どうせなら、せめて殴ってくれ！

■リプレイ

●都内某所
　パンチングマシンが求めていたのは、パンチであった。
　キックではなく、パンチ。
　ただ、それだけ。
　それだけの事ではあるが、不良達がパンチングマシンに喰らわせたのは、パンチではなく、キックであった。
　それはパンチングマシンにとって、屈辱的な事。
　本来であれば『何をしやがるんだ、この野郎！』と叫んでいるような状況であった。
　だが、パンチングマシンには、何も出来なかった。
　そもそも、御客に対して、悪態をつく機能など搭載されていない。
　それ以前に、電源すら入っていない。
　建物自体に、電気が通っていないのだから、当然の事だった。
　故に、苛立ちが溜まった。
　マグマの如く、噴き出しそうな勢いで！
　その思いが通じたのか、小型の蜘蛛型ダモクレスが現れた。
「今回、倒すべき相手パンチングマシンか。私は実際に遊んだことはないけど、ストレス発散などには役立ちそうね」
　そんな中、リサ・フローディア（メリュジーヌのブラックウィザード・e86488）が事前に配られた資料を眺め、ダモクレスの存在が確認されたゲームセンターにやってきた。
　ゲームセンターは既に廃墟と化しており、無駄に巨大なボーリングのピンが目印代わりになっていた。
　おそらく、以前までボーリング場だった場所を、ゲームセンターに改装したのだろう。
　そのため、遠くからでもゲームセンターの場所を、容易に特定する事が出来た。
　その影響もあって、建物自体がつぎはぎ的な感じで、違和感を覚える造りであった。
「殴るも蹴るも似たようなものだと思うけれど、このマシンにとっては重要な違いなんだね。なかなか奥が深い文化だ……」
　オズ・スティンソン（帰るべき場所・e86471）が、何処か遠くを見つめた。
　殴る事と蹴る事は同じように見えて、まったく違う事。
　拳で殴るか、足で蹴るか。
　ただそれだけの違いのようにも思えるが、パンチングマシンっては重要な事だった。
　しかし、不良達からすれば、パンチよりも、キック。
　その方が威力が増すと思っていたのか、みんな蹴りしか入れなかった。
「でも、パンチングマシンであれば、蹴るよりは殴る方が良いですよね。その気持ちは良く分かりますよ」
　兎波・紅葉（まったり紅葉・e85566）が、何やら察した様子で答えを返した。
　それだけ、パンチングマシンは殴られたかったのだろう。
　そもそも、パンチングマシンは殴られる事が仕事。
　その役目を果たしたかっただけなのだから……。
　だが、その願いは叶わなかった。
　そこでたむろしていた不良達のせいで……。
「それにしても、ゲーセンの中って、何だか近寄り難い雰囲気が漂っているよねぇ。不良とかたむろしてるじゃない、盗んだバイクで」
　佐竹・レイ（ばきゅーん・e85969）が警戒した様子で、廃墟と化したゲームセンターに足を踏み入れた。
　室内は、すっかり荒れ果てており、壁には地元のチーム名が書かれていた。
　そこには幾つも筐体が残っており、レトロゲームなども設置されたままになっていた。
　しかし、どれも壊れており、色々なパーツが持ち去られているようだ。
「パンチングマシンィィィィィィィィィィィィィン！」
　次の瞬間、ダモクレスと化したパンチングマシンが、耳障りな機械音を響かせながら、廃墟と化したゲームセンターから飛び出してきた。
　ダモクレスはロボットのような姿をしており、ケモノのように荒々しく機械音を響かせながら、ケルベロス達の前に陣取った。
　この様子では、ケルベロス達を、敵として認識しているのだろう。
　それが本能的なモノなのか、宿命的なモノなのか分からないが、とにかく敵視している事は間違いなかった。

●ダモクレス
「ふっふっふー、強烈なパンチをお見舞いしてあげるわ♪　やったことないけどっ！」
　その行く手を阻むようにして、レイがヴァルキュリアブラストで光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えてダモクレスに突っ込んだ。
「パンチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、イラついた様子で耳障りな機械音を響かせ、パンチ型のビームを放ってきた。
　それはビームと言うより、巨大な……拳！
　それが物凄い勢いで、ケルベロス達に迫ってきた。
「これで防げると、いいんだけれど……」
　その事に危機感を覚えたリサがエナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成し、拳型のビームを防いだ。
　その勢いでリサの身体が宙を舞い、ボールプールの中に落下した。
　それと同時に大量のゴムボールが飛び散り、仲間達の所まで転がっていった。
「パンチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　そこに追い打ちをかけるようにして、ダモクレスが再び拳型のビームを放ってきた。
「さすがに、あのビームを喰らう訳にはいきませんね」
　その事に危機感を覚えた紅葉が、ギリギリのところでビームを避けた。
　それと同時に、拳型のビームが風を切り、近くにあったブロック塀を木っ端微塵に破壊した。
「……とは言え、ビームを連射する事は出来ないようだね」
　オズがウイングキャットのトトと連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
　それに合わせて、トトが猫パンチを繰り出し、ダモクレスのボディと同化したパンチングマシンの的にブチ当てた。
　だが、ダモクレスは無反応。
　いくら殴っても『測定不能』と言わんばかりに、踏ん反り返っていた。
「パンチィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、パンチングマシン型アームを盾のように構えた。
「まさか猫だから反応しなかったってオチではないよね？　もう一度、やってみようか、トト。今度は抉り込むようにして打ってみて」
　オズがトトにアドバイスしながら、ダモクレスの注意を引いた。
　その指示に従って、トトがパンチングマシン型アームの的に、引っ掻くようにしてパンチを繰り出した。
「16点……デス……」
　その途端、ダモクレスがスコアを表示し、ほんの少しだけ動きを止めた。
　それは平均値を下回るスコアであったが、トトは御機嫌であった。
「この一撃は、どれほどのスコアになるでしょう？」
　続いて、紅葉がパンチングマシン型アームを狙って、達人の一撃を繰り出した。
「パンチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　その一撃を喰らったダモクレスが、耳障りな機械音を響かせた。
　それと同時に、ダモクレスのボディにスコアが表示されたものの、予想を上回るほどの一撃であったため、測定不能。
　ダモクレス自身も信じられない様子で、真っ黒な煙をぶわっと吐いた。
「どうやら、パンチを受けている時だけ動けなくなってしまうようね」
　そんな中、リサが何やら察した様子で、ダモクレスの死角に回り込んだ。
　実際にダモクレスはパンチを真正面から受けており、その時だけは全く動けなくなっていた。
　おそらく、それは本能的なモノ。
　きちんとしたスコアを表示するため、動力源にまでエネルギーを回す事が出来ないのかも知れない。
「パ、パンチィィィィィィィィィィィィィィィ……」
　その間にダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達に迫ってきた。
　それは、まるで『もっと、俺を殴れ！　殴ってくれ！　今度は、きちんと測定するから、思いっきり頼む！』と叫んでいるようだった。
「色々と文句がありそうだけど、これも含めてあたしの拳だからっ！　それじゃ、行くよー！　どやぁ！」
　レイがまったく悪びれた様子もなく、如意直突きを仕掛け、伸ばした如意棒でダモクレスを真っ直ぐに突いた。
　それに合わせて、オズが縛霊撃を繰り出し、殴りつけると同時に網状の霊力を放射し、ダモクレスを緊縛した。
　続いて、トトが猫ひっかきを仕掛け、鋭く爪を伸ばしてダモクレスを引っ掻いた。
「パンチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　その途端、ダモクレスが『これ、パンチじゃないじゃん！　俺には分かる！　これはパンチじゃない！』と言わんばかりに怒り狂い、パンチングマシン型のミサイルをぶっ放した。
　それは辺りを一瞬にして火の海に変え、真っ黒な煙がケルベロス達の身体を包み込んだ。
「……みんな怪我はない？」
　すぐさま、リサが仲間達に声を掛け、鎮めの風で竜の翼から、仲間の心の乱れを鎮める風を放った。
「これでは測定する事が出来ませんから、しばらく大人しくしてくれませんか？　最後の一撃……きちんと測定してくださいよ」
　それに合わせて、紅葉が尋常ならざる美貌の呪いで、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「パ、パ、パ、パ、パァァァァァァァァァ！」
　それでも、ダモクレスは動こうとしていたが、その気持ちに反して、身体は全く動かなかった。
「ゴッドグラフィティで力を溜めてぇぇ……抉りこむようにしてぇぇ、打つべしっ、打つべしっ！」
　その隙をつくようにして、レイがゴッドグラフィティで、自らの肉体にカッコいいグラフィティを描き、戦闘力をアップさせた。
　その上で、ハウリングフィストを発動させ、音速を超える拳で、ダモクレスを吹っ飛ばした。
　だが、痛い。
　シャレにならない程、痛い。
　うまくパンチングマシンの的には命中し、天高く舞わせたものの、拳が痛くて仕方がない。
「パンチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスのボディに999と表示され、真っ黒な煙を上げて爆発した。
　その途端、ダモクレスが完全に機能を停止され、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「だいぶパーツを持っていかれているようだけど、レアでレトロな筐体も多そうだね。処分業者に引き取ってもらおうか？」
　そう言ってオズがヒールを使って、辺りを修復し始めた。
　筐体の中には、昔懐かしのインベーダーゲームや、マニア大興奮のレトロなモノもあった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年10月2日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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