栗の木兵! トゲで脱ガス!

作者:大丁

 モザイクの滴りからみるみる伸びて、15mの高さをもつ樹木となったあと、枝単位に別れた。
 最終的には、50cmほどの人型が10体。兵士のように整列している。
 季節の魔力を奪取しようとたくらむ『番外の魔女・サーベラス』は、その小人兵たちのモチーフが栗の木だと判り、戦果を期待した。

「イタッ……くない?」
 ショッピングモールのフードコートに現れた栗の木兵は、身体に生えたトゲトゲの実を、食事中の人々に向かって投げつけ始めた。
 思わず身を屈めて、痛みを覚悟した青年男子は、むしろフワっとした感触に、戸惑った。
 テーブルの陰から出て立ちあがると、同席していた彼女が悲鳴をあげる。
「ちょっとぉ! ナニを、何で、ナニしてんのよぉ!」
 手で顔を覆って、指の間から凝視する。
 栗のトゲでズボンが破りとられていたのだ。
 ポロリ。

 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、慌ててブリーフィングルームに駆け込んできた。
「大変よぉ。またポロリが出た……じゃなくて、モザイク攻性植物がでたのよお」
 一部がモザイク化した攻性植物はユグドラシル・ウォーのあと、週一くらいで出現していた。
 人間を殺して得たドリームエナジーを利用して繁殖するため、殺人を続ける限り、増殖し続ける。
 冬美を追ってきたのか、盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)が、戸口からひょっこり顔をだした。
 のんびりした調子で席に向かう。
「今回の調査をしてくれたのは、ふわりちゃんねぇ。ありがとぉ。予知で判明した栗の木兵の戦闘力は弱かったんだけど、20体もいるうえに、日中のフードコートが現場なの。みんなが、駆け付けたときには、一般人に被害がでてしまっている。まだ、命に別状はないものの、救出したり混乱を収めようとすれば、討伐との両立には工夫が必要になってくるよ」
 いつもの冬美なら、栗の見本を持参するところだが、そんな猶予もないらしい。
 敵の攻撃は、栗を投げて服を破るというものだ。
「急いで、急いで! レッツゴー! ケルベロス!」
「すわったばかり、もう出発なの?」


参加者
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
安尻・咲笑(跳惑ガーネット・e30371)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)
イリーナ・ハーロヴュー(ツンロシュ・e78664)
ピュアニカ・ハーメリオン(淫蕩なる偶像の小淫魔・e86585)

■リプレイ

●襲撃の現場
 傾いたテーブルのあいだに、食器やトレーが散乱していた。
 くしゃくしゃのノートに、バラけた筆記具も落ちており、食事のほかに勉強にでも利用している学生たちのものであろうか。
 フードコートは、混乱に陥っていた。
 小人の型に枝を折りとって造られた怪物たちが、軍隊のような精密さと獰猛さを備えた動きでもって、そこにいた民間人にトゲの球体を投げつけてくる。その数、20体。
 ぶつけられた人は、トゲに着衣を引き裂かれるのだ。
「栗の兵隊さん、とっても秋っぽいのー♪」
 駆けつけた、盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)は、白地にハートマークをたくさんあしらったパーカー姿で、ショッピングモールに遊びにきた客たちと大差ない出で立ちだ。
 けれども、その足元からは狂気が。混沌の波がたち始めている。
「でもでも、トゲトゲは危ないから、ダメーってしなきゃなの!」
 創世術波が、栗の木兵の前衛を押し流す。
 この敵は、数も多いが、出した被害も多い。ふわりに続いて現れたケルベロスの攻撃陣は、ことさらに目立つ動きで注意を引き付けようとする。
 小柳・瑠奈(暴龍・e31095)は、白いレオタードで、フロア中央の円柱から踊りでた。
「毬栗よりもマロングラッセを投げてくれる方が嬉しいのにね」
 否、身体にフィットしたニンジャスーツだ。デザート皿が載ったままの丸テーブルに、しなやかに着地した。
「……と、軽口は置いておき」
 一段高い位置で、コマのごとく回転した。零式鉄爪の鋭さが、まだ投げられていない毬栗を刈り取っていく。
 モザイク攻性植物は、枝の身体に生えた武器を、自分でもぎ取っていたのだった。
 外れて転がったひとつを、純白の粒子を纏った手が掴む。
「なるほど、栗で……。なら、逆にこうして焼き栗にして投げ返してやるよん!」
 粒子は燃え上がり、焔と舞った。それを白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)にぶつけられた栗の木は、焼け落ちて撃破される。
 他の兵たちは、隊列を乱して燃えカスに向き直った。
「秋スイーツの季節だよねん。良い運動も出来そうだし、終わった後のおやつとか良さげだねん」
 この自由人の口ぶりに、デウスエクスの苛だちが集まっているのは、明白だ。
 その隙に、ピュアニカ・ハーメリオン(淫蕩なる偶像の小淫魔・e86585)らは、フードコート内の一般人たちを脱出させる。
「ひなんゆーどーのおねえちゃんたちに、ついて行ってねー!」
 服を着ている人も、そうでない人も、恐慌をきたしている。少しくらい強引にでも指示には従って貰わなくてはならない。
「こあくまアイドルなぴゅあのかわいさと、おんがくのぱわーで、メロメロのぐちょぐちょにしてあげるからいーっぱい、たのしんでねー♪」
 ギターを爪弾くと、ラブフェロモンが周囲に満たされていく。
 とろんとなった、青年男性が、誘導役のエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)に、寄ってきた。
「よろしくお願いします。……痴女のお姉さん」
 ビキニアーマーを指してのことだったが、声を荒らげたのは、男性の恋人だ。
「何を言ってんのよ! ヒカルこそ痴漢みたいじゃない!」
 栗に下半身をむき出しにされて、覆っていた手も下ろしてしまっていたから。まあまあ、とエメラルドは背後にカップルをかくまい、他の一般人も集めた。
 荒れた現場から、脱出路を見つけなければならない。出入り口に近いあたりは、別班が誘導し終わったようだ。反対に、飲食物の提供口であるその辺は、袋小路になってしまっている。
「クリひろいたのしみー♪ いーっぱいクリクリしちゃうよー♪ キュッとして、じゅわーん♪」
 ギターの音色は、エメラルドたちから離れていき、敵軍を牽制しようとしているものの、ピュアニカの『片翼のアルカディア』は音がかわいくて、まだまだ圧倒するほどではない。
 突如、栗の木兵が、隊列を建て直した。
 十数体からなる列攻撃が、フードコートに拡散した。

●花が咲き蝶が舞う
 ハートマークに刺さったトゲは、布地を引き裂いて肌に達した。
「はううん、くすぐったいの……」
 調査のとおり、痛みを伴わない。ふわりが感じているあいだに、パーカーは細切れになり、生の乳房があらわになった。スカートも下着も同じ運命をたどる。
 すなわち、全裸だ。
「ちょっと、ナニ大きくしてんの?!」
 カップルの女性がまた怒鳴った。ケルベロスらの裸体に、彼氏のアレが反応してしまったからである。そういう、彼女も。
「ふふ。仔猫ちゃん、大人しくしていてね」
 瑠奈が、エメラルドの加勢にくる。引き付け策はここまでだ。
 女ニンジャも、武器を収めたブーツ以外に着ておらず、その綺麗なボデイラインに見惚れているのは、他ならぬカップル女性のほうだったのである。
「ナナちゃん、ごめん……うっ」
 男性は、白く噴射した。それは、鎧のブラをなくしたエメラルドの背中にぶちまけられたあと、髪を濡らし、丸テーブルにまでかかった。
 離れた位置の、ふわりにまで飛沫が見えたくらいだ。
「いっぱい出すぎなのー?!」
「ヒカル殿、刺激が強かったようだ。しかし、脱出はやめて、このまま戦うことになる。皆も私の後ろにいるように」
 ボトムスも脱げたエメラルドは、一般人を守る使命感ゆえに、つい押し付けすぎて、男性の茎を尻に挟んでズッてしまったのだった。
 永代も男性ヌードにされていたが、白い焔で要所を隠して戦っている。
「毎回言ってることだけど……。男がポロリするって誰得!?」
「ふわりはねー、服だけだったらいいかなーなんて思うの。……んん、この香りは」
 すっぱいような独特の。
「あの男の人の出しちゃった液からなの?」
 さすがに違う。栗の木兵は撃ち尽くしたあと、次弾の装填をはじめていた。
 物凄い速さで、雌花と雄花が咲く。いま、フードコートを満しつつあるのは、いわゆる、栗の花の匂いなのだ。
「ホントに誰得? さすがに負けるよん」
 裸足でくらくらしている永代のかたわらに、褌いっちょうの人影が立った。
 布の、横から上から、濃い毛を生やし、それでいてふくよかな尻には女らしさがある。後ろにも、ワサワサとはみ出させていた。
 誰あろう、安尻・咲笑(跳惑ガーネット・e30371)のワークギア姿である。
「男性には、見られたくはない、です、がっ……!」
 両腕を高々と掲げる。脇の下も、もちろんボーボー。手にしたガネーシャパズルから光の蝶が翔びたった。
 それとともに、別のすっぱさが花香を押し返してフードコートに、いやショッピングモール全域に広がってんじゃないかというほどに、刺さった。
「ひょっとしてワキガ……、あらゴメンなさい」
 仔猫ちゃんの言う通りかもしれなかったが、蝶を受け取った瑠奈の感覚は研ぎ澄まされた。
 回復量としては不足もあるが、それは本業メディックのエメラルドに任せればよい。すでに、『英雄凱旋歌(ヒーローズ・コンクエスト)』にはいっている。
「見よ♪ 空を穿ち、大地を揺るがす♪」
「ケルベロスバーストぉ!」
 ニンジャスーツの残った部分から、毒まみれの鎖が放たれた。蝶が花から花へ渡るのを追って、鎖は枝の兵士をベキベキと砕き折る。
 トゲで脱がす軍勢は、総崩れだ。
「脱ガス……。ガス。俺の白焔でガス爆発とか起きたりしないよねん?」
 だからという訳では無いだろうが、永代はジュデッカの刃、冷気の手刀で木の兵を、散らばろうとするところを仕留めていく。
 あたりに充満しているのは、ラブフェロモンから始まって、もうなんだか分からない。
「爆発オチとかだったら、サイテーだよん」
 リスのファミリアが、乳房の突起をイジるのを捕まえて、杖に戻した。ふわりは、ファイアーボールを詠唱する。
「あふう、もうイタズラさん、なの♪」
 軽く火をつけたかのようだったのに、敵のスナイパー陣の全てに燃え移り、結局は爆発させたのだった。

●救援活動
「何よ、くさい? それはフェロモンとは別の私の腋の匂いよ、悪かったわね……!」
 悪態をつきながら、イリーナ・ハーロヴュー(ツンロシュ・e78664)は、ニコニコしていた。
 非常階段の踊り場に避難させた人々を、介抱しているところだ。自分の担当範囲は果たせたと思う。
 同僚の、カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)と共に、素っ裸になってしまったけれども、被害者に服を譲った結果だ。
「咲笑さんの脇から、かもしれません、よ……」
 カフェはレスキューツール、極太イボ付き凶悪双頭シャフトを腰に装着する。
 黄金の掌で先端を撫で付けると、被害女性に施した。
 テーブルで、講義レポートの続きをまとめていた学生だ。筆記具のクレヨンはケースごと散らばってしまったし、塗りかけた線画のノートはグシャグシャになったままのはず。
 腰の振りを激しくしながらカフェは、あとで代わりを用意してあげたいと思っていた。
 連れ合いの女性は、カフェの治療に驚いていたが、やがて被害者の気持ちが良くなるにつれ、知らず自身のブラウスに手を掛けてしまう。
 イリーナが次にあたったのは、小柄な女性で、彼女も連れ合いともども施療することになる。装備は、カフェのものと同じだ。
 回復後、水分の経口摂取に、ゴム容器も使った。連れ合いが、トートバッグに入れていたものを、持ち出せたのは幸いだ。
 自家用の車は大破させてしまったから。
 激しい現場だったが、ふたりは、仲間の戦いを信じて任務に勤しむ。
 突き出していたファミリアロッドを下ろして、さすがのふわりも、ふぅと息をついた。
 敵は全滅したが、フードコートはめちゃくちゃだ。
 木の枝に、モザイクがかかったままの断片を見つけてピュアニカは、ランドセルに回収する。なにより、スペースのはじに寄せ集めた一般人たちが大変だった。
 元はと言えば、ピュアニカの撒いたラブフェロモンが効きすぎだったのである。
 それなら、と彼女は巣をかけて、数人を引き取る。巣内には女の子らしいピンクで可愛いベッドがあるらしい。
「いっしょにキュッとして、じゅわーんすれば、もとどおり♪」
 黄色い縁どり帽子の女性たちが、巣に上がっていった。
「まあ、これも役得だよん」
 永代は、テーブルに手をついたエメラルドと、一般人たちに囲まれながら繋がっている。
「皆が見ている前で、裸で戦ってしまった。おさめてくれなければ……ああっ!」
 汁だ……男性たちも、果ててかけて。
「私は、周辺の見回りをしてくるよ」
 瑠奈のニンジャスーツは、相変わらず破れたままだった。咎められずにショッピングモール内を渡るなど、彼女には造作もない。
 立ち去るまえに仔猫ちゃんの頭を、からかい半分に撫でて。そのナナと、ヒカルの被害者カップルは、咲笑とくつろいでいる。
「ふわりも、先に美味しそうなの、食べちゃうのー♪」
 3人のあいだに、ふわりも混じってきた。
 咲笑の指に弄られたナナから唇を吸われ、ヒカルに後ろから腰を押さえられる。
 デウスエクスに剥かれたナニを守りきり、受け入れるのであった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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