富士樹海魔竜決戦~毒氷を統べる魔竜樹

作者:森高兼

 『樹母竜リンドヴルム』の胎内には魔竜の卵が無数に存在する。
 魔竜軍団の結成を目論む『邪樹竜クゥ・ウルク=アン』の所在をつかみ、ケルベロス達は富士の樹海奥地で決戦を仕かけた。やがて首魁に止めを刺し、1つの戦いに決着をつける。
 しかし、死に瀕する間際でリンドヴルムにマリュウモドキ達を生贄として捧げていたクゥ・ウルク=アン。ケルベロス達に最悪の置き土産を残すため……魔竜が1体でも多く孵化するように対処済みだった。
 クゥ・ウルク=アンの死と共に樹海中のマリュウモドキの力がリンドヴルムまで集まっていく。
 魔竜達がリンドヴルムの胎内で孵化を始めた。生贄のグラビティ・チェインが底を突けば母体から奪えばいい。次々と孵化に成功した者の中で、全身に青い植物の根を張った魔竜が彼女の腹を綺麗に食い破る。
 想像絶する激痛に耐えながらも魔竜の誕生で歓喜に震え、リンドヴルムは孵化を見届けて息絶えた。その場所に彼女と孵化に失敗した魔竜達のコギトエルゴスムが散乱する。
 リンドヴルムをも犠牲にして孵化できたのは17体の魔竜だ。元より魔竜だった7体全ての再誕、10体が新たに魔竜と成ったことはドラゴン達にとって僥倖だろう。
 一旦撤退せざるを得ないケルベロス達。
 ある日の記憶を鮮明に思い出した『魔竜フィンブル・グラム』が、忌々しそうにケルベロス達を睥睨する。
『またしても貴様らか』
 フィンブル・グラムには熊本城で顕現時に撤退の時間稼ぎを許してしまったケルベロス達がいた。弱さは罪という持論のある彼は……実質的な敗北の屈辱を忘れていない。
 まだ攻性植物との同化中のせいで体に違和感を覚えた。
『このままケルベロス共を屠るしかなさそうだな』
 ケルベロスの援軍到来に確信めいたものを感じていると、仲間の言葉が響き渡る。
『……魔を帯びし、兄弟姉妹よ。共に、聖王女の下で再会を果たさん!』
『ふむ。じきに力は取り戻せるだろう……』
 殺気立つ仲間達に倣い、フィンブル・グラムは周囲のケルベロス達を睨みつけてきた。

 サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)が緊急招集に応じてヘリポートに集まったケルベロス達を出迎えてくる。ヘリオンは準備万端のようだ。
「待っていたぞ」
 簡潔に済まされた説明によれば、『クゥ・ウルク=アン樹海決戦』に赴いたケルベロス達が窮地に立っているとのこと。
「クゥ・ウルク=アンは撃破された。だが不完全とはいえ、17体の魔竜が孵化してしまったのだ」
 決戦で体力を消耗した皆が魔竜達に蹂躙されるのも時間の問題だろう。
「君達には撤退の支援と……魔竜を討ってもらいたい」
 強敵の魔竜が相手のはずだが、サーシャは落ち着いた様子で微笑してきた。
「魔竜は孵化の直後でグラビティ・チェインが不十分だ。さらに攻性植物の体にも慣れていないようだな。その状態ならば互角に戦えるだろう」
 ケルベロスに確かな勝機があるだけで、安心して送り届けられるのかもしれない。
「君達の標的は『魔竜フィンブル・グラム』だな。一定の距離を保って厄介な攻撃をしてくる。4つの使用グラビティの詳細は資料に纏めているぞ」
 サーシャが皆に資料を配って目を通すように促してくる。
「3つは……見覚えのある者もいるだろうか。1人に対する強力な追撃、広範囲に及ぶ毒液とガスだ」
 攻性植物の同化によって1つは別物になっていた。
「身体に宿した植物の根を伸ばし、魂が肉体を凌駕する暇を与えずに切り刻んでくる攻撃らしい」
 攻撃をくらって倒れると戦闘不能を避けるのが困難に等しい。
「意外と激情的なところはあるようだが、安易な挑発には乗ってこないと考えた方がいいか」
 終始笑みを崩さなかったサーシャ。
「以前は撃退すら目標にできなかった敵だが、今回は違う」
 ケルベロスの牙が魔竜の喉元を捉えようとしているのだ。
「さぁ、君達の出番だ」
 それが自身の定めたヘリオンデバイスの『コマンドワード』だと、サーシャはケルベロスを心から信頼しているように微笑んだまま告げてきた。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
名雪・玲衣亜(ナンバーツー・e44394)

■リプレイ

●魔竜に挑む者達
(「聖王女の下で、か……以前のドラゴンなら絶対に言わなかっただろうね」)
 樹海を駆けながら隊列の前方で考え事をしていたウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、控える戦いに集中しようと頭を切り替えた。
 一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が隊列の中央から後ろの名雪・玲衣亜(ナンバーツー・e44394)に告げる。
「……名雪さん、もしわたしが大きなダメージを受けても。勝つために、やるべきことを優先で行動してくださいね」
「勝つことを考えたら、感情よりも効率を優先しないとダメだよね。アタシが迷うと戦線が崩壊するから!」
 瑛華によく懐いており、玲衣亜は唯一の回復手としての意気込みを見せた。
 先頭で2人の会話を聞いていたソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)が、凛々しく笑みを浮かべる。
「厄介な相手だがなんとかするさ」
 レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)は旅団仲間の緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)と隊列の後方で肩を並べていた。
「宜しく頼むよ」
「頼りにしているよ」
 樹海の奥を見据え……結衣が眼光鋭く独り言ちる。
「今度は時間稼ぎなどと生易しい事は言わない。二度と甦れないよう、完全に消滅させる」
 撤退者達を追跡中のフィンブル・グラムを発見すると、皆は包囲のために散開した。
『現れたか』
 撤退者達を深追いせずに皆を警戒してくるフィンブル・グラム。やはり無視する余裕は無いのだろう。
 睨み合いの間に、ウォーレンとレヴィンが撤退者達に手招きした。
「敵は僕達に任せてね」
「逃げ道はこっちだよ!」
 シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)も瑛華との布陣を維持して撤退者達の避難誘導を済ませ、赤い眼鏡の縁を上げる。
「次の仕事に移ります」
 マーコールのような角を持つ竜派ドラゴニアン、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)は闘志を燃やして腕に装着する縛霊手の隙間から地獄の炎を迸らせた。
「行くぞ!」
『かかってくるがよい』
 ウォーレンと共に仲間の盾となるべく、これより立ち向かうのは恐るべき『魔竜』だ。

●血戦、開幕
 ソロとシデルが攻撃の命中率を眼力で把握して瑛華に伝える。
「今は支援の必要が無さそうだ」
「右に同じです」
 敵味方の区別を乱す毒ガスを、フィンブル・グラムは後衛陣に拡散させてきた。
『もはや貴様らを弱き者とは思わぬ』
「初撃はそれか」
 レーグルが手の届くレヴィンを範囲外に遠ざけ、代わりに濃縮された毒ガスを吸い込んでしまう。
 中衛陣の迎撃態勢を整えるため、瑛華は地面にゾディアックソードで守護星座を描いて加護を得た。
「厄介な敵兵ですね」
 レヴィンがフィンブル・グラムに飛び蹴りし、結衣は精神の安定を図っておいた。
 回復の要である玲衣亜に、ウォーレンがちらつく分身の幻影を纏わせる。
「玲衣亜さんは大事な癒し手です」
「落ち着いたら頑張るぞー」
 ソロは王者のフェアリーレイピア『レフトハンドフレール』でフィンブル・グラムに華麗な剣戟を繰り出した。彼女の周りに幻の薔薇が舞う。
「お前たちの好きにはさせない。ここで仕留める!」
「定時には帰らせて頂きたいですからね」
 呪縛耐性をつける力が前衛陣にシデルから送られた。
「ありがとう、シデル」
 動こうとするレーグルに呼びかける結衣。
「レーグルさん、対象は疑ってかかるべきだよ」
 しかし、僅かに不運が勝り……フィンブル・グラムに守護の魔法陣が描かれた。警戒していた事態が現実になったのだ。
「不覚である!」
「オレが平気なのはレーグルのおかげだぜ?」
 レヴィンは何事も無かったかのように言った。
 幻影の効力にて殆ど解毒された上で、玲衣亜が毒を完璧に払拭しようと叫ぶ。
「毒とかマジ最悪なんですケド!」
 出鼻をくじかれてしまったが、助力を求められる状況は否が応でも発生するに違いない。
 フィンブル・グラムは体表より毒液を分泌させて虚空に飛ばし、毒液が氷結すると鋭利な槍刃となって後衛陣に襲いかかってきた。
 瑛華が銃でフィンブル・グラムの左前足を撃つ。
 体内のグラビティ・チェインを破壊力に変えようと、レヴィンはブラックスライムに注ぎ込んだ。
「さっさと解除させてもらうぜ」
 フィンブル・グラムに黒い塊をぶつけて守りの力を消し去る。
 結衣がはっきりとさせた精神で極限まで集中した。あえなく守護を失ったフィンブル・グラムを瞬時に爆破する。
「お前にくれてやる盾は無い」
『端から過度な期待はしておらん』
 癖で眼鏡の縁を上げつつ、シデルはフェアリーブーツ『ヒールブーツ』で大地を穿った。
「整えます」
 大自然の息吹を変換するように後衛陣の呪縛を祓う耐性を高める。これで全体的な毒対策が完了した。
 レーグルが冷静になってフィンブル・グラムを殴打する。玲衣亜は舞って降らせた花びらのオーラで自身を含む後衛陣の傷と猛毒を処置した。
『貴様は邪魔だな』
 フィンブル・グラムが羽ばたいて玲衣亜の頭上にやってくる。初見ではない結衣以外にも低いと思わせる程に竜翼のキレが無いのは不調である証拠だった。
 急行して玲衣亜を庇い、毒の雨に飲まれるウォーレン。
「雨は好きだから……こんなのどうってことない」
 その呟きは単なるやせ我慢ではなかった。同胞を犠牲にするなど滅びの道を歩むドラゴンという種族に、ほんの少しだけ哀惜しているのだ。
 ソロはフィンブル・グラムを剣戟で幻惑した。
 地獄の炎を宿す腕でフィンブル・グラムを攻撃したレーグルが、傷の治癒を阻む呪詛をかける。
「奏でよ、奪われしものの声を」
 此度はヒールできない敵だが……先程の件もある以上、保険をかけておいて損は無い。
 玲衣亜が借り物である黄金の鎖の『縁』から魔導金属片を含む蒸気を噴出させた。
「ウォーレンサン、さっきはありがとー」
「お互い様ですよ」
 不思議な蒸気でウォーレンの防御力が向上する。手厚い治癒と強化の両立は守り手にとって何よりも助かるものであった。

●魔竜の猛威
 フィンブル・グラムの毒ガスが後衛陣に散布され、瑛華は後衛陣に花びらのオーラを振り撒いて玲衣亜を万全な状態にした。
「アタシもえーかサンと一緒に踊ろっかな」
 瑛華と息を合わせ、玲衣亜が大人びた彼女とは異なる美しい踊りで花びらのオーラを後衛陣に舞い散らせる。
「ノリノリだなぁ」
 レヴィンは捕食モードに変形したブラックスライムでフィンブル・グラムの右前足を包み込んだ。
 1人なら回復できるため、ウォーレンが玲衣亜を桃色の霧で癒す。
 ソロはカラクリの四肢に力を溜めた。
「私もこの勢いに乗ろう」
 そう宣言した直後、巧みな四肢の操作でフィンブル・グラムに超高速の斬撃を見舞う。
 飛んで玲衣亜の真上に辿り着き、フィンブル・グラムが毒液を降り注いできた。青き根を使わなかったのは仕留め切れないと判断したゆえだろうか?
 シデルはフィンブル・グラムの骨が透ける腹部の氷を攻撃した。
 『縁』より蒸気を噴出させ、玲衣亜が治療のついでに防御を固める。
(「また単体攻撃されたら、きびしーかな? でも、全体攻撃なんかじゃ負けられないよね!」)
 不意に、威圧感を増したフィンブル・グラム。
 レーグルが咄嗟に声を上げる。
「名雪殿!」
『散れ』
 巨躯を這う植物の根を無数に伸ばすと、フィンブル・グラムは玲衣亜を徹底的に切り裂いてきた。
「ヤバッ……」
 玲衣亜が無情にも倒れ込む。だが強化された攻撃を引きつけたことにしたり顔となった。もう戦線を支えられないのは悔しいものの、成果としては十二分と言える。
 魔竜の変化は周辺の気配から察するに個体差があり、フィンブル・グラムは段階を踏んでいるようだ。
 レーグルが少々荒くて申し訳ないながらも玲衣亜を戦場の外に投げ飛ばす。
 フィンブル・グラムへと意志に反応する戦輪を投擲し、シデルは傷を負わせた上に強烈な冷気で凍てつかせた。
「名雪さんはお疲れ様でした。私も仕事を進めましょう」
 事務的な口調とはいえ、労いの一言には確かな感謝の気持ちが込められている。
 フィンブル・グラムが前衛陣に毒氷の刃を飛来させてきた。今度はソロを排除するつもりなのかもしれない。
 すかさず、瑛華が前衛陣に星座の加護を授けて鈴を転がすような声色で淡々と述べる。
「私が名雪さんの仕事を引き継ぎます……感情よりも効率です」
 まだシデルの攻撃が命中している。玲衣亜不在の影響下において、今後は回復優先になりそうか。
 ソロに華麗な斬撃を決められたフィンブル・グラムは、前衛陣に毒ガスをばら撒いてきた。
『あの小娘はもうおらぬぞ』
「皆さんには、わたしがついています」
 瑛華が艶やかな仕草で舞い踊って前衛陣の回復を務める。
 炎を操り武器とする特性の付与されたマインドリング『フレイムセイバー』から、結衣は剣を具現化してフィンブル・グラムを斬りつけた。
「少しばかり力が戻ったぐらいでいい気になるな」
 シデルがナイフでフィンブル・グラムの右前足を斬り刻む。
 フィンブル・グラムはソロの上空を目指してきた。
「高度を上げてきたか」
 攻撃地点からソロを離し、レーグルが絶えず落ちてくる毒液に押し潰される。
「……残念であったな」
 起き上がってフィンブル・グラムに電光石火の蹴りをくらわせた。
 色の濃くなったフィンブル・グラムの毒ガスが前衛陣に吹きつけてくる。
 ウォーレンはソロの分まで毒ガスを浴びた。瑛華の舞による花びらのオーラで何とか正気を保つ。
「瑛華さん、助かるよ」
 両手をかざして手の平を広げた。
「焦がれた雨が降り注ぐから、共に祝おう……喜んで?」
 フィンブル・グラムを土砂降りの雨に巻き込み、喜びとも恐怖ともつかない奇妙な感覚に陥らせる。
 力強く羽ばたいたフィンブル・グラムが、毒液の豪雨でソロを一気に追い詰めてきた。
『多少は体が慣れてきたか』
「この星の怒りをくらえ」
 地球のグラビティ・チェインと己が魔力をリンクさせるソロ。
「全ての命の源たる青き星よ。一瞬で良い……私に力を貸してくれ!」
 星と人々の想いは蒼い輝きを放つ光となった。それらがソロの手元に集い、身の丈程もある光刃の聖剣を創り出す。定命の者に相応しいグラビティで、瞬間的ながらも限界を超えてフィンブル・グラムを一閃した。

●死力を尽くせ
 シデルはフィンブル・グラムの腹をふさぐ氷を攻撃した。
 フィンブル・グラムがソロに根の凶刃を差し向けようとするも、急に目標を見失ったように自らを刺し貫く。
『……ぬかったようだな』
 巡ってきた幸運を無駄にはできない。
「派手に、されど繊細に、お前の命を削りとろう」
 持てる力の全部を絞り出そうと、ソロは残像を生み出す程の速さでフィンブル・グラムに肉迫して斬り裂いた。
「好機であろう」
 レーグルが縛霊手で降魔の一撃をぶちかましてフィンブル・グラムの魂を喰らう。回復の度合いはある程度だが、ダメージ自体を抑えているから問題なかった。フィンブル・グラムの強襲で毒液によって気絶したソロを安全な場所に放る。
 攻め手たるソロの戦線離脱も相当の痛手だ……。
 ファミリアロッドをペットの姿に戻し、瑛華は精一杯の魔力を籠めてフィンブル・グラムに射出した。
「お二方のためにも必ず勝ちましょう」
 フィンブル・グラムが凍りついた毒液で前衛陣を傷つけてくる。
「毒の氷なら同士討ちの心配いらないけど、無理は禁物だぜ!」
 高く飛び上がったレヴィンは、エアシューズに流星の煌めきと重力を宿すとフィンブル・グラムに飛び蹴りした。
 飛翔してレーグルに毒液を吐いてくるフィンブル・グラム。
 ウォーレンがチェーンソー剣の刃でフィンブル・グラムの右前足に刻まれた傷を広げる。
「自分自身に対する攻撃はかなり効いたと思うよ」
「二度のパワーアップを経ていましたからね」
 構造的弱点の1つと思われるフィンブル・グラムの腹部を覆う氷に、シデルは痛烈な一投を炸裂させた。
 さらに攻撃の威力を増加させたフィンブル・グラムが……ウォーレンの体を樹刃で血に染めて意識を刈り取ってくる。
(「これは、玲衣亜さんがやられたのも、仕方ないかな」)
「なにぃ!?」
 レヴィンは一瞬の出来事に驚愕した。
 灼熱の喰霊刀『【永焔】レーヴァテイン・エクセリオ』に地獄の炎も纏わせ、結衣がフィンブル・グラムに叩き込む。
(「次の段階に至ると勝ち目が無くなるかもしれない」)
 フィンブル・グラムはレーグルの攻撃を躱して毒液で彼を屠ってきた。まるで魔竜としての強さの片鱗を知らしめるような攻勢だ。グラビティの効果による弱体化には限度があり、一筋縄ではいきそうにない。
 オウガ粒子を放出した瑛華が、中衛陣の超感覚を覚醒させておく。
 改めて、フィンブル・グラムは後衛陣へと毒ガスを風に乗せてきた。
「肝心な時に失敗するわけにはいかないな」
 結衣が裂帛の叫びを轟かせて身体の毒を吹き飛ばす。
 フィンブル・グラムは毒氷の槍刃で前衛陣に裂傷を与えてきた。用心が功を奏して長期戦にはなった戦いも……攻撃を耐えられてしまい、手に負えなくなりそうなタイムリミットが迫る。
 その瞬間を待っていたように、フィンブル・グラムは魔の樹刃をレヴィンに解き放ってきた。
 レヴィンがケルベロスの身体能力を最大限に発揮させて全力で回避していく。
「あ、ら、よっと!」
 敵の攻撃とて絶対ではないのだ。
 根が後退する隙を見計い、瑛華はフィンブル・グラムに銃口を向けた。
「……捉えました」
 洗練された精密な狙撃によって左前足を撃ち抜く。
 瑛華に続いたシデルが、ナイフの刃をジグザグに変形させてフィンブル・グラムの腹を掻っ捌いた。
「帰宅の時間です」
「行くぜ! ホーリーダンスッ!!」
 大切な恋人と友人の残霊を召喚すると、形見のリボルバー銃である『箒』の引き金に指をかけたレヴィン。全身全霊でフィンブル・グラムに射撃する。
「オレは絆の力を信じてる! 結衣!」
 結衣はレーヴァテイン・エクセリオを構えていた。
「結局、本当の強さが何かも理解できないままか」
 フィンブル・グラムの懐に飛びつき、レーヴァテイン・エクセリオを腹部の穴に突き立てる。
『ぐっ……!』
「個としての能力ならば他種族の比では無いが、常に同胞を犠牲にし続けるしか出来ない種に未来は無い」
 生命の流れを地獄の炎で支配した。フィンブル・グラムの血潮を灼熱の毒と化し、内側より焼き払う。
「所詮お前達とは背負っているものの重さが違った」
『弱き者に語る言葉は無い』
 潔く敗北を認めたフィンブル・グラムは……氷が融けるように消滅していった。
 レヴィンが結衣の背中を叩く。
「今度こそ完全勝利だな!」
「皆のおかげだよ」
 まずは4人の無事をちゃんと確認してから、結衣は全員で勝利の余韻を味わうことにするのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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