●竜と樹の再誕祭
富士の山の裾野に広がる樹海、その奥深く。
ケルベロスとの決戦に戦い敗れた邪樹竜クゥ・ウルク=アンが放った最期の一矢。
それは樹海中の魔竜擬きが塵と化すまでグラビティ・チェインを掻き集めて孵化を促し、魔竜軍団復活の贄と為す事であった。
荒れ狂う波濤の如く押し寄せた『力』をその一身に浴びる事となった樹母竜リンドヴルムの咆哮は、痛苦を凌駕する歓喜が故。
樹母竜という揺籃を内側から猛々しく喰い破り、富嶽望むこの森へと産み落とされたのは実に17体にも及ぶドラゴン……再び転生を果たした『魔竜』達である。
胎に抱えた卵の殆どは孵らぬまま潰えたが、それでも遣り遂げたという満足感に包まれて笑みのままにその全身を引き裂かれながら樹母竜は静かに消滅してゆく。
ドラゴンとしての本能が疼く――血族の胎として本懐果たした『母』に報いよと。
攻性植物としての本能が囁く――これより先、魔竜としてこの力揮うべき場所を。
……ハイドラもまた新たなる『魔竜』としての再誕果たしたドラゴンであった。
紅き三つ首のそれぞれが産声の如き咆哮を激しく響かせた後、ゆっくりと巡らされた三対の金眸が映した物は『母』を共にしユグドラシルに育まれた他の魔竜達。
そして、遠きに隔たる小さき『狗』共の群れ。
ざざりと緑樹の角揺らし、大きく踏み出された前脚の挙動はまだ何処か拙く。
しかし何かに衝き動かされるかの様に決して止まることのないその歩みは周囲の森を蹂躙し尽くし地獄の『狗』へと迫る――。
●魔竜転生
「私達が今すぐ富士樹海へとお連れ致しますので、急ぎ、準備願います……!」
挨拶を交わす暇もない緊急呼集。
ヘリポートにケルベロスを迎え入れたネイ・クレプシドラ(琅刻のヘリオライダー・en0316)の白皙からはすっかりと血の気が引いて蒼ざめている。
ふぅと深呼吸の後、タイタニアの少女は『クゥ・ウルク=アン樹海決戦』へ向かったケルベロス達に危機が迫っているのだと告げた。
「決戦に勝利した皆さんの手によって『邪樹竜』は確かに撃破され、彼らの企みも阻止されたのですが……樹海のドラゴン残党は、多くのマリュウモドキのみならず『樹母竜』さえも犠牲にする事で不完全ながら何体もの魔竜を孵化させたのです……」
今すぐ救援にと駆けつけて樹海決戦を戦い抜いたケルベロスらの撤退を支援し、孵化した魔竜達を討って欲しいのですとネイは頭を下げるのだった。
「皆さんには17体の魔竜のうちの1体、『魔竜・ハイドラ』の討伐をお願い致します。禍々しき紅鱗の三首龍は攻性植物としての力をも手にした恐るべきドラゴンとして甦りましたが……現在のところはそれこそが最大の泣き所でもあるようです」
巨躯の一部が植物化したハイドラが操る猛毒の数々はどれも強力ではあるが、生まれ直したハイドラはまだその肉体に不慣れである為に、戦闘開始直後しばらくは攻守ともにぎこちないものとなる事が予知されたという。
不完全であってもなお強大である魔竜を相手に短期決戦は難しいだろうが……もし戦いが長引けばハイドラは今の肉体を十全に使いこなし、新たな竜語魔法すら編み出して攻性植物の力を自在に揮い始めることだろう。
「ハイドラ自身もその点は熟知しているようで防御を固めた上での迎撃を行ってくるようです。おそらくは厳しい戦いとなるでしょう……けれど、皆さんでしたら必ずや魔竜も倒せると信じております」
居並ぶケルベロス達の頼もしき姿にようやく淡い微笑みの表情を覗かせたヘリオライダーの少女の手に握られているのはグラディウスをベースとするヘリオン改造装置。
ヘリオンデバイスを実体化させるコマンドワードの叫びは現地高空からとなるだろう。
『常駐型決戦兵器』の呼び名そのままに――決戦都市・東京の力は、常に地球を守る為に闘うケルベロスと共に在る。
「それでは、参りましょう。先の樹海決戦に見事勝利した皆さんと凱旋する為に。そして、悪しき魔竜の血脈を今度こそ討ち滅ぼす為に……!」
飛び立つ羽は、一路、富士樹海へ。
参加者 | |
---|---|
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695) |
小車・ひさぎ(トワイライトエトランゼ・e05366) |
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313) |
霧崎・天音(星の導きを・e18738) |
ティユ・キューブ(虹星・e21021) |
ヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558) |
ルティア・ノート(剣幻・e28501) |
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228) |
●魔竜再顕
邪樹竜との死闘に勝利した後に樹海全体を襲った異変。
仲間とも散り散りなまま撤退を続けていたシル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)だったが、自らの肉体が完全に復調しつつある感触を得、ようやく後ろを振り返る。
そこには富士の地をあるいは空を、我が物で跋扈する魔竜達の威容。
されど蒼き風の如き少女は怯まない。シルがシルであるかぎり。
「まさか、こんな置き土産してくれるなんてね。でも、目覚めてすぐなら……」
選んだのは過酷な連戦。
同じく、邪樹竜の戦場から退却中だったルティア・ノート(剣幻・e28501)や霧崎・天音(星の導きを・e18738)らとの合流が果たされる。
「魔竜が沢山ですね」
「必死で逃げてきたけど……。くっ……魔竜……」
かつて熊本市街へ解き放たれた軍勢による蹂躙の光景が――それを目の当たりにしながら守り切れなかったという悔恨が、再び天音の胸の奥底を揺さぶって止まない。
「――魔竜!」
ドラグナーを撃破してのモドキ掃討中、小車・ひさぎ(トワイライトエトランゼ・e05366)は全消失現象を目撃する事となった。
その直後、撤退を訴える他部隊からの通信が伝えた聞き捨てならない一語に激昂した彼女が選んだのは、無謀ともいえる前進。
途中ひさぎが遭遇した夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)も別ルートから進攻しドラグナー戦に勝利した一人。
そして、生還を強く望むが故にこそ踏み留まっての迎撃を決意したケルベロスであった。
「さあ、富士滅竜戦だよ!」
上空では既に救援へ駆けつけたケルベロス達による高高度降下が続々と始まっていた。
「このタイミングでまた魔竜とはね」
真珠色の小さなドラゴンをぎゅっと抱え、ティユ・キューブ(虹星・e21021)は富士の空へと身を躍らせる。真っ直ぐに止まらぬ、宙色の双眸が向かう先は魔竜の待つ死線。
「よもや今になってこれ程の魔竜と戦う事になるとは……ドラゴン恐るべしという事か」
いずれ劣らぬ十七の禍々しきもの共を眼下に、奮うように赤き竜翼を広げたヴァルカン・ソル(緋陽の防人・e22558)はその逞しき全身で吹きつける風を受ける。
聖銀の騎士鎧に纏う渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)もまた。
押し寄せるすべての風を圧し、天を駆け――魔へと吼える。
「樹母竜リンドヴルムが残した最後の災い、芽吹く前に俺達地獄の番犬が全て刈り取る!」
そして――ヘリオライトよ、光を、と……。
赴き集う戦士達に『力』注ぐ祈りが、高高度に飛翔するヘリオンから今届けられる。
●不尽の番犬たち
聳える巨影は三つ首のドラゴン――魔竜・ハイドラ。
長大な三つの喉首全てが急速に灼熱を帯びたかと思うや、紅き息吹がケルベロス達に降り注ぐ。
弱体化の状態にあるとは到底思えぬ威力を備えた熱毒のブレスの一撃は、しかし、2名と1匹の盾たる守り手達によって最小限の被害で食い止められた。
「ふむ、これがヘリオンデバイスか……鋼の腕とは。うむ……うむ、悪くない」
ヴァルカンにとってはアームドアーム・デバイスを装着しての初陣。翳した鋼の巨大腕は戦闘開始早々に紅毒に漬かったが湧き上がるこの力あれば何のそのと昂揚する己を竜派ドラゴニアンの男は戦士として抑えきれぬ様子であった。
眼力が伝えた不利をも厭わず振りぬかれた反撃の拳は惜しくも躱されたが、強く立ち昇る炎の残り香は自他の戦意を大いに奮わせた。
一方、サーヴァントである故に最大HPの大幅上昇という恩恵とは無縁、にもかかわらずぺルルはその小さな泡の翼で共に抗ってくれていた。
負けてはいられないとティユはその勇敢を讃え、そして浮かべた笑み。
「不完全な孵化とはいえこの強大さか。ただ、このタイミングでそれを切ったという事は、向こうの手札もいよいよ僅かと見える」
ならば、尽きるまで闘うのみ。
「導こう、僕達の勝利を。そして魔竜、お前達の亡びを」
ティユから振り撒かれた白虹の星の瞬きが、前衛列を包み込んで紅毒の侵蝕を和らげ……悪しき竜を討つ戦いの最初のしるべとなる。
「空と大地の狭間に流れる悠久の風よ……」
蹴技の為の詠唱が数汰から響いた時には、すでにもう、その肉体は加速していた。
決戦都市からのエネルギーは数汰の背に機械仕掛けの翼を与えるのみならず、彼の技に、刃に、常を遙か凌駕する『風』を後押ししてくれる。
「この身にその翼と爪牙を貸し与えよ! ――『鸞翔鳳襲(シームルグ)』」
転生によって定命化から逃れ得たハイドラの肉体それ自体は既に魔竜そのものの筈だったが、守り固める鱗の硬きを物ともしない数汰の飛び蹴りは取り巻く大気すら逆巻かせて竜の巨躯を鋭利に穿った。
「『コード申請――使用許可受諾』……天地創造の力の一端、見せてあげましょう」
狙撃位置から畳み掛けたルティアも最初から全力。
嵐残る戦場の位相そのものを掻き廻す『天沼矛(コード・アマノヌボコ)』の権能が惜しげもなく揮われればいまだ拙いままの多首の魔竜の動きはますます遅々とするばかりだ。
(「奴が新たに得た肉体を十全に使いこなす完全体になってしまえば、おそらくは、俺達に勝ち目はない……そうなる前に全力で叩き潰す!」)
ヘリオライダーから託された数々の予知情報を連戦組にも伝えた数汰は、クラッシャーの一角として短期決戦を牽引する。
此岸の蒼と彼岸の紫を片翼ずつに宿すオラトリオの乙女が戴く紅は、儚き曼珠沙華。
(「まさかここで魔竜が来るなんて……でも、あの災天竜すら一緒に倒したシルさんだって居るんだから、きっと大丈夫」)
頼れる旅団長にして今は戦友でもある年下のシャドウエルフに向けて璃音が寄せる信頼は揺るぎない。
星宿の切っ先翳した璃音が双子座の軌跡を描けばたちまちに前列が守護の光へ包まれる。
「連戦上等! 来な、その三つ首刈り尽くしてやんよ」
殺意乗せたブーツは火花散らしてのWind & Fire。
掠めただけでハイドラの脚から機動を奪う『猫』の爪に容赦の文字は無い。
スナイパーの命中精度兼ね備えるジャマーと化した今のひさぎは、敵にとってもはや災厄そのものだろう――あるいは、
「熊本のあいつとの決戦に間に合わなかった憂さ晴らし、せめてもおまえの命で埋め合わせてやんぜ!」
わざわざこの狂暴な『猫』の手が届くテリトリーの内で魔竜の名を冠する存在へと生まれ変わった事こそがハイドラにとっての不運の始まりであったのか。
見切り発生など物ともせず再び吐かれた『紅毒の息吹』を速やかにガードしつつ、ヴァルカンの魔刀『火音』から放たれた、返しの抜刀音が音高く鳴る。
「刃を以て盾と成す。 ――新たなる魔竜よ。我が炎剣、恐れぬならば来るがいい」
己のそれよりも遙かに大きく堅く、だが、魔性の瘴気に穢れ切った赤鱗の背中に深々と、雷氣の一刀が突き立てられる。
戦場駆ける天音の右脚からは昏き地獄が沸沸と燃え滾り、遂には憎むべきデウスエクスたる魔竜を切刻まんとする無数の刃と化して戦場を迸る。
「私が……全ての恨みを晴らす……地獄の……怨嗟の声を聞け……!」
『――闇路の様なこの心にも 一抹の焔光を♪』
そして、まるでそれら無数の怨嗟を慰めるかのような璃音の歌声は優しく『碧落の冒険家』を紡ぎ奏でる。
押し寄せる猛毒の嵐を耐え凌ぎ、祓い癒しながら。
ケルベロスらは懸命の応戦の中での最大効率を以ってエンチャントとBSを敷き、反撃の機を窺う……だが、しかし。
多種に重ねた状態異常の数々は、ハイドラが発動させた超再生ただの一発でその半ば近くが霧散されてしまったのである。
「大した生命力だね。それも融合の成果かい」
強気な笑顔はそのままに『極星一至』を重ねがけながらティユが投げかけた問いは返答など期待せぬ独白。
荒ぶる本能のままに闘い続けるこの魔竜の三対の金瞳は、眼前の小さき『狗』共に、力取り戻す為の踏み台以上の価値も敵意も向けてなどいないのだ。
「そいつをぶち抜くためにはこちらも気合を入れなくちゃね」
真っ先に同意とばかりに、
綺羅星の如きティユのヒールの上から、ぺルルも七色のしゃぼん玉をぷっかりと浮かべたのだった。
「うむ、我らも立て直させてもらうとしよう。炎による守護、其の精髄を見よ――!」
ヴァルカンの体内より発せられた紅蓮は『煉氣炎法・紅之陣』。
盾たる彼の『地獄』が生み出す炎の本質は、仇なす敵の焼却ではなく護るべき仲間を守り癒す誇り高き其の熱誠にこそ在る。
これほどの力の数々を受けて戦える今、魔竜といえど恐れることは無いとシルは勝利の確信をよりいっそう深めていた。
「デバイスの力、そしてみんなの力を合わせれば……ここで、落とさせてもらうよっ!」
まるで踊るようにかろやかな足取りで、魔竜の三つ首睥睨する樹海を縦横と翔ける少女の手には、一振りの光剣。
精霊石の指輪から具現化したマインドソードの耀きは、溌剌と、魔竜の首すらも押し返してみせるのだった。
●竜と樹と
「……もう、ドラゴニアゲートもユグドラシルゲートもないのに。おまえたちは何を望んでいるの?」
ふと、そう問い掛けたひさぎへの返答は無言のまま振り下ろされた樹角による一突き。
だが寸での所で躱し後の先で重ねられた惨殺の斬撃の前に、魔竜が初めて見せた攻性植物としての攻撃は敢無く相殺される。
その光景を『眼力』で以って目撃したケルベロスの誰もが、単射程でありながら列攻撃であるブレスよりも確実性に劣ると察知していた。
(「もしも混じりっけナシの純粋な魔竜のまま今の一撃を放っていたら、今ここにあたしは立ってられなかったかもしんねーな……」)
素早く間合いを外したひさぎに去来する戦慄と微量のえもしれぬ感慨。
対話とも呼べぬ両者のそんな遣り取りに、ふと、一つの推論をティユが口にした。
「ハイドラも他の魔竜達もまるで見えない何かに導かれるようにどこかへ向かおうとしていた。今の彼らにとってはそれこそが望むもので……壊れたゲートや本星なんかはもうとっくに顧みる価値もないガラクタ同然なのかもね」
あるいは魔竜の内の何体かが口にした『聖王女』こそがそれであり、その居場所こそが今や彼らにとっての母星であるのか――。
「冗談じゃない! 長い激戦の末ようやくここまでドラゴンたちを追い詰めたんだ。その種の存続への執着には感心するけど……悪いがここで終わりにさせて貰う」
まさに変幻自在。
ジグザグの空中機動でいまやハイドラの各部位を蝕む状態異常を悪化させながら、数汰は毅然と拒絶を叩きつける。
眼力で命中は充分と判断した天音もまた懐かしき『敵』を模した白黒の機械翼をフルバーストさせダブルスパイラルバンカーを射出する。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……。六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
螺旋に穿たれた傷痕めがけ、ここまで火力支援に徹して来たシルも最大威力の複合精霊魔法を解禁し敵の左首を半ばから吹き飛ばした。
「ここからは、やるかやられるか……。あなたの守り、撃ち抜かせてもらうよっ!」
ケルベロスの猛攻による深手や行動阻害は、一方で、魔竜・ハイドラに本来の力を取り戻させる呼び水ともなってゆく。
瘴気に満ちたブレスは明らかにその威力を増す一方だったがその全てを一身に引き受けてぺルルが倒れ、ほどなくルティアまでもが精度高まる『樹角の磔刑』の直撃の前に重傷相当の深手を負って離脱を余儀なくされた。デバイスが彼女を守ってくれるだろう。
「奴から生えた樹だけど、どんどん紫色に染まってきてないか……?」
「毒使いのドラゴンだったハイドラが攻性植物の力も御しつつある証なんだろーね」
注意深く変化を察知した数汰に答えたひさぎの予想には説得力があった。
そして――戦闘開始から9分が経過し予知された『覚醒』は刻一刻と迫る。
「……魔竜……倒せばきっと、あの日のことを乗り越えられる……!」
熊本でのトラウマを振り切るようにして。
天音が繰り出した最大威力の『獄炎斬華・恨壊』を皮切りに、ケルベロスらは一斉攻撃へと踏み切った。
「やはり……魔竜というのはドラゴン達にとっても特別なのかね。君たちは竜業合体した本隊とは訣別した派閥らしいけど……到着前に排除させてもらう」
ティユもまた極北の一等星の如きグラビティを練り上げて進化可能性を奪う一打を紫樹の尾へと叩きつける。
衝撃。轟音。残す2つの口から吐き出された絶叫。
だが……魔竜ハイドラは満身創痍ながらいまだ樹海の只中で健在であった。
●愛しきに還る
「――そんなっ!?」
巨躯に繁る樹が完全に禍々しき濃紫一色へと化した瞬間、魔竜・ハイドラは類稀なる強大な吸喰能力を開花させ『狗』たちに向けての竜語魔法として解き放った。
絶望の如き『穢華殲域』の繁殖は……ヴァルカンとティユ、2人の挺身と引き換えに食い止められ、ドレインの効力も【炎】を始めとしたBSの数々で最小限に抑えこまれていた。
ここに至るまでにケルベロス達自身の手で積み重ねて来た奮闘が、今、ケルベロス達自身を助け支えてくれているのである。
まだである。
まだ、撤退条件には到達しておらず――そして勝機が完全に喪われた訳ではない。
「熊本のあいつと同じ、魔竜を名乗るヤツを前にして引き下がれるかっ!」
爆ぜろと発したのは抗いの『鏤氷敲氷弾・零』。
冷たき静寂で三つ首の巨躯を押し潰さんと吼えるひさぎの脳裡を過ぎる魔竜ヘルムート・レイロード。
巨大魔空回廊儀式完遂という偉業――人類にとっては大いなる戦禍を遺して城ヶ島に散ったかの魔竜もひさぎにとってはずっと『熊本のあいつ』なのである。
「終わりにするって言ったはずだ! そして……勝つのは俺たちだっ!!」
ひときわ高く迅くそして激しき狂飆を引き連れて打ち下ろされた『鸞翔鳳襲』。
全身全霊を賭けて飛翔した数汰の蹴撃の前にハイドラの肉体は大きく傾き……そして。
「これが、わたしの限界突破の一撃……。全部持ってけーっ!」
シルのジェットパッカーが突如、まばゆいばかりの光明を放ち……一対の青白き鳳翼へと変化してゆく。
天地震わせて撃たれた複合精霊魔法『六芒精霊収束砲(ヘキサドライブ・エレメンタルブラスト)』が遂に魔竜の心臓を捉え、そして……再生も吸喰も許さぬ確実な死がここに齎されたのである。
瞬く間に紫樹という紫樹は枯れ尽くし、赤き三つ首の巨躯の全身至る箇所でゆっくりと崩壊が始まる。
シルの指がそっとプロミスリングにと触れる。
――大好き、そして、いなくならないよって意味を込めて……。
いとおしい翼絆。
いまはただ疾く疾くあなたのもとへかえりたいと魂が囁くのだった。
作者:銀條彦 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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