餅つくモノ

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 破棄された餅つき機があった。
 この餅つき機は美味しい餅を作る事が出来たものの、無駄に手間が掛かるため、必要とされなくなって棄てられた。
 おそらく、持ち主にとっては、手間が掛かる事は、無駄以外のナニモノでもなかったのだろう。
 だが、餅つき機にとっては、望まぬ事。
 それ故に、なぜ棄てられたのか、理解する事が出来なかった。
 そんな中、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、餅つき機に近づくと、機械的なヒールを掛けた。
「モチツキキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した餅つき機が、ゴミ捨て場から飛び出すようにして、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421)さんが危惧していた通り、都内某所にあるゴミ捨て場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティチェインを奪われてしまう事でしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるゴミ捨て場。
 この場所に捨てられていた餅つき機が、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、餅つき機です。餅つき機はダモクレスと化した事により、人型ロボットのような姿をしているようです」
 セリカが真剣な表情を浮かべ、ケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
 餅つき機にとって、餅をつく事だけが、生き甲斐だった。
 朝から晩まで、ぺったん、ぺったん。
 そこにウサギはいないが、ぺったん、ぺったん。
 そうして出来上がった餅を食べてもらう事こそが、餅つき機にとっての喜びであった。
 だが、その願いすら、叶える事が出来なくなった。
 ゴミとして捨てられてしまったため……。
 その理由が、餅つき機には分からなかった。
「今回のダモクレスになったのは、餅つき機か。今の季節はあまり使わないけど、正月になったら使う機会も増えるかもね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)はセリカから受け取った資料を参考にして、ダモクレスが確認されたゴミ捨て場にやってきた。
 その場所は廃墟と化した工場の傍にあり、特別な用事が無ければ、近づく事がないような所であった。
 しかも、一歩その場に足を踏み入れただけで、異様なニオイが纏わりつき、身体に染みついていくような錯覚を覚えた。
 それでも、先に進まなければ、ダモクレスが確認された場所に行く事が出来ない程、大量のゴミが山積みになっていた。
 おそらく、最初は人目を気にして捨てられていたゴミが、山積みになるにつれて、誰も気にしなくなった結果なのだろう。
 ゴミ捨て場には、他にも大量の家電製品が捨てられており、まるでパズルの如く積み上げられていた。
 もしかすると、この場所であれば、例えゴミを捨てたとしても、誰かに文句を言われる事もないため、何の罪悪感もなく捨てる事が出来たのかも知れない。
「……それに、捨てるのは勿体ないですね。私なら正月などには重宝しそうだなって思いますけど……」
 サイレン・ミラージュ(静かなる竜・e37421)が、自分なりの考えを述べた。
 事前に配られた資料を見る限り、餅つき機が使われていたのは、正月のみ。
 それ以外の時は物置にしまわれ、まったく出番が無かったようである。
 その上、無駄に重かったため、普段から邪魔に思われ、捨てられてしまったようだ。
 まわりには重そうな家電製品が捨てられていたものの、みんな必要とされなくなって捨てられてしまったせいか、自分の事を捨てた持ち主を恨み、険悪なムードが漂っていた。
 その怒りが見えない刃物となって、ケルベロス達に斬り掛かっているような錯覚を覚えた。
 そう言った意味でも、他の家電製品がダモクレスと化しても、決しておかしくない状況であった。
「う~ん、この資料を見る限り、準備にだいぶ手間が掛かっていたようだね。本来であれば、手間を省くはずのモノが、これじゃあ……お餅を買ってきた方が良いと思っても、仕方がないのかも知れないね」
 オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)が、何やら察した様子で答えを返した。
 もちろん、手間をかけた分、美味しい餅を作る事は出来るのだが、そのために必要な準備が多いため、どうしても面倒と言う気持ちが勝っていたようである。
 それだけの価値がある事が分かっていても、準備に手間が掛かる事を考えると、買った方が楽と言う結論に至ってしまったのかも知れない。
 その上、店で売られている餅も、そこそこ美味しいモノなので、餅つき機の必要性を感じられなかった可能性が高かった。
「モチツキキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した餅つき機が、ゴミの山を弾き飛ばして、ケルベロス達の前に降り立った。
 ダモクレスは人型ロボットのような姿をしており、高速でペッタンペッタンと餅をつきながら、ケルベロス達を威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせた。
「ひょっとして、私達に餅を御馳走してくれるの? 十五夜は過ぎちゃったけど、なかなか気の利くダモクレスじゃないの。だからと言って、被害を出す訳にはいかないけど……。さあ、遠慮なく掛かってきなさい! 私が相手をしてあげるわ!」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が自信満々な様子で、ダモクレスの前に陣取った。
「モチツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その挑発に乗ったダモクレスが、ケルベロス達に対して、ビーム状の餅を放ってきた。
 その餅は、つき立て、ホヤホヤ。
 だが、レイには秘策があった。
 そのため、ドヤ顔。
 無駄に格好いいエフェクトが掛かってしまう程、自信満々であった。
「こんなこともあろうかと、うぐいす粉や、きな粉を持ってきたわっ」
 それはまるで、舞だった。
 華麗な身のこなしで、餅ビームの威力を半減させ、うぐいす粉や、きな粉をまぶして、口に運ぶ。
 ただ、それだけの事だが、味は絶品!
 思わずサムズアップしてしまう程、美味しい餅であった。
「モ、モ、モチツキ……!?」
 その途端、ダモクレスか『マ、マジか!?』と言わんばかりに、二度見。
 信じられない様子で、レイを凝視しているようだった。
 だが、現実。
 その証拠に、レイが餅を完食ッ!
 『もっと頂戴♪』とばかりに、うぐいす粉や、きな粉を構え、餅が来るのを待っていた。
「どうやら、毒はないようだね。後で、お腹を壊しそうな気もするけど……。そう言った意味でも、食べるのは遠慮しておこうか」
 オズがウイングキャットのトトに声を掛け、警戒した様子で間合いを取った。
「モチツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その事に気づいたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせながら、再びビームを放ってきた。
「確かに、食べるのは、遠慮しておくべきね。いまのところ、異常はないようだけど……」
 リサが横目でレイを見つつ、エナジープロテクションを発動させ、ダモクレスが放ったビームを防いだ。
 その途端、ビームが花火の如く弾け飛んだため、レイが素早くながら、うぐいす粉や、きな粉を掛け、口の中に放り込んだ。
「モ、モチツキィ……」
 そのたび、ダモクレスがショックを受けた。
 おそらく、『もっと早く、この人に出会っていれば、俺の運命も変わっていたかも……』と思っているのだろう。
 本来であれば、素直に喜ぶべき状況ではあるものの、ダモクレスと化した事で憎悪の方が勝っているため、複雑な気持ちになっているようだ。
「どうやら、動揺しているようですね。いまのうちに、攻撃をしておきましょうか。それじゃ、行きますよ、アンセム。サポートは任せましたからねっ!」
 その隙をつくようにして、サイレンがウイングキャットのアンセムに声を掛け、ダモクレスを取り囲むようにして距離を縮めていった。
「モチツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 その事に気づいたダモクレスが、杵状のアームを振り回し、ケルベロス達に迫っていった。
「……って、ちょっと! せっかく餅を美味しく食べていたのに、この仕打ちはないでしょ! それに、杵で叩かれたりしたら、背が縮んじゃうじゃないの! お餅をつくには最適なんだろうけど、それ……どう見ても凶器だから!」
 レイが身の危険を感じつつ、ダモクレスの攻撃を避けた。
 それは、まさに天国から地獄。
 せっかく美味しい餅を食べて御機嫌だったのに、一気にイライラ、ムカムカである。
「ひょっとして、私達を潰して、餅みたいにするとか……。そんな理由じゃないわよね?」
 リサが色々な意味で身の危険を感じ、気まずい様子で汗を流した。
「モチツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 おそらく、その気。
 ダモクレスも、ヤル気満々。
 必ず殺す、という強い意志を感じてしまう程、危険度MAXであった。
「それは……遠慮したいところだね」
 オズが乾いた笑いを響かせ、エナジープロテクションを展開し、ダモクレスの攻撃を防いだ。
 それに合わせて、トトが勢いよく羽ばたき、まわりに漂っていた邪気を祓った。
「だったら、すべて燃やしてしまいましょう! こちらが餅にされる前に……!」
 その間に、サイレンがグラインドファイアを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「モチツキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 その途端、ダモクレスが苦しそうに悲鳴を上げ、餅つき型のミサイルをぶっ放してきた。
 それと同時に、餅つき型のミサイルが落下し、大量の破片と共に餅が飛んできた。
 それは、ある意味、罰ゲーム。
 失敗すれば、喰らうのは餅ではなく、鋭い破片!
 その事が分かっているせいか、みんな警戒ムードであった。
「大地に眠る霊の魔力よ、仲間を癒す力となれ!」
 すぐさま、リサがゴーストヒールを発動させ、地に塗り込められた惨劇の記憶から魔力を抽出し、傷ついた仲間達を癒やしていった。
「静霊の鋼よ、私に力を貸して下さい!」
 それと同時に、サイレンが戦術超鋼拳を繰り出し、ダモクレスのボディを貫き、容赦なくコア部分を破壊した。
「モチ……ツ……キィ……」
 それは一瞬の出来事。
 ダモクレス自身も、理解する事が出来ない程、素早い一撃ッ!
 そのため、すべてを理解した時には崩れ落ち、完全に機能を停止した後だった。
「みんな、お疲れ様。周囲が大変なことになってそうだから、しっかりヒールと掃除をしていこうか。……固まると、大変だしね」
 オズが苦笑いを浮かべながら、辺りをヒールし始めた。
 既に固まっている餅もあったが、ヒールのおかげで何とか大事には至らなかった。
 とは言え、辺りは餅だらけ。
 修復するだけでも、一苦労。
 その事を考えるだけで、自然と深い溜息が漏れた。
「ちょっとの手間ひまって大事なのよねー。あんたの前の持ち主はそれを知らなかったみたいだけど」
 そんな中、レイがダモクレスだった餅つき機に声を掛け、ヒールを使って修復した。
 餅つき機はダモクレスだった事が嘘であったかのように、壊れた部分が修復されて元通りになった。
 その餅つき機を大切そうに抱えながら、レイがその場を後にするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月4日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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