奈(暴龍・e31095)が通り過ぎたのである。
ほとんどが網タイツのような、ニンジャスーツ。高速で飛び交い、蔦を刻んでいく。それは、より大きな打撃を与えるための布石とも言えた。
受肉した私が誓う。
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)の『恩寵の信蝕(エローディング・グレイス)』は、壮絶な技だ。右手で左手をもぎ取ると、ワイルドスペースに変わった。
痛みはあるが、信仰心ゆえ耐えられるのだと語ったことがある。
大木のてっぺんから投げつけられた左手は、蔦の切れ目をくぐって、魔竜ニフカルマ・グリードの体内へと入り込む。植物の融合に、侵食で対抗させるのだ。
この魂に憐れみを。
倒木の方向が一定なことから、樹海から離れようと竜翼を使い、墜落したらしい。
戦場を見渡せる高さへと、九門・暦(潜む魔女・e86589)も陣取り、眼鏡の奥の美しい瞳を凝らした。
冬用セーラー服がなびく。
スカートからは、二本の足がすらりと伸びている。大蛇の下半身でなしに。
メリュジーヌハープをつまびいた。『碧落の冒険家』がもっと。もっと力を、ケルベロスへと。
真理の乗ったライドキャリバー、プライド・ワンが、彼女ごとデットヒートドライブの体当たりをかました。しかし、魔竜はいよいよ身を起こすと、乳房のついた胴体をみせる。
「痛かった。アンタらにやられたんじゃなくて、尻もちついたのが。……グギャオオ!」
急に喋りだしたかと思うと、また出し抜けに炎を吐く。
8人は散開したが、首を巡らし、追ってくる。
赤から青へと変化する、七彩を帯びた炎であった。
●七彩の炎
仲間たちのほとんどに、催眠ブレスの色が取り憑いていた。
暦の瞳が、キョロつく。
「す、速やかにエナジープロテクションを……」
単独使用を、ふたりのジャマー役のどちらから先にかけるか、迷った。ミスラもふわりも強力な使い手だと、さきほどの戦闘の様子が頭に浮かぶ。
あれがもし、敵にまわられたら。
昴の左手はすぐに再生したが、やはり七彩にまとわりつかれている。
「かの愚者の野望を打ち砕き……」
叫びをあげようとしたとき、瑠奈のマインドウィスパー・デバイスを介して、泰孝の声が全員に響いた。
「なあに、慌てるこたあないぜ。催眠の解除に手をかけてっと、打撃力が鈍っちまう」
続けて、真理の声が伝える。
「そうです。ミスラさんの、『憐れみの賛歌』が効いてますから、攻撃しながらでも治せるのですよ」
それに、と神月。
「もし、ニフカルマの奴にヨ、面倒なエンチャントしちまってモ、真理のドリルパニッシャーだっテ、あたしのハウリングフィストだってあんだかラ、剥がしてやりゃいーんじやネ?」
「て、コトで仔猫ちゃんは……」
瑠奈は、暦を落ち着かせ、引き続きメディックとして、全体への攻撃力強化をお願いした。
もっとも、瑠奈とて一大事だと、間髪入れずにフローレスフラワーズを撒こうとしたのだが、キャスターとしての情報共有にも気を使っていたおかげで、冷静になれた。
「まあ、緊張しすぎるのも、良くないしね。いつも通りいこう」
魔竜を挟んで離れた位置にいるケルベロスが、短い時間のうちに意思疎通できる。デバイス様々であった。
悪鬼羅刹紋を浮かばせたミスラが攻撃に出たあと、泰孝の七彩が光量を増す。
エクスカリバールが意に反し、裸体の神月に振り下ろされた。
「すまねえ!」
「ドンマイだロ?」
実際には真理の背中、戦闘革ジャケットに庇われている。
暦が、約束どおりに奏でたハープで、泰孝へのブレスの効果は無くなった。
上着の裂け目も気にせず、真理はアクセルを吹かせる。彼女に取り憑いた炎も掻き消え、代わってプライド・ワンからのヒートと、車体から伸ばした片足に、グラインドファイア。
「報復には許しを、ですか?」
ニフカルマの乳房の下を横切って、焼く。
そして、黄金の裸体が正面から特攻してきた。
「あたしはあたしの仏恥義理を貫いてやんヨ!」
神月の拳は、やわらかく沈みこむ。
「あだだ! アタシのおっぱいを! おっぱいはダメでしょ!」
ニフカルマ・グリードはしかし、悶絶しつつも、翼を大きく開いた。
今度はちゃんと羽ばたけるようだ。ふわりは、警告を発する。
「動きが良くなってきてるなの? 皆、危ないなの!」
重いドラゴニックハンマーをアッパー気味に振り上げ、アイスエイジインパクトで追いすがった。瑠奈のケルベロスチェインも、広がって巨体を捉えようとする。
昴はスターゲイザー、飛び蹴りの際の上昇でもって、魔竜の鼻先を抑える。
「『攻性植物の聖王女』……。そんな紛い物との合流など、果たさせるつもりはありません!」
だが、四本の尻尾が浮き、昴をさらに飛びこそうとする。ゴーグル型のデバイスに、連動の表示が灯った。
「飛べるようになっても、前から相変わらず、不細工なドラゴンだなぁ。抱かれたいとは思えないね」
泰孝の挑発が聞こえた。
「そーかナ。あたしは、もっと手合わせしてーゼ。なァ?」
神月も声をかける。ふたりのジェットパック・デバイスが、牽引ビームの出力を高めて、ケルベロス全員を樹海から引き上げていた。
魔竜は、うめく。
「やっぱり……。アンタらを抱きつくして、息の根を止めなければ、聖王女のもとへは行けない」
●粘液まみれの毛皮
飛行状態となり、尻尾も自由となったニフカルマは、べっとりとした毛皮で、ケルベロスたちを包むような攻撃をしかけてきた。
暦のセーラー服は、襟が半分取れてしまい、スカートは下着ごと、溶けてしまう。
「蛇だからはずかしくないです!」
本来の姿であるアオダイショウの下半身に変身する。
瑠奈の指示に、昴の聖讃呪法衣は助かったが、ニンジャスーツは布部分が無くなって、全身網タイツな様相を呈していた。
その一方で、ミニスカ巫女服は、細切れになったものもの、その細い布地がかろうじて、ふわりの要所を隠している。
革ジャケットの背中から、下着のフィルムスーツを覗かせていた真理も、残すところ、シートに乗せたお尻部分といったところだ。
上半身裸に剥かれた泰孝は、細マッチョな肉体を隠しこそしないが、ボヤく。
「やれやれ、後でカヤにゃ弁明しねーとな」
女性が次々と剥かれていっているのを、気にしていた。
もちろん、近接からの攻撃はそれなりにダメージも大きく、防御力を下げられ続ければ、被害も増していく。
懸念事項に変わりはない。
ミスラは七彩も手伝って、神月に踊りかかっていた。上着の脱げた中は、いつもの装備だと、神月は承知している。
すなわち、着衣プレイ用のTバックハイレグレオタード。股布中央に振動機械を挿入して固定しており、刺激で快楽を与え続ける衣装だ。
地球人の彼女が、なぜとも思うが、祈りに必要なのかもしれない。
「あんっ、アソコが疼いて……! 神月さん、一緒に」
絡みあい、互いに密着させ、グチュグチュと擦り合わせる。
「アタシが、抱いてやるのに。じゃあ、アンタだ」
半裸のふわりは、ニフカルマの爪に捕まってしまう。
「ふわりもねー、振動するの、持ってるのー♪」
粘液だらけの身体で、電動式きのこ型マッサージ機器、まあ玩具なのだが、片乳の大きな頂点に押し当てた。
「くう、仇敵の手ほどきにのるほど軽い女では……!」
「自分だけが相手を好きにできると思っていたです?」
反対の乳に、一輪のエンジンは吹かしたまま、真理がマシンから乗り出し、しがみついている。
タイヤが粘液を掻き出して、真理もずぶ濡れだが、責めにブレーキはかけない。キャリバースピンの合わせ技だ。
「アンタら、アタシの胸は、おひとり用なんだよお」
爪をかき寄せると、真理とふわりは滑って避けた。
「ちいっ……。ンン?」
歯噛みするニフカルマは、自ら抱いた右胸に違和感を覚える。
●樹海に散りし
「私が竜化したら、キミよりはモテると思うよ? その貧相な体型ではね」
瑠奈のニンジャスーツは、ズタボロになり、網目を破ってこぼれ出た乳房は、体格が同じであったなら、ニフカルマのものよりボリュームがあって、形も良かった。
「抱き尽くす。死ね」
魔竜の声には、本気の嫉妬が滲んでいた。もはや、ヒールグラビティが追いつかないところまできていたケルベロスのなかで、瑠奈は囮役を買ってでたのだった。
そうとも知らず、まんまと一人だけを狙って、自慢の胸に埋める。
だらりと下がった腕からケルベロスチェインが離れて、樹海の緑へと堕ちていった。
マインドウィスパーに最後の交信が入る。
共に定めたこと。
魔竜の変化が著しいか、サーヴァントを除いて4人が戦闘不能なら、撤退。
「まだ、戦える……よ」
巨大な胸元は再び開いて、犠牲者が抜け落ちる。レスキュードローンで回収するものの、続くブレスに、暦もその機体にがっくりと身体を預けた。
アオダイショウの下半身がはみ出している。
「ふわりも、まだまだ頑張るのー!」
竜の首筋にとりつくと、粘液に巫女服の残った一片が溶けた。
足袋だけの姿で、惨殺ナイフを走らせる。数々の損害が、その切り口につながって、毒に氷に、炎が吹き出す。
「ほんと、やれやれだ」
泰孝の脳裏に、同居人のシャドウエルフの笑顔が浮かんだ。あられもない姿で戦う仲間たちに囲まれていたことを、どうやって伝えたらいいのか。
「盟神探湯(くかたち)嬢ちゃん、手伝うぜ」
足袋だけの巫女に細マッチョを寄せて、撲殺釘打法をナイフに添わせる。
「グギ、グギャア」
粘液を振り乱し、毛皮の尻尾が、昴を叩く。
飛び込んできたライドキャリバーが、庇って車体で受け止めた。カウルパーツが吹き飛ぶ。
危険を知らせるシグナルは、真理にむけ、あえて青く光っていた。
「プライド・ワン……、待っていて欲しいです」
空中戦には、騎乗していないと連れてこられない。真理は、戦闘不能となった相棒を、濃い茂みに横たわらせる。
昴は、祈った。
「魔竜よ。どうとも思ってはいませんでしたが、『紛い物』を崇める愚者も、許してはおけません」
ニフカルマの体内に送り込んだワイルドスペースを、返らせる。
右の乳房から、昴の左手が突き破って出てきた。
ブレスを、デタラメに吐いて苦しむ、魔竜。
「あうう、神月さん……、一緒に……!」
ミスラは、まだ唇に吸いついていた。
「裏切りには信頼ヲ」
始終、全裸を通した神月の、両腕が黒く変化する。パンダの獣撃拳。
「わリーナ、トドメはもらっちまうコトになるゼ」
片手だけふって泰孝は、もう片方の腕にふわりを抱いて、竜の首筋から飛び退く。
神月も、左手にミスラをかかえた状態になり、右の拳で敵の胸を狙った。
融合と侵食がせめぎ合う不安定な部分に、ふたりで突っ込む。
負傷者をあの、墜落してできた樹海の空き地に降ろすと、真理は見上げた。
「聖……お」
魔竜ニフカルマ・グリードの肉体は、四本尻尾の又部分までを神月に貫かれて、バラバラに弾けとんだ。
粘液が、樹木にぴちゃぴちゃと降りかかる。
ケルベロスたちは、お構いなしに、救護へと寄り集まった。
作者:大丁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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